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(1)

酒米の価格決定要因に関する考察

-兵庫県産山田錦を事例に-

2015/2/9

食料・環境政策学分野

大倉孝志

(2)

目次

1.問題意識と課題

2.兵庫産山田錦の概要

3.兵庫産山田錦の価格決定要因

4.分析モデルの検討

5.結論

2

(3)

1.問題意識と課題

問題意識

・酒米生産は清酒需要の増減と米の需給調整政策に

翻弄されながら今日に至っている。

・その歴史の中で、酒米に対する政策的保護は無く、

酒米生産者を支えてきたのは、高品質の酒米を求め

る酒造メーカーが提供する価格水準であった。

清酒需要拡大の兆しが見える今、適正な価格設定

を考察する必要がある。

3

(4)

1.問題意識と課題

適正な価格設定とは…

生産者側とメーカー側の両者がwin-winになる契約価格の設定であ

る。(酒米は契約栽培形式をとる。詳細P9。)

①酒米生産者の確保

・生産者の高齢化、後継者不足が進んでいる。

・高級酒の原料不足に直結する部分

(※主食用米・加工用米からも清酒は製造可能であり、そのうち酒米

は主に高級酒製造に使用し、主食用米・加工用米は主に一般酒に使

用される)

②他アルコール類との競争力の確保

・米は清酒の原料費の3〜7割を占める。

・原料価格の高騰は清酒価格の高騰につながる。

すると、他アルコール類との競合により、清酒、酒米の市場規模は縮

小に向かう。

4

(5)

課題

「今に至るまでの清酒・酒米をめぐる周囲の状況の

変遷を明らかにし、酒米価格がどういった要因に

よって決定されてきたかを考察する。」

価格決定要因について分析モデルによる検討を

行った後、適正な価格設定を考察する。

特に全国1位の生産量である兵庫県産の山田錦を

事例に考察を行う。

5

1.問題意識と課題

(6)

図1 2013年度都道府県別酒造好適米出荷量シェア

(t, %)

出所 農水省「平成25年度農産物検査結果」より筆者作成

兵庫(山田

錦), 17031,

23%

兵庫(そ

の他),

4661, 6%

新潟, 11877,

16%

長野,

5424, 7%

富山,

4412, 6%

秋田, 3371,

5%

岡山, 3156,

4%

福井,

3029, 4%

山形,

2981, 4%

広島,

2275,

3%

その他,

16815, 22%

2.兵庫産山田錦の概要

①生産シェア

兵庫県は酒米出荷量1位

(29%)である。

内、山田錦出荷量のみで

全体の23%にもなる

兵庫県は酒米の一大産

地であり、その兵庫県の

酒米作付の7割強が山田

錦である。

(7)

2.兵庫産山田錦の概要

②品質

• 山田錦は、ほぼ全量が高品質の清酒(吟醸酒・純米酒)の原料と

して使用されており、醸造する上で欠かせない米となっている。

• 全国新酒鑑評会において、金賞・入賞する製品の8~9割が原料

米に山田錦を使用している(表1)。

つまり、現在、高級酒を製成する原料として最も適正がある米が、山

田錦であると言える。

7

表1 全国新酒鑑評会の金賞・入賞品中で主に山田錦を原料米とした製品の割合(%)

2009

2010

2011

2012

2013

出品点数

83.8

85.1

83.7

84.5

85.1

入賞点数

83.4

88.1

86.0

87.6

88.9

金賞点数

82.2

88.5

89.5

89.3

91.0

出所 JA全農兵庫資料より筆者作成 (注1)2009年度の新酒鑑評会は原料米の区分による入賞・金賞を決定していた。 (注2)全国新酒鑑評会は1911年から毎年5月に行われ、現在まで続いている。

(8)

• 酒米は全量、農産物検査により、3級~特上の等級に分けられる

が、高品質(特上・特等)の山田錦を安定して6~8割、生産してい

るのは兵庫と徳島のみ(表2)。

つまり、山田錦産地のなかで、兵庫県は、山田錦生産シェア1位であ

ると同時に、高品質の山田錦を安定して多量生産している。

兵庫県

10913

12126

11473

12924

10445

2168

9212

11010

11649

74.2

岡山県

-

850

-

-

-

-

-

-

-

6.7

福岡県

147

-

-

-

-

-

-

-

-

3.8

徳島県

464

502

581

11

536

457

441

511

381

2.3

山口県

53

56

49

59

20

17

42

58

25

1.7

2013

2013年度山田錦

全数量シェア(%)

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2.兵庫産山田錦の概要

②品質

表2 山田錦出荷上位県における上位等級(特上・特等)の出荷量(t)

出所 農林水産省「農産物検査結果」より筆者作成 (注)2013年度山田錦出荷量シェア順に上位5県を並べた。 8

(9)

1973年以降、JA全農兵庫(生産者代表)と灘五郷酒造組合

(メーカー代表)のあいだで契約栽培の形式で酒米取引されて

いる。

(※明治以降、「村米制度」という一種の契約栽培が続けられて

いる地域もある。)

・山田錦の作付前、全農が、メーカーへの調査により、需要見込

み数量を算出し、見込み生産数量を各生産者に割り当てる。

収穫後、全農と酒造組合の会議により、山田錦の価格を決定。

収穫された数量を各メーカーに配分し、決定した価格で販売す

る。

9

2.兵庫産山田錦の概要

③取引方法

(10)

0 50 100 150 200 250 300 350 400 0 50,000 100,000 150,000 200,000 250,000 19 69 19 71 19 73 19 75 19 77 19 79 19 81 19 83 19 85 19 87 19 89 19 91 19 93 19 95 19 97 19 99 20 01 20 03 20 05 20 07 20 09 20 11 20 13

山田錦生産数量(右

軸:千俵)

山田錦反収価格(左

軸:円/10a)

コシヒカリ反収価格(左

軸:円/10a)

図2 兵庫産米の反収価格推移

出所 JA全農兵庫、灘五郷酒造組合の資料により筆者作成 注)反収価格=産地銘柄別の目標反収×各年の米の俵当たり価格×1/60

1969年

自主

流通

米制度

の開始

オイルショック後

の経済変動によ

る価格高騰

・1987年酒米の多用途利用

米適用

・高級酒ブームによる山田

錦需要増加

高級酒の輸出増加

・獺祭の生産量急増

10

2.兵庫産山田錦の概要

④生産量・価格の推移

主食用米(コシヒカリ)

と酒米(山田錦)の

価格差が広がってい

る。

(11)

11

2.兵庫産山田錦の概要

④生産量・価格の推移

(A県産酒米Xとの比較)

0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 16,000 0 50,000 100,000 150,000 200,000 250,000 19 69 19 71 19 73 19 75 19 77 19 79 19 81 19 83 19 85 19 87 19 89 19 91 19 93 19 95 19 97 19 99 20 01 20 03 20 05 20 07 20 09 20 11 20 13

t

円/10a

酒米X生産量

(t)

酒米X反収価格(円

/10a)

コシヒカリ反収価格

(円/10a)

図3 A県産米の反収価格推移

出所 A県JA全農資料により筆者作成 注)反収価格=産地銘柄別の目標反収×各年の米の俵当たり価格×1/60

酒米(X)価格は安定

しているが、主食用米

(コシヒカリ)価格の方

が概して高い

つまり、兵庫産山田錦

の事例が酒米全般に対

して一般性を持つとは

言えない。

(12)

3.兵庫産山田錦の価格決定要因

考えられる要因

A.主食用米・酒米の原料米としての代替性

・・・基本的に高級酒は酒米を原料、一般酒は主食用米

を原料にしているため代替性は低い。

B.米の生産調整の影響

・・・兵庫産酒米は需給の変化にともなって、生産調整の

枠内適用と枠外適用を繰り返しており、酒米供給が需要

に伴わない原因になっていた可能性がある。しかし、

2014年度以降の枠外適用により、今後は生産調整の影

響を受けずに酒米を生産することができる。

12

(13)

考えられる要因

C.酒米生産力の変化

・生産者は60~80代。

・山田錦生産に適する地域は山間の傾斜部であるた

め、機械化が難しく、生産には体力がいる。

・現状、山田錦生産に好条件の地域では、農地の貸付

により、問題は起こっていないが、高齢化・後継者不足

は深刻。しかし、後継者育成の対策は行われていない。

(兵庫県吉川町山田錦村米部会会長の五百尾(イオウ)氏への聞き取り)

よって、後継者確保のために高価格支持が必要とされる

可能性が高い。

3.兵庫産山田錦の価格決定要因

13

(14)

考えられる要因

D.高級酒需要の動向

・2004~12年の間に、

一般酒17%減、

本醸造酒29%減に対し、

純米酒1%増、

純米吟醸酒23%増

となっている(図4)。

吟醸酒はV字軌道を描

いており、2010~12年の

間に、16%増となってい

る。

3.兵庫産山田錦の価格決定要因

14

図4 清酒製造方法別製造数量の変動

出所 国税庁資料より筆者作成 (注1)2004年製造数量を基準とする。 (注2)製造量数はアルコール分20度換算。 50% 60% 70% 80% 90% 100% 110% 120% 130% 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

純 米 酒

純米吟醸酒

吟 醸 酒

本醸造酒

一般酒(特定名

称清酒以外の

清酒)

(15)

0 2 4 6 8 10 12 14 16 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 19 65 19 68 19 71 19 74 19 77 19 80 19 83 19 86 19 89 19 92 19 95 19 98 20 01 20 04 20 07 20 10 千kl 千kl

消費数量

(左軸)

製成数量

(左軸)

輸出数量

(右軸)

図5 清酒の製成・消費数量の推移

出所 国税庁、財務省貿易統計より筆者作成 (注1)「消費数量」は、酒類製造者の消費者への販売数量、 酒類卸売業者の消費者への販売数量及び酒類小売業者の 販売数量の合計である。

1964年 清酒価格自由化

1966年~ いざなぎ景気

1980年代

バブル景気・

高級酒ブーム

1971 ウイスキー輸入自由化

1972~ ワインブーム

1973 第一次オイルショック

1979 第二次オイルショック

2000年代~

海外の日本食

ブーム

=輸出倍増

15

考えられる要因

D.高級酒需要の動向

(続き)

・海外の日本食ブーム

により、清酒の海外輸

出量が2001〜11年の

間で倍増しており、今

後も拡大は続くと見込

まれている(図5)。

3.兵庫産山田錦の価格決定要因

(16)

4.分析モデルの検討

山田錦の生産量:X, 高級酒価格:p, 山田錦価格:q, 山田錦を生産するために必

要となる投入量(労働力):L, 賃金:

とする。G(L)はXの生産関数、F(X)はQ(高

級酒製造量)の生産関数。

山田錦の価格は毎年、JA全農兵庫と灘五郷酒造組合の交渉によって決定す

るため、ナッシュ交渉解を適用するのに妥当である。

• 山田錦生産者の利得関数

• 高級酒製造の酒造メーカーの利得関数

• 山田錦生産者と酒造メーカーのナッシュ交渉解

p

M

=

pF(X)

-

qX

p

N

=

qX

-

wL

=

qG(L)

-

wL

]

)

(

)][

(

)]

(

[

[

max

,

wL

L

qG

L

qG

L

G

pF

q

L

16

(17)

3式の微分・代入により、整理すると以下の2式が導

かれる。

17

4.分析モデルの検討

q

w

>

0

q

p

>

0

つまり、生産者の山田錦の農業労働の機会費

用(w)を高く評価すれば、山田錦の価格(q)は

上昇する。

・・・(ⅰ)

つまり、高級酒の価格(p)の上昇は山

田錦の価格(q)を上昇させる。

・・・(ⅱ)

(18)

4.分析モデルの検討

分析モデルの結果(ⅰ)

山田錦の生産者が後継者を確保しようとすると、機会費用は

高くなり、山田錦の価格を上昇させる。

(若い人員は機会費用が高いため、生産者の世代交代には、

賃金(

)の上昇が必要と考えられる。)

現状からの検討

・現状、安定高位の山田錦価格は、今も作付を行う生産者へ

の生産継続を促進しているが、後継者を確保するには至って

いない(山田錦生産者五百尾氏)。

・よって、生産力の低下が山田錦の価格上昇の一因になって

いると考えられる(P10図3)。一方で、今後後継者を確保する

にあたって、さらに山田錦の価格が上昇すると考えられる。

18

(19)

分析モデルの結果(ⅱ)

高級酒の価格上昇は山田錦の価格を上昇させる。

現状からの検討

・P14図5が示すように、現在一般酒の消費が落ち込む一方

で、純米酒・純米吟醸酒といった山田錦を原料とする高級酒

の消費は伸びている。

・高級酒製品価格が上昇しているか否かについて確認は取

れていないが、高級酒消費量の増加が、山田錦の価格を上

昇させる一因となっていると考えられる。

19

4.分析モデルの検討

(20)

5.結論

「クールジャパン推進会議」、「和食のユネスコ無形文化遺産登

録」など、清酒の輸出には追い風が吹いており、今後さらに高

級酒を中心に輸出が拡大すると見込まれている。

⇒山田錦等の酒米需要は、今後しばらく増加を続ける。

⇒生産者の世代交代に必要な機会費用が確保される。

⇒最も懸念される酒米生産力の低下が解決に向かう。

こういった循環に乗れば、酒米・酒造業界は今後も安定的に生

産・製造を続けていくことができる。

一方で、需要の拡大は高級酒に限られているため、長期的に

酒造業界が発展していくには、今後、清酒消費の少ない層への

一般酒需要開拓の努力が欠かせないと考えられる。

20

(21)

5.結論

発展論1:原料費の高騰に対する酒造メーカーの方策

原料酒米の価格高騰は、酒造メーカーに、利益率の低下、または製品の値

上げ、を余儀なくする。こうした事態を回避するために、酒造メーカー側とし

ては、加工部門と生産部門の垂直的統合が有効であると考えられる。

(実例:白鶴酒造では、2014年度から自社開発の酒米「白鶴錦」を自社で生

産しており、今後も生産拡大していく予定である(『神戸新聞』)。)

発展論2:他産業への酒米事例適用

現在までの酒米の構造変化とそれに対する対処は、他の、加工の割合が高

い製品(乳加工製品等)にも適用することができると考えられる。

特に今後、安価な輸入品の流入が増加し、原材料品質による差別化が必要

となった国内製品には、長期にわたって契約栽培を継続させてきた酒米生

産が有効な先例となる可能性がある。

21

(22)

ご清聴ありがとうございました。

(23)

引用文献

• 旭酒造株式会社獺祭HP、http://www.asahishuzo.ne.jp/index.php?virtualpath=info/item_1712.html、2015年1月25日 • 兵庫県・兵庫県酒米振興会(2006)『兵庫の酒米山田錦生誕70年記念』兵庫県酒米振興会 • 兵庫県酒米振興会(2000)『兵庫の酒米―創立50周年記念誌―』兵庫県酒米振興会 • 兵庫県酒米研究グループ(2010)『山田錦物語 人と風土が育てた日本一の酒米』神戸新聞総合出版センター • 兵庫県HP、https://web.pref.hyogo.lg.jp/af11/af11_000000025.html、2014年12月19日 • 伊賀聖屋(2008)「清酒供給体系における酒造業者と酒米生産者の提携関係」『地理学評論』81巻4号、pp.150-178

• Ito Junichi,(2006)”Economic and institutional reform packages and their impact on productivity: A case study of Chinese township and village enterprises”, Journal of Comparative Economics, vol.34, pp.167-190.

• JA全農兵庫県本部米麦部(2014)『「グレードアップ兵庫県産山田錦」をめぐる情勢』 • JAMY兵庫HP、http://ja-myhyogo.com/Alcohol_forth.html、2014年12月19日 • 小池晴伴(1995)「酒造好適米の生産・流通の現状と課題」『北海道大学農経論業』51集、 pp.161-170 • 国税庁 酒税長期時系列データ、https://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/jikeiretsu/01.htm、2014年8月10日 • 前重道雅(2000)『日本の酒米と酒造り』株式会社養賢堂 • 日本酒造組合中央会 知る日本の酒、http://www.japansake.or.jp/sake/know/index.html、2014年12月2日 • 二宮麻里(2014)「酒類産業における生産・流通規制」『福岡大学小学論叢』58巻4号、pp.469-495 • 農林水産省「平成25年産 醸造用玄米の産地品種銘柄一覧」、 http://www.maff.go.jp/j/seisan/syoryu/kensa/sentaku/pdf/h25list.pdf、2014年12月23日 • 農林水産省「米の農産物検査結果」、http://www.maff.go.jp/j/seisan/syoryu/kensa/kome/、 2014年9月7日 • 村岡信二他(2014)「追い風が吹く海外の清酒市場」『酒類食品統計月報』4月号、pp.71-80 • 角謙二他(2010)『日本酒の基礎知識』株式会社枻出版社 • 高橋正郎(1997)『フードシステム学の世界 食と食糧供給のパラダイム』農林統計協会 • 東条山田錦冊子編集委員会(2006)『東条の山田錦-日本一の酒米ができるまで-』東条山田錦フェスタ実行委員会 • 財務省貿易統計、http://www.customs.go.jp/toukei/info/、2014年8月10日 23

参照

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