• 検索結果がありません。

≡露光学光学鮭巌寛故意衝撃野党静 畿余勢轡寄療

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "≡露光学光学鮭巌寛故意衝撃野党静 畿余勢轡寄療"

Copied!
41
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

≡露光学光学鮭巌寛故意衝撃野党静

畿余勢轡寄療

I:::I.i

::・.卜1'・∴:...

1t :::・、

(2)

修士論文

地球環境条約の進化と通報協議制度

三重大学大学院人文社会科学研究科修士課程 社会科学専攻地域行政政策専修

105M259

堀江由美子

指導教官 西村智朗

(3)

地球環境条約の進化と通報協議制度

はじめに

第1草 地球環境条約の形成と発展 第1節 環境問題の出現

第2節 環境問題の変化 第3節 国際環境協力の発展 第4節

持続可能な開発

第2章 予防原則 第1節 予防原則の出現 第2節 予防原則の内容

第3章 通報協議制度 第1節 通報協議制度とは 第2節 通報協議制度の発展過程 第3節

小括

第4章 通報協議制度の発展と締約国会議制度 第1節 締約国会議制度の概要

第2節 情報管理システム 第3節 情報管理の利点と問題点

第4節 予防原則実現の手段としての通報協議制度の展望

終わりに

(4)

地球環境条約の進化と通報協議義務

はじめに

本稿の目的は,持続可能な開発を実現するために必要な条約制度を検証し、地球環境 条約は今後どのように展開すべきかを考察することである。 19世紀頃出現した環境条約は、

環境問題の変化と共に、ストックホルム会議、地球サミットを経て、今日の地球環境条約 が誕生した。従来は、環境損害に伴う各国の利害調整の事後的な救済手段としてとらえら れていた環境条約は、時間や国境を越えて地球全土に影響を及ぼし始めた環境問題を背景

に、環境リスクを事前に防止するという予防的救済手段に発展した。さらに、持続可能な 開発概念や予防原則などが提唱され、環境と開発の共存という、環境政策の目標が示され た。しかし今日の環境条約においては、持続可能な開発の実現のための具体的権利義務に ついていまだ規定されておらず、環境保護における国家の取組みはいまだ十分ではない。

本稿では、これらの問題に対しどのように取組みをするべきか、通報協議制度の発展をみ ていくことで問題点及び課題について検証する。

まず、 1章において、環境問題の変化と環境保護に関する条約の進化の過程を論じ,今日 の環境政策の指針となる持続可能な開発について論じ、 2章では、その持続可能な開発の中 心テーマとも言える予防原則について考察する。 3章においては、事前通報協議制度の形成 を検証したうえで、 4章では、締約国会議制度および情報管理システムとして発展した通 報協議が今日の地球環境条約においてどのような役割を果たすかを考察する。

本論では環境条約と地球環境条約という用語について区別して使用する。地球環境条約 という用語について、国内環境法、国際環境法いずれの分野においても定義は存在しない が、本論においては、地球規模の環境問題に関する多国間条約であって、二国間ないしは 地域的条約を除くものを対象とする。また、本論における多数国間環境条約については, 地球環境条約と同義に用いる場合と、地域的環境条約をふくむ場合がある。環境条約につ いては、環境に関する条約全般を指す。

1

(5)

第1草 地球環境条約の発展

第1節 環境問題の出現

環境条約の出現は、

19世紀のヨーロッパにさかのぼる1。それらは主にライン川その他の

国際水路における水利用、航行および漁業権に関する条約である。そこでは、水の利用を めぐって上流国と下流国の利害調整は意図されていたが、汚染または生態系に関する問題

といった、環境保護の観点はほとんど見られなかった。

20世紀に入ると、農業に有用な鳥類や、商業に価値のある生物種の過剰捕獲の防止に関 する条約が採択された。はじめて環境汚染や、生態系の保護を直接の目的にした条約とし ては1909年アメリカ・カナダ両国間に結ばれた国境水条約がある0 1909年、汚染防止を 規定した最初の条約として、アメリカとカナダとの間で、健康または財産を害する越境的 な水汚染を禁止する条約(国境水条約)が結ばれた。

1940年代にかけて、商業的に価値のある種を含む野生動植物の保護、天然資源の保全に 関するいくつかの条約が採択された。たとえば農業に有用な鳥類の保護に関する条約(1902 午)、アメリカ‑イギリスのアザラシの保護・保全に関する条約(1911年)、アメリカ‑イギリ

ス(カナダ)の渡り鳥の保護に関する条約(1916年)、国際捕鯨取締条約(1931年)、自然状態の 動植物の保全に関するロンドン条約(1933年)、西半球における自然保護と野生動物の保存

に関する条約(1940年)、北西大西洋漁業条約(1949年)がある。

そして、

1950年代までに、産業活動に起因する環境汚染が国際法上の問題となった。 1930 年代に起こったトレイル熔鉄所事件(1938年)の判決で、裁判所は、国際法上、国家は条約 による特別な制限がない限り、その領域をいかなる目的の為に利用するかは自由に決定で

きるが、その自由によって他国を侵害してはならない、という「領域使用の管理責任」を明 確に認め、さらに、重大損害の発生が継続されると懸念される場合には、関係国は加害行 為を停止すべきこと、さらに将来の汚染を防止するための監視制度を設けることが要求さ

れた2。

環境判例ではないが、コルフ海峡事件(1949年)3の国際司法裁判所の判決では、国家は、

他国の権利が侵害される行為のために自国領域が使用されることを知りながら、それを許 してはならない、という義務を確認した。また、トレイル熔鋼所事件とともによく引用さ れる国際環境判例として、ラヌー湖事件(1957年)の仲裁判決4がある。この判決によって、

1臼杵知史「国際環境法の形成と発展(以下臼杵論文1)」水上千之・西井正弘・臼杵知史編『国 際環境法』有信堂

2001年 2頁。

2Trail Smelter Arbitration, Unl'ted Nal'tioD Reports of)'Dtemat1'onal Arb1'tTal AIVBZds,Vol.3,p. 19

ll.

3

Corfu Channel,Merits,Judgment,ZCUReport 1949,p.22‑23.

4

Lake Lanoux Case Award ofArbitralTribuna1 24 ILR,p.101.

(6)

国際河川の沿岸国は、他の沿岸国の利益を尊重しなければならず、上流国は誠実に下流国 の利益に合法的な考慮を払う義務を負い、他方、下流国も自国の領土保全の権利のみをも

ってしては、上流国の河川の利用を制限的ないとして、いずれの沿岸国も他国がその同一

河川から利益を得る可能性を一方的に否定してはならない国際義務を負うとされた。

これらの環境問題は、いずれも相隣関係の原則に基づいて、関係国の利害を調整すると いう方法で解決され、禁止されたのは重大な越境環境損害であった。紛争当事国は地理的 に近接する位置にあり、加害国と被害国の認定や、

「明確かつ説得力のある証拠」による因

果関係の特定も比較的容易に確定された5。このように、この頃の環境問題および環境条約 は対象となる国家や客体が限定されていて、利害関係の調整も可能であった。

第2節 環境問題の変化

1950年以降、海洋の汚染防止、および希少な海洋資源の管理に関する条約が締結された。

また、宇宙や大気の活動が地球生態系に危機をもたらすことも徐々に認識されるようにな

った。この時期には、新たな環境損害に関する国際法が発展し、国際社会の共通の目標が 設定された時期でもある。この発展の背景には、先進工業国が直面した「公害」問題、つま

り、 「環境の質の悪化」という問題があった。

1950年代から、平和目的の原子力活動や、宇宙活動のように、高度に危険な活動がもた らす環境損害、および酸性雨のような長距離越境汚染という新しいタイプの環境損害が出 現するようになる。前者の高度に危険な活動は、それがもたらす損害の性質と範囲や規模 に照らして、伝統的な国際法現によっては有効に規制できない。原因活動が行われた領域 国の側に「相当の注意」が欠如していたことの立証は難しい。また、領域外における私人の 危険活動に対して、私人の本国が属人的な管理責任を負うとする基準、帰属責任の要件は 明白ではなかった。そこで、タンカー、航空機、原子力発電所、宇宙物体という潜在的に 危険な活動について、厳格な賠償責任を設ける条約が締結された。これらは、活動自体は 人間の社会生活に有用であるため、一般には禁止されないが、それらの事故に伴う甚大な 損害を国際社会で公平に分配するという観点から、航空機事故や油汚染の損害については 活動実行者の民事責任,原子力事故については関係国の補充責任、そして宇宙活動につい ては打ち上げ国の直接の国家責任を認める条約が成立した6。

しかし、環境破壊が進んで、長距離越境汚染や、核実験汚染といった、汚染源が個別に 特定できない、または、短時間には直接の損害が出現せず、汚染と損害が生じる間での間 に時間差が生じるような累積的な汚染が生じるようになると、従来の国家責任の原則は有 効な法規則とはなりえなくなった。こうした汚染は「対世的な義務」の違反であるという主

5臼杵論文1

8頁。

6

1967年宇宙条約第6条、第7条

3

(7)

張も見られた7。しかし、大気汚染の防止と海洋環境の保護は諸国の一般的な義務であると されたが、国際裁判の現状では、国家は自らの法益が直接に侵害されていない限り、他の 諸国に法益保護のための訴訟を提起する当事者適格は認められない。そのため、このよう な突発的な、あるいは累積的な環境損害については、それまで一般的であった領域主権原 理に基づく事後の国家責任の追及というアプローチのみでは、このような新たな環境損害

の防止・救済はできない。そこで、伝統的な事後救済に必ずしも結びつかない事前手続き的 な損害防止の義務を設けることが強調されるようになる。

しかし、この時期、環境問題はまだ、先進工業国の、とくに、西ヨーロッパの先進国の 問題であると捉えられていた。また、環境条約も、特定の自然環境、生物資源保護や,汚 染防止が中心でその規制手法も限定的であった。

第3節 国際環境協力の発展

(1)ストックホルム会議

1972年、スウェーデンのストックホルムで開催された国連人間環境会議は、国連で最初に 環境問題についての議論が行われた会議であり、国際社会が地球環境問題に積極的に取り 組む姿勢を明確にした。 1960年代、先進国で公害問題が頻発したため、1970年代前半は、先 進各国が環境問題に取組み始め、また各国で環境問題を専門に担当する省庁が設立された 時期であった。この会議は自然環境の保護にとどまらず、政治、社会、経済問題と環境の関わ

りが政府間で話し合われた史上初めての会議でもある。このころまでに、社会経済活動の飛 躍的な拡大に伴い、環境問題もその空間的・時間的広がりを拡大していた。さらに、人間活 動に伴うエネルギー消費や人為的な汚染の増大に対して、大気も海洋も無限の吸収源では なくなり、地球環境の有限性が認識されるようになった。この会議で採択された人間環境 宣言は、非拘束的文書であるが、環境政策の原則を明らかにしている。すなわち人類は地 球の管理者であり、人間は健全な環境で一定の生活水準を享受する基本的な権利を持つと

ともに、環境を保護・改善する厳粛な責任を負う(宣言6、原則1)とする。また人間環境の保 護・改善はすべての国の義務である(宣言2)と規定されている。さらに、資源保全について、

現世代の資源開発の権利を認めるとともに、将来世代の利益を考慮しなければならないこ と(原則5)、各国の開発ないし発展の程度に応じた国際環境法の適用も要求されるようにな った(原則9‑12、 23)0

この国連人間環境会議では特に、国際協力の進展と、国家の管理責任の強化が重要視さ

れた。

1970年代には、共通の環境問題を研究するための二国間協力を約束する条約や、地 理的・文化的・歴史的な一体性を背景に締約国が相互にその国内で越境汚染の被害者個人に

7

74年核実験事件で、原告のオーストラリアは、公海自由の尊重を妨害するフランスの核 実験は、オーストラリアおよび「他の諸国」に対する義務の違反であると主張した. Icy Repwt 1974,p.264.

(8)

無差別かつ平等の司法的または行政的な救済を認める地域的条約など、海洋環境の保護、

自然保全に関する多国間条約が締結され、多様な国際条約に基づく環境損害の効果的な規 制が進展した(原則24)。このように、国連人間環境会議は「現代」国際環境法の出発点であ

り、多数国間環境条約の3分の2はこの会議以降に採択されている80

またこの会議は、環境問題を専門的に扱う国連の機構である国連環境計画(United

Nations Environment Program以下UNEPと略称)の設立につながった。

新たな環境問題や課題に対処するために、

UNEPやOECDなどのいくつかの国際機構は、

一般的な法原則を採択した。これらは、諸国を直接的に拘束する国際法の法源になるもの

ではなかったが、

OECDが採択した汚染者負担の原則、事前の通報・協議義務、環境影響評 価の義務、緊急事態警告の義務や、 UNEPが採択した環境紛争の解決、被害者個人の救済、

資源開発の主権的権利と責任などの規定は、 1980年代の国際法団体の関連活動に大きな影 響を与え、国際環境法の発展に貢献した。

人間環境宣言原則21は「環境」に対する国家の権利と責任について規定しており、これは 部分的には従来の領域使用の管理責任の原則を確認するものであるが、法益保護の拡大、

保護地域の拡大、属人的管理責任‑の言及を加え、同原則を強化している9。このような管 理責任の強化、保護法益の拡大は、国際法の機能を伝統的な事後救済の次元から遊離させ た。国家責任の原則が適用される実害の範囲を超えて、損害の可能性が蓋然的に予見され る危険(環境リスク)をも対象とするようになった。オゾン層破壊や気候変動に代表される地 球環境損害の多くはこの環境リスクである。 1970年代における環境条約は、伝統的国際法 の枠内で、事後賠償の前提となる国家の損害防止義務を客観化するとともに、環境リスク を防止するための国際協力義務を実体化させていった10。

ストックホルム会議で、科学技術の進歩により,人間活動が環境に対して重大な損害を与 える危険性が高まっていることから、環境保護が平和および開発と並ぶ人類最大の課題で あるという点は合意されたが、水や大気の深刻な汚染に悩み、環境‑の配慮を重視する先進 国グループと、環境保護による開発の遅延を危倶する発展途上国グループの対立が顕在化

した。また、この会議では行動計画11も採択されたが、翌年の1973年にオイルショックが起こ

り,採択された行動計画はほとんど実行されなかった12。

(2)リオ会議

8岡松暁子「地球環境条約の形成と発展(以下岡松論文1)」西井正弘編『地球環境条約』有斐

閣 2005年10頁。

9臼杵論文1

8頁。

10同上 9頁。

11同会議で採択された行動計画は、109の勧告から構成され、これも法的拘束力はないもの

の、

「人間環境宣言」で言匝われた理念の実現に向けて、地球環境評価プログラム、地球環境管 理活動、地球環境管理支援体制に関して、具体的な政策提言を行なうものである。

12早川光俊ヨ「ハネスブルグ・サミットと環境NGOの課題」 『経済』2003年9月号

65頁。

5

(9)

①リオ会議までの環境条約の発展

国連人間環境会議から10年後の1982年10周年記念として、UNEPにより特別理事会が開

催された。この会議では日本政府代表の提案により、「環境と開発に関する世界委員会」

(world Commission

on

Environment and Development )(以下ブルントラント委員会)13の 設置が決まった。後段で詳しく検証するが、この会議で今日の環境問題のキーワードになる

「持続可能な開発」14という概念が提唱された15。同概念の内容についてはブルントラント委 員会に委ねられ、同委員会は会議の5年後に報告書『Our Common Future』を発表した。

この会議は、世界環境の現状に重大な懸念を表明する「ナイロビ宣言」16を採択した。この宣

言はUNEPの強化、ひいてはUNEPを中核とする国家努力および国際協力の強化・拡大を訴 えた。また、この「ナイロビ宣言」においては「環境上健全で持続可能な社会的経済開発」とい った開発と環境の統合を図る新しい概念が登場した17。

1982年のUNEPのナイロビ宣言では、オゾン層の破壊、二酸化炭素濃度の上昇、酸性雨、

海洋や淡水の汚染、有害廃棄物の使用と処分に伴う汚染、動植物種の絶滅など、地球環境 に対する脅威が広範囲に現実の問題と確認された。これにより、浪費的な消費や貧困の克 服、国際協力のいっそうの充実、開発発展途上国‑の技術的・財政的な援助の必要など、今 後の国際社会の行動指針が示された。

また、このころから、従来の環境汚染とは別の、地球規模の環境問題が注目されるよう

になった。

当時環境庁によれば、 「地球環境」問題とは、オゾン層の破壊、地球の温暖化、酸性雨、熱帯 雨林の減少、砂漠化、開発発展途上国の公害問題、野生生物種の減少、海洋汚染、有害廃棄物 の越境汚染、の9つである。その共通する性格とは、第一に長い時間をかけて進むプロセスで、

結果として広い範囲で多様な被害や損害が生じること、第二に個々の問題が環境や世界経 済の網の目を通じて相互に結びつきをもっていて、ひとつの「問題群」を形作っている。

13環境と開発に関する世界委員会は、各国政府と国連とのつながりは保ちつつも統制は受 けない独立の組織であり、その目的は、環境と開発に関する困難勝重要な問題を再検討し、

これに対処するための現実的な提言を行なうこと、必要とされる改革に向かって政策と社 会の動向に影響を与えることができる新たな形態の国際協力を提言すること、個人、ボラン

ティア組織、経済界、研究期間,政府の理解を深め、より多くの実践活動‑の参加を求めるこ とである。ブルントラント・ノルウェー首相委員長を務めたことから別名ブルントラント委

員会ともよばれている。

14

「持続可能な開発」というのは英語のsustainable

developmentの日本語訳である。報告書

『ourcommon future』を翻訳した著書『地球の未来を守るために』 (福武書店・1987年)で は「持続的な開発」または「持続的開発」と訳しているが、今回の論文では「持続可能な開発」

という言葉を使用する。この他に「持続可能な開発」 「永続的発展」などの言い方がある。

15西海真樹「 『持続可能な開発』の法的意義」 『法学新報』第109巻 第5・6号

244頁。

16世界環境の現状に重大な懸念を表明し、 UNEPの強化、 UNEPを中核とする国家努力お よび国際協力の強化・拡大を訴えた。

17高島忠義「国際法における『環境と開発』 」国際法学会編『日本と国際法の100年第6巻 開発と環境』

5頁。

(10)

すなわち地球環境問題は一つ一つが相互に関連性を持ち、地球全土で環境汚染が進行し

ている18。

その結果、国際環境法は、国家領域を超えた地球環境の保護を目的とし、条約に基づく 義務は他国に対する義務ではなく、国際社会全体に対する普遍的な義務の性格を持つよう になった。海洋、大気、オゾン層、南極などは、地球共有物と呼ばれ、それらの特定の地 球環境を保護するために、国家は適切な防止措置を取ることが要求される。このことによ

り国家が果たすべき国内措置の内容も変化した19。

立法方式としても、オゾン層保護のウィーン条約とモントリオール議定書のように、

般的な相当注意義務を規定する枠組条約を作成した後に、科学的知識の進展をまって、そ の一般的義務を具体的に特定する議定書を新たに採択し、その履行を確保する、といった

「枠組条約」方式が、地球環境問題の特殊性を考慮した新しい国際立法方式として注目され

るようになった20。

地球環境保護の条約は、それに多数の国家が参加しなければ、規制の効果がそこなわれ

る。そこで、 「枠組条約」方式の採用で多くの条約参加国家を確保するとともに、いわゆる「た

だ乗り」を防止するために、環境保護に関する資金援助と技術援助の提供のように条約の当 事国のみに認められる特別の利益を設けたり、あるいは非当事国との貿易を禁止または制 限するといった非当事国に対する不利益を規定することによって条約‑の参加を促す方法 が採用された21。これらの規定を含む条約としては、モントリオール議定書や有害廃棄物に 関するバーゼル条約が挙げられる。

さらに、従来は、国際河川の分野で発展してきた、環境リスク防止の手続的な義務が設 けられるようになった。環境に損害を与える恐れのある計画の実施を事前に通報し、交渉 ないし協議を経た後で、その実施が認められるというものである。この時代では特に、高 度に危険な活動および緊急事態における通報、協議、非常事態計画の作成および援助の義 務として、環境リスクに対応する国際協力が具体化された22。このことは本論の構成に深く 関わるので、後の章で詳しく説明する。

②リオ会議の内容と成果

ストックホルム国連人間環境宣言の流れを受け、1992年6月3日から14日までブラジル のリオデジャネイロで「環境と開発に関する国連会議」(United Nations Conference

on

Environment and Development )が開催された。これは別名「地球サミット」と呼ばれる。地

18藤崎成昭「地球環境問題と発展途上国」藤崎成昭編 『開発と環境シリーズ2 地球環境 問題と発展途上国』 (アジア経済出版会・1993年)

3頁。

19臼杵論文1

11頁。

20岡松暁子「地球環境条約の性質(以下岡松論文2)」西井正弘編『地球環境条約』有斐閣

2005年 33頁。

21同上。

22臼杵論文1

12頁。

7

(11)

球サミットは、今日の環境政策を検証するうえで、最も重要な会議である。この会議では多 くの成果が得られ、現在の地球環境政策の多くはこの会議を出発点としている。

この地球サミットには国連加盟国のほぼ全ての国である180ケ国が参加し、そのうちほぼ

100カ国では、元首または首相が出席するという、人類史上例のないほどハイレベルかつ大 規模な会議となった.同時に、環境技術に関する博覧会や非政府組織pon‑Governmental organization以下NGOと略称)や地方公共団体の参加する多くの催しも開催された。とくに

NGOの活動が活発であったため、NGO元年とも言われている230

この地球サミットでは、温暖化防止のための気候変動枠組条約(以下気候変動枠組条約と 省略)、生物多様性条約‑の署名が始まると共に、 「環境と開発に関するリオ宣言」(以下リオ

宣言と略称),アジェンダ2124、森林原則声明25がコンセンサスで採択された。これらの文書は いずれも持続可能な開発に向けて地球環境の保全に関する対策についての国際的な合意を

示すものである。

リオ宣言は、前文と27の原則からなっている。この宣言を人間環境宣言に比べると、第1 原則で「人類が持続可能な開発という関心の中心に位置する」と述べているように、国連人

間環境会議からの人間中心主義が明確な形であらわれている。また、 「持続可能な開発」を第

4原則に挙げ、

「持続可能な開発」の実現のための諸原則を規定している点、女性、青年、先住

民等の各主体の役割を明らかにしている点が新しい。

リオ宣言の交渉の最大の争点の一つが環境問題の責任論であった。発展途上国の一部は 地球環境問題がでてきたのは先進国だけに責任があると主張した。また1980年代に発展途 上国の経済は停滞し一人あたりのGNPが減少したことを受け、発展途上国には、先進国が決 めた経済的ルールの中で発展途上国が不公平な競争を強いられているとの認識も生まれて いる。それに対し、先進国は、地球環境問題は人類共通の課題であり、先進国も発展途上国も 共通して取り組むべき事を主張した。このような議論の結果、リオ宣言の第7原則で「共通だ が差異ある責任」という考え方が合意されるに至った。26

また、第15原則で科学的確実性の欠如を環境対策延期を正当化する理由としてはならな いという予防原則を定め、これは以後の環境問題の裁判においても影響を与えた。さらに、

この予防原則の登場は、それまで事後的な損害に対する救済手段であった環境条約が、環 境リスクを事前に規制する事前予防の取組み‑と変化させるきっかけとなった。予防原則

については第4章で詳しく論じる。

そのほかに、環境保護は開発過程の不可分の部分であること、各国は自国の資源を開発す

23早川光俊「前掲論文」

66頁。

24アジェンダ21は、「環境と開発に関するリオ宣言」で定められた諸原則を実行するための 21世紀に向けての行動原則である。内容は広範多岐な分野にわたり、全体で40章、約500頁

に及ぶ。

25正式名称「すべての種類の森林の経営、保全および持続可能な開発に関する世界的合意の ための法的拘束力のない権威ある原則声明」

26地球環境研究会編『地球環境キーワード事典』中央法規

2004年 26頁。

(12)

る権利を有するが、その活動が他国の環境に損害を与えないようにする責任がある事、現在 と将来の世代の必要を公平に満たす開発の権利がある事、意思決定‑の市民参加と情報公

開の必要性をこの宣言で確認している。

地球サミットの成果を確実に実行していくためには、フォローアップ(進行管理)の組織を 作っておくことが有効である。このため、1993年、国連の経済社会理事会の下に、持続可能な 開発委員会(Commission

on

Sustainable Development以下CSDと略称)が設けられた。

この会議は、次節で説明する持続可能な開発理念の登場とともに、それまで先進国に反 発していた発展途上国をも、地球環境条約‑の取組みに積極的に参加する基礎を提供した。

また、リオ会議はNGOや市民グループなど、国以外の団体や組織による国際環境活動の活

発化のきっかけともなった。

第4節

持続可能な開発

1970年代以降、オゾン層の破壊、地球温暖化、生物多様性の減少などの地球規模での環境 破壊、汚染が国際的に注目されてきた。これらの環境破壊・汚染は、その加害国を特定できず、

かつ、いずれの国もその破壊・汚染の影響から逃れられない、という意味で、すべての国の利 益に関わる。さらにそれらは、将来世代にも影響を及ぼすことがさけられない。すなわちこ れらの環境破壊・汚染は時空を超えたすべての国家と人類の共通利益に関わる問題である。

したがって,この地球環境問題に適切に対処するためには、国際法のレベルにかぎってみて もこれまでの加害者・被害者関係を軸に作成されてきたルールでは不十分である。それとは 異なる,より包括的で未来思考的な新たなルールを構築していかなければならない27。こう

して提唱されたのが、

「持続可能な開発」という概念である。この概念は地球環境保護の指導 原則として提唱され、今日の国際環境法の基本原則になり、これ以降のほとんどの環境条約

に取り入れられている。

(

1

)持続可能な開発概念

「持続可能な開発」とは、1987年、ブルントラント委員会がその報告書『OUR COMMON FUTURE』の中で明らかにしている概念である28。同一報告によれば、その概念とは「未来の 世代が自らの必要を充足しようとする能力を損なわないようにしながら、同時に現在の必 要をも満足させられるような開発」のあり方である29。私たちの開発行為が、子孫の生存基盤、

生活基盤,向上の基盤を侵すようなものであってはいけないという問題提起でもある30。

27西海真樹「前掲論文」242頁。

28持続可能な開発概念については、以下の文献より筆者が抜粋・引用したものである。 『Our commonFuture』邦訳 環境と開発に関する世界委員会(第来左武郎監修) 『地球の未来を 守るために』福武書店1987年。

29環境と開発に関する世界委員会『前掲書』

66頁。

30保田博/竹内啓「 『持続可能な開発』の考え方」 『環境保全と経済の発展』

32頁。

9

(13)

同委員会の委員は、開発をめぐる多くの趨勢がますます多数の人々を貧困化させ,また同 時に環境の荒廃をもたらしているという核JLに至った。このような形態の開発では21世紀

の世界を維持することは不可能ではないのか、という認識から、

「地球全体の開発がはるか 未来まで持続するような、新たな開発‑の道」が必要であるとの認識に至った。 「持続可能な

開発」は,開発発展途上国の目標であるだけでなく、先進国の目標でもあるのである。

「持続可能な開発」概念は開発と環境を「統合」した概念である31。報告書『OUR COMMON

FUTURE』で委員会は環境と開発が不可分であることを強調している。国連人間環境会議で

もそれは確認されていて、

「人間環境宣言」では、

「持続可能な開発」という言葉は使われてい

ないが、同宣言中の原則が開発と環境との調和に言及していることから、

「持続可能な開発」

概念の原点はすでに認識されていたといえる32。

環境と開発の考えは、古くは樹木の成長量と伐採量の平均をはかる19世紀のドイツ林学

に遡ることができる33。

環境と開発は異なる制度や政策によって別々に取り扱える問題ではない。

環境問題は経済問題と並んで、多くの社会・政治問題と関連している。多くの地域におい て環境と開発に大きな影響を与える急激な人口増加は、その社会の婦人の地位やそのほか の文化的な価値の要素からも影響を受けるoまた、一連の系統だった影響が、国内のみなら ず、国境を越えて現れる。こういった問題は、最終的には国家間の紛争にまで発展しかねな い。このように環境と開発は因果関係の複雑なシステムの中で密接な関係を持つ。

これまで、環境問題に関する責務は環境所管省庁や環境に関する制度にゆだねられてい た。しかし、こうした省庁や制度は、農業、工業、都市開発、林業、運輸政策などに起因する環 境破壊を規制する手段をほとんど持っていなかった。環境破壊を未然に防止するには、本来 ならば環境破壊の起因となっている政策を所管する省庁に、環境保護の責務を与えなけれ ばならない。その責務が的確に各省庁に与えられなかった結果、環境管理政策は、その大部 分が被害の事後的修復に集中した。環境被害を予見し、予防するためには、政策を行なうと きにはその政策の生態学的側面を経済、貿易、エネルギーなどの側面と同時に検討すること

が必要である。

すなわち、開発において、すべての国が生産プロセスに資源の保護を組み込んだ開発方 式を目指すこと、また、適切な生活基盤と資源の公平な利用の両方を組み合わせた総合的な 開発形式を目指すことが必要である。

いまや、国内・国際社会の環境政策の指針となっている持続可能な開発の概念は、主に、

予防原則、共通だが差異ある責任、参加民主主義の原則、人類の共通関心事項、世代内・

世代間均衡という原則により構成されている。

予防原則については3章において詳しく取り扱うのでここでは割愛する

31高島忠義「前掲論文」6頁。

32西海真樹「前掲論文」246頁。

33同上。

(14)

共通だが差異ある責任について、この原則は環境保護にかんする諸国の「共通の責任」と

「差異ある責任」という2つの要素から成り立っている。 「共通の責任」は、一国の所有物でな いあるいは一国の排他的管理下におかれていない環境資源について、これらの環境資源に ついての法的利益と損害を予防する責任が、条約または慣習にしたがい、すべての国に帰属 することになる、という考え方である。また、「差異ある責任」とは、諸条約および諸国の実行 の中で広く受入れられている。特別の必要や事情、発展途上国の将来の経済開発、先進国の 環境問題を引き起こした歴史的寄与の度合いなどの要因にもとづいて設定された「差異化 された環境基準」を意味している。国家はグローバル・パートナーシップに基づいて地球環 境保護のために協力する共通の義務を負うが、すべての国家に同一の義務が課せられるべ

きではない。地球環境の悪化‑の歴史的寄与および現在の寄与が国ごとに異なる以上、そこ

に差異が設けられるべきである。その他、リオ宣言原則6、原則7、原則11および原則12に

おいて発展途上国に対する特別の事情‑の配慮が規定されている。

ブルントラント委員会の報告書は、情報‑の適切なアクセス、政策決定課程‑の参加、行 政的・司法的手続き‑の実効的アクセスの保証を柱とした市民参加型の開発・環境政策を 持続可能な開発にとって必要であるとして、参加民主主義の原則を提唱した。これを受けて

リオ宣言も、環境問題における市民参加の重要性を確認している。またこれらの手続的権利 の保障はすでにいくつかの環境保護条約に取り入れられている。

また、人類の共通関心事項の原則について、地球環境は、人類がそれを自由に使用できる と同時にその破壊が人類全体に被害を及ぼすことから経済学的に「地球公共財」(GLOBAL COMMONS)と呼ばれている。地球環境を人類の共同財産と位置付けた場合、その保護は国 際社会の共通利益であり、国家はそれを保護する義務を国際社会全体に対して負うことに なる。このような義務は、1970年のバルセロナトラクション事件判決(第二段階)で取り上げ

られた「普遍的義務」にあたり、国家が他の特定の国家に対して負う相互的義務とは概念的

に区別するとされている34。

現在のところ理論的なレベルにとどまっているが、大気などが地球上の生命を維持する 本質的な条件であることから、地球環境の保護を国家の普遍的義務と措定できる35。

世代間均衡は、人間環境宣言第1原則、リオ宣言第3原則でそれぞれ言及されている。

「世代間均衡」とは、ある世代が自らの手にある自然・文化遺産を使用・発展させるさいに は、前世代からそれを受け継いだときの条件を悪化させることなく、それらを次世代に引き 渡せるように配慮しなければならない、とする考え方である36。 「持続可能な開発」の定義に

照らせば、

「世代間均衡」は持続可能な開発の本質的要素だといえる。この考え方によって、

現代世代が環境や開発に関わる政策を決定する際に、将来世代との関係や将来世代‑の影 響を考慮に入れなければならない、という視点が確立したことの意義は大きい。 「世代間均

34高島忠義「前掲論文」17頁。

35高島忠義

同上18頁。

36高島忠義

同上 9頁。

ll

(15)

衡」は国内裁判においてはすでに裁判規範としてとらえられた例も報告されている37が、同 原則の実定法化の実現には問題がある。

「世代内均衡」とは、文字通り、現世代での人々の平等性である。国際レベルでは、南北経 済格差の是正、貧困の根絶に向けての国際協力、環境・開発分野での発展途上国の特別待遇

を求める差異の根拠となる。また国内レベルでは、政府に対して、国内の経済的・社会的不平 等などの是正を求める拠り所になる。その意味で、「世代内均衡」は、 「共通だが差異ある責 任」および「参加民主主義」の2つの構成要素の源泉として位置付けられる。

これらの持続可能な開発概念の諸要素は、今日の環境保護政策において、多大な影響を 及ぼした。これまでの事後的救済の政策に加え、事前予防の概念が政策の中心となってこ

となどに大きく貢献している。この、事後から事前‑の焦点の変化は、特にリオ会議以降 の1990年代に見られる。

(2)持続可能な開発の課題

持続可能な開発という概念は、今日の環境政策の目標である。しかし、持続可能な開発 概念そのものは、国家に何らかの権利義務を設定することは出来ない。これらの概念に基 づいた、実定法の制定が必要である。今日、地球環境条約では国際協力のシステムは制度 化され、条約に参加する国家も増えてきた。しかし、条約の理念や目的には賛成であって も、実質的な目的達成に向けての取組みに対しては消極的な国家が少なくない。現実的な 権利義務の制定によって、国家の発展や、経済利益を失することを憂う国家が、いまだ開 発と環境をはかりにかけて、環境保護政策に積極的になれない場面がしばしば見られる。

また、多数国間条約では、作成から採択、発効、義務内容の設定までに多大な期間を要 することが多く、環境問題の進行に関わらず、取組みは遅れがちである。それ以前に,拷 続可能な開発概念は,まだ実定法かが進んでいない分野も多く、これらの概念が提唱され

て15年の時を経ても、 「理念」の域をでない。

今後,持続可能な開発を実現するためには、国家間の協力と実行が重要となってくる。

南北の格差を乗越え、地球全体で環境を保護するためには、国家間の共通の目標を具体的

に設定し、共同でその実施に取り組むべきである。そのためには、それらの取組みを行う

交渉の場と、交渉において中心的な役割を果たす機関が必要となってくる。

地球環境条約の特徴でもある事前防止という性質に大きな影響を与えたのは予防原則の 登場である。次章では、持続可能な開発を構成する原則のひとつである予防原則について 考察する。

37フィリピンで同国の子供たちが森林伐採許可の取消しと新規許可の差止めを求めて「自 分たちの世代と未だ生まれていない世代を代表」して訴訟を起こしたMinors Oposa事件 の最高裁判所判決(1993年)。

(16)

第2章 予防原則

地球サミットを契機として大きく発展した環境条約の進化の中で、もっとも大きな影響 を与えたのが予防原則の登場である。地球サミット以降の条約にはほとんどこの原則が取 り入れられており、近年の事前予防を目的とする地球環境条約自体が、この予防原則に影 響されたものであるとも言える。この章では、予防原則の出現、意義、慣習法との関係(法

的拘束力など)、判例における捉え方などを考察する。

第1節 予防原則の出現

(1)予防原則の起源

予防原則の起源は、ドイツの国内法のVorsorgeprinzip(予防原則)38の概念にあるといわれ る。この概念は、危険防止、リスク配慮、将来配慮を含む広義の原則として捉えられてい

る. Vorsorgeprinzipによれば、環境保護政策は、反応的(reactive)ではなく、予防的 (preventative)でなければならず、排出の回避・減少の技術をその汚染源で使用しなければ

ならないというものである。また、 Ⅶrsorgeprinzipの基本は、

「環境上の危険(環境に対す る害)および損害が可能な限り回避されなければならない」というものである。

vorsorgeprinzip

はまた、

Gefahrenvorsorge(危険からの予防)の考え方も含む。

Gefahrenvorsorgeは、従来の「損害の防止」よりも大きな保護を提供する.伝統的に防止は 損害を生ずることが認識される活動を停止することを意味する.

Gefahrenvorsorgeは、危

険の始まる前に行動がとられる。その目的は、空間的または時間的に遠い危険、科学的に 証明されなかった危険の可能性、自らは危険でないが、他の汚染物質と結合した場合に危 険なものとなる環境に対する負担を環境上の規制の下に置くことである。

(2)予防原則の形成

国家には自国領域が他国に環境損害を発生させるような方法で使用されないように管理 する義務が課せられている。しかし、実際に環境損害防止義務の違反に伴う「領域管理責任」

を問うためには、被害国側が重大な環境損害の発生とその因果関係の存在を立証しなけれ ばならない。これはトレイル溶鋼所事件で仲裁裁判所が明らかにしている。その最終判決に

38

Vorsorgeprinzipの公式の定義は、ドイツ政府からドイツ連邦議会‑の大気の質の保護に 関する報告で「予防原則は、 (我々すべてを取り囲む)自然界に加えられる損害を前もってそ して機会と可能性に従って回避されることを命ずる.

Vorzorgeはさらに・・‑特に因果関係

についての包括的で同時に行われる(調和された)調査による健康および環境‑の危険の早 期の発見を意味し、それはまた科学によって決定的に確かめられた理解がまだ利用可能で ないときに行動することを意味する。予防(precaution)は、経済すべての分野において、環 境上の負担とくに有害な物質の導入によってもたらされる負担を大きく減ずる技術的過程

を発展させることを意味する」と述べている。水上千之「予防原則」水上千之・西井正弘・臼 杵知史編『国際環境法』有信堂

2001年 215頁。

13

(17)

よれば、領域管理責任を追及するためには、国家間の通常の隣接関係に付随した受忍限度を 越える「重大な結果」を伴うこと,被害国側が損害を「明白かつ確実な証拠」によって証明す

ることが要求される39。

しかし、科学技術の飛躍的進歩と経済活動の活発化に伴って、人間活動が環境に与える影 響は従来よりも重大なものになり、回復不能な環境破壊をもたらす可能性がでてきた。また、

原因発生国から遠隔地の国に影響を及ぼし、また、原因となる行為から損害の発生までに 時間差を生じる地球環境問題が登場した。これらの環境損害の因果関係を正確に特定する ことは、ほとんど不可能である。さらに持続可能な開発の中心に据えられた「世代間均衡」の 理念にてらしてみても、事後的な損害賠償よりも事前の発生防止を要求するべきである。

また、最近まで、国際環境政策では、環境がもつ浄化能力を前提とされていた。

1972年

の海洋投棄規制条約や、国連人間環境宣言などは、海洋がその浄化能力ゆえに廃棄物処理 のために依存しうることを前提としている。環境の持つ浄化能力に限界があり、無制限に 依存しえないことは認識されていたが、最近までの国際環境政策では、その限界は科学に よって測定することができ、環境の収容能力以上のものを排出するのを防ぐための必要な 洞察力は科学が提供することを前提としてきた40。

このような従来のアプローチに基づく場合には、重大な環境損害が生じているという科 学的根拠がある場合のみに防止措置がとられ、そのような証拠がないときには、防止措置 をとることが要求されないことになる。予防原則は、環境保護に関してこのような過去の 考え方では不充分であるという認識によって生じた環境保護原則である。重大または回復 不能な環境問題の発生する「おそれ」があれば、たとえその因果関係が科学的に十分証明さ れていなくとも国家に予防措置を講じる義務を課すことが必要になってくる。

このような背景から、持続可能な開発に関する国際法の中核をなすともいえる「予防原 則」が登場した。環境に有害となりえる行為または物質は、たとえそれらが環境に生じさ せるかもしれない害についての決定的、圧倒的な証拠が得られなくても規制・禁止されるこ

とが求められると同時に、環境に悪影響を及ぼし得る活動に関わる決定をとる際に、国家は 注意深くかつ未来‑の配慮をもって行動することがもとめられる41。

リオ宣言が採択される以前に、 1985年のオゾン層保護のウィーン条約と、 1987年のモン トリオール議定書においてはすでにこの原則は取り入れられていたが、国際文書で予防原 則という用語に最初に言及したのは、 1987年第二回北海の保護に関する国際会議の宣言(ロ ンドン宣言)である。これ以降、北海周辺および、ヨーロッパの国際社会全体あるいは他の 地域の枠組の中でも受け入れられるようになった。

また、国連においても、 1989年に、

UNEPの管理理事会が、十五回期の「海洋汚染の予 防的アプローチ」で、予防原則を明示的に受入れた。

39高島忠義「前掲論文」

13頁。

40水上千之「前掲論文」224頁。

(18)

地球環境条約においては、予防原則が環境保護の重要な原則の一つとしてリオ宣言原則 15において「環境を保護するために、予防的アプローチは各国によってその能力に応じて広 く適用されなければならない。重大または回復不能な損害の脅威が存在する場合には、完 全な科学的確実性の欠如が、環境悪化を防止するために費用対効果の大きい対策を延期す る理由として援用されてはならない」として確認され、今日の環境における一つの中心的テ

ーマとなった。

第2節 予防原則の内容

(1)予防原則の概念

予防原則に言及する国際文書や文献において、いくつかの異なる用語が採用されている。

それらは、 「予防原則」 (precautionary

principle)、 「予防的アプローチ」 (precautionary approach)、 「予防的措置」(precautionary measures)などである。これらの用語のうち、

「予

防原則」と「予防的アプローチ」には明確な区別をする場合がある。たとえばFAOでは、

「予

防原則」を「予防的アプローチ」よりはるかに厳格な概念とみなし、ストラドリング魚種およ び、高度回遊性魚種に関する国際会議の1994年会期に提出した報告の中で、この二つを明 確に区別している。日本においては、予防的取組み方法と翻訳されている。

しかし、同じ用語を使用している場合にも、それぞれの内容は異なることが多く、それ ぞれの用語に使用概念の定義があるわけではない。

1章で述べたように環境問題は従来は、国家の領域管理義務に基づく注意義務と、侵害の 結果に対する損害賠償責任制度の組み合わせにより対応されていた。予防原則は、損害賠 償責任制度の限界による注意義務の変質の結果、出現してきたものであるとの考え方もあ

る。賠償責任制度は、その要件が厳しく適用可能な範囲が限定されるばかりか、本来、事 後救済の制度であり、国際環境保護の手段として必ずしも完全でない。その結果、環境保 護については、次第に有害結果の事前防止に関する国家の国際責任を強化しようとする傾

向が強まっている。さらに、国家の注意義務も、損害賠償責任の有無を確定する事後的、

相対的なものから、有害結果の発生を事前に防止するための「予防的注意」に変質するよう

になっている42。

また、事前の防止に関して、以前より、国家責任の観点から、予見可能性を基準として、

科学的に因果関係が証明される実質的な損害を防止する相当の注意義務を要求されていた。

このような国際環境法上の原則として、未然防止原則(precaution)がある。未然防止原則は、

損害賠償制度と密接に関連して形成されてきた43。そこでは、領域使用責任との関係で、自 国内の活動が国外の環境や財産に対して損害を与えないように監督する責任があるとされ た。その後、この原則は、ストックホルム宣言の第21原則を経て、多くの環境条約におい

42山本草二 『国際法における危険責任主義』東京大学出版会1982年

330頁。

43この原則は、トレイル熔鋼所事件における仲裁裁判所の判決にも表されている。

15

(19)

て再確認されている。

未然防止原則と予防原則は、環境上の損害や悪影響を事前に防止するという点では同じ である。しかし、未然防止原則においては、重大な損害の存在、その損害と人間活動との 因果関係の解明と科学的根拠に基づく証明が前提とされるのに対して、予防原則において は、そのような証明は要件とされない。予防原則は、原因と結果の関係が科学的に不確実 な場合でも、環境上の危険がある程度予測できる場合には、前もって損害の発生を阻止す ることが義務付けられる。

また、立証責任についても、変化が見られる。従来は環境に対して害があることの証明 がない場合には、当該活動は許され、環境損害を生じたあるいは生じる可能性のあること の挙証責任は、活動に反対する側にあった。しかし、予防原則の下では、環境に対して害 をもたらす可能性のある活動を行おうとする側にその活動が環境に対して害を生じないこ とを証明することを要求することがある。つまり、挙証責任の転換がありえる44。

(2)予防原則を取り入れた条約

地球環境条約では、気候変動枠組条約3条3項、生物多様性条約前文、カルタ‑ナ議定 書10条6項、海洋投棄規制条約(96年改正議定書)3条1項、オゾン層保護条約とモントリ

オール議定書のそれぞれ前文で予防原則に触れている。また、リオ宣言原則15においても、

確認されている。

各条約によって定められる内容は様々であり、予防原則から導かれる措置には、一般的 なものと具体的なものがある。多くの条約は予防的措置、予防原則、予防的アプローチと いう用語に言及しているのみ、または、一般的な義務を確認するにとどまっていて、具体 的な措置内容にまで踏み込んだ規定がある条約は稀である。

義務付けのレベルについても多様である。多くは単なる努力義務にとどまるが、カルタ

‑ナ議定書のように細目にわたる実質的な義務を含むものまである。カルタ‑ナ議定書に おいては、前文と1条でリオ原則15に言及したうえで、 10条6項で、遺伝子改変生物の 輸入の決定手続き、 11条8項の食料・飼料用に改変された生物の輸入に関する手続について、

それぞれ科学的知見がないという理由で禁止できる、とする。また、 15条リスク評価、 16 条リスク管理においても予防原則に基づいた義務が課されている。

予防原則を取り入れた条約の中で、この原則を基本原則として取り入れている条約に96 年のロンドン条約改正議定書がある。予防原則という用語は用いられていないが、この条 約が予防原則に基づくことは締約国会合の決議で確認されており、また、 3条4条の海洋投 棄汚染防止のための「例外列記アプローチ」は予防原則の実施例いえる。これは、条約が列 記する物質を除き原則としてあらゆる海洋投棄を禁止するというものである。

(3)予防原則の法的性質 44水上千之「前掲論文」221頁。

(20)

予防原則が、慣習法上の原則であることを否定する見解としては、予防原則の適用を要 求する一般国際法の規則は存在せず、予防原則に言及する文書は、法的義務を構成するも のではない。これらが法的拘束力を持つためには、追加的法創造行為が必要である。また、

予防原則に与えられた解釈の大きな多様性、いくらかの適用の新しく大きな効果は、国際 法の原則でないことを示唆する、と主張する45。

一方で、予防原則が国際慣習法であることを認めようとする見解では、この原則は、リ オ宣言、気候変動枠条約、生物多様性条約において入念に規定されたように、今やそれが 慣習法の原則を反映すると主張することを許すに十分広い支持を得た、として、予防原則

の法的地位は進展していると主張する。また、予防原則の解釈について重要としたうえで、

その原則の普遍性について留保があるとする46。留保の内容については、予防原則に従う義 務があるとして、すべての国を拘束する義務であるか、ということであり、予防原則の規 定を持つ地球環境保護のおおくの締約国でない発展途上国について、その原則の拘束的性 質を受け入れることについては、ありそうにない、との主張があるだろうとしている47。

環境に関する裁判において、予防原則を持ち出し、これが国際慣習法である、との主張 は潜在的被害国に当たる立場の一方の当事者によってなされることがある。国際裁判所に おいて初めて環境が真正面から取り上げられたとして有名な、ガプチコボ・ナジマロス事 件(1997年)48においても、ハンガリー側が「予防原則」の適用を強く求めた。しかしこの裁判 では裁判所は予防の必要性を認めるにとどまり予防原則を肯定するには至らなかった49。こ のほかに、南太平洋核実験事件再審(1995年)50,核兵器使用の合理性に関する勧告的意見 (1996年)51、国際海洋法裁判所では、ミナミマグロ事件(1999年)52、ポジョ‑ル海峡埋立事 件(2003年)53、また、 WTOでも、ホルモンビーフ事件(1997年)54において、予防原則に基

45

P/W二Birnie and A.E.Boyle,ZDtematl'oDal La

w

and the EDVl'mmeDt Second Ed)'tl'oD,OXFORD UNIVERSITY PRESS. 1992,

p.

119.

46

P.Sands,Pz:1'nclbleofZntemat1'onal EDVl'oDmeDtal La

w

H University Press.2003.P.3 13.

47水上千之「前掲論文」224頁。

48

Gabcikovo・Nagymaros Project (Hungary/Slovakia),Judgment,ZaJRepwt 19m,p.7.

49河野真理子「ガプチコボ・ナジュマロシュ計画事件判決の国際法における意義」世界法年 報19号(2000年)98頁以下。

50

ORDER OF 22 SEPTEMBER 1995 Request fわr

an

Examination oftbe Situation I Request for the lndication of Provisional Measures ZCJReport 1995・p・288・

51

Legality of Threat

or

Use of Nuclear Weapons,Abvisory Opinion,1CUReport 1996,p.226.

52

Southern Blue Fin Tuna Case Requests ofOTder

on

Pz10V)'sIoDalMeasures of27 A

ugzzst

1999.

53

Case concernir唱Land Reclamation by Singapore in and around the Straits ofJobor

(Malaysia

v.

Singapore),Provisional Measures PTOCeedl'DgS and Jz)dgmeDtS I Ll'st of Cases CaseNo.

12

54

EC Measures Concerning Meat and Meat Products (Hormones ) W4]S26ayuS4

WBS48m^tユ4N 1 997

17

参照

関連したドキュメント

緒 言  第圏節 第二節 第四章 第一節 第二節 第五章 第口節 第二節第六章第七章

第1董 緒  言 第2章 調査方法 第3章 調査成績

第2章 検査材料及方法 第3童 橡査成績及考按  第1節 出現年齢  第2節 出現頻度  第3節 年齢及性別頻度

 第I節 腹腔内接種實験  第2節 度下接種實験  第3節 経口的接種實験  第4節 結膜感染實験 第4章 総括及ピ考案

 第二節 運動速度ノ温度ニコル影響  第三節 名菌松ノ平均逃度

第七節 義務違反者に対する措置、 第八節 復旧及び建替え 第 2 章 団地(第 65 条~第 70 条). 第 3 章 罰則(第 71 条~第

 第1節計測法  第2節 計測成績  第3節 年齢的差異・a就テ  第4節 性的差異二就テ  第5節 小 括 第5章  纏括並二結論

第1条