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理論と方法 33巻1号 2018年 数理社会学会 Sociological Theory and Methods Vol.33 No Japanese Association for Mathematical Sociology 書評 行動科学の統計学 社会調査のデー タ分析 永吉希久

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理論と方法 33巻1号 2018年 数理社会学会 Sociological Theory and Methods Vol.33 No.1 2018 Japanese Association for Mathematical Sociology

『行動科学の統計学:社会調査のデー

タ分析』永吉希久子著

共立出版 2016年 378ページ 竹ノ下 弘久(慶應義塾大学) 近年,社会調査士資格の創設に伴い,社会 学を教える多くの大学で,社会調査や統計学 の科目が設置され,そうした授業で活用でき る統計学や社会調査の教科書が,数多く出版 されている.本書もまた,著者が述べるよう に,社会調査士資格認定の E 科目(多変量 解析の方法に関する科目)で扱う内容を念頭 に,大学の半期の授業で扱えるよう,15 章 立ての構成としている.社会学者や計量分析 の専門家が執筆する統計学,社会調査の教科 書を拝見していて興味深く感じることは,そ の著書の編者や執筆者のこれまでの調査や分 析の経験が,大きく内容に反映されているこ とである.そのため,様々な統計分析,社会 調査の教科書は,用いられる具体例や細かい 説明などで,著書によって大きく異なってい る.複数の教科書を読み比べることで,社会 学の領域,分野,これまでの計量分析の経験 による,分析方法や分析に対するスタンスの 相違と多様性に触れることができ,評者とし ても多くのことを学ぶことができた. 新進気鋭の社会学者である永吉希久子氏が 執筆された『行動科学の統計学』の内容は, 永吉氏自身のこれまでの研究業績を大いに反 映しており,大学で社会調査や統計学を教え てきた評者にとっても,非常に興味深い内容 と構成になっている.とりわけ本書のタイト ルが「社会学の統計学」もしくは,「計量社 会学」ではなく,「行動科学の統計学」となっ ている点は,永吉氏が現在所属されている東 北大学文学研究科行動科学研究室での教育, 研究と密接なつながりがあるだろう.本書の 第 1 章は,「行動科学における社会調査デー タの分析」について論じる.その冒頭で,著 者は行動科学について,「個人の行動あるい は意識をキー概念として,人間や社会のさま ざまな現象を解明する学問」と説明する.行 動科学の調査データの分析では,データをも とにして,ある社会や集団の特性を明らかに する.「それによって,さまざまな社会現象 が生じるメカニズムが,個人のどのような行 動の集積によって生じたのか,あるいは,個 人の意識がどのような社会や制度によって方 向づけられたのかを検証する」と論じる.こ のように,本書が考える量的な調査データの 考えは,優れて社会学的であると同時に,東 北大学文学研究科行動科学研究室が重視する 教育内容に沿うものであるだろう. 著者は,本書の特徴を次のように述べる. 第 1 に,実際の社会調査データを用いて,分 析手法だけでなく,結果の解釈の仕方につい ても説明している.第 2 に,分析手法につい て,無料のソフトウェアーである R を用い た分析の方法を解説している.評者自身も, これら 2 つの点は,本書の内容を大きく特徴 づけていると感じている.これら 2 つのポイ ントは,本書を非常に良質な社会学的な統計 分析の教科書にしているものと思う. 以下では,本書の構成と各章の概要につい て大まかに紹介しよう.第 1 章では,行動科 学における社会調査データ分析について,行 動科学を定義づけたうえで,行動科学と社会 調査,行動科学と実験との関係について論じ る.また,第 1 章の最後には,統計ソフト R の導入やデータの読み込みについて解説して

書評

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おり,統計ソフト R に関心のある読者の助 けとなっている.第 2 章では,記述統計,第 3 章では,サンプリングの理論とサンプルか ら母集団の推定について論じる.第 4 章では, 第 3 章の議論を下敷きに,統計的検定の考え について紹介する.第 5 章から第 8 章まで は,2 変数間の関係について検証するための 統計手法についての説明がなされる.第 5 章 では,クロス集計とカイ二乗検定,第 6 章で は,平均の差の検定,第 7 章では,分散分析, 第 8 章では,相関分析が取り上げられ,論じ られている.第 9 章では,3 つの変数間の関 連について紹介され,それらを扱う手法とし て,三重クロス集計や偏相関分析が説明され る.第 10 章から 12 章では,多変量解析とし て,回帰分析が取り上げられる.第 10 章で は,回帰分析の基礎が,第 11 章では,重回 帰分析が取り上げられる.第 11 章では,さ らに,媒介効果の推定方法,多重共線性に関 わる問題とそれを特定するための方法,より 複雑な誤差の推定方法について,紹介されて いる.第 12 章では,重回帰分析におけるダ ミー変数の利用と交互作用効果の検証方法 について詳細に論じられている.第 13 章と 第 14 章では,複数の観測指標から潜在的な 概念や指標を構成するためにしばしば用いら れてきた主成分分析と因子分析が紹介される. 第 15 章では,個人の持つ属性や地位だけで なく,個人が所属する集団(地域,国家,企 業など)の特性が,個人の行動や意識に与え る影響を調べるために用いられるマルチレベ ル分析について,取り上げられ説明される. 最後に付録として,社会調査データ分析のた めの R の使い方の基礎が,解説される. このように本書は,初学者を念頭に,デー タの基本的な見方から,記述統計,統計的検 定,多変量解析,最後にはマルチレベル分析 といった最新の分析手法まで,多くの手法を 網羅的に扱っている.また,統計分析の手法 のために用いられる実例が,日本の階層研究 者にはなじみのある,社会階層と社会移動全 国調査が大いに活用されている.評者のよう な階層研究者にとって,授業で教科書として 使う上で,非常に使いやすいものとなってい る.また,量的データを用いた不平等研究に 関心がある学生・院生にとっても,本書を読 むことは,統計分析の方法を学習する良い導 きとなるであろう. 確かに,本書は,数多くの統計手法につい てその考え方を網羅的に紹介している.しか し,評者としては,マルチレベル分析のよう な最新の手法について,著者が丁寧に説明す るのであれば,名義尺度,順序尺度を従属変 数とするときに使われる,ロジスティック回 帰分析を説明する章があってもよかったよう に思う.社会学が注目する社会現象の中には, 名義尺度の形で測定することが妥当な現象も 多くあり,ロジスティック回帰分析は,多く の論文で頻繁に用いられてきたからである. とはいえ,このような些細な指摘は本書の価 値を減じるものでは決してない.行動科学や 社会学の立場から統計分析を学生に教える教 員,行動科学,社会学の視点から,計量分析 に関心をもつ多くの学生,院生に読んでいた だきたい 1 冊である. 竹ノ下 弘久(たけのした ひろひさ).慶應義塾大学 法 学 部 教 授. 〒 108-8345 東 京 都 港 区 三 田 2-15-45. [email protected].研究関心:社会階層論,計量 社会学. 

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理論と方法 33巻1号 2018年 数理社会学会 Sociological Theory and Methods Vol.33 No.1 2018 Japanese Association for Mathematical Sociology

『集合論による社会的カテゴリー論の

展開:ブール代数と質的比較分析の

応用』石田淳著

勁草書房 2017年 167ページ 井手 靖子(福岡工業大学) ブール代数による質的比較分析(QCA) は 1987 年に C.C. レイガン『社会科学におけ る比較研究:質的分析と計量的分析の統合に むけて』(鹿又伸夫監訳 ミネルヴァ書房 1993 原著 1987)によって,社会科学におけるさ まざまな社会的カテゴリーの構成要因やその カテゴリーを条件づける外部要因の特定を行 うものとして提唱されたものである.レイガ ンが質的比較分析としてブール代数を提唱し てから今日まで,さまざまなカテゴリーに関 してこの手法は応用され,また手法的な改良 が試行されてきており,本書もそのひとつと いえる.本書では,「すでに整備されている 論理・集合・ブール代数を用いて,社会的 カテゴリーについての,できるだけ単純でク リアカットな分析道具を構築しようという試 み」という言葉のとおり,従来のブール代数 を応用した分析例では行き詰っていた手法的 な問題や,応用の限界を突破し,これまで以 上に社会現象分析への応用の可能性を大きく 広げようとするものである. 本書では「日本人の条件分析」が行われて いるが,「日本人とは何か」といった問いは これまでも多くの研究者によって繰り返され てきたテーマである.しかし,そこで明らか にされてきたものは,日本人の信念や価値意 識あるいは社会規範等の「日本人的なもの」 を求めた場合が多い.例えば,内村鑑三の 『代表的日本人』(岩波書店 1995)では,代 表的日本人として西郷隆盛,上杉鷹山,二宮 尊徳,中江藤樹,日蓮を挙げ,彼らの生き方 や信念がいかに「日本人」的であるかを説い ている.著名なルース・ベネディクトの『菊 と刀』(社会思想社 1967)では,外から見た 日本人の特性として,恩・義理・忠孝・恥と いう観点からしめされており,ここでも日本 人の内面的な特徴に着目している.あるいは, 三島由紀夫は常に「日本とはなにか ?」「日 本はどうあるべきなのか?」を問い続け,そ の答えとして「文化概念としての天皇」を見 出した(三島由紀夫『生きる意味を問う』大 和出版 1984).三島の考える日本的なものと しての天皇とは神の代替であり,連綿と続く 天皇こそが「日本的なもの」の象徴であると 考えた.いずれにしても,これまでの多くの 日本(人)論が示すのは,まさに日本や日本 人の内にある「日本的なもの」が何であるか を導き出そうとしている場合が多い.さらに 昨今の日本人論が「日本人である」ことを自 明としている場合が多いように思える.それ に対して,本書で示されているのは,できる だけ客観的な外的指標を用いて日本人の条件 を明らかにしようとするものである. 本書は 2 部で構成されている.前半部分で は,方法論として集合・論理および質的比較 分析の解説が丁寧に示されている.後半では, この手法を用いて社会的カテゴリーそのもの を明確化し,さらに QCA を用いた「日本人」 のカテゴリー分析によって,人びとのイメー ジの中にある日本人像を定式化しようとして いる. 具体的に見ていこう. まず,第 1 章から第 3 章までは,ブール代 数の導入までの基礎学習としてまとめられて

書評

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いる.第 1 章は,論理についての基礎的理解 から推論・証明までの考え方が述べられてい る.第 2 章では,集合論の基礎について述べ られており,基本法則や関係,関数に関する 基本的な考え方やそれぞれの性質がベン図や 概念図を通してわかりやすく述べられてい る.第 3 章は,これまでの論理や集合の基礎 概念を踏まえた上で集合演算・論理演算を抽 象化したブール代数の基礎が導入されている. この章では,ブール代数導入の前段階として, 「演算」 と「代数系」 についての定義が示さ れており,その後,本題であるブール代数の 公理や定理,ブール代数の特性についての記 述がなされている.また,ブール代数の手順 や考え方が詳しくまとめられており,この章 を踏まえることでブール代数の手法や特性が 理解できるようになっている. 第 4 章では,ブール代数を利用した社会科 学的方法論である質的比較分析(QCA) につ いての紹介がなされている.今日,QCA は 広く知られるようになっており,様々な分野 での応用もなされるようになってきた.この 章では,スウィッチング理論ないしブール代 数に依拠している従来の QCA を 2 値の特性 に着目したクリスプ集合 QCA(csQCA)とし, その方法や応用例を示している.さらに, csQCA の抱える問題点を明らかにした上で, その発展型としての多値変数 QCA(mvQCA) やファジィ集合 QCA(fsQCA) が紹介され, 今後に大きく期待できる分析手法として描か れている. 第 5 章では,H. Sacks の「成員カテゴリー 化」 の議論を中心に,社会的カテゴリーを記 述するためのモデルを,ブール代数を用いて 導き出す試みを行っている.この章は,次章 の「日本人」 という社会的カテゴリー分析を 行ううえで,重要な布石となっている.つま り,「日本人」 という社会的カテゴリーに分 類する以前に,そもそもこの社会的カテゴ リーそのものをどのように理解し,条件付け るべきなのかがこの章では求められている. 社会的カテゴリーは分析者によってその条件 が異なるものであり,そこに一定の「基準 」 は存在しない.著者はこれにブール代数と いう数学的道具を用いて一定の「基準」 を設 けようとしている.その結果,①諸特性をす べて 2 値で表現することが可能である ②あ る多次元的特性がある場合でも,ある社会的 カテゴリーに所属不明な,曖昧な判断はない, という 2 つの仮定を設け,公理的に導入して いる. 第 6 章では,「ブール代数分析による社会 的カテゴリー分析」を用いて日本人の「条件」 を導き出し,さらに人びとのイメージの中に ある「日本人」の様態と社会的属性との関連 を明らかにしている.まず,「日本人」カテ ゴリーについて法的な側面から,その定義化 を行っている.この場合,「日本国籍を有す ること」は日本人の必要十分条件であるが, 過去においては必要条件であり,また法的グ レーゾーンを考慮すれば十分条件となって他 の条件との組み合わせもありうるものとなっ ている.これを踏まえたうえで,インター ネット調査結果を用いてブール代数分析を行 い,その結果として,国籍と血統と十分な日 本語能力を有していることが条件として抽出 されている.ナショナル・アイデンティティ の背後にある意識形態をみてみると,ナショ ナル・プライドや排外主義の傾向や同化主義 傾向が「血」や「文化」との関係性によって 構成されていることが示されている.さらに, 個人のイメージの中にある日本人の条件のコ アとなる国籍と血統と個人の属性や学歴,地 域における外国人との接触機会の頻度によっ て国籍主義や血統主義に大きく作用すること も明らかにしている.ブール代数を用いた分 析により,人びとのナショナル・アイデン ティティの構成要件がより明確化し,人びと の「日本人」のイメージの深淵を描き出して いる. 日本に住む多くの日本人は自分自身が「日 本人である」ということを自明のこととして 過ごしており,そのことに対してあまり疑問 を抱くことがない.それは,日本に住み,日 本の国籍をもち,日本語を日常において用い ているからに他ならない.しかし,その自明

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のことが本当に確かなのか,それを追求する のがまさに社会学の基本にあると評者は考え る.このことを本著によって改めて考えるこ とができた. 最後に,第 7 章では,発展途上であるファ ジィ集合質的比較分析(fsQCA)を紹介し, いくつかの指数の合成から作られる合成指数 の再構成に fsQCA を用いる応用的方法を紹 介している.ファジィ集合質的比較分析は従 来の質的比較分析で常に問題視されていた, 変数の 2 値化における分析者の恣意性に対応 しようとするものである.この方法は,従来 の集合では扱えなかった「あいまいな」集合 を用いて,質的かつ量的な評価を組み合わせ るものである.ファジィ集合論とブール代数 は異なる代数系であり,ブール代数の大きな 特徴である最少化定理はファジィ集合におい ては適用できない.本章では,ファジィ集合 では 0 から 1 までのメンバーシップ値が割り 当てられた表を作成し,それに基づいて条件 の組合せとメンバーシップ値の真理表を作成 し,そこから十分条件を導き出していく. 評者個人としては,ブール代数の大きな特 徴は,特定の条件組み合わせを共有する事例 が,結果の部分集合を構成するかどうかを簡 単に導き出せることにあると考える.確か に,社会現象は完全なクリスプ集合や 2 値論 理で表現できるものではないし,あいまいな 事象も多々ある.そのようなあいまいな事象 を 2 値に置き換えること自体が力技であった り,あるいは分析者の知識や判断に左右され るものである.しかし,だからこそ,社会現 象の分析の面白さがそこに見出せるのではな いか,とも思うのである.分析者がその現象 をどのように理解し,どのように判断するの か,というのも研究知見としては必要なもの であると考える.ファジィ集合論はあいまい な事象を対象に分析が可能になった分,条件 組み合わせの解釈を行う際には,より注意が 必要である.それこそ,著者も指摘している ように,区切り値の設定によってその条件組 み合わせは異なるし,当然解釈も異なってく る.本書では真理表の縮約・簡単化を 2 値論 理に基づいて行っている.ここでは,簡単化 によって得られた十分条件式に被覆度という 概念を用いてその妥当性を検討している点に 特徴があると言えるであろう.mvQCA は確 かに csQCA の発展型でありつつ,ブール代 数とは異なる新たな「質的・量的比較分析」 として位置づけられるべきアプローチであり, 今後の応用可能性を秘めている. 以上が本書の簡単な概略である.本書は, QCA の方法論の解説がなされると共にその 応用可能性が広く示されている.また,今日 の「日本人論」「日本論」をみた場合,そも そも「民族性」の概念自体が揺らぎはじめて いるように感じる.同じ文化を共有し,同じ 国に住み,同じ言語を話していても,「同胞」 と認めあわず対立しあう状況が世界の中で起 こっている.このような状況の中で,人びと のイメージの中から日本人という社会カテゴ リーを特定化する,というのはまさに揺らぎ はじめた民族性や人種の不明確な輪郭を明示 化するものとして有効である.今回提示され たこの輪郭をもとに,今後は外国籍をもつ在 日外国人や二重国籍の人びと,日本人で無戸 籍かつ無国籍の人たちの自己意識やエスニシ ティとの関係性が明らかにされることを個人 的には切望したい. 本書で QCA アプローチの抱える問題点す べてが解決されたわけではない.しかし,ま さにブール代数の教科書としては最先端の研 究書であり,ブール代数の初心者から応用可 能性を模索する研究者まで必読する価値ある ものである.と同時に,今後のさまざまな社 会現象やカテゴリー分析へのブール代数の応 用発展を期待できると思わせる書である. 井手 靖子(いで やすこ).福岡工業大学 非常勤講師. 〒 811-0295 福岡県福岡市東区和白東 3-30-1.yasuko_ [email protected].研究関心:質的比較分析,社会意識論, 社会文化論.

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理論と方法 33巻1号 2018年 数理社会学会 Sociological Theory and Methods Vol.33 No.1 2018 Japanese Association for Mathematical Sociology

『講座・社会変動 10 計画化と公共

性』金子勇編著

ミネルヴァ書房 2017年 261ページ 河村 倫哉(大阪大学) 本書は講座・社会変動(全 10 巻)の最終 巻である.これまでの巻が,高齢化,国際化, 情報化などの社会変動を取り上げ,その現状 を分析してきたのに対して,本書は最終巻と して,我々自らが社会を良くするためにどう いう変化を目指すべきかという問題を扱って いる. この問題を扱うには,価値の問題に踏み込 まざるを得ない.その際には,ある特定の価 値を当然視することは避けつつ,できるだけ 広く人々に受け入れられるような価値の実現 が求められる.そこで考えられるのが公共性 であり,開かれた場で人々が公的関心事項に ついて話し合い,社会の前進を目指していく というものである.このような価値ならば追 求しても問題ないのではないかという抑制の 効いたトーンが,各章を貫いている. その中でも印象に残ったのはまず,計画の はらむアポリアである.社会を良くするには 計画が必要だが,計画という凝集的な営み自 体が,緩やかに開かれた公共性と衝突する恐 れがある.そうならないためには,計画の中 に後者の契機を取り込む必要がある.例えば, 計画の策定や評価に多様な住民が関わること や(2 章),自主的な参加のためにあえて住 民自身がリスクをとって計画の策定・実施を 行うこと(4 章)などが考えられる.その点 で4章の釜石市唐丹地区花露辺の事例などは 興味深い. 凝集性と開放性のバランスは,他の章でも 論じられている.例えば 6 章では,地域コ ミュニティが外国人という異質な存在を排除 しそうになりながらも,地域を特徴づけるレ トリックを色々と工夫することによって,包 摂的になっていくという様子が,愛知県の西 尾団地を例に述べられている.また,5 章の 東日本大震災の被災者が移転先で作ったサロ ンも,同様の例だと言える. 公共性の意義を,国民国家や労組,核家族 が力を持っていた第一の近代ではなく,グ ローバル化や個人化,リスク社会化が進んだ 第二の近代との関連で捉えようとする論文も ある(1 章,7 章).しかし,ここであえて疑 問を呈すると,第一の近代でもすでに公共性 は,管理社会や資本主義市場への対抗力とし て期待されていたはずである.それと同じも のが第二の近代でも期待される場合,そこに 期待される役割や意義,性格は変わってきて いないだろうか.この点はあまり明確に論じ られていなかったように思える. しかし,第二の近代における公共性の意義 自体は否定できない.第二の近代の閉塞状況を 打ち破るために社会学に何ができるか,また正 負の様々な可能性の中で社会学はあえてどちら の方向にむかって政策を語るべきか歩を考えよ うとしている人には,本書は非常に啓発的であ り,十分参考になるものだと言える. 河村 倫哉(かわむら みちや).大阪大学大学院 国際公 共政策研究科 准教授.〒 560-0043 大阪府 豊中市 待兼 山 町 1-31.[email protected]. 研 究 関 心: 市民社会,自由主義,ネットワーク.

書評

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理論と方法 33巻1号 2018年 数理社会学会 Sociological Theory and Methods Vol.33 No.1 2018 Japanese Association for Mathematical Sociology

『文化・階級・卓越化』トニー・ベネット,

マイク・サヴィジ,エリザベス・シルヴァ,

アラン・ワード,モデスト・ガヨ=カル,

デイヴィッド・ライト著,磯直樹・香

川めい・森田次朗・知念渉・相澤真

一訳

青弓社 2017年 556ページ 橋本 健二(早稲田大学) もう 30 年以上前のことになる.ピエール・ ブルデューの,というより現代フランス社会 学の紹介者として精力的な活動を続けておら れた,宮島喬氏を中心とする研究会が始まっ た.ブルデューの『再生産』と『ディスタン クシオン』に範をとった質問紙調査を実施し て,文化の階級性と再生産機能に関するブル デューの諸命題を検証することが目的である. 博士課程の学生だった私も参加し,質問紙の 設計に取り組んだ. 私が主に担当したのは,文化のさまざまな ジャンルについて,第 1 に回答者の関与の度 合いを測定すること,第 2 に各ジャンルに対 する評価の高さを測定することだった.自国 と海外の,それぞれ伝統文化と現代的な大衆 文化が入り乱れる日本を対象にするわけだか ら,文化のさまざまなジャンルをいちいち数 え上げることから始めるしかない.まず思い つく限りの文化のアイテムを列挙し,これを まとめ上げ,カテゴリー化する作業を続けた のちに,関与については 9 項目,評価につ いては 17 項目を選び抜き,設問へと構成し た.こうして 1987 年に実施されたのが「大 学生の文化的活動と進路意識に関する調査」 である.これらの設問は,関与についてはい くつかの項目が追加され,評価については同 じく削除されたものの,ほぼ同一のかたちで 1995 年 SSM 調査に盛り込まれた.そして関 与にかんする設問は,簡略化されたかたちで 以後も盛り込まれ続けている. その分析結果は,共著による論文「文化の 階層性と文化的再生産」(1988)として発表 したほか,宮島喬氏を編者とする『文化と社 会』(1991)にまとめられている.ブルデュー と大きく違う点は,調査対象が大学生に限定 されていることと,分析が計量的かつ初歩的 な段階にとどまっていることを除けば,文化 の諸次元を区別する分析で,当時の日本では 技術的に難しかった多重対応分析ではなく因 子分析を用いたこと,さらに文化の諸次元を データの内部から抽出するだけではなく,各 文化の「上品さ」を調査対象者自身に評価さ せるというかたちで,外部尺度を与えたこと である. その後も小さな調査は何度か行ったが,1995 年 SSM 調査データの分析で,あまりめざまし い結果が得られなかったこともあって,次第に 興味を失っていた.それから,さらに 20 年ほ どが経ったところで,本書の書評依頼が舞い込 んできた.読み進むうちに,久しぶりに興味と 意欲をかき立てられた.これが,不要とも思わ れる昔話などを書いた理由である. 訳文は,全体によくできていると思う.ミ スがないわけではない.dominant class を「主 要な階級」などと訳してはいけないし,比較 対象のない「それほど」の意味で「そこまで」 という語を使うのは,最近の若者言葉だろう か.contemporary music を「現代音楽」と訳 すのも,誤解のもとだろう.しかし長大な本 の割には,問題は少ない.理論的な部分での やや生硬な訳文は,年配研究者なら思い切っ

書評

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た意訳をするところかもしれないが,若い訳 者たちの著者たちへの敬意の表れとも受け取 れる. さて,内容である.一言で表せば,ブル デュー畢生の名著『ディスタンクシオン』の, 見事な現代英国版である.もちろん,違いが いくつもある. まず,構成が『ディスタンクシオン』のよ うに込み入っておらず,論理的である.理論 的・方法的な第 1 部のあと,第 2 部では多重 対応分析の結果から,文化的嗜好を相互に位 置づける 4 つの軸と,専門職=幹部階級,中 間階級,労働者階級の 3 階級が抽出される. 第 3 部では音楽,読むこと,視覚芸術,メ ディア,身体・食事というジャンルごとに論 述が進められる.そして第 4 部では先の 3 階 級に加えてジェンダー,ネイションとエスニ シティが扱われ,結論に至る.実に明快な構 成である. 次に,この構成からも明らかになように, 階級の問題に焦点化したブルデューの研究に 対して,ジェンダーとエスニシティにも焦点 が当てられている.興味深い知見が多いが, とりわけ女性の文化が多様であるのに対して, 男性の文化は男性らしさを保持するか否かと いうかたちで一元化されやすいという指摘, 英国には文化の正統性をめぐってヨーロッパ 文化と米国文化のせめぎ合いがあり,ここに 世代とエスニシティが関係しているという指 摘が注目される. さらに文化的オムニボア(文化的雑食性) の意味について,包括的な分析が行われてい る.著者たちによると,文化的に頂点に位置 する階級である専門職=幹部階級は,オムニ ボア的な志向性によって特徴づけられ,オム ニボアな性向は卓越化の印ともなっている. これには二面性がある.オムニボアな性向は, リベラルで平等主義的であり,文化の序列の 存在を否定する.このため正統文化から得ら れる利益は減少しており,文化資本の中身は 大きく変化している.にもかかわらず,正統 文化は依然として労働者階級にとっては縁遠 く,専門職=幹部階級の所有物であり続けて いるのである. 質問紙調査とインタビュー調査を併用する ことによって,初めて可能になった豊富な知 見を,これ以上要約して示すことは無益と思 われるので,最後に,本書のアプローチを日 本で生かす方向について考えてみたい. 現代日本の場合,ここで示された現代の英 国以上に,文化のマッピングが複雑になるこ とは,容易に想像できる.まず,ヨーロッパ 文化,米国文化とその他の外国文化,日本の 伝統文化,そして伝統文化と外国文化の融合 によって生じた多様な文化が付け加わる.正 統文化は学習指導要領による長期にわたって の強制により,特殊な意味を帯びてしまって いる.社会変動のスピードが速かっただけに, 世代による違いもより大きいだろう.本書の 研究以上に周到かつ大規模なプロジェクトが 必要になる. だから,階層構造と階層意識を膨大な職歴 データ込みで明らかにすることを目的として いる SSM 調査に寄生するかたちで,文化に 関する研究を行うなどということは,そもそ も不可能だ.まったく別の調査研究が構想さ れなければならないのである. 誰か,手を挙げる人はいませんか. 橋 本 健二(はしもと けんじ).早稲田大学 教授. 〒 359-1192 埼玉県所沢市三ヶ島 2-579-15.[email protected].研究関心:階級論,計量歴史社会学, 居酒屋.

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