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弘前市における巻胎木工品についての一考察

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Academic year: 2021

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平成30年度 修士論文 

弘前市における巻胎木工品についての一考察 

−弘前「ブナコ」と高山「千巻」の比較− 

教育学研究科教科教育専攻  美術教育専修デザイン分野 

16GP219  今井紗有里 

指導教員 石川善朗 

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目次  はじめに 

 ⑴研究目的と問題の所存・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3   ⑵先行研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3   ⑶研究方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4  第1章 ブナコについて 

 ⑴製品概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6   ⑵製造工程・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8   ⑶市場展開・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9  第2章 千巻について 

 ⑴製品概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11   ⑵製造工程・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12   ⑶市場展開・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12  第3章 巻胎技法について 

 ⑴巻胎とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14   ⑵国内外の巻胎漆器・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15  第4章 調査に基づくブナコと千巻の比較 

 ⑴ブナコと千巻の産業面の違い・・・・・・・・・・・・・・・・・・16   ⑵千巻が消えた理由・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17   ⑶ブナコアンケート調査の結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・18  第5章 ブナコのデザインについての検討 

 ⑴フロアーランプのデザイン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18   ⑵バッグのデザイン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19   ⑶猫ちぐらのデザイン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20  第6章 産業面から見たブナコの課題を考察 

 ⑴ブナコが現在抱える課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21   ⑵今後のブナコについて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21  おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22  謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22 

<参考文献> 

<図版> 

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はじめに 

⑴研究目的と問題の所存 

 青森県弘前市には、巻胎技法を用いた「ブナコ」(図1)というクラフト製品がある。

巻 胎 技 法 と は 、 テ ープ 状 に し た 木 や 竹 な どの 素 材 を 巻 い て 成 形 す る 方 法 の こ と で あ1 り 、 主 に 漆 工 品 の 素 地 ( ボディ ) を つ く る た め に 用 い ら れ る 。 日 本 に お いて は 正 倉 院 宝 物 の 漆 胡 瓶 や 人 間 国 宝 赤 地 友 哉 ( 1 9 0 6 ‒ 1 9 8 4 年 ) の 漆 工 品 、 国 外 に お いて は タイ や ミ ャン マ ー な ど 東 南 ア ジ ア 諸 国 の 漆 工 品 で 巻 胎 技 法 が 見 ら れ る 。 ブ ナ コ も テ ープ 状 の ブ ナ を 巻 いてつ く る た め 巻 胎 技 法 に よ る 製 品 で は あ る が 、 漆 で 仕 上 げ ず に 製 造 過 程 に よって 生 ま れ た 形 状 や ブ ナ が 持 って い る 木 肌 を そ の ま ま 生 か して い る と い う 特 徴 が あ る 。 津 軽 塗 の 刳 物 木 地 に 代 わ る も の と して 開 発 さ れ た 経 緯 は あ る が 、 現 在 の ブ ナ コ の 姿 は 他 の 巻 胎 技 法 の 工 芸 品 に は な い 独 自 の 表 現 を して い る 。 偶 然 に も 、 青 森 か ら 遠 く 離 れ た 岐 阜 県 高 山 市 に 「 千 巻 」 ( 図 2 ) と い う 見 た 目 や 製 造 方 法 が 類 似 して い る 工 芸 品 が 存 在 して い た 。 し か し 後 継 者 不 足 と 原 料 入 手 難 の た め に 数 年 前 に 生 産 が 終 了 して し ま っ た た め 、 ブ ナ コ は 日 本 に お いて 唯 一 の 製 造 方 法 で つ く ら れ る 独 自 性 の 高 い ク ラ フ ト製品となった。 

  本 研 究 で は 、 ブ ナ コ と 千 巻 、 2 つ の 巻 胎 木 工 品 に つ いて 原 料 、 製 造 工 程 、 デ ザイ ン、

市場展開など産業面で比較することにより、ブナコが持つ特性や株式会社ブナコのマー ケ ティ ング に つ いて 分 析 す る 。 特 に 、 な ぜ 千 巻 が 「 消 え た 工 芸 品 」 と な って し ま っ た の か 、 そ の 原 因 に つ いて 言 及 す る こ と で、 ブ ナ コ と い う 巻 胎 木 工 品 の 在 り 方 に つ いて 考 察 す る 足 掛 か り と し た い 。 ま た 、 巻 胎 技 法 の 特 性 を 生 か し た デ ザイ ン に つ いて 検 証 す る た め 、 3 D C G 制 作 ソ フ ト 「 S h a d e 3 D 」 を 用 い た 仮 想 デ ザイ ン や 実 際 の 試 作 を 以 て ブ ナ コ の 商 品 展 開 に お け る 可 能 性 を 考 察 す る 。 ブ ナ コ が 誕 生 し た 背 景 や 製 造 工 程 、 見 た 目 の 特 徴 な ど は 相 互 に 影 響 し あ い 非 常 に 合 理 的 で、 ま さ に 「 用 と 美 」 の バ ラ ン ス が2 取 れて い る ク ラ フ ト 製 品 で あ る 。 本 論 は そ の 点 を 強 調 し 、 千 巻 と の 比 較 を 通 して ブ ナ コ に つ いて 総 括 的 な 考 察 を 試 み る と と も に 、 文 献 が ほ と ん ど 残 さ れて い な い 千 巻 の 存 在 が 少 しで も 後 世 に 残 る よ う 記 録 す る こ とを 目 的 とす る 。 な お 、 本 論 で は ブ ナ コ を ク ラ フ ト 製 品 、 千 巻 を 工 芸 品 と 区 別 して 表 記 す る 。 ク ラ フ ト と 工 芸 の 定 義 は 時 代 に よっ て し ば し ば 変 化 し 、 概 念 も 受 け 手 に よって 解 釈 が 違 う た め 、 こ こ で は 「 ハ ン ドク ラ フ ト か 機 械 工 芸 か 」 と い う こ とを 基 準 に お く 。 わ ざわ ざ 区 別 を す る の は 、 ブ ナ コ が ハ ン ドク ラ フ ト、 千 巻 が 機 械 工 芸 で あ っ た こ と が そ れ ぞれ の 明 暗 を 分 け た 大 き な 要 因 と な るためである。 

⑵先行研究 

  ブ ナ コ に つ いての 参 考 文 献 は 、 雑 誌 の 小 論 や イ ンタ ビュー 記 事 な ど で か な り 多 く 見 ら れ る が 、 先 行 研 究 と な る 論 文 は 、 八 木 由 三 郎 著 『 青 森 「 ブ ナ コ 」 の 産 業 化 を め ぐ る

 胎とは素地や下地などのこと。ボディ。

1

 民芸運動を主導した柳宗悦が提唱。無名の工人達が生み出した日用品にこそ美しさが宿ると

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いうもの。

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諸 問 題 − 輸 出 工 芸 産 業 ノー ト ( そ の 2 ) − 』 ( 東 北 学 院 大 学 文 経 学 会 , 1 9 6 2 年 ) の み で あ る 。 し か し 、 そ の 内 容 は ブ ナ コ が 誕 生 し 世 に 送 り 出 さ れ た 当 初 の 頃 の 産 業 化 に お け る 問 題 を 取 り 上 げ た も の で あ り 、 現 在 の 状 況 と は 大 き く 変 わ って き て い る 。 本 研 究 は 、 千 巻 と の 比 較 に よ る ブ ナ コ と い う 巻 胎 木 工 品 の 一 考 察 で あ る た め 、 上 記 の 論 文 を 参 考 に し な が ら も 別 の 視 点 か ら 論 じ る こ と とす る 。 一 方 で、 千 巻 に つ いて は 参 考 文 献 や資料などはほとんどなく、現地に赴いて関係者に取材をする他に調査の方法がなかっ た 。 唯 一 千 巻 に つ いて 取 り 上 げら れて い る 文 献 は 『 TA K AYA M A   飛 騨 高 山 ・ 岩 倉 榮 利 と 夢 の 仲 間 た ち 』 ( 株 式 会 社 岩 倉 榮 利 造 形 開 発 研 究 所 , 2 0 0 1 年 ) で あ る 。 ま た 、 巻 胎 技 法 に つ いて は 多 く の 先 行 研 究 、 参 考 文 献 が 存 在 す る が 、 そ の ほ と ん ど が 漆 芸 に 関 す る 研 究 の 中 で 語 ら れて い る こ と が 多 い 。 そ の た め 、 本 研 究 で は 巻 胎 に つ いて 概 要 的 に 解 説 して い る 成 瀬 正 和 著 『 巻 胎 漆 器 研 究 の 現 状 − 新 発 見 北 周 田 弘 墓 出 土 品 の 紹 介 と 巻 胎漆器研究史−』(佛教芸術 第259号,2001年)を参考にする。 

⑶研究方法 

  ま ず は ブ ナ コ と 千 巻 の 製 品 概 要 、 製 造 工 程 、 市 場 展 開 と 巻 胎 技 法 に つ いての 概 要 を そ れ ぞれ に ま と め る 。 そ して、 調 査 や 取 材 を 元 に ブ ナ コ と 千 巻 を 比 較 し 、 産 業 面 で の 類 似 点 と 相 違 点 を 整 理 す る 。 2 つ の 工 芸 品 は 木 を 巻 いてつ く る た め 外 観 は よ く 似 て い る が 、 原 料 、 巻 き 上 げ 方 法 、 立 ち 上 げ 方 法 、 着 色 、 仕 上 げ な ど 細 か な 工 程 で 見 る と 全 く 違 う こ と が わ か る 。 ま た 、 ブ ナ コ も 千 巻 も 単 独 の 企 業 が 原 料 仕 入 れ か ら 塗 装 仕 上 げ ま で 一 貫 して 製 造 を 行 な って い る 点 で は 同 じ だ が 、 商 品 展 開 の 変 遷 や マ ー ケ ティ ング の 仕 方 は 大 き く 異 な る 。 こ れ ら の 比 較 が 、 ブ ナ コ と 千 巻 の 明 暗 を 分 け た 原 因 に 繋 が って い く 。 さ ら に 、 倉 田 氏 へ の 取 材 や 大 学 生 へ の ア ンケ ー ト 調 査 な ど か ら 、 生 産 者 側 と 消 費 者 側 の ブ ナ コ の 捉 え 方 に つ いて 分 析 し 、 地 場 産 業 で あ り 日 本 を 代 表 す る ク ラ フ ト 製 品でもあるブナコに対する価値観などを考察する。 

  次 に 、 千 巻 や 巻 胎 技 法 を 用 い た 漆 工 品 の デ ザイ ン を 参 考 に して、 3 D C G 制 作 ソ フ ト

「 S h a d e 3 D 」 を 用 い た 仮 想 デ ザイ ン や 実 際 の 試 作 を 行 い 、 他 の 木 工 芸 技 法 ( 指 物 、3 挽 物 、 刳 物 、 曲 物 な ど ) で は で き な い デ ザイ ン を 考 察 す る 。 仮 想 デ ザイ ン に お いて4 5 6 は 、 現 状 で は 設 備 や コス ト 的 に 生 産 が 難 し い が 再 現 は 可 能 で あ る こ とを 前 提 に 、 巻 胎 技 法 の 可 能 性 を 追 求 し た デ ザイ ン を 制 作 す る 。 実 際 の 試 作 に お いて は 、 株 式 会 社 ブ ナ コ に お いて 現 在 ま だ 製 品 化 さ れて い な い 分 野 に お け る 商 品 の 制 作 を 試 み 、 ブ ナ コ の 新 たな商品展開について提案する。 

  最 後 に 、 産 業 面 か ら 見 た 現 在 の ブ ナ コ の 課 題 に つ いて 言 及 し 、 ブ ナ コ や 日 本 の 地 場 産 業 が 今 後 ど う あ る べ き か を 考 察 す る 。 ブ ナ コ の 歴 史 を 辿 る と 、 産 業 化 期 、 商 品 展 開 転 換 期 を 経 て、 現 在 は マ ー ケ ティ ング 転 換 期 に あ る と 筆 者 は 考 えて い る 。 国 内 で は 弘 前 市 土 手 町 の 直 営 シ ョ ール ー ム B L E S S や 旧 西 目 屋 村 小 学 校 を リノベー シ ョ ン し た 西 目

 木と木を指し合わせてつくった物。

3

 ロクロで回転させ挽いてつくった物。

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 のみなどで刳り抜いてつくった物。

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 薄い板を円形に曲げてつくった物。

6

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屋 工 場 な どの 産 業 観 光 化 に も 成 功 し 、 さ ら に は 海 外 輸 出 に 向 け た 取 り 組 み を 強 化 して い る 。 そ う い っ た 背 景 を 踏 ま えて、 千 巻 が 消 え た 原 因 に つ いて も 触 れ な が ら 、 筆 者 の 考えをまとめていく。 

図1 ブナコ SAUCER #281 φ128 H25mm

図2 千巻  #281 φ216 H18mm

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第1章 ブナコについて 

⑴製品概要 

  ブ ナ コ は 、 1 9 5 6 年 に 青 森 県 工 業 試 験 場 ( 現 在 は 青 森 県 産 業 技 術 セ ンタ ー 弘 前 地 域 研 究 所 ) 場 長 の 城 倉 可 成 と 漆 芸 技 術 者 の 石 郷 岡 啓 之 介 、 当 時 新 人 で 後 に ブ ナ コ の デ ザイ ン を 数 多 く 手 が け た 望 月 好 夫 の 共 同 研 究 に よ り 考 案 さ れ た 。 県 工 業 試 験 場 で ブ ナ コ の 研 究 が 始 ま っ た 動 機 は 、 日 本 一 の 畜 産 量 を 誇 る 青 森 県 の ブ ナ を 有 効 に 活 用 す る た め 、 ま た 刳 物 木 地 に 代 わ り 津 軽 塗 業 界 の 活 路 を 見 い 出 す た め で あ っ た と 言 わ れて い る 。 ブ ナ は 粘 り が あ り 曲 げや す い 一 方 で、 水 分 を 多 く 含 む た め 腐 り や す く 狂 い や す い と い う 欠 点 が あ り 、 扱 い づ ら い 木 材 と さ れて い た 。 し か し 、 木 材 の 繊 維 方 向 を 一 定 に 定 位 す る こ と に よ り 資 材 の 反 り を 防 止 す る こ と が で き る 事 を 知 り ( 図 3 ) 、 ブ ナ コ の 製 造 技7 術 が 誕 生 し た の で あ る 。 や が て ブ ナ コ 技 術 の 企 業 化 を 進 め る た め 1 9 5 8 年 に 「 日 本 ウ ッ ド プ ラス チ ッ ク 株 式 会 社 」 を 設 立 、 翌 年 に は ブ ナ コ の 特 許 を 出 願 し 、 1 9 6 3 年 に 現 在8 の ブ ナ コ 株 式 会 社 ( 当 時 は ブ ナ コ 漆 器 製 造 株 式 会 社 ) へ 製 法 と と も に 受 け 継 い だ 。 現 在 は 特 許 が 切 れて い る も の の 、 独 自 の 生 産 方 法 や 他 者 に は 真 似 で き な い 技 術 、 機 械 の 導 入 に よって 類 似 品 は 見 ら れず、 ま た ブ ナ コ の 認 知 度 も 全 国 的 に 高 ま っ た た め 唯 一 の 巻胎木工品としての安定した地位を獲得したのである。 

 ブナコは製法が非常にエコロジカルで、造形にも無駄がなく、歪みや狂いが少ない。

例 え ば 、 直 径 2 0 セ ン チ、 高 さ 8 セ ン チ の サ ラ ダボ ウ ル を 木 の ブ ロ ッ ク か ら 切 り 削 る と する。従来のロクロ挽きで加工すると、必要な木材の量は約3,200立方センチとなり、

削 り と っ た 部 分 は すべ て 捨 てら れて し ま う 。 こ れ を ブ ナ コ の 製 法 で つ く る と 、 必 要 な 木 材 の 量 は 約 3 1 0 立 方 セ ン チ、 つ ま り は 1 0 分 の 1 程 度 に な る 。 ま た 、 テ ープ 状 に し た9 木 を 巻 き 重 ね る こ と で 軽 い 上 に 堅 牢 性 が 高 ま り 歪 み に くく な る た め 、 気 候 風 土 の 違 う 国外でも扱うことができる。巻き上げや立ち上げの作業は機械を使わず職人の手によっ ての み 行 わ れ る た め 、 従 来 の ロ ク ロ 挽 き の 木 工 技 術 で は で き な か っ た ひ ね り や 左 右 非 対 称 な どの 形 状 も 表 現 で き る 。 こ の 、 製 造 方 法 、 見 た 目 、 使 い 勝 手 が 相 互 に 影 響 して い る 点 が ブ ナ コ の 最 大 の 特 徴 で あ る 。 生 産 の 合 理 化 を 図 る た め に 製 造 工 程 を で き る だ け シ ン プル に す る こ と で、 技 術 を 短 期 間 で 効 率 よ く 習 得 して 最 大 限 に ま で 高 め る こ と が で き る 。 そ う してつ く ら れ た ブ ナ コ は 「 用 」 と 「 美 」 の バ ラ ン ス が 非 常 に よ く 取 れ た ハ ン ドク ラ フ ト 製 品 と な って い る 。 ま た 、 ブ ナ の 薄 い 単 板 は 光 を 透 過 す る とそ の 光 が 赤 み を 帯 び る 性 質 を も って い る ( 図 4 ) 。 そ の 光 は 夕 日 の 波 長 と 似 て お り 癒 し の 効 果 があると言われ、ブナコのランプ製品において大きな特色となっている。 

  ブ ナ コ と い う 名 称 の 由 来 は 、 ブ ナ の 薄 板 が 巻 胎 技 法 に よ り コ イ ル 状 に つ く ら れ る

(BUNA  coil)ことから、また物の名称に「こ」をつける津軽地方の呼び方から来て いる。ブナコとは商品名であり、原料仕入れから塗装仕上げまで一貫して製造を行なっ て い る 木 工 メ ーカ ー ・ ブ ナ コ 株 式 会 社 が 手 が け た 製 品 の ブ ラ ン ド 名 で も あ る 。 青 森 県

 『月刊弘前』第467号(2018年6月)有限会社小野印刷所,3頁

7

 『グラフ青森』第351号(2008年9月)株式会社グラフ青森,6頁

8

 『BUNACO BOOK』公式パンフレット,株式会社ブナコ,4頁

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に は 世 界 遺 産 に 登 録 さ れて い る 白 神 山 地 が あ り 、 そ こ に は 原 生 の ブ ナ 林 が 広 が って い る。ブナコは「青森県といえばブナ」というイメージを確立する一端も担っている。 

図3 巻き上げることによって反りを防止し木質が強化される

図4 ブナコランプ BL-T653 270 150 H245

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⑵製造工程 

  ブ ナ コ の 生 産 現 場 で は 、 そ れ ぞれ の 工 程 を 職 人 が 分 担 し 作 業 を 行 な って い る 。 ブ ナ コ 株 式 会 社 の 西 目 屋 工 場 で は 、 小 学 校 校 舎 だ っ た 構 造 を 生 か し 、 教 室 ご と に 作 業 工 程 を分けている。ブナコの大まかな製造工程は以下の通りである。 

  ま ず は ブ ナ の 原 木 を 厚 さ 約 1 ミ リ 、 長 さ 約 2 メ ー トル の 薄 い 板 ( 単 板 ) に す る 。 そ れ を つ く り た い 製 品 に 合 わ せ て 約 1 〜 1 . 5 セ ン チ 幅 の テ ープ 状 に カ ッ ト す る 。 次 に 、 テ ー プ 状 に な っ た ブ ナ 材 を 芯 と な る 板 ( 底 板 ) に 巻 き つ け る 。 作 業 台 に 釘 を 打 ち 、 そ の 釘 に 底 板 と テ ープ 状 の ブ ナ を 押 し 当 て な が ら 一 緒 に 回 して 巻 いて い く 。 こ の 巻 き 上 げの 工 程 が 非 常 に 肝 心 で、 木 の フ シ な どの 状 態 を 見 な が ら 均 一 に 巻 いて い か な け れ ば な ら な い 。 立 ち 上 げの 際 に 、 巻 き が 甘 い 部 分 は ず れや す く 、 逆 に 巻 き が き つ い 部 分 は ず れ に くく な る た め 、 立 ち 上 が り の 幅 に ムラ が 出 や す く な って し ま う 。 テ ープ を 継 ぎ 足 し な が ら 、 製 品 ご と に 決 め ら れ た 直 径 ま で 巻 いて、 最 後 は 接 着 剤 で と め る 。 乾 い た ら 円 盤 状 に な っ た 木 地 の 両 面 に ヤス リ を か け、 表 面 を 平 ら に す る 。 こ こ ま で が 巻 き 上 げの 工程となる。 

  次 に 成 型 の 工 程 だ が 、 テ ープ が 巻 き 上 げら れ た 円 盤 状 の 板 を、 木 の 棒 や 湯 飲 み 茶 わ ん な どの 道 具 を 押 し 当 て て 少 しず つ ずら して い く 。 道 具 を 持 って い な い 方 の 手 で 円 盤 状 の 板 を 持 ち 上 げ な が ら 一 定 の リズ ム で 回 して い く 。 立 ち 上 げの 幅 が 上 か ら 下 ま で す べ て 一 定 で あ れ ば 横 か ら 見 た と き に 形 が ま っす ぐ に な り 、 立 ち 上 げの 幅 を 途 中 で 変 え る と く び れ た 形 や 膨 ら ん だ 形 に な る 。 定 規 や 木 型 を 当 て て 高 さ や 曲 線 の 具 合 を 調 整 し たら、木地全体に接着剤を塗布し乾燥させ形を固定する。 

  最 後 は 仕 上 げの 工 程 と な る 。 ブ ナ の 粉 末 と 接 着 剤 を 混 ぜ て パ テ を 作 り 、 巻 き 上 げの 際 に 出 た 伱 間 を 埋 め る 。 そ の 後 、 全 体 に ヤス リ を か け て 木 地 の 表 面 を 滑 ら か に し 、 製 品 に よって は 組 み 立 て 作 業 を 行 う 。 そ の 後 吹 き 付 け や 刷 毛 塗 り な ど で ウ レ タ ン 塗 装 を 厚 め に 施 し 、 高 級 感 を 出 す た め に つ や 消 しで 仕 上 げ る 。 ス ピーカ ー ユ ニ ッ ト や ス ツ ー ル ク ッ シ ョ ン な どの 取 り 付 け を 行 い 、 製 品 が 完 成 と な る 。 ブ ナ コ の 製 造 工 程 に お いて 機 械 が 入 って い る の は 原 木 の カ ッ ト、 型 づ く り 、 塗 装 程 度 で、 肝 心 の 巻 き 上 げや 立 ち 上げは完全に職人の手作業となっている。 

図5 巻き上げ作業 図6 立ち上げ作業

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⑶市場展開 

  ブ ナ コ 漆 器 製 造 株 式 会 社 が 技 術 を 引 き 継 いで か ら 半 世 紀 以 上 が 経 っ た が 、 そ の 歩 み は 平 坦 で は な か っ た 。 当 初 は テ ーブル ウェア が 生 産 の 主 製 品 で、 百 貨 店 で ギ フ ト 商 品

( 図 7 , 8 ) と して 扱 わ れ る な ど 売 れ 行 き は 好 調 だ っ た が 、 バ ブル 崩 壊 を 受 け 需 要 が 減 少 し た こ と か ら ブ ナ コ 漆 器 製 造 株 式 会 社 は 倒 産 の 危 機 を 迎 える 。 そ の 後 、 顧 客 か ら 照 明 器 具 の 開 発 提 案 を 受 け た こ とを き っ か け に ラ ン プ を 制 作 、 そ の 後 は イ ン テ リ ア や ス ピーカ ー な どの 大 き な 製 品 へ シ フ ト して い く こ と と な っ た 。 2 0 0 2 年 頃 に は 当 時 県 工 業 試 験 場 の 石 川 善 朗 主 任 研 究 員 ( 現 弘 前 大 学 教 授 ) の 協 力 を 得 て レ ー ザ ー 彫 刻 機 を 用 い た 型 づ く り を 行 い 、 デ ザイ ナ ー か ら 指 定 さ れ た 細 か な 曲 線 形 状 も 忠 実 に 再 現 で き る よ う に な っ た こ と か ら 、 一 気 に 商 品 展 開 の 幅 が 広 が っ た 。 レ ー ザ ー 彫 刻 機 は 材 料 を 焼 き 切 る た め 表 面 に 焦 げ が つ いて し ま う の で、 現 在 は コ ールス バ ー グ の マル チ カ ッ ティ ン グ マ シ ン を 西 目 屋 工 場 に 導 入 して い る 。 ブ ナ コ は 2 0 1 8 年 時 点 で テ ーブル ウェア 4 5 種 、 イ ン テ リ ア 1 7 種 、 照 明 6 4 種 、 ス ピーカ ー 2 種 の ラ イ ン ナ ッ プ を 展 開 して い る 。 現 在 、 工 業 製 品 の 多 く は 多 品 種 少 量 生 産 が 主 流 で あ り 、 ブ ナ コ も ニーズ の 多 様 化 や デ ザイ ン10 の 自 由 度 が 高 い こ と か ら 商 品 の 種 類 は 多 い も の の 、 場 合 に 合 わ せ て 生 産 量 を 上 げ る こ と もで き る 。 つ ま り は 多 品 種 多 量 生 産 が で き る の で あ る 。 株 式 会 社 ブ ナ コ の 倉 田 昌 直 社 長 は 、 就 任 当 時 、 い か に ブ ナ コ の 工 業 化 を 図 り 、 技 術 を 標 準 化 す る か と い う こ と に 力 を 入 れ た 。 津 軽 塗 のよ う に 何 年 も の 修 行 を 要 せ ず、 一 定 レ ベ ル の 技 術 を 習 得 す る ま で の 時 間 を な る べ く 短 く す る こ と で、 あ く ま で も ハ ン ドク ラ フ ト で あ り な が ら 工 業 製 品 と して も 安 定 的 に 供 給 で き る よ う に し た 。 そ の た め 、 ホ テル 全 室 分 の 照 明 5 0 0 個 の 受 注 で も 、 カ フェ の カ ウ ンタ ー 照 明 2 個 の 受 注 で も 、 柔 軟 に 対 応 で き る よ う に な っ た 。 工 場 の 職 人 に 木 工 や 漆 芸 な どの 専 門 家 は い な い が 、 企 業 や デ ザイ ナ ー と の コ ラ ボ レ ー シ ョ ン や ク ラ ウ ド フ ァン ディ ング を 活 用 し た 商 品 開 発 な ど も 行 い 、 ラ イ ン ナ ッ プ を 増 やしたり製品に物語(ストーリー)を持たせて付加価値を上げることに成功している。

  海 外 に お け る 市 場 展 開 に 関 して は 、 2 0 0 6 年 頃 か ら ジェ ト ロ ( 日 本 貿 易 振 興 機 構 )11 の 支 援 を 受 け、 年 2 回 パ リ で 開 催 さ れ る 欧 州 最 大 の イ ン テ リ ア と デ ザイ ン の 見 本 市 「 メ ゾ ン ・ エ ・ オ ブ ジェ 」 に 計 1 2 回 の 継 続 出 展 を 行 っ た り 、 海 外 輸 出 に 向 け た 体 制 づ く り を行ったりするなど、新たな販路の開拓にも力を注いでいる。これまでにはフランス、

イ ン ドネ シ ア、 アメ リ カ 、 スペ イ ン な ど に ス ツ ール や ラ ン プ、 食 器 な ど を 輸 出 し た 実 績 が あ る 。 海 外 で は 間 接 照 明 が 好 ま れ る た め ブ ナ コ ラ ン プ は 人 気 が 高 い が 、 電 器 部 分 の 電 圧 が 日 本 と 海 外 で は 違 う た め そ の 課 題 を ク リ ア す る 必 要 が あ る 。 ま た 海 外 で の 継 続 的 な 取 引 や 輸 送 業 者 の 確 保 な ど も 急 が な け れ ば な ら な い 。 倉 田 氏 に よ る と 、 今 後 ブ ナ コ の 売 上 高 の 比 率 を 5 割 は 海 外 に す る の が 目 標 だ と い う 。 日 本 の マ ー ケ ッ ト は 縮 小 傾 向 にあるので、海外での市場展開は非常に重要になってくる。 

 工場における生産様式のひとつで、製品を多品種に少量生産するもの。市場の変化やニーズ

10

の多様化に柔軟に対応することができる。

 海外ビジネス情報の提供、中堅・中小企業等の海外展開支援、対日投資の促進などに取り組

11

んでいる独立行政法人。

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図7 昭和中期につくられたブナコ

図8 ねぷた絵が装飾されたブナコ

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第2章 千巻について 

⑴製品概要 

  千 巻 が 誕 生 し た 経 緯 は 、 春 慶 塗 の 器 を 作 って い た 田 中 菊 太 郎 が 映 画 の 1 6 ミ リ フィ ル ム か ら 閃 いて 開 発12を 行 い 、 1 9 3 1 年 に 田 中 千 巻 工 芸 と して 操 業 を 開 始 し た 。 岐 阜 県 は 県 土 の 8 割 以 上 が 森 林 で 覆 わ れ 、 春 慶 塗 や 一 位 一 刀 彫 、 飛 騨 の 家 具 を は じ め と し た 木 工 業 が 非 常 に 盛 ん な 県 で あ る 。 そ の 中 で 誕 生 し た 千 巻 は 、 飛 騨 高 山 の 新 た な 工 芸 品 と しての 期 待 を 背 負 って い た 。 そ の 後 は 2 代 目 、 さ ら に 千 巻 最 後 の 職 人 で あ り 工 場 長 だ っ た 佐 藤 進 氏 が 技 術 を 引 き 継 ぎ、 1 9 8 9 年 に は 社 名 を 飛 騨 千 巻 工 芸 に 変 え た 。 千 巻 は 佐 藤 氏 と 数 十 人 の 従 業 員 に よ り 原 料 加 工 か ら 塗 装 仕 上 げ ま で 一 貫 して 製 造 が 行 わ れ 、 そ の 技 法 は 企 業 秘 密 と して 長 年 守 ら れ た 。 し か し 、 後 継 者 不 足 と 原 料 入 手 難 に 陥 り 、 2 0 0 6 年 頃 に 閉 業 、 現 在 は 生 産 が 完 全 に 終 了 して し ま っ た 。 千 巻 の 取 り 扱 い を して い た 店 の 在 庫 もすべ て 無 く な り 、 現 在 で は 骨 董 屋 や オー ク シ ョ ン、 リ サイク ル シ ョ ッ プ な ど で 数 点 出 回 る 程 度 に な って し ま っ た 。 昭 和 中 期 か ら 後 期 に か け て、 国 内 で は 結 婚 式 の 引 き出物などギフト商品として出回ることが多く、60〜80代の高山市民では知っている、

ま た は 持 って い る と い う 人 が 多 く 、 中 に は か つ て 工 場 で 働 いて い た と い う 人 も い た 。 し か し 、 4 0 〜 5 0 代 以 下 に な る と 千 巻 を 知 って い る と い う 人 は 極 端 に 減 り 、 3 0 代 以 下 で は ほ と ん ど 認 知 度 が な か っ た 。 事 実 上 、 千 巻 は 「 消 え た 工 芸 品 」 と な って し ま っ た のである。 

  千 巻 の 原 料 は ヒ ノ キ に 木 質 が 似 て いて、 よ り フ シ の な い マ ツ 科 の ト ウ ヒ が 使 わ れて い る 。 土 地 面 積 が 日 本 で 最 も 大 き く 、 そ の 9 割 以 上 が 森 林 で 占 め ら れて い る 高 山 市 を は じ め 、 飛 騨 地 方 に は ト ウ ヒ な どの 常 緑 針

葉 樹 が 生 育 す る 亜 高 山 帯13の 森 林 が あ る 。 トウヒは木材の中では軽い部類に入るため、

千 巻 自 体 も 非 常 に 軽 い の が 特 徴 で あ る 。 千 巻 と い う 名 称 は 、 木 を 何 百 何 千 と 巻 く 工 程 か ら 名 付 け ら れ た も の で あ る 。 名 前 の 通 り 何 重 に も 巻 き 上 げ プ レス して 圧 着 し カ ン ナ を か け る た め 、 着 色 さ れて い な い 千 巻 の 表 面 は 金 色 に 近 い 光 沢 を 持 って い る 。 ま た 食 用 色 素 に よ る 染 色 の 具 合 に よ って は ト ウ ヒ の 木 目 が 強 調 さ れて 趣 が 出 る ( 図 9 ) 。 千 巻 は 、 器 の デ ザイ ン と 染 色 次 第 で 表 情 が が ら りと変わるのが特徴である。 

 『handmedejapan』http://www.handmadejapan.com,縄文社,#270

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 高山帯と山地帯の間。本州中部の山岳地方では標高1700〜2500メートルに相当し、常緑針

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葉樹が主に生育する。

図9 外側は食用色素で染色

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⑵製造工程 

  千 巻 は 製 造 工 程 を 従 業 員 が 分 担 して 作 業 して い た が 、 そ れ ぞれ の 工 程 に 高 い 技 術 が 必 要 だ っ た た め ほ と ん どの 工 程 で 工 場 長 の 手 が 入 って い た と い う 。 千 巻 の 大 ま か な 製 造工程は以下の通りである。 

 まずはトウヒの原木を幹の円周に沿って桂剥きのように削ぎ、厚さ約1ミリの薄板(単 板 ) に す る 。 そ れ を 乾 燥 さ せ ロ ー ラ ーで 伸 して 繊 維 を 圧 縮 さ せる 。 薄 い 着 色 を す る 場 合 は こ の 段 階 で 食 用 色 素 を 用 いて 染 色 ( 濃 い 色 の 場 合 は 成 形 後 に 染 色 ) し 、 約 2 〜 3 セ ン チ 幅 の テ ープ 状 に す る 。 次 に 、 中 心 に 鉄 の 芯 が つ い た 電 動 ロ ク ロ を 回 転 さ せ、 テ ー プ 状 の ト ウ ヒ を 巻 き 取 る よ う に して 製 品 ご と に 決 め ら れ た 大 き さ ま で 固 く 巻 く 。 こ の と き 、 木 の 状 態 に 合 わ せ て テ ープ 状 の ト ウ ヒ を 引 く 力 を 調 整 し な が ら 巻 いて い か な け ればならない。ここまでが巻き上げの工程となる。 

  次 に 成 型 の 工 程 だ が 、 巻 き 上 げら れ た 円 盤 状 の 木 地 を ロ ク ロ か ら 外 して、 周 り を 金 属 の 枠 で 固 定 す る 。 木 地 の 下 に 木 型 を 置 いて、 そ の 上 か ら 木 槌 で 叩 いて 大 ま か に 成 形 す る 。 形 を 固 定 す る た め に 、 少 量 の ホ ル マ リ ン を 混 ぜ た ニカ ワ に 浸 け て 接 着 を す る 。 ホ ル マ リ ン を 混 ぜ る こ と に よって、 ニカ ワ が 早 く 固 ま り 接 着 力 が 上 が る 効 果 が あ る 。 そ の 後 、 そ れ ぞれ の 製 品 に 合 わ せ た 温 度 と 時 間 で 木 地 を 煮 沸 し 、 外 径 を プ レス して 圧 着 す る 。 そ して 電 動 ロ ク ロ で 回 し な が ら カ ン ナ を か け る 。 千 巻 は こ の 工 程 に 最 も 技 術 が必要で、最終的な製品の形が決まるため必ず工場長の手によって行われていた。 

 最後は仕上げの工程となる。濃い着色をしたい場合はこの時にラッカー塗装を施し、

最 後 に ツ ヤ 出 し を して 製 品 が 完 成 と な る 。 千 巻 は 、 工 程 の 中 で 機 械 を 用 い る こ と が 多 く 、 ま た 巻 き 上 げの 際 の テ ープ の 引 き 具 合 や 煮 沸 温 度 と 時 間 の 見 極 め 、 カ ン ナ が け な ど は 高 い 技 術 が 必 要 で あ る 。 木 地 の 接 着 や 煮 沸 な ど は 曲 物 の 技 術 が 、 成 型 の カ ン ナ が けは挽物の技術が混じっているのがわかる。 

⑶市場展開 

  千 巻 の 歴 史 は 戦 前 、 戦 中 、 戦 後 と 昭 和 時 代 の 流 れ に 沿 って 変 化 して き た 。 戦 前 は 仕 上 げ は 春 慶 塗 で、 戦 中 は 軍 の 食 器 や 洗 面 器 な どの 軍 需 品 と して 作 ら れ 、 国 内 に あ っ た 三カ所の工場は終戦の頃まであった。戦後は進駐軍に鮮やかな色のラッカー仕上げ(図 1 0 ) の 食 器 を 納 め た り 、 アメ リ カ や デ ン マ ー ク に 輸 出 して い た 。 そ の 後 は 、 食 品 衛 生 法 に 従 っ た 淡 い 色 の 食 器 を 作 って い た と い う14。 佐 藤 氏 に よ る と 、 春 慶 塗 や 絵 付 け が さ れて い る も の は 手 間 や コス ト が か か る た め 、 近 年 で は 全 く 製 造 して い な い と の こ と だ っ た 。 千 巻 は 軽 く て 丈 夫 と い う 特 性 か ら 軍 用 食 器 と して 使 わ れ た こ とを き っ か け に 需 要 が 伸 び 、 戦 後 は 国 内 向 け に 盆 、 茶 托 、 菓 子 器 な どの テ ーブル ウェア、 稀 に 花 器 、 椅 子 ( 図 1 1 ) な ど が 製 造 さ れて い た 。 ま た 、 ヨ ー ロ ッパ へ の 輸 出 に 向 け て デ ザイ ン さ れ た も の は 、 淡 い 色 合 いで 厚 み が あ り 大 型 の も の な ど、 現 地 の 生 活 ス タイル や 好 み に 合 う よ う に 試 行 錯 誤 も 行 わ れて い た が 、 輸 送 中 に 湿 度 の 変 化 に よ り 巻 き に 沿 って 割 れ が 起きるなど、製品自体の課題も多かった。 

 『handmedejapan』http://www.handmadejapan.com,縄文社,#270

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  佐 藤 氏 は 小 学 6 年 生 の 時 に 終 戦 を 迎 え 、 中 学 を 出 た 後 に 岐 阜 市 の 機 屋 で 3 年 間 働 き 、 その後家族に呼び戻されて千巻の職人となった。以降は飛騨千巻工芸が閉業するまで、

5 0 年 以 上 も 一 筋 に 千 巻 を 支 えて き た 。 千 巻 は 成 形 時 に ロ ク ロ 挽 き を す る た め 正 円 の 製 品 し か つ く る こ と が で き な い が 、 そ の 木 地 を 継 ぎ 挽 き15( 図 1 2 , 1 3 ) のよ う に 組 み 合 わ せる こ と に よって 多 様 な フ ォルム を 表 現 す る こ と が で き る 。 佐 藤 氏 は そ れ を 生 か し て 常 に 新 し い デ ザイ ン を 考 案 し 続 け た 。 ま た 、 原 料 で あ る ト ウ ヒ の 確 保 が 難 しく な っ て き た 際 に は 米 松 に よ る 代 替 を 試 み 、 粘 り 気 が 足 り な い た め 巻 き 上 げ が 難 しく 断 念 し て し ま っ た も の の 、 千 巻 と い う 技 術 を 守 る た め に 研 究 し 続 け て き た 。 し か し 、 そ の 技 術 と 熱 意 を 引 き 継 ぐ 後 継 者 が 現 れず、 原 料 入 手 難 の 課 題 も 解 決 す る こ と が で き な か っ た 。 飛 騨 高 山 美 術 館 の 姉 妹 店 カ フェ 「 花 水 木 」 で は 長 い 間 千 巻 を 取 り 扱 って い た が 、 数年前に在庫がすべてなくなり、高山市内の骨董屋などを回っても手に入れるのは徐々 に難しくなってきた。 

 ロクロ挽きしたものを複数合わせてひとつの器をつくること。胴継ぎ。

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図10 戦後のラッカー塗装された千巻 図11 千巻のスツール

図12 3つ継ぎ挽きされた花器 図13 4つ継ぎ挽きされた花器

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第3章 巻胎技法について 

⑴巻胎とは 

  巻 胎 と い う 言 葉 は 、 文 字 の 通 り 巻 いてつ く る 胎 ( 素 地 、 ボディ ) の こ と で あ る 。 こ の技法の詳しい由来について、成瀬(2001,p114)は以下のように述べている。 

引 用 : 「 巻 胎 」 と は 一 九 六 〇 年 代 末 に 行 わ れ た 正 倉 院 漆 工 品 の 総 合 調 査 の 際 、 X 線 透 過 写 真 撮 影 に よ る 宝 物 の 素 地 構 造 の 調 査 を 担 当 し た 木 村 法 光 氏 に よって、 漆 胡 瓶 、 銀 平 脱 合 子 な ど 十 点 の 宝 物 に つ い て

発 見 さ れ た 素 地 造 り の 技 法 で、 ( 中 略 ) 薄 く て 幅 が 狭 い 紐 状 の 板 を 、 独 立 し た 輪 に し て 積 み 重 ね る こ と に よ って 、 あ る い は 螺 旋 状 に 巻 上 げ て 、 胎 を 造 る 方 法 で、 木 村 氏 は 当 初 、 こ の 技 法 を 曲 げ 物 の 一 種 と して 紹 介 し た が 、 後 に 普 通 の 曲 げ 物 技 法 と は 一 線 を 画 す も の と して 、 冒 頭 に 掲 げ た 名 称 を 付 し た。(引用ここまで) 

  木 村 法 光 ( 1 9 3 9 年 ‒ )16に よ る 漆 胡 瓶 ( 図 1 4 ) の 調 査 で 製 法 が 発 見 さ れ た こ と に よって、 巻 胎 が 木 工 の 新 た な 一 技 法 と して 認 識 さ れ る き っ か け と な っ た 。 紙 や 竹 な ど、 木 の 素 材 以 外 で も 輪 を 積 み 重 ね た り 巻 き 上 げら れて 作 ら れ た り し た 胎 は 巻 胎

技 法 と 呼 ば れ る 。 厳 密 に 言 え ば 、 径 の 違 う 輪 ( 同 心 円 ) を 積 み 重 ねて 形 を つ く る こ と を 輪 積 み 法 ( 曲 輪 造 ) 、 螺 旋 状 に テ ープ を 巻 き 上 げ て い く こ とを 巻 き 上 げ 法 ( コ イル 巻 き ) と 区 別 す る 。 ま た 巻 き 上 げ 法 に は 芯 材 か ら 外 側 に 向 か って 巻 き 上 げ る も の と 、 外 径 の 輪 か ら 内 側 に 向 か って 巻 き 上 げ る も の と が あ る 。 曲 げ 物 と の 違 い は 素 材 の 繊 維 が 重 な り 、 線 材 を 丸 く 巻 い た と き の の テン シ ョ ン ( 張 力 ) が 外 側 に 向 か って 均 一 に か か る こ と で 強 度 が 増 す と い う 点 で、 割 れ 、 狂 い 、 歪 み が 少 な く な る 。 ま た 、 挽 物 や 刳 物 に 比 べ て 材 料 の 無 駄 が 出 に くく 軽 い と い う 利 点 も あ る 。 挽 物 や 刳 物 は 仕 入 れ た 原 木 の 大 き さ 以 上 の も の は 作 れ な い が 、 巻 胎 技 法 は 大 型 の も の で も 自 由 に デ ザイ ン す る こ と が で き る 。 巻 胎 技 法 の ル ーツ に 関 して は 諸 説 あ り 、 本 論 の 趣 旨 か ら 外 れて し ま う た め 言 及 し な い こ と とす る が 、 中 国 ・ 唐 代 に は 巻 胎 漆 器 の 実 例 が あ り 歴 史 は 千 年 以 上 に なるという。 

 宮内庁正倉院事務所保存課にて宝物の調査、研究に従事していた。

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図14 漆胡瓶 左向き全姿

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⑵国内外の巻胎漆器 

  日 本 国 内 で は 正 倉 院 宝 物 の 他 に も 、 滋 賀 県 彦 根 市 ・ 松 原 内 湖 遺 跡 や 奈 良 県 奈 良 市 ・ 平 城 京 長 屋 王 邸 宅 跡 な ど で 巻 胎 漆 器 が 出 土 して い る 他 、 徳 川 美 術 館 に 所 蔵 さ れて い る 重 要 文 化 財 「 朱 漆 花 鳥 七 宝 繋 密 陀 絵 沈 金 御 供 飯 」 が 巻 胎 漆 器 で あ る こ と も 判 明 して い る 。 現 代 の 執 工 芸 で は 、 人 間 国 宝 の 赤 地 友 哉 や 北 村 昭 斎 ( 1 9 3 8 年 ‒ ) の 作 品 が 輪 積 み 法 に よ る 巻 胎 漆 器 で あ る 。 ま た 、 越 中 の 工 芸 品 で 和 紙 の 紐 を 巻 き 上 げ て 作 ら れ た 紙 胎 素 地 に 漆 を 塗 っ た 千 筋 巻 塗 と い う 巻 胎 漆 器 ( 図 1 5 ) が あ る 。 そ の 他 に も 、 民 芸 や 手 芸 の 領 域 で 木 材 や ク ラ フ トバ ン ド な ど を 用 い た 巻 胎 技 法 に よ る 作 品 が し ば し ば 見 受 け ら れる。 

  国 外 に お いて は 、 こ れ ま で に 中 国 や 韓 国 な ど で 遺 跡 か ら 多 く の 巻 胎 漆 器 が 出 土 して い る 。 中 国 で は 巻 胎 の こ とを 「 圏 畳 胎 」 と 言 い 、 輪 積 み 法 を 想 定17して お り 、 独 自 の 研 究 が な さ れて い る 。 現 代 に お いて は タイ 、 ミ ャン マ ー 、 ベ ト ナム な どの 東 南 ア ジ ア 諸 国 で 巻 胎 漆 器 が 盛 ん に 生 産 さ れて い る 。 東 南 ア ジ ア 諸 国 の 漆 器 は 巻 き 上 げ 法 に よ る も の で あ る が 、 主 に 竹 ( バ ン ブー ) を 用 いて 素 地 づ く り を す る た め 籃 胎 漆 器 と い う こ と もで き る 。 ま た 、 ブ ナ コ のよ う に 芯 材 に 巻 き つ け て 外 に 向 か って 大 き く す る の で は な く 、 外 径 の 丸 枠 に 沿 って 中 心 に 向 か って 巻 き 上 げ、 底 板 の な い い わ ゆ る 「 芯 巻 き 」18 と な って い る の が 特 徴 で あ る 。 ミ ャン マ ー の バ ガ ン 漆 器 は 漆 に よって 緻 密 で 多 彩 な 装 飾 を 施 すの が 特 徴 で、 ベ ト ナム の バ ン ブー 食 器 ( 図 1 6 ) は ウ レ タ ン や ラ ッ カ ー 塗 装 で カ ラ フ ル に 着 色 す る の が 特 徴 で あ る 。 こう し た 国 内 外 の 巻 胎 漆 器 を あ げ てみ る と 、 ブ ナコや千巻はいずれの巻胎漆器とも異なり独自の表現をしているのがわかる。 

 『佛教藝術』第259号(2001年11月)毎日新聞社,127頁

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 巻胎技法においては、芯材を使わず線材のみで中心も巻き上げる技術のことである。

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図15 千筋巻塗(紙胎漆器) 図16 バンブートレイ

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第4章 調査に基づくブナコと千巻の比較 

⑴ブナコと千巻の産業面の違い 

  ブ ナ コ と 千 巻 、 2 つ の 巻 胎 木 工 品 は 、 そ れ ぞれ 豊 富 な 木 材 資 源 を 有 し 漆 芸 が 盛 ん な 地 域 で 自 然 発 生 的 に 誕 生 し た 。 製 品 の 外 観 は 似 て い る が 、 原 料 と 製 造 工 程 が 異 な る た め あ ら ゆ る と こ ろ に そ の 違 い が 反 映 さ れて い る 。 ま た 、 マ ー ケ ティ ング に お いて は ブ ナ コ と 千 巻 の 違 い が 顕 著 に 表 れて い る 。 ブ ナ コ は ラ ン プ 製 品 の 開 発 が き っ か け で 商 品 ラ イ ン ナ ッ プ の 幅 が 広 が り 、 今 で は イ ン テ リ ア や ス ピーカ ー な ど も 展 開 して い る が 、 千 巻 は テ ーブル ウェア が そ の ま ま 主 製 品 だ っ た 。 ブ ナ コ は 立 ち 上 げ 方 に よって ひ ね り や 左 右 非 対 称 の 形 ( 図 1 7 ) が で き る 。 木 型 は

曲 線 形 状 が わ か れ ば 良 い の で 、 2 枚 の 板 を カッティングして合わせたものを使用する。

こ れ な ら ば 様 々 な 型 を 低 コス ト で 作 る こ と が で き 、 自 由 な 形 で 表 現 で き る の で あ る 。 一 方 で 千 巻 は 、 ロ ク ロ 挽 き 成 形 の た め 正 円 の も の し か つ く れ な か っ た 。 カ ン ナ で 削 る た め 曲 線 形 状 は 自 由 自 在 に 表 現 す る こ と が で き る が 、 大 量 生 産 に は 向 か な か っ た 。 海 外 輸 出 に お い て も 、 ブ ナ コ は テ ーブル ウ ェ ア だ け で な く ラ ン プ で 勝 負 す る こ と が で き た 。 む し ろ 海 外 で は 、 直 接 照 明 よ り も 間 接 照 明 が 好 ま れ る 傾 向 に あ る た め 、 柔 ら か い 光 を 演 出 す る ブ ナ コ ラ ン プ は 受 け 入 れ ら れ やすかったのである。 

  次 に ブ ナ コ が 千 巻 と 大 き く 違 う の は 、 産 業 を 観 光 化 で き た と い う と こ ろ に あ る 。 株 式 会 社 ブ ナ コ は 、 2 0 1 7 年 4 月 に 旧 西 目 屋 村 立 西 目 屋 小 学 校 の 校 舎 を 改 修 し 、 ブ ナ コ 西 目 屋 工 場 を オープ ン さ せ た 。 全 国 的 な リノベー シ ョ ン ブー ム に よって 廃 校 や 古 い 日 本 家 屋 な どの 活 用 事 例 が 国 内 に も た く さ ん あ る が 、 ブ ナ コ は そ の 中 の 成 功 事 例 の 一 つ で あ る 。 ブ ナ の 原 生 林 が 広 が る 白 神 山 地 の 玄 関 口 で あ る 西 目 屋 村 は 、 ブ ナ コ が つ く ら れ る 環 境 と して 非 常 に 適 して お り 、 元 小 学 校 の 構 造 を 利 用 し た 工 場 は 、 教 室 ご と に 工 程 が 分 か れて い る た め 見 学 が しや す い 。 工 場 内 に は シ ョ ッ プ と カ フェ が 併 設 さ れて お り 、 ブ ナ コ の 立 ち 上 げ ( 成 形 ) 体 験 もで き る な ど、 自 然 に 囲 ま れ た ロ ケ ー シ ョ ン で ブ ナ コ が 生 ま れて い る と い う イメ ー ジ に つ な げ て、 産 業 を 観 光 化 す る こ と に 成 功 し た の で あ る 。 ま た 、 弘 前 市 内 に 唯 一 の 直 営 シ ョ ール ー ム B L E S S を 構 え 、 青 森 の 「 B U N AC O 」 と い う ブ ラ ン ドイメ ー ジ を 保 って い る 。 一 方 の 千 巻 は 、 独 自 の 技 術 を 守 る た め に 生 産 現 場 は か な り 閉 鎖 的 だ っ た 。 現 場 を オープ ン に す れ ば 良 い と い う 訳 で は な い が 、 製 品 の 良 さ だ け で 勝 負 す る に は 限 界 が あ り 、 マ ー ケ ティ ング に 関 して 改 善 すべ き と こ ろ は たくさんあったはずである。 

図17 左右非対称のブナコ

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⑵千巻が消えた理由 

  千 巻 が 7 0 年 余 り で 幕 を 閉 じ た の に は 、 後 継 者 不 足 と 原 料 入 手 難 に 陥 って し ま っ た と い う 背 景 が あ る 。 後 継 者 不 足 に 関 して は な に も 千 巻 に 限 っ た 話 で は な く 、 日 本 中 の 工 芸 品 産 業 に お いて 大 き な 課 題 と な って い る 。 技 術 習 得 の た め に 長 い 修 行 が 必 要 で、 そ の 間 は 十 分 な 収 入 を 得 ら れ る 保 証 が な い 。 各 自 治 体 で は 後 継 者 育 成 の た め の 補 助 金 や 研 修 制 度 な ど を 行 な って い る が 、 そ れで も 若 い 従 事 者 は 年 々 減 少 して い る の が 実 態 で あ る 。 最 後 の 千 巻 職 人 で あ る 佐 藤 氏 が 閉 業 を 決 断 し た 際 に も 、 や は り 技 術 を 引 き 継 げ る 若 者 が い な か っ た と イ ンタ ビュー に て 語 って い る 。 序 論 で も 述 べ た が 、 ブ ナ コ が ハ ン ドク ラ フ ト ( 手 工 業 ) で あ る の に 対 して、 千 巻 は 工 芸 的 ( 機 械 工 芸 ) で あ っ た こ と が そ れ ぞれ の 明 暗 を 分 け る こ と と な っ た 。 千 巻 は 製 造 工 程 の 中 で 機 械 を 多 く 用 い 、 巻 き 上 げ 方 、 煮 沸 温 度 や 時 間 の 管 理 、 ロ ク ロ 挽 き の 加 減 な ど、 ほ と ん どの 作 業 で 熟 練 さ れ た 技 術 や 勘 が 必 要 で あ っ た 。 後 継 者 が い な い と い う の は 誰 で も は で き な い と い う こ と で あ り 、 技 術 が 途 絶 える 一 番 大 き な 要 因 で あ る 。 ま た 、 特 許 を 守 る た め に 技 法 を 全 く オープ ン に して こ な か っ た と い う 経 緯 も あ る 。 当 時 、 外 部 の 人 に は 生 産 現 場 を 見 せ る こ と は ほ と ん ど な く 、 そ の た め 資 料 や 文 献 な ど、 千 巻 を 知 る 術 が な い と い う の が 現 状 で あ る 。 原 材 料 入 手 難 に つ いて は 、 ブ ナ コ の 場 合 は 青 森 県 森 林 組 合 連 合 会 の 入 札 を ほ と ん ど 独 占 して い る 他 、 北 海 道 な どの 近 隣 地 域 や 世 界 を 視 野 に 入 れて ブ ナ の 仕 入 れ を 行 な って お り 、 2 年 分 は 原 料 の ス ト ッ ク が あ る と い う 。 し か し 千 巻 に つ いて は 、 原 料 であるトウヒの調達がうまくいかず、米松での代用なども叶わなかった。 

  他 に も 、 細 か い と こ ろで は 塗 装 の 問 題 が あ る 。 千 巻 は つ や の あ る 薄 い 塗 膜 で 仕 上 げ ているが、つやがあると高級感がなくなり表面の歪みも強調されてしまうことがある。

つ や 消 しで 仕 上 げ る 方 が 木 の 温 か さ や 柔 ら か さ が 出 て 高 級 感 が あ る 。 ま た 塗 膜 が 薄 い と 剥 が れ の 原 因 と な り 耐 久 性 や 耐 水 性 が 弱 ま って し ま う 。 骨 董 屋 な ど で 売 ら れて い る 古 い 千 巻 や 高 山 市 民 の 方 が 日 常 使 用 して い

る 千 巻 を 見 る と 、 巻 き 目 に 沿 って 割 れ ( 伱 間 ) が 発 生 して い た り 、 摩 擦 に よ って 塗 装 が剥げて木地が擦れていたりした(図18)。

色 味 に 関 して も 、 グ リ ー ン や ピ ンク な ど で 濃 く 染 色 さ れ た も の は 玩 具 や 廉 価 品 の よ う になってしまい現代にはそぐわない。 

  こ れ ら の こ と が 重 な って 最 終 的 に は 経 営 的 に 立 ち ゆ か な く な り 、 千 巻 の 生 産 は 終 了 して し ま っ た 。 現 在 ま だ 製 品 が 出 回 って は い る も の の 、 千 巻 の 認 知 率 が 高 い 年 齢 層 が 5 0 代 以 上 で あ る こ とを 考 え れ ば 、 あ と 数 十 年 も し な い う ち に 千 巻 は い よ い よ 忘 れ 去 ら れ、本当に消えてしまうかもしれない。 

図18 塗装の剥げや割れが発生した千巻

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⑶ブナコアンケート調査の結果 

  若 者 を 中 心 と し た ブ ナ コ の 認 知 度 、 憧 憬 度 、 満 足 度 な ど を 知 る た め 、 弘 前 大 学 生 に 向 け て ア ンケ ー ト 調 査 を 行 な っ た 。 回 収 で き た ア ンケ ー ト は 2 0 0 名 分 あ り 、 う ち 、 ブ ナ コ を 知 ら な い と 回 答 し た の は 1 6 3 名 ( 8 1 . 5 % ) に も 登 っ た 。 名 前 は 知 って い る 、 見 た こ と が あ る 、 持 って い る と 回 答 し た の は 3 7 名 ( 1 8 . 5 % ) し か お らず、 認 知 度 に 関 し て は あ ま り 高 く な い こ と が わ か っ た 。 ま た 、 ブ ナ コ を 持 って い る と 回 答 し た の は た っ た3名で、その中に弘前出身の人はおらず、親が購入したため持っているという声もあっ た 。 価 格 、 品 質 、 デ ザイ ン に つ いて も 5 段 階 評 価 で 質 問 を し た 。 名 前 は 知 って い る 、 見 たことがあるに回答をした人は、価格についてはわからないと回答している人が多かっ た 。 ブ ナ コ の 直 営 シ ョ ール ー ム B L E S S や 西 目 屋 工 場 に つ いて は 、 6 割 以 上 が 存 在 を 知 ら な い と 回 答 し 、 製 品 自 体 は 知 って いて も 販 売 場 所 や 製 造 場 所 の 認 知 度 も 低 い こ と が わかった。 

  総 括 と して は 、 ブ ナ コ に 対 しての 関 心 や 憧 憬 が 若 者 は あ ま り 高 く な い 。 現 在 流 行 し て い る 手 芸 や 簡 易 的 な ク ラ フ ト、 D . I . Y.19な ど と は 違 い 、 ブ ナ コ は 高 級 品 で あ り 若 者 の ア ン テ ナ に は な か な か 引 っ か か ら な い 。 そ も そ も 、 ブ ナ コ 自 体 が 若 者 を タ ー ゲ ッ ト に は して い な い の で 当 然 の 結 果 で は あ る の だ が 、 弘 前 で 生 み 出 さ れ た ク ラ フ ト 製 品 を 当 地 の 市 民 が 認 知 して な い の は 少 し 虚 し い 。 最 近 で は 学 校 の 授 業 で ブ ナ コ が 取 り 上 げ ら れ る ケ ース も 多 く な っ た よ う だ が 、 そ う い っ た こ と も 含 め 知 名 度 は 上 げ て い く 必 要 があると考える。 

第5章 ブナコのデザインについての検討 

⑴フロアーランプのデザイン 

  巻 胎 技 法 の 大 き な 特 徴 で あ る 、 材 料 を 無 駄 に す る こ と な く 原 木 の 直 径 以 上 の も の も デ ザイ ン で き る と い う 点 を 生 か し 、 大 型 イ ン テ リ ア の 仮 想 デ ザイ ン を 試 み る 。 3 D C G 制 作 ソ フ ト 「 S h a d e 3 D 」 を 使 用 し 、 フ ロ アー ラ ン プ を 制 作 す る ( 図 1 9 , 2 0 ) 。 現 在 製 品 化 さ れて い る ブ ナ コ の ラ ン プ は 、 ペ ンダ ン ト ラ ン プ、 テ ーブル ラ ン プ、 フ ロ アー ラ ン プ、 ウ ォ ール ラ ン プ な どの 種 類 が あ る 。 フ ロ アー ラ ン プ は す で に 様 々 な デ ザイ ン の も の が あ る が 、 傘 ( シェー ド ) 部 分 の み が ブ ナ コ で 作 ら れ 、 ス タ ン ド 部 分 は ス チ ール 製 に な って い る も の が ほ と ん ど で あ る 。 そ の た め 今 回 は 製 品 全 体 が ブ ナ コ で 構 成 さ れ た フロアーランプをデザインする。 

 まずはベクターイメージ編集ソフト「Adobe  Illustrator  CC」にてフロアーランプ の フ ォルム ( 横 か ら 見 た と き の シル エ ッ ト ) を パス で 作 成 す る 。 そ の 後 3 D C G 制 作 ソ フ ト 「 S h a d e 3 D 」 に そ の デー タ を イ ン ポ ー ト し 、 曲 線 形 状 な ど を 3 D 上 で 再 現 して い く 。 「 S h a d e 3 D 」 で の モ デ リ ング 方 法 は 、 実 際 の ブ ナ コ を 制 作 す る と き と 同 じ よ う に つ くって い く 。 ま ず は 芯 材 と な る 底 板 を つ く り 、 そ の 周 り に 厚 さ 1 ミ リ 、 幅 2 セ ン チ の テープを巻いていく。次に「Adobe  Illustrator  CC」で作成したパスの曲線をなぞる  Do It Yourself の略。しろうとが自分で何かを作ったり、修繕したりすること。日曜大工。

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(19)

よ う に テ ープ を 少 しず つ 上 に ずら し 、 形 を つ くって い く 。 そ う して で き た パ ーツ を 組 み 合わせ、ライティングを調整すれば完成である。 

  今 回 は 直 径 6 0 セ ン チ、 高 さ 1 8 0 セ ン チ を 想 定 し た フ ロ アー ラ ン プ を 作 成 し た 。 全 体 を ブ ナ コ で 構 成 し 、 か つ 巻 胎 技 法 の 特 性 や 千 巻 の 継 ぎ 挽 き のよ う な 表 現 を 取 り 入 れ る た め 、 モ ダ ン で は な く ア ン ティ ー ク 感 の あ る デ ザイ ン に 挑 戦 し た 。 ま た ブ ナ コ ラ ン プ の 特 徴 で あ る 赤 み を 帯 び た 光 を 多 く 取 り 入 れ る た め 3 か 所 に ブ ナ の 薄 板 ( 単 板 ) を 配 置 した。上からは光と熱が抜けるようになっている。 

⑵バッグのデザイン 

  バ ッ グ は 耐 久 性 の 課 題 が あ る た め 現 時 点 で は 製 品 化 に 至 って い な い 。 過 去 に 行 わ れ た試作では2枚貝をイメージしたミノディエールバッグ(クラッチバッグ)があるので、

今 回 は 別 の 種 類 の も の を 制 作 す る 。 通 常 の 木 製 バ ッ グ の 場 合 、 蝶 番 と 口 金 の 取 り 付 け 方 や デ ザイ ン の 構 造 に よって、 課 題 で あ る 耐 久 性 を ク リ ア す る の が 非 常 に 難 し い 。 そ こ で、 耐 久 性 の 課 題 を あ えて 避 け る た め に 、 か ご 巾 着 を 選 択 し た 。 か ごの 素 材 は 、 一 般 的 に は 籐 ( ラ タ ン ) 、 竹 ( バ ン ブー ) 、 麦 ( ス ト ロ ー ) 、 麻 ( ジュー ト ) な ど が 使 わ れ る が 、 そ れ を ブ ナ コ で 代 用 し よ う と い う 試 み で あ る 。 か ご 巾 着 で あ れ ば 、 持 ち 手 や 金 具 の 取 り 付 け を 考 える 必 要 が な く 、 軽 く て 丈 夫 と い う か ご に も 共 通 す る 特 徴 を 生 かすこ と が で き る 。 巾 着 部 分 を 青 森 県 の 伝 統 工 芸 ・ こ ぎん 刺 しで 作 り 、 青 森 色 を 打 ち 出 し た 試 作 品 を 2 点 制 作 し た ( 図 2 1 , 2 2 ) 。 こ ぎん 刺 し の 模 様 は ブ ナ コ の ナ チ ュラル さに合わせるため、あえて伝統模様ではなくモダンな模様を選択した。 

  制 作 の 際 に は 、 ブ ナ コ の 「 製 法 と 見 た 目 が リ ンク す る 」 と い う 特 性 を 念 頭 に 置 き 、 なるべく余計な工程が増えないこと、どこから見ても綺麗に仕上げることに注力した。

ま ず は 縦 2 0 セ ン チ、 横 4 0 セ ン チ の こ ぎん 生 地 に 模 様 を 刺 し 、 裏 地 の 布 と 合 わ せ て 円 筒 形 に 縫 い 合 わ せる 。 通 常 は マ チ を 作 って 底 を 縫 う が 、 ブ ナ コ の 縁 と 接 着 す る た め あ え て 縫 わ な いで お く 。 そ して 生 地 の 大 き さ に 合 わ せ て ブ ナ コ を 巻 き 上 げ、 研 ぎ と 塗 装 を 行 う 。 生 地 を 裏 返 し の 状 態 で ブ ナ コ の 縁 に 接 着 して、 乾 いて か ら 生 地 を 返 す と か ご 巾

図19 ブナコ フロアーランプ 図20 「Shade3D」によるモデリング

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着 の 完 成 と な る 。 こ の 作 り 方 で あ れ ば 、 ブ ナ コ は ごく 普 通 の 器 を つ く る 要 領 と 同 じ で よく、巾着は縫うのが簡単で、また接着も単純である。 

⑶猫ちぐらのデザイン 

  もう ひ と つ、 新 し い 分 野 と して ペ ッ ト 用 イ ン テ リ ア を 提 案 す る 。 国 内 で は 家 具 メ ー カーによるペット用のソファやベッド、職人の手作りによるペット用品などが流行し、

ペ ッ ト を 家 族 と み な し ペ ッ ト に お 金 を か け る こ と へ の 抵 抗 が 少 な く な って き て い る 傾 向 が あ る 。 ブ ナ コ を 購 入 す る 客 層 を 考 え れ ば 、 ブ ナ コ の ペ ッ ト 用 イ ン テ リ ア は 可 能 性 が あ る と 考 え た 。 猫 ち ぐら と は 新 潟 県 で 古 く か ら 作 ら れて い る 民 芸 品 で、 ち ぐら と は 方 言 で 「 ゆ り か ご 」 を 意 味 して い る 。 わ らで 編 んで い る の で 冬 は 暖 か く 夏 は 通 気 性 が い い と い う 利 点 は あ る が 、 湿 気 に 弱 く 手 入 れ が 必 要 で あ る 。 ブ ナ コ で あ れ ば 、 手 入 れ がほとんど必要ない上に猫が籠りやすいフォルムを作ることができる(図23)。 

  制 作 方 法 は 、 ま ず 1 0 セ ン チ と 1 5 セ ン チ の 底 板 を 用 意 し 、 ど ち ら も 3 0 セ ン チ の 大 き さ に な る ま で 巻 き 上 げ る 。 1 0 セ ン チ の 底 板 に 巻 い た 方 は 通 常 通 り に 立 ち 上 げ、 1 5 セ ン チ の 底 板 に 巻 い た 方 は 、 底 板 を 抜 いて ドー ナ ツ状にしてから立ち上げる。それぞれ接着、

パ テ 埋 め 、 ヤ ス リ が け、 内 側 の 塗 装 が 済 ん だ ら 2 つ を 合 わ せ てつ な ぎ 目 に テ ープ を 1 周 巻き、外側全体に塗装をかけて完成となる。

こ の 試 作 で は ブ ナ コ の 特 性 で あ る 非 対 称 や ひ ね り の 形 状 を 表 し 、 2 つ の ブ ナ コ を 組 み 合 わ せ て 、 猫 が 丸 く な って 籠 り や す い よ う な形状を考え制作を行った。 

図21 ブナコ巾着 オレンジ 図22 ブナコ巾着 グリーン

図23 ブナコ 猫ちぐら

参照

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