小児慢性疾患患者支援の方向性と課題 ―制度改革 の動向を中心に―
著者 茨木 尚子, 白井 誠一朗
雑誌名 明治学院大学社会学部付属研究所研究所年報 =
Bulletin of Institute of Sociology and Social Work, Meiji Gakuin University
巻 46
ページ 63‑77
発行年 2016‑01‑06
その他のタイトル Trends and Issues of Support Program for Patients of Specific Chronic Pediatric Diseases: Focused on Movement of its Institutional Reform
URL http://hdl.handle.net/10723/2598
はじめに─問題の所在
21世紀に入り障害者福祉は、従来の身体障害、
知的障害、精神障害の三障害を中心とした障害 種別の制度による支援体制から脱却し、三障害 を統合した障害者自立支援法が施行された。し かしこの法律においても、手帳を持たない多く の難病や慢性疾患、発達障害の人たちは、福祉 的なニードがあるにもかかわらず、支援の外側 に置かれたままであった。
2009年末に始まったわが国の障害者制度改革 ではその論点として、これまで障害者制度の谷 間におかれてきた人たちの問題がクローズアッ プされた
(1)。制度改革では障害や障害者をどう とらえるかについて、障害を社会的障壁との相 互作用として規定するという、いわゆる「障害 の社会モデル」の観点が、制度に反映されると いう大きな転換がみられた。その結果2011年に は、障害者基本法が改正され、障害者の定義に ついて、それまでの『「障害者」とは,身体障 害,知的障害又は精神障害(以下「障害」と総 称する。)があるため,長期にわたり日常生活又 は社会生活に相当な制限を受ける者』から、 『身 体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)
その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総 称する。)がある者であつて、障害及び社会的障 壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当 な制限を受ける状態にある者(下線筆者)』とさ れた。なお、この「継続的」には、断続的、同
期的なものも含まれ、症状に波のある難病者も 含まれることが国会審議において確認された。
これにより、三障害以外にも、その他の心身の 機能障害を持ち、継続的に日常生活や社会生活 に一定以上の制限を受ける状況にあれば、障害 者として必要な福祉的支援をうける対象となり うることが明確となった。
これを受けて、障害者自立支援法に代わる新 たな障害者の総合福祉法の検討を行った障害者 総合福祉部会では、1年半の検討のもとに、今 後の障害者福祉の法律のあり方を「骨格提言」
として示した。そこでは、新たな法律の方向性 を示す6つのポイントの一つとして、「(制度や 支援の)谷間や空白の解消」が掲げられ、障害 の種別間の谷間や、制度間の空白の解消をめざ す制度に向かうべきであることが強調された
(2)。 これまで難病や慢性疾患を抱えた人びとは、
機能障害が明確でなく、かつ固定していないこ とや、病気と障害の区別が明確でないことなど を理由に、障害者支援の谷間に置かれてきた。
一方で、患者福祉という観点からは、一部の慢 性疾患についてのみ、その原因や治療方法の究 明のための研究費助成の枠組みの中で、きわめ て限定的な支援が実施されてきたにすぎない。
とりわけ児童を対象にみると、障害児を支援 する教育、および福祉制度は、その方向性につ いては検討の余地があるものの、着実に20世紀 後半からその支援の質量を充実させてきてい
小児慢性疾患患者支援の方向性と課題
─制度改革の動向を中心に─
茨 木 尚 子 白 井 誠一朗
る。一方、小児慢性疾患
(3)等の病児への支援と いう点では、基本的には医療費助成にほぼ特化 した支援制度にとどまり、病児やその家族の福 祉的支援はきわめて限定されているため、障害 児やその家族の支援との格差は大きなものと なっている。
たとえば障害のある子どもへの生活支援とし ては、専門の相談機関や就学前療育の場が計画 的に整備されてきており、就学後の自立支援の ための訓練等の場も広がってきている。またそ の家族については、障害のない子どもと比較し て育児に負担がかかることから、短期的に障害 のある子どもを専門に預かるレスパイトサービ スや家事援助等の充実が図られてきている。
一方、一般の児童やその家族のための子育て 支援についても、少子化対策の強化としてその 充実が図られている。しかし、そこでも病児、
特に慢性疾患を抱えている子どもの支援は、そ の対策に包含されているとは言い難い。一般の 育児支援では、慢性疾患はもとより、病気を抱 える子どもの家族を包含した支援の視点は極め て脆弱である。
慢性疾患を抱えた子どもとその家族は、一般 の児童とその家族支援、また障害児やその家族 の支援のいずれからも除外され、どちらの支援 も十分に受けられていない、いわゆる制度の谷 間におかれている。
我々は、この制度の谷間に置かれている小児 慢性疾患児とその家族の実態に着目し、その特 に生活ニーズと支援の実態について明らかにす ることを目的として、研究を進めている
(4)。彼 らの多くは、疾患自体、またはその治療等によ る影響を受け、成人期以後も多様な暮らしづら さを抱えて生きていかねばならない。しかも小 児慢性疾患を対象とする医療費助成すらも、疾 患によっては、18歳、または20歳を過ぎると打 ち切られてしまい、大きな経済的負担を抱えつ
つ、生涯にわたり必要な医療を受け続けねばな らない患者も少なくない。小児慢性疾患では、
児童から成人期に移行する際の制度の谷間、い わゆるトランジション(成人移行)問題が存在す る。
本論では、この研究の端緒として、まずは小 児慢性疾患患者をめぐる支援制度の歴史的経過 をたどる。また、難病対策も含めた制度改革の 動向を踏まえて、現在の小児慢性疾患、難病制 度の内容を明らかにする。その上で、現時点で すでに起こっている矛盾や問題点、及び今後の 課題について考察していくこととしたい。
1 .日本における小児慢性疾患・難病制度改革 の動向
1−(1)特定疾患対策の開始とその経過 我が国の小児慢性特定疾患や難病などのいわ ゆる特定疾患対策は1970年代を端緒とする。こ の時期は、経済発展や医療水準の向上によって 伝染病から慢性疾患へと疾病構造が変化してい く中、患者数が少ない不治の病に対する対策を 求める患者、家族らによる運動が活発であった。
小児慢性特定疾患については、1968年(昭和43)
年度に先天性代謝異常、翌年度には血友病に対 する医療給付が行われるようになり、1973(昭 和46)年度には小児がん、1972(昭和47)年度に は慢性腎炎・ネフローゼ治療研究事業及び小児 ぜんそくと、順次、疾患別に治療研究事業とし て18歳未満の児童に対する医療費公費負担の仕 組みが制度化された。
こうした特定の疾患に対する医療費助成制度
が1974(昭和49)年度に整理・統合され、小児慢
性特定疾患治療研究事業となり、9疾患群(悪
性新生物、慢性腎疾患、慢性呼吸器疾患、慢性
心疾患、内分泌疾患、膠原病、糖尿病、先天性
代謝異常、血友病等血液・免疫疾患)を対象に
医療費助成が行われることとなった。
一方、成人の難病
(5)については、スモン患者 やその他の疾病団体による運動を契機として 1972(昭和47)年度に策定された難病対策要綱に もとづく研究の推進および医療費助成制度とし て特定疾患治療研究事業が行われることなっ た。これは、スモン対策費として研究協力謝金 という名目でスモンの入院患者を対象に国が月 額1万円を支給し
(6)、研究の推進と患者支援を 連動させることにより原因の早期解明と患者の 医療にかかる経済的負担の軽減に寄与した取り 組みをモデルとして作られた制度である。
この小児慢性特定疾患及び特定疾患治療研究 事業の両制度はともに当初は根拠となる法律を もたず、年度毎に予算の確保が必要となる国の 裁量的経費によって運用されていた。
このような財源上の背景がある中で、難病に ついては難病対策要綱を根拠として難病対策が 拡充されていく。対策が開始された当初は、研 究対象疾患が8疾患であったが、そのうち4疾 患については、研究への協力謝金として、各研 究班に配分された研究費から1か月のうち20日 以上入院し、自己負担が1万円以上ある者に対 して、国から月額1万円が患者に支給される仕 組みとしてのスタートであった
(7)。しかしその 翌年からは、予算の大幅な増額もあって、医療 費の自己負担分を全額公費負担する仕組みへと 移行し、以後研究対象疾患及び医療費助成の対 象疾患の数も年を追うごとに順次拡大されてい くこととなる。
その後、難病者の地域における生活支援に関 する施策として1989(平成元)年に「地域におけ る保健医療福祉の充実・連携」、1996(平成8)
年に「QOLの向上を目指した福祉施策の推進」
の2つの柱が加えられ、それまでの研究事業と いった医療的側面ではない、福祉的側面からの 施策も講じられるようになっていく。その背景 として、1993(平成5)年12月に旧来の障害者対
策基本法から改正された障害者基本法第2条の 付帯決議において、難病は同法の障害の範囲に 含まれるものであるとして、その施策の推進に 努める旨の留意事項が示されたことが挙げられ る。また、1994(平成6)年7月に公布された地 域保健法では、「治療法が確立していない疾病 その他の特殊の疾病により長期に療養を必要と する者の保健に関する事項」が保健所の事業の 1つに加えられ、難病対策における保健所機能 の役割が明確化された。さらに、1995(平成7)
年12月、現在の難病対策委員会の前身に当たる 難病対策専門委員会の最終報告や障害者プラン において難病者への介護サービス提供の推進が 明記されたことによって、障害者手帳をもたな い130疾患の難病及び関節リウマチの患者に対 するホームヘルプサービスやショートステイ、
日常生活用具の給付などが行われるようになっ た
(8)。
しかし、難病対策専門委員会の最終報告以 降、難病者に対する福祉施策が講じられるよう になった一方で、これまでの「難病対策」の見 直しが図られていくこととなる。まず、特定疾 患の定義や医療費助成の対象となる疾患につい て選定基準が明確化される。ここで①希少性、
②原因不明、③効果的な治療法の未確立、④生 活面への長期の支障、という難病の4要件が加 えられた。選定基準の明確化によって、これま での研究成果として希少性や難治性が相対的に 低下した疾患については、入れ替えの必要性が 提起され始めることとなる。また、1998(平成 10)年には難病として指定されていない他の難 治性疾患との公平性の観点や厳しい財政状況等 から、これまで行われていた医療費の全額公費 負担を見直し、一部負担が導入された。その後、
2003(平成15)年より所得に応じた応能負担へと 変更されている。
また2009(平成21)年度から、従来より行われ
ている研究事業である、難治性疾患克服研究事 業が拡充される。前年度比の4倍の予算がつい たことで、これまで難病の4要件を満たしつつ も研究対象とされてこなかった疾患について、
新たに疾患概念の確立や実態把握を目的とする
「研究奨励分野」という枠が設けられ、約200疾 患がその対象として加えられることとなった。
以上のように難病対策は、研究事業という枠 組みを前提とし、研究対象とされた疾患につい て、その患者福祉を一部取り入れるという限定 的な形で順次対象となる疾患の拡大や施策の整 備をおこなってきた。以上述べた難病対策要綱 に始まる今日までの難病対策の政策的な経過を 示したのが表1である。
一方、小児慢性特定疾患については、1990(平 成2)年に神経・筋疾患が加えられ10疾患群と なり、対象疾患は約500疾患となった。その後、
1997(平成9)年に小児慢性特定疾患事業にかか
る補助金が毎年10%ずつ削減される方針が示さ れたことを契機に「小児慢性特定疾患治療研究 事業の今後のあり方と実施に関する検討会」が 設置され、2002(平成14)年に同検討会の報告書 がとりまとめられた。さらに、2003(平成15)年 には当時の与党である自民党が「小児慢性特定 疾患治療研究事業の見直しに関する基本方針」
を策定した。この基本方針では、「次世代育成 支援の観点から、子育てしやすい環境の整備を 図るため、小児慢性特定疾患治療研究事業を見 直し、小児慢性特定疾患をもつ患者に対する安 定的な制度として法整備を含めて制度の改善・
重点化を行う」ことを趣旨とした。見直しの内 容としては、 (1)給付内容の改善・重点化、 (2)適 正な患者負担の導入と低所得者への配慮、 (3)事 業評価制度の導入、 (4)福祉サービスの実施、 (5)
法律による位置付けの5点が盛り込まれた。
この方針を経て小児慢性特定疾患事業は2005
• 難病に係る新たな公平かつ安定的な医療費助成の制度の確立(予算の義務的経費化)
• 難病の医療に関する調査及び研究の推進
• 療養生活環境整備事業の実施(難病相談・支援センター事業等の法定化)
• 難病対策の3つの柱
• ①調査研究の推進 ex) 難治性疾患克服研究事業等の研究補助
• ②医療施設等の整備 ex) 重症難病患者拠点・協力病院設備整備事業
• ③医療費の自己負担の軽減 ex) 特定疾患治療研究事業による医療費補助
難病対策 の策定・・・・・ → 疾患 対 ( 疾患 医療費助成 )
• に る 医療 の 実・ ( )
ex)難病相談・支援センター事業( 3 )
• QOL の た 施策の推進( ) ex) 難病患者等 生活支援事業( の事業 者 支援法に ) 生活支援に関する施策の ・・・・・3つの柱か つの柱
• 研究 の新設( 度 )・・・・・ 3 疾患 対 ( 度)
• 特定疾患の ( )・・・・・ 疾患 疾患
研究事業の → 3 疾患 対 ( 疾患 医療費助成 )
難病対策の
難病対策の法制化・・・・・ → 難病法 成立
表1 日本の難病対策の流れ
出典:「『制度の谷間』にある難病者の生活実態とその福祉的支援の在り方」 (白井誠一朗修士学位論文)より最近のデータを踏まえて改定
(平成17)年から児童福祉法に位置付けられるこ ととなった。結果として児童福祉法の改正によ り、小児慢性特定疾患制度は以下の見直しが行 われた。
(1) 児童福祉法を改正し小児慢性特定疾患治療 研究事業の根拠規定を整備
(2) 医学的知見に基づく対象疾患の見直しを行 うとともに、対象を重症者に重点化
(3) これまで疾患により取り扱いが異なってい た通院に対する給付について、すべての 疾患を対象にする
(4) これまで18歳までが対象であった疾患につ いて、18歳到達後もなお改善の傾向がみら れない場合には、疾患にかかわらず20歳到 達までを対象とする
(5) 低所得者層に配慮しつつ、無理のない範囲 の自己負担を導入
(6) 福祉サービスとして、日常生活用具給付事 業及びピアカウンセリング事業を開始
また、新たに慢性消化器疾患が追加され、既 存疾患の整理が行われた結果、11疾患群514疾 患が対象疾患となった。小児慢性特定疾患対 策については、成人の難病対策に先行して、児 童福祉法に規定された法的根拠のある対策とな り、予算上も予算補助から法律補助となったこ とで制度の安定化が図られることとなった。し かし、「事業を行うことができる」という法文 となっており、法律補助ではあるものの、義務 的経費としては位置付けられてはいなかった
(9)。 そのため、再度、制度の安定化を図る必要に迫 られることとなる。その経過については、次項 で取り上げる2009(平成21)年以降の難病対策と 連動する形で進められた一連の制度改革の動向 の中で触れることとする。
1−(2)小児慢性疾患・難病制度改革の動向 難病対策はその開始当初から法的根拠を持た ない予算事業として進められてきたが、2009(平 成21)年を境に予算は増えず対象拡大もされな いままとなっていた。そのため難病患者からは、
医療費助成対象となる疾患数が依然として少な く、難病の4要素を満たしても対象外となって いる疾患を幅広く難病指定すべきとする声や、
医療や研究のみならず、福祉や就労までも含め た総合的対策を求める声があがっていた。それ に加え、都道府県からは医療費助成の財源につ いて、本来国の負担分である予算まで都道府県 が超過負担している状況について、早急な解消 が求められていた。
こうした難病対策の多くの課題を解消するた め、2011(平成23)年9月より厚生科学審議会疾 病対策部会難病対策委員会(以下、難病対策委 員会)において、難病対策の抜本的見直しに向 けた検討が始まった。
難病対策委員会は2年以上に渡る検討の末、
2013(平成25)年12月に「難病対策の改革に向け た取組について(報告書)」をとりまとめ、「効 果的な治療方法の開発と医療の質の向上」、「公 平・安定的な医療費助成の仕組みの構築」、「国 民の理解の促進と社会参加のための施策の充 実」の3つの柱からなる難病対策の法制化を提 言した。
同報告書は、「希少・難治性疾患は遺伝子レ ベルの変異が一因であるものが少なくなく、人 類の多様性の中で、一定の割合発生することが 必然であり、その確率は低いものの、国民の誰 にでも発症する可能性があることから、希少・
難治性疾患の患者・家族を我が国の社会が包含
し、支援していくことが、これからの成熟した
我が国の社会にとってふさわしいことを基本的
な認識」として議論を重ねるとした。これを受
けて難病患者たちは、この基本的認識が具体化
された新たな法律の制定を期待したのであっ た。
一方、このような難病対策委員会の議論を踏 まえた社会保障制度改革国民会議の報告書は、
「医療費助成については、消費税増収分を活用 して、将来にわたって持続可能で公平かつ安定 的な社会保障給付の制度として位置づけ、対象 疾患の拡大や都道府県の超過負担の解消を図る べきである」としつつも、「ただし、社会保障 給付の制度として位置づける以上、公平性の観 点を欠くことはできず、対象患者の認定基準の 見直しや、類似の制度との均衡を考慮した自己 負担の見直し等についても併せて検討すること が必要である」とし、患者にとって厳しい指摘 もされていた。
その後、2013(平成25)年8月に閣議決定され た「社会保障制度改革推進法第4条の規定に基 づく『法制上の措置』の骨子について」に難病 対策の法制化措置が盛り込まれ、2014(平成26)
年2月に医療費助成制度の義務的経費化や対象 疾患の拡大とそれに伴う負担の見直しなどを盛 り込んだ「難病の患者に対する医療等に関する 法律案(以下難病法)」が国会に提出され、同年 5月23日に成立した。
また小児慢性特定疾患についても、2012(平 成24)年9月より難病対策委員会の検討と連動 する形で社会保障審議会の児童部会に小児慢性 特定疾患児への支援のあり方に関する専門委員 会が設置された。先述のとおり小児慢性特定疾 患はあくまでも児童を対象としたものであり、
その病気が治るか否かなどにかかわりなく、18 歳または20歳を越えると一律に医療費助成を受 けることができなくなってしまうという成人移 行(トランジション)問題が解決されないままと なっていた。この成人移行(トランジション)問 題の解消を求める意見が難病対策委員会で出て いたという経緯もあり、この専門委員会の開始
当初はトランジションの解消が重要な論点の1 つとして認識されていた。
一方で、小児慢性特定疾患に対する施策は、
既に2005(平成17)年から児童福祉法にもとづく 施策として進められていたものの、医療費助成 の財源は難病の医療費助成と同様に裁量的経費 であったことから、将来にわたって安定した制 度とするための見直しも大きな課題として位置 付けられていた。その他、小児慢性特定疾患の 対象疾患の在り方や疾患の登録管理データを活 用した治療研究推進の在り方、福祉サービスや 自立支援など総合的な支援策推進の在り方など が論点とされ、検討が進められた。
この検討過程で医療費助成のトランジション 解消については、次第にトーンダウンしてい き、医療費助成にかかる予算の義務的経費化に 議論の中心がシフトしていった。トランジショ ン問題が協議の中心とならなかった原因として は、先行して議論が進められていた難病対策委 員会における患者の自己負担額問題の影響が強 かったことが挙げられる。難病対策委員会にお いて、あらたな自己負担額について高齢者(70 歳〜 74歳)の高額療養費の限度額(外来)相当と する案が示された。この際もともと小児慢性特 定疾患の医療費自己負担額は難病医療費助成の 自己負担額の2分の1に設定されていたことな どから、負担増への大きな懸念が示され、予算 の義務的経費化に伴う患者負担増の幅をいかに 小さくするかという議論に多くの時間が割かれ ることとなった。
他方で、小児慢性特定疾患独自の課題として、
小児科から他科、医療機関や関係機関といった
医療連携、疾患登録データの精度向上、登録デー
タの研究への活用や難病情報センターのような
小児慢性特定疾患のポータルサイト構築、成人
期に向けた自立支援などについては幅広く検討
され、一定の結論が示された。
以上、11回にわたる専門委員会での議論とそ こでとりまとめられた報告書にもとづき、小児 慢性特定疾患対策予算の義務的経費化や自立支 援の充実等とこれらの施策拡充に伴う負担の見 直しなどを盛り込んだ児童福祉法の一部を改正 する法律案が国会に提出され2014(平成26)年5 月23日に成立した。
2.新たな小児慢性特定疾患・難病対策の内容 上記の経過を経て児童福祉法一部改正が行わ れたことにより、新たな小児慢性特定疾病対策 が進められることとなった。ここでは法改正の 内容および従来の施策からの変更点について概 観していきたい。
2−1 医療費助成制度
表2の法案提出の趣旨および法律の概要(2)
にあるとおり、法改正により消費税の財源を充
て、裁量的経費から義務的経費化されることと なった。それに伴い、医療費助成の対象となる 疾患も法律改正後の小児慢性特定疾患児への支 援のあり方に関する専門委員会での検討を経て 11疾患群514疾患から14疾患群704疾病へと拡大 された。 疾患群については、「血友病等血液・
免疫疾患群」となっていたものを「血液疾患群」
と「免疫疾患群」に分け、新たに「染色体又は 遺伝子に変化を伴う症候群」と「皮膚疾患群」
の2疾患群を追加した。疾病については、190 疾病のうち83疾病は既存疾病を整理・統合した 結果増えたものであり、新規に追加された疾病 数は107疾病となっている。
こうした財源基盤の強化と対象疾病の拡大が 行われた一方で、対象となる患者家族の負担は 従来より重いものとなっている(あらたな医療 費助成制度については表3に示した)。これま でと比べて医療費の負担割合こそ3割から2割
法律の概要
施行期日
児童福祉法の一部を改正する法律の概要
(現行の 医療費 に基 ある のの 的 費。 回、 的 費 。)
法案提出の趣旨
出典:厚生労働省「第1回小児慢性特定疾病対策等の基本方針検討会参考資料1 小児慢性特定疾病対策について」より引用
表2 児童福祉法の一部を改正する法律の概要へ引き下げられているが、自己負担上限額は全 体的に引き上げられている。その中でも特に負 担が重くなったのは、これまでは所得階層にか かわらず自己負担がなかった重症患者や市町村 民税非課税世帯の患者である。自己負担上限額 が小児慢性特定疾病の2倍となっている難病に おいても同様の傾向であるが、これは障害者の 自立支援医療を参考に制度設計を行ったためだ と言われている。また、入院時の食事療養費も これまで無料であったものが、2分の1負担す ることとなった。検討過程では、この食事療養 費の費用徴収に対して児童の健全育成の観点か らの疑問や、家族が病院に行くための交通費な ど見えないコストも踏まえた検討を求める意見 もあった。しかし最終的には難病対策委員会で この食事療養費について、全額自己負担となっ たことを受けて、小児慢性特定疾病の児童の場
合は2分の1負担となった。
自己負担の額以外はほとんど難病法の医療費 助成と同様の仕組みであるが、大きく異なるの は、軽症患者の取り扱いである。難病法の医療 費助成制度では、重症度の基準に合致しない軽 症患者は原則助成の対象外となるが、一方で高 額な医療を継続することが必要な場合は医療費 助成の対象とする救済の仕組みが設けられてい る。しかし、小児慢性特定疾病の場合は、すで に法改正前より重症度の基準を設け、症状の重 さが一定の基準に達しない者については助成対 象外としていたことから、難病法の軽症高額負 担者救済の仕組みは導入されていない。
2−2 小児慢性特定疾病児童等自立支援事業 これまでも福祉サービスとして日常生活用具 給付事業やピアカウンセリング事業は行われて
☆新たな医療費助成における自己負担限度額(月額) (単位:円)
階 層 区 分
階層区分の基準
(( )内の数字は、夫婦2人子1人世帯の 場合における年収の目安)
自己負担限度額(患者負担割合:2割、外来+入院)
原則 既認定者【経過措置3年】
一般 重症
(※)
人工呼吸器等
装着者 一般 現行の
重症患者
人工呼吸器等 装着者
Ⅰ
生活保護Ⅱ
市町村民税非課税
(世帯)
低所得Ⅰ(~ 万円)
Ⅲ
低所得Ⅱ( 万円超~)Ⅳ
一般所得Ⅰ:市町村民税課税以上 約 万円未満
(約 万円 ~約 万円)
Ⅴ
一般所得Ⅱ:市町村民税約 万円以上 約 万円未満
(約 万円~約 万円)
Ⅵ
上位所得:市町村民税約 万円以上(約 万円~)
入院時の食費 1/2自己負担 自己負担なし
小児慢性特定疾病に係る新たな医療費助成の制度
重症:①高額な医療が長期的に継続する者(医療費総額が5万円/月(例えば医療保険の2割負担の場合、医療費の自己負担が1万円/月)を超える月が年間6回以上ある場合)、
②現行の重症患者基準に適合する者、のいずれかに該当。
【ポイント】