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電子情報開示と経営分析システム : XBRLの視座から

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電子情報開示と経営分析システム ~XBRLの視座から~

Electronic Information Disclosure and Business Analysis :

from the Perspective of XBRL

Yasuhiro YABUSHITA

藪 下 保 弘

【研究論文】

はじめに

 周知のとおり、企業ごとの開示情報の提出および縦覧に供する電子情報開示システムのさきがけは、 SEC(米国証券委員会)の「EDGAR1」である。同システムは、1982年に構想プロジェクトがスター トし、1985年のパイロット・システム稼働を経て今日に至っている。当時は、新たな会計情報開示 システムとして注目されていたものの、技術的な課題も多く、加えてネットワーク環境も未整備であっ たため、この普及は芳しいものではなかった2  わが国の電子開示システムとしては、金融庁「EDINET3」が2001(平成13)年6月から運用され ている。稼働当初は有価証券報告書・半期報告書等の開示書類等に限定されていたが、2002年(平 成14年)6月から有価証券届出書・発行登録書等、2003年(平成15年)6月からは大量保有報告書 等が加えられるなど、対象範囲を順次拡大している。これに合わせて、関係政令・内閣府令等の整 備およびシステムの構築が図られ、2004年(平成16年)6月からは有価証券報告書等、2007年(平 成19年)4月からは大量保有報告書のEDINETによる提出が義務化されている。  また、金融庁「有価証券報告書等に関する業務の業務・システム最適化計画4」によれば、 EDINETの開示書類等の提出者数(内国会社)は、2003(平成15)年時点では約2,500社だった が、2010(平成22)年には約5,800社へと倍増し、インターネットによるアクセス件数も、2003(平 成15)年には約97,000件であったものが、2009(平成21)には約7,833,000件と6年間で80倍強の 増加が報告されている5。こうした事態を鑑み、同計画にもとづき2005(平成17)年から「次世代 EDINET6」の設計・開発が着手され、2013(平成25)年9月17日にシステムが本稼働した7

 次世代EDINETの特徴は、「XBRL(Extensible Business Markup Language)」の対象範囲が拡

大されたところにある8。従来のEDINETが求めていたXBRLによる提出義務は、2008(平成20)年 4月以後開始する事業年度からであったが、この対象範囲は財務諸表本表に限られていた。しかし、 次世代EDINET運用後の有価証券報告書については、注記を含む報告書全体がXBRLの対象になっ ている9  また、次世代EDINETでは、「企業の概況」、「事業の状況」、「設備の状況」、「提出会社の状況」 など財務数値以外の記載事項についてもXBRL化の対象となっている。たとえば、同一企業で「事

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グにもとづき抽出した数値を比較すれば業界のトレンドを観察することも可能である10

 こうした経緯をふまえたうえで、本論文では言語仕様「XBRL 2.1 Specification(以下、XBRL 2.1 Spec.)」の概要を確認し、XBRLに関する国内の動向と現状の課題および将来の展望について考察する。

2.XBRLの概要

 XBRLは、「W3C(World Wide Web Consortium)」 で 標 準 化 さ れ て い る「XML(Extensible Markup Language)」技術を基盤として、財務情報を電子的に交換または計算処置を行うために作 成されたフォーマットである11。より具体的には、財務・経営・投資などのビジネス報告、特に組 織における財務情報・開示情報(財務諸表や内部報告など)の記述に適したXMLベースの言語を XBRLだとしている12。たとえば、財務情報は年度ごとに、あるいは組織や業種ごとに文書構造や項目、 計算などが異なるといった特徴がある。従来の作成方式では過分のコスト負担を要するだけでなく、 共通化や二次利用が困難な点を補うものとして、財務情報の作成・流通・分析・変換などに適した、 XMLによる標準規約を制定している13  XBRLのレポート・データは、インスタンス(データ)とタクソノミ(辞書・ひながた)に分け られた構造になっている。当事者同士が、あらかじめ共通のタクソノミを取り決めておけば、イン スタンスのみの授受で共通定義にもとづくデータ交換を実現する。  以下に、「XBRL FACT BOOK 2013」に依拠して、XBRLの構造を確認しつつ理解を深めたい。 ・インスタンス文書    報告の数値、テキストなどを記述するだけではなく、期・年度などを定義するコンテキスト情報や、 円・ドルなどの通貨単位や、株数などの単位を表すユニット情報も記述する。    また、従来のインスタンス文書の特性に、書式体裁情報に対応する解決策として、Inline XBRL 1.0が勧告となっている(2010年4月20日)。同仕様は、Web上の文書記述言語として広 く普及している(X)HTML 内に、伝統的なインスタンス文書の構成要素である数値、テキスト、 コンテキスト、ユニットなどのタグ情報を埋め込むための仕様である。埋め込まれたタグ情報 が抽出可能で、旧来のインスタンス文書を復元しやすいという特長もある。なお、ビジネス報 告情報を記載するために必要な勘定科目名(ラベル)の定義や各項目の表示順・足し合わせ計 算関係などは、タクソノミ文書に記述する。 ・タクソノミ文書    タクソノミ文書は、タクソノミスキーマ(XML Schema)とリンクベース(Linkbase)を使用し、 インスタンス文書の内容・構造・扱われ方などを定義する。XBRL2.1では、XLinkの技術によ るリンクベースを採用したことで、様々な用途に利用可能なビジネス報告情報の記述が可能になっ ている。さらに、タクソノミ文書は、以下の2種類の文書で記述する。

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電子情報開示と経営分析システム ~XBRLの視座から~ 出所:XBRL FACT BOOK 2013, p.12より転載 Fig.1 XBRL2.1 Spec.の構造 タクソノミスキーマ (XML Schema)  インスタンス文書の語彙(要素名、属性など)をXML Schemaで定義 したもので、具体的な勘定科目名や注記事項などの項目が定義される。  リンクベースへの参照は、タクソノミスキーマ中で定義される。 リンクベース (Linkbase)  タクソノミスキーマで定義された項目に対して、各項目間の関係や、 各項目に対する追加情報などをXLink の外部リンク機能を利用して定義 したもので、具体的には各勘定科目の表示順序や、計算方法、勘定科目 として表示される値のラベルを定義する。これらの定義は、タクソノミ スキーマとは別のファイルとして作成できる。 (凡例) 対  象 内    容 XBRL2.1標準 インスタンス文書 項目の値を定義 標準 Inline XBRL 文書 項目の値を(X)HTMLファイル内に埋め込み定義 拡張 XML Schema 項目のタグ名(語彙)を定義 標準 LB(P) 項目の表示順を定義(Presentation Linkbase) 標準 LB(C) 項目の値の加算式を定義(Calculation Linkbase) 標準 LB(D) 項目同士の関係を定義(Definition Linkbase) 標準 LB(L) 項目の表示ラベルを定義(Label Linkbase) 標準 LB(R) 項目の参考文献を定義(Reference Linkbase) 標準

LB(Dim) (Dimensions, Definition Linkbaseで表現)項目間の多次元データ構造を定義 拡張

LB(F) (Formula, Generic Linkbase で表現)項目間の複雑な計算関係、ビジネスルールを定義 拡張

LB(V) (Versioning, Generic Linkbase で表現)タクソノミ文書の変更箇所等を管理・定義 拡張

出所:XBRL FACT BOOK 2013, p.12より転載 XBRL 2.1 Spec. インスタンス 文書 Inline XBRL文書 XML Schema LB(P) LB(C) LB(L) LB(Dim) LB(R) LB(F) LB(V) LB(D) タクソノミ文書 値を定義 構造を定義

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ンク定義、②追加定義された応用的なリンク定義の2つに大別される。XBRLでは、これらのリン ク定義を個別のリンクベースとして、ファイルを分けて作成する。凡例とインスタンスおよびタク ソノミの構造は、Fig.1に図示するとおりである。

3.国内におけるXBRLに対する取り組み

 本章では、課税当局、行政機関、金融機関ならびに民間企業におけるXBRLに関する取り組みをピッ クアップしたい。電子情報開示に直接関係するものではないが、こうした動向をみることで今後の XBRLの展開の可能性を知ることにつながるものと考える 。 3-1 国税庁の事例  国税庁は、2004年に「e-Tax(国税の電子申告・電子納税等が可能となる国税電子申告・納税シス テム)」の運用を開始し、法人税申告の財務諸表部分のデータ形式にXBRLを採用している15。国税 電子申告におけるXBRL採用は、オーストラリア、イギリスに次ぐもので、国際的にも先駆的な試 みであるといえよう。利用にあたり、国税庁より専用ソフトウェア(e-Taxソフト)が提供されてい るが、これ以外にも市販のパッケージもディストリビュートされている。また、最近ではe-Taxのデー タ形式にXBRLが採用されていることをいかし、金融機関がインターネット経由でこれらのデータ を納税者・税理士等から受け取り、融資審査業務の効率化を図る観点からもe-Taxは注目を集めている。 3-2 日本銀行の事例  日本銀行では、金融機関等から定期的に提出を義務づけている財務データ等の授受の効率化を図 るため、 2003年よりXBRLを用いたデータ伝送の実用化に向けた検討を開始した。この後、実証実 験やツール等の開発を経て、2006年2月より、約500の金融機関との間でXBRLを用いたデータ交換 をスタートしている。  XBRLデータの授受の対象となる報告資料は、当初は「日計表」のみであったが、その後「貸出 金関係報告(2007年4月)」、「預金関連計表(2008年2月)」、「全銀分の決算状況表(2012年5月)」な ど順次対象範囲を拡大し、2013年5月には「外銀・信金分の決算状況表」についてもXBRLデータ交 換を実現している。  XBRLデータ生成に必要なツールは、日本銀行が開発し金融機関に無償で配布する。Formula Linkbaseによるエラーチェックを活用することで、金融機関は日本銀行へのデータ送信前にエラー を排除できる仕組みになっており、双方にとって報告精度の向上、事務効率の改善の効果がある。 3-3 東京証券取引所の事例  東京証券取引所では、企業情報の広範かつ迅速な伝達を目的として、「TDnet16」を構築し、1998 年4月から稼働させている。TDnetは、上場会社の適時開示情報を投資家向けに配信するシステム

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電子情報開示と経営分析システム ~XBRLの視座から~ である17。こうした中で、同取引所では、XBRLが上場会社の適時開示情報の正確性・信頼性を高め るとともに、投資者の利便性を大幅に向上させるという基本的な考え方にもとづき、2003年4月に 世界で初めてXBRLを実用化した。ただし、当時は企業がXBRL形式でTDnetに登録した決算情報を CSV形式のデータに変換して配信するにとどまっていた18  その後、TDnetは、金融庁の運用するEDINETにおけるXBRLの採用状況を踏まえ、2008年7月 よりXBRLを本格導入し、それまでCSVに変換して投資家に配信されていた決算情報は、XBRL形 式で配信されている。また、2009年1月には「決算短信」の財務諸表についてもXBRL形式で配信 を開始しているほか、2008年7月に「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」など、財務情報 以外のXBRL化にも積極的に取り組んでいる。

4.考 察

4-1 受け手と送り手のベネフィット  たしかに、XBRLは「レポーティング言語19」として技術的、財務的に多くの英知が集結されたも のであり、マークアップ言語に求められる機能を超越しているといえよう。しかし、いかに優れた 技術であっても、データの受け手と送り手の双方にベネフィットがなければXBRLが旨とする「財 務情報の作成・流通・利用20」が容易になるとは考え難い。敷衍すれば、XBRLの導入にあたり便益 の享受は受け手にあり、送り手にとっては労力や金銭的なコスト負担を強いられるにすぎない。す なわち、送り手側にデータ作成のインセンティブが働きにくいため、メリットの非対称性が生じる ところに留意が必要である。  この点について和田[2011]は、「先進技術だからと導入を急ぐことは、ある意味社会にとって迷 惑なイニシアティブであり、むしろ「出し手」側から反発を受ける可能性すらある。21」と指摘し、 早い段階からこの解決策を探り、その現実的な解として導かれたのが「Formula Linkbase22」だと 述べている。Formula LinkbaseはXBRL本来の機能ではなく、後からタクソノミの一部に組み込 まれた機能である。2004年から日本銀行とFDIC(連邦預金保険公社:Federal Deposit Insurance Corporation)で暫定的に利用が進められ、2009年に承認が認められた経緯を持つ拡張機能である。 具体的には、個々のデータ間の会計的、算術的関係に照らし、整合的であるか否か、仮に不整合があっ た場合にはその原因を視覚的にわかり易いメッセージを作成することができるものである。この結果、 レポートの作成側である金融機関にとっては、検証負担を大幅に削減できる。日本銀行の調査によれば、 人的リソースの余裕が乏しい中小金融機関や外国銀行の支店から高い評価を受けているという。  こうした配慮は、XBRL利用のすそ野をひろげるためには、データの受け手と送り手双方のメリッ トを考慮する必要があることを示唆しており、わかり易い事例である。 4-2  XBRLの投資価値とリスク  河﨑[2007]23は、XBRLの投資とリスクに言及して「投資に値する十分なベネフィットがある反面、 新しい情報技術としてのリスクも存在する」と述べている。加えてBergeron[2003]24に依拠して、

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「システムの欠陥」、「景気停滞」などリスクの潜在も指摘している。新しい技術情報としてのXBRL のリスクには、⑴予測可能なリスク、⑵不可避なリスクに区分できるものとして、とりわけ、後者 のリスクに備えて「コンティンジェンシー・プラン」の準備や、「アウトソーシング」などでリスク を回避すれば、よりベネフィットを享受できるものとしている。 4-3 会計基準と財務諸表項目の情報有用性  XBRLで作成された財務諸表は、情報利用者の自らが目的に合わせてデータを加工できる。たとえば、 US GAAPで作成された財務諸表データの配列を変更すれば、あたかもJ-GAAPで作成されたように 表示できる。  一見して便利にうかがえるが、白田[2007]25が指摘するように「XBRLは、ダウンロードした財 務諸表の勘定科目を手元で加工し、勘定科目の表示位置を変更することは可能だが、個別の勘定科 目のもつ概念やその勘定科目に含まれる個別取引の内容まで変換することはできない(p.46)」とい う弱点も併せ持っている。この点について、「たとえば連結財務諸表の作成にあたり支配力概念によ り財務諸表を作成するIFRSや日本基準と、持ち株基準により連結財務諸表を作成しているFASB基 準の会計情報について、XBRLを利用することで持ち株基準の財務諸表が、支配力基準の財務諸表 に組み替えられることはない26」として、「会計情報の開示形式が統一されること(会計実務のコンバー ジェンス)と、会計基準が統一されることは全く次元の異なることである27」との見解は当を得たも のである。  このことは、昨今の利益概念をめぐる国際的な論争と会計基準のコンバージェンスまたはアドプ ションの議論にも通じる28。XBRLでは、合計数値を計算・表示することはできるが、財務諸表の構 成要素に関する情報価値を完全に描写できない。この点は、会計基準自らが解決すべき問題であり、 テクノロジーの立場と一線を画する必要があろう。 4-4 非財務情報のXBRL化  浮田[2002]29は、会計ディスクロージャーの拡大について「情報目的の変化は、会計ディスクロー ジャーの内容(開示対象)にも大きく影響を与えており、それは従来の財務報告からビジネスレポー ティングへの拡大としてとられる」と指摘している。加えて、『ジェンキンズ報告書30』に依拠して、 ⑴未来化の視点31、⑵非財務情報重視32、⑶内部管理情報外部化33の視点として3方向の座標軸を提 示している。一見して、XBRL化の対象書類や対象項目の範囲が拡大されることは、利用者の側に 立てば望ましいものと思われる。単なるマークアップ言語の機能にとどまらず、セマンティクスに まで踏み込んだXBRLは今後さらに対象範囲をひろげるであろう。しかし、数値情報以外の項目す なわち非財務情報に関する対象範囲の拡大には注意を要する。  土屋[2012]34によれば、非財務情報については、定量情報と定性情報に大別され、前者の例と してCO2換算量や特許取得件数があり、後者の例として経営者による将来の見通しが挙げられてい

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電子情報開示と経営分析システム ~XBRLの視座から~ る。定量情報に関しては、タクソノミの開発は比較的容易であろう。一方、定性情報については情 報が叙述的であるがゆえ、テキストをそのまま開示するものになる。よって、利用者の利便性が向 上するとは考え難い。この点について坂上[2011]35は、「XBRLタクソノミが作成できることと、 XBRL形式により記述されたデータが十分に活用できることとは同義ではなく、単に情報をXBRL 化することは無意味であり、何をどのようにXBRL化するのかを吟味しなければ十分な成果が得ら れないだろう。同時に、無駄なコスト負担を招き、誰もこの恩恵を受けることができない結果にな りかねない(p.195)(筆者要約)」と述べている。  他方、白田[2007]は、「非財務情報については当初のXBRLの開発趣旨から逸脱しており、記 述されたテキストデータにより構成されている場合がほとんどである。アクセシビリティの点では HTMLとXBRLのいずれかを用いてもその効用に大きな差異はない。XBRLはあくまで、数字で記 載された情報についてタグ付けることにより個々の数字に意味を持たせることが可能となり、特定 の勘定科目の抽出、分析を容易にするとともにアクセシビリティの向上にも貢献することを目的と して開発されたものである36」と見解を示している。  昨今では、ハードウェア・ソフトウェアのめざましい発展にともない、テキスト・マイニングな ど秩序のないデータ群からあらたな情報価値を見出す技術が身近になっている。非数値情報といえ ども、XBRLタグで分類された情報として貴重なリソースとなり得る。周知のように、いわゆる利 用者指向会計理論の下では「事象理論」と「価値理論」の立場が認められてきた37。ただし、XBRL の所期の目的と「データベース開示」とは一線を画すという点に留意すべきであろう38

むすび

 XBRLは、企業が開示する情報の基礎ともいうべき「財務情報」を標準化して開示できるため、 証券市場の機能向上はもとより、情報作成者である企業の経営そのものにインパクトを与えるもの として注目されてきた。国内の動向を確認したところ、XBRLはEDINETやTDnetといった情報開 示を目的としたシステムのみならず、税務申告用データや日本銀行のデータ伝送用フォーマットと しての利用にまで発展している状況を確認した。未だ普及が途上段階ではあるが、システム環境に 依存しないデータ構造や計算理論構造の定義が可能であるため、今後ますます企業間の比較可能性 と検証性が高まることが期待される。  本論文では割愛したが、TDnetでは2014年から新技術「Inline XBRL」が導入され、新タクソノ ミで提出されたデータは閲覧が可能になっている。これまでのXBRLシステムは、専用の閲覧ソフ トを要するところがシステム普及の阻害要因のひとつでもあった。しかし、同システムではWebか らの閲覧のみならず、「XHTML」により加工が可能なフォーマットとして利用できるようになって いる。  本論文のむすびとして、特に財務諸表の数値情報以外の対象情報の範囲拡大にともなう情報価値 について再考をうながしたい。ここにある問題は、財務報告の機能という基本的な問題に立ち返る ことである。たとえば、EBIT/EBITDA、EVAやその他のプロフォーマ利益などは、たしかに情

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た情報を積極的に開示する情報であるか否かは疑問が残るところである39。「業績とはなにか?」と いう議論は国際的な論争に発展し、IASB/FASBの共同プロジェクトのさきがけとなった事実は記 憶に新しい。この問題は、未だ根本的な解決にはいたっておらず、国際的な財務報告基準の統一が 足踏みする要因になっている。  加えて、XBRLが表現できる情報は単なる表示にとどまらず、利用者がデータを自由に加工でき る自由度に富んだデータである。しかし、開示形式がデジタルであれアナログであれ、企業自らが 開示する財務数値は、経営者の見積もりや見通しを含む認識・測定プロセスの描写であるからこそ、 ここに情報としての価値が見いだせることを看過してはならない。 注:

1 Electronic Data-Gathering, Analysis, and Retrieval system

2 この点についての詳述は本論文の趣旨と異なるため深く立ち入らない。なお、坂上[2007], pp.58-60に詳しい。 3 『有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム』(Electronic Disclosure for Investors' NETwork) 4 金融庁[2011] 5 ともに期間は、事業年度(7月から翌年6月末)。 6 金融庁「有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システムの次世代システム」 7 以後、本論文においては、特段のことわりがない限り、2013年9月17日稼働以後のEDINETを「次世代EDINET」、これ 以外のEDINETを「従前EDINET」と使い分ける。 8 EDGARにおいても、2004年9月にSECはXBRLへの対応に関するパブリック・コメントを募り、翌2005年2月より XBRLによる任意提出プログラムが開始されている。(坂上[2007], p.60) 9 金融庁[2013](http://www.fsa.go.jp/search/20130821.html)   参考として、公開買付届出書、大量保有報告書等が新たにXBRLの対象になっている。 10 筏井大祐[2014], pp.1-5 に詳しい。

11 もともとは、マークアップ言語「SGML(Standard Generalized Markup Language)」の簡素化を企図した言語である XMLの仕様制定が最終段階に入った1997年末にIT業界のアナリストたちがXMLをアプリケーション間のデータ交換フォー マットとしてBusiness to Business(BtoB)への利用可能性の主張を端緒に一般のデータ交換の形式として注目を集める ことになった。

丸山宏[2011], p.1

12 XBRL Japan『XBRL FACT BOOK 2013』, p.10

13 国際組織のXBRL International から、2008年7月2日付で「XBRL 2.1 Specification」が公開されている。 14 導入事例に関しては、XBRL Japanを随時引用・転載した。

  (https://www.xbrl.or.jp/modules/pico5/index.php?content_id=4, 最終アクセス日:2014年11月25日) 15 e-Tax運用開始時にはSpec.2.0が採用されていたが、2008年9月から2.1.Specに対応している。

16 Timely Disclosure Network:適時開示情報伝達システム

17 具体的には、上場各社が適時開示情報をネットワークをとおして登録し、当該情報が各取引所のホームページや「適時 開示情報閲覧サービス」、「情報ベンダー」等を通じて投資家に配信される。TDnetは、東京証券取引所のみならず大阪、 名古屋等の取引所および日証協のグリーンシート銘柄など、日本の証券市場に上場する全ての上場会社の適時開示情報 がTDnetを通じて配信されている。 18 対象となる決算情報は、「決算短信サマリー情報」、「業績予想の修正」、「配当予想の修正」などである。 19 本論文中において筆者が便宜的に用いる語であり、技術的・専門的用語ではない。 20 坂上学[2007], p.4 21 和田芳明[2011], pp.16-17 以下、随時要約・引用する。 22 前章の日本銀行の事例を参照。また、Formula Linkbaseについては、第2章凡例を参照。 23 河﨑照行[2007], pp.6-7 24 Bergeron[2003], p166 25 白田圭子[2007], p.46 26 白田圭子[2007], p.46 27 白田圭子[2007], p.46 28 FASBの包括利益は、純利益に「SFAS 130(包括利益の報告)」において規定されたOCIを加算して求める構造になって いる。これに対して、IASBのフレームワーク上の純利益計算は、(広義の)収益と(広義の)費用の差額を包括利益と

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電子情報開示と経営分析システム ~XBRLの視座から~ して求めたうえで、IFRSの各基準で規定されたOCIを差し引く仕組みになっている。よって、これら二つの利益概念は 同じく包括利益または純利益といっても情報の意義は異なる。IAS 1(2007年改訂)では、形式的に純利益にOCIを加 算して包括利益を導く構造になっているが、当然にOCI項目が両基準間で統一されていなければ異なった利益数値が導 かれることに留意が必要である。    なお、2013年7月にIASBから「フレームワークの見直し」(IASB[2013])に関するディスカッション・ペーパーが公表 され、純利益重視の旨が検討されているが、本論文出稿時点で結論は出ていないようである。 29 浮田泉[2002], p150 30 AICPA[1994], p54 31 「経営計画、機会やリスク情報、および測定の不確実性を含めた将来指向的情報を重視する」浮田[2002], p.150 32 「重要な事業プロセスを説明する非財務的測度を含めた、長期的な価値形成に関する情報を重視する」浮田[2002], p.151 33 「事業管理目的の情報と外部報告目的の情報を同列に扱う」浮田[2002], p.151 34 土屋和之[2012], p387 35 坂上学[2011], p.195 36 白田圭子[2007], p.41(筆者要約) 37 Sorter[1969],pp.12-19(邦訳引用:河﨑照行[1997],pp.362-363) 38 「情報利用者の意思決定について究極的には、現行の複式簿記の枠組みも必要なく、会計はデータベースを提供すればよ くなるかもしれない」との指摘もある。倉田幸路[2004], p. 32 39 2002年10月にSECは、これらの情報は「GAAPに準拠していない。比較可能性がない。」ことを理由にGAAPとどのよう に異なっているのかを説明することなく財務業績を報告してはならないとする規則を提案した事実もある。田中健二[2003], p.58 引用・参考文献 阿部仁[2008]「EDINETにおけるXBRLの導入~新EDINETの概要と課題~」『経営情報学部論集』22-1/2, 中部大学 筏井大祐[2006]「財務インフラとしてのXBRL」『情報処理学会研究報告』128, 情報処理学会 筏井大祐[2014]「新EDINETの概要と企業のディスクロージャーに与える影響」『KPMG Insight』Vol.5 稲村博央・庄司裕子[2009]「XBRLを利用した財務分析システムとそのインタラクション支援」『知能と情報』Vol.21 No.3, 日本知能情報ファジィ学会 浮田泉[2002]「会計ディスクロージャーと情報テクノロジー」『関西国際大学研究紀要』第3号 河﨑照行[1997]『情報会計システム論』中央経済社 河﨑照行[2007]「XBRLベースの財務報告-意義と課題-」『甲南会計研究』No.1, 甲南大学 倉田幸路「会計理論の変遷と利益概念」『會計』165巻第1号, 2004年, 記虎優子[2005]『会計ディスクロージャー論』同文舘 坂上学[2007]『会計人のためのXBRL入門』同文舘 坂上学[2011]「非財務情報開示におけるXBRL導入の現状と課題-GRIとWICIの取り組みを題材として-」『IFRS時代の最 適開示制度―日本の国際的競争力と持続的成長に資する情報開示制度とは-』千倉書房 白田圭子[2007]「会計情報開示への国際的対応-XBRLの取り組み-」『国際会計研究学会年報2007年度』国際会計研究学会 高橋規生・山岸利行・松下晶子・森本浩司[2005]「動き始めた財務会計データ標準」『情報処理』46巻3号, 情報処理学会 田中健二[2003]「米国における報告利益数値の管理」醍醐聡責任編集・今福愛志編著『企業統治の会計』東京経済情報出版 土屋和之[2012]「電子開示の動向と課題」『千葉商大論叢』第49巻2号 ディスクロージャー研究学会編[1999]『現代ディスクロージャー論』中央経済社 丸山宏[2011]「XMLの勘所 特集号について」『情報処理学会デジタルプラクティス』Vo.2 No.1, 情報処理学会 矢部孝太郎[2007]「電子広告ならびにe-文書法と会計」山本誠編著『情報社会の会計課題』中央経済社 湯浦克彦[2004]『XML技術とXBRLデータ標準を用いた インターネット財務情報システム』ソフト・リサーチ・センター 和田芳明[2011]「データレポートのためのXBRL」『情報処理学会 デジタルプラクティス』Vol.2 No.1 拙著[2014]:鈴木基史・藪下保弘「IFRSの利益概念の変容」『富大経済論集』60巻第2号, 富山大学経済学部 金融庁[2011]『有価証券報告書等に関する業務の業務・システム最適化計画』(2011年3月31日最終改定)」 金融庁[2013]『次世代EDINETタクソノミ更新概要』(2013年8月21日発表、同年11月1日更新)(http://www.fsa.go.jp/ search/20130821.html)

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