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仕事を完成していない請負人による報酬請求につい て

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(1)

著者 山口 幹雄

雑誌名 明治学院大学法科大学院ローレビュー = Meiji

Gakuin University Graduate Law School law review

巻 19

ページ 45‑83

発行年 2013‑12‑31

その他のタイトル On the Claim of Remuneration by a Contractor Who Has Not Completed the Work

URL http://hdl.handle.net/10723/1767

(2)

はじめに

民法によると,請負とは,「当事者の一方があ る仕事を完成することを約し,相手方がその仕事 の結果に対してその報酬を支払うことを約するこ とによって,その効力を生ずる」契約であり,報 酬は後払いが原則である(民法第632条及び同633 条参照)。したがって,請負人は仕事を完成する まで報酬(の支払い)を請求することができず,

前払いの特約があっても,仕事を完成しなければ,

既に支払いを受けていた報酬を注文者に返還しな ければならないと説かれてきた(1)

しかし,実際には,仕事を完成していない請負 人による報酬の請求が認められることも少なくな い。後述するように,裁判例の中には,仕事を完 成していない請負人による報酬の請求が認められ る旨を判示するものが少なからず見受けられるか らである(2)。こうした裁判例(の判示事項)は民 法の許容するところなのであろうか。とりわけ,

民法第632条及び同633条の解釈として許容される ものなのであろうか。

こうした検討は,これまでほとんどなされてこ なかったといってよい。後述するように,学説等 の中には裁判例の理論構成に疑問を呈するものも 見られるが,それが民法の解釈として許容される のか――とりわけ民法第632条及び同633条の解釈 として許容されるのか――といった検討は,これ までほとんどなされてこなかったのが現状だから である(3)

このような現状にあって本稿は,上記のような 裁判例の要件と効果に着目し,その理論構成が民 法の解釈として許容されるのか否かを検証するも のであり,その検証過程を通じて,問題を見る新 たな視点の提示を試みるものである。このような 検討は,現在検討されている民法改正の動向を踏 まえてもなお必要な作業であるといってよいであ ろう。周知のように,現在,法務省の法制審議 会・民法(債権関係)部会においては,民法の改 正が検討されており,そこでは,一定の場合に,

仕事を完成していない請負人による報酬の請求が 認められる旨の規定を創設することが検討されて いるものの,現在検討されている改正が実現する のか必ずしも明らかではなく,解釈による限界等 を確認しておくことは,上記のような立法論的検 討にも不可欠の前提になるのではないかと考えら れるからである(4)

第一 一般的な理解と検討対象の画定

1 請負人の報酬請求に関する一般的な理解 先にも述べたように,一般に,請負人は仕事を 完成するまで報酬を請求することができないと説 かれてきたが,その理論構成は様々である(5)。例 えば,判例・通説によると,請負人の報酬請求権 は契約(の成立)と同時に発生するのであって,

ただ,請負人が仕事を完成するまでは報酬(支払)

債務の弁済期が到来しないため,実際には報酬を 請求することができない(にすぎない)(6)。これ に対して,学説等の中には,請負人が仕事を完成

『明治学院大学法科大学院ローレビュー』第19号 2013年 45−83頁

仕事を完成していない請負人による 報酬請求について

山 口 幹 雄

 

 

(3)

するまでは報酬請求権そのものが発生しないとす るものや,「抽象的な報酬債権」は契約の成立と 同時に発生するが,請負人が仕事を完成するまで

「具体的な報酬債権」は発生しないとするものも 見られるところである(7)。このように,理論構成 は様々であるが,請負人が仕事を完成するまで報 酬を請求できないことにはほとんど異論がないと いってよいであろう(8)

もっとも,学説や裁判例等は,その多くが,具 体的な条文の解釈というよりも,むしろ請負の性 質から導き出される当然の帰結として,請負人は 仕事を完成するまで報酬を請求できないとしてお り,その帰結に至る条文の解釈や根拠となる規定 は必ずしも明らかではない(9)。ただし,上記のよ うな学説や裁判例等の多くは民法第632条又は同 633条に言及しており,理論的にも,条文の根拠 はこれらの規定に求めざるを得ないと考えられ (10)。なぜなら,上記の帰結が請負の性質から導 き出されるとすると,その根拠は請負の冒頭規定 である民法第632条に求めざるを得ないと考えら れ(「冒頭規定の定める要素が当該契約の本質的 部分を定めていると解される」からである(11)),

判例・通説のように解すると(12),その(直接の)

根拠は報酬の支払時期を定める民法第633条に求 めざるを得ない(民法第633条が報酬の支払時期 を規定していることにはほとんど異論がないから である(13))と考えられるからである(14)

そこで問題となるのは,民法第632条及び同633 条の解釈として,請負人が仕事を完成するまで報 酬を請求することができないのか否かであるが,

この問題は本稿の主要な検討課題であることか ら,後でまとめて検討することとし,以下におい ては,まず,上記のような一般原則にもかかわら ず,仕事を完成していない請負人による報酬の請 求が認められる旨を判示した裁判例を概観するこ ととしたい(15)。その際,本稿の問題関心に鑑み,

検討対象は以下のとおりとする。

2 検討対象の画定

上記のように,本稿は,⑴請負に関する民法の 規定(とりわけ民法第632条及び同633条)の解釈

として,⑵仕事を完成していない請負人による⑶ 報酬の請求が認められる旨を判示した裁判例の理 論構成が民法の解釈として許容されるのかを検証 するものである。このため,⑴実際の裁判例にお いては,問題となっている契約が(民法が規定す るいわば「純粋」な)請負ではなく,請負類似の 無名契約(あるいは雇用や委任との混合契約),

さらには,他の裁判例に照らせば,請負というよ りも,むしろ雇用や(準)委任(あるいは,売買 に近い製作物供給契約)に分類されるのではない かと考えられるものも見られるが,以下において は,基本的に,請負に関する民法の規律として,

仕事を完成していない請負人による報酬の請求が 認められる旨を判示したものを検討対象とする

(すなわち,委任や雇用等の規律として報酬の請 求が認められる旨を判示した裁判例は検討対象か ら除外している)(16)

また,上記の⑵により,以下においては,基本 的に,仕事が完成した場合はもとより,一応は仕 事が完成したものの,その結果に瑕疵があるとい う事案も検討対象から除外している(17)。前者の 場合に請負人による報酬の請求が認められること にほとんど異論はないものの(18),後者の場合に は,請負人が仕事を完成したことにならないので はないか――したがって,請負人は報酬を請求で きないのではないか――との疑問も生じ得るとこ (19),一応なりといえども仕事が完成している 以上――実際にはその判断が困難な場合もあり得 るとしても,理論的には――請負人による報酬の 請求が認められることにほとんど異論はないと考 えられるほか(20),条文の解釈としても,この場 合に――報酬請求権が発生していないと解した場 合はもとより――報酬債務の弁済期が到来してい ないとすると,民法第634条第2項後段は意味の ない規定となる可能性も否定できないことから,

この場合には,注文者が「其瑕疵ニ付キ損害賠償 ヲ請求シ又民法第六百三十四条第二項ニ依リ同時 履行ノ抗弁ヲ為スコトヲ得ルモ其抗弁ニ因ラスシ テ漫然報酬ノ支払ヲ拒ムコト」はできないことに なるのではないかと考えられる(21)

さらに,上記⑶のとおり,本稿は,仕事を完成

(4)

していない請負人による「報酬」の請求が認めら れる旨を判示した裁判例を検討対象とするもので ある。したがって,一定の場合には,解除に伴う 原状回復(民法第545条第1項参照)や損害賠償

(同415条,同545条第3項及び同641条並びに同 709条等参照),あるいは不当利得の返還(同703 条及び同704条等参照)等として,請負人による 一定の報酬請求が認められた場合とほぼ同様の請 求を認められることもあり得るが(22),こうした 裁判例は検討対象から除外している。すなわち,

以下において検討対象となるのは,あくまでも,

約定の報酬そのものの請求が――契約上の債務の 履行請求として――認められる旨を判示したもの である(この意味については後述する(23))。

なお,以下においては,基本的に,「通常」の 請負であるいわゆる定額請負を想定している(24) したがって,いわゆる概算請負や前払い(ないし 出来高払い)の約定がある事案は,本稿の検討に 必要な範囲で言及するにとどめている。すなわち,

こうした約定が存在する事案のうち,以下で概観 するのは,上記のような約定が存在するにもかか わらず,未払いの報酬請求や既払いの報酬の返還 請求等が問題となり,その際に,仕事を完成して いない請負人による報酬の請求が認められる旨を 判示した裁判例である(25)

以上の前提を踏まえ,以下においては,仕事を 完成していない請負人による報酬の請求が認めら れる旨を判示した裁判例を概観することとした い。もっとも,こうした裁判例は相当数に上り,

ここでその全てを詳細に検討することはできな い。このため,以下においては,その要件・効果 に着目した理論構成を中心に,仕事を完成してい ない請負人による報酬の請求が認められる旨を判 示した裁判例を概観することとしたい。

第二 裁判例の概観

1 契約の解除と報酬の請求

⑴ 解除の種類と合意解除・約定解除

まず,仕事を完成していない請負人による報酬 の請求が認められる旨を判示した裁判例の中に

は,契約が解除された場合に,請負人が報酬を請 求し得る旨を判示したものが多い。契約が解除さ れた場合としては,契約が合意解除された場合の ほか,約定解除権が行使された場合及び法定解除 権が行使された場合があり,法定解除権が行使さ れた場合としては,債務不履行を理由として契約 が解除された場合,そしていわゆる任意解除権が 行使された場合があるところ,いずれの場合につ いても,仕事を完成していない請負人による報酬 の請求が認められる旨を判示した裁判例が存在す (26)

例えば,契約が合意解除された場合に仕事を完 成していない請負人による報酬の請求が認められ る旨を判示した裁判例としては,①東京控判明 36.9.23新聞165号8頁,②大判昭16.12.20法学11 巻719頁,③東京高判昭46.2.25判時624号42頁,

④東京地判昭51.3.19判時840号88頁及び⑤東京地 判昭51.4.9判時833号93頁があり,約定解除権が 行使された場合に仕事を完成していない請負人に よる報酬の請求が認められる旨を判示した裁判例 としては,⑥東京地判昭42.12.5判時515号68頁,

⑦東京高判昭52.6.7判時861号66頁,⑧神戸地判 平2.10.25判タ755号182頁,⑨東京地判平20.12.25 裁判所HP参照(平成18年(ワ)24821号)及び⑩ 東京地判平23.4.27(ウエストロー検索,文献番 号2011WLJPCA04278027)がある。

このうち,①は,請負契約が中途で解除される と,それが合意解除か債務不履行を理由とする解 除かを問わず,既に完成した仕事の結果について は報酬を請求することができる旨を判示したもの であり,②は,請負工事の完成前に契約が合意解 除された場合に「請負人ノ報酬金債権ハ其ノ未完 成ノ仕事ヲ注文主ニ引渡シ或ハ後継続請負人ニ引 継キタル時ニ其ノ仕事ノ出来高ニ応シタル金額ニ 付弁済期到来スルモノト解スルヲ相当」と判示し たものである。また,③及び⑤は,いずれも契約 が合意解除された後で注文者が自ら又は第三者を して工事を完成させた場合につき,反対の意思表 示がない限り,注文者はそれまでの仕事を取得・

利用することによって利益を得たというべきであ るとして,注文者は「請負人の施工した出来高」

(5)

(③)あるいは「請負人の施工した仕事の完了割 合」(⑤)に応じて相当の報酬を支払うべきであ る旨を判示したものである(27)

これに対して,⑥は,所定の期日までに請負人 が仕事を完成しないときは注文者が契約を解除す ることができ,請負人は未完成の建築物の所有権 を放棄する旨の約款がある場合について,当該約 款に基づく契約の解除は「民法第五四一条の契約 解除の場合と異り,遡及的に契約が消滅するもの ではなく,ただ将来に向って契約が効力を失うの みで,既存の出来高に応じた工事代金債権はその まま残存する趣旨と解するのを相当」と判示した ものであり,⑦は,「注文者において請負人が工 期内に工事を完成する見込がないと認めたとき は,契約を解除することができる旨」の約定があ った場合につき,当該約定に基づいて工事の途中 で契約が解除された場合には,「解除によって当 初に遡って請負契約の効力が消滅したものとして 扱わず,既工事分の限度でその効力を残存させ,

注文者において工事を未完成のまま引きとり,他 方請負人は右既工事分に相当する請負代金債権を 保有することとして両者間の関係を処理し,未完 成部分についてのみ請負契約の効力を消滅せしめ ることが,当事者双方の利益に合致し,かつ,そ の意思に適合する場合が少なくないと考えられる ので,この種の請負契約において特に工事中途に おける契約解除権が定められている場合には,別 段の意思表示がない限り,右のような効果を生ず る契約の一部(未完成部分)の解除権を定める趣 旨のものと解するのが相当」として,いずれも請 負人による出来高(に応じた)報酬の請求が認め られる旨を判示したものである(28)

また,⑧及び⑩は,いずれも注文者が請負人に 対し出来高に相当する報酬を支払って契約を解除 できる旨の約定があった場合につき,当該約定に 基づいて請負人による報酬の請求が認められる旨 を判示したものであり,⑨は,注文者が請負人の

「債務不履行と瑕疵担保を理由として,本件各契 約の未履行部分を解除する旨の意思表示をした」

という事案において,当該意思表示により,「割 合的に完成したものと評価できる部分以外につい

ては,本件各契約の未履行部分として,本件基本 契約26条1項11号(引用者注:契約を継続し難い と認められる相当の事由がある場合に解除を認め る条項)に基づき,原告の帰責事由の有無にかか わらず,解除された」として,「出来型の金銭的 な評価」に相当する報酬の請求が認められる旨を 判示したものである(29)

なお,④は,注文者が支払能力を欠くことが明 かになったときは請負人が契約を解除できる旨の 特約があったものの,本件では注文者の「代金支 払不能(債務不履行)のため中止のやむなきに至 り,未完成部分につき契約当事者の黙示の合意に よって請負契約が解約された」と認定した上で,

請負人が請求し得る報酬の額につき,「債権者

(引用者注:注文者)の責に帰すべき事由により 債務者(引用者注:請負人)の履行が不能になっ た場合(民法五三六条二項)に準じて,右債権額 から被告が本件請負工事を完成しなかったことに よって免れた費用額のみを控除し,前記利益額

(引用者注:「本件請負工事によって得べかりし利 益額」)は控除すべきではないと解するのが妥当 であり,そのように解することが前記合意解約の 趣旨にも合致する」と判示している。

このように,契約が合意解除され,あるいは約 定解除権が行使された場合には,当事者の意思

(又は合意あるいはその解釈)にその根拠を求め ることも不可能ではないことから,仕事を完成し ていない請負人による報酬の請求を認めることに それほどの困難は見られないようであり(30),福 岡地判昭45.9.9判時624号70頁は,請負契約が合 意解除されたと認定された事案において,「当事 者の契約上の義務の一部履行済部分に関する清算 処理については,第一次的には当事者の合意の内 容により定まる」と判示している(31)

⑵ 債務不履行を理由とする解除

次に,債務不履行を理由として契約が解除され た場合に仕事を完成していない請負人による報酬 の請求が認められる旨を判示した裁判例として は,⑪仙台高秋田支判昭41.7.13高民集19巻4号 316頁,⑫東京地判昭45.11.4判時621号49頁,⑬ 札幌地小樽支判昭52.3.23判時874号79頁,⑭札幌

(6)

高判昭52.3.30下民集28巻1~4号342頁,⑮札幌 高判昭54.4.26判タ384号134頁,⑯最三判昭56.

2 .17判 時 996号 61頁 , ⑰ 福 岡 地 小 倉 支 判 昭 63.10.12民集48巻7号1359頁がある(32)

このうち,⑭は,注文者の債務不履行を理由と して契約が解除されたという事案であり,その他 の裁判例は,いずれも請負人の債務不履行を理由 として契約が解除された場合に,仕事を完成して いない請負人による報酬の請求が認められる旨を 判示したものである。これらの裁判例は,いずれ も解除(の効力)を一部制限して解除が否定され た部分の対価(又は出来高に相当する報酬)の請 求が認められる旨を判示しているが,その理論構 成には若干の相違が見られる。

まず,⑪は,建物の改築工事請負において,請 負人の責めに帰すべき事由により工事の中途で契 約が解除されたときは,その時期における出来高 部分は注文者の所有とし,注文者は当該部分に対 する相当代金を支払うべき旨の特約がある場合に つき,「請負人の債務不履行を原因とする法定解 除の場合も,工事が相当程度進行した中途におい ては,原則として既往に遡つての契約解除は許さ れない」とし,⑫は,「建物その他土地の工作物 についての工事請負契約において,注文者が請負 人の工事着手後にその債務不履行によって契約を 解除する場合,工事は未完成であるがすでに施工 した部分だけでも給付することが当事者にとって 利益であるときは,未完成部分についてのみ請負 契約を失効させる趣旨の解除をなすことも許され る」として「請負人は解除時の状態のままで建物 等の工作物を注文者に引渡し,注文者は当初の契 約金額,解除時の完成度等をしんしゃくして引渡 を受けた工作物に対する相当な報酬を請負人に支 払い,すでに支払われた前払金があれば相互に清 算する義務を負う」としている(33)

また,⑬は――⑪と同じく――民法第635条但 書に言及して「請負工事の一部が既に竣成し,当 事者間においてもこれを残部と分離して独立的価 値を認めている場合には,その竣成部分について はこれを解除することができないとしても,残余 の未完成部分についてはこれを解除することがで

きるものと解するのが相当である(前記大審院判 決(引用者注:大判大15.11.25民集5巻11号763 頁),大審院昭和七年四月三〇日判決民集一一巻 八号七八〇頁参照)」とし,⑭は,「建物その他土 地の工作物についての工事請負契約において,請 負人が工事着工後,契約所定の方法による注文者 の代金支払債務の不履行によつて契約を解除する 場合,工事が全体としては未完成であつても,そ の工事の内容が可分であり,且つ当事者にとつて 既に完成した部分だけでも給付を授受することに ついて利益を有するときは,既に完成した部分に ついては解除をなし得ず,ただ未完成部分につい てのみいわゆる契約の一部解除をなすことのみが 許されるものと解するのが相当」として「本件契 約によつて被控訴人がなすことを約した給付のう ちの出来高の金額ともいうべきもの」につき「履 行期が到来したものとして,その支払を求め得る ことになつたものというべきである」としており,

⑮は,「他に特段の事情がない限り」という要件 を付加しているほかは,基本的に⑭の判示事項を 踏襲している(34)

これに対して,⑯は,「建物その他土地の工作 物の工事請負契約につき,工事全体が未完成の間 に注文者が請負人の債務不履行を理由に右契約を 解除する場合において,工事内容が可分であり,

しかも当事者が既施工(引用者注:竣工ではない)

部分の給付に関し利益を有するときは,特段の事 情のない限り,既施工部分については契約を解除 することができず,ただ未施工部分について契約 の一部解除をすることができるにすぎないものと 解するのが相当であるところ(大審院昭和六年

(オ)第一七七八号同七年四月三〇日判決・民集 一一巻八号七八〇頁参照),原判決及び記録によ れば,被上告人は,本件建築請負契約の解除時で ある昭和四六年九月一〇日現在の中谷工務店によ る工事出来高が工事全体の四九・四パーセント,

金額にして六九一万〇五九〇円と主張しているば かりでなく,右既施工部分を引取って工事を続行 し,これを完成させたとの事情も窺えるのである から,かりにそのとおりであるとすれば,本件建 築工事は,その内容において可分であり,被上告

(7)

人は既施工部分の給付について利益を有していた というべきである」として,⑮から(一部なりと も)仕事が完成していなければならないという要 件を除外しており,これが現在の「判例法理」と 考えられている(35)

なお,この判決⑯は,請負人が報酬債務(代金 支払債務)の弁済期が到来したとして実際に報酬 を請求できるのか明言していないが,ここでは,

仕事を完成していない請負人による報酬の請求が 認められることが前提になっているといってよい であろう。なぜなら,⑯は「被上告人がした前記 解除の意思表示によって本件建築請負契約の全部 が解除されたとの前提のもとに,既存の四八万 七〇〇〇円の工事代金債権もこれに伴って消滅し たと判示したのは,契約解除に関する法令の解釈 適用を誤ったものであり,その誤りは判決に影響 を及ぼすことが明らか」として原判決を破棄・差 し戻しているところ,請負人が報酬(工事代金)

を請求できないのであれば,「結局,右の違法は 判決に影響を及ぼさない」として上告を棄却する ことも考えられるからである(36)。実際,⑰は,

⑯の判示事項をほぼ踏襲しつつ,「被告は原告に 対し右増改築部分についての完成部分の工事代金 を請求しうる」として請負人による報酬の請求が 認められることを明言している。

なお,⑰は,請負人が「完成部分の工事代金」

の支払いを請求できると判示しており,その意味 では⑯よりも⑭及び⑮に近いともいえるが,⑯は 前掲大判昭7.4.30を参照する以上に契約の解除 が制限される根拠を示しておらず,同判決は,民 法第641条が規定する解除について「ココニ仕事 ノ完成トハ必スシモ全部工事完成ニ限ラス凡ソ其 ノ給付カ可分ニシテ当事者カ其ノ給付ニ付キ利益 ヲ有スルトキハ既ニ完成シタル部分ニ付テハ解除 シ得ヘカラス只未完成ノ部分ニ付キ所謂契約ノ一 部解除ヲ為シ得ルニ止マルモノト解スヘキナリ」

と判示していることに留意する必要があろう(こ の点については後述する(37))。

また,⑱東京地判昭48.7.27判時731号47頁は,

債務不履行を理由として契約が解除されたとは明 言していないものの,注文者である被告が原告に

よる「本件建物の建築工事の請負代金残額および 湯殿の内部改装工事の請負代金の支払を求める本 訴請求」に対して「工事の完成を争いつつも,他 方ではこの未完成(債務不履行)を理由とする損 害賠償請求権を主張して抗弁とし,かつ反訴請求 を提起している」という場合ついて,注文者は

「工事の完了の割合に応じて代金債務がすでに生 じていることを自認しつつ,同時に未完成部分に ついてはその不発生の確定を主張している趣旨と 受け取るのが妥当であり,また,原告の残代金請 求の主張は,工事が未完成であると認められる場 合,完了割合に応じて,その支払を求める主張を 含むものと解するのが妥当」であり,このような 場合には,工事が完成していなくても「完了割合 に応じて代金請求権は発生する代りに,未完了部 分の代金債権は不発生と確定され,この段階で請 負契約は終了して債権債務の関係が精算されるも のと解すべきである」とし,本件では「それぞれ の工事段階に対応する代金の合意も認定しえない ような,きわめて大雑把な口頭契約」であること から,「この完成割合は,結局未完成部分を完成 させるに要する費用から逆算する(全代金額から 完成に要する費用――瑕疵の修補にあたるものは 含まない――を差し引く)方法によるほかない」

としている。

⑶ 任意解除権の行使

次に,民法第641条に基づいて契約が解除され た場合に仕事を完成していない請負人による報酬 の請求が認められる旨を判示した裁判例として は,⑲東京高判昭30.3.8東高民時報6巻3号41 頁,⑳東京地判昭45.2.2下民集21巻1・2号226 頁,㉑東京高判昭59.11.28判時1138号85頁,㉒東 京地判平4.11.30判タ825号170頁,㉓東京地判平 12.11.14判タ1069号190頁,㉔東京地判平16.3.10 判タ1211号129頁及び㉕知財高判平24.10.17裁判所 HP参照(平成24年(ネ)第10051号)がある。

このうち,⑲は,「本件建築工事はその給付が 可分であつて,既に竣功(引用者注:施工ではな い)した部分だけでも給付することは当事者双方 に利益であることは,本件建築工事の性質上自明 のことであるから,このような場合は,既に竣功

(8)

した部分を除き残余の未完成部分についてのみ請 負契約が解除されたものというべき」であり,請 負人は「本件建築物中右契約解除の時竣功してい た部分についての対価に相当する部分の請負代 金」の支払いを請求し得る旨を判示したもの,⑳ は,「六種類のカタログ合計六〇万部を代金三,

五八八,〇〇〇円で製作して供給する旨の請負供 給契約」が解除された場合につき,一般に「給付 の目的物が可分であつて,既に完成した部分のほ か未完成部分があるときは,その未完成部分につ いてはいわゆる契約の一部解除をなしうる」とこ ろ,本件において「原告は既に四五万部の製作を 完了しているから,この完成部分の請負契約につ いては契約解除の効力は生じないが,当時一五万 部については未完成であつたから,この未完成部 分一五万部についての請負契約は右解除の意思表 示によつて解除された」として請負人は45万部の カタログの対価に相当する報酬(請負代金)の請 求が認められる旨を判示したものである(38)

また,㉑は,「建物建築工事のように請負人の なすべき給付の内容が可分であり,完成前の給付 について当事者双方が利益を有する場合において は,解除の効力は給付ずみの部分には及ばないと 解すべき」であり,「前記施工済工事部分の価値 は,前記解除時においてかなり減少していた」と しても,「施工済工事部分に見合う代金額」から 価値の減少について請負人の帰責性の割合に応じ た額を控除した額の請求が認められる旨を判示し たものであり(39),㉒は,注文者である原告が被 告である請負人の債務不履行を理由として契約を 解除したと主張していたところ,当該解除の意思 表示は「表向きは債務不履行を理由とするもので あるが,実質的には,被告に対する不信感が解消 できず,もはや被告による本件工事の継続を断念 して原,被告間の契約関係を解消したいとの理由 によるものであったということができるから,原 告の本件解除の意思表示は,民法六四一条の規定 による解除の意思表示をも含む趣旨」であるとし,

「本件では,原告は工事を他の業者に請け負わせ て完成させることを前提として解除したことが明 らかである(括弧内省略)が,そのような場合に

は,解除の効果はすでに完成している部分には及 ばず,未完成の工事部分についてのみ及ぶと解す べきである」として,請負人は「本件工事の出来 高に見合った代金相当額の支払」を請求できる旨 を判示したものである(40)

これに続く㉓は,映画の脚本作成契約が解除さ れた場合につき――契約の解除が(一部)制限さ れるのか明言することなく――「請負契約が,注 文者の解除権により解除された場合であっても,

請負人の注文者に対する請負代金請求権が全く失 われるわけではなく,請負契約が解除されるまで に出来上がっている仕事の完成度合い(出来高)

に応じた代金請求権は存続するものである」とし て実際に完成度合い(少なくとも全体の七割を下 回ることはないと認定されている)に応じた報酬 の請求を認めたもの,㉔は,一般論として「同条

(引用者注:民法第641条)による解除の効果は,

将来に向かって生じるものと解するのが相当であ るから,被告は,既作業部分に相応する報酬と,

未作業部分に相応する被告の逸失利益及び当該作 業のために既に支出した費用の支払を,原告(略)

に請求することができる」としながらも,結局は 損害賠償としてこれに相当する額の請求が認めら れる旨を判示したもの,そして,㉕は,フィギュ アの原型製作を目的とする契約が民法第641条に 基づいて解除された場合につき,「上記解除の時 点において,本件各物件の製作は相当程度進行し ていたことが認められるのであり,このような場 合においては,既に製作された部分に対する請負 契約の解除は許されず,請負人である原告は,被 告に対し,本件各請負契約が解除された時点にお ける本件各物件の完成度に応じた出来高に係る請 負代金請求権を有すると解するのが相当」として

「出来高に係る請負代金の額」の請求を認めた一 審の判断を是認したものである(41)

⑷その他の事例と小括

なお,裁判例の中には,以下のように,解除の 種類やその根拠は不明ながらも,契約は解除され たと認定して請負人による報酬の請求が認められ る旨を判示したもののほか,特別法に基づいて契 約が解除された事案につき一般論として仕事を完

(9)

成していない請負人による報酬の請求が認められ る旨を判示するものも見られる。

例えば,

㉖東京地判昭46.12.23判時655号58頁は,

「請負人が工事の一部を施工したのみで中止した 場合でも,注文者(元請人)側において,すでに なされた工事を基礎とし,その上に継続して第三 者をして残工事を施工させた場合,注文者(元請 人)は請負人(下請人)の仕事の成果を取得利用 することによって利益をうるものというべきであ るから,請負人(下請人)の施工した工事の出来 高に応ずる報酬支払請求権を有するものと解すべ きであり,なお第三者が残工事の施工に際し,請 負人が施工した工事の一部を手直しした場合,当 初の出来高から手直し分を控除して,請負人の出 来高を判断すべきもの」とし,㉗大阪地判昭 59.11.30判タ546号151頁は,機械設備の設置工事 請負につき,一次的には信義則に依拠して請負人 による「相当額」の請求を認めたものであるが,

被告による抗弁の検討に際し「本件機械設備はミ キサー及びその加熱施設を取替えることも全く不 可能ではないことがうかがわれこの点で可分であ るともいえるし(中略)被告が本件機械設備の一 部を一時的にせよ使用したことにも示されるとお り,原告の設置した機械設備は有用であつたこと を考慮すれば,被告の本件請負契約に対する解除

(引用者注:解除の種類やその根拠は必ずしも明 らかではない)は,原告が既に施工した部分につ いてまでは遡らず,未施工部分についてのみ効果 を有すると解するのが相当」としている。

また,㉘東京地判平3.5.30判時1408号94頁は,

注文者である被告が請負人である原告に対して建 築設計業務を委託したものの,建築予定地上の建 物収去の調整が進行せず,最終的に被告が建築計 画を中止したという事案において,「本件契約は,

被告の都合により解約されたものと認めることが できる」とし,「右設計契約について,特定した 報酬支払いの約定は存しないところ,契約締結当 時原告において設計を業とするものであったこと は当事者間に争いはなく,原告は被告に対し右解 約に至るまでになした設計業務の割合に応じた相 当な報酬を請求できるものである」としており(42)

㉙東京地判平8.6.21判タ938号147頁は,注文者

である被告と請負人である原告との間で,マンシ ョンの建築設計・施工管理業務に関する請負契約 が締結されたものの,近隣住民の反対にあってマ ンションの建設計画が長期間進行しなかったこと から,原告が解除の意思表示をしたという事案に おいて,争点の一つは「原告が本件請負契約に基 づいて行った業務の出来高」であるとし,「本件 のように総額についての合意のある場合は,当事 者の意思が優先し,報酬額は,右総額に現に実現 した業務の割合を乗じた額となるというべきであ る」としている(43)

なお,

㉚大阪地判平17.1.26判時1913号106頁は,

一般論として「注文者が既施行部分の引渡を受け て,それを利用し,別の第三者と続行工事の請負 契約を締結し,既施行部分の利益を受けて残工事 を完成させたような場合は,解除が許されるのは 未施行部分のみで,既施行部分の解除は許されな いと構成し,あるいは,既施行部分の出来高に対 する報酬を支払うのが当事者の合理的意思と考 え,あるいは信義則を適用して,請負人に既施行 部分の出来高相当の報酬請求権を認めるのが相当 である」が,「既施行部分がその後の続行工事に 全く利益にならなかったり,続行工事に利益にな ったとしても,注文者の続行工事費用が増大し,

既施行部分を考慮しても,なお損害が生じている ような場合は,上記出来高相当の報酬請求権を認 めるべき前提をそもそも欠いているものと認めら れ,請負人に出来高の報酬請求権を認めるべきで はない」とし,「以上のことは,民事再生法四九 条の解除権が行使された場合も同様」であって,

「民事再生法四九条の解除権が行使された場合だ け,他の法定解除,合意解除と別異に扱う理由は,

上記趣旨(引用者注:『民事再生法四十九条の解 除権の趣旨』)に照らしても存在しないからであ る」としている(44)

このように,契約が解除された場合には,解除 の種類やその根拠を問わず,解除(の効果)を

(一部)制限して,仕事を完成していない請負人 による報酬の請求が認められる旨を判示する裁判 例が多い。しかし,仕事を完成していない請負人

(10)

による報酬の請求が認められるのは契約が解除さ れた場合に限られているわけではなく,仕事の完 成が不能となった場合には,たとえ契約が解除さ れていなくても,仕事を完成していない請負人に よる報酬の請求が認められる旨を判示する裁判例 が少なからず見受けられる。もとより,どのよう な場合に仕事の完成が不能になったといえるのか ――後述する「不能」という概念の問題もあっ ――個別の事案に則して判断せざるを得ない が,実際の裁判例においては,ある程度の定型化 が進んでいるようである(45)

2 履行不能と報酬の請求

⑴ 注文者等による仕事の完成

例えば,

㉛大判大元12.20民録18輯1066頁は,

請負人(上告人)以外の者が約定の仕事である工 事を完成させると「上告人ノ為ササリシ工事ノ部 分ハ既ニ履行ノ不能」となり,「若シ其履行ノ不 能カ被上告人(引用者注:注文者)ノ責ニ帰スヘ キ事由ニ原因シタリトセハ上告人ハ民法第五百三 十六条第二項ノ規定ニ依リ自己ノ債務ヲ免レタル ニ因リテ得タル利益ヲ被上告人ニ償還スルコトヲ 要スルモ請負ノ報酬ヲ受クル権利ハ之ヲ失ハサル ヘク又若シ其履行ノ不能カ上告人ノ責ニ帰スヘキ 事由ニ原因シタリトセハ被上告人ハ損害ノ賠償ヲ 請求スルコトヲ得ルモ上告人ノ既ニ為シタル工事 ノ部分ニ対シ報酬ノ幾分ニ相当スル金額ノ支払ヲ 免ルルコトヲ得サルヘク又若シ上告人ノ既ニ為シ タル工事ニ瑕疵アリトセハ被上告人ハ其瑕疵ニ付 キ損害賠償ヲ請求シ又民法第六百三十四条第二項 ニ依リ同時履行ノ抗弁ヲ為スコトヲ得ルモ其抗弁 ニ因ラスシテ漫然報酬ノ支払ヲ拒ムコトヲ得サル ヘシ」としている(46)

この判決は,一般論として注文者が請負人以外 の第三者に仕事を完成させた場合に請負人が民法 第536条第2項によって(既に発生している)報 酬請求権を失わない旨を判示するにとどまり,実 際に報酬を請求できると明言しているわけではな いが,ここでは,報酬を請求できることが前提に なっていると考えられ,このような場合には,請 負人が報酬の請求が認められる旨を明言した裁判

例も見られるところである(㉜大阪控判大6.8.3 新聞1305号32頁,㉝大判昭6.10.21法学1巻上378 頁及び㉞大阪地判昭41.1.19判タ189号175頁等参 照)(47)

なお,建築工事の途中で注文者の責めに帰すべ き事由により請負人が工事の一時中止を余儀なく され,注文者が第三者をして残工事を施工完成せ しめた場合には,「右請負契約は目的の達成によ り終了することになるが,この場合,請負人がそ の請負にかかる工事をみずから完成しなくても,

現に施工した工事に相応する報酬請求権を認め,

かつ,それで足りるとするのが信義則にかない衡 平であると解する」とする裁判例(㊲福岡高判昭 55.6.24判時983号84頁)も見られるほか,注文者 が自ら仕事を完成させたような場合には――民法 第536条第2項ではなく――民法第130条により

(㉟東京地判昭46.5.1判タ266号239頁),あるい は「あたかも条件成就により不利益を受ける者が 故意に条件の成就を妨げた場合にも比すべき場合 にあたる」として(㊱東京高判昭49.7.18高民集 27巻3号247頁),約定の報酬全額の請求が認めら れる旨を判示した裁判例も見られる(48)

⑵ 注文者による受領拒絶又は協力拒否等 次に,注文者が請負人による仕事の続行を拒み,

あるいは注文者が仕事の完成に必要な行為を行う ことなく(とりわけ注文者にこうした行為が義務 づけられている場合),一定の期間が経過すると

――遅くとも訴訟が提起された時点では――たと え注文者が自ら又は第三者をして仕事を完成させ たわけではなくても,請負人による仕事の完成が 注文者の責めに帰すべき事由によって不能になっ ているとして,民法第536条第2項により,請負 人による報酬の請求が認められる旨を判示する裁 判例が少なからず見受けられる(㊳大判昭13.7.

5判決全集5輯16号4頁,㊴最三判昭52.2.22民 集31巻1号79頁,㊵最判昭59.9.6判例集未登載

(昭和58年(オ)1246号),㊶札幌高判昭54.4.26 判タ384号134頁,㊷大阪地判昭56.1.29判タ452号 143頁,㊸東京地判昭56.3.30判タ448号118頁,㊹ 東京地判昭58.1.27判時1089号68頁,

㊺東京地判

平元.5.30判タ715号178頁,㊻東京地判平5.10.5

(11)

判時1497号74頁及び㊼富山地判平10.3.11判タ 1015号171頁等参照)(49)

このうち,

㊴は,この種の事案に関する「判例」

と考えられているものであり,被上告人が訴外A

(元請負人)から冷暖房工事を請け負ったものの,

ボイラーとチラーの据付工事を残すのみとなった 段階で,上告人(元請負の注文者)がボイラーと チラーを据え付けることになっていた地下室の水 漏れに対する防水工事を行う必要上,その完了後 に上記据付工事をするよう被上告人に要請し,そ の後,被上告人らの再三にわたる請求にもかかわ らず,上告人が前記防水工事を行わず,ボイラー とチラーの据付工事を拒んでいるという事案にお いて,最高裁は,まず,「被上告人の行うべき残 余工事は,おそくとも被上告人が本訴を提起した 昭和四七年一月一九日の時点では,社会取引通念 上,履行不能に帰していたとする原審の認定判断 は,正当」とし,一般に,「請負契約において,

仕事が完成しない間に,注文者の責に帰すべき事 由によりその完成が不能となつた場合には,請負 人は,自己の残債務を免れるが,民法五三六条二 項によつて,注文者に請負代金全額を請求するこ とができ,ただ,自己の債務を免れたことによる 利益を注文者に償還すべき義務を負うにすぎない ものというべきである」とした上で,「これを本 件についてみると,本件冷暖房設備工事は,工事 未完成の間に,注文者であるAの責に帰すべき事 由により被上告人においてこれを完成させること が不能となつたというべきことは既述のとおりで あり,しかも,被上告人が債務を免れたことによ る利益の償還につきなんらの主張立証がないので あるから,被上告人はAに対して請負代金全額を 請求しうるもの」であるとした(50)

この判決㊴が出る以前は,下級審判決において,

注文者の責めに帰すべき事由によって仕事の完成 が不能になったとして民法第536条第2項が適用 されたとしても,同項の解釈として,請負人は出 来高に応じた報酬を請求できる(にとどまる)旨 を判示する下級審判決も見られたが(㉞参照),

この判決㊴によって「出来高に応じた代金を請求 しうるにすぎない」とした原判決が「民法五三六

条二項の解釈を誤つた違法」と判示されてからは,

下級審も当該判決に沿う判断を下しているようで ある(㊶ないし㊼参照)。

ただし,㊴以降も――民法第536条第2項が適 用されると請負人は原則として約定の報酬全額を 請求できるとしながら,信義則という一般条項に 依拠しつつ(㊻),あるいは――従来であれば注 文者の責めに帰すべき事由によって仕事の完成が 不能になっていると評価され得るような事案にお いても――同項の適用を回避して(その結果,特 に条文上の根拠を示すことなく)出来高に応じた 報酬の請求(のみ)を認める下級審判決も見られ るところであり(この点については後述する(51)),

㊽東京地判平22.9.29(ウエストロー検索,文献

番号2010WLJPCA09298004)は,請負人による 債務(小口管推進工事)の履行が不能となり,請 負人による工事の続行が不可能となったことにつ き注文者に責任があると認定された事案におい て,一般論として民法第536条第2項及び前記裁 判例㊴に言及しながら,同⑯にも言及しつつ,請 負人による「出来高に対応する未払請負代金」の 請求が認められる旨を認めている(52)。また,注 文者の行為を「直接ノ原因」として仕事の完成が 不能になったとしても,その「行為カ更ニ債務者 ノ行為ニ原因スルトキ」は「履行不能ハ請負人ノ 責ニ帰スヘキ事由ニ基クモノ」であると評価され 得る――したがって,約定の報酬(全額)の請求 が認められるとは限らない――ことにも留意する 必要があろう(大判昭2.2.26新聞2680号14頁及 び前掲大判大15.11.25等参照)(53)

⑶ その他の事例と小括

なお,裁判例の中には,仕事の完成が不能とな ったことにつき,注文者に帰責事由が認められな い場合であっても,請負人による報酬の請求が認 められる旨を判示するものが見られる(54)

例えば,前記裁判例㉛は,「其履行ノ不能カ上 告人(引用者注:請負人)ノ責ニ帰スヘキ事由ニ 原因シタリトセハ被上告人(引用者注:注文者)

ハ損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得ルモ上告人ノ既 ニ為シタル工事ノ部分ニ対シ報酬ノ幾分ニ相当ス ル金額ノ支払ヲ免ルルコトヲ得サルヘク」と判示

(12)

しており,この判決によれば,たとえ請負人の責 めに帰すべき事由によって仕事の続行ないし完成 が不能になったとしても,請負人は一定の報酬を 請求することができるということになろう(55)

また,㊾東京地判平22.1.21(ウエストロー検 索,文献番号2010WLJPCA01218007)は,原告 である請負人が,注文者の責めに帰すべき事由に よって仕事の完成が不能になったとして,民法第 536条第2項に基づき,約定の報酬全額を請求し ていたという事案において,「本件工事は必ずし も被告の帰責事由で履行不能に至ったものとまで は認定できない。したがって,本件では民法536 条2項の適用はなく,原告は出来高に応じて請負 代金を請求できるに過ぎない」と判示しており,

この事案において,被告である注文者は,仕事の 完成が不能になったことを争っていたわけではな いことを考慮すると,仕事の完成が不能となった 場合には,それが注文者の責めに帰すべき事由に よるのか否かを問わず,請負人は出来高に応じた 報酬を請求できるということになると考えられ (56)

このように,仕事の完成が不能となった場合に は,それがいずれの当事者の責めに帰すべき事由 によるのかを問わず,請負人は報酬を請求できる 旨を判示する裁判例が見られる。ただし,仕事の 完成が不能となった場合に請負人が請求できる報 酬の内容(額)は,基本的に,「出来高」に応じ た報酬に限られ――その算定方式は一様ではない ものの――約定の報酬全額を請求できるのは注文 者が(意図的に)仕事の完成を妨害したような場 合に限られている――しかも,請負人は自己の債 務を免れたことによる利益を注文者に償還しなけ ればならないことが多く,注文者が仕事の完成を 不能とした場合であっても,その原因がさらに請 負人にある場合には,約定の報酬全額を請求でき るとは限らない――ということになろう(57)

3 その他の裁判例

なお,裁判例の中には,契約が解除されたわけ ではなく,また,仕事の完成が不能になったわけ ではなくとも,仕事を完成していない請負人によ

る報酬の請求が認められる旨を判示するものも見 受けられる。

例えば,㊿東京地判昭32.5.6新聞59・60号17 頁は,家屋建築の請負契約において,請負人が家 屋の荒壁を塗り終わった頃に注文者が請負人に無 断で家屋に侵入し居住するに至ったため請負人が そのまま当該家屋を注文者に引き渡したという事 案において,「家屋建築の請負契約において仕事 に一部右程度の未完成の部分(引用者注:荒壁を 塗り終わったままで,上塗りが完成していないこ と)があったとしても,注文者が家屋の引渡を受 け終わった場合には特約のない限り,注文者は請 負人に対し仕事の出来高に応じた代金の支払を為 すべき義務がある」とし,大阪地判昭36.10.31 下民集12巻10号2629頁は,温泉に使用するための 地下水をくみ上げることを目的とする土木工事の 請負契約において,水質及び数量に問題があった という事案につき,本件のように「深層より地下 水を汲上げる工事は,現時に於て未だその水質及 び水量の点につきどのような結果を招来するかた やすく予測することの出来ないものと考えるのが 相当であつて,若し所期の目的を達しない場合に すべて之を請負人の債務不履行とし,労務の供給 についても報酬請求権がないとすることは請負人 側の一方にのみ不利益を強いるもので当事者がそ の旨の特約を結ぶ場合は格別そうでない以上は甚 しく不合理」であり,「かかる場合には,あたか も訴訟の遂行或いは病気の治療等が,仕事の完成 についてだけ報酬を支払うのでなく,事務の処理 又は治療行為自体に対しても報酬を支払うよう に,注文者は請負人の労務の供給に対し或程度の 報酬を支払うべき義務を有すると考えるべき」と ころ,「被告が原告に対し既に支払つた金十八万 円は,本件請負契約の労務提供に対する報酬であ つて,仕事の完成に対する報酬の前払ではないと 考えられるから,被告は原告に対し,右金十八万 円を報酬の前払と看做し,仕事の未完成を理由に その返還を請求する権利を有しないと言うべきで あろう」としている(58)

また,最三判昭38.2.12裁判所HP参照(昭和 37年(オ)408号)は,「工事に一部分でも未完成

参照

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