現在時制の意味機能
樋 口 万里子
(英語学)
序
本稿は,英語のミ現在時制フを表すとされる形式即ちzero−morphemeに対 応する概念をimmediacyl)と捉え, realis/irrealis双方の世界におけるpast morphemeの表象との対照,及び時の概念との関係においてその輪郭を明確に
し,現在形の持つimperfectivity(いわゆる状態的な意味機能)を我々の認識 上の「immediacyの範囲での世界の在り様の捉え方」と考え,単純現在,現
・在進行形,現在完了形の用法を包括する現在形の意味機能を分析し議論するも のである。そして本稿は,恐らく他の様々な語・構文等もそうである様に,現 在形という形式も,我々の認知の働きによって形成される概念に対応している 事を示すものである。
1 Present Tense lmmediacy
次の1)〜5)等の様な,動詞は現在形であっても,yesterday, tomorrow 等といった過去,未来に関わる副詞と共起したり,習慣(性質・癖)や普遍の 真理など,timeless,即ち過去・現在・未来に関わるとも,時の概念との関わ りが希薄だとも言えるような事柄に言及したりする事例を基に,英語の現在形 と時の概念との単純な結び付け方2)に対する疑問はこれまでにも幾つか指摘さ れてきた。
1) immediacyというのは,発話時,より厳密に言えば言い始める瞬間の,話者の 知覚の様なものと筆者は捉えているが,詳細については,Langacker(1991)参照。
2) 例えば,Homsteinの様に単純に,出来事の起きる時間を現在として現在時制の
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1)Mt St. Helensθ%μ∫again yε∫絃血y(7WεP捌α漉鋤m 1ηgμ舵ち5
一15−82).
2)This scruffy400king studentω勿θ∫into my office yθ∫ επ友y and∫αッ∫he ωαη ∫aloan.
3)Heαττ初ε∫at 10:30 zo吻01学oτρ.
4)Whenever I gひ6 Fido a bone, he buries it.
5)2i∫the only even prime number.
又,modalやif節等のirrealis(unknown reality, possible future, counterfac−
tual, hypotheticalの命題などを含むreality以外の思考世界)表現間接話法 の従属節,願望や依頼に関わって或る種の丁寧さを示す例などで使われている
past−morpheme は過去時の意味を持たない場合があり,認識上のnon−im−
mediacy(LangackerのDISTAL, Steele(1975)のDISSOCIATIVE)を表して いると思われるが3),そうすると,non−pastであるzero−morphemeの方も本 質的にはimmediacyという概念で意味的に特徴付けることもそう不自然なこ
とではないはずである。
時間としてしまうと,*He leaves.at this moment.のおかしささえ説明できない。事 実,Homstein(1990)「は,この例を説明の付かない例外としている。最後まで一読 戴ければ,本稿では容易に自然な説明が付く。簡単に言うとat this momentでは,
He leaves soon.で可能なスケジュール読みが難しく,現在形の表す話者のimmedia−
cyにおいて, imperfecitveな解釈が成り立たないからである。
3) いわゆる時間的過去を表す形が,英語のいわゆる仮定表現の類いの反事実や丁寧 等様々な構文に用いられることは,世界中の多岐多様な言語においてcrosslinguistic に認められる(Steele(1975), James(1982))。日本語でも,広島方言では,「おばんで した」というのは「おばんです」より挨拶として丁寧だそうである日本語の「タ/
ル」は(例えば,見る前・見た後の例,TV番組欄のドラマの筋等では「タ/ル」が 交互に使われたりする等)英語のzero/ ed morphemeとは随分異なる概念に対応し ているようだが,次の例では,英語に似た用いられ方をしているようである。
「私が元気だったら,今頃思い出の山々へ,〈中略〉散骨の山登りをしていたのかも 知れません。」朝日新聞・「ひととき」より。
6) If Iんα410 billion yen,1ωozzZ4 buy that house.
7)He{may/批9加}come.
8) Zelda said that she {is/ωα∫}pregnant.
9)1ωα∫wondering if youεo励4 fix me a cup of coffee.
過去形のif節や法助動詞等自体は,何時も反事実を表すとは限らず,もっ と広く,より控え目な主張,依頼の灰めかし等を含む,言わば[現実から離れ た自由な発想]の表現に用いられるが,重要なのは,それらの現在形の場合で は反事実は表現し得ないことである。if節もmodalも現在形であろうと過去 形であろうとirrealisを表現し,過去形の方がより現実味が希薄な感じを与え るだけで,その差は表現においてはそれほど明確には感じられないこともある が,過去形でなければ,反事実を表せないというところに,決定的な現実との 隔たりが感じられるのである。現在形のif節は,あくまで現実に基づいた推 論や仮定,現在形の法助動詞は現実の在り方からして自然な予測,推論,可能 性,必然性を表し,例えば依頼文としては Iwonder if you can bring it. よ りは, Iwonder if you could bring it の方が間接的で「前後をあまり考えず に今思い付いた事なのだけど,こういうことってありうるかしら」という灰め かすような感じが出て押し付けがましさを緩和する。更に9)で,直接的生々
しさが緩和されてより丁寧になるのは,主節の動詞が過去形であることによっ て表されているnon−immediacyがうまく使われているからである。
8)の従属節で過去形の場合の様な時制の一致と言われている現象も,過去 時を意味せず,意味とは無関係な文法的強制によるものとして取り扱われてい るようだが,実際には,8)の従属節では現在時制・過去時制のどちらであっ ても文法的には問題ない。それだけでなく,この二つには意味的な違いがある と考えられる。例えば,8)が彼女の妊娠中に発話されたとすると,従属節は 現在の状況についての言及ということになるが,現在形で言った場合と比べる
と,話者にとってその状況がより間接的で,non−immediateであることを表現 していると思われるのである。
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ところが現在時制・過去時制の意味機能を「基本的にはimmediacy・non−
immediacy」というようにepistemicに位置付けようとすると,根強い抵抗に 遭うか,または拒否反応を示されることが多い。それと,いうのもnon−modal (又はrealis),即ち現実世界の描写においては,時間的な概念は,動詞の表 す出来事や動作を捉えるのに必然的で不可欠な概念であるので,
immediacy/non−immediacyの一つの現れ方に過ぎない現在時・過去時として の局面が大きくクローズ・アップされ,殆ど同一物として捉え得るからであろ う。発話者にとってimmediateな現実というのは必ず発話時という一面を含 んでいるし,実際,Langacker(1991)も述べているように, non−modalでは
「現在時制は現在時,すなわち発話時」と考えてもそれ程支障はない。9)の 丁寧さを表すIwas wonderingに類する言い方に見られるnon−immediacyも 過去時の概念の拡張(過去というのは必ずnon−immediateだから)と捉える
ことだってできるわけである。
Palmer(1986)もその様な丁寧さやいわゆる仮定法表現modal non−immedia−
cyをその概念の拡張とする大勢派の一人である。それは,ここでいうnon−im−
mediacyがremotenessという言葉で呼ばれ, remoteness in timeとremotenss from realityの二つの概念を包括したものと見なされていたからかもしれない。
remoteness from reality 4)というのは確かに正体不明のものである。 remote−
ness from realityというのはmodalやifも受け持っている意味機i能だからで ある。本稿では,文をfiniteにする形式の中で最もunmarkedなzero−mor−
phemeで, non−modal,条件節などでもない形式にimmediate realityが対応 し,non−modalでpast−morphemeが使われ,典型的にはpast realityを表す形 式にはnon−immediate reality, zero−morphemeのmodalやif節などにim−
mediate reality, past−morphemeのmodal及びif節にnon−immediate irreal一
4)このremoteness from realityはcounterfactualの例で漠然と説明されていたが,そ れをirrealityと解釈するとif, modal表現全般を差し,過去形のif節, modalとする とそれはcounterfactualのみならず, That would be true.の様な控え目な言い方も含
み,形式と意味の対応が不明確である。
ityがそれぞれ対応していると考える。〈図1>この図式は,反事実を表し得る
irreality 〈IMMEDIATE IRREALITY>
ifofm)present modal, if clauses
@ . etc.
?E9・
hf you build it, he will come.
aeavers will build dams.
shat may be true.
iane can be leaving now.
̀nn must have done that.
@ 、
@ [Reality.bound Thought]
〈NON−IMMEDIATE IRREALITY>
iform)past modal, past if clauses
@ etc.
?E9・
hf you build it, he would come.
aeavers would build dams.
shat might be true.
iane could be leaving now.
hf you had bu輌lt it, he would
?≠魔?@come.
@ [Thought free from Reality]
rea1三ty 〈IMMEDIATE REALITY>
ifo㎝)present non−modal
?E9・
ge comes{everyday/tomorrow}.
aeavers build dams.
shat is true.
ge{leaves at 8/has left}.
iane is {going to leave/leaving}.
@ [ present Reality]
〈NON−IMMEDIATE REALITY>
iform)past non−modal
?E9・
ge came just now.
she beaver built that dam.
shat was true.
ge left at 8.
iane was going to leave.
iane was coming.
iane had come.
iane had to come.[ past Reality]
◆ .
?垂撃唐狽?高撃モ
alue
mmediacy on−immediacy
図1>
式を分析し,それを過去形と,modal, if, wish等のirrealis表現形式との合 と捉えた樋口(1989,90)で提案した四区分にLangacker(1991)の用語を
)Langacker(1991)も基本的には, non−modalの現在形をimmediate realityと考え いるが,本稿とは,historical present, performative, scheduleの現在形等について 見解が相違する(Langackerはperfecdve,筆者はimperfectiveとみる)。 Langack−
rが現在形の従来通りの時間的な解釈を強く押し出しているのはその為であろう。
)ifは, when, though, because, before/after, while等と並列の接続詞と考えること もできるが,when, though, because, while, whether等に意味的に近い働きもする (樋口(1987))。realisの従属節命題を接続するwhen, though, because, while等に
応するirrealis従属節のcounterpartではないかと思、われる。
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取り入れたものである5)。Langackerは動詞をfiniteにする形式としてこの四 区分を考え,realis/irrealisの対立を基本的にnon−modal/moda1の形式対立に 見て,if節等はspace builderとして別に扱っているが,樋口(1990)では,
もともと基本的に反事実表現の関わる形式という面から考えたので動詞をfi一 ぴniteにするmodalとは異なるifやwish等もepistemicに見た機能面から
irrealis表現形式に含めているという点での違いがある6)。
past−morphemeはnon−immediacy(或る種の距離感)を表すと言うと,必 ず「未来も現在からすると或る距離があるのに,何故未来はpast−morpheme で表さないのか」という疑問や反論を呼ぶのだが,それは「英語では未来表現 は典型的にmodal(irrealis)が担っており, realityには現在と過去しかないか ら」であり,英語においてはrealis/irrealisの対立が, immediacy/non−im−
mediacyの対立に図1の様なクロスする形で均衡を保っているからであると説 明できよう。それを何故かと問うのは「何故日本語で「林檎」というものが,
英語では,Cpplピ,仏語ではやomme , etc.…と呼ばれるのか」と言うのに等し い。又,Palmer(1986)が,「時制はある意味でmodalだ」というのとほぼ同 様の意味で,past−morphemeもirrealis表現も広い意味ではnon−immediacyを 表していると言えるだろう。ただしそれは,immediate realityからの,次元・
質の異なる距離感であり,言わば,方向性の異なる二つのベクトルの様なもの であろう。質が異なるから,組み合わせることができ,その結果また異種の距 離感が生み出せるのである。〈図2>樋口(1989,90)は,その二つのベクト ルの和がimmediate realityに縛られない自由な発想を表現し,反事実の解釈 を可能にしているという提案である。realityには現在と過去しかないから,
〈図2>
realityにおけるnon−immediacyとは一般に過去時となる。典型的な未来とい うのは,未実現の出来事であるのでimmediate ir realityではあろうが,未来 というものを出来事の実現時とすると,現在既に決定済みのスケジュールの様 なものであれば,immediate realityの領域に属するので単純現在形が使われる
し(3)及び10)),実現性の低いことや反事実を言う場合などであれば(non−
immediate irrealis),過去形でも未来の言及に関わる場合もあり,未来という ものはそう単純ではなく、形と対応しているわけではない。
10)The train Zεαuε∫仇∫εηεη〃z励彦ε&(現実のスケジュール)
11)万you b〆4 it, heψ〃come(現実を基にした予測・推論)
12)1ぴBoris{cα㎜ε/肋4 co初ε}tomorrow, Olga{ωoμZ4 bε/ωo必4』カθんεη }happy.(現実には(起きそうにない/違うこと(今日来た等)が起きた が,仮に起きたとして))
しかし過去の形態素の意味として過去時かnon−immediacyかのどちらがよ り本質的かという議論は,するとすれば「卵が先か鶏が先か」のそれにどこと なく似ていて,ここで決着を付ける必要はなさそうである。両方在ると感じら れるのも確かだし,一方が一方を生み出しているとも考えられる。ただ,本稿 では,過去時は,non−immediacyの一種として包含され得る要素であり,
realis/irrealisに拘わらず, may/might, will/wouldなどと, is/was, do/didの 対立を包括的にパラレルに表象し得ると言う意味でも,通常,より具体的な localityを示す表現がより抽象的なtemporalな意味へ拡張を起こすと考える方 が,その逆よりは自然であるということ等を理由に,zero−morpheme/past−
morphemeの意味機能を基本的にimmediacy/non−immediacyと考えた上で見 えてくるものを重要視したい。
いずれ占よ,時間的櫨味での現在と言っても,多くの場合発講の_
瞬かもしれないし,発話者の認識においてimmediateと感じられる様な,何 か心理的には或る幅を持ちうる時間のこともあり,物理的に枠の決まる性質の
ものでもないわけなのだから,そのimmediacyの輪郭を捉えようとすること
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は,我々が自然と使い分けている時制に対応している概念や意味機能をより明 確にすることになるはずである。
又文の中で時間を明示するのは,副詞,副詞的語句または我々の世界知識な どの文脈的要素であって現在時制は,時間に関してnoncommital, neutralであ り,dmelessであるなどという指摘もこれまで幾つか成されているが, time−
1essな側面を持つのは,現在時制だけとは限らない。13)のhomosexualityは immediacyを含まないというだけで,(前述の議論から明らかな様にnon−im−
mediate irrealityであるからunknown realityに関する推測とも, counterfac−
tualとも解釈できる)Johnの属性に関するという意味ではtimelessであろう。
ωo励4競加uε允1Zεη
13)σJohn吻舵homosexual, he in love with Mary.
τρoμ似ηセル〃
更にDepue(1983)の様に,現在時制は時間的な意味を持たないどころか,意 味そのものすら持たないので意味を説明する必要がないとまで言う人もいるが,
そうすると,何故1)〜3)はよくて(2)は話し言葉ではしばしば生じてい るけれども,書き言葉としてはmarginalな文ではあるが),14)〜15)が通常 駄目な文なのかが説明できない。これらの違いを説明できる要因は,結局は immediacyに関わっている事を以下で明らかにする。
14) *John co〃2ε∫here yε∫ ε7「4αy.
15) *Johnεo〃zεhere zo〃20ττo拠
16)(=1)Mt St. Helensεττ吻∫αg励yεs蹴4の〜
cf 16 )Mt. St. Helens errupts{again/??φ}{this morning/yesterday/*a week ago}
16 )GμσWτ0が緬α1ξyεηぬ
16 )Mrs. Thatcher comes to Japan yesterday 、
16 )Arafat功斑んout againt the Jewsα9痂η{yesterday/*aweek ago}.
16)(=1))は,当時頻発していたSt Helens火山についてのlournalisticな文 体,即ち慣例的に過去は現在形で表され過去分詞で受身を表すといった
HEAD LINEという特殊な環境にあること, againという継続性を示す語が imperfectiveな解釈を誘い,現在との関わりを深めていること,又,それが yesterdayとerruptsの間にあること等,の要素が文の容認性を高めているよ
うに思われる。実際,againがないと容認性も落ちてしまうし(16 )),連続性 の感じられない出来事では,yesterdayがなければ動作動詞の場合でもhead lineとしては極普通にある文(16 ))だが, yesterdayがあると容認度の低い 文(16 ))となる。又,HEAD LINEでagainなどの要素があれば,過去を 示す他のどんな副詞も共起できるかというとそうでもなく,yesterdayをa week agoやamonth agoなどで代替してみると,途端に受け入れ難い文とな
ってしまう(16 ),16 ))事実は,現在形の使われる範囲としてimmediacy が絡んでいる事を示している。新聞のnewsは大抵前日に起こった事であり,
それでも現在の話題としてnews valueがあるという語用論的な理由も, im−
mediacyの範囲内にyesterdayを許容できるものにしていると考えられる。従 って,head lineらしくもなく,連続性もないので, immediacyの範囲内に yesterdayが入らないことからも14)はoutになるようである。 imperfectivity とimmediacyの関係については,次章で詳述することにして,ここでは残る 17)≒2),19)≒15)のimmediacyとの関係について大まかに述べておきたい。
17)1 祝・i吻9・n・h・p・・ch y・・Wツ・nd燃,u、pi。i。u,4。。king 9。y_。∫
into my yard carrying a sack. Heψτゴεs it Then he Zooかup and∫εε∫
1 功watch仇9
18)蹴・cruffy」・・king・t・d・ntω膨・int・my・ffice{y・,t。。d。y/?*am。nth ago}and∫αy5 he wants a loan.
19)He{comes/*came}hereατ10:30 o〃20ηroω.
17),18)の類いは, historical presenfと呼ばれ,一般に過去の出来事が今,
目の前で繰り広げられているかのような生き生きとした感じを与えるための描 写手法の例とされているが,現在形が持つimmediacyがうまく使われている 事例だと言える。この場合,先程のような連続性の代わりに,Langacker
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(1991)も指摘しているように,thisなど直示的要素に支えられていて,話者の 発話時の意識に上っているイメージを描いているとも言えるかも知れない。但
し,そこには子供が目の当たりにした出来事を興奮して母親に話している様な,
包装紙に包まずにプレゼントを渡しているような,出来事を鵜呑みのまま(消 化,未整理のままと言ってもいい)に伝えているような卑近さが漂い,特に yesterdayとの共起は書き言葉としては普通ではない。それは書き言葉は通常 出来事を消化した後,文字化するプロセスを経るのである種のsophistication が成されるものだからであろう。Langackerはこれらの例文を問題ないものと
して挙げている様だが,yesterdayには何かひっかかるという反応を示すイン フォーマントも少なくなく,amonth agoでは完全に容認不可となる。ここで もyesterdayはimmediacyの範囲に入るか入らないか揺れるところにあるよ うである。ただそれも例文だけをインフォーマントに見てもらって直観的な判 断を仰ぐ方法の限界であるのかもしれない。Damon Runyonという作家の作 品には,全て現在形で書かれた短編があるが,そこには次のようなくだりがあ
る。
Iam paying no attention to them(Boston characters), because they are
drinking local ale, and talking loud,−when a
Boston character is engaged in aleing himself up, it is a good idea to let him alone, because the best you can get out of him is maybe a blow on the nose.(D. Runyon A乃εcεげ亮ε)(おいら,見ない振りしてるわけさ,
だってあいつら地酒やりながら大声で管巻いてるんでね。それってのも,
ボストンの奴等が飲んでるとことへうかうか首を突っ込んだりするとせい ぜい一発殴られるのが落ちだって事を前に思い知らされてっからね。〈拙 訳〈()及び下線は筆者>>
下線の言い回しはやはりあまりまともとは思えないが,非文と言うよりは,何 か独特の雰囲気を醸し出すために文法性を犠牲にしたようなdeviceの様にも 感じられる。又,目で見るとおかしさが目立つが,口に出して言ってみるとI learned thatのedの音は後のthatのthに吸収されて消えてしまうのでIlearn
thatといっているのと変わらない事も,奇異な感じを緩和しているように思わ れる。先程 He comes here yesterday はoutだと述べたが,この作品の中で 出てきたら不自然さを感じること無く素通りしてしまうかもしれない。又,
hereと言うのも直示的要素の一つなのだから17),18)の程度には容認されて もいいはずだがそうでないのは,それだけでは口語的で未整理なimmediacy の中にyesterdayを丸め込む読みを促す要素が足りないからであろう。
又,こう考えてくると15)He came here tomorrowのおかしさも,頭から 非文法的と決め付けるようなものでもないのかも知れないと思われてくる。お そらく映画&z6ゐ彦o zん九診μrεの台詞であれば自然だろうし, ifやsupposeな どの要素があれば当然良くなる。non−immediateということは動詞の一部始終 を最後までイメージできるということとすると,ifなどによってirrealityの世 界が作り出されていれば明日のことでも可能だが,この場合そうではないので,
来るという動作が終わっている現実と明日という副詞とが不整合であるからと するべきなのであろう。
2 Present Tense Description as lmperfective
2−1 Perfectives vs. Imperfective
1989年の英語学会で動詞類型に関し中右氏の「NP SEEMS/APPEARS TO VのVは〈状態〉述語に限られる」,即ち,toに続くのはbeやhave, re−
member(覚えているという意味で)等の状態動詞であって行為,過程など動 作を表す動詞はtoの後には来れないという指摘があった。
20)a.Ann seems to bεα∫友ψ/toゐαuε初αηッ介iεη冶.
b.You seem to{*enjoy/be enjoying}the party.
c.1\seem to{*break/have broken}my glasses.
d.She seems to{remember meeting him somewhere/
*remember to post the letter}. 中右(1991)
86 樋 口 万里子
その際に出た「例えば John seems to go to church. はよいではないか」とい う反論に対する中右氏の答えは,「そのような習慣,総称などの場合は例外と するべきだ」というものであったが,筆者には,むしろそのような習慣的行為 は「一種の状態」一とみなすべきであると思われた。というのも,現在形全般の 現象として,いわゆる状態動詞は極自然に現在形を取れるが,いわゆる動作動 詞の場合,現在形を取るとどうしても具体的な個々の動作というよりは,それ を抽象化したレヴェルで理解されている習慣・普遍の真理・性質,規則等とい った,何かしら静的な状態的な意味が感じられ,又,そうでなければいわゆる 動作動詞は使えないので,このseem/appearに関することも類似の現象と思 われたからである。
21)a.Ann{is asleep/has many friends/*enjoys this party/*breaks my glasse・}7).
b.Ann{breaks her glasses very often/enjoys parties immensely}.
22) Bob seems to{break the rules easily/enjoy driving a lot}.
それは,たとえば最初は動作として意識されていたものでも毎日繰り返すこと によって動作を(または変化)しているという意識が薄れてくるといった,我 々の認知の性質と関わっているだろう。「こうしたらこうなった」という経験 もそこに規則性を見出だし一般化されると「ああするとこうなる」という物事 の性質,世の中の在り方に関する知識として定着し,すなわち状態的に捉える 事ができる。物語の粗筋,取扱い説明書や料理の手順,スケジュールなども同 様である。
ここで確認しておくべきことは,状態的・動作的という動詞のaspectualな
7)ここでの非文マークは,あくまで普通の実際の一個の具体的動作の描写としてはお かしいという意味であって,ト書きの様な,説明文では起こり得る。通常我々は,そ の様に意味が通じるように解釈するものであるので,Idon t wear glasses, since she
(my pet monkey)always snatches and breaks it.の様な状況は幾らでも考えられる。
勿論これも習慣の一種であって状態的imperfectiveな解釈をしたからである。
区別は固定的なものではなく,当然の事ながら,動詞の使用されている現象に おいて認識されるべきものであるということである。或る動詞一語に関し,基 本的には状態動詞などと分類する事があるが,それはその動詞のプロトティピ カルな意味においてであってそれが文の中で何時でも状態的であるとは限らな い。多くの動詞(例えばwind等)は状態的であったり,動作的であったりす るものである。例えば,resembleは一般的にはいわゆる状態動詞とされてお り,普通は状態動詞は進行形にならない(24b.)のに24)c.の様な言い方が可 能なのは,ここでのresembleが状態ではなく変化を表しているからである。
23)The road{winds/is winding}through the mountains.
24)a.Janeπs伽bZε5 her motheL b.*Jane is resembling her mother.
c.Jane ∫resembl ηg her mother勿oπαη4物o花
ただ,状態的・動作的等という言い方は,多分に曖昧なところがあるので,
本稿ではLangacker(1991)のperfective/imperfectiveという,定義のより明 確な呼称を採用する8)。即ち,perfectiveとは時間の経過につれて変化を伴う さまであり,imperfectiveとは,変化を伴わないさまである。 perfectiveとい うのは動作的なものではあるがいわゆる動作とは限らないし,imperfectiveと は状態的なものではあるが形容詞などの意味する状態とは異なる。動詞である 限り,本質的に何時か始まりいずれは終わるものであるから,imperfectiveと いっても実際には全く変化がないというわけではないが,その変化を捨象した
8)Langacker(1987)は, Processes that involve a change through time will be called perfective;other processes will be called imperfective と定義し,基本的にはSmith
(1983)に近いものと言っているので,本稿でも,それぞれを状態的・動作的として使 うことにする。また,「進行形がperfective processを常にintemal perspectiveから 見ているので進行形はimperfectiveだ」と言っている[Langacker(1991,209)]様に,
Comrie(1976)の「perfecdveは状況を外側から見たもの, imperfecdveは,内側から 見たもの」という要素も,完了相,未完了相という言葉からうかがえる一動作の完結 性という要素もこの定義には付随しているものと考える。
樋 口 万里子88
捉え方をするのである。そして本稿の主張としては,現在形を,取り敢えず,
話者のimmediacyにおけるimperfectiveな知覚の表現形として議論を押し進
めたい。
図示するのは多少無理があるし,誤解を招く危険性もあるが,敢えてイメー ジを描いてみると,immediacyにおけるimperfectivityとは〈図3>のごとき ものである。
例えば周期的な動作を〈図4>の様に表せるとすると,その細かい変化を捨 象すると〈図5>の様に見なすことができる。それは例えば,イタリアの国の 形(本当は細かく入り組んだ地形であるにもかかわらず)を長靴のように描い て認識したり〈図6>,〈図7>の微細な変化を〈図8>の様に抽象的に捉えた
りし得る我々の一般的な認識の仕方とパラレルなものである。それと同じく個
一一ク∋一
〈図3>
/w ⇒ <<<<<<<∧〈ハ ⇒ ⇒ ↑ ↑
個の動作 周期的動作
〈図5>
〈図4>
〈図7> 〈図8>
〈図6>
々の動作を捨象し,抽象化した物がimperfectiveに捉えられるものが習慣・総 称を表すとされる現在形なのである。She is a student. He runs every Sun−
day.等と言っても,彼女が学生である状態や彼の走る習慣は,過去の或る時 に始まっていずれは終わるであろうが,その辺は問題とせず,話者のim−
mediacyの(発話時での話者の知る限りの認識の)範囲において「変化がない もの」と見るのである。
realityにおける現在形で捉え得るものが何故状態的でなければならないか というと,動詞の表す事柄が話者のimmediacy(即ち一瞬)の範囲内で成立 していなければならないからであり,perfectiveな動作にかかる時間はその範 囲内に収まらないか,発話する際には既に終っているからであり,変化のない imperfectiveな状態であればどの範囲で切っても同じなので, immediacyにお いて捉えることができるからである。従って,一つの考え方として,そのim−
mediacyの範囲内で動作が終了するか,或いはimmediacyの範囲と行為成立 が完全に一致すれば,perfectiveでも現在形が可能であり, imperfectivityは絶 対な条件というのではないという仮定も可能かも知れない。Langacker(1991)
は,例えば発話が終わると同時に発話内行為が成立するperformative(25)や,
次に検討するhistorical presentやplay−by−play account等を,その様な perfectiveの現在形の事例と見なしており,その点で本稿とは快を分かつ。
25)1吻o痂sd ll come back by 120 clock.
現在形が捉えうる動詞のaspectをimperfectiveと仮定する本稿にとって,
performativeは最も気になる例外であるかもしれないが,それについては最後 に取っておくこととして,先ずは下持えとしてその他の一見perfectiveと見え る現在形等を再検討しつつ,現在形の本質的部分にimpqrfectivityを想定する 議論を押し進めてみたい。
90 樋 口 万里子
2−2 Another Seemingly Perfective Present
まず直面するのが先程話題にした,発話時より前に実現している出来事を目 の前で起きているかのように言うものとされるhistorical present(歴史的現 在)や実況中継などで使われる現在形などの,一見perfectiveとみえる例であ ろう。Langacker(1991)は,発話の瞬間に目の前で起きているかの様に描かれ ているとされる出来事は,実際には過去の知覚を意識の上に呼び戻されたり,
描かれたりしているもので,予めどうなるか知っていることをmental RE−
PLAY させているものなので,話者が自由に速度調節し, perfectiveでも発 話行為時と,一致が可能だと説明するが,それ自体imperfectiveの性質である。
又,現在形のそのような描写も,映画やビデオの様な動画に対して,もっとコ マ送り的な,一つ一つは平面上に描かれ,時間が経ってもそれ自体は変化しな い漫画や絵画・写真のような静止画像的理解の描写のような状態的な要素が感 じられてならない。それらは真にperfectiveというよりは,何か予め定まった ルーティーン,或いはスキーム・スクリプトのmenta1 replay であり,むし
づ
ろ習慣・総称・普遍の真理といった話者の理解している世界の在り方と平行に 捉えるべきではないかと思われる。初めから終わりまでどうなるか分っている 物語の筋(それ自体は時間が経っても変化しないから)や論文を英語では普通 現在形で書くのと同じ事である。
実況中継のアナウンサーの発話によく出てくる,単純現在形も実際の動作と の発話のずれはconventionalに見えないものとして了解されているわけだが,
それが可能なのは,予め共有されて理解されているスキームに則ったものだか らであろう。というのも,例えば,実況中に突発的な事故が起きたとすると,
それはThe scoreboard explodes!などとはいわず,やはり, The scoreboard exploded!となるであろうからである。実際にはパスを受け損なって同点にな
らなかった直後などにも26)の様なアナウンスが観察される事がしばしばある が,これなども,話者のスキーム上の現実把握の一つの在り方であると説明す べきであろう。それは,27)等の様な疑似条件文,条件文,いわゆるBeavers build dams.及び29)の様な総称文に類似している。
26)He 6αz6んωthat pass and the game is tied.
27)You〃2ε∬this field goal and you ZO5εyour job.
28){If/wh・n/b・f・re/・f…}・h・g・・…al1友・叫w・u・u。lly輌a、p。,i。l bottle of champagne.
29)Water boゴムwhen it袖eated to 100 degrees centigrade.
30>㌧∬you〃2τ∬this field goal, you 〃lose your job.
cf?If you miss this field goal, you lose your job.
31)Water励〃boゴ4 when heated to 100 degrees centigrage.
Langacker(1991)は所謂近接未来を表すHe comes tomorrowの様な現在形 と同様27)をnon.realityのmental spaceの領域に, historical presentを
.past realityの領域に,それぞれshiftさせたものと考えているようだが,筆者 は,He comes tomorrowはあくまで既に決まったスケジュールというreality を表すものであり,27)もああすればこうなるというnormal course of events
.の一種であり,realityを表すものであると思う。何故ならば,27)と30)に は,29)と31)を比べた際にも認められるような,微妙な違いがあるからであ
り,どちらも,non−realityの領域に属するものとしてしまうと,その違いが 説明できなくなるからである。Langacker(1991)自身も,29)と31)に関して
は,29)の方にstructured worldの一部としてのhabitual.との類似性やmat−
ter of factliness, staticな感じを認め,それに対し,31)には何かもっとpre−
dictiveでenergeticでdynamicなニュアンスがあると指摘しており,筆者もそ れには同感である。筆者としては,このdynamicsの様なものは,当然, non−
realityの世界を思考する我々の思考力の様なものであり,(irrealisの世界で は自由にイメージできるのでperfectivityの持つ動性もあるかもしれない)樋 口(1991)で述べた,これまでの現実の在り方realityからして当然の如く推し 量られる(当然すぎて推論の働きである事さえ透明になってしまった様な)事 し柄を表すwillの意味機能によるものと考える。そして繰り返すようだが, He
92
樋 口 万里子
comes tomorrow,26),27),及び,29)でも,動詞だけを取り出せば,典型的に 思い浮かぶ様はいわゆる状態的ではないが,文全体の中で現実世界の在り方を 状態的imperfectiveに捉えたものと言えよう。
historical presentは生き生きとした感じを出すためのconventionとされて いるが,生き生きとした感じと言うのは,現在形のimmediacyの持つ臨在感 からも来るが,話者の表現力そのものに拠るものも大きいのではないだろう か9)。平面の上のものでしかない,絵や写真が生き生きと迫ってくることもあ る。過去形で描かれたことのほうが生き生きとした鮮やかさが少ないとは一概 には言えない。He gets it.よりは, He got itの方が動作の実現を描くと言う 意味では写実性があるとも言えよう。predictive特有の躍動的な或る種のイン パクトは過去形でなければ伝わらない様な気もする。現在時制が二次元的な理 解を伝えるものだとすると,過去時制のpredictiveは立体的で動画のようなリ
アルな動作のイメージを伝えるものと言える。それは時の流れと共に止まるこ とのない現実の流れの中の或る現象を動詞として捉える際の定めのようなもの であろう。山の中にいては山の姿をみることはできない。それが見えるには距 離non−immediacyが必要である。同様に動作が言語化されるときには一つの 完結した動作perfectiveでしかないのである。その点, if節やmodalによって 作り上げられた思考世界,irrealisでは,自由に状態や動作をイメージするこ
とができる。前章で取り扱った,全て現在形で書かれた短編は,確かに生き生 きとした口語調ではあるが卑近で平板な感じがする(恐らくその気取らない語 り口を感じさせる効果を狙ったものであろう)。又,通常の過去形の小説作品 の多くもリアリティや描写の鮮やかさにかけては引けは取らないと思う。
更に言うならば,現在形の言い方には,状態的な意味をもっと積極的に強い るようなところもある。
32)Where is she from?She 3 Greek
9)又,地の文がずっと過去形で書かれていて,急に現在形が顔を覗かせることによっ てもたらされる新鮮さということも関係しているだろう。
33)Where does she come from?She co〃2ε∫from Alabama.
34)Where did she come from?Sheεα〃2εfrom Fukuoka(this mornung).
35) Iunderstand it./I gε it/1プb摺εL 36) Iunderstood/I got it./I forgot it.
32)〜34)は文脈に拠っては似たようなことを表している場合も考えられるが,
34)では移動と言う動作の色合いが濃く,移動の前にいたところを尋ねる場合 などにも用いられるのに対し,33)にはその意味では使えず,32)とほぼ同じ 様な,その人の不変の属性の一つとしての出身地,国籍などを尋ねる言い方で
ある。
2−3 Present Progressive and Perfect
さて本稿ではここまで単純現在形中心に話を進めてきたが,現在進行形も現 在完了形も動詞はいわゆる状態動詞であるので,ここまでの議論がnon−modal における現在形全体のものとして捉えうることは言わずもがなのことであろう。
ここでは簡略的ながら現在進行形・完了形について触れ,現在形のimmedia−
cyとimperfectivityを確認しておきたい。
現在進行形の場合は,be+ingというまさに形の通り,「何かが動いている 状態にある」1°)事を表しているといえよう。更に言えば,知覚されている動き の途中をimmediacyの範囲で切り取ってきてその状態で動き全体を代表させ ておくという言い方である。これで動きは捉えられるし,そこに存在するエナ ジーのようなもの,も表せるカ㍉現実にはもっと変化に富んだ動きであろうもの がその動詞で均一化されるという事にもなる。
それは記述の限界でもあるだろう。映画のビデオを見ながら,(例えば見て いない相手を想定して)見たものを同時に説明して貰う実験をすると,言語化 された全ての動きは現在進行形で表現される。話者は様々な雑多な動きを旨く 10)日本語の「テイル」も友次(1991)が言うように,imperfectiveだが, imperfective なのはそれだけではなく,「ル」も入るように思われる。
94 樋 口 万里子
切り取れる動詞を探し,包含される細かい動きを捨象することになる11)。
しばしば進行形は37),38)の対照に見られる様に,一時的な様を表すもの とされるが,例えば,The earth is turning around.等という様に,必ずしもそ うとは限らない。無論,我々からすれば恒久的な星の動きも,いずれ超新星爆 発と共に最期を迎えるが,is turningというのは, immediacyにおいて動いて いる状態にあることを示し,The earth turns around the sun.は,真理を述べ
、ているのである。37)に対して,38)がより一時的なことを表すとされるのは,
37)がもともと状態であるものをimmediacyの範囲で切り取ってくるのに対 し,38)が働いているもの(或いは変化を感じるもの)を切り取ってくるから ではないかと思う。状態よりは動きのほうがより一時的と言えば一時的だから
である12)。
11)科学研究費による実験。例えば,「皿洗いをしている」という動詞で言語化されて いるものには,シンクに立っている,皿をテーブルから運んでいる,洗剤をスポンジ に付けている,左手で皿を持ち右手でスポンジを持ってゴシゴシやっている,etc.の 一連の言語化可能な動作がスキーマとして下位に存在している。
一
↑ ♪
一 一
ノ12)John{*stands/is standing}at the gate.でJohnが銅像のようなものを指してい ればstandsでもokだが,普通の人間では単純形ではoutで進行形ではokなのも,
動かないもの・動きとして知覚できるものの違いとしてみることができる。変化がな い,或いは,状態的なものと言っても客観的なものではなく,物理学的に言えば,重 力と抗力といった作用と反作用の力が均衡を保っていたり図1,地球にいる我々のよ うに地球の外から見れば自転速度で動いているけれども同じ速さで動いていたりする 場合など,通常動きとして感じることができないだけの極めて主観的なものであり,
我々の認知能力に関わっている。通常,木は地面に垂直に立っているものなので,例 えば,??Trees are standing in the fieldは通常は奇異な感じがするが,図1やDo you see that those trees are standing(against the blowing wind)in the yard?の様に,
37)He 1初εs in London.(Heの属性の一部)
38)He i∫㌘ ηg in London.(Heの活動)
前述した(p.1311.9),我々が変化や動きを認識した動詞が進行形になれると いうことも,本稿の考え方と整合する。いわゆる状態動詞は進行形にならない
というのも,状態であるものを更に状態にする必要がないからである。ここで はこれ以上進行形の細かい議論に立ち入らないが,現在進行形もimmediacy の範囲で区切り取られた状態imperfectiveであり,現在形の特徴そのものの性 質を有しているということは確認できたと思う。
次に現在完了形であるが,過去分詞で表される既に実現している出来事が haveという状態動詞で現在の状態に関連付けられていることを表すと言って
よいと思う。詳しくは,通時的な分析の吟味等に立ち入らなければならないだ ろうが,ここでの議論はimmediacyとimperfectivityに絞ってそれをよく示す 事例の指摘に止めたい。
39)1友ηε加46πα炉5z this morning.
何か過酷な条件に対抗している動き(生命力)の様なものが感じられれば進行形にな れる。 又,The bus is stopping.は,バスがスピードを下げて止まろうとしている 状態で未だ動いているときにしか使えない。(図田)
The machine lacks a control lever.というのは,その機械の規格について例えば, So it s difficult to manipulate._等ともともとレバーが存在しないものperpetualなもの
としていうのに対し,The machine is lacking a control leverというのは,故障であ るとか,もともと取り外し可能であるとかたまたま今レバーが外れていたりする変化 の感じられる状態なのである。
/強風etc.
(図1) (図皿)
the bus is
stopping ; the bus
@ ↓ h・・、・t・P
@ ・、 1
the bus stoPPed atτ,
図田
樋 口 方里子96
40)1ゐα4breakfast this morning.
41) *Ihave broken it yesterday.
cf. I broke it yesterday.
42)一一K卿{蕊蕊二1ご:蕊th }
43) Ihave it./1 ve got輌t.
39)は,40)と違って,例えば朝食を食べて未だおなかが空いていない等,そ の結果である現在immediacyの状態を問題にしているが,40)はそうではな い。現在完了形は現在形なので,通常yesterdayなどimmediacyを含まない・
副詞とは共起しない41),42)。状態的であることは,43)が殆ど同じ意味で使 われていることでも明らかだろう。
2−4 Performatives are not exceptional
最後に本稿の主張の例外として残っているperformativeに取りかかる。 per−
formativeというのは,次の様な,発話内行為が,動詞の意味する行為と一致 する特殊な文である。従って,文を発話すること自体が動詞の表す行為の成立
となる。
44)1♪τo痂5d ll pay you by tomorrow.
cf. A:_What do you mean?
B:Don t you see? 1㎞♪プo痂∫ゴηg that I will pay the money.
45)Io句εc紘/1α8γ.z/1α4勿 L/1εαηcε1what I said.
46)右の者は本学の学生であることを証明する。
47)hんαη虎you. cf I am thankful. Thank you.
「約束する」事自体は確かに行為であり,「約束します」と言えば確かに話者 にとっても聴者にとっても約束した事になり,行為が成立していることになる が,よく考えてみると,それがperfectiveなのはあくまで発話行為としてであ
り,発話を発した本人をも含めた外側から見て言える事である。普通の文は或 る事実を記述しているだけだが,performativeは,意味されていることが,発 へ話(或いは書面)を以て発効する側面ばかりが顕著に見えて,やはり何かを記
ヘ ヘ ヘト ヘ へ
述している側面が見えにくい。1 mthankful.は,感謝するという発話内行為 をしているとは限らない(態度が伴わない場合等)が,Ithank you.と言えば,
発語行為と共に「感謝する」という発話内行為が確実に成立するという様に,
社会的に約束事として認められているからこそ存在している行為であり
(performativeが,単純形現在で行為者はほ1…賠舌者に限られ,儀式的なニュア ンスを感じさせるのはそのせいであるだろう),文が記述するのはやはり,話 者の発言行為によって話者の世界から受け手も共有する世界まで広げられるこ
とになる一つの世界の在り方(約束事)であり,真理や規則が現在形で書かれ るのと同じではないだろうか。そう考えると1 mthankful.と同じくIthank you.の動詞の記述内容自体はimperfectiveと見なすことができる。その証拠 に,Performativeには書面の場合がある46)。証明書の内容自体は一定期間変
ヘ ヘ へ
化しない世の中の約束事の表明であり,発話内行為とは別である。「黙秘しま
ヘ ヘ ヘ へ
す」という発言は,ある件についての黙秘を意味し,行為の名前となるが,発 言者は無言ではない。又,一般にperfectiveは,進行形になれるはずだが,
ぶし ヘ ヘ ヘ へ ペト へ
44)は進行形にするとperformativeではなくなり,[発話内行為を説明する ノ
ヘ へ文13)]になってしまう。perfomativeの発話内行為の側面が社会的行為として perfectiveだからである。全ての発話は,発声する行為,発話内行為,発話媒 介行為という側面を語用論的に持つのであるから,performativeをperfective と言うなら全ての文は(発話されるという事において)perfectiveという事に なる。Langacker(1991)自身も, perfomlativeをpredicitve exception等と称
しながら,注では,perfective verbのperformative useは実際にはnon−
perfectiveだと書いている。彼の用語は的確だけれども独特なので,詳しい説 明はここでは省くが,要はperfectiveというのはimmediacyにおいて動作の
13)cf毛利可信『英語の語用論』pp.28−37.
14)c£Weinrich『時制論』
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終了が確認ではないといけないが,performativeの場合は発話と動作が完全に 一致していてできないからであろう。
まとめ
本稿では,現在形はimmediacyにおける理解を表すものであり, immedia−
cyにおいて捉え得る動詞のaspectはimperfectiveであることを論じた。 im−
mediacyとは実際には発話者の発話時直前の二瞬であろ うと筆者は考えている が,それについて語るには我々の物事の理解と言う事に対する理解をもっと深 めていかなければならないと思う。ただ,現在時制は「説明の時制」であり,
過去時制は「語りの時制」などと言われているの14)をもっと明確にいうと,
(non−modalの)現在時制というのはimmediacyにおいて「ああしたらこうな る」とか「ああしてこうなる」とか話者の知る現実世界の仕組みや成行きを説 明する時制であり,過去時制は,起きたこと,或いは起きたとして考えて,
non−immediacyのものとして区切って語ることであるということである。
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