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<会員紹介>岡山県医師会学術奨励賞 (平成18年) を受賞して

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Academic year: 2021

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受賞テーマについて

 この度,副腎外より発生した褐色 細胞腫による,副腎皮質刺激ホルモ ン(ACTH)の過剰分泌「異所性 ACTH 分泌」を来した稀な症例を経 験し,著しい高血圧・糖尿病を来し た病態について臨床内分泌学的・分 子生物学的な検討を行い論文発表い たしました(Am。 J。 Hypertens。 18: 1364ン1368,2005).この報告が臨床 医学における研究業績として岡山県 医師会学術奨励賞の受賞となりまし た.  このケースは10年来の高血圧歴を もつ55歳の日本人女性で,急速な経 過で全身倦怠感・口渇・頭痛・発汗 などの自覚症状の増悪と,満月様顔 貌・筋肉の萎縮を呈し,高血圧・頻 脈および高血糖(>500㎎/ )と著 明な低カリウム血症(<2mEq/l) を認めました.内分泌検査ではカテ コラミンの過剰分泌,下垂体 ACTH と副腎皮質ステロイド分泌の著明な 増 加 を 検 出 し ま し た . と く に ACTH・コルチゾール分泌には正常 な日内リズムを欠いており,デキサ メサゾン抑制反応の消失,メチラポ ン・CRH テストでの ACTH 反応の 欠如などから,臨床的に褐色細胞腫 でありながらクッシング症候群を合 併した特異的な病態であると考えら れました.血漿中の ACTH 分子を ゲル濾過法によって分子量別に分離 し,2種の抗体を用いたラジオイム ノメトリックアッセイ(IRMA)法 による解析を行ったところ,正常よ りも大分子量の ACTH 分子の存在 が証明され,蛋白プロセッシングの 不良な ACTH 分子の存在が認めら れました.腹部 CT では左腎の下極 に約5㎝大の腫瘍を認め,同部位に は褐色細胞腫に特異的な MRI のT 2高信号と MIBG シンチの限局し た高集積を認めました.両側副腎は びまん性の腫大を呈するも脳下垂体 には異常所見を認めず,下垂体病変 によるクッシング病の存在は否定さ れました.インスリンの大量投与に 加 え て 副 腎 皮 質 酵 素 阻 害 薬 metyrapone とα遮薬 doxazosin の 併用により,高コルチゾール血症と 高血圧を是正したのち腎下部の腫瘤 の摘出を行いました.摘出腫瘍組織 には,クロモグラニン・シナプトフ ィジン蛋白に加えて ACTH が強く 発現しており,ACTH 産生性傍神経 節 腫 paraganglioma の 診 断 に 至 り ました.さらに腫瘍組織の摘出後に 腫瘍細胞を分離・初代培養して内分 泌活性を経時的に測定したところ, 腫瘍細胞からの ACTH とカテコラ ミン両者の過剰産生能が証明されま した.術後は速やかに血中 ACTH・ コルチゾールレベルが正常化し,全 身状態も改善いたしました.このよ うな異所性 ACTH 症候群の約3% は褐色細胞腫に関連することは知ら れておりますが,今回のケースのよ うな副腎外の褐色細胞腫による異所 性 ACTH 症候群は世界的に例を見 ず,この内分泌腫瘍について臨床 的・基礎的側面の両方から病態を掌 握できたことは貴重であると考え報 告いたしました.

個人プロフィールなど

 私は学生時代より内分泌代謝学に 興味をもち,平成4年に岡山大学医 学部を卒業後,旧第三内科へ入局し 医学研究科へと進みました.カリフ ォルニア大学サンディエゴ校への留 学後は,とくに細胞増殖因子である 骨 形 成 蛋 白( bone morphogenetic protein:BMP)の内分泌作用に着目 して基礎研究を進めております. BMP は TGFンケ superfamily に属す る細胞増殖因子の一群で,元来は異 所性に骨化を生ずる物質として発見 されました.これまでの基礎研究に より,BMP システムは卵巣―下垂

岡山県医師会学術奨励賞(平成18年)

を受賞して

大塚 文男

(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 腎・免疫・内分泌代謝内科学 ) 岡山医学会雑誌 第119巻 September 2007, pp。 215-216

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216 体でのオートクライン・パラクライ ン機序を介して,生殖内分泌制御に 重要な役割を果たすことが解ってき ました.この BMP 分子が卵巣ステ ロイドの産生・分泌を調節している という発見に端を発し,他の内分泌 臓器,副腎・下垂体・甲状腺などで も同様の機能性 BMP システムが存 在しており,ホルモン分泌調節に深 く関わっていることが少しずつ明ら かになってきました.私は内分泌学 における臨床と研究に従事しており ますが,この領域は研究と臨床とが 密に関連しているという実感があり ます.実際の症例に学ぶ内分泌疾患 の臨床から得た知識・アイデアをも とに,いかにしてその疑問点に迫れ るか,実験結果をどのように臨床に フィードバックできるかという点を 考えながら研究を進めております. 内分泌で取り扱ういわゆるホルモン は,小さい分子量でありながら強い 生理活性をもつ分子ですが,内分泌 因子が古典的ホルモンから様々な組 織・細胞で分泌される成長因子・サ イトカインにおよぶオートクライ ン・パラクライン分子として認識さ れるようになった昨今,BMP もひ とつの内分泌因子として重要な生命 現象に関与していると考えられ,そ の基礎研究に邁進しております.  今回の学術奨励賞論文は,内分泌 内科のみならず,内分泌外科・病理 部との共同作業による研究成果であ り,共著の皆様に,この場をお借り して謝辞を申しあげます. 平成19年4月受理 〒700ン8558 岡山市鹿田町2ン5ン1 電話:086ン235ン7235 FAX:086ン222ン5214 Eンmail:fumiotsu@md。okayama-u。ac。jp

参照

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