• 検索結果がありません。

岡田 智雄 ( 日本歯科大学附属病院総合診療科 ) 河本 慶子 ( 関西医科大学医学教育センター心療内科学講座総合診療科 ) 佐々木俊哉 ( 浜松医療センター総合診療科 ) 高倉 健 ( 健康保険南海病院内科 ) 藤倉 輝道 ( 日本医科大学医学部 ) 水島 孝明 ( 岡山大学大学院医歯薬学総合研究

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "岡田 智雄 ( 日本歯科大学附属病院総合診療科 ) 河本 慶子 ( 関西医科大学医学教育センター心療内科学講座総合診療科 ) 佐々木俊哉 ( 浜松医療センター総合診療科 ) 高倉 健 ( 健康保険南海病院内科 ) 藤倉 輝道 ( 日本医科大学医学部 ) 水島 孝明 ( 岡山大学大学院医歯薬学総合研究"

Copied!
16
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

医学教育 2013,44(3):155∼170

資 料

第 39 回医学教育者のためのワークショップ

(富士研ワークショップ)の記録

主 催:

日本医学教育学会

共 催:

文部科学省

    

厚生労働省

開催場所:

静岡県裾野市富士教育研修所

開催日:

平成 24 年 12 月 9 日~13 日

ディレクター:

伴 信太郎(日本医学教育学会・理事長.名古屋大学・教授)

タスクフォース:

北村  聖(日本医学教育学会・副理事長.東京大学・教授)

        

福島  統(日本医学教育学会・副理事長.慈恵会医科大学・教授)

        

平出  敦(近畿大学・教授)

        

奈良 信雄(東京医科歯科大学・教授)

        

伊野 美幸(聖マリアンナ医科大学・教授)

        

守屋 利佳(北里大学・准教授)

        

村岡  亮(国立国際医療研究センター・医療教育部副部長)

        

小西 靖彦(京都大学・教授)

コンサルタント:

日野原重明(聖路加国際病院・理事長)

        

Duck-Sun Ahn(韓国医学教育学会・会長)

        

田邊 政裕(千葉大学・教授)

        

小野 輝雄(スカイマーク株式会社)

        

田原 克志(厚生労働省・医政局・医事課長)

        

村田 善則(文部科学省・高等教育局・医学教育課長)

事務局スタッフ:

大橋信一郎(学会支援機構事務局)

        

久保田久里(帝人・富士教育研修所)

参加者:

A 班:

葦沢 龍人(東京医科大学八王子医療センター卒後臨床研修センター) 日下 勝博(江別市立病院総合内科) 白澤 文吾(山口大学大学院医学系研究科医療環境学分野) 田畑 雅央(東北大学病院卒後研修センター) 野村 智久(順天堂大学医学部附属練馬病院救急・集中治療科/臨床研修センター) 原田 雅光(愛媛県立中央病院消化器外科肝胆膵外科グループ) 福岡 敏雄(倉敷中央病院総合診療科医師教育研修部) 宮嶋 裕明(浜松医科大学医学部内科学第一〈消化器・腎臓・神経内科学分野〉)

B 班:

石橋  悟(石巻赤十字病院診療部救急科) 稲森 正彦(横浜市立大学附属病院臨床研修センター)

(2)

岡田 智雄(日本歯科大学附属病院総合診療科) 河本 慶子(関西医科大学医学教育センター心療内科学講座総合診療科) 佐々木俊哉(浜松医療センター総合診療科) 高倉  健(健康保険南海病院内科) 藤倉 輝道(日本医科大学医学部) 水島 孝明(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科総合内科学)

C 班:

岡崎 史子(東京慈恵会医科大学医学部教育センター) 苅田 典生(神戸大学医学部附属病院総合臨床教育センター) 久留宮 隆(桑名東医療センター診療部外科) 関根 道和(富山大学大学院医学薬学研究部保健医学講座) 村松 俊裕(埼玉医科大学国際医療センター心臓内科) 山本 英雄(九州厚生年金病院内科) 横沢  聡(岩手県立磐井病院消化器内科) 和田 秀穂(川崎医科大学)

D 班:

石松 伸一(聖路加国際病院救急部) 賀川 義之(静岡県立大学薬学部臨床薬剤学) 河野 誠司(神戸大学医学部臨床検査医学) 笹森 幸文(帝京大学医学部医学部産婦人科学講座) 永澤  昌(市立三次中央病院診療部耳鼻咽喉科) 浜田 紀宏(鳥取大学医学部地域医療学講座) 間宮 敬子(旭川医科大学麻酔科蘇生科) 望月  篤(聖マリアンナ医科大学医学部医学教育文化部門医学教育研究分野)

E 班:

川尻 宏昭(国立病院機構名古屋医療センター診療部総合内科・卒後教育研修センター) 佐藤 典子(国立国際医療研究センター病院内科部門診療部小児科) 白鳥 正典(札幌医科大学医療人育成センター教育開発研究部門) 竹腰  進(東海大学医学部基礎医学系生体防御学) 成田 一衛(新潟大学医歯学系内科学第二) 林  道廣(大阪医科大学) 古川  昇(熊本大学大学院生命科学研究部臨床医学教育研究センター) 八木  健(社会医療法人近森会 近森病院外科)

(3)

 第 39 回医学教育者のワークショップが平成 24 年 12 月 9 日∼13 日までの 5 日間,日本医学教育 学会の主催,文部科学省,厚生労働省の共催で開 催された.参加者は全国の医学部教員と研修指定 病院の教育担当医師であるが,第 35 回から日本 歯科医学教育学会,日本薬学会へも参加を呼びか け, 今 回 も 各 1 名 の 参 加 が あ っ た. 本 ワ ー ク ショップでは参加者の討議により抽出したニーズ へのカリキュラム・プランニングを前半部分で 行った.また後半部分では,毎年,主旨,主題を 変更し,新しいテーマについて,参加者の討議に よるプロダクトを作成しているが,今回は,コン サルタントとして,韓国医学教育学会会長である Duck-Sun Ahn,千葉大学教授の田邉政裕両氏を 招 聘 し,Ahn 氏 が「Outcome-based medical education」の歴史や概要を紹介,その後,田邉 氏の指導により「Outcome based education」に ついて後半のワークショップを行った.  さらに,全体を通して医学教育にかかわる種々 の Tips の紹介と体験学習を運営した.以下にそ の記録を記す. 1.ワークショプの趣旨  本ワークショップは,医学教育の改善に資する ために,卒前・卒後で医学教育を担当する医学部 および医科大学の教員と臨床研修病院の教育担当 者が一堂に会し,成人教育分野における最新の概 念や手法を取り込みつつ,卒前医学教育や臨床研 修の指導に係るニーズに沿った検討を行うほか, 医学・医療を取り巻く諸課題を参加者間で積極的 な討議と体験することを通じて,医学・医療分野 における新たな実践的教育の在り方を考察するこ とを目的とする.  なお,本ワークショップの成果物は,各参加者 の所属施設で活用することに加え,医学教育関係 者に自ら指導方法を改善するための資料とするべ く,日本医学教育学会の機関誌「医学教育」など を通して,全国の大学・臨床研修病院に向けての 情報提供を行う. 2.ワークショップの主題  「医学教育・医療の現場における諸課題の解決 に向けて」−ファカルティ・ディベロップメント を企画・運営できる人材の養成−  良き医療人としての医師を養成するためには, 医学教育・医療の現場が直面している課題につ き,卒前教育と卒後教育双方の担当者が連携して 取り組む必要がある.  医学部および医科大学や臨床研修病院におい て,ファカルテイ・ディペロップメント(大学教 員および臨床研修指導医の指導力向上を目指した 研修会)を企画・運営できる人材を養成すること を日的とする.具体的には,本ワークショップ参 加者がそれぞれの組織においてディレククーやタ スクフォース(ファシリテーター)として活躍で きる能力を養い,実践することを目標とする.さ らに,他の領域の定評のある教育・研修スタイル を体験して,広い視野から学習のスタイルを考え る素養をはぐくむ. 3.一般目標  医学教育・医療の現場における諸課題の解決に 必須な医学教育を推進するために,教育への関心 を深め,望ましいカリキュラム開発の能力を発展 させるとともに,基本的な教育技法,リーダー シップなどを学び,各施設におけるファカル ティ・ディベロップメントを企画・運営できる能 力を修得する. 4.個別行動目標 (1)教育の原理・あり方を説明する. (2)カリキュラムの立案を指導する. (3)ニーズから的確な学習目標を立案する. (4)効果的な学習方略を立案する. (5)適切な評価法を立案する. (6) 評価の妥当性,信頼性とその確保の仕方に ついて説明できる. (7)効果的な教育法を実践できる. (8)リーダーシップを発揮できる.

はじめに

(4)

(9) ファカルティ・ディベロップメントを企 画・運営する. (10) 他の領域の定評ある教育・研修スタイルを 体験して,その特長をのべる. (記録:高橋 弘明/伊野 美幸) 5.プログラム(図) 図 1 ワークショップの日程表 第 39 回医学教育者のためのワークショップ スケジュール概要 8:30 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 第一日 12/9 受付・昼食 開講式 文部科学省講演 (医学教育の現状と課題) 総合プレアンケート 参加者他己紹介 ワークショップの進め方 医学教育へのニーズ ―今医学教育に 求められるもの― チェックイン 夕   食 医学教育へのニーズ (発表) ニーズからカリキュラムへ 第 2日目へのつながり 第二日 12/10 医学教育 UP TO DATE ① ユニットの選択(発表) プロジェクト作業 ―学習目標― 昼   食 ―学習目標― (発表) 講演① OBE ( Duck-Sun Ahn ) プロジェクト作業 ―学習方略― 夕   食 ―学習方略― (発表) 講演②航空機乗務員の技能 教育(小野輝雄) 第 3日目へのつながり 第三日 12/11 医学教育 UP TO DATE ② プロジェクト作業 ―学習評価― 昼   食 ―学習評価― (発表) 講演③進化するシミュレー ション教育 (奈良信雄) 上手な セッション① 3分間 プレゼンテーション セッション② コミュニケーションの基本 夕   食 セッション③上手な 3 分間 プレゼンテーション 第 4日目へのつながり 第四日 12/12 医学教育 UP TO DATE ③ ― OBE ― コンピテンス作成 昼   食 ― OBE ― コンピテンシー作成 ― OBE ― パフォーマンスレベルと 科目を設定 講演④リーダーシップのある 人材育成について (日野原重明) 最終日へのつながり 総合情報交換会 第五日 12/13 OBE― ― コンピテンシー評価を 作成する 厚生労働省講演 (医師確保と医師養成の 取組み) WSのふりかえり 閉講式

OBE:Outcome Based Education

(5)

ハロルド・シップマン事件からの教訓

 英国の General practitioner (GP) である Harold Shipman 医師は 2000 年に,多くの患者を,麻薬 を用い殺害したとして終身刑が言い渡されまし た.別名,Dr. Death とも呼ばれ,Shipman が殺 害した患者は 250 名以上(450 名という説もあ る)と言われています.まさに医師として身に付 けた知識と技を用いて大量殺人を犯したのです. 英国では GP は地域の『Surgery』と呼ばれるク リニックで,複数の医師,看護師,薬剤師,理学 療法士,診療所職員などとともに働いています (多職種が協働している職場).しかし,この事 件では同じクリニックで働いていたスタッフは, 彼の犯罪に気づいていませんでした.麻薬が消費 されているにもかかわらず.この事件は英国での IPE 導入のきっかけの一つになりましたが,もう 一つ,医療者教育で重要な課題も提示することに なりました.それが,「Fitness to Practise」です ( 注: 英 国 英 語 な の で Practice で は あ り ま せ ん).Practise とは医師としての実践・行動を意 味します.そして Fitness とはまさにフィットネ ス・クラブと同じ意味ですから,適合しているこ とという意味になります.すなわち,医師になる 者としての行動としてふさわしい,となります. 今までの医療者養成校は,このことを学生に教え てきたのでしょうか? 英国の医療者教育での Fitness to Practise  2000 年のハロルド・シップマン事件以後,英 国の医療者教育の関係者たちは様々な議論をした ようです.そして 2009 年の 3 月に英国の医学教 育を統括する General Medical Council(英国医 学評議会)と Medical Schools Council(英国医 学部長会議)は「Medical students: professional values and fitness to practise」1)を 公 表 し ま し た.この内容はインターネットで公開されるだけ でなく,パンフレットにもされ,英国の全ての医 学部と全ての医学生に配布されました.このパン フレットの始めには,「医学生は医師になるもの として,その行動が適切でなければならない.そ れは病院内,大学内だけでなく,すべての公共の 場での行動が問題となる.この学生が卒業した時 に 医 師 と い う 専 門 職 に 合っ た 行 動(fitness to practice)をとれることを医学部が責任を持って 判断しなければならない.医学部には,患者,介 護者,家族,同僚そして社会を守る責任がある」 と 書 か れ て い ま す. そ し て, こ の 冊 子 に は fitness to practice に反する行動としていくつか の事例が挙げられています:児童ポルノに関与す ること,詐欺を働くこと,法律に反する薬物を持 つこと,児童虐待や他の虐待をすること,身体的 暴力を振るうこと,飲酒運転やお酒で職場環境を 乱すこと,強姦をすること,管理者のアドバイス を無視すること,時間管理ができていないこと (会議に遅刻したり,無断欠席したりするな ど),コミュニケーション力が低いこと,試験で 不正をすること,実習日誌に虚偽を記載するこ と,レポートを盗用すること,履歴や書類を詐称 すること,守秘義務を守らないこと,患者に誤っ たことを伝えること,セクシャルハラスメントや 人種差別をすること,患者に対する責任を負わな いこと,自らの健康を守るためのアドバイスに従 わないこと(治療を拒むこと)など.  2012 年の 3 月に英国キングス大学を訪問する 機会がありました.キングス大学では,医学部, 看護学部,医療保健学部(理学療法士,作業療法 士などの医療技術職養成)の医療系学部と教育学 部に,「学部 Fitness to Practise 委員会」が設置 され,さらに総合大学としてその上に「大学 Fitness to Practise 委員会」があり活動していま す.毎年,数人が大学 Fitness to Practise 委員会 の審議にかかり,一部の学生は退学や留年といっ た処分を受けているとのことでした.多くは医学 部学生で看護学生は少ないそうです.問題学生 は,まずは学部内の担当教職員が対応し,問題が

医学教育 UP TO DATE ①「Fitness to practice」

福島 統(日本医学教育学会・副理事長.慈恵会医科大学・教授)

(6)

軽微ならばそこで学生支援を行い,ここで解決し ない問題学生は医学部の学生担当責任者が調査を 行い,「学部 Fitness to Practise 委員会」で審議 となり,深刻な問題はさらに「大学 Fitness to Practise 委員会」(当然,ここには弁護士も委員 として入っている)で最終結論を得ることになり ます.ここまで何段階にも審議をするので,処分 された学生からの訴訟に負けたことはない,との ことでした.  一方,アメリカでも同じような議論があったよ うです.2005 年 Papadakis ら2)は,医師になっ てから犯罪や医師として問題行動を起こした人た ちの学生時代の態度評価がどのようなものであっ たかを調査しました.結論は当然で,医師になっ てから問題を起こした人たちは学生時代から問題 があったことが明らかとなりました.この英国と 米国の事例は,わが国でも当てはまることと思わ れます.しかしここで気を付けなければならない ことは,問題行動を起こす学生をただ切り捨てれ ば よ い の で は な く, 学 生 時 代 に Fitness to Practise を育てる教育をしなければならないとい う点です. 立ち居振る舞いがその人の本質を表現している  わが国はカンニングに甘すぎます.良く考えれ ば,カンニングとは自分の能力に対する「詐称」 です.そして不正行為です.平気でカンニングを 行う学生を医療者にしたら,この医療者はどんな 医療行為を患者に対して行うのでしょうか.当 然,平気で不正な行為を行うのです.「うそ」は いけません.もし,研修医が頭痛の患者の初診を 受け持ち,血圧を測らずに指導医に報告したとし ます.当然,指導医は「血圧はどうだ?」と聞く でしょう.うそをつく研修医は血圧を測定してい ないことをとがめられるのを嫌い,うそを言いま す.「血圧は普通でした」と.その 2 時間後,こ の患者は脳幹出血で亡くなるかもしれないので す.この時,「すいません,血圧を測り忘れまし た」と正直に言えば,もちろん怒られますが,こ の患者が危険な高血圧レベルであることが分か り,すぐ降圧薬を処方され,脳幹出血にはならな かったかもしれません.医療における「うそ」 (dishonesty)が何を意味するか,学生指導に当 たる人たちは考えなければなりません.実習日誌 に虚偽を書く学生は,きっと医療者になってから も診療記録に虚偽を書くでしょう.レポートの剽 窃も許し難い行為です.論文の盗用をする医療者 となるでしょう.このように考えると,「Medical students: professional values and fitness to practise」1)の表に書かれていた問題行動は,学 生時代に矯正しておかなければなりません.医療 者教育は知識と技だけを教えるところではないの です.  態度教育は難しいと思いますが,Fitness to Practise の教育は可能です.なぜなら,学生の Fitness to Practise は観察可能だからです.学生 の立ち居振る舞いは行動として現れます.その行 動に対してフィードバックすることはいつでもで きることだからです.  医学教育で学生に教える知識と技は,もちろん 患者ケアのためのものです.しかしその同じ知識 と技は,人を殺せる知識と技でもあります.医療 者には強力な力を授けます.この強力な力を善用 する高い倫理観を学生の育てるのも医療者養成校 の責任だと思います.医学教育の目的は,「患者 安全」にあるのです. 引用文献 1) www.gmc-uk.org/education/undergraduate/ undergraduate_policy/professional_behaviour. asp

2) Papadakis MA. Teherani A. Banach MA. et al. Disciplinary action by medical boards and prior behavior in medical school. 2005;

353: 2673-82.

(7)

 医学教育はいま,まさに激動の渦中にあるとい える. 〇プロフェッショナリズム:プロフェッショナリ ズムの教育が必要と叫ばれているにもかかわら ず,体系的な取り組みがなされておらず,一部の 教員独自の教育が少しなされているのみである. 卒前,卒後を通じてプロフェッショナリズムの体 系的な教育が必要である. 〇診療参加型臨床実習:わが国の臨床実習は見学 型が多く,診療参加型への転換が喫緊の課題であ る. 〇国際認証の必要性:ECFMG の宣言を待つまで もなく,わが国の医学教育はガラパゴスと称さ れ,世界標準からはかけ離れている.教育の認証 システムを構築する必要がある. 〇初期臨床研修の評価と見直し:臨床研修の必修 化が行われて 8 年がたち,5 年ごとの見直しの時 期に来ている.今度は,できるだけ正確なデータ に基づいた見直しを考えているようである. 〇専門医制度の在り方:基本診療科の一つに総合 診療医という専門医を加え,新しい体制の専門医 制度を構築するよう厚生労働省が取り組んでい る.ただ,あまりに高いハードルを設定すると専 門医にならない医師が増える. 〇医師不足対策:厚生労働省と文部科学省が合同 で対策を講じている. 〇定員増・地域と診療科の偏在対策:医師不足対 策の一つとして,医学部の定員を 1,400 名近く増 やし,9,000 名近くになった.これは大学 10 校分 を増やしたことに等しく,教育の質の低下が危惧 される. 〇超高齢化社会に向けた医療人の養成:死亡者が

医学教育 UP TO DATE ②「医学教育を取り巻く環境について」

北村 聖(日本医学教育学会・副理事長.東京大学・教授) 160 万人になることが予想され,看取りを医療者 がしなくてはならない.そのためには,在宅診療 医など総合的診療能力のある医療人の養成が必要 である. 診療参加型臨床実習について  臨床実習は大きく 3 型に分けられ,見学型と模 擬診療型と,診療参加型である.見学型は,指導 者の診療を見学して学習するスタイルで,日本の 臨床実習はこのスタイルがほとんどであり,臨床 意思決定の思考過程には関知せず臨床推論の教育 は行われなかった.  模擬診療型の実習は,お互いに診察しあうと か,シミュレーターを用いて侵襲的な手技を覚え るなどの臨床実習である.診療録も,実物ではな い.  診療参加型臨床実習は,診療チームの一員とし て診療に参加するもので,研修医と同等の働きが 期待されている.学生の聴いた病歴は本物として チームで共有され,また学生が得た身体診察の所 見もチームで共有される.  医学教育は「医学教育モデル・コア・カリキュ ラム」に基づいて行われている.その中に臨床実 習についての記載があり,原則診療参加型臨床実 習で行われるべきであり,それも総括責任者のも とで総合力を涵養されるべきとされている.一 方,診療参加型臨床実習を行う学生の要件として コアカリキュラムには基本的資質として明示さ れ,職責(プロフェッショナリズム)やチーム医 療,総合診療能力などが求められている. (記録:北村 聖)

(8)

医学教育 UP TO DATE ③「 日本医学教育学会の歴史―世界と日本の医学教育の動向

を含めて」

伴 信太郎(日本医学教育学会・理事長.名古屋大学・教授) 1.はじめに  今日は,まず非常に簡単に近代西洋医学教育の 流れをみた後,日本における西洋医学の歴史を幕 末から今日に至るまで辿り,最後に日本医学教育 学会の歴史について述べる. 2.近代西洋医学教育の流れ  1900 年代の初頭までは,医療技術は現場で経 験的に学ぶ徒弟制度的教育で伝えられた.それを 一 変 さ せ た の が 1910 年 に 米 国 で 出 さ れ た Flexner report である.この報告では,医学教 育は科学的に実践すべきで,大学医学部をその教 育拠点とすることを推進するとともに,当時の米 国の医学部における教育の質の悪さを指弾し,そ の数を半減させた.この Flexner report は,そ の後ヨーロッパにもその影響は及んだ.  その後の医学教育に大きな変革をもたらしたの が,1960 年後半から McMaster 大学を中心に展 開された PBL(Problem-based Learning)カリ キュラムである.それまでの学体系教育から,現 場での問題解決に即した,問題発見→情報収集→ 問題解決へと推論する学習を推奨した.また,教 育のフィールドとして,大学病院だけではなく, 関連施設も活用した教育へと転換を目指した. 今.医学教育は第 3 の転換点にさしかかってい る.すなわち,医学教育は社会が求めるニーズを 勘案しながら,最終的に医学生が身に付けるべき 臨床能力(コンピテンス)を勘案して,体系的に 医学教育カリキュラムを構築することが求められ ている.その為には,大学附属病院やその関連施 設のみならず,地域の病院や診療所などもその教 育フィールドとして考慮し,医療関係の多職種の みならず,住民をも巻き込んだ transprofessional な教育の構築が求められている. 3.日本の医学教育の歴史  日本の西洋医学教育の歴史は,1857 年のオラ ンダ軍医ポンペの長崎渡来に始まる.ポンペは, 日本で最初の西洋式病院である「長崎養生所」を 建立した.その後,幕末から明治維新にかけて 14 名のオランダ医が相次いで来日して日本各地 の医学校へ派遣されたが,その多くがオランダ・ ウトレヒト陸軍軍医学校卒の医師であった.この ような軍医学校的特徴の強い医学教育カリキュラ ムの導入は,思索的な医学より,技術に優れた医 学を優先し,医学哲学,医学倫理,医学史の欠除 をもたらす原因となったと考えられている.  1869 年には,明治新政府はドイツからの医学 の導入を決定し,その伝統が第 2 次世界大戦終了 時まで続く.  大戦後,GHQ の主導で,医学専門学校の廃止, 医師国家試験の再開,インターン制度(臨床実地 修練制度)の導入が相次いで打ち出された.その 後,インターン制度は昭和 39 年(1964 年)に廃 止され,昭和 43 年からは努力規定の臨床研修制 度が始まり,平成 16 年(2004 年)には新臨床研 修制度として義務化されたのはご承知の通りであ る.  また,医学教育基準については,1948 年に大 学基準協会総会で「教養教育 3 年+医学専門課程 4 年」が承認されたが,1954 年に「医学進学課程 2 年+専門課程 4 年」に改訂された.1968 年に は,文部省が医学部設置審査基準を定め,「専門 課程の授業時間数は 4,200 時間以上とする」,「医 学部の学生定員は 120 人を超えないこととする」 と定めた.この基準は 1991 年に大綱化され,大 学が多様で特色ある教育を編成できるようになっ た. 4.日本医学教育学会の歴史  日本医学教育学会は,牛場大蔵を初代会長とし

(9)

なった.しかし,2004 年の卒後初期臨床研修の 必修化前後から基本的なカリキュラム・プランニ ングは臨床研修指導医養成講習会で行われるよう になり,富士研ワークショップでは,カリキュラ ム・プランニングをより実践的に行うと共に,新 しい医学教育の手法などを積極的に取り入れて今 日に至っている. 5.日本医学教育学会が活動  日本医学教育学会の活動は,24 の委員会活動 の集約である.それぞれの委員会がその時々の医 学教育的課題に取り組んで,全国に論文や書物で 発表するとともに,関係諸機関や行政に働きかけ を 行っ て い る. ま た, 現 在 2012 年 6 月 か ら 始 まった 17 期(2 年間)の課題として,特に①医 学教育専門家制度(学会認証),②医学教育ポー トフォリオ(共通フォーマットの提供),③日本 医学教育認証評価機構設立のサポート,④医学教 育を通じた国際貢献⑤多職種協働教育の推進を重 点課題として掲げている. 6.おわりに  「教育とは学習者の能力を引き出す営みであ る」というのが,私が最近好んで使っている教育 の定義である.専門的な知識の提供は,医学教育 のごく一部でしかない.教育が人を創り,人が組 織を活性化する.教育は言うに及ばず,診療も, 研究も,社会貢献も教育ノウハウを生かせばより 発展させることが可能となるであろう. (記録:伴 信太郎) て 1969 年に設立された.その後 1973 年 6 月に WHO に よ る 西 太 平 洋 地 域 の RTTC(Regional Teacher Training Center)主催のワークショッ プ(Workshop for Deans and Education Leaders)に日野原重明,館 正知,牛場大蔵が 参加したが,これは WHO による医学及び保健 関連領域のティーチャー・トレーニングに関する 画期的方針を打ち出した時期(第 4 回世界医学教 育学会,コペンハーゲン,1972 年)に一致する. その後,このワークショップは 1973 年 11 月, 1974 年(3 回)と継続して開催され,日本から毎 回 2 名ずつが参加した.これらの参加者を核とし て,1974 年 12 月 14 日∼21 日まで,「第 1 回医学 教育者のためのワークショップ(通称 富士研 ワークショップ)」が開催され,今回の第 39 回ま で毎年 1 回継続して開催されている.  富士研ワークショップは当初は文部省が,間も なく文部省・厚生省の両省が主催し,日本医学教 育学会・医学教育振興財団が後援する体制であっ たが,第 35 回からは日本医学教育学会・文部科 学省・厚生労働省が共催している.また,ワーク シ ョ ッ プ の テ ー マ は, 第 1 回(1974) ∼3 回 (1977)が「カリキュラム・プランニング」,第 4 回(1977),5 回(1978)が「教育評価」,第 6 回(1979),7 回(1980)が「教授方法」,第 8 回 (1981),9 回(1982)が「カリキュラム・プラ ンニング」,第 10 回(1983)∼12 回(1985)が 「組織としての教育機能の開発」と変遷をたど り, 第 13 回(1986) ∼31 回(2004) は「 カ リ キュラム・プランニング」となり,カリキュラ ム・プランニングがこのワークショップの定番と

文部科学省講演「医学教育の現状と課題について」

村田 善則(文部科学省・高等教育局・医学教育課長) 医学教育の改善・充実について  〇基本的な診療能力の確実な習得とそれらの評 価,〇各大学の理念や特色に応じた診療参加型臨 床実習の充実,〇国際的な質保証の要請への対 応,〇地域で求められる医療人材の養成,〇研究 医養成のための教育プログラムの充実を方向性と して打ち出している.平成 22 年度改訂版医学教 育モデル・コア・カリキュラムの改訂について説 明があり,特に診療参加型臨床実習の充実が喫緊 の課題とされた.昨年度から今年度にかけての各 大学の改善の状況が示された.さらに,これを推

(10)

平成 25 年度概算要求について  高度医療人材の養成と大学病院の機能強化とし て 102 億円を要求し,その中の重点項目として超 高齢社会及びメディカル・イノベーションに対応 した医療人養成事業を要求した.具体的には卒 前・卒後を一貫した大学間・地域連携事業を促進 するものである.総合的な診療能力を有する医師 の養成コースや,チーム医療を行う人材の養成 コースなどを期待している.さらに,女性医師等 のキャリア形成支援やがんプロフェショナル養成 基盤推進プラン,大学・大学院および附属病院に おける人材養成機能強化事業などについても予算 要求している. 医学教育等に関する各種要請  各種団体から医学教育・歯学教育に対して要望 が届いている.いくつかを紹介すると,精神医学 や子どもの心診療医の養成に対する要望,食育基 本法を踏まえ,栄養面を含めた生活習慣と疾病の 関連などの教育,漢方等に関する教育の充実,薬 害防止に関する教育の充実,医療スタッフの協 働・連携によるチーム医療の推進などが挙げられ る. (記録:北村 聖) し進めて国際的な質保証にも耐えられるような医 学教育にするべきであるとの観点から,医学・歯 学教育認証制度等の実施に関して研究班を設置し た.地域で求められる医療人材の養成として,総 合的な診療能力の涵養,すなわち,総合医,総合 診療医を目指す若い医師を増やすためには,養成 プログラムの一層の充実が必要とされた.また地 域の病院内に大学の教育拠点を置くことにより, 学生・研修医の臨床教育の充実と,地域医療支援 の両立を図る取り組みなど大学と地域医療機関の 連携などが具体的に示された.研究医の養成に関 しては,入学定員の中に研究医枠が 26 名ある. また,医学・医療の高度化の基盤を担う基礎研究 医の養成プログラムを選定して予算配分してい る. 地域の医師確保対策 2012  医学部の定員は平成 19 年の 7,600 人が約 9,000 人まで増加した.一般的な医師確保のための環境 整備に加え,今後は被災地の医師確保対策と,迫 りくる超高齢社会への対応が必要とされる.な お,平成 25 年度医学部入学定員は東北大学の 135 人を筆頭に総計 9,041 人まで増加する.

講演① 「 Outcome-based medical education 」

Duck-Sun Ahn(韓国医学教育学会・会長)

1.はじめに

  Outcome-based medical education:OBME とは,学習の結果で最終的に獲得すべき能力とい う全体像(big picture)を考えた上で,カリキュ ラムのコース,ユニットを考えるという医学教育 カリキュラム構築の考え方である. 2. OBME の歴史  OBME の考え方は,すでに 1988 年頃から唱えら れていたが,世界的な医学教育の潮流になったの は CanMEDS2005 と ACGME の 6 Competencies

が出されてからである.その背景としては,社会 的ニーズやヘルスケア・システムの重視が挙げら れる.すなわち,社会的ニーズを勘案しながら, 学習の結果の最終的な獲得能力の全体像を明確に し,その達成のために限られた時間の範囲内でど のようなカリキュラムを構築するかを考える. 3. OBME で使われる用語の定義 - 特に Competence と Competency の使い分け

 2010 年の Medical Teacher の論文1)で, Com-petence と Competency という 2 つの言葉を区 別して使うことを米国,カナダ,英国,オランダ

(11)

の医学教育専門家のグループが提案した.  3-1.Competence    この語は,臨床医の臨床能力の全体像を包括 的に表現するもので,経験年数や診療環境に よって変わるものである.  3-2.Competency    この語は, competence の下位概念で,医療 専門職の観察可能な能力で知識,技能,態度の 複数の領域を包含する.確実に修得されたがど うか測定できる. Competency が積み重なっ て,能力が増大していく. Competence は, Competency と し て 測 定 可 能 な 能 力 群 以 外 に,暗黙知的な能力(知識,技能,価値観・態 度)を含んでいると考えている. 4.どのような Competency が求められるのか   ミ シ ガ ン 大 学 モ デ ル は, 以 下 の 9 つ の Competency を示している.① Communication, ② Clinical skills,③ Self-assessment and learning management, ④ Professionalism, ⑤ Scientific reasoning,⑥ Social context of heath and disease, ⑦ Systems of care delivery,⑧ Diagnosis and risk assessment,⑨ Therapeutics and management. そして,それぞれの Competency どのような到 達目標が含まれるべきか,ということを示す際の 参考として,120 の症状と徴候を示している.  どのような Competency が求められるかにつ い て は, 例 え ば 卒 前 教 育 レ ベ ル に お い て も Australian Medical Council(AMC)の 4 領域の 考え方からミシガン大学の 9 領域の考え方までい くつかのモデルが提案されている.  そして,この Competency のレベルは学習段 階と共に深化し,学生レベルから熟練者レベルに 至るまで順次向上していく. 5.OBME における評価  OBME では,それぞれの Competency に包含 される到達目標に対して,妥当性の高い評価法を 考案するが,その際にマトリックスで整合性が検 討される. 6.医学教育における OBME の位置付けと批判  今日の医学教育プログラム構築の流れとして は,まず全体像を掴んで(卒前教育で言えば,卒 業段階で求められる能力の全体像を掴んで),そ れを大きな臨床能力の領域(4∼9)に分けて,更 にその領域での到達目標に細分化していくという 明示の仕方が推奨されている.WFME のグロー バルスタンダードも,LCME(米国の医学部認証 機構)もその流れを踏襲している.  しかし,OBME には,実際の臨床とギャップ があるなど批判も少なくない.また Outcome-based education (OBE)は医学教育に限った考 え方ではなく,一般教育における思潮の延長線上 にあるものと考えられるが,一般教育の世界での OBE 批判は少なくなく,複雑すぎて判り難い, 企業戦略を無批判に教育に導入している,評価過 剰,アウトカムが抽象的過ぎる等々が述べられて いる. 参考文献

1) Frank et al. Medical Teacher 2010; 32: 638-645. 【参考】

2) CanMEDS2005: Google で Canmeds2005 と入力す ると The Can MEDS 2005 Physician Competency Framework の冊子が PDF で入手可能です. (記録:伴 信太郎)  医療を担う専門的人材(Healthcare professionals) の育成のノウハウについては,医療を離れて,広 く一般企業における人材育成に学ぶ点が多い.と りわけ,航空業界については,人の命を預かって

講演② 「航空機乗務員の技能教育」(CRM: Crew Resource Management)

(12)

CRM(Crew Resource Management)の重要性 が認識され,コミュニケーション,リーダーシッ プ,判断力など人間相互の関係を強化するための 新 し い 訓 練 プ ロ グ ラ ム の CRM LOFT (Line Oriented Flight Training) の開発が行われた. ④ CRM LOFT:フライトシュミレータを用い, 実運行で発生する様々な問題に対処すべく,ク ルーの力を結集し,様々な事態を適切に処理して いくための専門的スキルの訓練を行う.すなわ ち,(1)状況認識スキル,(2)コミュニケーショ ンスキル,(3)チーム形成スキル,(4)作業負荷 管 理 ス キ ル,(5) 意 志 決 定 ス キ ル, の 5 つ の CRM スキルについて訓練を行うシステムであ る.  以上,航空機パイロットの能力要件については 医師に比べて厳しい基準で運用されており,フラ イトに従事する者は全て,この基準を満たすこと が定期的にチェックされている.一方,航空機事 故に結びつく人的要素をできるだけ排除するため 導入された訓練手法である CRM LOFT は,特定 の事故原因を排除するものではないと言われてお り,航空機事故減少にどの程度寄与するかについ ては,今後のさらなる評価および検証が必要であ る. (記録:村岡 亮) いるという医療業界との共通点があり,興味深 い.スカイマーク航空運行本部運行乗員部長・機 長の小野輝雄氏をお招きし,航空機乗務員の技能 教育 (CRM LOFT)を中心についてお話しをう かがった. ①乗務員としての仕事:航空機パイロットの資格 は,医師資格とは異なり,ICAO(International Civil Aviation Organization: 国 際 民 間 航 空 条 約)によって,万国共通である.勤務時間は厳密 に管理され,1 カ月に 20 回以上のフライトなど 多忙であっても,十分な休息および睡眠時間を取 ることができる. ②乗務員の資格:航空大学校などを卒業し航空会 社に入社すると,副操縦士昇格,機長昇格の際に は厳しい訓練と試験があり,適性なしと判断され た人は昇格できず,機長へのキャリアパスは事実 上永久に閉ざされる. ③エアライン乗務員の訓練:機長に昇格しても資 格は自動延長されず,6 カ月毎の定期技能審査 で,国土交通省査察官の厳しい監査にパスするこ とが求められる.このような厳しい技術訓練およ びそれを維持する監査システムを構築しても航空 機事故がゼロにならないのは,CFIT (Controlled Flight Into Terrain)と言われる,機体自体に異 常がなく,主に人的要因によって起こる事故がな くならないためである.このような背景より,

講演③ 「進化するシミュレーション教育・臨床実習への導入と効果」

奈良 信雄(東京医科歯科大学医歯学教育システム研究センター) 技の修得が目指される.  臨床手技を獲得するには,実際の患者を対象に して行うのが効果的である.しかし,実施したこ ともない高度の手技を事前のトレーニングなしに 実施するのは無理である.ましてや,医師免許を 未だ有していない医学生が侵襲性のある医行為を 行うことには法的制約がある.危険なこともあろ う.  そこで,真の患者で臨床手技を実施する前に, まずはモデルや動物資料などのシミュレータを用 いてトレーニングを積むことが望まれる. はじめに  医学教育におけるもっとも大きなミッションは 良き臨床医を育て,国民に良質の医療を提供する ことである.この目的には,医学部学生は臨床実 習で,研修医は臨床研修で十分な臨床技能トレー ニングを実施することが重要になる.  医学部教育では,臨床実習を通じて,患者・家 族との面接技法,コミュニケーション技法,基本 的医療手技,患者教育などの修得が求められる. 臨床研修では,さらにレベルの高い診療活動,手

(13)

1.シミュレーション教育とは  シミュレーション教育は,ファントム,動物資 料,バーチャルソフト,学生同士,標準模擬患者 (SP)などを利用して臨床技能トレーニングを 行う教育技法である.シミュレーション教育は, 系統立った臨床技能教育,すべての学生・研修医 に対する基本的手技訓練,テュータ - 学生(研修 医)や学生(研修医)- 学生(研修医)間での フィードバック,質が担保された臨床技能訓練, 救急患者に対する処置訓練などが可能である.真 の患者を対象にしないので,いつでも,どこでで も,何度でも,安全に学習できる利点もある.  その反面,真の患者ではないだけに,人体の完 璧な再現ではありえず(マネキンの材質,痛覚が ない,アドリブがないなど),設備や人員の面で コストがかかるといった欠点もある.  それでも,限界を知った上でのシミュレーショ ン教育は,臨床技能を修得するのに有効である. 医学生はもちろんであるが,研修医に対する ICLS,中心静脈穿刺などのトレーニング,さら に専門医に対して内視鏡検査,血管カテーテル検 査,鏡視下手術など高度の手技を修得するにも有 用である. 2.欧米のシミュレーション教育  シミュレーション教育は,欧米はもちろん,韓 国・マレーシアなど近隣アジア諸国でも積極的に 取り入れられている.人体の構造と機能の教育に シミュレータが使われ,検査,外科手技などの技 能訓練にシミュレータが医学部教育カリキュラム に組み入れられている.SP を対象にした医療面 接技法の訓練と評価も活発に行われている.さら に,高性能マネキンを使い,気管支喘息や急性心 筋梗塞などのシナリオに基づいて,病態診断や治 療訓練も臨場感あふれた設定で活用されている.  臨床実習がクリニカルクラークシップ形式で行 われ,臨床技能訓練がもっとも進んでいる国の一 つがアメリカである.屋根瓦方式が定着し,指導 医の下なら如何なる医行為も可能とされる.とは いえ,医行為を安全かつ有効に行うためには,十 分な知識を習知していることが USMLE step1 で 確認され,かつ技能をシミュレーション教育で修 得していることが大前提になっている.十分なト レーニングなくして患者に被害が及びうる医行為 を医学生が行うことは決してないのだ.実際,ア メリカの医学部には整備されたスキルスラボが設 置され,十分な教員と職員が配備され,教育の実 績が上がっている.たとえばスタンフォード大学 では 2,600m2のスキルスラボが設置されている. 3. 東京医科歯科大学におけるシミュレーショ ン教育 2010 年に新棟の竣工に合わせ,約 400m2の医 科用スキルスラボⅠと,約 80m2の歯科用スキル スラボⅡを移設した.ここでは,学生臨床実習, 研修医の手技訓練,ER 医師トレーニング,学生 の自主活動,講習会(心臓聴診,救急救命な ど),専門医トレーニングなどにシミュレーショ ン教育が実施されている.24 時間オープンし, 学生や研修医は夜間や休日にもスキルスラボを利 用し,臨床技能を自主的に学修し,効果を上げて いる. 4.考 察 欧米に比べ,わが国ではまだまだシミュレー ション教育が十分とは言い難い.施設,人員など の課題が原因であろうが,臨床実習や臨床研修を 充実させるには,積極的なシミュレーション教育 の活用を是非とも期待したい. (記録:奈良 信雄)

(14)

1.はじめに  私はさる 10 月 4 日に 101 歳になりました.ま たこの富士研(ワークショップ)には 39 年間皆 勤です.  富士研に参加している皆さんは,将来医学教育 を担うリーダーとなる方たちだと思うので,今日 はこのタイトルでお話をしようと思います.  このようなタイトルでお話をするようになった 背景は,今年 McMaster 大学の副学長で看護学 部長であるアンドレア・バウマン先生からリー サ ー シ ッ プ に つ い て 50 時 間 ぐ ら い の イ ン タ ビューを受けました.その本が来年にはそのまま リーダーシップ というタイトルで出版になる 予定です.このような背景もあって,私なりに リーダーシップについて考えましたので,今回は この演題でお話しします. 2.リーダーシップの必要要素  リーダーシップの必要要素として,まず 10 の 要素について述べます.  2-1.決断力  まずリーダーに求められるのは,勇気をもって 決断する力です.  2-2.誠実さ  次に求められるのは,人間として誠実であると いうことです.  2-3.謙虚さ  謙虚というのは,東洋の哲学に基づいた態度で す.  2-4.強靭な精神力  その次には,挫けない強靭な精神力.これは武 士道でも大切な徳であると言われていました.  2-5.共感  共感する力というのは,同情するというよりは 深みのある態度です.  2-6.情熱  これは,パッションといったほうがよいかもし れません.燃える火のような強いエネルギーで す.  2-7.ビジョン  ビジョンというのは,ただ夢を見るというので はなく,大きな目標を描くということです.ビ ジョンを達成する努力のことをベンチャーという 言葉を使っています.昔,私が中学生の時,その 時教壇に立っていた父が 3V ということを言って い た の を 記 憶 し て い ま す. そ れ は,vision. venture and victory ということで,この 3V を大 切に今日に至っています.また,「新老人の会」 もこのビジョンに基づいての活動です.  2-8. 傾聴  傾聴は,私が京都大学の学生の時の精神科の三 浦先生が participating listening という言葉を使 われて,患者の心中に入り込んで言葉無き言葉を 聴くということが大切であるということを教えら れていたのを覚えています.ただ聞くのではな く,耳を傾けて聴くということです.  2-9. 心身共の耐久力  体力と精神力の両方の耐久力が大切です.体力 ということに関しては,私は半年に 1 回体の チェックをしてもらっています.  2-10. 総合力  総合力はいろんな情報をいろいろな立場から発 信された時に,それらの全体を総合的に判断する ということです.戦時中で言えば,参謀の役割で す.例えば,外科の院長であっても外科以外の病 院全体の展望のもとに人員を配置したりする判断 が大切です. 3.リーダーに必要な能力 - 他の人たちの考え方  その他の人達が述べているリーダーに求められ る能力も紹介しておきます. ① 塩野七生氏(致知 2008 年 2 月号特集「将の条 件」)  ここでは,以下の 5 項目が挙げられています.   1.知力,2.説得力,3. 肉体上の耐久力,4.

講演④ 「リーダーシップのある人材養成について」

日野原 重明(聖路加国際病院・理事長)

(15)

自己制御の能力,5.持続する意志 ② 山内昌之氏(『リーダーシップ - 胆力と大局 観』新潮新書 2011)  ここでは,以下の 3 項目が挙げられています.  1.総合力,2. 胆力,3.人心掌握力 ③ ルドルフ・ジュリアーニ氏(『リーダーシッ プ』(楡井浩一訳)講談社 2003)  ここでは,以下の 4 項目が挙げられています.   1.Optimistic- 常に楽観的で,夢・希望を語 る,2.Encourage- 恐れを克服し,やるべきこ とをやる,3.Prepare- あらゆる可能性を予期 して準備をしておく,4.Teamwork- 自分の 弱点を知り,チームで補う ④ コリン・パウエル氏(『リーダーを目指す人の 心得』トニー・コルツ著,飛鳥新社 2012)  ここでは,以下の 13 項目が挙げられています.  1. 何でも悪く思い過ぎるな(自己過小評価す るな)  2.怒りを乗り越えよ  3.自分の人格を良く保て  4.行動せよ  5.選択には細心の注意を払え  6.決断を歯切れよく遂行せよ  7.自分の道は自分が選ぶ (記録:伴 信太郎)

厚生労働省講演 「医師確保と医師養成の取り組み」

田原克志(厚生労働省 医政局 医事課長)  田原課長は,臨床研修制度,医師国家試験,専 門医制度についての現状と今後の課題について話 された.時間の関係で医学部入学定員と医師の需 要と供給に関する試算,平成 24 年度診療報酬改 定,無過失補償制度については資料の配布のみと なった.概要を示す.  上記のテーマに入る前に,個人的見解とお断り になったうえで,医療事故や不適格な医師の問題 など今,医療への信頼感を取り戻す必要があり, そのためにはプロフェッショナルオートノミーと いう医師集団の自律性と国民の理解とが必要であ ることと,行政がこの問題に積極的にかかわるの ではなく,国民と医師集団との間での解決をサ ポートすることが医系技官としての望みであるこ とと話された.  昭和 43 年に作られた臨床研修制度が平成 16 年 に新臨床研修制度となり,さらに,平成 22 年に 見直しがなされ,7 科必修が,3 科必修と 2 科選 択必修,指導医も研修医 5 名に対し 1 人以上と なった.研修医募集数に関しても徐々に都市偏在 が解消されている.研修制度の評価に関しては, 現在ワーキンググループが検討を行っており,平 成 27 年度開始の研修医から新しい評価制度が導 入される.必修科の見直しにより平成 23 年度の 研修プログラムは多様化した.臨床研修後に内 科,外科,小児科,産婦人科,麻酔科,救急にも 進路を選ぶものが相当数いる一方,皮膚科や眼科 への進路者は,統計上は減っている.地域偏在に 関しても都市部では減少,地域で増えつつある. 診療科偏在や地域偏在に関しては,統計上は一見 改善されつつあるが,さらなる細かい調査が必要 である.  医師国家試験改善検討委員会報告書が平成 23 年 6 月 9 日に公表された.国家試験の改善は,臨 床実習での改善や共用試験の実質化と連動してお り,共用試験,臨床実習,国家試験,臨床研修の 相互の関連の中での議論が必要である.卒前教 育,国家試験,卒後臨床研修の改善については全 国医学部長病院長会議から「医師養成の検証と改 革実現のためのグランドデザイン - 地域医療崩壊 と医療のグローバル化の中で -」が平成 23 年に 出され,これを具体化するために今年の 11 月に 「アクションプラン」が全国医学部長病院長会 議,文部科学省と厚生労働省との懇談会で説明さ れたことは報告された.アクションプランに従 い,全国医学部と文科省,厚労省が合意形成しな がら進めていくことはまさに,プロフェッショナ ルオートノミーの表れであると話された.

(16)

 専門医制度に関しては,厚生労働省内で,「専 門医の在り方に関する検討会」がすでに 3 回の会 議を行い,議論が進んでいる.基本領域に「総合 診療科」が加えられる.今年中に会議を開き,報 告書作作成の段階に進む.専門医に関しては検討 会での議論が最終段階に来ていることが報告され た. (記録:福島 統)

参照

関連したドキュメント

⑹外国の⼤学その他の外国の学校(その教育研究活動等の総合的な状況について、当該外国の政府又は関

東北大学大学院医学系研究科の運動学分野門間陽樹講師、早稲田大学の川上

大曲 貴夫 国立国際医療研究センター病院 早川 佳代子 国立国際医療研究センター病院 松永 展明 国立国際医療研究センター病院 伊藤 雄介

一高 龍司 主な担当科目 現 職 税法.

  総合支援センター   スポーツ科学・健康科学教育プログラム室   ライティングセンター

話題提供者: 河﨑佳子 神戸大学大学院 人間発達環境学研究科 話題提供者: 酒井邦嘉# 東京大学大学院 総合文化研究科 話題提供者: 武居渡 金沢大学

  総合支援センター   スポーツ科学・健康科学教育プログラム室   ライティングセンター

向井 康夫 : 東北大学大学院 生命科学研究科 助教 牧野 渡 : 東北大学大学院 生命科学研究科 助教 占部 城太郎 :