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管理会計研究における戦略の位置づけ

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1.は じ め に

戦略と管理会計に関連する研究が注目を集めるようになって久しい。多く の研究がなされている一方で,その中で使われている戦略という言葉の定義 は研究者によって異なっている。そもそも戦略という言葉自体が非常に多様 な側面を持っているため,管理会計研究に導入しようとすると,その研究ト ピックに合わせて最適な形で解釈され研究に当てはめられている。個別の研 究においては,戦略の位置づけをそれぞれ定義することにより明らかになる 事象があるとすればやむを得ない場合もあるだろう。しかし近年登場してき た戦略に対する管理会計の影響,すなわち戦略形成や戦略化における管理会 計の役割の研究による知見を整理しようとすると,各研究の戦略の位置づけ の違いが問題となってくる。そこでこれまでの研究の流れの中で戦略がどの ように位置づけられているかを検討し,最新の研究課題である戦略に対する 管理会計の影響についての知見を整理するための分類枠組みを提示するのが

管理会計研究における戦略の位置づけ

篠 原 巨 司 馬

目 次 1.はじめに

2.戦略と管理会計の関係に関する研究の流れ 3.戦略管理会計の研究アプローチ

4.戦略内容アプローチにおける戦略と管理会計の位置づけ 5.戦略プロセスアプローチにおける戦略と管理会計の位置づけ 6.管理会計研究における戦略の位置づけ

7.終わりに

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本稿の目的である。そのためにChenhall(2005)が提唱した戦略内容アプ ローチと戦略プロセスアプローチの二分類を検討する。しかしながらChenhall はその中で「全社レベル,事業単位レベル,職能レベル,ネットワークレベ ルといった多くのレベルで戦略を理解しようとする際には,戦略内容アプ ローチと戦略プロセスアプローチとの両方を適用すべき」(Chenhall 2005 p.17)としているが,両方のアプローチを適用すれば明らかになる事象があ るとして研究課題を提示しているにとどまっている。そこで,戦略内容アプ ローチと戦略プロセスアプローチについて検討し,両者の関係性を整理する こと両者をいかに統合的に用いていくかについて考察するとともに,既存研 究の分類枠組みを導出したい1)

そこで次節以降ではまず戦略と管理会計の研究の大きな流れを把握するた めにどのような研究が行われてきたかいくつかの研究の流れについて説明す る。第3節では,戦略内容アプローチと戦略プロセスアプローチの分類フ レームワークについて検討する。第4節では戦略内容アプローチにおいて,

戦略とMCSとがどのような位置づけになっているかについて考察し,第5 節では戦略プロセスアプローチにおいて同様に考察する。第6節でフレーム ワークの考察をおこない,第7節でむすびとする。

2.戦略と管理会計の関係に関する研究の流れ

戦略と管理会計の関係については,伝統的にAnthonyの経営管理のフレー ムワークに従って理解されてきた。Anthonyのフレームワークによると戦略 的計画設定,マネジメント・コントロール,現業統制というように経営管理 の階層構造の中で管理会計の機能をそれぞれ理解してきた。戦略的計画設定

1)ここで戦略の位置づけという言葉を使っているのは,単純に戦略の内容や戦略 の定義から分類するのではなく,組織の体系の中で戦略がどのように位置づけら れ語られているのかという点に注目するからである。

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とは「組織の諸目標およびこれらの目標を達成するための戦略を決定するプ ロセス」(Anthony 1988, p.10)とされ戦略の決定までも含んだ概念とされて いる2)。マネジメント・コントロールとは「管理者たちが組織の戦略を実施 するために組織の他のメンバーに影響を与えるプロセス」(p.31)とされて いる。従来の管理会計研究は,企業内部の効率性を向上するために計画と統 制に焦点を当てたものであり(cf.小林(哲)1999,清水2001.etc.),あらか じめ決められた戦略の上で管理会計がいかに効率性を生み出すかが問題で あった。このことから,戦略と管理会計とは別々に捉えられていたとも言い 換えることができるだろう。

1980年頃から,より戦略を意識した研究が登場してきた。それは戦略管 理会計論と呼ばれる領域であり,そこでは管理会計が戦略の策定に役立つ 情報の提供をしなくてはならないという発想から研究が進められた。例えば

Simmonds(1981)は競合他社など企業外部の管理会計情報を提供にすること

により競争優位を生み出すというような議論をし,Bromwich(1990)は企業 外部の情報に顧客満足を組み込んだ議論をした。またShank & Govindarajan

(1993)は,Porter(1980)の産業組織論に基づく戦略論を参考に価値連鎖分 析,戦略的ポジショニング,戦略的コスト分析の三つの手法からなる戦略的 コストマネジメント論を展開した。さらにこれらの派生として活動基準原価 計算の発展系である活動基準原価管理などの研究が登場した(cf. Anderson 2007)。

もう1つの研究の流れとしてKaplan & Nortonは非財務情報と財務情報を 統合的に用いるための技法としてバランスド・スコアカード(BSC)を提唱 した。業績評価技法として登場したBSCは,戦略マップなどの追加的なツー ルと組み合わさり,戦略マネジメントシステムとして利用可能だと主張され

2) 1965年当初,戦略的計画設定には,戦略を策定すること自体は含まれていなかっ

たが研究の進展に伴い戦略の策定も含まれるようになった(Anthony 1988)。

管理会計研究における戦略の位置づけ(篠原) −293−

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るようになった(Kaplan & Norton 1996, 2004)。このBSCの登場によって BSCの利用に関する研究が多くなされるようになった。必然的に,管理会 計と戦略との関係を前提とし分析フレームワークが組まれることになった。

安酸他(2010)は,BSCの戦略マネジメントの特徴として「戦略の明確化 プロセス」,「戦略の伝達・共有化プロセス」,「戦略実行のコントロール・プ ロセス」,「戦略実行のフィードバック・プロセス」の4つがあるとし,戦略 の展開が持つ意味を考察し,それぞれどのような研究が行われているかにつ いて整理している3)

以上のように管理会計をツールとして捉えると,戦略と管理会計との接続 をするような研究が発展してきたことがわかる。戦略管理会計論の萌芽期の 研究は戦略の策定にいかに有用な管理会計情報を得るかという大きなテーマ であり,BSC登場以降の研究は戦略を管理会計制度にどのように展開して いくかという大きなテーマが設定され研究されていると捉えることができる。

第3節では,このような流れにおいて戦略と管理会計との関係の研究フレー ムワークがどのように捉えられてきたかについてChenhallによる分類枠組 みを参考に検討する。

3.戦略管理会計の研究アプローチ

戦略と管理会計の関係に関する研究の分類については,Chenhall(2005)

の分類アプローチが現状を理解するために役に立つ。Chenhallは戦略内容ア プローチと戦略プロセスアプローチの二つの方向性があると分類している。

戦略内容アプローチによると,戦略は,戦略策定,戦略分析,そして戦略実 行という論理的で直線的なプロセスをたどるとされ,理想的な戦略や戦略の

3)安酸他(2010)は,この4つの特徴に加え「BSCの利用と業績の関係」を含め 5つの視点からどのようなBSC研究がなされているかレビューをおこなってい る。

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最適な組み合わせを提示するとし,「最適な組織業績へと導く戦略とは何か,

あるいは何であるべきか,といった戦略の内容を明らかにすることを意図し ている」(Chenhall2005 訳書p.15)と述べている。また「戦略の内容は,

組織が競争できる効果的なポジショニングを提示したり,その組織の環境内 にある資源への効果的なアクセスを提示すること」とされている。したがっ て,戦略内容アプローチの研究は計画設定学派を参照しており,「戦略の策 定,実行の諸方法が適切であるかをある一定時点で判断するものもあれば,

戦略の変化を管理する理想的な方法を啓示的に明らかにすることに注目する もの」(p.17)などが挙げられている。またこの戦略内容アプローチは,「諸 個人は合理的に行動するもの」であり,「特定の状況に適する戦略を確定で きる」といった前提が置かれているとされている(p15)。

一方戦略プロセスアプローチは「戦略的ポジション,資源,および成果の 間の動的な関係とは何か」あるいは,「戦略はどのように形成されるのか,

もしくは形成されるべきなのか」,「戦略プロセスに関与しているのは誰であ り,個性の違いはどのように影響を与えるのか」,「戦略の変化を引き起こす ものは何であり,そのプロセスに関係しているものは何か」,「望ましい戦略 が識別されている場合,どのようなプロセスが生じてその戦略に悪影響を及 ぼしてしまうのか」といった疑問を取り扱うものだとしている(p16)。言 い換えると,戦略プロセスアプローチは,「諸個人が戦略的課題に関する意 思決定をどのように行うかに注目する」(p.31)アプローチである。そこで のマネジメント・コントロール・システムは,「組織において戦略がどのよ うに展開されたかを理解し,実現された戦略と意図された戦略をどのように 比較するかという問題の検討に役立つ」(p32)とされている。つまり戦略 プロセスアプローチというのは,戦略が管理会計を通して,誰によって,ど のように戦略が実行されているのかという点に注目し,戦略の実現や創発と いった漸進的な変化のプロセスの中での管理会計の役割やメカニズムを明ら 管理会計研究における戦略の位置づけ(篠原) −295−

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かにする研究だと言える。ここでは,「諸個人には限定合理性と呼ばれる認 知的限界がある」(p.31)という前提に立つため,やや乱暴に言ってしまえ ば同じ戦略,同じシステムを採用していたとしても,関係している人の違い を始め様々な影響のもと違う結果が得られると考えるのである。

合理的なプロセスを前提とし,戦略やシステムの内容に注目する戦略内容 アプローチと,システムや戦略は漸進的に変化していくものという前提を置 き,プロセスに注目する戦略プロセスアプローチとに区別するChenhall 議論を簡単に整理した。Chenhallが述べたように,両アプローチを組み合わ せて用いるためには,両者の関係性をもう少し明確にする必要がある。そこ で次節以降では,各アプローチにおいて戦略と管理会計がどのように位置づ けられてきたかについて考察を行いたい。まず第4節では戦略内容アプロー チに分類されている研究について考察し,第5節では戦略プロセスアプロー チに分類される研究について考察する。

4.戦略内容アプローチにおける戦略と管理会計の位置づけ

戦略内容アプローチには,アウトサイド・インの視点とインサイド・アウ トの視点があるとされている。アウトサイド・インの視点は,「外部環境の 性質およびその脅威と機会への洞察を提供」(Chenhall 2005 p.18)するもの であり,Porter(1980)のモデルによる「差別化」や「コストリーダーシッ プ」といった戦略の属性やMiles and Snow(1978)の類型を使って,それぞ れの属性や類型ごとにどのような管理会計が適合的かを明らかにするような 研究に重要な枠組みをもたらしていた。例えばChenhallは,Govindarajan

(1988)やMiller and Friesen(1982),Gupta and Govindarajan(1984)などを 挙げている。これらの研究は,戦略の内容が管理会計にどのような影響を及 ぼしうるかを検討しているものであり,外部環境によって導出される戦略と 管理会計と業績の関係を調べることで戦略と管理会計の最適な関係性を導き

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だすことを目的とした研究である。またそこから発展的に,ある戦略類型や 属性のもと,管理会計がどのような使われ方をしているかを調査しているよ うな研究も挙げられている。また「戦略的対応を構成しているより具体的な 要素を検証しよう」(p.20)という近年の戦略論者の考え方を参考にして,

戦略の一般的な属性が具体化された優先項目とMCSとの関係を見いだそう とする研究も出てきているとしている。いずれにせよ,外部環境との関係性 の中で捉えられた戦略の類型や属性,あるいはその具体的な要素が管理会計 にどのように影響を与えているかを研究するという意味で戦略的視点が導入 されていたのである。

一方で,インサイド・アウトの視点はBarney(1991)などのリソースベー ストビュー(RBV)学派の戦略観に従ったもので,「競争優位は組織の内部 的な強みから生まれる」としている。Barneyは企業の競争優位の分析をす る際,「経営資源の異質性」と,「経営資源の固着性」を前提にする,リソー スベースドの戦略観を提唱している。Barneyによると企業が保有する経営 資源とは財務資本,物的資本,人的資本,組織資本に分類される。これらの 資源について,他企業とは異なる資源を活用することが同じ戦略を採る競合 企業に対する競争優位になるという概念である。この視点を用いた管理会計 研究によって有形資産の報告や管理の方法については構築されている一方で,

無形資産については新しい課題が多く提示されているとChenhallは述べて いる(pp.27‐28)。言い換えると内部資源という特異性という競争優位をも たらすものを明らかにするための会計や,競争優位を生み出すための仕組み をいかに構築するのかを明らかにするような研究がこの領域に分類されてい る。そしてその研究関心は有形資産から無形資産あるいは形式値から暗黙知 へと移ってきているようである。他にも,この領域の研究として知的資本管 理の開発や組織の変化に対する戦略の影響などが挙げられている。しかしこ のインサイド・アウトの視点は戦略そのものよりも組織の内部資源に焦点を 管理会計研究における戦略の位置づけ(篠原) −297−

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当てているために,どのような資源であれば特異で戦略的なのかというのは 別途定義する必要がある。そしてその線引きはその業界やポジショニングな どの企業が置かれた状況によって変わると考えられる。すなわち,その研究 の対象によって戦略の位置づけが変わるために,インサイド・アウトの視点 を用いた研究によって得られた知見をうまく整理するには,概念整理を練り 直す必要があると思われる。

戦略内容アプローチは,従来の戦略論の概念を援用したアウトサイド・イ ンの視点,RBVを援用したインサイド・アウトの視点に分類されていた。

アウトサイド・インの視点による研究は外部環境への対応としての戦略の属 性や類型が管理会計を通してどのように業績に影響を与えるかということに 焦点があたっていた。一方アウトサイド・インの視点では,戦略よりもむし ろ競争優位をもたらす内部資源に焦点をあて,内部資源の特異性と管理会計 との関係を明らかにする研究が行われている。以上のことから,戦略内容ア プローチを再定義すると,視点は違えども特定の状況のもとで特定の戦略と 管理会計あるいはMCSなどの仕組みとの関係性に焦点を当てる見方である と言える。

しかし,このアプローチで分類しようとすると1つ大きな問題があること もわかった。アウトサイド・インの視点で扱われる戦略は外部環境に対応す る類型という概念だったが,インサイド・アウトの視点では内部資源の獲得 までも戦略に含めて考えている。内部資源というのは先述したとおり,財務 資本,物的資本,人的資本,組織資本である。この内部資源という視点を管 理会計研究に応用しようとする場合,概念の重複が起きてしまう。それは,

管理会計やMCSあるいはその使用方法が内部資源に含まれてしまうという ことである。戦略と管理会計との関係を考えたときに管理会計が内部資源に 含まれてしまっているために,戦略的な管理会計とは何かという問題が出て くる。実際Chenhall(2005)も,競争優位を維持するために組織の持続的な

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変化が要求されるが,その「変化が『戦略的』であるとはどういうことか」

を明らかにする必要があると指摘し,「戦略の意味がいくぶん捉えにくい」

(p.29)と述べている。

5.戦略プロセスアプローチにおける戦略と管理会計の位置づけ

戦略内容アプローチは特定の状況下での戦略と管理会計との関係に焦点を あてた研究の分類であったが,戦略プロセスアプローチは,「諸個人が戦略 的課題に関する意思決定をどのように行うかに注目する」(p31)ものであ る。このアプローチはMintzberg(1987)が指摘したような創発的な戦略プ ロセスを前提にしている。それは「戦略形成のプロセスはもっぱら前例なき ものであり,進行中の諸活動から体系的でないアイデアが創発」されてくる という想定である。この想定にたてば管理会計のような公式的なコントロー ルはむしろ阻害要因となる可能性もある。しかしSimons(1987)の研究が 示したように,公式的なコントロールがむしろイノベーションを生む場合も ある。特にこのSimonsの発見以降,公式的なコントロールのプロセスの中 でどのように戦略的な変化やイノベーションが起きるのかに関する研究が行 われるようになってきた。

Chenhallは戦略プロセスアプローチに依拠した研究として,公式的な計画

がコミュニケーション・プロセスに与える影響の研究(Simons 1990, Chen- hall and Morris 1995, Chapman 1998, Malina and Selto 2001)公式的なシステ ムやその双方向型の利用方法が戦略的な変化に対してどのような影響を与え るかに関する研究(Dent 1991, Knight and Willmott 1993, Miller and O’Leary 1997, Mouritsen 1999, Bisbe and Otley 2004, Abernathy and Brownell 1999, Ahrens and Chapman 2004)などを挙げている。

以下ではそれぞれの研究について戦略の位置づけを考えるために,Mintzberg

(1998)の提唱した戦略の5P(プラン,パースペクティブ,ポジション,パ 管理会計研究における戦略の位置づけ(篠原) −299−

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ターン,プロイ)の分類から考察する。まずコミュニケーション機能につい ての研究では戦略を策定,実行する際にMCSがどのように利用されていた かに焦点を当てている。この研究は公式的な計画を前提としてそれが如何に 戦略策定に有用な情報や不確実性の共有を助けるかという部分に問題意識を 持っている。例えばMalina and Selto(2001)は,BSCの利用の分析の中で 公式的な戦略とMCSの利用が揃っているかどうかに注目している。戦略を 公式的なシステムの中で捉えているという意味ではプランとしての戦略を前 提としていると考えられる。次に戦略的変化への影響についての研究では戦 略的変化の中で組織文化や組織構成員の行動特性の変化へどのようにMCS が影響を与えているかそのメカニズムに焦点をあてている。この研究では戦 略をプランとして捉えるのではなくパースペクティブやパターンとして捉え ている。このようにMintzbergの5つのPという大分類でさえもどう捉える かはその研究毎に違うことがわかる。

戦略プロセスアプローチの研究は,戦略とMCS,諸個人の行動との相互 作用を捉えることができるために,その個別具体的なメカニズムを考察する には優れた視点である。しかし戦略プロセスアプローチではプロセスに注目 するが故に,戦略の位置づけ自体は問題にしていない。したがって戦略の位 置づけが研究ごとに異なってしまうため,各研究の貢献を戦略と管理会計の 関係という側面から整理しようとした場合にきれいに整理をつけられていな いという問題がある。

以上のように第4節と第5節では,戦略内容アプローチと戦略プロセスア プローチそれぞれに依拠した研究での戦略の位置づけを整理した。戦略内容 アプローチでは合理的なプロセスを前提とし特定の戦略のもとで有用なシス テムが明らかにされてきた。そこでは戦略の内容自体が重要であった。一方,

戦略プロセスアプローチでは戦略が実行あるいは形成されるプロセスを対象 にし,個別の組織構成員の行動とMCSと戦略との関係がどのようなメカニ ズムで動いているかを明らかにしようとしてきた。戦略の位置づけは問題と

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ならず各研究によって意義が違う。戦略と管理会計の関係で何がわかってお り,何が課題として残っているのかについて整理するためにはこれらの研究 間の関係性を明確にした上で分類整理する必要がある。つまり両者のアプ ローチで異なる戦略の位置づけを統合的に捉えることができるようなフレー ムワークを構築する必要がある。そこで次節では両者のアプローチの橋渡し をするための枠組みの検討を行う。

6.管理会計研究における戦略の位置づけ

戦略内容アプローチと戦略プロセスアプローチの関係

ここまで述べてきた戦略内容アプローチと戦略プロセスアプローチを一枚 の概念図に落とし込んでみると図1のようになる。図1では議論を簡略化す るために戦略とMCSと行動の3つの要素のみを取り出している。戦略内容 アプローチは戦略内容,管理会計技法/MCS,そして行動そのものに焦点 を当てる研究であった。戦略内容アプローチは戦略論の計画設定学派の考え 方に添ったもので環境分析(アウトサイド・イン),自社分析(インサイド・

アウト)から戦略を導出し,それを具体的な計画に展開していくモデルに 従っている。そのモデルの中で,各要素の内容(図1における戦略,MCS,

行動)を特定し,各要素の因果関係を明らかにしようとする研究である。ま た戦略プロセスアプローチは影響のプロセスに焦点を当てる研究であるので,

図の矢印を研究しているものだと言える。戦略プロセスアプローチによる管 理会計研究は,戦略的計画設定→マネジメント・コントロール→現業統制と いう直線的な展開プロセスをベースにした管理会計と戦略の関係や最適な ツールセッティングの研究ではなく,戦略的計画設定プロセスやマネジメン ト・コントロールへの展開プロセスによって諸個人にどのような影響を与え るか,あるいは諸個人の行動がシステムを通してどのように組織にフィード バックされて戦略に影響を与えるかを明らかにするような研究であった。

管理会計研究における戦略の位置づけ(篠原) −301−

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戦略内容アプローチ

        戦略

●パースペクティブとしての戦略か?

●プランとしての戦略か?

●ポジションとしての戦略か?

●パターンとしての戦略か?

管理会計技法 行動

/MCS

戦略プロセスアプローチ

戦略内容アプローチと戦略プロセスアプローチを組み合わせるために 言い換えてみると,戦略プロセスアプローチは仕組みそのものの合理的な メカニズムの理解と現実に起こっている限定合理的なメカニズムの間に生じ るギャップを研究するものである。このような想定においてプロセスを明ら かにするには,戦略そのものの意義やシステムそれ自体を特定する必要があ る。したがってChenhall(2005)が言うように戦略内容アプローチと戦略プ ロセスアプローチを組み合わせる必要があるというのは当然のことであり,

むしろ戦略内容アプローチで足りない部分を補うのが戦略プロセスアプロー チだと言えるだろう。つまり両アプローチを組み合わせることで合理的なメ カニズムと実際のプロセスとのギャップを見ることで動的で複雑な戦略形 成・実行の現実を理解していくことが可能となるのである。

その上で,従来の戦略 →MCSという展開の方向性を前提とした研究から,

近年の戦略プロセスアプローチの進展によって登場してきたMCS→ 戦略と いう影響の方向性に関する研究を踏まえ戦略と管理会計の関係に関する知見 を整理していく必要がある。この新しい側面に関する研究を体系化していく

図1:戦略と管理会計に関する研究の概念図

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ためには,影響を受ける側である戦略を明確に位置づける必要がある。MCS のプロセスが戦略に影響を与えるとしたときに,その影響が戦略的な計画の 変更に影響を与えているのか,それとも文化や組織構成員の行動特性といっ たパースペクティブに影響を与えているのか,あるいは結果としてのパター ンを形成していたのか,戦略の位置づけによってその意味が大幅に変わって くるからである。そのために,ここまで見てきたように管理会計研究におけ る戦略の位置づけから管理会計研究で扱う戦略を分類する。既に述べたよう に従来からのプランとしての戦略4)と捉える立場と,文化や組織構成員の行 動様式などを含めた戦略や組織的な戦略の特徴などを想定した立場が登場し てきたことを踏まえ戦略をMintzberg(1998)が分類した5つのPの中から プラン,パースペクティブ,ポジション,パターンに分類し管理会計研究を 位置づける5)

そこで図1を参考にMCSが戦略に与える影響について研究の分類をする ならば以下の分類が考えられる。

!MCS実行プロセスによる戦略パースペクティブの変化研究

!MCS実行プロセスによる戦略プランの変化研究

!MCS実行プロセスによる戦略パターンの生成研究

また,それぞれの研究はMCSのメカニズムに焦点を当てるもの,組織構 成員の行動に焦点を当てるもの,あるいはその両方に焦点をあてるものに分 けることができるだろう。両者を組み合わせた研究として近年詳細なケース スタディに基づいた研究が増えている。例えば戦略を財務,非財務指標に展 開していき個々人の行動計画まで展開するBSC(Kaplan and Norton 2004)

4)管理会計の伝統的なフレームワークであるAntonyの戦略的計画,マネジメン ト・コントロール,現業統制という視点を想定している

5)もう一つのプロイに関しては競争相手の裏をかくという計略をさしているが,

マネジメントという観点からするとプランやパースペクティブに含めて考えるこ とができるため省いた。

管理会計研究における戦略の位置づけ(篠原) −303−

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や戦略を予算と行動計画のセットとして個々人まで展開する戦略目標管理制 度(上總他 2008,篠原 2009)に関連する研究が挙げられる。上總他(2008)

では,プランとしての戦略にしたがって,具体的な計画を展開し実行する中 で,PDCAサイクルがプランとしての戦略へ影響を与え次年度の戦略の微調 整が行われている事例を描いている。

7.終 わ り に

以上,本稿ではChenhall(2005)の研究分類を足がかりに,戦略内容アプ ローチと戦略プロセスアプローチとを同時に適用するための足がかりを示し,

各アプローチの戦略の位置づけを考察することで戦略に影響を与える管理会 計の研究がどのようにマッピングできるかについての分類枠組みを提示した。

戦略の位置づけは複雑になっており,戦略の意味も幅が広くなってきている ため,本稿で整理したようにその研究に置ける戦略が組織の制度上どこに位 置づけられるかについて検討した上で,研究を評価する必要があるだろう。

本稿では,管理会計がどんな戦略の側面に影響を与えているのかを整理する ため戦略の分類にMintzbergの5つのPを適用することを提案した。今後の 課題として個別の研究についてこの枠組みに基づき位置づけていく必要が ある。

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参照

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