1 . 緒 言 過酸化水素は工業的にとても有用な過酸化物であ り,種々の化合物が触媒的に作用し,分解する性質を 持つ.一般的に,金属化合物は過酸化水素に対し触媒 的な作用をする.その触媒作用を有効利用した例とし て,鉄化合物と過酸化水素の反応があり,これは Fenton反応として有名である1). しかし,過酸化水素の異常分解による重大事故が過 去に多く発生している2),3).国内の事故としては, 1999年に首都高速道路で発生したタンクローリーの爆 発事故がある4).この事故に関して,Kumasaki は小 型反応熱量計を用いて検討している5).その結果,前 に運搬した薬品の塩化銅がタンク内に残存しており, これが過酸化水素の分解を促進して暴走反応に至った と推測している.このように,不純物の混入は過酸化 水素の安定性を損なう要因の一つである.適切な管理 を行わなければ,過酸化水素は暴走反応を引き起こす 危険性がある. 過酸化水素の熱危険性評価は,種々の熱量計を用い た報告がある.評価装置として,例えば,DSC,C ─ 80,ARC,RADEX,VSP2, PHI ─ TECH Ⅱ,RSST な ど がある.Liaw らは,過酸化水素の断熱下における熱 挙動をモデル化し,PHI─TECH Ⅱの実測データによっ て検証している6).また Shu らは,塩酸を含む過酸化 水素溶液の危険性評価を行っている.VSP2 の温度制 御を改良し反応初期の触媒作用を見いだしている7). しかし,既存の装置で過酸化水素を評価する場合, ほとんどの容器が金属製であり容器材質が過酸化水素 の分解に影響を与える.そのため過酸化水素の実際の 熱安定性が評価できない.容器材質の影響について Iizukaは,塩化スルホニルと N.N. ジメチルホルムア ミドの混合物の発熱挙動が,銀容器とステンレス容器 では大きく異なることを示している8).また Uchida らは,ヒドロペルオキシドの分解に及ぼす「金」の影 響について報告した例などがあるが9),公表されてい る測定データは少ない. 本研究では,従来の危険性評価に用いられる熱分析 (DSC), な ら び に 2 種 類 の 断 熱 熱 量 計(ARC, RADEX)を用いて,試料容器の材質が過酸化水素の 分解反応に及ぼす影響を検討した.そしてその影響が 生じないような容器材質について検討した. 2 . 実 験 2 . 1 試 料 実験に用いた過酸化水素は,35 wt%─過酸化水素水
論
文
過酸化水素の危険性評価における容器材質の影響
熱分析(DSC),ならびに 2 種類の断熱熱量計(ARC,RADEX)について,試料容器の材質が過酸化水 素の分解反応に及ぼす影響を検討した.実験には種々の金属容器(チタン,ハステロイ,ステンレス鋼, 純金,金メッキ),およびガラス容器を使用した.また,不活性物質によるコーティング容器(テフロン, ガラス)を試作し,実験に使用した.種々の測定で,発熱開始(検知)温度,誘導期等の観点から測定結 果を比較し,容器材質の影響について考察した.すべての実験で,金属材質は過酸化水素の分解反応に影 響を及ぼした.特に顕著なのはチタン,金メッキ容器であった.ガラス容器を用いた分析(DSC ガラスキャ ピラリーセル,RADEX)やテフロンコーティングを施した容器は,容器材質の影響に対して有効である ことがわかった. キーワード:過酸化水素,熱的危険性評価,容器材質,RADEX 2007 年 11 月 6 日 原稿受付,2008 年 7 月 11 日 受理 † (独)産業技術総合研究所 爆発安全研究コア:〒 305─ 8565茨城県つくば市東 1─1─1(現,住友化学(株)生 産技術センター:〒 792 ─ 8521 愛媛県新居浜市惣開町 5─1) †† (独)産業技術総合研究所 爆発安全研究コア:〒 305─ 8565茨城県つくば市東 1─1─1 †江
え藤
とう功
いさお・
岡
おか田
だ賢
けん秋
あき吉
よし美
み也
や子
こ・松
まつ永
なが猛
たけ裕
ひろ †† †† ††(和光純薬工業(株)製,特級,安定剤なし)および 60 wt%─過酸化水素水(宇部ケミラ(株)製,工業用, 安定剤なし)である.35 wt%─過酸化水素水の濃度は 30∼35 wt% の範囲でバラつきがあったので,JIS K 8230に準じた方法で濃度を求め,イオン交換水で 30 wt% に希釈して実験に用いた.60 wt%─過酸化水 素水は希釈せずそのまま用いた.DSC 測定および RADEX測定では 30 wt%─過酸化水素水を,ARC 測定 では 60 wt%─過酸化水素水をそれぞれ用いた. 2 . 2 示差走査熱量測定(DSC) 2 . 2 . 1 実 験 条 件 DSCは,TA Instruments 社製高圧 DSC2920 を用いた. 試料約 1∼10 mg を数種類の金属製試料容器に量りと り,空気雰囲気,大気圧下,昇温速度 10 ℃/min で加 熱した.試料容器と測定温度範囲は,エスアイアイ・ ナノテクノロジー(株)製耐圧(5 MPa)SUS303 容器 (−50∼250 ℃),エスアイアイ・ナノテクノロジー (株)製耐圧(5 MPa)金メッキ SUS303 容器(−50∼ 250℃),ネッチ社製耐圧(10 MPa)ハステロイ容器(0
∼200 ℃),TA Instruments 社製耐圧(0.3 MPa)純金 容器(室温∼200 ℃),ガラスキャピラリー容器(室 温∼250 ℃)を用いた.純金容器は耐圧製に乏しく測 定中にリークが生じて水分が蒸発してしまう.純金容 器では水の蒸発を防ぐために 3 MPa の加圧下で測定 した. ガラスキャピラリーは以下の手順で測定した10). あらかじめ質量を測定したガラスキャピラリー(外径 1 . 5 mm,内径 1.0 mm)に試料約 1 mg を入れた.ガ ラスキャピラリー容器底部を液体窒素で冷却しなが ら,上部をマイクロバーナーで溶断した.リファレン ス試料(α アルミナを使用)も同様の操作にて作製 した.密封したガラスキャピラリー容器を,アルミ台 (外径 6.7 mm,高さ 3.6 mm)の小穴に水平に挿入し, 通常の DSC と同じ測定方法で熱分析を行った. ネッチ社製耐圧ハステロイ容器にはテフロン,ガラ スのコーティングを施し,その影響を検討した.測定 温度範囲は 0∼200 ℃ とした.コーティングの詳細は, 次項で述べる. 2 . 2 . 2 DSC 容器へのコーティング ( 1 ) テフロンコーティング テフロンコーティングは,(株)フロンケミカルに コーティングを依頼した.Fig.1 に容器の様子を示 す. ( 2 ) ガラスコーティング AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製アクア ミカを使用した.アクアミカは,パーヒドロポリシラ ザン,有機溶媒から構成されるもので,炭素などの有 機成分を含まない無機ポリマーである.焼成温度を下 げるためおよび膜質を高めるために微量の触媒を添加 したものもある.パーヒドロポリシラザンは常温で下 記の式に示す反応が進み,金属表面上で緻密なシリカ (SiO2)へと転化し,Fig.2 のように金属表面上にガ ラスのコーティングができる.このコーティングは, 硬度,高耐熱性(1 000 ℃ 以上),高耐久性を有する. ─(SiH2NH)─ + 2H2O→SiO2+NH3+2H2 ( 1 ) 今回の塗布条件は以下の通りである.まず容器と内 フタをトルエンで脱脂した後,アクアミカ(5 %)を ピペットで滴下した.乾燥後,450 ℃ まで昇温し,1 時間焼成した.冷却後,希硝酸(硝酸:水= 1:7(体 積比)),続いて過酸化水素水(30 wt%)に浸した後, 水洗浄して用いた.Fig.1 に,コーティング後の容器 の様子を示す. 2 . 3 純金板浸漬試験 30 wt%─過酸化水素水を入れたガラス容器に,純金 板((株)ニラコ製,純度 99.9999 %,10 mm×10 mm
×t 0.5 mm)を浸し,常圧下で 60 ℃ まで加熱した際 の純金板の表面を観察した.
2 . 4 断 熱 熱 量 計
2 . 4 . 1 ARC(Accelerating Rate Calolimeter) ( 1 ) 装 置 概 要 アメリカの Dow Chemical 社により開発された断熱 熱量計で,断熱系における熱暴走反応の評価が可能で ある.試料からの発熱を検知し,その温度上昇に等し い熱をヒーターより供給することで,系全体を断熱状 態に保つように制御する.温度を制御するための熱電 対は上部,底部,側面ならびに試料容器の 4 か所にあ る.試料の温度測定は,熱電対が容器外側にあるため, 発生した熱を容器が吸収することを考慮する必要(熱 補正係数)がある.得られた結果は熱補正係数 φ ={1 +(MbCvb/MsCvs)}(Mb:試料容器の重さ,MS:試料重 量,Cvb:試料容器の平均比熱,Cvs:試料の平均比熱) を用いて校正する11). 試料容器は内容積 9 ml 程度で,チタン,ハステロイ, SUS304容器などがある.試料量は,反応性の激しい 爆発性物質では分解反応時に容器が破裂して装置故障 につながるため,制限がある.一般的には,爆発危険 性の高い試料の場合,1 g 以下とすることが望まし い. 測定モードとしては,加熱(heat)─待機(wait)─ 探索(search)モード,等温断熱制御モードが選択で きる.一般的に,熱危険性評価では加熱−待機−探索 モードを使用する. ( 2 ) 測 定 条 件 本実験では,TIAX 社製 ARC2000 を使用した.測定 温度は室温から 250 ℃ までとした.測定モードは加 熱─待機─探索モードを選択した.5 ℃ でステップ昇 温し,20 分間待機し,その後 5 分間発熱の有無を探 索した.発熱検出限界は 0.02 ℃/min である.試料容 器としては,チタン,ハステロイ,SUS304,不動態 化 SUS304 を用いた.不動態化 SUS304 容器は,ステ ンレス表面の不純物を除去した後,自己不動態化する 性質を利用して,硝酸のような酸化剤に浸漬させて不 動態化させる.ステンレス鋼の不動態は,合金表面上 に形成された,厚み 1∼3 nm の水和オキシ水酸化クロ ムである12).試料量は約 1 g とした.熱補正係数は容 器の材質によって変化する.試料量を 1 g に対し,チ タンでは 2.91,ハステロイでは 2.37 ,SUS304 では 4.16, 不動態化 SUS304 では 4.15 となる.容器の試料充填率 は約 20 % である. 2 . 4 . 2 RADEX ( 1 ) 装 置 概 要 スイスの SYSYTAG 社により開発された断熱熱量計 で,測定原理は上述した ARC と同じである.測定温 度範囲は室温から 400 ℃ まで,昇温速度は 0.1∼5 ℃/ minまで設定可能である.装置の感度は 0.5∼5 mW/g である.装置概念図を Fig.3 に示す.反応容器はジャ ケットの中心部に設置する.反応容器とジャケットは 互いに孤立した系であるが,密接している.試料から の発熱は反応容器内に挿入した熱電対(TR)で検出 する.ジャケットと試料の温度は,それぞれ Pt ─ 100Ωセンサー(保護管は SUS316)で測定する. 2 . 4 . 1項( 1 )で述べたように,ARC では温度のみ の断熱制御である.一方,RADEX では反応により発
生した熱量が反応容器に吸収されることを想定した断 熱制御を行う.RADEX の断熱制御方法を以下に示 す.制御プログラムは,反応容器へと吸収される熱量 を計算するために,同じ熱量を加えた場合に反応容器 と同じ温度変化をする水のグラム数(水当量)を算出 する.この水当量を用いて,反応容器に吸収される熱 量を測定された試料温度ごとに求め,断熱を保つよう にジャケットのヒーターから熱量を加える. RADEXの 耐 圧 容 器(Fig.3( b ) の 右 側 ) は, SUS316製で耐圧性が 20 MPa,破裂板があり,爆燃に 耐える構造をしている.爆発危険性がある試料を測定 する場合,ARC とは異なり,容器の容量範囲内(約 2 . 5 cc)であれば,試料量を制限する必要がない.ま た試料をガラス容器(Fig.3( b )の左側)に量りと るため,金属材質の影響も受けにくい.耐圧容器は, ガラス容器を差し込めるだけの空間がある構造になっ ている.耐圧容器とガラス容器の底部には熱電対を挿 入する凹みがある.よって熱電対の測温接点は試料に 対して,ガラス容器と耐圧容器を隔てた外側に位置す る.またガラス容器の上部は開口しているので,試料 の上面は気相部と耐圧容器内の金属部分となる. しかし,試料容器が剛直な構造であるため,熱補正 係数は大きくなる.データ解析の際には,RADEX の 測定データの熱補正は大きくなる.このことに関して SYSTAG社は「試料容器への熱の分散により,ジャケッ ト内の温度勾配は小さくなる.そのため,速い発熱速 度を示す試料に対しても,より精度の高い断熱制御が 可能となる.」と解説している13). 測定モードには,ARC と同様な加熱−待機−探索 モード,あるいは等温断熱制御モードがある.さらに 種々の温度プログラムを組むことで,示差走査熱量測 定等の任意の熱履歴試験も可能である. ( 2 ) 測 定 条 件
装置は,SYSTAG 社製 RADEXV5 を使用した.ARC 測定結果との比較を行うため,加熱−待機−探索モー ドで測定した.30 ℃ から測定を始め,10 ℃ でステッ プ昇温し,ドリフト値が 0.005 ℃/min となるまで(約 30 min)待機する.その後約 30 分間発熱の有無を探 索した.発熱検出のしきい値は 0.2 ℃ とした.この 実験での試料量は約 1.8 g で,そのときの熱補正係数 は 7.22(SUS316) とな る. 容 器 の 試 料 充 填 率 は 約 95% である. RADEXでは,前述のとおり耐圧容器内にガラス容 器を挿入して実験を行う.金属の影響について検討す るために,種々の金属片(ハステロイ,SUS316)を ガラス容器内に入れた.金属板はいずれも(株)ニラ コ製で,5 mm×15 mm×t 0.1 mm である. 3 . 結 果 と 考 察 3 . 1 DSC による評価 3 . 1 . 1 DSC 容器材質の影響 Fig. 4に各種容器を使用して,30 wt% 過酸化水素 水の熱的挙動を評価した結果をまとめた.発熱の開始 温 度 は ガ ラ ス キ ャ ピ ラ リ ー 容 器, ハ ス テ ロ イ, SUS303,金メッキ SUS303 の順に低くなった.金属は 明らかに過酸化水素の分解に影響しており,金属製の 試料容器では適正な評価が困難であることがわかっ た. 一般的に,金は種々の反応に寄与しないとされる. しかし本実験では金メッキ容器を用いた場合の過酸化 水素の発熱分解開始温度が最も低かった.純金容器に おいても発熱開始温度は低温側にシフトした.この測 定では,加圧に時間を要するため,測定を開始するま での間に過酸化水素水が分解し,発熱ピークは小さく なった. 純金容器の加圧下測定では,加圧が分解反応に影響 している可能性もある.そこで常圧下での金の影響を 検討した様子を Fig.5 に示す.気泡が金板表面から 明らかに発生しており,過酸化水素は金の表面で分解 することを確認した.また Suh らは,種々の金属表 面(TiO2(アナターゼ型,ルチル型),SiO2(石英), α─Al2O3および Au)について,ヒドロキシルラジカ ルの反応を検討している.その結果,過酸化水素の分 解に活性な金属表面は Au>α ─ Al2O3>TiO2≒SiO2と
報告している14). 金メッキ SUS304 の場合,単純な金と過酸化水素と の反応のほかに,メッキ処理法も影響する.金メッキ の前処理としては,素材とメッキ面との密着性を高め るストライクメッキやメッキ素材の欠陥をカバ−し, 耐蝕性を高める下地メッキなどを施す.これらのメッ キには素地の SUS303 とは異なる金属,おもにニッケ
ルや銅を使用する.本実験に使用した金メッキ容器に はこれらの下地メッキとしてニッケルを使用してい る.また,メッキの表面にはピンホールが存在する可 能性が高く,封孔処理を行っていない場合,下地のニッ ケルあるいは素地の SUS303 が過酸化水素の分解に影 響を与える.以上より,過酸化水素の熱的危険性を評 価するときに用いる容器として,金属容器やメッキ容 器は適していない. DSC測定では,ガラスキャピラリー容器を使用した 場合が最も発熱の開始温度が高くなった.この容器は 容器材質として有効であるが,耐圧性に乏しく,過酸 化水素水のような反応して気体を発生する試料の仕込 み量は少なくなってしまう.そのため Fig.4 に示すと おり,発熱ピークはなだらかな曲線となり発熱開始温 度の判定が困難となる.また試料の作製作業には手間 がかかり,迅速な前処理を必要とする試料測定には向 かない. 3 . 1 . 2 容器へのコーティング効果の検証 ネッチ製ハステロイ容器にテフロンあるいはガラス コーティングを施した試料容器にて,30 wt% 過酸化 水素水の熱挙動を検討した結果を Fig.6 に示す.テ フロンコーティングでは,発熱の開始温度がハステロ イ容器に比べ約 20 ℃ 高くなった.これはガラスキャ ピラリーを使用した場合とほぼ同じ開始温度である. 同結果より,この試料容器は過酸化水素の熱的危険性 評価では有効である.耐熱性は 200 ℃ までなので, 200℃ までの熱挙動の評価について適用可能である. 一方,ガラスコーティング容器では,期待したよう な結果ではなく,低い温度で分解がはじまっている. Fig. 7に,焼成後,DSC 測定に使用する前の容器表面 を光学顕微鏡で観察した様子を示す.容器はコーティ ング膜には亀裂があり,膜の状態が不均一であること がわかった.このため亀裂内部の金属が測定に影響を 与えている.亀裂が入った要因として,コーティング 剤の焼成温度が 450 ℃ と高温であることが挙げられ る.このような高温ではガラスとハステロイの熱膨張 率の違いにより亀裂が生じやすい.触媒の入ったコー ティング剤であれば,もっと低温で焼成できるが,触 媒が過酸化水素水の分解に影響を与える可能性があ る.また,容器表面には切削痕が目立つ.切削痕のあ る容器表面も亀裂を生じやすいため,表面を平滑にす る必要がある.また DSC 測定の感度が落ちないよう に,可能な限り薄くコーティングする必要がある.ガ ラスキャピラリー容器の結果からガラスの有効性は確 認できているので,新規の容器材質として,ガラスコー ティング容器は有効である. 3 . 2 断熱熱量計による評価 3 . 2 . 1 ARC 4種類の金属容器(チタン,SUS304,ハステロイ, 不動態化 SUS304)を用いて,60 wt% 過酸化水素水の 熱挙動を検討した結果を Fig.8 に示す.いずれも熱 挙動が異なった.最も発熱検知温度が低いのはチタン 容器を使用した場合であった.チタンでは発熱検知後 40分ほどで温度上昇速度が最大となった. 発熱開始温度は,不動態化 SUS304,SUS304,ハス テロイ,チタンの順に低くなった.発熱検知から最大
温度上昇速度となるまでの時間(以下,誘導期)は, 不動態化 SUS304 容器を用いた場合が最も長くなっ た. 不動態化 SUS304 という容器材質が不活性かどうか については,ガラス容器で測定した ARC データとの 比較が必要となる.しかし,ガラス容器は耐圧性に乏 しいため,過酸化水素の ARC 測定は実施できない. したがって,不動態化 SUS304 が反応に及ぼす影響に ついて,ARC では判断が難しい.今回の実験で検討 した範囲内では,不動態化 SUS304 容器は過酸化水素 の分解反応に対する影響がもっとも小さいことがわ かった. 3 . 2 . 2 RADEX 30 wt% 過酸化水素水と,これにハステロイ板, SUS316板を添加した場合の発熱検知したところから 発熱が得られなくなるまでの温度挙動を Fig.9 に示 す. 前項で述べた ARC の結果とは異なり,30 wt% 過酸 化水素水の発熱検知温度は 70 ℃ となった.RADEX では試料をガラス容器に量りとるため,容器材質の影 響は小さい結果となった. 金属板を入れた場合は以下の通りであった.ハステ ロイ板を入れると開始温度は 50 ℃ まで低下した.一 方,SUS316板を入れると開始温度は変化しなかった. 実際の過酸化水素の貯留タンクの材質には,一般的に
SUS304または SUS316 を使用している.ARC および
RADEXの実験結果からも,SUS304 や SUS316 の活性
度は他の金属と比べて小さいことを示す結果を得た. 前述の通り,RADEX の耐圧容器内の上部には,金 属(SUS316)の露出した部分があり,揮発性の高い 試料では,その部分が影響を及ぼす可能性がある. 35 wt% 過酸化水素水の 30 ℃ における蒸気圧は,全 圧 が 3.07 kPa で 過 酸 化 水 素 の 分 圧 が 48 Pa で あ る15).高温になると,分解の進行により,分解ガス の圧力および水蒸気圧で過酸化水素の蒸発は抑制され る.よって,過酸化水素の蒸気が金属表面と反応する 可能性は低い.また DSC や ARC では,容器への試料 充填率が低いため気相の影響が大きいが,RADEX で は試料充填率が約 95 % であることから,RADEX の 測定結果は気相反応よりも液相反応の影響が大きく現 れる.しかし過酸化水素水の場合,高温・高圧の水蒸 気や酸素が存在する条件では,金属との反応も考えら れ,反応が進むにつれてその影響が現れてくる可能性 がある. 4 . 結 言 過酸化水素の熱危険性評価に及ぼす容器材質の影響 を検討した.熱分析(DSC)において,発熱開始温度 はガラスキャピラリー容器を使用した場合で最も高 く,金属容器や金メッキ容器の使用により低下した. その影響はハステロイ,SUS303,金メッキ SUS303 の 順に大きくなった.また,DSC 金属容器に不活性物質 (テフロン,ガラス)のコーティングを試みた.テフ ロンコーティングではガラスキャピラリー容器と同じ 熱挙動を示し,耐熱(200 ℃)の範囲においては,熱 危険性評価に適用可能である.ガラスは DSC 容器へ の均一なコーティングに技術的な課題が残った. ARCでは,4 種類の金属材質(チタン,ハステロイ, SUS304,不動態化 SUS304)で,熱挙動を比較した. これらの中では,不動態化 SUS304 容器は過酸化水素 の分解反応に対する影響が小さいことがわかった.容 器耐圧性の問題で,ガラス材質での検証はできなかっ た.一方 RADEX では,種々の金属片(ハステロイ, SUS316)を入れることで,金属の影響を検討した. RADEXでは耐圧の金属容器内に,試料をガラス容器 に量りとって挿入するため,容器材質の影響が小さい ことがわかった. 一般的には不活性であるとされる金であっても,容
器材質の影響が生じてしまう,過酸化水素のような反 応性物質の熱的危険性を評価する場合には,ガラス容 器を用いた評価や,テフロンやガラスなどの不活性物 質で容器をコーティングする対策が有効であるという 知見が得られた.現段階では DSC(ガラスキャピラ リーセル使用)や RADEX は推奨される. 謝 辞 本研究で行った DSC 測定の一部および ARC 測定は, 住友化学(株),生産技術センター,安全工学研究室 の協力によるものです.また,テフロンコーティング は(株)フロンケミカルに作製していただき,AZ エ レクトロニックマテリアルズ(株)からサンプル提供 を受けました.この場を借りて謝意を表します. 参 考 文 献
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15) 大石忠務,児玉 学:過酸化水素の性状と取扱い設備 について,紙パ技協誌,54─2,pp.174─183(2000)
The effect of vessel’s material on exothermic behavior of aqueous hydrogen peroxide has been investigated by DSC and adiabatic calorimeters (ARC and RADEX). For the DSC tests, the vessel’s materials considered are titanium, Hastelloy, stainless steel, pure gold, gold─plating, and glass. We also have attempted to evaluate a vessel coated with Teflon and that lined with glass. For the ARC tests, vessels made of titanium, Hastelloy, SUS304 and passivated─SUS304 has been used. For the RADEX tests, a SUS316 chip or a Hastel-loy chip is put into the standard inner vessel made of glass. The exothermic decomposition temperatures and their induction periods have been compared. As a result, all metal materials catalyze and accelerate the decomposition. Especially, titanium and gold─plating vessels show a remarkable effect. The glass vessel should be inert and proper, because it has given the highest decomposition tempera-ture. The glass─lining vessel and the Teflon─coated vessel would be applicable, when sufficient quality vessels will be manufactured in the near future.
Key words:Hydrogen peroxide, Thermal hazard evaluation, vessel material
Effect of Material of Vessels on Exothermal behavior of Aqueous Hydrogen Peroxide
by Isao Eto†, Miyako Akiyoshi††, Ken Okada†† and Takehiro Matsunaga††
Research Core for Explosion Safety, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST):1─1─1 Higashi, Tsukuba, Ibaraki 305─8565, JAPAN
(Present Contact Address, Process & Production Technology Center, Sumitomo Chemical Co. , Ltd .:5─1, Sobiraki─cho, Niihama City, Ehime 792─8521, JAPAN)
Research Core for Explosion Safety, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST):1─1─1 Higashi, Tsukuba, Ibaraki 305─8565, JAPAN
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