「情報通信ネットワークの基礎」
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まえがき i 元来,情報通信とコンピュータネットワークは別個に論じられてきた.対象となる 技術領域が異なるからである.しかし,近年,インターネットの普及により,情報通 信とコンピュータネットワークを包括的に取り扱う必要が出てきている.たとえば, スマートフォンは,LTE などの情報通信技術を使ってネットワークと接続している が,そのおもな用途としては,インターネット接続が中心となっており,コンピュー タがネットワークに接続されていると考えてもよいかもしれない.したがって, TCP/IP技術は,情報通信分野においても,コンピュータネットワーク分野におい ても,コア技術として位置づけられている.本書はこのような背景から,情報通信と コンピュータネットワークにまたがる基礎技術を解説する.換言すれば,本書によっ て,情報通信にも,コンピュータネットワークについても一通り学習することが可能 である.ただ,本書はインターネットに特化しているものではなく,現在ではあまり 使われていない内容も含んでいる.あえて取り上げている理由としては,通信やコン ピュータネットワークの基礎内容として一度は学んでおく必要があると感じているか らである. 本書の内容は,信号のディジタル化や伝送技術,多重化技術から,LAN,TCP/ IP,携帯電話技術,VoIP,ネットワークサービス,ネットワークセキュリティなど, 物理層からアプリケーション層まで広範囲にわたる.具体的には以下の構成となって いる. 第 1 章では,情報通信とネットワークのそれぞれの歴史を概観する. 第 2 章では,通信の高速化,大容量化の要求にともなって必須となっているアナロ グ信号をディジタル化する仕組みについて,基本的な事項に絞って説明する. 第 3 章では,第 2 章で扱ったアナログ信号やディジタル信号を伝送するための手 段について説明する. 第 4 章では,ネットワークの効率化に欠かせない交換技術について説明する. 第 5 章では,異機種コンピュータ間通信の基本概念となる OSI について説明する. OSIは基本的には,通信サービスを実現するために七つの層に分けられる. 第 6 章では,ユーザ端末,またはユーザ端末とバックボーンネットワークをつなげ るアクセスネットワークについて説明する.ここでは,ISDN,ADSL,光アクセス,
まえがき
ii まえがき CATVなどを取り上げる. 第 7 章では,LAN の仕組みと,その構築に必要な接続装置について説明する. 第 8 章および第 9 章では,インターネットのプロトコルである TCP/IP について 説明する.これらは OSI 7 層のうちの 3,4 層に相当する. 第 10 章では,第 8 章で学んだ IP アドレスに基づいて,ルータが IP パケットの送 出先を決定する方法について説明する. 第 11 章では,携帯電話・スマートフォンの変遷や基礎技術について説明する. 第 12 ∼ 15 章では,特に近年重要になってきている基本的な技術を解説する. 第 12 章では,暗号化技術や認証技術について説明する.また,インターネットで セキュリティを確保するための IPsec,PPP,さらに DoS 攻撃やファイアウォール についても概説する. 第 13 章では,現在のインターネットサービスの中で欠かせないものとなっている DNS,DHCP,WWW,電子メールについて,その概要を説明する. 第 14 章では,IP を使ったコア技術としての VoIP とマルチキャストの概要につい て説明する. 第 15 章では,進化しているネットワーク技術として,ラベルスイッチング,近距 離無線,IoT,VLAN と VPN,クラウドコンピューティングを取り上げる. なお,やや発展的,あるいは補完的な内容のものについては,付録にまとめた. 以上のように,通信とネットワークについて内容が多岐にわたるので,大学・短大・ 高専の教科書として使用するならば,取捨選択し使用していただければよいと思う. 初学者が利用することを念頭に,難解な式はできるだけ避け,可能な限り図表を使い 平易に説明している.また,各章に例題ならびに演習問題を配置し,理解を容易にし ている. 本書が,情報通信やコンピュータネットワークを学ぶ初学者にとって少しでも助け となれば,著者の望外の喜びである. 2016 年 10 月 著 者
目 次 iii
目 次
第1 章 通信とネットワークの歴史 1 1.1 通信手段の発展 1 1.2 電話交換方式 1 1.3 携帯電話の発展 3 1.4 コンピュータとデータ通信網の発展 4 1.5 インターネット 4 演習問題 5 第2 章 アナログ信号のディジタル化 6 2.1 アナログ信号とディジタル信号 6 2.2 ディジタル化 7 演習問題 11 第3 章 ディジタル伝送技術 12 3.1 アナログ伝送方式 12 3.2 ディジタル伝送方式 13 3.3 多重化技術 16 演習問題 18 第4 章 ディジタル交換技術 19 4.1 回線交換技術 19 4.2 パケット交換方式 22 演習問題 25 第5 章 通信プロトコル 26 5.1 プロトコルとは 26 5.2 OSI 参照モデルの基本 27 5.3 OSI 参照モデルの各層の説明 28iv 目 次 5.4 カプセル化 31 演習問題 32 第6 章 アクセスネットワーク 33 6.1 アクセスネットワークとは 33 6.2 データリンク制御方式 34 6.3 ISDN 40 6.4 ADSL 42 6.5 光アクセス 44 6.6 CATV によるインターネット接続 45 演習問題 46 第7 章 LAN 47 7.1 LAN における伝送メディア 47 7.2 トポロジー 49 7.3 アクセス制御方式 50 7.4 LAN 間接続 55 演習問題 57 第8 章 IP 技術 58 8.1 IP とは 58 8.2 IP アドレス 59 8.3 サブネットマスク 60 8.4 IP パケットフォーマット 62 8.5 IPv6 63 8.6 ICMP 64 演習問題 65 第9 章 TCP 66 9.1 TCP とは 66 9.2 ポート番号と TCP ヘッダ 67 9.3 TCP におけるデータ転送 69 9.4 輻輳制御 72 9.5 UDP 73
目 次 v 演習問題 74 第10 章 ルーティング 75 10.1 ルーティングテーブル 75 10.2 ルーティングの原理 76 10.3 階層的ルーティング 83 演習問題 83 第11 章 携帯電話とスマートフォン 85 11.1 携帯電話技術の発展 85 11.2 携帯電話・スマートフォンの基本技術 88 11.3 通信の仕組み 93 11.4 IMT-advanced 以降について 95 演習問題 95 第12 章 ネットワークセキュリティ 96 12.1 暗号技術 96 12.2 電子認証 99 12.3 電子署名 101 12.4 IPsec 102 12.5 SSL 103 12.6 ファイアウォール 103 12.7 DoS 攻撃 105 演習問題 106 第13 章 インターネットサービス 107 13.1 DNS 107 13.2 DHCP 110 13.3 WWW サービス 113 13.4 電子メール 115 演習問題 115 第14 章 VoIP とマルチキャスト 116 14.1 VoIP とは 116
vi 目 次 14.2 SIP 117 14.3 マルチキャスト 121 演習問題 123 第15 章 ネットワークの発展的技術 124 15.1 ラベルスイッチング 124 15.2 近距離無線 125 15.3 IoT 128 15.4 VLAN と VPN 129 15.5 クラウドコンピューティング 130 演習問題 131 付 録 132 A1 ATM 交換技術 132 A1.1 AAL 層 133 A1.2 ATM 層 133 A1.3 物理層 134 A2 ギガビットイーサネット 134 A3 レイヤ 2 スイッチとレイヤ 3 スイッチ 135 A4 携帯電話・スマートフォンの発展的技術 135 A4.1 パワーコントロール 135 A4.2 レイク受信 136 A4.3 MIMO 136 A5 RSA 暗号方式 137 A6 SNMP 138 A6.1 システム構成 138 A6.2 MIB 139 A6.3 メッセージフォーマット 140 A7 ポリシー制御 141 演習問題解答 143 参考文献 150 索 引 151
重要略語一覧 vii
重要略語一覧
正式名称 意味・定義
LTE long term evolution 携帯電話のデータ通信方式の一つ.通信速度 は,下り 100 Mbps 以上の高速通信が可能. LAN local area network 建物内のコンピュータどうしを比較的高速な
回線で相互接続するネットワーク
ISO
International Organization for Standarization
(国際標準化機構)
国際的な工業規格を策定する団体
OSI open systems interconnection
ISOにより策定された,コンピュータなどの 通信機器の通信機能を七つの階層構造に分割 したモデル
ITU International Telecommunication Union
情報通信に関する国際標準の策定などを行う 国際機関
ISDN integrated service digital network 電話や FAX,データ通信などのさまざまな サービスを統合化するディジタル通信網
ADSL asymmetric digital subsciber line
既 存 の 電 話 回 線 を 利 用 し て , 最 大 で 数 十 Mbpsの高速インターネット通信を実現する 技術
CATV cable television
電波による無線送信ではなく,ケーブルを用 いてテレビジョン放送などの情報を伝送する システムであり,インターネット接続も可能 IP internet protocol インターネットなどで通信相手を特定するた めの「IP アドレス」に基づいて,パケット をあて先ネットワークやホストまで届ける (ルーティングをする)ためのプロトコル(通 信規約)
TCP transmission control protocol (転送制御プロトコル)
インターネットなどのネットワークで,IP の 一段階上位層のプロトコルとして標準的に使 われるものの一つ.コネクションを確立して から通信を開始する.
viii 重要略語一覧
正式名称 意味・定義
UDP user datagram protocol
インターネットなどのネットワークで,IP の 一段階上位層のプロトコルとして標準的に使 われるものの一つ.コネクションを確立せず に通信を開始する.
DoS denial of service attack
情報セキュリティにおける攻撃手法の一つ で,Web サービスを稼働しているサーバや ネットワークなどの資源に意図的に過剰な負 荷をかけたりする
DNS domain name system IPアドレスとドメイン名の対応を管理する 仕組み
DHCP dynamic host confi guration pro-tocol
インターネットなどのネットワークに一時的 に接続するコンピュータに,IP アドレスなど 必要な情報を自動的に割り当てるプロトコル
WWW world wide web
世界中のサーバで公開されている情報をイン ターネットの Web ページとして閲覧するこ とができる仕組み
URL uniform resource locator インターネット上にある情報の場所を特定す るための表記法
HTTP hyper text tranfer protocol
Webブラウザと Web サーバの間で HTML などのコンテンツの送受信に用いられる通信 プロトコル
HTML hyper text markup language Webページを作成するために開発された言 語
SMTP simple mail transfer protocol
インターネットなどの TCP/IP ネットワーク で標準的に用いられる,電子メールを伝送す るためのプロトコルの一つ
VoIP voice over IP インターネットなどの TCP/IP ネットワーク 上で音声データを送受信する技術
SIP session initiation protocol VoIPを実現する際に,接続(セッション) の開始や変更,終了を行うプロトコル
1.2 電話交換方式 1
第
1
章
通信とネットワークの歴史
今日,情報通信とネットワークは,インターネットに代表されるように分離して考え ることは難しくなってきているが,元々は違った歴史をもっている.いわゆる電話とし ての発展の歴史とデータ通信としての歴史である.本章ではそれらを概観する.また, 情報通信とネットワークを見事に融合した携帯電話・スマートフォンの発展の経緯につ いても簡単にふれる.1.1
通信手段の発展
1837 年,アメリカのモールスは,時間幅の長い信号と短い信号を組み合わせて伝 送することによって,遠隔地間で通信が可能となる電信を発明した.実際 1844 年, ワシントンとボルチモアを結んだ電信実験が行われた.この電信は,いまでいうモー ルス信号であり,現在も一部で使われている.これはディジタル信号の一種とも考え られ,ディジタル全盛の今日,実は 180 年近く前にディジタル的な信号が発明され ていたことは感慨深い.また,1876 年,グラハム・ベルが電話機を発明し,音声の 伝送が可能となった.電信が符号を送るのに対し,電話は音声を送ることで,情報量 が格段に多いので,電話は世界的な通信手段に発展していった.一方,現在の携帯電 話の基礎となる無線技術については,イタリアのマルコーニが,1895 年に成功させ た.2 本の電極に交流を流し,アンテナを介して無線信号を飛ばすことに成功したの である.1.2
電話交換方式
19 世紀末には,電話機を交換機で接続する電話交換網が発展する.電話交換機は, オペレータが手動で接続する形態から,機械的に自動接続できる形態,さらには IC (集積回路)の発展にともない,電子化された形態へと発展していった(詳細は第 4 章で説明する).交換機をもし使用しないとすると,どうだろうか.図 1.1(a)に交換 機を使用しない例をあげる.n 個の電話機があるとすると,回線数は,n(n − 1)/22 第1 章 通信とネットワークの歴史 本となる.一方,図 1.1(b)に示すように,交換機を使用する場合には,n 個の電話 機にn 本の回線となり,格段に少なくて済む. 図1.1 交換機の必要性 例題1.1 電話機が 1000 台あるとすると,交換機を使わずにそれらを接続する場 合,回線は何本必要か.また,それは交換機を導入した場合の回線数と比べると, 何倍に相当するか. 解 交換機を使用しない場合,1000 ×(1000 − 1)/2 = 499500 本必要であり,交換機を 使用した場合,1000 本となるから,499.5 倍になる. 図 1.2 に電話網の基本構成を示す.これは現在の公衆電話網の簡略版である.公衆 電話網とは,都市間にわたり全国規模で情報を交換する通信網のことである.具体的 には,電話機とその電話機が直接つながる交換機(加入者交換機)と,加入者交換機 図1.2 電話網の基本構成
1.3 携帯電話の発展 3 と加入者交換機を接続する交換機(中継交換機)で成り立っている.実際には,中継 交換機が何段にも接続されることになる.
1.3
携帯電話の発展
日本の携帯電話の元祖は,1979 年 12 月に電電公社(現在の NTT)によって開始 された自動車電話サービスである.1985 年に,車外にも持ち出せるショルダーフォ ンが登場したが,重さは約 3 kg もあった.1987 年には NTT による携帯電話サービ スが始まった.携帯電話 1 号機はアナログ方式で重量も 900 g あった.1991 年登場 の NTT のムーバ(アナログ)は,重さが 220 g と軽量になり,現在の携帯電話の原 型ともなっている. 携帯電話では,通信方式の違いにより世代が分かれている.各世代の通信方式と特 徴を表 1.1 にまとめた.詳細は第 11 章で述べるとしても,一番大きな変化は第 1 世 代のアナログから第 2 世代のディジタルへの変革であろう.これにより,いわゆる音 声通信だけだったのが,i モードをはじめとするインターネットアクセスが可能と なった.以後は,データ通信が中心になるのに従い通信速度も高速となり,現在は LTE,さらには第 4 世代(LTE-Advanced)の世代に入ってきている.なお,日本 独自規格として,1995 年には,安価なディジタル携帯電話である PHS サービスも開 始された. 表1.1 携帯電話の通信方式の変遷 世代 第 1 世代 第 2 世代 第 3 世代 第 3.9 世代 年代 1980年代 1990年代 2000年代 2010年代 通信方法 アナログ ディジタル ディジタル ディジタル多元接続方式 FDMA TDMA/CDMA CDMA OFDMA
方式 AMPS NTT NMT TACS PDC GSM IS-95 W-CDMA CDMA2000 LTE 伝送速度 1.2 kbps 2.4∼ 64 kbps 144 kbps ∼ 21 Mbps 21∼ 100 Mbps 代表的サービス 電話のみ 電話とデータ通信 電話,インターネ ットアクセス,静 止画など インターネットア クセス,SNS,動 画,電話
4 第1 章 通信とネットワークの歴史
1.4
コンピュータとデータ通信網の発展
コンピュータは,1945 年のフォン・ノイマンによる蓄積プログラム制御の考え方 の提唱に始まり,1946 年にアメリカのペンシルベニア大学で真空管を用いた最初の コンピュータが開発され,1951 年には最初の商用コンピュータが登場した.日本で も 1960 年代に電機メーカー各社がこぞって大型コンピュータの開発を行った.当初 はコンピュータは設置費用が高額であったため,利用者はコンピュータがおいてある 計算機室に出かけていって,バッチ方式(利用要求を蓄積し,順に処理をする方式) で利用していた.しかし,1960 年代半ばに開発されたタイムシェアリング方式(TSS) によって,多数のタスクを同時に実行して,高価な CPU とメモリを複数のオンライ ンターミナル(ホストコンピュータに対し遠隔でつながれた端末)で共同で使用でき るようになった.すなわち,中央計算機と遠隔の入力装置との間を通信線で結合する スター状のネットワークが構築されるようになった.これにより,各利用者は,わざ わざ計算機室に行かなくても近くの端末から入力することができるようになった.ま た,銀行の ATM(現金自動預け払い機),座席予約,スーパーマーケットの POS シ ステムなどで行われているトランザクション処理(処理要求が起こると,そのつど受 け付けて順次処理する方式)が現れた.さらに 1980 年代になると,ワークステーショ ンやパーソナルコンピュータが登場した.それにより,大型コンピュータを中心とし た集中型から,ワークステーションやパーソナルコンピュータを利用した分散型に移 行し,コンピュータは相互に LAN で接続されるようになった.LAN とは,local area networkのことで,一つの事業所構内などの短距離の範囲で,高品質な伝送路を共用 しながら任意の相手とデータ通信をするネットワークのことである.1.5
インターネット
アメリカ国防省は,1969 年,全米的な規模でARPANET(Advanced Research Projects Agency NETwork)とよばれるコンピュータネットワークの構築を開始し た.まずはじめに,電話網を使った回線交換ではなく,データをパケットというブロッ クに分割して送るパケット交換技術を使った専用のデータ通信網を,いくつかの大 学・研究機関(UCLA,UCSB,Utah 大学,SRI international)間にて実験した. それにより,2 台以上のコンピュータ間でメール送信やファイル転送を実現した. 1990年に,ARPANET は全米科学財団により,NSFNET に引き継がれた.また, その際通信手順としては,現在インターネットで用いられている TCP/IP という技 術の原型が適用された.現在のインターネットの基本構成を図 1.3 に示す.端末 A
演習問題 5 から端末 B あてに,データを分割し「IP パケット」として送信する.それは,まず は LAN でルータまで送られ,その後いくつかのネットワークを経由して,相手のネッ トワークの入り口であるルータまで送られ,LAN 経由で端末 B まで送られることに なる. 元来コンピュータ間通信では,1984 年に国際標準化機構(ISO)によって制定され た異機種間のデータ通信を実現する規格として,OSI 参照モデルが一般的ではあった が,インターネットでは OSI とは異なる TCP/IP が採用された.あとの章で詳説す るが,TCP/IP は OSI の第 3 層と第 4 層に相当している.インターネットが拡大す るもととなったアプリケーションとしては,電子メールや WWW などがあげられる. WWWは,1989 年,欧州合同原子核研究機構(CERN)で開発され,アメリカのイ リノイ大学が開発した Mosaic によって,爆発的に広まるようになった.また,イン ターネットへのアクセスについては,当初は電話網を利用したモデム接続であったが, その後ブロードバンド接続としての ISDN 接続に発展し,電話線を使った専用線接 続である ADSL 接続,ケーブルテレビ網である CATV による接続,光ファイバを使っ た高速な FTTH 接続へと発展してきている.これらは,図 1.3 における LAN の先 のルータをどうインターネットに接続するかを意味している.
演習問題
1.1 身近な情報通信機器(通信の機能をもっている情報端末)を 10 個あげよ. 1.2 公衆電話網と LAN との基本的な違いは何か. 1.3 交換機を使わずに,電話機 5000 台を接続すると,回線は何本必要か. 1.4 インターネットの長所,課題を考え,それぞれあげよ. 図1.3 インターネットの基本構成58 第8 章 IP 技術
第
8
章
IP 技術
第5 章では,7 層で構成される OSI 参照モデルを説明した.インターネットプロトコ ル(IP)は OSI 参照モデルに比べ,簡便であり,柔軟性に富むがゆえに,結果的に爆 発的に普及した.本章では,インターネットのプロトコルであるTCP/IP プロトコルの うち,OSI 参照モデルのネットワーク層に相当する IP プロトコルと IP アドレス体系に ついて説明する.なお,TCP プロトコルについては第 9 章で,IP アドレスを使ったルー ティングについては第10 章で説明する.8.1
IP とは
インターネットで広く使われている TCP/IP において,データ転送の基礎となる プロトコルが IP(internet protocol)である.IP は,OSI 参照モデルにおけるネッ トワーク層のプロトコルの一つであり,ネットワーク層は,データリンク層を越えて, より広いネットワーク間のデータ伝送を実現する(図 5.4 参照).IP における,この 複数のネットワークを越えて通信経路の選択を行う機能を,ルーティングまたは経路 制御という.また,この機能をもつ装置をルータという.図 8.1 に,ネットワーク層 によるネットワーク通信のイメージを示す.ネットワークとネットワークを IP をも 図8.1 データリンク層とネットワーク層8.2 IP アドレス 59 とに経路制御するのがルータである. たとえば,ルートがどう変更されるかを,図 8.2 に示す.図(a)で,端末 A から端 末 B へデータを送る際,ルータによって経路が 1 → 3 → 4 → 8 → 9 と選ばれている ときに,図(b)のように,経路 4 に障害が発生したとしても,ルータはその障害を検 知して,経路を 1 → 3 → 5 → 7 → 9 に変更することができる.
8.2
IP アドレス
経路制御を行うために,電話網における電話番号のように,それぞれのホストに一 意な番地をつける必要がある.これがIP アドレスである.現在,バージョンとして IPv4,IPv6 があるが,IPv4 では,IP アドレスとして 32 ビットの整数を利用する.表記としては,32 ビットを 8 ビットずつ四つに区切り, それぞれを 10 進数(0 ∼ 255)で表記したものをピリオドでつないだ小数点つき 10 進法を用いることが多い.IP アドレスは,それぞれのネットワークの番地を示すネッ トワーク(アドレス)部と,ネットワーク内にあるホストの番地を示すホスト(アド レス)部の二つの部分から構成される.たとえば,図 8.3 のような形で表現される. IPv4 では,ネットワーク部を 8 ビット,16 ビット,24 ビットとした場合に,そ れぞれをクラス A,B,C とよんでいる.図 8.4 に IP アドレスのフォーマットを示す. 図8.2 ルータの役割
88 第11 章 携帯電話とスマートフォン
11.2
携帯電話・スマートフォンの基本技術
以下は携帯電話とスマートフォンで共通の事項なので,基本的に「携帯電話」とだ け書くこととする. 11.2.1 セルラー方式 (1)セルラーとは 携帯電話は,端末どうしで通信する場合でも必ず基地局を経由する方式をとってい る.一つの基地局でカバーするゾーンのことをセルとよび,半径が 500 m くらいか ら 4 km くらいまでの円形である(実際には,三角セル,正方セル,六角セルなどさ まざまな形状がある).そのようすを図 11.3 に示す.セルのサイズは,無線通信方式 や電波強度により異なるが,セル内の人口密度が均一になるように,人口密度の高い ところではセルサイズを小さく,人口密度の低いところではセルサイズを大きくして いる.その模様を図 11.4 に示す.端末の移動とともに,一つのセルから別のセルへ の移動する際に通信が途切れないようなハンドオーバ技術も使われる.携帯電話と基 地局の間の通信は,無線通信用の周波数を用いて行われることになる.現在,セルに よる日本の人口カバー率は 100%となっている. 図 11.3 セルの基本 図 11.4 セルラー方式の考え方11.2 携帯電話・スマートフォンの基本技術 89 (2)ハンドオーバ 携帯電話は,移動しても通信が途切れないようにハンドオーバ機能をもっている. 図 11.5 に示すように,携帯電話は基地局からの電波を常に監視しており,セル 1 か らの電波強度よりセル 2 からの電波強度が強くなった場合,基地局に通知し,通信経 路をセル 2 の基地局に切り替えるようにしている.ここで,スイッチは基地局制御装 置に相当し,基地局を切り替えている.また,HLR(home location register)はホーム ロケーションレジスタともよばれるサーバであり,携帯電話の位置を登録しておくも のである(11.3.2 項参照). さらに第 3 世代以降では,図 11.6 に示すように,セルとセルの境界領域では両方 の基地局に接続するというソフトハンドオーバ機能が採用されている(図 11.5 の方 式をハードハンドオーバともいう). 図 11.5 ハンドオーバの仕組み 図 11.6 ソフトハンドオーバ
90 第11 章 携帯電話とスマートフォン
11.2.2 多元接続方式
複数の携帯電話が一つの基地局に同時に通信しても,通信が衝突しないような仕組 みが多元接続方式である.ここでは,FDMA 方式,TDMA 方式,CDMA 方式, OFDMA方式について説明する.
(1)FDMA(frequency division multiple access)方式
第 1 世代で採用された方式で,周波数を複数の帯域に分割し,それぞれの帯域を 個々のユーザに割り当てる方式である.携帯電話用に割り当てられた 15 MHz の周 波数帯域を 25 kHz で分割することにより,600 チャネルを確保できる.そのようす を図 11.7 に示す.ただ,携帯電話の普及により,チャネル数が不足する状況になった. 図 11.7 FDMA 方式 例題 11.1 ハードハンドオーバとソフトハンドオーバの違いを説明せよ. 解 ハードハンドオーバでは,端末が基地局の電波強度を監視しており,移動先のセルの 電波強度が強くなった場合に,基地局に通知し,移動前の基地局から移動先の基地局へ通 信経路を切り替えるようにしている.一方,ソフトハンドオーバでは,基地局を切り替え る前に両方の基地局に接続し,データの欠落がないようにしている.
(2)TDMA(time division multiple access)方式
第 2 世代で採用された方式であり,複数の携帯電話が同じ周波数を異なる時間(タ イムスロット)で使用する仕組みである.このようすを図 11.8 に示す.なお,周波 数も変えることにより,チャネル数をより増やすことができる.その場合の周波数帯 域は,FDMA 方式と同じ 25 kHz となる.
索 引 151 英数先頭 128 QAM 15, 93 16 QAM 15 200 OKメッセージ 120 64 QAM 93 AAL層 133 ACKメッセージ 120 ADPCM 93 ADSL 42 AH 102 ALOHA方式 50 AM 13 AMI方式 13 AMR 93 ARP 54 ARPANET 4 ASK 14 ATM交換 132 ATM層 133 BAS 99 BGP 83 B-ISDN 40 Bluetooth 125 BOOTP 110 BYEメッセージ 120 CBR 132 CDM 16 CDMA 91 CDMA2000 87 CHAP 100 CSMA/CA 53 CSMA/CD 52 CSMA方式 52 DDoS 105 DES 97 DHCP 110
索 引
DHCPリレーエージェント 111 DNS 107 DoS 105 EGP 83 ESP 102 FDD 92 FDDI 49 FDM 16 FDMA 90 FM 13 FSK 14 FTTH 44 Fビット 38 GetNextRequest 139 GetRequest 139 GetResponse 139 HDLC手順 36 HLR 89 HTML 113 HTTP 113 IaaS 130 ICMP 64 IEEE 802.11a 126 IEEE 802.11b 126 IEEE 802.15.4 126 IEEE 802.1Q 129 IEEE 802.3z 134 IEEE 802規格 47 IETF 117 IGP 83 IKE 102 IMAP4 115 IMT-2000 87 INVITEメッセージ 120 IoT 128 IP 58152 索 引 IPsec 102 IPv4 59 IP-VPN 129 IPアドレス 59 IPアドレスフォーマット 60 IPパケットフォーマット 62 IPヘッダ 62 ISDN 40 LAN 47 LAPD 42 LSR 124 LTE 87 M2M 128 MACアドレス 54 MIB 139 MIB-Ⅱ 139 MIMO 95, 136 MME 95 MPLS 124 MTA 115 MUA 115 NAT 104 N-ISDN 40 NRZ方式 13 OC-3 134 OC-12 134 OFDMA 91 OSI参照モデル 27 OSPF 82 PAP 100 PDS 44 PM 13 POP3 115 POPサーバ 115 PPP 99 PSK 14 PSTN 95 PVC 134 Pビット 38 QAM 15 QPSK 93 RADIUS 99 RARP 54 REJ 39 RIP 76 RR 39 RSA 98, 137 RTCP 116 RTP 116 RZ方式 13 SA 102 SaaS 130 SDP 121 SetRequest 139 SetResponse 139 S-GW 95 SIP 117 SIP UA 118 slotted ALOHA方式 50 SNMP 138 SMTP 115 SONET 134 SS 44 SSL 103 SVC 134 TCP 66 TCPヘッダ 67 TDD 92 TDM 16 TDMA 90 Trap 139 UAC 118 UAS 118 UDP 66, 73 URL 113 UTPケーブル 47 UWB 125 VBR 132 VC 134 VCI 124 VLAN 129 VLANタグ 129 VLR 93 VoIP 116 VP 134 VPI 124 VPN 129 W-CDMA 87
索 引 153 Wibree 125 WLAN 125 WWW 113 XML 113 ZC 126 ZED 126 ZigBee 125 ZR 126 あ 行 アクセス制御 50 アクティブオープン 68 アクティブクローズ 69 アナログ伝送方式 12 アナログ電話交換 19 アナログ変調技術 12 アプリケーション層 29 アロハ方式 50 イーサネット 47 位相偏移変調 14 位相変調 13 一次群インターフェース 41 位置登録エリア 93 ウィンドウサイズ 70 ウィンドウ制御 71 オブジェクト ID(OID) 139 か 行 回線交換 19 階層型ドメイン 108 階層的ルーティング 83 拡張 MIB 139 仮想私設網 102 加入者交換機 40 監視(S)フレーム 37 換字方式 96 ギガビットイーサネット 47, 134 基地局制御装置 94 基本インターフェース 41 キャッシング 110 キャリアアグリゲーション 95 共通鍵 97 共通鍵暗号方式 97 共通線信号網 20 局内回線終端装置 40 距離ベクトルアルゴリズム 76 空間分割回線交換 21 クラウドコンピューティング 130 クラッド 49 グローバルアドレス 104 経路制御 58 経路選択 29 コ ア 49 広域イーサネット 129 公開鍵暗号方式 98 コネクション 69 コネクションフィルタリングファイアウォール 103 コンテンション方式 36 さ 行 サーバ認証 99 サブネット 61 サブネットマスク 61 時分割回線交換 21 時分割多重 16 終端開放型システム 28 周波数分割多重 16 周波数偏移変調 14 周波数変調 13 情報(I)フレーム 37 シングルモード 49 振幅位相変調 15 振幅偏移変調 14 振幅変調 13 スイッチングハブ 56 スター型 49 スループット 50 スロッテドアロハ方式 50 セッション層 29 セルラー方式 88 ソフトハンドオーバ 89 た 行 第 1 世代 85 第 2 世代 86 第 3 世代 87 第 3.9 世代以降 87
154 索 引 第 4 世代 87 第 5 世代 87 ダイクストラ(Dijkstra)法 79 第三者認証 99 宅内終端装置 40 多重化 16 中間開放型システム 28 ディジタル電話交換 19 ディジタル変調方式 14 データグラム形式 24 データリンク制御 34 データリンク層 28 電子署名 101 電子認証 99 電子メールサービス 115 転置方式 96 同軸ケーブル 47 トークンパッシング方式 54 トークンリング方式 55 ドメイン 108 トラヒック 51 トランスポート層 29 な 行 ネットワークセキュリティ 96 ネットワーク層 29 ネットワーク部 59 は 行 パケット交換方式 22 パケットフィルタリングファイアウォール 103 バス型 49 バーチャルサーキット形式 23 パッシブオープン 69 パッシブクローズ 69 ハッシュ関数 101 ハッシュ値 101 ハードハンドオーバ 89 パワーコントロール 135 搬送波 13 ハンドオーバ 89 光ファイバ 49 非番号制(U)フレーム 37 標準 MIB 139 標本化 7 標本化間隔 7 標本化周波数 7 標本化定理 8 ファイアウォール 103 ファーストイーサネット 47 複信方式 92 輻 輳 72 輻輳制御 72 符号化 9 符号分割多重 16 物理層 28 プライベートアドレス 104 プラチナバンド 92 ブリッジ 56 プレゼンテーション層 29 プロキシサーバ 119 プロトコル 26 分散データベース 108 ベーシック手順 34 ページング 93 ベースバンド方式 13 ホスト部 59 ポート番号 67 ホームロケーションレジスタ 89 ポリシー制御 141 ポーリング/セレクティング方式 36 ま 行 マルチキャスト 121 マルチパス 136 マルチモード 49 マンチェスタ方式 13 や 行 ユーザ認証 99 ユニキャスト 121 ら 行 リゾルバ 109 リピータ 55 リピータハブ 55 量子化 8
索 引 155 量子化ステップ 9 リング型 49 リンク状態アルゴリズム 78 ルーティング 58 ルーティングテーブル 75 レイク受信 136 レイヤ 2 スイッチ 56, 135 レイヤ 3 スイッチ 135 ロケーションサーバ 119
情報通信ネットワークの基礎 Ⓒ 宇野新太郎 2016 2016 年 12 月 26 日 第 1 版第 1 刷発行 【本書の無断転載を禁ず】 著 者 宇野新太郎 発 行 者 森北博巳 発 行 所 森北出版株式会社 東京都千代田区富士見1-4-11 (〒102-0071) 電話03-3265-8341/FAX 03-3264-8709 http://www.morikita.co.jp/ 日本書籍出版協会・自然科学書協会 会員 <(社)出版者著作権管理機構 委託出版物> 落丁・乱丁本はお取替えいたします. Printed in Japan/ISBN978-4-627-85361-4 著 者 略 歴 宇野 新太郎(うの・しんたろう) 1978 年 慶應義塾大学工学部数理工学科卒業 1980 年 慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程修了(電気工学専攻) 1983 年 慶應義塾大学大学院理工学研究科博士課程修了(電気工学専攻) 1983 年 株式会社東芝総合研究所勤務 1999 年 ノキアリサーチセンタ東京勤務 2000 年 モトローラ日本研究所勤務 2007 年 金沢工業大学大学院知的創造システム専攻客員教授 2008 年 Huawei Japan 勤務 2011 年 愛知工科大学工学部情報メディア学科教授 現在に至る 工学博士 編集担当 上村紗帆(森北出版) 編集責任 石田昇司(森北出版) 組 版 コーヤマ 印 刷 ワコープラネット 製 本 ブックアート