緒 言
半規管機能検査には,温度刺激検査(カロリッ クテスト),回転刺激検査,頭振り眼振検査など があるが,その一つに head impulse test(HIT)
が あ る。HIT は1988年 に Halmagyi と Curthoys が報告した回転刺激検査の一つであり,ベッドサ イドでも簡単に行なうことができる半規管機能検 査である1) 。HIT の検査方法は,まず被験者に固 定した視標(検者の鼻先でもよい2) )を注視する よう指示した上で,検者が被験者の頭部を受動的 かつ急速に10°∼20°回旋させる。この時,半規管
The head impulse test (HIT) is a safe and quick way of assessing semicircular canal
func-tion in patients with peripheral vestibular loss at the bedside, first described in 1988. This
test is practical even in sick patients and needs no equipment. The clinician identifies overt
(=visible) catch-up saccades back to the target after passive head rotation as a clinical sign
of canal paresis. However, it is known that some patients with absence of vestibular
func-tion do not make overt saccades, but instead make covert catch up saccades during the
passive unpredictable head turn, which are extremely difficult for the clinician to detect
with the naked eye. Recently, a new lightweight, nonslip, high-speed video-oculography
system (vHIT; video head impulse test) has been developed that measures eye velocity
during head rotations. . This system is easy to use in a clinical setting, provides an
objec-tive measure of the vestibulo-ocular-reflex (VOR), and detects both overt and covert
catch-up saccades in patients with vestibular loss.
原
著
新しい半規管機能検査法
―video Head Impulse Test―
新藤
晋
1)2)・杉崎 一樹
1)2)・伊藤 彰紀
2)・柴崎
修
2)・水野 正浩
2)・
松田
帆
1)・井上 智恵
1)2)・加瀬 康弘
1)・池園 哲郎
1)The video head impulse test as a novel semicircular canals function test
Susumu Shindo
1)2), Kazuki Sugizaki
1)2), Akinori Itoh
2), Osamu Shibasaki
2),
Masahiro Mizuno
2), Han Matsuda
1), Tomoe Inoue
1), Yasuhiro Kase
1), Tetsuo Ikezono
1) 1)Department of Otorhinolaryngology, Saitama medical school Hospital
2)
Department of Neurotology, Saitama medical school Hospital
Key words: video Head Impulse Test, Vestibulo-ocular reflex, Overt catch up saccade,
Covert catch up saccade
1)埼玉医科大学耳鼻咽喉科
機能が正常であれば,前庭眼反射(vestibulo-ocular reflex;VOR)がしっかり働き,視標を固視した ままでいられるが,一側もしくは両側の半規管機 能低下を有する患者では,患側方向へ head im-pulseを加えた際に十分な VOR が働かず眼位と 視標にズレが生じるため,視標を捉えるための急 速眼球運動が直後に生じる。この急速眼球運動は catch up saccade(別名 refixation saccade または corrective saccade,以 下 CUS)と 呼 ば れ,こ れ を肉眼で確認すれば,canal paresis(CP)ありと 判定する。 HITは,温度刺激検査と比べ患者への侵襲が少 なく,短時間で行なえる上,生理的な刺激条件で 検査できるなど,数多くの長所を有する2) 。一方, 欠点として,検者が検査技術に習熟する必要があ ることと,検査結果の判定が主観的であること, CPの検出感度が低いことなどが指摘されてい る3)4) 。サーチコイルを用いた研究により,HIT で CP検出感度が低い理由の一つが研究当初から明 らかになっている。すなわち,CUS には肉眼で 検出できる overt catch up saccade(overt は「明 らかな」の意,以下 OCUS と略す)の他に,肉 眼では分からない covert catch up saccade5)
(cov-ertは「隠れた」の意,以下 CCUS と略す)があ るためである。しかしサーチコイルを用いた HIT は侵襲があるためあまり行われず,HIT も本邦で はあまり普及していない。 近年,上記の欠点を克服した高速度カメラと加 速度センサーを備えた装置,video head impulse test(vHIT)が 開 発 さ れ た6)。vHIT は 侵 襲 な く OCUSや CCUS が検出できるだけでなく,左右 それぞれの VOR gain の平均値を算出することに より,半規管機能を客観的に定量化できる利点を 持つ。今回われわれは,12名の健常者及び21名の めまい患者に対して vHIT を施行し,その結果を 解析したので,若干の文献的考察とともに報告す る。 対象と方法 対象 以下の2群を対象とした。 1.健常者。めまいの既往が無く,眼球運動に 異常を認めない12名。 2.めまい患者。2012年11月から2013年3月ま での間にめまいを主訴に当科を受診し,vHIT と 温度刺激検査を同日に施行した患者は27名存在し た。その内,画像検査で内耳奇形を認めた3名と vHITにおいて head impulse の角速度平均が 100° /secに達しなかった3名を除外し,残りの21例 を対象患者とした。
使用装置;ICS impulse(GN Otometrics, Tas-trup, Denmark)(図1) 1秒間に最大250枚の高速撮影が可能なハイス ピードカメラ,頭位情報を得るための加速度セン サーを有する軽量で固定性の高いゴーグルと, vHIT用ソフト OtosuiteV がインストールされた ノート型 PC,さらに両者を接続する有線回路か らなる。ICS impulse は平成25年7月現在,日本 において医療機器認可はされていない。今回の研 究では埼玉医科大学の治験審査委員会の承認を受 け,本研究内容を対象者に充分説明して同意を得 た上で施行した。 方法;健常者には vHIT のみを行ない,めまい 図1 vHIT a);vHIT の検査装置一式 装置は軽量で小さく,電源もノート PC から すべて供給されるため,診察室や病室に運ん で検査することができる。 b);被験者にゴーグルを装着した所。 ハーフミラーを介してカメラで撮影するの で,検査時に視野の妨げにならない。
患者には vHIT と温度刺激検査を同日に施行し た。 1.vHIT 1―1.ゴーグルの装着およびキャリブレーショ ン 対象者を椅子に座らせ,vHIT 用のゴーグルを 装着した。次に患者の眼前約 1.2m前方に投影さ れる視標を注視させ,左右方向で15度のキャリブ レーションを行なった。 1―2.vHIT の施行(図2) 今回の検討では,左右の水平半規管を評価する 「lateral」モードのみを施行した。 まず検者は被験者の後方に立ち,被験者に前述 の固定視標を注視するよう指示しながら被験者の 頭部を両手でしっかり把持し,左右いずれかの方 向へ10∼20°程度,急速に頭部を回転(head im-pulse)させた。この際,特に下記の4点に注意 して検査を実施した。① head impulse 刺激を与 える際,外側半規管平面と頭部回転の面を一致さ 表1 温度刺激検査正常群における vHIT の結果 番号 患側 VOR gain 健側
VOR gain CUS 判定
温度刺激検査 (CP%) 1 2 3 4 0.82 1.18 0.82 0.83 0.91 1.34 0.93 0.97 なし なし なし なし CPなし CPなし CPなし CPなし 17% 10% 7% 2% VOR vestibulo-ocular reflex
CUS catch up saccade CP canal paresis 図2 vHIT の検査画面 画面の左上に眼位(緑)と頭位(赤)がリアルタイムで表示される。右上 は head impulse 施行時の眼位(緑)と頭位が表示される。頭位は写真の 場合,左方向への head impulse を行なったため青で示されているが,右 方向への head impulse を行なった場合は赤で表示される。画面の左下に はリアルタイムの眼球映像が表示され,眼が閉じていたり,頭部を傾けす ぎることによる瞳孔のフレームアウトを防止することができる。画面の右 下には左右方向の accept 回数,reject 回数がそれぞれ表示される。赤枠内 は accept, reject の回数表示を拡大したものである。
a b c 300 250 200 150 100 50 (㼻/sec) 300 250 200 150 100 50 (㼻/sec) 300 250 200 150 100 50 (㼻/sec) 0 -50 0 -50 0 -50 0 -140 200 400 -140 0 200 400 -140 0 200 400
(msec) (msec) (msec)
せる(つまり頭部を30°前屈させる)必要は無い と言われていることから,頚部に余計な緊張が生 じないよう頭部の前後屈はせずに行なう。②検者 の手がゴーグルもしくはゴーグルを固定するヘッ ドバンドに触れるとノイズが大きくなるため,ゴ ーグル,ヘッドバンドに触れないようにする。③ 角速度 100°/sec 以上の 素 早 い 回 転 刺 激 を 加 え る。④被験者が回転方向を予測できると正確な値 がでないため head impulse を加えるタイミング や方向をランダムに行なう。vHIT では,正しく Head impulseが加えられたかを判定する機能が あり,適切な場合は accept されるが,回転速度 が遅い場合や,回転を制止させる際に頭部が逆方 向 へ 戻 り す ぎ る と,そ れ ぞ れ,「slow」,「too much over shoot」等のフィードバックコメント とともに reject される。今回は左右どちらも20回 以上 accept されるまで検査を行なった。 1―3.vHIT の判定(図3) 得られた検査結果から VOR gain の平均値が 0.8未満かつ頭部の最大角速度(peak velocity) を超える CUS を認めた場合に CP ありと判定し た5)
。VOR gain は eye movement(°)÷head move-ment(°)で求められる。また vHIT における CUS の判定は HIT のそれとは異なる。すなわち,HIT では CUS が肉眼で確認できればすべて OCUS で あり,CCUS は確認できない。一方 vHIT では他 の報告に従い5)
,頭部回転中に CUS が生じれば CCUS,頭部回転終了後に CUS が生じれば OCUS とした。さらに CCUS と OCUS 両方の CUS がみ られた症例は混合型とした。また CUS であって も 振 幅 が 頭 部 の peak velocity に 満 た な い も の は,tiny catch up saccade5)
と呼ばれ健常者や一 側 CP の対側でも見られる所見であることから, CP判定の陽性基準から除外した。 図3 各 catch up saccade(CUS)の説明 a―c)の各図は,CUS を分かりやすくするために,複数回行なった head impulse(頭位は橙色もしくは水色,眼位は薄緑色の曲線)の中から,特 徴的な検査曲線(頭位は紫色,眼位は濃い緑色)をそれぞれ抽出したもの である。vHIT では,頭位の最大角速度(peak velocity)よりも大きな CUS (上 向 き の 大 き な spike)が 頭 部 回 転 の 終 了 前 に 生 じ れ ば covert CUS (CCUS),頭部回転の終了後に生じれば overt CUS(OCUS)と考えるの が一般的である。今回は頭部の回転角速度がゼロ(赤実線)に復した時を 頭部回転終了時間と定め,赤点および赤点線で示した。尚,グラフの縦軸 は角速度(°/sec),横軸は時間(msec)である。
a)CUS が頭部回転終了後に生じていることから,OCUS である。b) 頭部回転終了前に2回の CUS を認め,いずれも CCUS である。3回目の
saccadeは頭位の peak velocity より明らかに小さいことから,tiny catch up
saccadeである。c)頭部回転終了前と終了後にそれぞれ1回の CUS を
認め,overt,covert 両者の saccade が出ている,混合型の CUS 所見であ る。
300 250 200 150 (㼻/sec) 0 -50 100 50 300 250 200 (㼻/sec) -50 150 0 100 50 0 -140 200 400 -140 0 200 400 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 VOR gain 2.温度刺激検査 被験者を仰臥位・頭部前屈30度とし,20℃の少 量注水法を左右それぞれの側で行ない,誘発され た眼振の最大緩徐相速度から以下の計算式により CP(%)の算出を行なった。 CP(%)=(a−b)/(a+b)×100 a,bは20℃冷水刺激時における左右それぞれ の最大緩徐相速度(但し a≧b)である。また温 度刺激前に自発眼振の有無を確認し,自発眼振を 認める症例は補正後に CP(%)の算出を行なっ た。次に温度刺激検査の結果から,以下の3グル ープに分類した。尚,CP%による病的左右差の 判定には,日本めまい平衡医学会編,「イ ラ ス ト」めまいの検査7) を参考とし,左右差が20%以 上ある場合を一側 CP ありとした。 ⅰ)温度刺激検査正常群(CP%<20%) ⅱ)温度刺激検査一側 CP 群(CP%≧20%) ⅲ)温度刺激検査両側高度 CP 群(少量注水法 で両側無反応) 結 果 1.健常者 12例の健常者に vHIT を施行した。年齢は26∼ 45歳(平均31.5歳),うち男性7名,女性5名で あった。全例とも VOR gain の平均が0.8以上と 正常範囲内であり,CUS も認めなかった。代表 的な検査結果を図4に示す。 2.めまい患者 ⅰ)温度刺激検査正常群(表1) 温 度 刺 激 検 査 正 常 群 は4例 で あ っ た。年 齢 は36∼63歳(平 均53.5歳),男 性1例,女 性3例 で,診断はすべて末梢性めまいであった。本群で は4例とも VOR gain は正常範囲内であり,CUS も認めなかった。 ⅱ)温度刺激検査一側 CP 群(表2) 温度刺激検査一側 CP 群は14例存在した。年齢 は27∼68歳(平均54.1歳),男性7例女 性7例 で あった。診断は前庭神経炎6例,末梢性めまいと 小脳橋角部腫瘍が3例ずつ,突発性難聴後遺症と ハント症候群後遺症が1例ずつであった。代表的 な検査結果を図5に示す。本群では10例において 温度刺激検査で判定された患側と一致した VOR gainの低下および catch up saccade を認めた。残 りの4例は CP なしと判定した。 ⅲ)温度刺激検査両側高度 CP 群(表3) 温度刺激両側高度低下群は3例であった。年齢 は全例69歳で,男性1例,女性2例であった。診 断はゲンタマイシンによる前庭障害が2例,特発 性前庭機能障害が1例であった。すべての症例に 図4 健常者の vHIT 検査例 左側の分散図には,検査毎の頭部の最大角速度と VOR gain が,右は赤点, 左は青点でプロットされ,さらにそれぞれの平均値が×印で示される。左 上には VOR gain の平均値(拡大して表示している)が示されており,本 例では右1.06,左0.92と左右とも正常範囲(白格子)内であり,左右差も ほとんどみられない。 中央の図は左方向,右の図は右方向へそれぞれ head impulse を行なった 際の頭位と眼位の角速度曲線である。頭位の角速度曲線が緑色,head im-pulseを加えた際の眼位の各速度曲線が右方向は赤色,左方向は青色でそ れぞれ示される。本症例では,左右どちらにおいても頭位と眼位の曲線は 良く一致しており,catch up saccade は認められない。
おいて VOR gain の両側低下を認め,CUS も左右 いずれの方向の刺激でも認められた。代表的な検 査結果を図6に示す。
考 察
ベッドサイドでもできる簡単な半規管機能検査 と し て,Halmagyi と Curthoys が HIT を 初 め て 報告してから20年以上が経過した1) が,本邦の耳 鼻咽喉科領域において HIT に関する報告は数少 なく2),検査自体を知らない耳鼻咽喉科医も多い。 その理由として検者が検査技術に習熟する必要が あることと,検査結果の判定が主観的であるこ と,CP の検出感度が低いことに加え,温度刺激 検査が半規管機能検査としてすでに確立している ことなどが挙げられる。温度刺激検査は左右それ ぞれの半規管の機能を調べることができる上,刺 激中の眼球運動を ENG もしくは VOG/VNG で記 録することにより,その反応を客観的に定量化す ることが可能である。温度刺激検査,HIT,vHIT の各種半規管機能検査の特徴を比較すると表4の 通りである。温度刺激検査と HIT を比較してみ ると,HIT は装置が不要なため,ベッドサイド等 どこでも手軽に左右それぞれの半規管機能を調べ ることができる。また,検査時間の短さ,検査の 吐き気が生じにくいなどの長所を有する。一方で HITは,検査の定量化ができないことや,判定は 被験者の頭部を急速回旋させた直後に一瞬だけ生 じる saccade を検者の肉眼で捉えて判定するた め,検者の主観で判定が左右される点などが課題 であった8) 。 これらの欠点を改善した vHIT が2009年に報告 された6) 。vHIT の長所の一つは,HIT と比べ検査 の精度が向上したことである9) 。HIT では左右そ れぞれ3回ずつ head impulse を行ない,2回以 上 saccade があると検者が判断すれば CP 陽性と 判定していた。つまり評価項目は一つで,しかも 検者のみの一瞬の判断にゆだねられていることか ら,検者の技量や主観により結果が左右されてし まう欠点があった。一方 vHIT では,① VOR gain の低下と CUS の両者がそろった場合に初めて CP ありと判定する。② vHIT は,頭部に与えられた 回転角速度を加速度センサーが感知し,速度不足 であった検査は reject される。そして accept さ れた検査を左右それぞれ20回以上施行し,その平 均値から VOR gain の算出を行なうことで,客観 的の高いデータを得ている。③ CUS の判定にお いて頭位と眼位の情報が同期して表示されるよう になったため,HIT で検出できていた OCUS だ けでなく,頭部の回転中に生じ肉眼では検出でき なかった CCUS の検出もできるようになった。 Blödowらは vHIT で異常所見を認めた末梢前庭 障害患者102例について検討を行なった所,混合 型 の52%と OCUS 単 独 の34.3%を 併 せ た86.3% 表2 温度刺激検査一側 CP 群における vHIT の結果 番号 患側 VOR gain 健側
VOR gain CUS※ 判定 CP%(温度刺激)
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 0.47 0.35 0.51 0.30 0.78 0.58 0.33 0.69 0.42 0.55 1.38 0.86 0.83 0.84 0.93 0.94 0.91 0.83 0.83 1.09 混合型 混合型 混合型 混合型 混合型 covert 混合型 混合型 混合型 overt 一側 CP 一側 CP 一側 CP 一側 CP 一側 CP 一側 CP 一側 CP 一側 CP 一側 CP 一側 CP CP 100% CP 100% CP 100% CP 100% CP 91% CP 86% CP 82% CP 74% CP 53% CP 46% 11 12 13 14 0.87 0.87 0.92 1.02 0.96 0.88 1.01 1.09 なし なし なし なし CPなし CPなし CPなし CPなし CP 51% CP 39% CP 35% CP 30% CUS catch up saccade, CP canal paresis, VOR vestibulo-ocular reflex ※CUS はすべて患側のみで見られた
250 200 (㼻/sec) -50 150 0 100 50 250 200 (㼻/sec) -50 150 0 50 100 0 -140 200 400 -140 0 200 400 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 VOR gain の症例で OCUS が認められたと報告している10) 。 もし HIT でもこれらの OCUS がすべて分かるの で あ れ ば,vHIT で 初 め て 確 認 で き る CUS は CCUS単独の13.7%しか無いことになり,vHIT の有用性はあまり高くないことになる。しかし実 際には温度刺激検査をゴールデンスタンダードと した場合の vHIT の検査感度が68.8%11) に対し, HITの検査感度は34∼35%3)4) と vHIT の約半数し か CP を検出できない。その理由は,HIT と vHIT で OCUS の定義が異なるためである。HIT では saccadeが肉眼で捉えられることで OCUS と判定 されるが,vHIT では頭部回転終了後に saccade が生じれば OCUS と判定される。このため,vHIT 上は OCUS があると判定されても,saccade が頭 部回転終了直後に生じたり振幅が小さいために肉 眼では saccade が分からず HIT では陰性と判定 されてしまう。以上より,効果的に CP が検出で きる vHIT は有用である。ただし vHIT で確認で きる大小様々な CUS がすべて CP を示している 訳ではないことに留意する必要がある。例えば図 5の右刺激時にみられる CUS(黒矢頭)は tiny catch up saccade5) と呼ばれ,VOR gain が僅かに 減少する病態,例えば一側 CP 症例の対側で良く 見られる所見である。病的意義のある CUS は頭 部の peak velocity より振幅が大きいが,tiny catch up saccadeは VOR gain が正常であること に 加 図5 温度刺激検査一側 CP 群の vHIT 検査例
左前庭神経炎の患者の vHIT である。左の分散図において,患側である左
の VOR gain の平均(青×印)が0.35と右(赤×印)と比べ大幅に低下し
ていること分かる。また中央の図(左方向への head impulse)では,眼 位(緑色の曲線)が頭位(青色の曲線)に比べ大きく遅れた後,二峰性の 大きな catch up saccade を出していることが分かる(赤矢印;covert catch up saccade,青矢印;overt catch up saccade)。右図(右方向への head im-pulse)の黒矢頭にみられる saccade は頭部の peak velocity より明らかに低 く,tiny catch up saccade と判定した。tiny catch up saccade は一側 CP の 対側耳で良く見られる所見であり,対側も CP ありと判定しないよう注意 が必要である。 表3 温度刺激検査両側高度 CP 群における vHIT の結果 番号 左 VOR gain 右 VOR gain CUS 判定 温度刺激検査 (少量注水法) 1 2 3 0.18 0.15 0.33 0.05 0.26 0.39 混合型(両側) 混合型(両側) 混合型(両側) 両側 CP 両側 CP 両側 CP 両側無反応 両側無反応 両側無反応 VOR vestibulo-ocular reflex
250 200 (㼻/sec) -50 150 0 100 50 250 200 (㼻/sec) -50 150 0 100 50 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 0 -140 200 400 -140 0 200 400 VOR gain え,振幅が頭部の peak velocity より小さいこと で区別される。Weber らは,tiny catch up saccade を見て CP ありと判定しないよう注意すべきであ ると述べている5) 。 vHITのもう一つの長所は,忙しい外来の診療 中でも素早く検査ができ,すぐに解析結果が得ら れる点である。例えば温度刺激検査では,右耳の 冷水刺激を行なった後,左耳を検査するために は,右耳の冷水刺激による影響(眼振)が完全に 排除されるまで待たなければならない。その上電 極装着やキャリブレーションの時間などを考える と検査だけで15分以上かかるため,外来診察中に 検査から結果までを説明することは難しい。一方 vHITは,ソフトの起動,カメラの装着からキャ リブレーション,検査から解析までを約3分で完 了することが可能である。また vHIT に使う装置 はいずれも小さくて軽い持ち運びが容易である。 当科では vHIT は平衡機能検査室ではなく,台車 に乗せて外来で使用している。 さらに vHIT は,生理的な条件で半規管の機能 を検査できることも長所の一つである。半規管に 対する刺激方法を考えた場合,冷水・温水刺激に 比べ,回転刺激を与えた際の VOR を調べる検査 がより生理的である。但し単に頭部へ回転刺激を 与える検査と言っても,明所において0°∼50°/ secのゆっくりとした角速度刺激では眼運動系が 図6 温度刺激検査両側高度 CP 群の vHIT 検査例 アミノグリコシド系薬剤投与後に生じた,ジャンブリング現象を有する両 側前庭機能障害の患者の vHIT である。温度眼振検査を行なった所,少量 注水法で両側無反応であった。左の分散図において,VOR gain の平均は 右0.18,左0.05と両側ともに著明な低下を認める。また中央および右の図 において,左右とも眼位が頭位に比べ大きく遅れた後に二峰性の大きな
catch up saccadeが認められる(赤矢印;covert catch up saccade,青矢
印;overt catch up saccade)ことが分かる。
表4 各種半規管機能検査の比較
温度刺激検査
(ENG を用いた定量検査) HIT vHIT
刺激方法 刺激回数 検査時間 定量化 主観 検査場所 嘔気 耳の形態 垂直半規管評価 頸椎の異常 眼・瞳孔の異常 温度刺激 1回 長い できる 入らない 多くは固定 生じうる 影響受ける できない 検査可能 影響受けない 回転刺激 3回以上 短い できない 入る 移動可能 生じない 影響受けない 難しい 注意が必要 影響受ける 回転刺激 20回以上 短い できる 入らない 移動可能 生じない 影響受けない できる 注意が必要 影響受ける
主に働き,50°∼100°/sec の刺激でも VOR と眼 運動系両者の影響が出てしまう。vHIT では100°/ sec以上の速い回転刺激を与えることで,VOR を 主に検出することができる。また,今回は検討し ていないものの,回転刺激を与える方向を変える ことで,水平半規管だけでなく垂直半規管も検査 できる点も vHIT の利点の一つである12) 。 一方,vHIT の欠点の一つは,VOG と同じくカ メラを用い瞳孔を捉えて検査していることから, 瞳孔中心を安定して確認できないと検査ができな いことである。例えば,眼瞼下垂が強かったり, 睫毛が下垂している症例,さらに虹彩欠損や先天 性眼振を有する症例では検査ができない。また vHITでは急速に頚部を回転させるため,頸椎疾 患を有する患者では注意が必要である。vHIT は 頭部の回転角が10∼20°と小さいことから,頸椎 疾患を有する患者でも検査が可能と言われている が,我々は明らかな頚椎疾患を有する患者は検査 対象から除外している。 また温度刺激検査をゴールデンスタンダードと 考えた場合,vHIT の検査感度は HIT よりは良い ものの温度刺激検査と比較すると低いとされてい る。Bartolomeo らは,前庭神経炎患者における vHITと温度刺激検査の比較を行ない,温度刺激 検査において CP%が30%以上の症例を対象とし た 場 合 の vHIT の 検 査 感 度 は68.84%,特 異 度 100%と報告している11)。また Bartolomeo らは, CP%が40%未満の症例では vHIT は全例正常であ る一方,CP%が62.5%以上の症例は vHIT でも全 例 CP を検出したと報告している11) 。我々の検討 でも,一側 CP 群において CP%が40%未満の3 例は全例 vHIT 正常である一方,CP62.5%以上の 8例は全例 vHIT でも CP ありと判定され,同様 の傾向が認められた(表2)。温度刺激検査に比 べ vHIT の検査感度が低い理由の一つは,vHIT が高角加速度の回転刺激が与えられた際に顕著と なる,ampullopetal flow と ampullofugal flow の非 対称性を利用した回転刺激検査の一つであり,対 側の影響を少し受けるためである1)13)14) 。例えば右 半規管機能廃絶例の VOR は,右半規管からの出 力がゼロで,左半規管からの出力だけが関与す る。この症例に左(健側)向きの head impulse を加えた場合,右半規管からの出力は無いもの の,左半規管から ampullopetal flow による上限
のない大きな spike 増加が生じるため,VOR gain は軽度低下するものの正常範囲内に保たれ,CUS も生じない。逆に右(患側)向きの head impulse を与えた場合,左半規管から ampullofugal flow による僅かな spike 減少が生じるだけで VOR が 大きく不足するため,VOR gain の減少と CUS が 生じて CP を検出できる。一方,右半規管機能の 障害が軽度(CP%が40%未満)の症例では,残 存する右半規管からの ampullopetal flow による spike増加の成分に加え,左半規管から ampullofu-gal flowによる spike 減少の成分が補助すること により,右(患側)向きの head impulse であっ ても VOR gain は正常範囲内に保たれ,CUS も生 じない8) 。これらの現象は vHIT の欠点というよ り回転刺激検査に共通した特性であり,言い換え れば,vHIT 正常例は生理的に必要な VOR が保た れていると考えることができる。温度刺激検査で 左右差ありと判定されながら vHIT で正常となる もう一つの理由として,温度刺激検査において的 確に温度刺激が与えられないため正しく半規管機 能を評価できていない可能性も考えられる。温度 刺激検査は注水方法や眼球運動の記録方法15)16), 耳の形態17)18) ,乳突蜂巣の発育19) やさらに患者の 覚醒状態20) など,様々要因により検査結果が変化 しうることが知られている。一方,vHIT は温度 刺激検査で生じるこれらの影響を受けにくいとさ れる。 画像診断の領域では CT,MRI,PET と次々に 新しい検査手段(モダリティ)21) が登場し,疾患 の部位や病態に応じて各検査を組み合わせる,「マ ルチモダリティ」と呼ばれる画像診断技術により 診断精度は飛躍的に向上している。モダリティを 画像検査でなく生理機能検査として考えれば,マ ルチモダリティは耳鼻科医の得意とする所であ る。例えば聴力の評価において,純音聴力検査だ けでなく,語音明瞭度検査や自記オージオメトリ ー,耳音響放射,ABR など様々な検査を組み合 わせることで,障害を受けた周波数,程度,部位 などを詳細に評価している。半規管機能検査にお いても,vHIT と温度刺激検査という性質の異な る二つの検査を組み合わせることで,より的確に 半規管機能の評価が可能となり,めまい・平衡障 害の診断精度はさらに向上すると考えられる。
文 献
1)Halmagyi GM, Curthoys IS: A clinical sign of canal paresis. Arch Neurol 45: 737―739, 1988 2)千原康裕:Head Impulse Test.臨検 52:
1479―1482,2008
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