米 国多国籍企業 の技術 戦 略変遷 に関す る一考 察
米 国 の技 術 ヘ ゲ モ ニ ー を支 え る もの
關 智 一
目 次
は じめ に
第一章20世 紀 の 米 国多 国籍企 業 の技 術 戦略(第 二次 世界 大戦 後〜1990年 代) 第 一一節 技術 開発 戦 略 の出現(第 二次 世界 大戦 後 〜1950年 代)
第 二節 技術 管 理戦 略の 出現(1960年 代) 第三 節 技術 管 理戦 略 の転換(1970年 代 前 半)
第 四節 技術 開発 戦 略 の転換(1970年 代後 半 〜1980年 代 前 半) 第五 節 技術 管 理戦 略の 進化(1980年 代 後 半〜1990年 代 前半) 第六 節 技術 開発 戦 略 の進化(1990年 代後 半)
第 二章21世 紀 の 米 国多 国籍企 業 の技術 戦略(2000年 代 〜 現在) 第一 節 技術 戦 略の 未来 一 内的成 長 か ら外 的 成長へ
第二 節 技術 管 理戦 略 の未来 一 特 許 ポ ー トフ ォリオ戦 略 第三 節 技術 開発 戦 略の 未来 一 オー プ ンR&D戦 略 おわ りに
は じ め に
1960年 代 に多 国 籍 化 を果 た した 米 国多 国籍 企 業(MultinationalCorporation :MNC)は,そ の 誕 生 以 来,様 々 な 技 術 戦 略(TechnologyStrategy)を 展 開 す る こ と で,現 在 も強 大 な技 術 支 配 力 を 誇 る に至 っ て い る。 本 稿 で は,こ う し た 米 国 多 国籍 企 業 の技 術 戦 略 に つ い て そ の 歴 史 的変 遷 を考 察 す る こ とで,米 国 多 国 籍 企 業 の技 術 優 位 に立 脚 し た 米 国 の技 術 ヘ ゲ モ ニ ー(hegemony)の 構 造
を解 明 す る こ と を試 み た い と考 えて い る。
まず 第 一 章 で は,第 二 次 世 界 大 戦 後 の20世 紀 の米 国 多 国 籍 企 業 に よ る技 術 戦
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略 変 遷 につ い て,技 術 戦 略 自体 を イ ノ ベ ー シ ョ ン(innovation)を 目的 と した
「技 術 開 発 戦 略(TechnologyDevelopmentStrategy)」 と専 有(appropriation) を 目的 と した 「技 術 管 理 戦 略(TechnologyControlStrategy)」 の 二 種 類 に 大 別 す る こ とで,そ の複 雑 な流 れ を 単 純 化 す る作 業 を試 み る(菰 田,1981;Poter, 1985;根 本,1988)。 す な わ ち,20世 紀 の 米 国多 国籍 企 業 に よ る技 術 戦 略 変 遷 を, 技 術 開 発 戦 略 と技 術 管 理 戦 略 の サ イ ク ル(cycle)現 象 と し て捉 え る こ とで, 理 解 を容 易 な も の とす る とい う も の で あ る(關,2000de)。
そ して,続 く第 二 章 で は,「IT革 命(lnformationTechnologyRevolution)」
に よ っ て幕 を開 け た21世 紀 の米 国 多 国籍 企 業 の 技 術 戦 略 につ い て,現 時 点 にお い て 代 表 的 な技 術 戦 略 と考 え られ る二 つ の ケ ー ス に つ い て取 り上 げ て い る 。 す な わ ち,21世 紀 の 技 術 管 理 戦 略 の 観 点 か ら は,従 来 の 特 許 戦 略(Patent Strategy)に 金 融 工 学 等 で利 用 さ れ る ポ ー トフ ォ リオ理 論 を組 み 込 み,最 新 の イ ン ター ネ ッ トツ ー ル に よ っ て そ の機 能 性 を 格 段 に向 上 させ た,「 特 許 ポ ー ト
フ ォ リオ 戦 略(PatentPortfolioStrategy)」 を取 り上 げ る 。 同 じ く21世 紀 の 技 術 開 発 戦 略 の観 点 か ら は,昨 今 のLinux開 発 に よ っ て全 世 界 の注 目を 集 め た,
「オ ー プ ン ソ ー ス(OpenSource)」 型 の 研 究 開 発 戦 略 で あ る,「 オ ー プ ンR&
D戦 略(OpenR&DStrategy)」 を取 り上 げ る。
と くに,後 者 の オ ー プ ンソ ー ス 化 の流 れ は,そ の根 底 に 「新 技 術 や ア イ デ ア を隠 した り特 許 で保 護 す る の で は な く,広 く公 開 して 多 くの 人 の 知 恵 を 集 め て 大 き く育 て る」 とい う考 え方 が 存 在 して い る と され る(日 本 経 済 新 聞,2002年
1月3日 付)。 こ う した新 発 想 に,21世 紀 の 米 国多 国籍 企 業 に よ る技 術 戦 略 の 未 来 像 を見 出 す こ とが で きる と思 わ れ る 。
以 上,こ う した 米 国 多 国籍 企 業 の技 術 戦 略 の"過 去(歴 史)"と"現 在",そ して"未 来"に つ い て そ れ ぞ れ 考 察 を行 う こ とで,本 稿 の結 論 部 分 で は 米 国 多 国 籍 企 業 が 生 み 出 す 米 国 の技 術 ヘ ゲ モ ニ ー の 原 動 力 につ い て,筆 者 な りの 見 解
を提 示 す る こ こ と した い 。
米国多国籍企業の技術戦略変遷 に関する一考察 第 一 章20世 紀 の米 国 多国 籍企 業 の 技術 戦 略
(第二 次世 界 大 戦 後 〜1990年 代) 第 一 節 技 術 開 発 戦 略 の 出現(第 二 次 世 界 大 戦 後 〜1950年 代)
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第 二 次 世 界 大 戦 後 の 米 国経 済 は,当 時,敗 戦 後 の復 興 途 上 にあ っ た 欧 州 や 日 本 と比 べ て圧 倒 的 な 規 模 を誇 り,巨 額 な研 究 開発(Research&Development
R&D)費 に よ っ て 生 み 出 さ れ る 新 技 術 と豊 か で 貧 欲 に新 製 品 を 求 め る 市 場 との 相 互 作 用 の な か か ら,産 軍 複 合 体 を中 心 とす る独 占企 業 が 次 々 と画期 的 な イ ノベ ー シ ョン を実 現 して い た と さ れ る(後 藤,2000)。
こ う し て,い わ ゆ る 米 国 経 済 の 黄 金 期 で あ る,「 パ ッ ク ス ・ア メ リ カ ー ナ (PaxAmericana)」 が 形 成 さ れ る こ と と な る の で あ る が,こ の 当 時 の 米 国 企 業 の 主 要 な技 術 戦 略 と は,や は り圧 倒 的 な技 術 優 位 を背 景 とす る イ ノ ベ ー シ ョ ン活 動 を 主 体 と した技 術 開発 戦 略 で あ っ た と考 え る こ とが で き る。
第 二 節 技 術 管 理 戦 略 の 出現(1960年 代)
大 量 生 産 と大 量 販 売 の 一 層 の 拡 大 に よ り,次 第 に 「ビ ッ グ ・ビ ジ ネ ス(Big Business)」 を展 開 す る に至 っ た 米 国企 業 は,既 存 製 品 系 列 の 販 売 拡 張 や 新 製
品 開 発 に よ る国 内 の新 市 場 開 拓 に加 え,新 た に既 存 製 品 市 場 の 地 理 的拡 大 を 目 指 し始 め る(米 倉,1999)。 す な わ ち,米 国 産 優i位技 術 か ら得 られ る報 酬 を極 大 化 す る た め に,当 時 のEEC市 場 を ター ゲ ッ ト と し た 「海 外 直 接 投 資 (ForeignDirectInvestment:FDI)」 を 通 じて,米 国 企 業 の 多 国 籍 化 が 本 格 化 し た の で あ る(Hymer,1976)。
こ う した 背 景 に は,米 国 国 内 の 一 層 の独 占進 展 と資 本 過 剰 に よ る 国 内 利 潤 率 の 低 下 二 これ に対 す る対 西 欧 直 接 投 資 の 高 利 潤 率 や,反 トラス ト法(=米 国版 独 占禁 止 法)の 適 用 強 化 に よ る国 内市 場 シ ェ ァ拡 大 の 困 難 性,社 会 主 義 諸 国 や 植 民 地 諸 国 の 隆 盛 ・独 立 に よ る資 本 主 義 市 場 の 地 理 的 狭 阻 化 な ど,複 合 的 な要 因 が 挙 げ られ る と さ れ る(亀 井,1996,2001)。 い ず れ にせ よ,こ の 当 時 の 米
国多 国籍 企 業 に よ る主 要 な技 術 戦 略 の 内 容 とは,ま さ に優 位 技 術 の グ ロ ー バ ル な専 有 を 目的 とす る技 術 管 理 戦 略 で あ っ た と考 え られ(關,1999ab,2000abc, 2001ad),具 体 的 に は 伝 統 的 な 「内 部 化 理 論(lnternalizationTheory)」 の 描
く 「内 部 市 場 取 引(=企 業 内 に市 場 を創 設 し,関 連 企 業 同士 で 技 術 移 転 を行 う こ と)」 を 中心 と した もの で あ っ た と考 え られ て い る(Rugman,1981;Rug‑
manetal.,1985;長 谷 川,1998,2001)。
つ ま り,外 国 市 場 参 入 方 式 と し て,「 輸 出(Export)」 に は 関 税 や 外 国為 替 管 理,輸 出規 制 と い っ た リス ク が存 在 し,ま た 「ラ イ セ ン シ ング(Licensing)」
に は模 倣 や 迂 回発 明 とい っ た 「企 業 特 殊 的 優 位 の消 散 リ ス ク 」 が 存 在 す る との 考 え方 か ら,内 部 化 理 論 で は本 社 とFDIに よっ て 設 立 した 海 外 子 会 社 と の 「技 術 取 引 の 内 部 化 」 こそ が,優 位 技 術 の グ ロー バ ル な専 有 を可 能 とす る と主 張 し て い た の で あ る(姉 川,2000)。 そ し て,実 際,こ の 当 時 の米 国 多 国 籍 企 業 の 多 くは,本 社 で 開発 され た新 規 技 術 ・重 要 技 術 を 海外 移 転 す る場 合 に は,や は り完 全 所 有 子 会 社 へ の 企 業 内 技 術 移 転 を 選 好 し て い た こ とが 確 認 さ れ て い る
(Davidson,1980;MansfieldetaL,1982)。
第三節 技術 管理戦 略の転換(1970年 代 前半)
こ う した技 術 管 理 戦 略 の推 進 に よ っ て,米 国多 国 籍 企 業 の 企 業 規 模 は よ り巨 大 な もの と な っ て い っ た 。 しか し な が ら,逆 に そ の 巨 大 性 ゆ え に イ ノ ベ ー シ ョ ン ・コ ス トの 問 題 が 深 刻 化 す る こ と とな る。 す な わ ち,技 術 の 巨 大 化 ・複 合 化 と と もに,開 発 に 必 要 なR&D費(と くに基 礎 研 究 費)が ま す ます 巨額 化 す る 傾 向 に あ る に もか か わ らず(FordandRyan,1981),よ うや く開 発 し た技 術 的 成 果 もそ の 全 て が 商 業 的 な 成 功 を収 め る とい う こ と は な く,ま た成 功 した と
して も開発 企 業 側 に 十 分 な報 酬 を もた ら さぬ ま ま陳腐 化 して し ま う とい う状 況 が あ っ た の で あ る(Midgley,1977;林,1984)。
こ こ か ら米 国多 国 籍 企 業 は,こ れ ま で の 内 部 化 を中 心 と した 技 術 管 理 戦 略 を 180度 転 換 し,新 た に 非 関 連 企 業 へ の ラ イ セ ン シ ン グ に よ る ロ イ ヤ ル テ ィ
米 国多 国籍 企業 の技術 戦 略変遷 に関す る一考 察
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(royalty)収 入 を重 視 し始 め る の で あ る(Baranson,1978;Telesio,1979;菰 田,1984)。 と こ ろ が,こ の こ とは,こ れ ま で 企 業 内 に秘 匿 化 さ れ て きた 米 国産 優 位 技 術 の世 界 的 拡 散 を意 味 し,そ う した恩 恵 を最 大 限 に 享 受 した 日本 や 西 ドイ ツ(当 時)の 新 興 企 業 の 台 頭 な ど に よ っ て,1970年 代 に 入 り米 国 単独 の 技 術 優 位,す な わ ち パ ック ス ・ア メ リカ ー ナ は崩 壊 を迎 え る こ と と な る(猪 木, 1998;關,2001c)。
つ ま り,米 国多 国 籍 企 業 は,ロ イ ヤ ル テ ィ収 入 と引 き換 え に,か つ て 内 部 化 理 論 が 指 摘 した 「企 業 特 殊 的優 位 の消 散 リス ク」 の 問 題 に直 面 す る こ と とな っ た の で あ る。 ま た,こ う した ラ イ セ ン シ ン グ の 他 に も,FDIに よ っ て 設 立 さ れ た 米 国多 国 籍 企 業 の 海 外 子 会 社 の 研 究 者 や ス タ ッ フが 競 合 他 社 に引 き抜 か れ る と い っ た ス ピ ン ・オ フ に よっ て,多 くの 「比 較 優 位(技 術,技 術 ノ ウハ ウ, 経 営)」 が 流 出 した こ と も事 実 で あ る(MansfieldetaL,1982;菰 田,1984)。
さ らに は,こ う した技 術 拡 散 の 側 面 だ け で な く,海 外 投 資 収 益 へ の 過 度 な 依 存 体 質 が 米 国 多 国籍 企 業 の 国 内 で の 合 理 化 努 力 を怠 らせ,そ の結 果 と して 自 らの 潜 在 的 な イ ノベ ー シ ョン能 力 を低 下 させ た 点 も,米 国 単 独 の技 術 優 位 を崩 壊 せ しめ た要 因 の 一 つ と考 え られ て い る(Gilpin,1975;木 下,1981)。
第 四節 技 術 開 発 戦 略 の 転 換(1970年 代 後 半 〜1980年 代 前 半)
日本 や 西 ドイ ツ とい っ た新 興 多 国籍 企 業 の イ ノ ベ ー シ ョ ン能力 の 向上 に よ っ て,米 国 多 国 籍 企 業 は再 び技 術 開 発 戦 略 を重 視 す る こ とで 失 わ れ た 技 術 優 位 の 復 活 を 目指 し始 め て い く。 そ う した な か,新 た に コ ン ピ ュ ー タや ソ フ トウ ェ ア に代 表 され るハ イ テ ク産 業 が 勃 興 し始 め る と,米 国 多 国 籍 企 業 は こ う した 知 識 集 約 型 産 業 に相 応 しい イ ノ ベ ー シ ョ ン ・ス タ イ ル と して,こ れ まで 米 国本 国 を 中心 に 設 置 さ れ て きたR&D体 制 を再 編 し,新 た にR&D拠 点 の グ ロ ーバ ル 化 を志 向 し始 め て い っ た の で あ る。
確 か に,こ の 当 時 のR&D拠 点 の グ ロー バ ル化 は,そ の実 質 的 な活 動 内 容 に つ い て見 れ ば,純 粋 な基 礎 研 究 か らのR&D機 能 を有 して は お らず,む しろ 現
地 市 場 対 応 に 向 け た 応 用 開 発 を 中心 と した 「A&D(Adaptation&Develop‑
ment)」 で あ り,今 日的 な 意 味 で のR&D拠 点 の グ ロ ー バ ル 化 と は 言 え な い (Creamer,1976;Ronstadt,1977)。 しか し な が ら,こ う し た技 術 開 発 戦 略 の転 換 は,米 国多 国 籍 企 業 に と っ て ま さ に画 期 的 な もの で あ っ た 。
か つ て は,海 外 に生 産 ・販 売 拠 点 を持 つ 米 国多 国籍 企 業 も,R&D拠 点 に関 して は 長 く本 社 あ るい は本 国 で の 立 地 に 固 執 し続 け て きた 。 なぜ な らば,1960 年 代 の 米 国 経 済 最 盛 期 に は,米 国 は世 界 の イ ノベ ー シ ョン基 地 と し て世 界 各 国 か ら優 秀 な頭 脳 や 経 営 資 源 が 集 ま り,ま た 市 場 に は 世 界 一 評 価 の 厳 しい消 費 者 で 溢 れ て い た か らで あ る。 よっ て,当 時 の 米 国 多 国籍 企 業 に とっ てR&D拠 点 の グ ロ ー バ ル化 は,ほ とん ど重 視 さ れ て い なか っ た の で あ る。
例 え ば,当 時 の研 究 者 達 は,企 業 が 海外 で 基 礎 研 究 や 製 品 開発 活 動 を 二 重 に 行 う こ と,す な わ ちR&D拠 点 の 「分 散 化(fragmentation)」 な ど考 え られ ず, や は り 「統 一 化(unification)」 が 多 国 籍 企 業 に基 本 的 な競 争 優 位 を もた らす, と指 摘 して い る(Fayerweather,1969)。 しか し,隆 盛 を 極 め た米 国 多 国籍 企 業 の 技 術 優 位 が 崩 れ,各 国 の 多 国籍 企 業 に よ る技 術 開 発 競 争 が 激 化 す る につ れ, 米 国 多 国籍 企 業 のR&D拠 点 の 立 地 を め ぐ る認 識 に も大 き な変 化 が 訪 れ る こ と
と な っ た の で あ る 。
ま た,こ う した米 国 多 国籍 企 業 に よ る新 た な イ ノ ベ ー シ ョ ン ・ス タ イ ル の 登 場 は,R&D拠 点 同 士 が 地 理 的 距 離 や 時 間 を克 服 す る た め の ツ ー ル で あ るIT の 発 展 を促 し,こ う したITの 基 盤 技 術 と して の ソ フ トウ ェ ア 開 発 が,急 速 に 米 国 に お い て 重 要 視 され る こ と と な っ た 。 す な わ ち,こ の 頃 を境 に,ハ ー ドウ ェ アか ら ソ フ トウ ェ ア へ の 「技 術 体 系 のパ ラ ダ イ ム ・シ フ ト」 が本 格 化 し始 め て い た の で あ る(林,1995,1996a,1999)。
そ して,こ う した 世 界 的 潮 流 に上 手 く 自 らの イ ノ ベ ー シ ョ ン ・ス タ イ ル を 適 合 させ る こ とに 成 功 した 米 国 多 国籍 企 業 は,ITの 基 盤 技 術 で あ る ソ フ トウ ェ アの 開発 面 で の 技 術 優 位 を背 景 に,そ の後 の 世 界 規 模 で の 「イ ン ター ネ ッ ト革 命(lnternetRevolution)」 や 「IT革 命 」 を主 導 す る こ と と な る(夏 目,1999)。
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第 五 節 技 術 管 理 戦 略 の 進 化(1980年 代 後 半 〜1990年 代 前 半)
米 国 多 国 籍 企 業 に よ る新 た な技 術 開発 戦 略 は,そ の 技 術 的 成 果 と して ソ フ ト ウ ェ ア を 生 み 出 し,こ う した ハ イ テ ク分 野 に お い て,米 国 は再 び 技 術 優 位 を取
り戻 す こ と とな る 。 しか し今 度 は,こ う した新 技 術 の グ ロ ー バ ル な専 有 に向 け て,米 国 多 国 籍 企 業 は再 び技 術 管 理 戦 略 を重 視 し始 め な け れ ば な らな く な っ た の で あ る 。
ソ フ トウ ェ ア とい っ た情 報 財 の 特 徴 に は,① 容 易 に一 つ の 媒 体 か ら別 の 媒 体 へ の記 録 また は複 製 が 可 能 で あ る こ と,② 複 製 を 行 う の に元 の 財 の 生 産 に投 入 され た ほ どの 資 源 量 は必 要 と し ない こ と,③ 複 製 の 価 値 は元 の 財 と比 較 して 差 が な い こ と,の 三 点 が 挙 げ られ る と さ れ る(廣 松 ・大 平,1990)。 つ ま り,ソ フ トウ ェ ァ と は,技 術 的 に は 第 三 者 に よ る コ ピ ー を防 ぎ難 い た め,開 発 者 の 知 的 財 産 権(こ の 場 合,特 許 権 や 著 作 権)が 侵 害 さ れ 易 い とい う性 質 を有 して い るの で あ る。 そ して,こ う した 権 利 侵 害 に よ る 金 額 的 損 失 は 莫 大 な もの と な り 始 め,米 国 多 国 籍 企 業 は次 第 に危 機 感 を強 め て い くこ と とな る 。
そ こ で 米 国政 府 は,「 プ ロ ・パ テ ン ト政 策(Pro‑PatentPolicy)」 に よっ て 米 国 多 国籍 企 業 の 保 有 す る知 的 財 産 権(と くに特 許 権)を 強 化 し,そ う した 法 的 拘 束 力 を利 用 した新 技 術 の グ ロー バ ル な 専 有 を米 国 多 国籍 企 業 に奨 励 して い っ た の で あ る 。そ して,こ う した 競 争 政 策 の歴 史 的 転 換(=1929年 の大 恐 慌 以 来, 米 国 で は特 許 は独 占 を も た らす と さ れ,そ の 効 力 が 弱 め られ て い た 。す な わ ち,
「ア ンチ ・パ テ ン ト政 策[Anti‑PatentPolicyコ 」 に あ っ た と い う こ と)は ,確 か に米 国多 国 籍 企 業 の技 術 管 理 戦 略 に新 た な可 能性 を切 り拓 い た の で あ る。
す な わ ち,基 本 特 許 を多 く保 有 す る米 国 多 国籍 企 業 の 強 み を 最 大 限 に生 か す こ と で,競 合 他 社 の 中 核 技 術 を狙 っ て特 許 侵 害 訴 訟 に持 ち 込 み,あ る い は 出願 公 開 制 度 の 存 在 し な い米 国 特 許 制 度 を悪 用 した 「サ ブ マ リ ン特 許(Submarine Patent)」 に よ っ て 周 知 技 術 の 特 許 権 利 を主 張 す る こ とで,主 に 日本 や ア ジ ア
の 企 業 か ら多 額 の賠 償 金 ・和 解 金 を獲 得 し て い っ た の で あ る(坂 井,1994;上 山,2000)。 前 者 の特 許 侵 害 訴 訟 で は米 国Honeywell社 と ミノ ル タ に よ る係 争,
後 者 の サ ブ マ リ ン特 許 で は 米 国 個 人 発 明 家J.Lemelson氏 と 日本 自動 車 メ ー カ ー11社 に よ る係 争 な どが,そ の代 表 的 な例 と し て挙 げ られ る(何 れ も 日本 側 が 和 解 金 を支 払 い 決 着)。
そ して,こ う した 知 的 財 産 権 を利 用 した新 た な技 術 管 理 戦 略 の登 場 に よっ て, 米 国 多 国籍 企 業 は主 要 な 産 業 に お い て 着 実 に市 場 独 占 を 実 現 しつ つ あ る と言 え る。 例 え ば,今 日,米 国Microsoft社 製OSのWindowsや,米 国Intel社 製 MPUのPentiumな ど は,い わ ゆ る 「デ ・フ ァク ト ・ス タ ン ダー ド(DeFacto Standard)」 と して独 占的 な市 場 占有 率 を 誇 っ て い る(山 田,1999)。 そ して,
こ う した 米 国 産 ソ フ トウ ェ ァ の事 実 上 の 独 占状 態 は,特 許 権 や 著 作 権 と い っ た 知 的財 産 権 の侵 害 訴 訟 に よ る事 業 失 敗 の リス ク を恐 れ た,後 発 企 業 の 市 場 撤 退
に よ って もた ら され た もの で あ る と考 え られ て い る。
例 え ば,1984〜89年 に か け て行 わ れ た米 国lntel社 とNEC(日 本 電 気)に よ る マ イ ク ロ コー ドの 著 作 権 に 関 す る係 争 で は,結 果 的 にNEC側 に侵 害 事 実 は 認 め られ な か っ た もの の,NECは 係 争 に 縛 られ て オ リ ジ ナ ルMPUの 開 発 を 断 念 せ ざ る を得 な い状 況 に 追 い 込 ま れ て い る(久 保 田 ・軽 部,1995)。 こ う し た新 規 参 入 企 業 へ の 抑 止 効 果 も,こ う した技 術 管 理 戦 略 の 進 化 に よ る実 効 性 の 一 つ で あ る。
第六 節 技術 開発戦略 の進化(1990年 代後半)
そ も そ も米 国 多 国 籍 企 業 に よ る 企 業 間 提 携 は,R&D負 担 の コ ス ト軽 減 や リ ス ク 分 散 の 観 点 か ら1980年 代 頃 に は 既 に 活 発 化 し始 め て い た と さ れ る(Mariti andSmiley,1983)。 そ し て,1990年 代 に 入 り そ の 動 き は よ り本 格 化 し,今 日
で は 「知 識 リ ン ク 」 を 狙 っ た イ ノ ベ ー シ ョ ン や 業 界 標 準 を め ぐ る グ ロ ー バ ル な ス タ ン ダ ー ド構 築 な ど 多 様 な 目 的 か ら,大 規 模 か つ 国 際 的 な 「戦 略 的 提 携 (StrategicAlliance)」 が 数 多 く 実 現 さ れ る に 至 っ て い る(松 行,2000;徳 田, 2000;高 井,2001;竹 田 他,2001;竹 之 内,2001)。
な か で も,社 内 外 の 優 れ た イ ノ ベ ー シ ョ ン 能 力 に 対 す る ネ ッ ト ワ ー ク を グ
米 国多 国籍企 業 の技術 戦 略変遷 に関す る一考 察
29ヱ ロ ー バ ル に 形 成 す る こ と で 開 発 方 式 の オ プ シ ョ ン を 多 様 化 さ せ,そ の 中 か ら 最 適 な 開 発 方 式 を 選 択 す る と い う,い わ ば 戦 略 的 な 「国 際 開 発 提 携 」 や 「国 際 共 同 開 発 」 を,1990年 代 後 半 以 降 の 米 国 多 国 籍 企 業(例 え ば,IT産 業 な ど)は 新 た な 技 術 開 発 戦 略 と し て 重 視 し 始 め た と 考 え ら れ る(中 原,1998,2000;山 本,2001)。
い ず れ に せ よ,1990年 代 後 半 以 降 の 米 国 多 国 籍 企 業 に よ る 技 術 開 発 戦 略 の 進 化 と し て は,前 述 し た ① 戦 略 的 な 国 際 開 発 提 携 や 国 際 共 同 開 発 を 始 め と し て,
② 海 外 研 究 所 の 自 律 性 を 高 め,優 れ た 技 術 開 発 要 員 の ワ ー ル ド ワ イ ドな 利 用 を 目 指 す 「グ ロ ー バ ルR&Dネ ッ ト ワ ー ク 」(榊 原,1995;高 橋,2000;林,1996b, 2001),③ 世 界 最 適 調 達 を 目指 し た ア ウ ト ソ ー シ ン グ で あ る 「ワ ー ル ド ・ワ イ
ド ・ソ ー シ ン グ(WorldwideSourcing:WWS)」(加 茂,2000;松 崎,2001),
④ 国 際 的 か つ 大 規 模 な 「 合 併 ・買 収(Merger&Acquisition:M&A)」 や 米 国CiscoSystems社 の 得 意 と す る 外 部 のR&D部 門 を 買 収 す る 「A&D
(Acquisition&Development)」(日 本 経 済 新 聞,1998年11月2日 付,2001年 3月22日 付),な ど を 新 た に 確 認 す る こ と が で き る と考 え ら れ る 。
第 二章21世 紀 の米 国 多国 籍 企 業 の 技術 戦 略(2000年 代 〜 現 在) 第 一節 技術 戦略の未 来 一 内的成長 から外的成 長へ
1990年 代 後 半 以 降 の 米 国 多 国 籍 企 業 に よ る技 術 開発 戦 略 の 進 化 の 特 徴 と し て,イ ノベ ー シ ョ ン活 動 にお け る基 本 的 な 考 え方 が,こ れ ま で の 自社 の 内 部 資 源 に よ る 「内 的 成 長(internalgrowth)」 か ら,新 た に他 社 の外 部 資 源 を積 極 的 に 取 り込 む 形 で の 「外 的 成 長(externalgrowth)」 へ と急 速 に移 行 しつ つ あ る 点 を指 摘 す る こ とが で き る(日 本 経 済 新 聞,1998年11月2日 付)。
つ ま り,1990年 代 以 降 の 「グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン(globalization)」 の 進 展 とそ れ に伴 う 「メ ガ ・コ ンペ テ ィ シ ョ ン(MegaCompetition)」 に よ っ て,一 企 業 の 内部 資 源 の範 囲 内 で の技 術 開 発 戦 略 の 進 化 を 追 求 す る,い わ ば 内 的 成 長 に よ る イ ノ ベ ー シ ョ ン活 動 に と う と う 限界 が 訪 れ た と考 え る こ とが で きる の で
あ る(日 本 経 済 新 聞,2001年3月22日 付)。
そ し て,そ う した 限界 を克 服 す る た め に新 た に編 み 出 され た の が,前 述 した 米 国 多 国籍 企 業 に よ る技 術 開 発 戦 略 の 更 な る進 化=外 的 成 長 に 向 け た イ ノベ ー
シ ョ ン ・ス タ イ ル の 再 編 で あ っ た と考 え られ る の で あ る 。
こ う し た外 的 成 長 時 代 の 到 来 を象 徴 す る 出 来事 と して,米 国 シ リ コ ンバ レー に あ っ たIntervalResearch研 究 所 が 閉 鎖 さ れ た ケ ー ス を取 り上 げ て み た い 。 同研 究 所 は,1992年 に米 国Microsoft社 の 共 同創 業 者 が 私 財 を 投 じて 設 立 し, 最 盛 時 に は 約150名 も の研 究 者 を抱 え た 大 規 模 な研 究 所 で あ っ た 。 しか し,こ の研 究所 は そ の 最 大 の特 徴 と して徹 底 した秘 密 主 義 を とっ て い た た め,外 部 と の 交 流 が 生 ま れ ず,い つ しか 方 向性 を失 い,結 局 イ ン タ ー ネ ッ トの波 に 出遅 れ 失 敗 した と い う(日 本 経 済 新 聞,2000年10月9日 付)。
一 方,外 的成 長 を上 手 く活 用 し実 現 され た技 術 的 成 果 に は,① イ ン タ ー ネ ッ トに 代 表 さ れ るIT,② 抗 癌 剤 と い っ た新 薬 や 「ヒ トゲ ノ ム(=人 問 の 全 遺 伝 情 報)」 に代 表 さ れ る 「バ イ オ ・テ ク ノ ロ ジー(=生 命 工 学)」(幸 田,2000;
上 山,2000),③ 買 い 手 主 導 型 の 「逆 オ ー ク シ ョ ン方 式 」 や 「デ リバ テ ィ ブ (二金 融 派 生 商 品)」 とい っ たIT・ 金 融 関 連 の 「ビ ジ ネ ス モ デ ル(=ビ ジ ネ ス 方 法)」(今 井,2000;幸 田,2000;上 山,2000),④ 「マ イ ク ロ マ シ ン」や 「カ ー ボ ンナ ノチ ュ ー ブ 」 とい っ た 「ナ ノ ・テ ク ノ ロ ジー(=超 微 細 加 工 技 術)」(日 本 経 済 新 聞,2001年5月5日 付),な どが 挙 げ られ一よ う。
こ う し て,外 的 成 長 の 考 え方 を い ち 早 く 自 らの 技 術 開発 戦 略 へ と取 り入 れ た 米 国多 国 籍 企 業 は,確 か に こ う した 最 新 技 術 の 開 発 面 に お い て 世 界 的 な競 争 優 位 を手 に入 れ る こ とが で きた と言 え る(表1参 照)。 しか し,こ う した 競 争 優 位 は,何 も技 術 開 発 戦 略 だ け に 限 られ た 話 で は ない 。 米 国 多 国 籍 企 業 に よ る外 的 成 長 時 代 へ の技 術 戦 略 の 更 な る進 化 は,技 術 管 理 戦 略 に お い て も既 に始 ま っ て い るの で あ る 。 前 出 の技 術 的成 果 の 専 有 に 際 し て は,外 部 資 源 を積 極 的 に 活 用 す る手 法 か らそ の所 有 権 の帰 属 に関 す る 問 題 が 発 生 し易 い た め,こ こ か ら特 許 権 やi著作 権 とい っ た 知 的 財 産 権 の 果 た す 役 割 が よ り一 層 大 き な も の と な る
(林,1999)。
米国多 国籍 企業 の技 術戦 略変 遷 に関す る一 考察 表1文 部 科学 省 ・第7回 技術 予測調 査(2001年7月17日 発 表)
293
主 な 重 要 技 術 実現予測年
研 究 が 進 んで い る国 ・地 域
日 本 米 国 欧 州◇生命関連分野
糖尿病,高 血圧,動 脈硬化 に関係する遺伝子群 を
突 き止め,患 者の病因を明確に判定
2013
○ ◎△
DNA塩 基配列情報か ら酵素 など新 しいたんぱ く
質の機能 を推測する手法の開発
2009
○ ◎△
細胞ががん化する信号の伝達を止めてがん細胞 を
正常化 させ る治療法の普及
2020
○ ◎△
◇環境関連分野
窒素酸化物排出規制 ・技術の普及
2011
◎△
○ゼ ロエ ミ ッシ ョ ン技術 が進 み,産 業廃 棄 物 の埋 め
立 て量 が半 減 2018
○△
◎環境 ホルモンの人体への健康障害が解明
2015 △
◎ ○◇情報関連分野
ハ ッカー の攻 撃 か らプ ラ イバ シー や機 密 が保 護 で
きる信 頼性 の 高 い ネ ッ トワー ク シス テ ムの普 及 2010
○ ◎△ 1月2,000円 以 下 で 毎 秒150メ ガ ビ ッ トの 大 容 量
ネ ッ トワー ク を 自由 に利 用 で きる環境 の実現 2009
○ ◎△
ソフ トウ ェ ア検証 技術 が進 み,誤 りの ない 大規模
ソフ トウ ェ アの短 期 開発 が 可 能 に
2019 ○ ◎△
(原注)研 究が 進 ん でい る順 に,◎ → ○→ △ (出所)「 日本経 済新 聞」2001年7月18日 付 。
つ ま り,外 的成 長 に 向 け た技 術 開発 戦 略 に は,こ れ ま で 以 上 に プ ロ ・パ テ ン トの考 え方 が 重 視 され る た め,必 然 的 に 自 らの技 術 的成 果 の 専 有 を制 度 的 に保 証 し得 る知 的財 産 権 の 実 効 性 を よ り強 化 し得 る,技 術 管 理 戦 略 の 進 化 も ま た不 可 欠 とな る。 前 述 の 技 術 開発 戦 略 の 更 な る進 化 と ほ ぼ時 を 同 じ に して,米 国多 国 籍 企 業 に よ る技 術 管 理 戦 略 の 更 な る 進 化 も始 ま っ て お り,例 え ば① マ ル チ メ
デ ィ ア ・ソ フ ト と し て の 「デ ジ タ ル ・コ ンテ ン ツ(DigitalContents)」(文 化 庁 長 官 官 房 著 作 権 課 内 著 作 権 法 令 研 究 会 他,1999),② 前 述 の 「DNA遺 伝 子 情 報 」 あ る い は 「遺伝 子 導 入 動 植 物(例 え ばTransgenicMouseな ど)」(上 山, 2000),③ 同 じ く前 述 の 「ビジ ネ ス モ デ ル 」(RivetteandKline,2000ab;幸 田, 2000;上 山,2000),な どが新 た に 特 許 権 化(① は著 作 権 化)の 対 象 と し て加
え られ る こ と とな った 。
こ の よ う に,米 国 多 国籍 企 業 の技 術 戦 略 は,決 し て止 ま る こ とな く進 化 し続 け て い る と言 え る 。 で は,そ う した21世 紀 の技 術 戦 略 の 未 来 とは,一 体 どの よ う な もの が 想 定 され る で あ ろ う か。 以 下 で は,技 術 管 理 戦 略 ・技 術 開 発 戦 略 そ れ ぞ れ の 未 来 に つ い て,筆 者 の 試 論 を展 開 す る こ と と した い 。
第 二 節 技 術 管 理 戦 略 の 未 来 一 特 許 ポ ー トフ ォ リオ 戦 略
一 般 的 に 特 許 ポ ー トフ ォ リオ 戦 略 とは,「 同 一 分 野 の 発 明 に 関 し,複 数 の特 許 を 意 識 的 に取 得 す る こ と に よ り,特 許 権 を 強化 し,競 争 能 力 を 高 め る戦 略」
で あ り,そ の 具 体 的 な 行 動 と し て は,「 重 要 技 術 に 焦 点 を絞 り,網 の 目の ご と く複 数 の 特 許 を 取 得 す る」 こ とで あ る と解 さ れ て い る(幸 田,2000)。 こ う し た ポ ー トフ ォ リオ 分 析 は,金 融 工 学 とい っ た分 野 に お い て 確 か に そ の 意 義 は 認 識 さ れ て い た もの の,特 許 管 理 の現 場 で は莫 大 な時 間 と経 費 の 面 か ら,か つ て
は敬 遠 され て きた とさ れ る。
と こ ろ が,1990年 代 後 半 以 降,イ ン ター ネ ッ ト技 術 に代 表 さ れ るITの 飛 躍 的 な 進 歩 に よ り,か つ て 数 ヶ 月 もか か っ て い た ポ ー トフ ォ リオ 分 析 が,イ ン ター ネ ッ トを利 用 した 専 用 ソ フ トウ ェ ア に よ る解 析 に よ っ て 数 時 間 で完 了 し,し か も安 価 な コ ス トで 実 行 で き る よ う に な っ た の で あ る(RivetteandKline, 2000ab)。 以 下 で は,米 国AuriginSystems社 の 開 発 した イ ン ター ネ ッ トを 利 用 した 特 許 ポ ー トフ ォ リオ 戦 略 専 用 の ソ フ トウ ェ ア を例 に,そ の機 能 につ い て 説 明 し て い く こ と と した い(關,2001be)(図1参 照)。
米 国多 国籍企 業 の技術 戦 略変遷 に関す る一考 察
295
特 許 引用 ツ リー (PatentCitation)
周 辺 特 許 取 得 (ビジネ スモデ ル 特 許 、 BusinessMeth◎dPatent)
侵 害 訴 訟 、 クロス・ライセンシン グ
売 却 、 クロス ・ライセ ンシング
クラスタリング (Clustering) ブラケッテ ィング
(Bracketing)
(出所)拙 稿(2001b)「21世 紀 の 米 国 多 国籍 企 業 の特 許 戦 略 モ デ ルー イ ン タ ー ネ ッ トを利 用 した 特 許 ポ ー トフ ォ リオ戦 略 」
『 商 学 討 究』(小 樽 商科 大 学)第51巻 第4号 ,391頁 。
図1イ ン タ ー ネ ッ トを 利 用 した特 許 ポ ー トフ ォ リオ 戦 略 の チ ャ ー ト
ま ず,KGRivette&D.Klineに よ れ ば(Rivette氏 は,前 出 のAurigin Systems社 の 共 同 設 立 者 で あ り現 会 長),こ れ ま で のR&Dの 現 場 で は イ ノ
ベ ー シ ョ ン と特 許 管 理 と の 関 連 付 けが 希 薄 で あ り,そ の 理 由 と し て は,① 製 品 サ イ ク ル の 短 縮 化 に よ っ て特 許 取 得 の 費用 と時 間 が 無 駄 に な る不 安 が あ っ た こ と,② 競 合 他 社 の特 許 マ ッ ピ ン グ な どを 分析 す る と 「故 意 の侵 害 」 とい う罪 に 問 わ れ る と誤 解 さ れ て い た こ と,な どが挙 げ られ る と して い る 。
こ う した 点 を改 善 す る た め に イ ン タ ー ネ ッ トを利 用 した 特 許 ポ ー トフ ォ リ オ 戦 略 で は,ま ず 新 製 品 ・新 市 場 へ の 参 入 を 図 る 前 に 「特 許 取 得 動 向 マ ッ プ (LandscapeMap)」 を利 用 し て競 合 他 社 の長 期 的 な 開 発 動 向 の分 析 を行 い, 二 重 投 資 の リス ク を回 避iする こ とが 目指 さ れ る(RivetteandKline,2000a)。
つ ま り,特 許 管 理 部 門(あ る い は 知 的 財 産 部 門)とR&D部 門 と を連 携 させ, 効 率 良 く技 術 開 発 を行 い,中 核 技 術 の特 許権 を取 得 す る こ とが 目指 さ れ る の で
あ る(研 究 開発 マ ネ ジ メ ン ト,2000)。 そ して,そ こか ら改 め て 自社 の 中核 技 術 を定 め集 中 的 に 開発 を行 い,そ れ を基 本 特 許 と して 押 さ え る の で あ る。 さ ら に,競 合 他 社 が 自社 技 術 を模 倣 で きな い よ う に,あ るい は競 合 他 社 の基 本 特 許 を無 効 な もの とす る た め に,方 法 や プ ロ セ ス とい っ た 周 辺 特 許 を押 さ え て お く こ と も行 わ れ る。
す な わ ち,い わ ゆ る ビ ジ ネ ス モ デ ル特 許 に よ っ て,自 社 の基 本 特 許 の周 囲 に
特 許 の 壁 を築 く 「ク ラ ス タ リ ン グ(Clustering)」 や,競 合 他 社 の 基 本 特 許 に 関 連 す る周 辺 特 許 を 囲 い 込 む 「ブ ラ ケ ッ テ ィ ン グ(Bracketing)」 とい っ た 防 衛 的 な特 許 戦 略 を行 うの で あ る(RivetteandKline,2000a;今 井,2000)。
ま た,イ ン タ ー ネ ッ トを利 用 した 特 許 ポ ー トフ ォ リオ 戦 略 で は,前 述 の特 許 マ ッピ ング か ら 自社 の技 術 優 位 を強 化 で き る周 辺 特 許 を持 つ 企 業 を探 し出 し, M&Aを 行 う こ と も視 野 に入 れ られ て い る とい う。 さ らに,「 特 許 引 用 ツ リー
(PatentCitationTree)」 の 分 析 に よ っ て,自 社 の 特 許 技 術 か ら多 く引 用 して い る特 許技 術 を探 し出 し訴 え る 戦 略 が 可 能 と な り,ま た 侵 害 の事 実 が 認 め られ な くて も他 社 が 自社 の 特 許 技 術 を引 用 して い る こ と をロ 実 と して,そ の技 術 関 連 性 の深 さ か ら 「ク ロ ス ・ラ イ セ ン シ ン グ(CrossLicensing)」 契 約 な どを 結 び,相 手 の 特 許 技 術 を獲 得 す る こ と も行 わ れ る と され る。
逆 に,引 用 ツ リー で 照 会 し多 く引 用 され て い る特 許技 術 が 自社 に あ れ ば,そ れ は市 場 価 値 が 高 い こ と を示 して い る こ とか ら,そ れ らの 売 却 や ク ロ ス ・ラ イ セ ン シ ング が 検 討 され る とい う(RivetteandKline,2000a)。 こ う し た特 徴 は, イ ン タ ー ネ ッ トを利 用 し た特 許 ポ ー トフ ォ リ オ戦 略 が,や は り外 的 成 長 に 適 し た 技 術 管 理 戦 略 で あ る こ とを 意 味 して い る。
以 上 の よ う な イ ン タ ー ネ ッ トを利 用 した 特 許 ポ ー トフ ォ リオ 戦 略 に よっ て, 実 際 に多 くの 米 国多 国 籍 企 業 がR&Dと 特 許 管 理 の 統 合 化,あ るい はM&Aや 戦 略 的提 携 とい っ た特 許 権 を利 用 した様 々 な競 争 戦 略 を実 現 し,市 場 で の独 占 強 化 や 財 務 実 績 の 向 上 な どに役 立 て て い る と さ れ る 。 そ の意 味 で は,技 術 開 発 戦 略 と して の 一 面 も併 せ 持 ち,外 部 資 源 の 活 用 に も秀 で た イ ン タ ー ネ ッ トを利 用 した特 許 ポ ー トフ ォ リ オ戦 略 と は,ま さ し く外 的 成 長 に適 した 米 国多 国 籍 企 業 に よる21世 紀 の技 術 管 理 戦 略 の 未 来 形 と し て,こ こ に紹 介 す る こ とが 適 当 で あ ろ う。
米 国多 国籍 企業 の技術 戦略 変遷 に関す る一考 察
297
第三節 技術開発 戦略 の未 来 一 オ ープンR&D戦 略
unix互 換 の 「基 本 ソ フ ト(Qperatingsystem:os)」 で あ るLinuxは,代 表 的 な 「オ ー プ ンソ ー ス ソ フ トウ ェ ア(OpenSourceSoftware:OSS)」 と して, 昨 今 急 速 に 注 目 を 集 め つ つ あ る。 オ ー プ ン ソ ー ス ソ フ トウ ェ ア とは,ソ ー ス コ ー ドが 公 開 され,改 良 や 配 布 が 無 償 で で き るOSで あ り,フ リー ソ フ トウ ェ ア の 一 種 と して 位 置 付 け られ て い る(Dibonaetal.,1999;Raymond,1999;
刀1山奇,1999)。
そ し て,こ う したLinux開 発 の 発 想 に は,次 の よ う な 情 報 財 に 対 す る新 た な認 識 が 存 在 して い る。 す な わ ち,① 追 加 一 単 位 生 産 して配 布 す る コ ス トが 限 りな くゼ 「ロに近 づ きつ つ あ る,② 他 者 に伝 達 して も 自分 の手 元 に も残 る,③ 共 有 して他 者 の持 つ 別 の情 報 と組 み 合 わ せ る こ とで価 値 が 高 ま る,④ 同 じ情 報 を よ り多 くの 人 間 が 持 つ こ とで 価 値 が 高 ま る,と い う もの で あ る。
つ ま り,オ ー プ ン ソ ー ス ソ フ トウ ェ ァの 世 界 で は,情 報 と は排 他 的 に所 有 さ れ るべ き も の で は な く,む し ろ積 極 的 に外 部 と共 有 させ た り他 の 情 報 と結 合 さ せ た りして 価 値 を増 大 させ る べ き存 在 と して位 置付 け られ て い る とい うの で あ る(國 領 他,2000)。 これ は,ま さ し く外 的 成 長 の考 え 方 で あ る 。
こ こか らオ ー プ ン ソ ー ス ソ フ トウ ェ ア の イ ノ ベ ー シ ョ ン ・ス タ イ ル と は,従 来 ま で の コ ピ ー を許 さず 改 変 を認 め ない 排 他 的 な 所 有 権 の 考 え方 を否 定 し,さ らに は 従 来 の企 業 と い う枠 組 み を超 えた 自 由 で 大 規 模 な サ イ バ ー ・ス ペ ー ス に お け る 共 同 開発 戦 略,す な わ ち積 極 的 な情 報 開示 に よ る全 く新 た なR&D戦 略
=オ ー プ ンR&D戦 略 と して 位 置 付 け られ る こ と と な る の で あ る(Raymond , 1999;川 崎,1999;日 本 経 済 新 聞,2001年1月29日 付,2002年1月3日 付)。
そ して,こ う した オ ー プ ンR&D戦 略 に よっ て 開 発 さ れ る オー プ ンソ ー ス ソ フ トウ ェ ア に は,Windowsと い っ た 従 来 の ソ フ トウ ェ ア に 比 べ て,① 信 頼 性 の 高 い ソ フ トを開 発 す る こ とが で き る,② 開発 速 度 が 速 い,③ 開発 経 費 が 少 な くて す む,④ オ ー プ ンソ ー ス ソ フ トウ ェ ア を使 った 新 しい ビ ジ ネ ス が展 開 で き る,⑤ ユ ー ザ ー の 利 益 が 開 発 ・販 売 会 社 の動 向 に左 右 され ない,等 の 数 多 くの
利 点 が 認 め ら れ て い る(川 崎,1999)。 そ し て 事 実,こ れ ま でMicrosoftの Windowsの 独 占 状 態 に あ っ たos市 場 に も,劇 的 な 変 化 が 起 こ り 始 め て い る 。
例 え ば,米 国 ハ イ テ ク 調 査 会 社 のIDCに よ る と,サ ー バ ー 向 けOS市 場 で の 世 界 シ ェ ア も,2000年 の10%以 下 か ら2004年 に は30%強 に 達 す る と の 試 算 を 発 表 し て い る(日 本 経 済 新 聞,2001年2月3日 付)。 ま た 最 近 で は,IBMやIntel, HewlettPackard,De11,0racleと い っ た 名 立 た る 米 国IT多 国 籍 企 業 が,R
&D部 門 や 財 務 部 門 と い っ た 基 幹 シ ス テ ム の サ ー バ ー‑OSと し てLinuxを 採 用 す る こ と を 決 定 し て お り,米 国Microsoft社 も そ の 脅 威 を 認 め て い る と さ れ る
(日 本 経 済 新 聞,2001年2月3日 付)。
さ ら に は,そ う し た 米 国IT多 国 籍 企 業 も,自 ら オ ー …プ ン ソ ー ス ソ フ ト ウ ェ ア の 開 発 に 乗 り 出 し始 め て お り,こ う し た オ ー プ ンR&D戦 略 は,米 国IT多 国 籍 企 業 の 新 た な 技 術 開 発 戦 略 と し て,徐 々 に そ の 認 知 度 を 高 め つ つ あ る と 言 え る の で あ る(表2参 照)。
表2主 な オ ー プ ン ソ ー ス の プ ロ ジ ェ ク トの 比 較
社 名 開 発 内 容
成果 の ラ イセ ンス 手法 の特 徴
ヒ ュ ー レ ッ ト ・
パ ッ カ ー ド ネ ッ ト用 ソ フ ト 「eス ピ ー ク ス 」
すべ て を公 開す る最 も純粋 な ライ セ ン ス手 法 「GPL」 を利 用
イ ンテ ル パ ソ コ ン用視 覚 ソフ トや デー タ ・ セ キュ リテ ィ技 術 な ど
「GPL」 に比べ 公 開 内容 を限 定 で きる
「BSD」 型 ライ セ ンス手 法 を利 用
サ ン ・マ イ ク ロ
シ ス テ ム ズ
ネ ッ ト用 ソ フ トや 半導 体技 術 な ど
無料で 自由に使えるが、他者が製晶に 搭載すればライセ ンス料を徴収する独
自手法
(出所)「 日本経 済 新 聞」2001年 ユ月29日 付 。
しか しな が ら,こ う した オ ー プ ンR&D戦 略 に も欠 点 が 無 い わ け で は な い。
オ ー プ ンR&D戦 略 の 最 大 の 問題 点 は,や は り特 許 権 の 問 題 で あ る(日 本 経 済 新 聞,2002年1月3日 付)。 つ ま り,オ ー プ ン ソ ー ス ソ フ トウ ェ ア 開 発 の ケ ー ス にお い て も明 らか な通 り,コ ピー や 改 変,再 配 布 とい っ た 特 許 法 が 禁 じる行
米 国多 国籍企 業 の技 術 戦 略変遷 に関す る一考 察
299
為 こそ が,逆 に オ ー プ ンR&D戦 略 に とっ て は欠 か せ な い重 要 な イ ノ ベ ー シ ョン ・プ ロ セ ス と な っ て い る た め,こ の 部 分 に大 きな 矛 盾 が 発 生 す る と考 え ら れ て い る の で あ る。
例 え ば,こ う した 矛 盾 か ら現 実 に,オ ー プ ンソ ー ス ソ フ トウ ェ ア の デ ィベ ロ ッパ ー達 が特 許 権 か らの 支 配 を逃 れ る た め に,逆 に特 許 権 の力 を利 用 す る と い っ た ケ ー ス も存 在 す る と され て い る(RivetteandKline,2000a)。 ま た,実 際 にLinux企 業 内 部 で も,オ ー プ ン ソ ー ス ソ フ トウ ェ ア が 権 利 侵 害 な ど で 訴 え られ た場 合 の 防 衛 手 段 と して,ク ロ ス ・ラ イ セ ン シ ン グ の有 効 性 が 説 か れ つ つ あ る とさ れ る(Perens,1988)。
この よ う に,オ ー プ ンR&D戦 略 に は,未 だ不 透 明 な要 素 も多 い こ と は確 か で あ る。 しか しな が ら,コ ン ピ ュ ー タ ・ソ フ トウ ェ ア産 業 に お い て は,も は や オ ー プ ン ソー ス ソ フ トウ ェ ア 中 心 の ビ ジ ネ ス 展 開 の 流 れ を止 め る こ とは で きず (金子,1999),こ う した ま た そ の"う ね り"は 様 々 な 産 業 分 野 へ と今 後 一 層 の 波 及 が 予 想 さ れ て い る(日 本 経 済 新 聞,2002年1月3日 付)。 そ の 意 味 で は, 外 的 成 長 に 適 し た オ ー プ ンR&D戦 略 とは,ま さ に米 国多 国i籍企 業 に よ る21世 紀 の 技 術 開発 戦 略 の 未 来 形 と して,こ こ に紹 介 す る こ とが 適 当 で あ る よ う に思 わ れ る。
お わ り に
これ ま で の 考 察 か ら,米 国多 国 籍 企 業 の 誕 生 以 来 の 技 術 戦 略 変 遷 に つ い て概 観 して きた わ け で あ る が,こ れ らの 考 察 に は筆 者 の あ る考 え 方 が 根 底 に あ る。
そ れ は,本 稿 の 冒 頭 にお い て も触 れ て い るが,筆 者 に とっ て と くに20世 紀 の 米 国 多 国籍 企 業 の技 術 戦 略 変 遷 と は,あ た か も技 術 開 発 戦 略 と技 術 管 理 戦 略 と が 交 互 に 台 頭 を繰 り返 す こ とで 以 前 の戦 略 の 限界 や 失 敗 を 克 服 し,ま た 個 々 で の 戦 略 で見 る と現 在 の 戦 略 が 過 去 の 同戦 略 の 教 訓 を活 か す 形 で そ の 内容 を進 化 させ て い く,い わ ゆ る 「サ イ ク ル ・モ デ ル(CycleMode1)」 と し て理 解 し得 る とい う もの で あ る(關,2000de)。 そ して,21世 紀 に 入 り外 的 成 長 の 時代 を
迎 え る と,こ う した技 術 戦 略 サ イ ク ル の 意 味 す る もの が よ り鮮 明 に な る。
す な わ ち,技 術 開発 戦 略 と技 術 管 理 戦 略 とが 交 互 に 台 頭 を繰 り返 す と い っ た 技 術 戦 略 サ イ ク ルが,一 企 業 の有 す る 内部 資 源 を最 大 限 に活 用 す る た め の工 夫 で あ っ た こ と に気 付 か され る の で あ る。20世 紀 の 米 国多 国 籍 企 業 の技 術 戦 略 と は,内 部 資 源 の 範 囲 内 で の 技 術 戦 略 で あ っ た とい うこ とで あ る。
しか しな が ら,グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ンの到 来 に よ り時代 は外 的成 長 を企 業 に 求 め 始 め る こ と と な る 。 こ う した 動 き に い ち 早 く乗 じた 米 国 多 国籍 企 業 は,新 た に外 部 資 源 の 導 入 に よ って か つ て の 内部 資 源 の 範 囲 内 とい う制 約 を外 し,自 らの 技 術 戦 略 を よ り一 層 進 化 させ て い くこ と に成 功 し た と考 え られ る の で あ る 。 そ して,こ う した技 術 戦 略 の 進 化 に支 え られ て米 国多 国 籍 企 業 は,21世 紀 の基 幹 技 術 と 目 され るITや バ イ オ,ナ ノ テ ク の イ ノ ベ ー シ ョ ン に お い て 着 実 に競 争優 位 を確 立 しつ つ あ り,ま た そ の専 有 を制 度 的 に保 証 し得 る 国 際 的 環 境 を よ り一 層 強 化 しつ つ あ るρ
こ の よ う に考 え る とす れ ば,米 国 の 技 術 ヘ ゲ モ ニ ー を 支 え て い る もの とは, や は り米 国多 国籍 企 業 の技 術 戦 略 そ の も の で あ る と考 え られ る の で あ る。 つ ま
り,米 国 の 技 術 ヘ ゲ モ ニ ー と は,現 実 的 に は 米 国 多 国籍 企 業 が 生 み 出 す 技 術 的 成 果 の 集 積 結 果 で あ る と考 え られ る が,理 論 的 に は米 国多 国 籍 企 業 の 技 術 戦 略 の絶 え 間 な い進 化 過 程 そ の も の で あ る と考 え られ る,と い う こ とで あ る。
技 術 管 理 戦 略 で 言 え ば,か つ て の 内 部 市 場 取 引 に よ る秘 匿 化 か ら法 的 拘 束 力 を背 景 と した 特 許 権 化 へ の 進 化 で あ り,さ らに はITに よ り特 許 管 理 の 精 度 を 高 め た 特 許 ポ ー トフ ォ リオ 化 へ の進 化 の過 程 で あ る。 同 じ く技 術 開 発 戦 略 で 言 え ば,か つ て の本 国 中心 のR&Dシ ス テ ム か らR&D拠 点 の グ ロ ー バ ル 化,そ
して グ ロ ーバ ルR&Dネ ッ トワ ー ク へ の 進 化,さ らに は ウ ェ ブ上 で の オ ー プ ン R&Dへ の 劇 的 な進 化 の 過 程 で あ る。
しか し なが ら,21世 紀 の 米 国多 国籍 企 業 の新 た な技 術 戦 略 モ デ ル で あ る と 目 さ れ る特 許 ポ ー トフ ォ リオ 戦 略 とオ ー プ ンR&D戦 略 は,そ れ ぞ れ か つ て の技 術 管 理 戦 略 と技 術 開発 戦 略 の 進 化 過 程 の産 物 と し て位 置 付 け られ る もの の,そ の具 体 的 な戦 略 内 容 に つ い て は相 反 す る部 分 が 多 く,現 実 に は様 々 な 矛 盾 が 認
米 国多 国籍企 業 の技 術 戦略 変遷 に 関す る一考 察
30ヱ
め られ る こ と に気 付 か され る 。例 え ば,特 許 ポ ー トフ ォ リオ 戦 略 に よ っ て 技 術 の特 許 に よ る 囲 い 込 み が進 め ば 進 む ほ ど,オ ー プ ンR&D戦 略 はそ の意 義 を失 う こ と と な る で あ ろ う。また, 同 じ くオ ー プ ンR&D戦 略 に よ っ て排 他 的 な所 有 権 の 考 え方 が 否 定 さ れ れ ば さ れ る ほ ど,特 許 ポ ー トフ ォ リオ戦 略 は そ の行 く場 を失 う こ と とな るで あ ろ う。
そ れ ぞ れ の技 術 戦 略 に お け る進 化 過 程 の な か か ら歴 史 的 な必 然 性 を持 っ て 生 ま れ た21世 紀 の 二 つ の技 術 戦 略 モ デ ルが,現 実 に は多 くの 矛 盾 を 有 して い る こ と を,我 々 は 一体 ど の よ う に理 解 す べ き で あ る の か 。 この 点 は,今 後 の 筆 者 の研 究 課 題 の一 つ で あ る 。
最 後 に,本 稿 の 内容 は 未 だ 試 論 の 域 を 出 て お らず,こ れ ま で の 筆 者 の主 張 を 客 観 的 に裏 付 け る実 証 作 業 が 大 き く欠 落 して い る。 また,今 日の 多 国 籍 企 業研 究 に と っ て不 可 欠 な組 織 論 研 究 につ い て も,本 稿 で は 大 き くそ の 考 察 を省 略 し て い る。 こ れ らの 不 足 部 分 の 考 察 につ い て は,他 日を期 し た い 。
(付記:本 稿 は,2001年4月21日 に 「立教 大 学」 にお い て筆 者 が行 った 『企 業 経 済 研 究会』 での研 究報 告 「米 国IT多 国籍 企 業 にみ る新 た な技術 戦 略 モデ ル ー 特 許 ポ ー トフォ リオ戦 略 とオ ー プ ンR&D戦 略」,同 年9月8日 に 「桃 山学 院 大学 」 に お い て筆 者 が行 った 『日本経 営 学 会』 第75回 大 会 で の 自由論 題報 告 「米 国多 国籍 企業 の技 術 戦 略サ イ ク ル ・モデ ル」,同 年10月21日 に 「パ ルセ い い ざか」 にお い て 筆 者 が行 っ た 『国 際 ビ ジ ネス研 究 学 会』 第8回 全 国 大会 での 自由論 題 報告 「多 国 籍企 業 の技 術 戦 略 サ イ ク ル ・モデ ルー 第二 次世 界 大 戦後 の 米 国多 国 籍企 業 に よる 技術 戦略 の進 化過 程」 の各 報告 原稿 の 内容 を基 に新 た に編 集 し直 した もの であ る。
また本 稿 は,2001年 度文 部科 学省 科 学研 究 費 ・奨励 研 究(A)「 米 国IT多 国籍 企 業 の イ ン ター ネ ッ トを利 用 した特 許 ポ ー トフ ォリオ 戦略 の研 究」 の研 究 成 果 の 一 部 であ る。)
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