《論説》
仲裁判断と確定判決の異同について
中 村 達 也
1.はじめに
仲裁は、訴訟に代替する紛争解決手続であり、仲裁法 14 条 1 項により、
仲裁合意の対象となる紛争について訴えが提起されたときは、裁判所は、被 告の申立てにより、仲裁合意が当事者間に有効に存在している限り、訴えを 却下する。その結果、かかる紛争は仲裁により終局的に解決されることにな り、同 45 条 1 項本文により、紛争を解決する仲裁廷の判断すなわち仲裁判 断には、確定判決と同一の効力が与えられている。したがって、訴訟の場合、
本案判決である確定判決が、既判力、執行力、形成力を有するのと同様に、
仲裁判断は、既判力、形成力を有するほか、執行決定と合体して債務名義と なる(民執法 22 条 6 号の 2)1)。
訴訟の場合、本案判決には、請求の全部についてなされる全部判決、その 一部についてなされる一部判決がある。また、訴訟要件の欠缺、たとえば、
国際裁判管轄の不存在を理由として訴えを却下する訴訟判決についても、通 説は、その不存在について既判力を有するとする2)。本案判決以外に、民事訴 訟法上、審理を段階づけ整序することを目的として、訴訟要件の存否、訴え の取下げの効力等、本案判決の内容に影響をもつ実体法上の問題に関しない 訴訟手続に関する争い、いわゆる中間の争いについての判決、訴訟物たる権 利の内容であるその存否とその数額との双方に争いがある場合において審理 を 2 段階に区切って先に権利の存否について審理するときの権利の存否につ 1) 山本=山田・ADR 仲裁 360-362 頁、小島 = 猪股・仲裁 423-439 頁参照。
2) 兼子一ほか『条解 民事訴訟法〔第 2 版〕』(弘文堂、2011)514 頁〔竹下守夫〕。
比較法制研究(国士舘大学)第 42 号(2019)1-23
いての判決、いわゆる原因判決、独立した攻撃防御の方法についての判決の 3つの中間判決が定められている3)。これら中間判決は、当該裁判所自身に対 する自己拘束力が認められるが、既判力などの効力は認められない。これに 対し、仲裁の場合、仲裁廷の判断のうち、確定判決と同一の効力が与えられ、
既判力等の効力を有する仲裁判断とは何か。訴訟の場合と同様に考えること になるのか。
次に、仲裁判断の既判力について、後の仲裁廷、裁判所は、仲裁判断の既 判力ある判断を前提として判断しなければならず、また、当事者は、後の仲 裁手続、訴訟手続において、仲裁判断の既判力ある判断に反する主張、立証 をすることが許されず、仲裁廷、裁判所もまたそのような主張、立証を取り 上げることができないが4)、この仲裁判断の既判力は、確定判決の既判力と異 なるかという問題がある。すなわち、第 1 に、仲裁判断の既判力は、職権調 査事項ではなく抗弁事項であり、当事者の援用を待って初めて斟酌すべきで あり、裁判所は、職権でこれを斟酌してはならないのか。第 2 に、当事者は、
合意によって仲裁判断を解消して、その既判力を消滅させることができるの か。また、仲裁判断の既判力の主観的範囲について、民事訴訟法 115 条が類 推適用されるか、という問題もある。
本稿では、これら仲裁判断と確定判決の異同という基本的問題を取り上げ、
先行研究を参照しつつ若干の考察を試みる。
2.仲裁判断の意義
(1)学説
仲裁法が準拠した UNCITRAL 国際商事仲裁モデル法(以下「モデル法」
という)は仲裁判断を定義していないが5)、仲裁法は、仲裁合意とは、民事上 の紛争の解決を仲裁人に委ね、その判断である仲裁判断に服する旨の合意を 3) 同上 1326-1329 頁〔竹下〕。
4) 小島 = 猪股・仲裁 425 頁参照。
5) 中村・論点 36 頁参照。
いう、と定義しており(2 条 1 項)、この仲裁合意の定義から、仲裁判断は、
当事者から紛争の解決を委ねられた第三者である仲裁人による判断であると 解され、仲裁法の立法担当者も、「仲裁判断とは、解決をゆだねられた紛争 についての仲裁廷による本案(紛争の実体)についての判断を意味する」6)と 説明している。
旧法下において、仲裁判断を定義する規定は置かれていなかったが、その 態様から、終局的仲裁判断と中間的判断とに区分し、終局的仲裁判断には、
本案に入らず仲裁申立てを却下するものと、本案に立ち入ったうえで申立人 の請求を認容するものと棄却するものとがあると整理され、前者は、仲裁判 断ではないとし、他方、本案前の抗弁や前提問題など、審理の途中で問題と なった事項をまず解決し、終局的仲裁判断を準備するためにするものを中間 的判断と整理され、仲裁法の下でも、中間的判断は仲裁判断ではないという 見解が示されている7)。 また、仲裁法は、仲裁手続は仲裁判断により仲裁手 続は終了すると定めていることから(40 条 1 項)、仲裁判断は、概念的には 終局的仲裁判断しかなく、仲裁廷は中間段階で一定の判断をしても、それは 仲裁判断ではないとされる8)。
本案についての終局的仲裁判断については、「数個の請求が申し立てられ ている場合、その全部につき判断する全部仲裁判断と、その一部につき判断 する一部仲裁判断とがありうる。一部仲裁判断も、その一部について仲裁廷 が終局的な判断をするものであるかぎり、仲裁判断であることにはなるが、
法 40 条 1 項 にいう『仲裁判断』とは、仲裁手続を終了させるものでなけれ ばならないから、原則としては、他に判断すべきものが残らない最後の仲裁 判断、すなわち、全部仲裁判断を想定しているものと考えられる。もっとも、
6) 仲裁コンメ 220 頁。
7) 小島=猪股・仲裁 390 頁。理論と実務 327 頁〔近藤昌昭発言〕参照。また、山本
= 山田・ADR 仲裁 356 頁も、「仲裁廷は、もちろん仲裁手続に妥当する準則に従い、
中間段階で一定の判断をすることができると考えられるが、それは仲裁法に定めら れた仲裁判断ではないことになる」という。
8) 山本 = 山田・ADR 仲裁 356 頁。
その一部が可分なものであり、したがって、その一部についての仲裁手続を 終了させるものであるならば、そのかぎりで、『仲裁判断』であることにな ろう」9)といい、一部判決に相当する仲裁廷の判断も仲裁判断になるとされる。
(2)検討
まず、一部仲裁判断については、仲裁法 40 条 1 項は、仲裁判断により仲 裁手続は終了すると定め、この規定に対応するモデル法 32 条 1 項も、終局 的仲裁判断 (final award) により仲裁手続は終了すると定める。モデル法 は、仲裁判断の定義、種類に関し規定を設けることについて審議され、最終 的にはかかる規定は置かれず、32 条 1 項において、終局的仲裁判断(final award)により仲裁手続は終了すると定めたが10)、この作成経緯から、この規 定は、終局的仲裁判断、すなわち、仲裁申立人により申し立てられたすべて の請求について仲裁廷が終局的に判断をしたものにより仲裁手続が終了する ということを定めたのであって、仲裁判断にこれ以外の仲裁手続の終了を導 かない非終局的仲裁判断(nonfinal award)が含まれ、仲裁廷がかかる仲裁 判断をする権限を有することを否定するものではないと解されている11)。し たがって、仲裁法上も、仲裁判断により仲裁手続は終了するが、それはすべ ての請求について判断を示した終局的仲裁判断をいい、仲裁判断にはそれ以 外のものも含まれ、仲裁廷はかかる仲裁判断をする権限を有するものと解す る余地があり、仲裁手続において数個の請求が申し立てられていて、仲裁廷 がその一部について終局的に判断を示した場合も、かかる判断を仲裁判断と 解するのが妥当であると考える。また、一部仲裁判断の場合であっても、そ
9) 小島=猪股・仲裁 391-392 頁。同旨、理論と実務 327 頁〔近藤発言〕。
10) See Peter Binder, International Commercial Arbitration and Mediation in UNCITRAL Model Law Jurisdictions (Kluwer Law International 4th ed.
2019) 429-430.
11) Howard M. Holtzmann, Joseph E. Neuhaus, A Guide to the Uncitral Model Law on International Commercial Arbitration: Legislative History and Commentary (Kluwer Law International 1990) 868-869. See Redfern and Hunter on International Arbitration 503, 509.
の一部の請求について手続が終了するので、その意味において、仲裁手続が 仲裁判断により終了すると定める 40 条 1 項の規定と整合しないとは言えな いようにも思われる。
また、仲裁法 26 条 2 項により、仲裁廷は、当事者間に別段の合意がない 限り、仲裁法の規定に反しない限り、適当と認める方法によって仲裁手続を 実施することができるので、この規定を根拠として、適宜、全部仲裁判断と は別に一部仲裁判断をすることができると解することができるのではなかろ うか12)。
次に、中間判決に相当する、本案前の抗弁や本案の前提問題についての中 間的判断についてはどうか。まず、仲裁権限の有無についての仲裁廷の判断 については、仲裁法は 23 条 4 項において、仲裁廷が自己が仲裁権限を有す る旨の判断を示す場合、仲裁判断前の独立の決定または仲裁判断により、自 己が仲裁権限を有しない旨の判断を示す場合、仲裁手続の終了決定によるこ とになるとそれぞれ定めるところ、仲裁廷が仲裁判断前の独立の決定、仲裁 手続の終了決定を仲裁判断として判断を示すことができるかという問題があ るが、この問題については、別稿で検討したので13)、それに譲りたいが、以 下の理由からこれを肯定することができると考える。
すなわち、仲裁判断は当事者が仲裁廷に解決を付託した紛争についての判 断でなければならず、この点に関して当事者は、本案とは違い、仲裁合意に より、仲裁権限の有無に関する紛争を仲裁廷に付託しているとは言えないが、
仲裁権限の有無についての仲裁廷の判断は、仲裁法 23 条 1 項が、仲裁廷に 対し、自己の仲裁権限の有無について判断する権限を付与しており、この権 限の下、仲裁廷が当事者から解決を付託された紛争である本案の判断の前提 としてそれに必要不可欠な問題を終局的に判断するものであり、また、仲裁
12) See Lew et al., Comparative International Commercial Arbitration 632-634;
Born, International Commercial Arbitration 3016; Jean-François Poudret and Sébastien Besson, Comparative Law of International Arbitration (Sweet &
Maxwell 2nd ed. 2007) 636.
13) 中村・論点 295-300 頁。
権限を肯定する判断は、本案についての仲裁判断により示される場合、それ 自体紛争の実体についての判断ではないが、仲裁判断の一部を構成するもの であるから、本案とは切り離しそれとは別に判断が示される場合であっても、
これ自体を仲裁判断と観念することができるのではないかと考えられる14)。 したがって、仲裁廷が仲裁権限を否定する場合を含め、仲裁権限の有無につ いての争いを仲裁廷が終局的に判断している限り、かかる判断は仲裁判断と 解することができるのではないかと考える。
また、このことは、仲裁法が 44 条、45 条においてそれぞれ、仲裁判断の 取消事由、承認・執行拒絶事由として、仲裁合意が効力を有しないことを挙 げていることからも是認し得ると考える。すなわち、仲裁権限を肯定する仲 裁判断は、仲裁権限を肯定する判断を含む本案についての仲裁判断と同様に、
仲裁合意が効力を有しないと判断される場合、取り消され、その承認・執行 が拒絶されることになる。これに対し、仲裁権限を否定する仲裁判断につい ては、取消事由、承認・執行拒絶事由として明文の規定はないが、仲裁法 44 条 1 項 5 号、45 条 2 項 5 号の「仲裁判断が、仲裁合意又は仲裁手続における 申立ての範囲を超える事項に関する判断を含むものであること」は、仲裁廷 が仲裁権限を有しないにもかかわらず、それを肯定した場合であるが、逆に、
仲裁廷が仲裁権限を有するにもかかわらず、それを否定した場合も、この取
14) Lawrence Boo, Ruling on Arbitral Jurisdiction – Is that an Award ?, 3(2)
Asian International Arbitration Journal (2007) 125, 141 は、 モ デ ル 法 上、 仲 裁判断適格性を否定する根拠として、仲裁廷が本案(紛争の実体)について判 断 を し て い な い 点 を、 ま た、Simon Greenberg, Chapter 4: Direct Review of Arbitral Jurisdiction under the UNCITRAL Model Law on International in Frédéric Bachand and Fabien Gélinas (eds), UNCITRAL Model Law after Twenty-Five Years: Global Perspectives on International (Juris Publishing 2013) 60-62 は、裁判所への申立てをモデル法は 34 条 2 項とは別に 16 条 3 項で 設けていることをそれぞれ根拠として挙げるが、前者については、本文で述べた ように、本案の判断に必要不可欠な前提問題についての判断であり、この根拠に よっても仲裁判断適格性は否定されないと解される。また、後者の見解については、
16 条 3 項は 34 条 2 項と両立し得る関係にあり、仲裁判断適格性を否定する根拠 にはならないと解される。この点に関しては、中村・論点 297-298 頁参照。See also Born, International Commercial Arbitration 1099-1100.
消事由、承認・執行拒絶事由に当たると解する余地がなくはなく、この規定 を類推適用することが考えられる。
次に、仲裁権限の有無についての紛争ではなく、審理を損害論と責任論の 2 段階に分け先に責任の有無だけを仲裁廷が終局的に判断するものや本案の 判断基準となる準拠法の決定など本案について判断する上でその前提となる 当事者間の実体に係わる判断も、仲裁判断の適格性を有するか。
これらの中間的判断についても、仲裁廷が仲裁申立人の請求について判断 を示す仲裁判断の前提問題についての仲裁廷の判断ではあるが、この前提問 題についての紛争は仲裁合意の対象であり、仲裁廷に付託された紛争である と解されるので、仲裁廷が仲裁申立人の請求についての仲裁判断に先立ち別 に判断する場合であっても、仲裁判断の適格性を肯定し得るのではないかと 考える。
もっとも、この問題に関しては、国際的にも見解が分かれており15)、モデ ル法の採用国においても、たとえば、ドイツでは、前提問題についての仲裁 廷の判断は、訴訟手続における中間判決のように、仲裁廷を拘束するが、既 判力は有せず、仲裁判断の取消しの対象にもならないとするのが通説的見解 であるが、そうでない見解も主張されている16)。判例もフランクフルト高等 裁判所が、2007 年 5 月 10 日、仲裁廷が責任論と損害論の2段階に分けて審 理することを決定し、その後、審理した結果、責任の有無のみの判断を仲裁 判断により示し、当事者がその取消しを裁判所に求めた事案において、紛争 の終局的解決はされておらず、仲裁廷は損害論の審理の結果、当事者の請求 15) Born, International Commercial Arbitration 2936, 2937; Fouchard Gaillard
Goldman on International Commercial Arbitration 739.
16) Fabian von Schlabrendorff and Anke Sessler, Part II: Commentary on the German Arbitration Law (10th Book of the German Code of Civil Procedure), Chapter VI: Making of the Award and Termination of the Proceedings, § 1055 – Effect of Arbitral Award in Nacimiento et al., Arbitration in Germany 352; Stefan Michael Kroll and Peter Kraft, Part II: Commentary on the German Arbitration Law (10th Book of the German Code of Civil Procedure), Chapter VII: Recourse against the Award, § 1059 – Application for Setting Aside in Nacimiento et al., Arbitration in Germany 389.
を棄却する可能性があり、損害額についての判断を残す責任の有無について の判断は仲裁判断とはなり得ない旨の判断を示している17)。
確かに、当事者が仲裁に付託した紛争は、直接的には、当事者間で争いの ある実体法上の請求権によって基礎付けられた一定の給付を請求する権利の 存否であり、本案の前提問題についての判断は、終局的仲裁判断を準備する ための判断に過ぎない。しかし、仲裁法上、当事者から紛争の解決を委ねら れた仲裁廷が当事者の主張、立証に基づき終局的に判断したものが仲裁判断 であるところ(仲裁法 2 条 1 項、25 条)、終局的仲裁判断に至るために必要 な前提問題についても、当事者間で争われている限り、当事者が仲裁に付託 した紛争の一部であると解され、また、仲裁廷が実体的事項に関して終局的 に判断したものである。したがって、かかる前提問題について仲裁廷が判断 したものは、仲裁判断適格性を有し得ると解する余地があると考えられる。
このように解する場合、仲裁廷は、当事者の合意がなくても、前提問題に ついての仲裁判断をすることができるかという問題があるが、一部仲裁判断 の場合と同様に、仲裁廷は、当事者間に別段の合意がない限り、適当と認め る方法によって仲裁手続を進めることができると解され、これを肯定するこ とができるように考えられる18)。もっとも、仲裁廷が本案の判断に先立ちそ の前提問題について仲裁判断によって判断を示すことについては、手続の効 率化、迅速化に資する面があり、また、それにより当事者が和解に至ること もある一方で、仲裁判断の取消しが裁判所に申し立てられることにより仲裁 手続の遅延という問題が生じることもあるので、当事者が合意の上、それを 求める場合は格別、そうでない場合には、仲裁廷には、当事者の意見を聴い た上で事案に応じた慎重な判断をすることが求められよう19)。
17) OLG Frankfurt a.M., 26 Sch 20/06, Schieds VZ 2007, 278.
18) See Lew et al., Comparative International Commercial Arbitration 632, 633;
Born, International Commercial Arbitration 3017; Poudret and Besson, supra note 12, at 636.
19) See Redfern and Hunter on International Arbitration 511; Poudret and Besson, supra note 12, at 636; Lew et al., Comparative International Commercial Arbitration 634; Born, International Commercial Arbitration 3017.
なお、仲裁廷が本案の前提問題についての判断を仲裁判断ではなく、仲 裁判断の理由中で示す場合においても、かかる判断に当事者は拘束されると いう見解が主張されている。すなわち、仲裁判断の既判力は当事者が仲裁手 続において申し立てた請求について生じることになり、仲裁判断の前提とな る問題についての理由中の判断には既判力は生じないとされる20)。もっとも、
相殺の抗弁についての判断は理由中の判断であっても、確定判決の場合と同 様に(民訴法 114 条 2 項)、その必要性から既判力が生じると解される21)。し かし、仲裁による紛争の一回的解決を期待する当事者の意思に即応して仲裁 判断の理由中の判断についても、仲裁廷による実質的な判断については拘束 力を認めるべきであるという見解が主張されている22)。また、この見解と同 様に、国際仲裁について「当事者は仲裁合意の範囲内では、仲裁による一回 的解決を望んでいると評価しうる」23)ことから「このような当事者の仲裁合 意に係る紛争解決期待を基礎として考えるべきである」24)として、理由中の 判断であっても、「争点とそれに対する判断が明確に記されており、それが 主文ないしこれに相当する部分との関係で不可欠な前提問題であるような場 合には、この点について拘束力を認めてよい」25)という見解も主張されてい る26)。
このように、これらの見解は、理由中の判断に拘束力を認める根拠を紛争 の一回的解決を期待する当事者の意思に求めているが27)、仲裁合意の当事者 が理由中の判断にまで拘束される意図を有していると認めることには疑問が あり、この点に関しては、判決理由中の判断に既判力が生じない理由として 20) 小島 = 猪股・仲裁 427 頁、山本 = 山田・ADR 仲裁 360 頁参照。
21) 同上参照。
22) 小島 = 猪股・仲裁 428 頁。
23) 渡部美由紀「国際仲裁における仲裁判断の効力について」民訴 58 号(2012)
162 頁。
24) 同上。
25) 同上。
26) こ れ と 同 じ 見 解 は、 国 際 法 協 会(ILA (International Law Association)) が 2006 年に採択した res judicata と仲裁に関する勧告 4.2 において示されている。
27) See Born, International Commercial Arbitration 3770.
挙げられているように28)、当事者の直接の関心は請求の当否であり、その前 提問題についての判断は請求の当否の判断に至るための手段としての意味を 有するに止まるので、手続保障の観点から、拘束力が生じる問題については、
当事者に明確に特定、明示されるべきであるから、仲裁判断によるべきであ ると考える。もっとも、仲裁判断の理由中の判断であっても、訴訟の場合と 同様に、一般条項である信義則により拘束力が認められる場合はあろう。
これら以外にも、仲裁廷は、仲裁手続中に当事者が和解をした場合、和解 における合意を内容とする決定をすることができ(仲裁法 38 条 1 項)、その 決定は仲裁判断としての効力を有する(同 2 項)。すなわち、仲裁廷は和解 の内容に基づく仲裁判断(以下「和解的仲裁判断」という)をすることでき るが、この和解的仲裁判断が既判力を有するかという問題については見解が 分かれており、この問題についても、別稿で検討したので29)、それに譲りた いが、以下の理由からこれを肯定することが妥当ではないかと考える。
すなわち、これを否定する立場が、和解調書と同様、当事者に対する手続 保障の下、仲裁廷が実質的に審査したものではない形式的審査にとどまる和 解的仲裁判断には既判力を認めることはできないというのに対し、和解的仲 裁判断の場合における手続保障は、当事者の意思表示の真正を確保するため のものであり30)、当事者の主張、立証に基づき仲裁廷が判断した仲裁判断(以 下「真正仲裁判断」という)の場合における手続保障とは異なるが、かかる 手続保障が既判力を付与する根拠になると解されよう。また、仲裁法は、仲 裁判断として、仲裁廷が当事者の主張、立証に基づき審理、判断した真正仲
28) 判決理由中の判断に既判力を生じさせない理由については、兼子ほか・前掲注
(2)534 頁〔竹下〕、新堂幸治『新民事訴訟法〔第 6 版〕』(弘文堂、2019)701- 702 頁参照。
29) 拙稿「和解的仲裁判断の効力」地域政策学ジャーナル 8 巻 1 号・2 号合併号(2019)
113 頁。
30) 山本和彦「決定内容における合意の問題―訴訟上の和解と裁判上の自白の手続 的規制」民訴雑誌 43 号(1997)127 頁、133-138 頁は、訴訟上の和解における手 続保障は、判決手続における手続保障とは異なり、和解を締結する当事者の意思 表示の真正を担保することを目的とするという。
裁判断に加え、仲裁廷が仲裁手続中に当事者間で成立した和解に基づく和解 的仲裁判断を定めている以上、紛争解決機能として、真正仲裁判断の効力と 同じ効力を和解的仲裁判断にも付与し、それによって当事者間の紛争を仲裁 により終局的に解決することを意図していると考えるのが妥当ではなかろう か。もっとも、仮に既判力が否定されても、和解合意に実体法上確定効があ るので31)、その内容を蒸し返しすることはできず、既判力が肯定される場合 とほぼ同一の結果になるが、既判力が第三者に拡張する場合と和解合意とし ての効力が第三者に拡張する場合とで相違があり得るとすれば、既判力を認 める意義がある32)。
3.抗弁説と職権説
(1)学説
次に、仲裁判断の既判力は、職権調査事項か、あるいは、抗弁事項か、と いう問題について、旧法からの通説は、仲裁判断の既判力は、抗弁事項であり、
当事者の援用を待って初めて斟酌すべきであり、裁判所は、職権でこれを斟 酌してはならないとする抗弁説に立つ33)。その根拠については、「仲裁判断は、
当事者の合意に基礎をおき、国家の裁判権に基づくものではなく」34)「公的利 益を欠いている」35)から、あるいは、「仲裁手続及びこれに基づく仲裁判断の 既判力は当事者間の合意に依存するものであり、仲裁契約の抗弁と同様仲裁
31) 中田裕康『契約法』(有斐閣、2017)596 頁参照。
32) 山本 = 山田・ADR 仲裁 225-226 頁参照。
33) 中田・仲裁 152 頁、小山・旧仲裁 90 頁、小島 = 高桑・注解仲裁 164 頁〔福永 有利〕、青山・仲裁 705 頁、小島・仲裁 317 頁。豊田博昭「仲裁判断の既判力」仲 裁と ADR3 号(2008)10 頁参照。現行法下の見解として、小島=猪股・仲裁 425 頁、猪股孝史「和解的仲裁判断―仲裁判断との同質性と異別性」桐蔭法科大学院 紀要 3 号(2009)21 頁。
34) 小室直人「仲裁契約」菊井維大編『全訂民事訴訟法(下巻)』(青林書院新社、
1969)431 頁。
35) 河野・仲裁 530 頁、小島=猪股・仲裁 425 頁。
判断の既判力もまた、当事者の意思に基いて顧慮されるべきである」36)とい う37)。また、仲裁判断の既判力を職権調査事項とする根拠を被告保護の観点 および司法行為請求権の一回性に求めるならば、「既判力ある仲裁判断があ るにもかかわらず裁判所に訴えが提起された場合、被告保護の観点から職権 をもって既判力を顧慮すべきであるが、両当事者が一致して国家の裁判所の 裁判を要求しているときは、司法行為請求権の一回性の原則に反するもので はないから、公益を理由にこれを拒むことはできない。しかし、既判力の存 在を抗弁にかからしめても必ずしも被告保護に欠けるとはいえない」という 見解38)、確定判決の既判力の本質論における、既判力の拘束力を国家裁判所 間の判断の統一に求める訴訟法説本来からは、仲裁判断の既判力は援用にか からしめてよいという立場39)もある。ただし、確定した執行判決のある場合 は職権ででも考慮されるという40)。
これに対し、ドイツ法の議論を参考にした上で、裁判外の紛争解決結果と しての仲裁判断という特性から裁判所が職権で仲裁判断の既判力の存否を調 べなければならないという立場を否定し、確定仲裁判断を覆滅させようとし て裁判所に訴えを提起する当事者の態度は、仲裁合意違反となり、もう一方 当事者はその訴えに対して既判力による異議を申し立てる権限を有するだけ
36) 上野泰男「仲裁契約及び仲裁判断の人的範囲」関西大学法学論集 35 巻 3・4・5 号(1985)685-686 頁。
37) また、河野正憲「仲裁判断の承認・執行とその取消」青山善充ほか編『現代社 会における民事手続法の展開(下)』(商事法務、2002)262-263 頁は、「私人が行っ た仲裁判断が法的安定性を根拠に(制度仲裁だけでなくアドホック仲裁について も一律に)当事者の援用を要せずに当然に職権で考慮されるべき事由と理解する のは制度にもいささか困難なように思われる。従って、前に確定した仲裁判断の 既判力は、後の訴訟手続での援用をまって効力をもち、その援用がない以上、後 の判決に対する再審訴訟で、既判力の衝突を主張しえないというべきであろう」
という。
38) 渡部美由紀「仲裁判断の既判力について」法学志林 101 巻 2 号(2004)25 頁。
39) 中野貞一郎ほか編『新民事訴訟法講義〔第 3 版〕』498 頁〔高橋宏志〕(有斐閣、
2018)
40) 注解仲裁 164 頁〔福永〕、青山・仲裁 705 頁。
でなく、その義務もあるとする見解41)がある。また、仲裁法 38 条に基づく 決定の効力に関する文脈においてではあるが、「仲裁法 38 条 2 項、同法 45 条 1 項本文及び民訴法 338 条 1 項 10 号の文言に照らすと、38 条決定の既判 力についても、やはり職権調査事項と解するのが自然である。実質論として も、仲裁判断に『確定判決と同一の効力』すなわち既判力を与えるという立 法政策を採った以上は、仲裁判断の既判力の調査についても『確定判決』の 既判力の調査と同様に扱うのが合理的である」42)という職権説に立つ見解も ある。
また、裁判所は、「職権で探知し職権で必ず斟酌しなければならないわ けではないが、職権で斟酌することはできると解してもよいように思われ る」43)、あるいは、「弁論主義の枠内で裁判所が仲裁判断の存在を知るに至っ たときは、裁判所は、釈明権を適切に行使すべきである」44)という見解もある。
(2)検討
まず、確定判決の既判力について、その存否は、職権調査事項であるとさ れ、確定判決の存在は職権をもっても調査すべきであり、当事者は合意によっ てもこれを妨げることはできないとされる45)。
職権調査事項は、裁判所が、当事者限りで処分することのできない利益に 係わる公益的事項であることから、当事者の主張を待つことなく、職権でそ の事項を調査すべきであると解される46)。そして、このように解するならば、
既判力は、紛争を 1 回の訴訟で終局的に解決する当事者の利益とともに、司 法資源を用いて紛争の終局的解決を図る民事訴訟制度を運営する国家の一般
41) 豊田・前掲注(33)21-22 頁。
42) 古田啓昌「仲裁法 38 条に基づく決定の効力」仲裁・ADR フォーラム 1 号(2007)46 頁。
43) 注解仲裁 164 頁〔福永〕。
44) 小島 = 猪股・仲裁 425 頁。
45) 兼子ほか・前掲注(2)546 頁〔竹下〕。
46) 伊藤眞『民事訴訟法〔第 6 版〕』324 頁(有斐閣、2018)、三木浩一ほか『民事 訴訟法〔第 2 版〕』344 頁〔垣内秀介〕(有斐閣、2015)、笠井正俊 = 越山和広編『新・
コンメンタール 民事訴訟法』288 頁〔笠井正俊〕(日本評論社、2010 参照。
的利益を保護するものであるから47)、その存否は職権調査事項であると解す ることになると考える。これに対し、仲裁判断の既判力の存否については、
抗弁事項とする通説の見解は妥当であろうか。
通説は、仲裁判断の既判力は当事者の合意に依拠することを根拠の1つと して挙げる。確かに、仲裁判断の既判力は、当事者が紛争の解決を仲裁人に 委ね、かつその判断に服する旨の合意すなわち仲裁合意に由来するものであ る。しかし、仲裁判断に既判力が与えられるのは、その合意に対し国家が訴 訟に代わる紛争の終局的解決手段として仲裁制度を法認した結果、手続保障 の確保された仲裁手続によってなされた仲裁判断に対し確定判決と同一の効 力を付与したことによるものであり48)、当事者の合意のみに依拠するもので はない。また、抗弁説は、仲裁法14条が仲裁合意の存在を抗弁事項としており、
これと同様に仲裁判断の既判力もまた、当事者の意思に基づき顧慮されると いう。確かに、仲裁合意の妨訴抗弁については、当事者が仲裁合意という法 律関係を自由に処分する権利を有し、専ら当事者の利益にのみ係わる問題で あることは明らかであるが、仲裁判断の既判力は、当事者の仲裁合意に由来 するが、法が特別に付与した効力であり、前者と同様に解することはできな いのではなかろうか。
また、仲裁判断は国家の裁判所が下す判決とは異なり、公的利益を欠くこ とが根拠として挙げられている。この点についても、確かに、仲裁は、いわ ば私設裁判所による紛争解決手続であり、仲裁手続に要する費用はすべて当 事者が負担することになり、紛争解決のために司法資源を投入する裁判所の 負担はなく、この点において公的利益に係わらない。しかし、仲裁は裁判外 紛争解決手続(ADR)の1つとして、ADR の目的の1つである司法資源の 節減、裁判所の負担軽減49)を図るために、国家が法認した訴訟に代替する紛 争の終局的解決制度であり、紛争当事者間に仲裁合意がある場合、かかる紛 47) 三木ほか・前掲注(46)〔垣内〕419 頁、伊藤・前掲注(46)535 頁、兼子ほか・
前掲注(2)〔竹下〕512 頁参照。
48) 小島 = 猪股・仲裁 422 頁参照。
49) 山本 = 山田・ADR 仲裁 14 頁参照。
争は訴訟ではなく仲裁により解決されることになり、また、国家の裁判所は、
仲裁法の下、仲裁人の選任(16 条)、証拠調べに(35 条)等に関し仲裁手続 を援助するとともに、仲裁人の忌避(19 条)、仲裁判断の取消し(44 条)等 に関し仲裁手続を監督し、仲裁手続に必要な関与を行う。したがって、仲裁 判断の既判力は、単に私的な利益に係わるものではなく、公的利益に係わる ものでもあると解され、仲裁判断の既判力は、確定判決の既判力と同様に、
当事者の抗弁事項ではなく、また、抗弁義務という構成でもなく、職権調査 事項と解するのが妥当ではないかと考える50)。
実際に裁判所の職権調査が必要となるのは、仲裁判断の後、仲裁判断が請 求の一部しか認容せず、当事者双方が仲裁判断に不服があり、一方当事者が 再訴に及び、相手方もより有利な判決を期待して応訴するような場合に限ら れようが51)、この職権説に対し、実務上の問題点として抗弁説からは、旧法 下とは違い、現行法の下では、仲裁判断の預置制度が廃止されたことから、
裁判所が調査することは実際上困難であることが多いことが指摘される52)。 しかし、判決の場合であっても、裁判所が職権で調査しても、前訴確定判決 の既判力を看過して後訴判決を下す場合があり得ることから53)、判決に比べ て仲裁判断の既判力を看過して判決を下す可能性が高くなるとしても、いず れの場合もその可能性は否定し得ず、これが職権説を否定する根拠となり得 ないのではないか。
その場合、仲裁判断の後、訴訟手続において、仲裁判断が援用されずに 判決が確定し、仲裁判断の既判力と抵触することになったときは、仲裁判断 も民事訴訟法 338 条 1 項 10 号にいう「前に確定した判決」に含まれると解
50) ド イ ツ の 学 説 で あ る が、 渡 部・ 前 掲 注(38)23-24 頁、 豊 田・ 前 掲 注(33)
17-18 頁参照。
51) 豊田・前掲注(33)21 頁。
52) 小島 = 猪股・仲裁 425 頁、猪股・前掲注(16)21 頁。豊田・前掲注(33)21 頁参照
53) 鈴木正裕 = 青山善充編『注釈民事訴訟法(4) 裁判』306 頁〔高橋宏志〕(有斐 閣、1997)参照。
され54)、同 10 号が定める再審事由となるが、同 1 項但書が定める再審の補充 性により、当事者は、仲裁判断との抵触を知っていた場合には失権し、再審 を申し立てることはできず、両当事者がそれを知りながら既判力ある仲裁判 断を持ち出さなかったときは、後訴判決を既判力に反するとして再審で取り 消すことができない55)。また、仲裁判断の後、訴訟手続ではなく、仲裁手続 により仲裁判断がなされた場合、この 10 号に相当する取消事由は定められ ていないが、公序違反として仲裁判断は取り消されることになると解され る56)。この場合、再審の場合と違い明文の規定はないが、信義則上、当事者は、
仲裁判断との抵触を知っていた場合には失権し、それを理由に仲裁判断を取 り消すことができないと解すべきであろう。
これに対し、仲裁判断の既判力を抗弁事項とする抗弁説によれば、仲裁 判断の後、訴訟手続において、仲裁判断が援用されずに判決が確定し、仲裁 判断の既判力と抵触することになった場合、仲裁判断の既判力が援用されな かったことをもって、黙示的な合意により仲裁判断の既判力の放棄がされた ものとみて、前の仲裁判断と後の確定判決とが矛盾抵触することを再審事由 として主張し、再審の訴えを提起することはできないとされる57)。したがっ て、いずれの説に依拠しても、通常、仲裁判断の後の確定判決、仲裁判断は、
取り消されないことになる。なお、この仲裁判断の既判力の処分性の可否に ついては、次の 4 で検討する。
以上の考察により、仲裁判断の既判力を抗弁事項とする抗弁説、職権調査 事項とする職権説、いずれの考え方もあり得ようが、仲裁制度が公的利益に 係わるものであるから、確定判決と同一の効力を有する仲裁判断の既判力の 調査において確定判決と同様に取り扱うことが妥当ではなかろうか。
54) 兼子ほか・前掲注(2)1733 頁〔松浦馨〕参照。
55) 高橋宏志『重点講義 民事訴訟法 下〔第 2 版補訂版〕』(有斐閣、2014)782-783 頁、
鈴木 = 青山・前掲注(53)305-306 頁〔高橋〕、古田・前掲注(42)46 頁参照。
56) 小島 = 猪股・仲裁 487 頁の脚注(86)参照。
57) 小島 = 猪股・仲裁 426 頁、猪股・前掲注(33)22 頁。また、河野・前掲注(37)
262-263 頁参照。
4.処分肯定説と処分否定説
(1)学説
仲裁判断の既判力の処分性という問題について、旧法からの通説は、当事 者は、執行判決(執行決定)が確定するまでの間、合意によって仲裁判断を 解消して、その既判力を消滅させることができるとする58)。その根拠につい ては、当事者が一致して仲裁判断に満足していない以上は、「(国家)の裁判 所は当事者の権利保護の要求を拒否してはならない」59)、あるいは、「『仲裁判 断の既判力』の根拠は、まずもってその基礎にある仲裁合意に求められるこ とからして、当事者がその基礎にある仲裁合意をもはや維持しないというの であれば、その仲裁合意そのものを合意解除することも許されるであろうか ら、これが合意解除されれば、仲裁判断は、その基礎を欠くに至って、遡及 的にその効力を失うと考えられるからである」60)という。
また、「そもそも両当事者が望む場合には、仲裁合意を破棄して国家裁判 所の判断を受けることができるとすれば、当事者双方が仲裁判断の内容を是 としない場合には、国家の司法資源を用いて公権的・最終的解決をはかる訴 訟とは事情が異なり、合意によりその既判力を否定しうるのではないか」61)
といい、両当事者が一致して国家の裁判所の裁判を要求しているときは、司 法行為請求権の一回性の原則に反するものではないから、公益を理由にこれ を拒むことはできない、という見解62)がある。これに対し、仲裁判断の既判 力を抗弁事項とする見解と「親和的であるといえようが、このことは、当事 者は仲裁判断によって認められた権利または法律関係を実体的に変更しうる
58) 注解仲裁 164 頁〔福永〕、小島・仲裁 317 頁、上野・前掲注(36)686 頁。豊田・
前掲注(33)10 頁参照。現行法下の見解として、小島=猪股・仲裁 425 頁、中野 ほか・前掲注(39)498 頁〔高橋〕。
59) 上野・前掲注(36)686 頁。
60) 猪股・前掲注(33)21 頁。
61) 渡部・前掲注(38)24 頁。
62) 渡部・前掲注(38)24-25 頁。渡部美由紀「国際仲裁における仲裁判断の効力 について」民訴 58 号(2012)161 頁参照。
にすぎないと解しても、その結果にさしたる違いはないともいえよう」63)と の指摘もある。
(2)検討
確定判決の既判力については、3(2)で述べたとおり、職権調査事項で あり、また、当事者は既判力の内容に反する訴訟上の合意をして再審理を求 めることはできず、合意をしたとしても、裁判所はそれを無視して既判力に 応じて後訴判決を形成するが、既判力の内容と矛盾する実体法上の合意をす ることは適法であるとされる64)。これに対し、仲裁判断の既判力については、
当事者に処分権があるとする通説の見解は妥当であろうか。
3(2)で述べたように、仲裁は、当事者が紛争の解決を仲裁人に委ね、
かつその判断に服する旨の合意すなわち仲裁合意に基づくものであり、当事 者は、仲裁廷の判断すなわち仲裁判断に従う実体法上の義務があるが、法が、
仲裁を訴訟に代替する紛争の終局的解決手段とし手続保障の確保された仲裁 手続によってなされた仲裁判断に対し確定判決と同一の効力を付与した結 果、仲裁判断は既判力を有する。したがって、仲裁合意については当事者に 自由処分権があることは明らかであるが、仲裁判断の既判力については、法 が特別に付与した効力であり、仲裁合意と同列に扱うことはできず、別途検 討する必要があると考える。
その場合、仲裁制度は、3(2)で述べたとおり、国家の司法政策の下、
国家の司法資源を節減し、裁判所の負担を軽減することを制度の目的の1つ として、訴訟に並ぶ紛争の終局的紛争解決手続として仲裁判断に確定判決と 同一の効力を付与し、訴訟を補完する制度として設けられたものであると解 され、この制度趣旨に鑑みると、当事者が合意の上裁判所に再審理を求める ことが、司法行為請求権の一回性の原則に反しないとしても、当事者が訴訟 に代えて仲裁による紛争解決を選択した以上、当事者はこれにより紛争の終 63) 小島 = 猪股・仲裁 426 頁。注解仲裁 164-165 頁〔福永〕参照。
64) 中野ほか・前掲注(39)〔高橋〕498 頁、鈴木 = 青山・前掲注(53)306 頁〔高橋〕。
局的解決を図るべきであり、国家は、仲裁判断に重大な瑕疵がある場合には、
取消制度により仲裁判断を取り消すための手続を当事者に用意しているが、
そうではなく、単に仲裁判断の内容に不服であることから再度国家の裁判所 の裁判を求める権利までをも当事者に与えていると解するのは妥当ではない ように思われる。もっとも、上記学説が指摘しているように、当事者は、仲 裁判断後、既判力ではなく、実体法律関係を変更する実体法上の合意をする ことができると考える。
以上の考察によれば、仲裁判断の既判力の処分性についても、肯定説、否 定説、いずれの考え方もあり得ようが、仲裁判断の既判力が職権調査事項で あるとする立場からは、確定判決の既判力と同様に処分否定説が妥当ではな いかと考える。もっとも、当事者が一致して仲裁判断に満足せず、裁判所の 裁判を要求する場合は極めて少なく、現実に仲裁判断の既判力の処分性が問 題となることはほとんどないように思われる。
5.仲裁判断の既判力の主観的範囲
仲裁判断は、仲裁合意の当事者間の紛争について手続保障の確保された仲 裁手続において当事者の主張、立証に基づき仲裁廷が審理、判断した結果で あるから、確定判決と同様に、その効力は当事者のみに及ぶのが原則である。
したがって、当事者以外の第三者は、仲裁手続に関与する機会が保障されて いないので、既判力を及ぼすことは、その正当な根拠を欠くが、確定判決の 場合、民事訴訟法 115 条により、例外的に既判力が及ぶ第三者を定めている(2 号ないし 4 号)。この規定は仲裁判断にも類推適用することができようか。
この問題は、旧法の時代から議論があり、紛争解決の効力を法律上付与さ れたことは、効力の人的範囲についても、確定判決のそれを類推適用すべき であるとして民事訴訟法 115 条〔旧民事訴訟法 201 条〕を類推適用すべきで あるという説65)、民事訴訟法 115 条〔旧民事訴訟法 201 条〕の規定によるの 65) 小山・仲裁 196 頁、上野泰男「仲裁判断の効力の主観的範囲について」名城法
ではなく、専らその法律上の根拠を成す仲裁合意の効力の及ぶ限界をもって 定めるべきであるとする説66)の2つ見解に大別される67)。
判例は、東京地判昭 42・10・20 下民集 18 巻 9=10 号 1033 頁が、仲裁判断 によって確定された権利の譲受人が仲裁判断に基づき執行判決を求めること ができるかという問題について、「仲裁判断の拘束力の本体は、和解等の自 治的紛争解決の場合と同様に、係争権利関係に対する実体法上の確定力にあ るものということができ、訴訟法は右の確定力を容認するとともに、これを 基礎として執行力等の訴訟法上の効果を附与したものと解するのが相当であ る。しかして右の確定力が、まずなにをおいても権利関係の主体である当事 者に及ぶことは明らかであるが、権利関係そのものに加えられた右の確定の 効果は、その後その主体に変動があっても、なお存続するといわねばならな いから、仲裁判断の後に権利義務を承継した者も、前主である当事者と同様 に、右の確定力を受けるものというべきであって」、民事訴訟法 800 条「が 特に『当事者間において』という文言を付加したのも、仲裁判断の効力に関 して右の原則上基本的な効力範囲を示したに過ぎないものと解することがで きる。これに反し右の文言を限定的に解するときは、仲裁判断によって自己 に不利益な判断を受けた当事者が、自己の権利または義務を他に移転するこ とにより、あるいは、たまたまその相手方当事者がその権利または義務を他 に移転したことにより、容易に仲裁判断の拘束力を免がれうることとなって、
紛争の最終的解決を目的とした当事者の合意はその目的を達成できず、また 当事者の自治による紛争の解決を認めた前記の法の趣旨にも背反することと なる」と判示し、仲裁判断で確定された権利の承継人に対して仲裁判断の効
学 42 巻別冊(1992)390 頁。仲裁法の下では、山本 = 山田・ADR 仲裁 360 頁、
理論と実務 370-371 頁〔谷口安平発言〕、372 頁〔近藤昌昭発言〕。また、小島 = 高桑・
注解仲裁 171 頁〔福永有利〕参照。
66) 中田・仲裁 152 頁。青山・仲裁 705 頁。また、上野・前掲注(36)691-692 頁は、
仲裁判断の既判力は、仲裁合意の効力を受け、かつ、旧民訴 201 条の口頭弁論終 結後の承継人に該当する第三者に及ぶとするが、後に改説。
67) もっとも、仲裁判断の既判力が一般承継人に対し及ぶことに異論はない。この 点に関し小島 = 猪股・仲裁 432 頁参照。
力が及ぶとした。
確定判決の既判力の拡張を定める民事訴訟法 115 条 1 項 3 号の口頭弁論終 結後の承継人については、当事者間の公平を考慮して承継人に対し判決の効 力が及ぶとする68)。すなわち、承継人、とりわけ敗訴当事者の承継人に不利 な既判力を及ぼすことの正当性の根拠は、「前主がすでに主張しえなくなっ た利益の帰属すべき法的地位の承継、前主と承継人との間の実体法上の依存 関係の存在、および勝訴当事者の取得した利益保持の期待を保護する必要性、
の三つの要素を基礎とする公平の理念」69)に求めることができ、また、敗訴 当事者が勝訴当事者の承継人に対する関係でも既判力を受けることの正当性 の根拠については、「敗訴当事者は、すでに手続保障のもとに訴訟を遂行し、
敗訴判決が確定したのであるから、その承継人との関係でも、訴訟の結果を 覆しえないとされても不当にその利益を損なうとはいえない」70)と説かれる。
既判力の承継人への拡張は、このような当事者間の公平の理念に基づくもの であるが、かかる当事者間の公平の考慮において承継人が仲裁合意の効力を 受ける者であるか否かは関係しないことになるので、仲裁判断の既判力は承 継人にも及ぶと解するのが妥当であり、民事訴訟法 115 条 1 項 3 号は仲裁判 断に類推適用することができると考える。その場合、仲裁合意の既判力の拡 張を受ける承継人が自己固有の防御方法を主張し得ることも、確定判決の場 合と同様に考えられよう71)。
また、民事訴訟法 115 条 1 項 2 号の訴訟担当における本人についても、た とえば、破産管財人は破産者の締結した契約上の地位を承継するが、それと 併せて破産者の権利義務を確定するための仲裁合意上の地位も承継すると 解されるところ72)、破産管財人を当事者とする仲裁手続においてなされた仲 裁判断の既判力は、確定判決の場合と同様に、公平の理念に照らし73)、また、
権利関係の帰属主体である破産者に対して実質的な手続保障が与えられてい 68) 伊藤・前掲注(46)562 頁。
69) 兼子ほか・前掲注(2)573 頁〔竹下〕。
70) 兼子ほか・前掲注(2)574 頁〔竹下〕。
71) 小島 = 猪股・仲裁 433 頁、小島 = 高桑・注解仲裁 172 頁〔福永〕参照。
72) 中村・論点 338 頁参照。
73) 兼子ほか・前掲注(2)566 頁〔竹下〕。
ると見ることができ74)、破産者に及ぶと解され、民事訴訟法 115 条 1 項 2 号 が類推適用されると考えられる75)。さらに、民事訴訟法 115 条 1 項 4 号の請 求の目的物の所持者に対しても、確定判決の場合と同様に、仲裁判断の既判 力を拡張することが妥当であることは明らかであり、同 4 号も類推適用する ことができると考える76)。
以上の考察によれば、仲裁合意の既判力の拡張についても、確定判決と同 様に解することができ、民事訴訟法 115 条を類推適用することが妥当である と考える。また、仲裁判断の取消しについては、仲裁判断が仲裁手続の基礎 的要件を欠くときは、仲裁判断は無効とされるべきであり、それを保障する 制度が仲裁判断の取消制度であるので、仲裁手続の当事者のみならず仲裁判 断の既判力の拡張を受ける者もまたこのような仲裁判断に拘束される謂われ はなく、仲裁判断取消しの申立てをして仲裁判断の拘束力からの排除を求め ることができると解される77)。
6.おわりに
本稿では、仲裁判断と確定判決の異同という問題を取り上げ、確定判決と 同一の効力が与えられる仲裁判断とは何か、また、仲裁判断の既判力に関し、
その存否は確定判決と同様に職権調査事項であるのか、そうではなく抗弁事 項と解すべきか、当事者は合意によりそれを消滅させることができるのか、
その主観的範囲は民事訴訟法 115 条が類推適用されるのか、といった基本的 74) 伊藤・前掲注(46)562-563 頁参照。
75) 小島 = 猪股・仲裁 434 頁、小島 = 高桑・注解仲裁 172 頁〔福永〕参照。また、
破産手続開始決定前に破産者を当事者とする仲裁手続においてなされた仲裁判断 の既判力も、破産管財人にも及ぶと解される。もっとも、破産管財人は、その地 位に固有の権利である否認権を行使することはできると解される。この点に関し、
小島 = 猪股・仲裁 434 頁、小島 = 高桑・注解仲裁 172 頁〔福永〕を参照。また、
同頁は、これと同様に、遺言執行者、債権執行における差押債権者に対しても、
それぞれ、死亡前の遺言者、差押前に執行債務者を当事者とする仲裁手続におい てされた仲裁判断の既判力が及ぶとする。
76) 小島 = 猪股・仲裁 434-435 頁、小島 = 高桑・注解仲裁 172-173 頁〔福永〕
77) 小島 = 猪股・仲裁 434 頁、小島 = 高桑・注解仲裁 172 頁〔福永〕参照。
問題について、先行研究を参照しつつ若干の検討を試みた。本稿の考察が、
特に、前者の仲裁判断の意義については、実務上重要な問題であり、今後の 議論の一助となれば幸いである。
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小山・仲裁 小山昇『仲裁法〔新版〕』(有斐閣、1983)
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