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ROSE リポジトリいばらき ( 茨城大学学術情報リポジトリ ) Title 対人不安傾向が会話時の注視パターンに及ぼす影響 Author(s) 竹蓋, 春奈 ; 平山, 太市 ; 勝二, 博亮 Citation 茨城大学教育学部紀要. 教育科学, 64: Issue Date 20

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お問合せ先

茨城大学学術企画部学術情報課(図書館)  情報支援係

http://www.lib.ibaraki.ac.jp/toiawase/toiawase.html

Title

対人不安傾向が会話時の注視パターンに及ぼす影響

Author(s)

竹蓋, 春奈; 平山, 太市; 勝二, 博亮

Citation

茨城大学教育学部紀要. 教育科学, 64: 163-174

Issue Date

2015

URL

http://hdl.handle.net/10109/12605

Rights

このリポジトリに収録されているコンテンツの著作権は、それぞれの著作権者に帰属

します。引用、転載、複製等される場合は、著作権法を遵守してください。

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対人不安傾向が会話時の注視パターンに及ぼす影響

* 竹蓋春奈 **・平山太市 ***・勝二博亮 ****

(2014 年 11 月 28 日受理)

Eye Gaze Patterns during Conversation in Social Anxiety

*

Haruna TAKEHUTA**, Taichi HIRAYAMA***, Hiroaki SHOJI****

(Received November28, 2014) はじめに  他者の視線は重要な社会的情報であり,他者の視線への応答性は意図理解や共感といった社会性 の発達において重要な役割を果たしている。しかし,自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder: ASD)者では人の顔,特に目を見ない傾向がみられるように,顔表情認知の際に特異的 な注視パターンを示すことが指摘されており(Pelphrey et al., 2002),このことが他者との社会的 コミュニケーションにおいて困難を示す一因になっていると考えられている。  しかし,ASD者であれば必ずしも目を見ないわけではなく,アイコンタクトが可能な者も一定 程度いることは知られている(勝二・羽二生,2011)。相手の目を見ない傾向にはASD内でも大 きな個人差がみられるとされており,それは自閉症としての特性というより,対人不安の高さな どの二次的な障害の程度と関連していると指摘されている(Corden et al., 2008)。実際に,ASD者 における41.9%が不安障害を併せもっており(3カ月有病率),中でも社交不安障害という対人場 面における過剰な不安や緊張を主訴とする精神疾患が多くみられることが示されていることから (Simonoff et al., 2008),対人不安の傾向の強さがASD者にみられる特異的な視線行動に影響を及 ぼしている可能性が考えられる。  対人不安の傾向と注視パターンの関連を検討した先行研究において,Wieser et al. (2009)は不安 が高い者ほど目を見る傾向があると報告している。一方で,Moukheiber et al. (2010)は不安が高い 本研究の一部は日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(B)(課題番号 23330271,研究代表者:東條吉邦) の助成を受けて行われた.

千葉県立銚子特別支援学校 ( 〒 288-0815 千葉県銚子市三崎町 3-94-1; Chiba Prefectural Choshi Special Support School, Choshi 288-0815 Japan).

茨城大学大学院理工学研究科 ( 〒 310-8512 水戸市文京 2-1-1; Graduate School of Science and Engineering, Ibaraki University, Mito 310-8512 Japan).

茨城大学教育学部障害児生理学研究室 ( 〒 310-8512 水戸市文京 2-1-1; Laboratory of Physiology, College of Education, Ibaraki University, Mito 310-8512 Japan).

* ** *** ****

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者ほど目を見ない傾向があると報告しており,研究間で結果が一致していない。また,いずれの研 究においても「表情の変化」がみられない静止画の顔写真を刺激として用いているという点で問題 があるといえる。加えて,Freeth et al. (2013)は,画面上の顔刺激と比べて,実際の対人場面でア イコンタクトによる影響がみられたと報告しており,実際に対面する人物の方が視線を引き付ける のにより効果的であることが示唆されている。  以上のことから,対人不安の傾向との関連をみていく上で,実際の人物と対面した際の注視パター ンを検討する必要があると考えた。特に,話し相手の表情が絶えず変化する会話場面は対人不安障 害をもつ者にとって強い刺激となることから(朝倉,2012),注視パターンへの影響もより顕著に みられると推測される。  そこで,本研究では健常大学生を対象とし,視線追跡装置を用いて,実際の対人場面における会 話時の注視パターンを調べ,不安尺度得点との関連性をみていくことで,対人不安傾向が会話時の 注視パターンへ及ぼす影響について検討することを目的とした。その際,自閉傾向との関連性につ いてもあわせて検討していくとともに,対象者が聞き手や話し手となる発話場面を設定し,対面し て会話する人物の視線方向の違いが注視パターンに及ぼす影響についてもそれぞれ検討していく。 方法 1.対象者  本研究では,健常大学生20名(女性10名,男性10名,平均年齢21.2歳)を対象とした。対 象者はいずれも実験者(第一著者)と初対面ではないが,会話をしたことがほとんどなく,親 密な関係ではないという基準に当てはまる者を対象とした。実験後には新版STAI状態‐特性 不安検査(State-Trait Anxiety Inventory-JYZ; 肥田野ら,2000),社会的回避苦痛尺度(SADS:

Social Avoidance and Distress Scale; 石川ら, 1992),そして自閉症スペクトラム指数(AQ:

Autism-Spectrum Quotient; 若林ら,2004)の各質問紙へ回答を求めた。なお,様々な状況下で変化する一 過性の状態不安を明らかにする新版STAIの状態不安尺度に関しては実験開始前にも実施した。表 1に対象者一覧と各質問紙の得点を示す。  なお,本研究は茨城大学生命倫理審査委員会の承諾を経て行われた。計測に先立ち,それぞれの 対象者に実験目的と内容について説明を行い,文書による同意を得た。 2.装置  本研究における刺激呈示制御および視線移動測定には,トビー・テクノロジー社製のTX300ア イトラッカーを用いた。この装置はアイトラッキング装置と液晶ディスプレイから構成される視線 追跡装置である。アイトラッキング装置から赤外線を照射し,対象者の角膜に映る反射光を利用し て,非接触での視線追跡が可能である。また,アイトラッキング装置本体と液晶ディスプレイが分 離式であるため,アイトラッキング装置単体での使用により実際に対象者の眼前にいる人物や物体 等を刺激とした注視パターンを計測することができる。本研究では,対象者が実験者と対面した状 態で会話をしている際の注視パターンの計測を行ったが,その際にシーンカメラの設定もあわせて

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行った。シーンカメラでは,対象者と対面する実際の人物等を,対象者の背後から動画撮影し,そ の動画記録と視線位置データを重ね合わせることで対象者が対面する人物等のどこを見ていたのか を分析することができる。シーンカメラにはWebカメラ(Microsoft社製LifeCam Studio)を用いた。 また,刺激の出力および視線位置データの記録は,ノートパソコン(DELL社製 Precision M600) にインストールされた専用ソフトウェアのTobiiStudio(version3.1.2)を使用して行われた。 3.手続き  視線計測を行う前に,対象者に新版STAIの状態不安尺度に関する質問項目への回答を求めた。 その後,アイトラッカーが設置された机を挟んで実験者と対面する位置に置かれた椅子に着席して もらい,実験者との距離が約150cmとなるよう椅子の位置を調整した。トラッキングステータス 画面にて視線追跡のために照射された赤外線による角膜反射光を計測できているか確認し,追跡可 能範囲から外れている場合には,対象者の姿勢や視線追跡装置およびWebカメラの位置を変えて 範囲内に収まるように調整した。キャリブレーション試行において,白色のキャリブレーションボー ドを対象者から約180cm離れた位置に設置し,実験者が口頭で示した箇所を順番に注視していく ことが求められた。キャリブレーションボード上には左上,左下,右上,右下,中央の計5か所に

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直径1.5cmの赤色円が貼付されてあり(図1右),各四隅にある赤色円の距離は縦30cm(視角9.5°), 横50cm(視角15.8°),対角線60cm(視角19.0°)であった。視線追跡装置により検知した注視 位置と赤色円の呈示位置が一致し,測定精度が十分であることを確認した上で本試行を実施した。  本試行では,実験者と対象者が対面した状態で座り,実験者が事前に示したテーマに基づいて互 いにそのテーマ内容に沿った会話をすることが求められた。なお,実験者自身が刺激材料となるた め,実験者の髪型,服装,会話内容等は対象者間で差異が生じないよう統一した。実験者が着座し て対象者と対面した時点で計測を開始した。実験者より「○○について話をしていきます」と会話 のテーマを対象者に伝え,実験者からテーマに沿った話を始めた後(実験者発話),「○○さんもお 願いします」と対象者に話をするように促した(対象者発話)。対象者には,相槌を打つ,身ぶり 手ぶりを交えて話すなどのように,極力自然な状態で会話をするように求めた。なお,事前に会話 の長さを統制するために,1つのテーマにつき30秒程度で話すよう教示した。計測終了後,対象 者に新版STAI(状態不安および特性不安尺度),SADS,AQの各質問紙への回答を求めた。すべ ての回答が終了した後,実験に関して内省報告を行ってもらった。 4.条件  前述のように,事前に示された各テーマ内容に基づいて,会話の発話者が実験者と対象者の場面 に分けられた。さらに,会話中に実験者が対象者の目に視線を向けるか,あるいは回避するかによっ て対象者の視線行動への影響を検討するため,視線方向に関して「直視」と「逸視」の2条件を設 定した。「直視」では,会話中,実験者は対象者の目を見続けている状態であり,「逸視」では,実 験者は対象者の胸元あたりを見つめるようにした。会話のテーマは,対象者にとって身近で答えや すい内容を設定した(表2)。4つのテーマ(a), (b), (c), (d)のうち,(a)と(b)を実験の前 半に,(c)と(d)を実験の後半に実施した。カウンターバランスをとるために,半数の対象者で 前半の2テーマを「直視」,後半の2テーマを「逸視」とし,残りの半数は前半に「逸視」,後半に「直 視」と視線方向を入れ換えて実施した(表3)。実験者が視線を変えるタイミングは前半の2テー

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マにおける対象者発話が終了し,実験者が後半のテーマを呈示し始める時点とした。 5.分析  記録された視線データから,TobiiStudioの解析ツールを用いて各対象者の関心領域(AOI)にお ける分析対象区間の総注視時間を求め,平均総注視時間を算出した。AOIの設定については,刺 激である実験者の「顔(毛髪部も含む)」と「体」,それら以外の「背景」の3領域とした(図1左)。 さらに,「顔」領域内への視線データについては,「目」「鼻」「口」の3領域にAOIを設定した(図 1右)。「目」領域は両眉と両眼を含む範囲,「口」領域は実験者の会話時における口型の動きを含 む範囲,「鼻」領域は縦方向が上記の「目」と「口」の各AOIに挟まれた範囲で,かつ横方向は実 験者の鼻が含まれる範囲とした。なお,視線計測中に実験者は自然な会話状態を維持するため,発 話や頷き場面等でわずかに体動が生じる。そのため,体動に合わせてAOIも移動させることで正 確な視線データの分析を実施した。  分析区間は,4つの会話テーマごとに,「実験者発話」と「対象者発話」に分け,計8区間について それぞれ話し始めてから15秒間を分析対象区間とした。対象者の平均発話時間は45.6秒であったが, テーマによっては対象者の話の長さが15秒に満たなかった区間もあり,その場合には分析対象から除 外した。これらの平均総注視時間のデータに関して,発話場面(実験者発話・対象者発話)× 視線方 向(直視・逸視)×AOI(顔・体・背景)× 性別(男性・女性)の4要因分散分析を実施した。なお, 球面性の仮定が棄却された場合にはGreen-house Geisserの ε により自由度の調整を行った。全対象者 および男女別に分けた「顔」と「目」領域への総注視時間に関しては,新版STAI(状態不安および特 性不安尺度),SADS,AQにおける各得点との間でPearsonの積率相関係数を算出した。 結果 1.各 AOI の総注視時間  分析区間における各AOIへの平均総注視時間を比較すると,発話者のいかんにかかわらず,「顔」

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領域への注視が最も長く,次いで「背景」領域が長かった(図2左)。「体」領域の注視は最も短く, わずか1秒程度であった。そこで,発話場面(実験者発話・対象者発話)× 視線方向(直視・逸 視)×AOI(顔・体・背景)× 性別(男性・女性)の4要因分散分析を実施したところ,発話場面 とAOIの要因間でのみ交互作用が認められた(F (1.069, 19.249)= 55.754, p< .001, ε =.535)。発 話場面ごとにAOI間で単純主効果検定を実施した結果,発話者のいかんにかかわらずAOIの要因 に主効果が認められた(実験者発話:F(2, 38)= 109.110, p<.001; 対象者発話:F (1.030, 19.562) = 31.967, p<.001, ε =.515)。Bonferroniの検定による多重比較を実施した結果,いずれの発話場面 においても,AOIの各領域間で有意差が認められた(p<.05)。さらに,AOIごとに発話場面間で 単純主効果検定を実施したところ,「顔」と「背景」の領域において発話場面間でそれぞれ有意差 が認められた(顔:F (1, 19)= 60.851, p<.01; 背景:F (1, 19)= 38.746, p<.01)。これらの結果を まとめると,会話中の発話者のいかんにかかわらず,会話対象となる実験者の「顔」に最も長く注 視していたが,発話場面間で比較すると,対象者が聞き手となっている実験者発話場面の方が話し 手となっている対象者発話場面よりも「顔」への注視時間が長かった。一方で,「背景」への注視 に関しては対象者発話場面の方が実験者発話場面よりも有意に延長していた。  顔内部への注視については,「目」への注視時間が最も長く,次いで「鼻」の領域が長かった(図 2右)。最も短かったのは「口」の領域で,注視時間は1秒未満であった。そこで,発話者(実験 者発話・対象者発話)× 視線方向(直視・逸視)×AOI(目・鼻・口)× 性別(男性・女性)の 4要因分散分析を実施したところ,発話者とAOIの要因間でのみ交互作用が認められた(F(2, 38) = 9.666, p<.001)。発話者ごとにAOI間で単純主効果検定を実施した結果,発話者のいかんにかか わらずAOIの要因に主効果が認められた(実験者発話:F(1.180, 22.428)= 18.191, p<.001, ε = .590; 対象者発話:F(1.379, 26.202)= 15.174, p<.001, ε = .690)。Bonferroniの検定による多重比 較を実施した結果,いずれの発話場面においても目と口,目と鼻の領域間で有意差が認められた (p<.05)。さらに, AOIごとに発話場面間で単純主効果検定を実施したところ,「目」の領域にのみ 発話場面間で有意差が認められた(F(1, 19)= 9.166, p<.01)。これらの結果から,会話中の発話

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者のいかんにかかわらず,会話対象となる実験者の「目」への注視が最も長かったが,発話場面間 で比較すると,実験者発話場面の方が対象者発話場面よりも「目」への注視時間が長かった。 なお,視線方向(直視・逸視)や性別の違いによる各AOIの平均総注視時間に顕著な影響はみら れなかった。 2.総注視時間と不安尺度得点との相関  最もよく注視していた「顔」領域,そして顔内部の中でも最もよく注視していた「目」領域に注 目し,全発話場面(実験者発話+対象者発話),実験者発話場面,対象者発話場面ごとの総注視時 間を全対象者,男性,女性別にそれぞれ算出し,各不安尺度の得点との間でPearsonの積率相関係 数を求めた(表4)。その結果,STAI特性不安尺度とSADSの得点についてはいずれの総注視時 間でも有意な相関はみられなかった。

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 一方,STAI状態不安尺度については,会話後に評定した得点に関して性別ごとの総注視時間と の間に有意な相関が認められた。すなわち,男性の場合には,全発話場面および対象者発話場面 における「目」領域への総注視時間との間に有意な負の相関が認められた(全発話場面: r = -0.73, p<.05; 対象者発話: r = -0.81, p<.05)。女性については,いずれの発話場面においても「顔」領域へ の総注視時間との間に有意な正の相関が認められた(全発話場面: r = 0.84, p<.01; 実験者発話: r = 0.84, p<.01; 対象者発話: r = 0.76, p<.05)。図3に全発話場面での顔領域への総注視時間の散布図を 男女別に示す。 3.総注視時間と AQ 得点との相関  不安尺度と同様にAQ得点に関しても総注視時間との間でPearsonの積率相関係数を算出した。 その結果,実験者発話場面における「顔」領域への総注視時間に関して有意な負の相関が認められ た(r = -0.46, p<.05)。図4にその散布図を示す。 考察 1.発話場面や視線方向が注視パターンへ及ぼす影響  対人会話中において各AOIへの平均総注視時間を比較した結果,発話場面のいかんにかかわら ず「顔」を最もよく注視しており,「顔」の中でもとりわけ「目」に視線を向けていた。この結果 は,静止画の顔刺激を用いたPelphrey et al. (2002)の報告と一致しており,聞き手や話し手といっ た話者交代が生じても,健常者は顔,そしてその中でも特に目に注目することが確認された。しかし, 各AOIの平均総注視時間について発話場面で比較すると,対象者発話よりも実験者発話の方が「顔」 領域や「目」領域への注視時間が長く,逆に「背景」領域への注視時間が短かった。これらの結果 から,相手の話に対して聞き手に回っている際には顔,その中でもとりわけ目を注視する傾向があ るのに対して,自分が話し手に回っている際には顔への視線をずらして背景に視線を向けることが

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示唆され,この結果はFreeth et al. (2013)の先行知見を裏付けるものとなった。

 アイコンタクトは相手との意思疎通を行うために重要な役割をもっており,会話場面においては 発話者との心理的距離を縮めるために,アイコンタクトが頻繁に行われることは昔からよく知られ

ている(Argyle and Dean, 1965)。そのため,顔の中でも,特に「目」領域への注視時間が長くなっ

たものと推察される。一方で,対象者発話場面において「背景」領域への注視時間が延長していた 点に関して,発話時における対象者の視線に注目すると,聞き手時に比べて壁や天井の方への視線 を移動させる動きが頻繁に認められた。この視線移動について内省報告で確認したところ,ほとん どの対象者が「自分(対象者)が話をする場面では何を話すか考えなければならないので,壁や天 井の方などに視線を移動させてしまう」と回答していた。一般的に,考え事をしたり,思い出した りする場面で視線が上に向いてしまう傾向がみられるが,実験心理学的研究においても,会話場面 で投げかけられた質問に対する答えを考えたり,思い出そうとしたりするときに視線回避行動が頻 繁にみられることが報告されており,その背景には視線回避によって視覚情報を遮断し,それによっ て認知的負荷を軽減させる効果があると考えられている(Doherty-Sneddon and Phelps, 2005)。し たがって,本研究においても自らが話し手になり,提示されたテーマに基づいた話をまとめていく 際に,顔以外の背景領域に注視することで認知的負荷の軽減を図ったものと示唆された。  一方で,対面する実験者の視線方向の違いは対象者の平均総注視時間に影響を及ぼさなかった。 この点に関しては,対象者の目から視線を回避する逸視事態よりも目を直視する事態で顔への注 視時間が長くなると報告したFreeth et al. (2013)の知見と矛盾するものであった。McCarthy et al. (2008)によれば,日本人は欧米人に比べ,会話場面におけるアイコンタクトの頻度が少ないこと を報告している。つまり,本研究で対象とした日本人はアイコンタクトをあまりとらない傾向があ るため,Freeth et al. (2013)が対象とした欧米人に比べ,視線方向の違いによる注視パターンへの 影響が見られなかったのかもしれない。しかし,このような文化的違いによる影響を明らかにして いくためには,国際比較研究を行うなどさらなる検討が必要であろう。 2.対人不安傾向が会話中の注視パターンに及ぼす影響  新版STAIとSADSの得点に関して「顔」や「目」領域への総注視時間との相関を調べた結果,

STAIの特性不安尺度とSADSについては注視時間との間に有意な相関がみられず,Moukheiber et al. (2010)による先行研究の結果とは一致しなかった。このように相関が見られなかった要因とし て,本研究の対象者が全て健常者であり,いずれの不安尺度の得点も標準値に近かったことが考え られる。また,Moukheiber et al. (2010)は,社交不安障害者において視線回避が起こりやすいの は怒り顔や嫌悪表情であると報告しているが,本研究では,日常生活に近い自然な会話場面を想定 して実施しており,会話中には話し手である実験者が笑顔の受容的態度で応じていたため,対人不 安の傾向が反映されにくかったのかもしれない。    会話後に実施したSTAIの状態不安尺度については,女性の対象者でのみ「顔」領域への総注視 時間との間に有意な正の相関が認められた。男女の注視パターンの違いについては先行研究で明ら かにされていないが,実験後の内省報告に注目すると,実験者が会話中に視線方向を変化させたこ とに対して「急に目を逸らされて不安になった」という回答が女性の半数で見られた。一方で,男 性の多くは,実験者の視線変化に「あまり気がつかなかった」,「気がついたが特に気にしなかった」

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と回答していた。実験者が会話中に目を意図的に逸らすことは事前に対象者へ告げられていなかっ たが,女性の場合には実験者が急に視線を変えたことに対して「(自分の)会話がつまらないと感 じているのでは」と不安にさせてしまったのかもしれない。女性は男性に比べて共感性が高いとい われていることから(Baron-Cohen and Wheelwright, 2004),会話の相手である実験者の気持ちを 推し量りながら会話をすすめていたものと考えられる。したがって,顔をよく見ていた女性におい ては実験者による視線方向の変化に対して過敏に反応し,一過性の状態不安が次第に高まっていっ た結果,会話終了後もその不安状態が継続していたものと推察される。  一方,男性では「目」領域への総注視時間との間に有意な負の相関(実験者発話場面では有意傾 向)が認められた。すなわち,男性においては馴染みのない異性との対話コミュニケーションが求 められる状況であり,目を見ない者ほど会話後の状態不安が高まったことを意味している。しかし, このような不安感の高まりが果たして異性とのコミュニケーションによって引き起こされたもので あるかについては,実験者である対話者を男性とする条件を追加するなど,さらなる検討が必要で あろう。 3.自閉傾向が会話中の注視パターンに及ぼす影響  自閉傾向を示すAQ得点と「顔」領域への総注視時間との間には,対象者が聞き手となる実験者 発話場面においてのみ有意な負の相関が認められた。静止画もしくは動画の顔画像を呈示した際の 注視パターンと自閉傾向の関連性を検討した先行研究において,ASD児・者は健常者と比べて顔 への注視時間が減少することが報告されており(Klin et al., 2002; Pelphrey et al., 2002),本研究の 結果もこれらと一致していた。いずれの先行研究もディスプレイ画面に投影された画像もしくは動 画を観察することが要求されており,本研究における相互コミュニケーション場面において聞き手 に回る実験者発話場面に類似した状況下であるといえよう。  一方で,対象者が話し手となる対象者発話場面においては,総注視時間と自閉傾向との間に有意 な相関が認められなかった。この点に関して,ディスプレイ上に投影される画像に対する相互コ ミュニケーション状況下ではあるが,同様に実験の参加者が発話する対象者発話場面における注視 パターンを検討したFreeth et al. (2013)による先行研究と結果が一致していた。以上の結果から, ASD者が対人コミュニケーション場面で相手の顔を見ない傾向があるといわれているが,それは 自分が発話している場面ではなく,相手の話を聞いている場面で顕著に現れるものと示唆された。 まとめ  本研究では,実際の人物との対話場面においても,静止画および動画刺激を用いた場合と同様 に,相手の顔,その中でもとりわけ目を注視する注視パターンが確認された。さらに,その傾向は 自らが発話する場面よりも相手の話を聴取する時に顕著に現れることが明らかとなった。会話時に おける注視パターンと不安傾向との関連については, STAIの特性不安尺度やSADSで測られるよ うな個人内の対人不安傾向とは関連性がみられず,一過性に生じる状態不安との間に相関が認めら れた。すなわち,対面での会話場面において,対人不安傾向のような個人の性格や特性よりも,知

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らない相手との会話中における注視パターンの違いが状態不安に影響を及ぼすことが示唆された。 さらに,そのような状態不安においては性差がみられ,女性では顔をよく注視した者ほど会話後に 不安が高まるのに対して,反対に目をよく注視する男性ほど会話後の不安が生じにくいことが示さ れた。男女間にみられたこのような差は,男女にみられる共感性の違いなど様々な要因の関与が推 察されるが,本研究では対話する者が女性のみに限定されていたことから,対話者が男性の条件を 設定するなど,さらなる検討が必要であろう。自閉傾向との関連については,AQ得点が高い者ほ ど「目」を見ない傾向があり,静止画および動画の顔刺激を用いた先行研究と同様に,実際の人物 との対話場面においても自閉傾向と注視パターンとの間に関連性がみられることが示唆された。さ らに,ASD者は対人場面で相手の顔を見ない傾向があるといわれているが,それは自分が話をし ている時でなく,相手の話を聞いている時に顕著に現れることが示唆された。 引用文献

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参照

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