海洋調査技術Uournal of the Japan Society for Marine Surveys and Techn<;>logy) (2) p.55-60 September 1989
短波海洋レーダを用いた海流観測*
朗** 憲 崎 彦** 野 俊 原 夫** 梅 俊 口 一** 弁裕
野大
HF Ocean Radar Observations of Currents
*Yuichi Ohno本*, Tosh io 19uchi * *, Tosh ih ik o Umehara * * a nd Kenro Nozak i * * ABSTRACT
Ok inawa Radio Wav e Obs ervatory develov ed the f irst Japanes e H F Ocean Radar in 1988. Th is radar can obs erv e li ne-of -s ight v elo cit ies of ocean surf ace currents with wide rang e in a short t ime. The obs ervable rang e w ith the radar ext ends b eyo nd the v isible horizo n.
Th is paper des crib es t he principles and t he out line of t h is syst em and some results of obs ervati on of ocean cu rrents off Ok inawa.
にレーダの基本システムを完成させ, 現在実験デー タを集めている. 短波海洋レーダは, 短時間で広範 囲の海流が測定できる, マイクロ波に比べてより遠 くの海域まで観測できるなどの長所があり, これか らの海洋計測技術として注目を集めている. ここで は, その観測 原 理, レーダシステム, 観測例などに ついて 述べる. はじめに 短波レーダを用 いた海洋観測は, Cromb ie (1955 ) が短波の海面からのエコーはブラッグ散乱によると し、う観測原 理を解明して 以来, 米国などを中心に研 究 が続 け ら れ て き た (Barrick et al. ,1977; Bar rick , 1978; Sh earman, 1986). 日本 では 通信 総合研 究所沖縄電波観測所 がその開発に取り組み, 1988年
NO.=7
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Range
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32: 001989/5/17
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505Hz O O.OHz ドッフ・ラ周波数 -O.505HzAn example of Doppler s pect rum obs erved by the H F Ocean Radar. 牢 1989年 6月30日受理
** 通信総合研究所 沖縄電波観測所 〒901-2 4 沖縄県中頭郡中城村字久場台城 原829- 3
Ok inawa Radio Wave Obs ervat ory, Communi cat io ns Res earch Laboratory Fig. 1 .
5 6 海洋調査技術 2. 観測原理 海面に向かつてほぼ水平に発射された電波は波に よって散乱されレーダに返ってくる. このエコーを ドップラ解析すると Fig. 1のようなドップラスベク トノレが得られる. この図で正負ほぼ対称に出ている ピークは波長がレーダ波長の半分である波によって 散乱されたエコーで, 正のドップラシフトを持つ方 はレーダに向かつてくる波, 負のものはレーダから 遠ざかる波に対応する. 波長に対して十分深い海で の重力波の位相速度は土
花子万
7r (gは重力加速 度, Lは波の波長) で与 えられるので, この波から のエコーは±ほ7王子Z
のドップラγフトを受ける ことになる. この周波数はブラッグ周波数と呼ばれ ている. 今回開発したレーダは24. 5 MHzの周波数 を用いているのでレーダ波長は12 .2m, 散乱を起こ す波の波長 は 6. 1 m, ブラッグ周波数は0 . 50 5 Hz となる. 海に流れがあると波も一緒に流されるので, フ ラッグ周波数からピークの位置がずれる. このずれ から次式のように海流が計算される. V=C. ð.f /2f ここで, fはレータの周波数, ð.fはブラッグ周波γァ
/
ビーム方向制御 送信機 送受信機制御Fig . 2. System di agram of the H F Oce an Radar
第 l巻 第2号 1989年 9月
Fig. 3. Transmitte r and Re ce iv er of the HF Ocean Radar and its ante nna array.
数からのずれの周波数 , けま光速 Vは海流の視線
方向速度である. 速度Uは海面から深さ数十センチ 程度のごく浅い部分の流れを代表していると考えて よい(Stewar t and ]o y, 1974). Fig. lの場合はð.f
=0.0 32 Hzなので , 視線方向速度20 cm/secの流れ が表層にあることになる.
Sep. 1 989 Jo ur. Japan Soc . Mar. Surv. Tech 57 近づく波の方が卓越しているからであり, これは海 上の風向を反映している. 3. レーダシステム レーダ方式としては, 送受切替え型 F MC W方式 を採用している. この方式は, 周波数を一定速度で 掃引して送信と受信の周波数差から距離を算出する もので, パノレス方式と比べて小電カで済むのが特徴 である. また, アンテナを送受共用するために, 時 間的に送信・受信を切り替 えている. レーダ周波数 は, 24. 465 - 24. 565 MH zの 周 波 数帯を 200 kH z/ s ec で掃引している. 出力は100 Wである. 海洋レーダシステム構成図を Fig.2に示す. アン テナは, 10本の短縮ホイップアンテナを並べたアレ イアンテナでビーム幅 15度のビームを形成している (Fig.3 ). 各アンテナ素子に送る搬送波の位相を変 えることによって, 7 . 5度きざみで正面より土45度 の方向にビームを向けることができる. 送受信機は 米国Barry Res earch社の電離層観測用レーダを改 造したもので, 周波数や掃引速度などが R S -232 Cを通し, パソコンで制御できる. 受信機の出力は A/ D変換後パソコンに取り込まれ, FF T などの 信号処理が行われる. 信号処理 の結果として, Fig. 1のようなドップラスベクトルが各距離ごとに 得られる. 必要な S/N比を得るために各ビームに つき約 10分の観測を行っており, 全ヒームの観測に は 2- 3 時間を要する. 一方, 距離分解能は周波数 掃引幅より決まり, 1. 5kmである. 4. 短波海洋レーダによる観測例 現在, この短波海洋レーダは沖縄電波観測所 構内 に設置され, 沖縄南東海域の観測を実験的に行って いる (Fig. 4 ). レーダの最大探知距離は波の発達度, 方向スベクトノレによるが, 現在のところ状態が良け れば 80km程度, 悪ければ40- 50 kmとなっている. また, 陸上伝搬の際の減衰のためエコーが受信し難 いビーム方向もある(Fig. 4のビーム 0- 3 ). これ は岬なとす海の開けた場所 へレータを移動することで 大幅に改善される. 10 km より近い海域での!感度は, 送受切替 時のタイムラグの影響で悪くなっている. Fig.5は1 989年5月 17日のレーダ観測から得られ た距離12 kmから25.5 kmまでのドップラスベクトノレ を順に並べた例て‘ある. 15 km より近いところでは ピークが右にずれているので近づく流れがあり, 遠
。
Fig. 4 . Radar beam di rections and obs ervable are a of th e H F Oc ean Radar.
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25.5km 24.0km 22.5km 19.5km 見20
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"W'"-Vv1 16.5kmFig. 5. Do ppler s pect ra obs erved by t h e H F Oc ean Radar in th e b eam di rection No. 8 at th e
rang es of 12- 25.5 km on May 17, 1989.
くでは左にずれているので遠ざかる流れがあること がわかる. このようにして距離ごとに企fを求めれ ば視線方向の流速の変化が得られる.
1989年9月 第2号 第 l巻 海洋調査技術
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時 刻 F ig. 6 . Ti me variat ions of oce an curre ntsobse rve d in t he be am dire ct ion No. 7 , on Nove mbe r 25- 2 6 ,1988.
18
15
一定ヒーム(F ig. 4のビーム7 ) 方向の流速の時間 変化を示す. 1日を通じてかなり大きな変化が各距 離で観測されている. 距離12krnの地 点で、の流れで 100 cm/sモー一一一一
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は半 日周期の変化が表われているが, この変化は潮 位の時間変化とよく対応しているので潮流によるも のと思われる. 一方, 遠方では潮流とは別の時間変 化が表れているが, これは外洋の流れの場の変化に よるものであろう このような時間的に連続した観 測ができることは海洋レーダの利 点の一 つである. F ig. 7は1989年2月13日の 10時一13時の間, 海洋 レーダのヒームを 12方向に振って得られた視線方向 流速分布図である. この観測の際, 沖縄県水産試験 場の観測船「くろしお」が 同図の a- g の地 点で GEK ( 電磁海流計 ) を用 いて海流を観測している ので, 比較のため測定された海流の視線方向成分も 同図に一緒に示している. ただし, GEK の観測は a から順に1 1時から2 1時にかけて, 行われたもので ある. レーダの結果では空間的に連続した流速変化 がみられ, 大きなスケーノレの流れの存在を示してい る. また, 流れの方向と大きさは GEK の観測結果 とよく対応している 両者の観測精度や観測時刻の 差などを考え合わすと, かなりよく一致していると し、える. このような比較実験はレーダ観測の精度を 評価するために重要であり, これからも数多く重ね ていく必要がある. 10 km ト一一一ー→N
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10 km ト一一一一→ ヘNAi--F ig. 8 . Oce an curre nt ve ctors e stimate d from t he p atte rn of line -of-si ght vel ocit ie s in F ig. 7.
T he thick arrows a - g indicate oce an curre nt ve ct ors obse rve d by GEK from the su rve y ship“Ku roshio" of Okin awa P re fe ctural F is h e ry Expe rime nt al St ation
、,
TF ig. 7. Line -of- sight ve l ocitie s of oce an curre nts obse rve d at 10: 00 - 13: 00 on Fe bruary 13, 1989. T he thi ck arrows a - g indicate line- of- sight ve locity comp one nts obse rve d by GEK from the su rve y ship“K u roshio" of Oki nawa P re fe ct ural F ishe ry Expe rime nt al St ation
3 )陸のない外洋域では観測できない
などが挙げられる. 視線方向の流速しか狽Ijれない欠 点を補うため, 海洋レーダを 2 台離れた場所に設置 して海流の全ベクトノレ成分を測定することも諸外国 で既に 行わ れ て い る( F r isch and Weber.1980 ;
Gurgel et al. . 1986). これらの特徴から短波海洋 レーダは, 沿岸域の海流のりアノレタイムモニターと して, 港湾, 水産, 環境汚染監視など幅広い分野で 有用 性の高い測器といえよう. また, 海洋レーダで得られるドップラスベクトノレ から波高を求める方法も Barric kらによって , かな り研究さ れ て い る( Brric k et al.. 1974; Barri . c k.1977). ブラッグ散乱によって生じる二つのピー ク(一次散乱) のまわりには二度の散乱により返っ て来る二次散乱が現われるが, この二次散乱の一次 散乱の高さに対する比は波高にほぼ比例するといわ れている. われわれはブラッグ周波数の
.f2
倍の位 置に現われる二次散乱 を使って波高の推定を 試み た. Fig .9 は1989年1月25-27臼長崎海洋気象台の 海洋観測船「長風丸Jがレーダの観測海域で測定し た波高の変化を示したものである. レーダ観測から は波高の絶対値を直接算出できなかったので, 最小 二乗法で波高データに最もフィ ットするようにファ クタをきめ, 同図に示している. 図においてレーダ で測定された波高の変化が船で、測定された波高の変 化によく追随していることがわかる. 海洋レーダが 波高の測定に有効であることがこの観測で確かめら れた. 短波海洋レーダは次世代の海洋観測測器として注 目されつつあり, その実用 化が望まれている. 通信 59Jour . Japan Soc. Mar . Surv . Tech
l台の海洋レーダでは原 理的に視線方向の流速し
か観測できないが 2 次元の非発散や局所的な流れ
の一様性を仮定して, そ れと直交方向の流れを Lipa and Barric k (1986) に倣って推定してみた. 海流が2次元非発散とすると連続の式 δ Vo . δ( rVr) ハ
一
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a-r
Sep. 1989 を満たすことになる. ここで1ζはレーダ視線方向 流速. Voはそれと直交方向の流速 r はレーターか らの距離, 。はビーム方向である. この式をθ方 向に積分することでVθが求まることになる. ただ し, これだけでは積分定数がきまらないので局所的 な流れの一様性を仮定してこれをきめている. F ig . 8 はFig . 7の視線方向流速データを使い, 上記の方 法で求めた海流の全ベクトノレで-ある. この方法は, 海流が小さなスケーノレで複雑に変化するときなど, いつでも使えるわけで はないが, このような大ス ケールの流れの場合には有効である 実際. GEK 観測結果と比べても定性的によく一致している. まとめ 短波海洋レーダによる海流観測を従来の船舶, ブ イなどの海流観測と比べてみると長所として, 1 ) 短時間で広域の観測が可能である 2 ) 連続観測が容易でリアルタイムにデータが得ら れる 3 )陸上から観測できる などが挙げられ, 短所としては, 1 ) 表面流しか観測できない 2 ) 流れの視線方向成分しか観測できない 5.r心弐ノ、ぷに3
nV 5
同E」(6U)惚桜
40 30 レーダ 長風丸 20 10 0 27日 12 26日 。 25日 時刻(1 989年1月)Time var iat ion of wave height ob ser ved by the HF Ocean Radar and the survey shi p “Cho fu maru" o f Nagasa ki Mar ine Mate orological Ob sevator y.
60 海洋調査技術 第 1巻 第2号 1989年9月 総合研究所沖縄電波観測所 では, 海洋レーダの実用 化に向けてさらに実験を続けてし、く予定であり, 今 年度は黒潮観測実験のため久米島なと'へのレーダの 移動実験を計画している. 海流観測データを提供していただいた沖縄県水産 試験場の関係各位, 長風丸で観測された様々な海洋 情報を提供していただいた長 崎海洋気象台の関係各 位に心より感謝いたします. 引 用 文 献
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