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─ ─ 比較的レンズをとおした仲裁の考察

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(1)

翻 訳

比較的レンズをとおした仲裁の考察

─一般的原則と具体的争点─

Looking at Arbitration through a Comparative Lens:

General Principles and Specific Issues

顧   維  遐

訳 坂 本 力 也**

    目   次  Ⅰ.は じ め に

 Ⅱ.制度上の建付け:仲裁は ADR の一形態であるか?

 Ⅲ.仲 裁 廷  Ⅳ.仲裁手続の法化  Ⅴ.紛争解決の伝統  Ⅵ.仲裁に対する司法の姿勢

 香港大学法学部准教授

**

 嘱託研究所員・日本大学法学部教授

 本稿[の原本である英語版]に至る調査は香港政府研究資助委員会優配研究金に よ り 資 金 援 助 を 受 け て い ま す(プ ロ ジ ェ ク ト コ ー ド:HKU17617416お よ び HKU176002218)。本稿の[原本である英語版の]初期の下書きについて建設的な コメントを下さったマイケル・パルマ─教授に感謝いたします。サリー・ラムとジ ャック・ローには彼らの有益な調査補助について心より感謝いたします。本稿の原 本である英語版は,Gu Weixia, “Looking at Arbitration Through a Comparative Lens:

General Principles and Specific Issues”, 13(2) The Journal of Comparative Law, pp.

164─188 (2018) に収められ出版されています。本稿の原著者と訳者は,本稿の原本

である英語版の和訳を認めて下さった The Journal of Comparative Law 誌に対し,

そして特にマイケル・パルマー教授(編者)に対し,深く感謝の意を表したいと思 います。また,本稿の原本である英語版を和訳していただきました坂本力也教授,

そして本和訳プロジェクトにご尽力いただきました伊藤壽英教授および佐藤信行教

授に心より感謝いたします。

(2)

 Ⅶ.ADR のディスコースにおける仲裁

訳者はしがき

 本稿は,Gu Weixia香港大学法学部准教授が,Journal of Comparative

Law

誌 に 掲 載 し た 論 文(”Looking at Arbitration Through a Comparative

Lens: General Principles and Specific Issues,” The Journal of Comparative Law Vol. 13 No. 2: pp. 164─188.)を,著者・出版元の Wildy, Simmonds &

Hill Publishing

社および編集責任者

Michael Palmer

教授(ロンドン大学)

の許諾を得て,訳出したものである。

 国境を越える紛争の解決については,近時,仲裁・調停などの裁判外紛 争解決制度の利用が盛んになり,とくに国際的に有力とされる仲裁センタ ーでは,グロバールな制度利用の利便性・効率性を強調する傾向にある。

そのような背景のもとで,本稿は,西欧ではフランス,ドイツおよびスイ ス,イギリス,アメリカ,カナダを,アジア太平洋地域では中国,香港,

シンガポール,日本,韓国およびオーストラリアといった法域を対象に,

それぞれの国の仲裁制度をとりあげ,シヴィルロー系とコモン・ロー系の 法制度や法文化の違いが仲裁利用者の意識にどのような影響を与えている か,それぞれの法制度・法文化のもとで異なる法学教育を受けてきた実務 家がデュープロセスや手続保障にどのような対応をするか,また仲裁より も調停といった柔軟な対応を好むかどうか,といった点について,比較法 的分析をしている。

 本稿は,このように広範な地域と法域をカバーし,それぞれに比較法的 手法を用いて,制度的・理論的・実務的な視点からの分析を試みた点でユ ニークである。わが国においても,国際紛争解決センター・国際調停セン ター設置などの動向と今後の発展に鑑み,有益な研究であるところから訳 出した次第である。

(3)

I.は じ め に

 本稿は比較的観点から仲裁の様々な争点を探求する。コモンロー系とシ ヴィルロー系の法域はもちろんのこと東洋と西洋の法域も比較対照する。

東洋の法域については中国,香港,シンガポール,日本および韓国などの 重要なアジア法域に言及していく。西洋の法域についてはフランス,ドイ ツおよびスイスといった大陸ヨーロッパの主要な法域,ならびにイギリ ス,アメリカ,オーストラリアおよびカナダといった重要なコモンロー系 の法域に触れていく。

 本稿で論じられるように,これらの法域では,三つの原動力が仲裁に関 する争点に影響を与えている。第 ₁ に西洋と東洋の間の文化の相違であ る。たとえば,西洋では一般的に集団主義より個人主義が尊ばれるが,東 洋では後者より前者が尊ばれる。この文化的価値の相違は,仲裁利用者の 仲裁に関する認識に強い影響を与え,それは同様に彼らの仲裁の好き嫌い や仲裁への期待にも影響を及ぼしている。仲裁は「異なる法文化の妥協 点」と言われ,また,実務の収束と交換の地である1)。第 ₂ にコモンロー 系とシヴィルロー系の法制度に根付いている実務の違いである。たとえ ば,法学教育や司法研修の影響を受けコモンローのバックグラウンドを有 する弁護士や仲裁人は,シヴィルローのバックグラウンドを有するそれら の者達に比べて,デュープロセスやいっそう高度な公正さを確実にする包 括的な規則,複雑な手続,および様々な手続保障により慣れている。第 ₃ に紛争解決制度における伝統であり,それは調停の採用への態度を擁して いる。調停の伝統を伴う法域では,当事者を対抗的立場に置くよりもむし ろ円満な方法をとおして紛争を解決することが好まれる。これらの法域に おいては,調停は訴訟と仲裁の双方よりも好まれており,通常,仲裁と調

1) Ginsburg, T (2003) ʻThe Culture of Arbitrationʼ (36) Vanderbilt Journal of

Transnational Law 1335 at 1335.

(4)

停のハイブリッドな実務における手続保障に対する懸念がより小さい。

 本稿は,東洋と西洋の法域そしてまたコモンロー系とシヴィルロー系の 法域を比較する比較法学的分析を採用し,以下のように構成されている:

第Ⅱ章では,

ADR

の定義を論じ,仲裁が

ADR

の一形態であるのかどうか,

そして,制度上の建付けにおいて,異なる法域が仲裁へのアプローチをど のように行っているのか,を論じる。続いて,第Ⅲ章では,仲裁廷の構成 および仲裁人の不偏性と中立性を対象とした仲裁廷の分析を比較的アプロ ーチを用いて行う。次に,第

IV

章では,仲裁の法化の程度を探求する。

V

章では,異なる法域における紛争解決の伝統と調仲(med-arb)に対 する姿勢を論じる。最後に,第

VI

章では,仲裁に対する司法府の姿勢を 比較的観点から評価する。本稿の各章における比較的分析は,上記で特定 した原動力が仲裁の様々な争点に関する相違にどのように寄与しているの かを包括的に考察することを可能とする。

II.制度上の建付け:仲裁は ADR

の一形態であるか?

 過去の文献によると

ADR

には二つの主たる定義がある。ADRは訴訟か ら離れたすべての紛争解決手段であると定義されうる2)。また,人間相互 間の関係を維持することを目的とするすべての非公式な,安価な,効率的 なそして協調的な紛争解決の手段であるとも定義されうる3)。以下の議論 では,ADRが盛んになり,そしてそれ故に制度上の建付けにおける

ADR

の定義に影響を与えていることについて,コモンロー系とシヴィルロー系 の法制度ではどのような異なる理由が提供されているのか,を探求してい く。この争点については西洋と東洋の文化的相違はあまり大きな影響を持 っていないようである。

2) Sternlight, JR (2000) ʻIs Binding Arbitration a Form of ADR: An Argument That the Term ADR Has Begun to Outlive Its Usefulnessʼ (2000) Journal of Dispute Resolution 97 at 99.

3) Ibid.

(5)

ADR の起源と概念

 ADRの概念は,アメリカで生まれ,それ以来,イギリス,カナダ,香 港,南アフリカおよびオーストラリアをはじめとした多くのほかの法域へ と広がっていった4)。初期の

ADR

は,近代の形態とは実質的にかなり異 なる。アメリカでは,ニューヨークにおける初期のオランダおよびイギリ ス植民地の時代に5),商事紛争を解決するために仲裁の初期の形態が商人 によってはじめて利用された6)。 イギリスでは, ノルマン人の征服の間

(すなわち約11世紀)に,共同社会において当然尊敬されていた者達によ る非公式的かつ準司法判断的な紛争解決手段として最初の仲裁の形態が生 まれた7)。国王は,公式の国王裁判所で事件に司法的判断を下すよりも,

むしろ大いに尊敬されている地元の者による判断を直接採用することがで きた8)。その後,そのほかの革新的な代替手段が紛争解決のために発明さ れていった。これらの非公式かつ柔軟な手段は総じて

ADR

として知られ ている。ADRは異なる法域で発展を続け広く普及した紛争解決の手段と なった。

 ADRが成長する理由はすべての法域で同一ではないように思える。こ れは各法域に特有の状況と法制度の相違の両方による。

 コモンローの法域では,一般に,証拠に関するそれらの法域の規則に根 付いた手続がより技術的で包括的であることから,通常,裁判所の手続 は,より長くいっそう高額になる。結果として,裁判所が事件で溢れかえ ることを回避しそしてコモンローの司法制度に内在する遅延と高額な費用 を逃れるため,裁判所の代替として

ADR

を確立するより高い必要性が存

4) Brown, H and Marriot, A (1993) ADR Principles and Practice (1st ed) Sweet &

Maxwell at 5.

5) Dutch colonial period (1624─1664); British colonial period (1664─1776).

6) McManus, M and Silverstein, B (2011) ʻBrief History of Alternative Dispute Resolution in the United Statesʼ (1) Cadmus 100 at 101.

7) Ibid at l00─101.

8) Ibid.

(6)

在する。かくして,ADRは,イギリス,アメリカ,香港,およびシンガ ポールを含むかなり多くのコモンロー系の法域において明らかに成長して いる。

 当事者には,紛争の性質,自身の需要,およびその特定の産業部門にお ける共通の実務に基づいて,最も適した紛争解決方法を選択する準備があ 9)

 たとえば,アメリカでは,ADRの急速な発達と拡大は,1970年代初期 の法改正の動きにまで㴑ることができ,それは訴訟増加の効果に対する懸 念を扱ったものであった10)。1960年代に制定された法は,消費者の権利か ら市民権まで広い範囲の保護を個人に提供したが,訴訟手続は複雑なまま であり,そのため司法手続は高額で長期にわたる複雑で遅延をきたすもの となった11)。結果として,法曹界と学界は司法手続の代替を探し始めた。

元合衆国最高裁首席裁判官であったウォーレン・バーガー(Warren Burg-

er)は,司法の運営に対する民衆の不満足の原因に関するロスコー・E・

パウンド会議を1976年に開催し,紛争解決の新たな代替手段の調査をさせ るために法曹界に召集をかけた12)。また,学術的な分野においては,ロ ン・フラー(Lon Fuller)が,訴訟の「すべてか無か(all or nothing)」の 結果を逃れるために,ポリセントリック問題を解決する代替手段の利用を 招いた13)。優れたアメリカの研究者であるフォーダム大学ロースクールの ジャケリン・ノーラン ─ ハリー(Jacqueline Nolan-Haley)は,ADRとは,

一般的に,仲裁,調停,交渉,ミニトライアルおよび略式陪審審理を含む

9) Noussia, K (2010) Confidentiality in International Commercial Arbitration: A Comparative Analysis of the Position under English, US, German and French Law Springer at 11─14.

10) Nolan-Haley, JM (2013) Alternative Dispute Resolution in a Nutshell (4th ed) West at 5.

11) Ibid.

12) Ibid at 5─6.

13) Ibid at 6.

(7)

訴訟の代替を意味するとしている14)。これらのすべての

ADR

の手段の中 で,仲裁は,裁判所や立法府によって推奨されている争いを解決する好ま しい方法として最も正式な代替手段である15)。もう ₁ 人の優れたアメリカ の研究者であるペッパーダインロースクールのトーマス・スチパノウィッ ヒ(Thomas Stipanowich)は,ADRとは裁判所での訴訟以外の第三者が 介入する紛争解決への言及であり,それは司法手続よりも大きな費用効果 を有しており,より非公式なものであり,そしてより私的なものである,

との立場を取った16)

 ADRはイングランドおよびウェールズでも同様の状況で発展した。ウ ルフ�(Lord Woolf)は,自身の1996年の報告書の中で,イギリスの司法 制度のある欠陥を特定し,それには「費用,遅延および複雑さ」が含まれ ていた17)。弁護士の行動と彼らの当事者対抗主義における戦略がこれらの 短所の主たる原因として特定された18)。それ故に,ADRの利用が推奨さ 19),それは訴訟における費用効果と効率性を改善する望みの中で訴訟に 替わるものである。控訴院裁判官ブリッグス(Briggs)は,イギリスの民 事裁判所の構造改革に関する自身の報告書の中で,ADRの急速な発展は 民事裁判を紛争解決の最後の手段とした,と述べた。当事者達は,友誼的

14) Ibid at 1─2.

15) Ibid at 161.

16) Stipanowich, TJ and Lamare, JR (2014) ʻLiving with ADR: Evolving Perceptions and Use of Mediation, Arbitration, and Conflict Management in Fortune 1000 Corporationsʼ (19) Harvard Negotiation Law Review 1 at 2.

17) Moloney, S (2001) ʻA New Approach to Civil Litigation? The Implementation of the “Woolf Reforms” and Judicial Case Managementʼ (2) Judicial Studies Institute Journal 98 at 99.

18) Genn, H (2010) ʻCivil Justice Reform and Alternative Dispute Resolutionʼ in Meggitt, G (ed) Civil Justice Reform - What Has It Achieved Sweet & Maxwell 73 at 77.

19) Reyes, A (2010) ʻFostering Dispute Resolution and Cost-Effectiveness through

Case Managementʼ in Meggitt, G (ed) Civil Justice Reform - What Has It

Achieved Sweet & Maxwell 99 at 101.

(8)

和解のために,調停,仲裁,交渉および早期のニュートラルエヴァリュエ ーションのような代替手段を採用することを好んだ。彼は,ADRと訴訟 は異なっており,裁判所の存在は法の支配を保障するための重要な手段で あり続けると加えた20)。イギリスの研究者であるヘンリー・J・ブラウン

(Henry J. Brown)は,仲裁をはじめとした第三者によるすべての紛争解 決手段として

ADR

を分類した21)

 また,費用と限られた司法資源に関する同様の欠陥は,東洋のコモンロ ー系の法域のいたる所に存在している。よって,ADRは同様の理由で推 奨されている。たとえば,香港の裁判所は,同国の2009年民事司法改革の 政策報告書で述べられていたように,「時間のかかる手続,費用および遅 延」に関する同様の問題に直面している。それ故に,裁判所の負担を緩和 しかつ早期和解を獲得するために

ADR

を利用した紛争の解決を勧め促進 するよう同司法改革において助言がなされた22)。当該報告書は,香港で広 く受け入れられている

ADR

のもうひとつの手段である調停と並ぶ

ADR

の一形態として,仲裁を含んでいる23)。シンガポールでも,ADRは同様 に支持されており,最も優勢な手段である仲裁と調停を擁する24)  仲裁と調停は,司法手続に替わり最も受け入れられている二つの手段で ある。しかしながら,仲裁のほうが長い歴史があり,より十分に確立され

20) Lord Justice Briggs, Civil Courts Structure Review: Interim Report, December 2015, at paras 2.22─2.23.

21) Brown and Marriot ADR Principles and Practice supra note 4 at 2.

22) Judiciary of the Hong Kong Special Administrative Region (2009) Civil Justice Reform: An Overview. Available at <https://rcul.judiciary.hk/doruments/eng/

CJR_An_Overview_Eng.pdf>.

23) Hong Kong Bar Association ʻWhat Is Alternative Dispute Resolution (ADR)?ʼ.

Available at <https://hkba.org/node/15041>.

24) Chua, D (January 2013) ʻThe Current State of Alternative Dispute Resolution in Singaporeʼ in Chandranie (ed) Singapore Law Gazette LexisNexis 29. Available at

<https://www.lawsociety.org.sg/portals/0/Media%20Centre/Law%20Gazette/

pdf/SLG_JAN_2013.pdf>.

(9)

ている25)。仲裁は,一般的に,商事契約,労働関係,建設作業,製造者─

消費者関連,および保険のような分野で利用されている。また,医療過誤 や環境紛争のような分野でも仲裁の新たな動きがある26)

 他方,シヴィルロー系の法域は,裁判所における訴訟へのアクセスが不 十分であるといった同様な重要問題に直面してはいない。 それ故に,

ADR

はいくつかの異なる理由により主張されている。たとえば,ドイツ での司法手続は,効率的,経済的,および便宜的目的で設計されており,

ドイツの裁判官は,和解を促すために司法手続の間に調停を行う27)。それ 故に,文書開示手続や証拠提出に関する技術的で負担のかかる規則は存在 しないため,裁判所での遅延は真の問題とはならない28)。ドイツにおける

ADR

は,コモンロー系の法域での「訴訟の爆発」を解決する目的という よりは,むしろ雇用,商品の品質,および医療過誤の分野と同様,家事紛 争や社会的紛争のような共同社会における紛争を友誼的に解決するために も主張されてきた29)。ドイツの研究者であるクリスチャン・バーリング ─ ユール(Christian Bühring-Uhle)は,一般的に

ADR

は訴訟を除く紛争解 決方法に言及し30),それは国内レベルでの仲裁を含むと論じる。しかしな がら,国際的な舞台では,仲裁手続が標準的な商事訴訟の手続とかなり似

25) Rushton, M (14 September 2016) ʻThe Role of ADR in Commercial Dispute Resolutionʼ JAMS International ADR Blog. Available at <https://web.archive.org/

web/20161011164840/http://www.jamsinternational.com:80/blog/the-role-of-adr- in-commercial-dispute-resolution>.

26) Roberts, S and Palmer, M (2005) Dispute Processes: ADR and the Primary Forms of Decision-Making (2nd ed) Cambridge University Press at 266.

27) Fan, Y (2002) ADR Yuanli yu Shiwu (ADR Principles and Practice) Xiamen Uni- versity Press at 18.

28) Trittmann, R (2002) ʻAlternative Dispute Resolution in Germanyʼ (5) ADR Bul- letin 58 at 59.

29) Fan ADR Yuanli yu Shiwu (ADR Principles and Practice) supra note 27 at 19.

30) Bühring-Uhle, C and Kirchhoff, L (2006) Arbitration and Mediation in Interna-

tional Business (2nd ed) Kluwer Law International at 169.

(10)

通って発展したため,ADRは伝統的な国際商事仲裁を含まない31)。その ような見解は,ADRを訴訟の代替手段としてではなく,非公式で協調的 な紛争解決の手段として考えることを示唆しうる。それ故に,仲裁がかな り訴訟に似通っている場合は

ADR

の範囲から外れる。

 スイスは仲裁が深く根付いた伝統を有する。その歴史的根源は中世の時 代にまで㴑り,そこでは仲裁は既に商事紛争を解決する手段として採用さ れていた32)。バーナード・バーガー(Bernhard Berger)やフランツ・ケ ラールズ(Franz Kellerhals)は,仲裁では終局的で拘束的な判断が下さ れることから,ADRとしての形態をとるべきではないと論じる33)。スイ スでは,代わりに,司法外紛争解決手段(一般的に

ADR

として言及され る)のうち最も一般的な二つの形態は,専門家による決定(expert deter-

mination)と調停(conciliation and mediation)である。

 中国は,コモンロー法域の司法手続に関連する上述の欠陥には直面して いないが,比較的質の低い裁判官や判決,裁判所の事件が溜まっているこ とによる遅延および賄賂のようなほかの問題に直面している34)。中国社会 の近代的発展は新たな形態の紛争を大量に生んでいる。紛争を解決するた めに中国の共同社会に既に長い間根付いている調停に比べると,ADR より多様で複雑な商事紛争を解決するためのものであると主張される35) 中国の研究者の間では,仲裁が

ADR

の一形態となるかどうかの意見は分 かれている。 優れた

ADR

の専門家であるファン・ ユー(Fan Yu) は,

ADR

は紛争を解決する訴訟に替わるすべての手段を含むとし,そしてそ れ故に, 仲裁は

ADR

の一形態であると論じる36)。 他方, 中国国際商会

31) Ibid.

32) Blessing, M (1999) Introduction to Arbitration-Swiss and International Perspec- tives Helbing & Lichtenhahn at 63.

33) Berger, B and Kellerhals, F (2010) International and Domestic Arbitration in Switzerland (2nd ed) Sweet & Maxwell.

34) Fan ADR Yuanli yu Shiwu (ADR Principles and Practice) supra note 27 at 176.

35) Ibid at 178─79.

36) Ibid at 95.

(11)

(China Chamber of International Commerce (CCIC)) は, 仲裁は

ADR

一形態ではないと考える。CCICにとって,ADRは,仲裁と訴訟を除く紛 争解決手段を含むのみである37)。これは

ADR

と仲裁を区別する

CCIC

部の構造と機能の配分と一貫している。

法制度と法的伝統を貫通する要素

 上記のいかなる定義を取るにしても,ADRは,今現在,多くの法域で 受け入れられている紛争解決手段である。しかし,その受け入れの理由は 法域によって異なる。これはコモンロー系とシヴィルロー系の間の法制度 の違いと各法域に特有の状況を原因としうる。

 裁判所の長い審理と遅延については,コモンロー系の法域の複雑な証拠 規則と時間のかかる裁判手続が原因であり,同法域ではめずらしいことで はない。既に論じたように,イギリス,アメリカ,香港およびシンガポー ルのようなコモンロー系の法域のすべてはその問題を経験している。結果 として,主に,ADRは,裁判所の負担を緩和しより早くより安価な紛争 解決の代替手段を提供することで支持されている。コモンロー系の法域の 人々が有する一般的見解では,ADRとは訴訟に替わる方法への言及であ り,それ故に仲裁は

ADR

の一形態であるとされる。他方で,裁判所の手 続に関連するその問題はシヴィルロー系の法域ではそれほど一般的ではな い。それ故に,ADRの受容は,同じ法制度を採用する法域にわたる特徴 に依拠しておらず,各法域特有の状況に依拠している。たとえば,ドイツ の裁判官の調停文化は,ADRがドイツで普及した理由であるかもしれな いし,中国の司法制度における(裁判官と判決の質が低いことのような)

問題は中国における

ADR

の成長を促しているのかもしれない。 仲裁が

ADR

の一形態かどうかについての意見は研究者の間では分かれているが,

仲裁がますます法化し訴訟と似てきている38)との事実は,仲裁が

ADR

37) Ibid.

38) 以下,第Ⅳ章での議論を参照。

(12)

範囲を外れる一つの理由かもしれない。西洋の文化と東洋の文化の間の相 違が担う役割はこの点ではあまり大きくない。

III.仲 裁 廷

 本章では,仲裁廷の二つの様相を探求する。第 ₁ の様相として仲裁廷の 構成を論じる。全世界の多くの法域が仲裁廷の構成について

UNCITRAL

国際商事仲裁模範法(UNCITRAL Model Law)を採用している一方,ひ と握りの法域はそれらの法域自体の法規と規則を作っている。これらの違 いは主にある法域の特定の特徴に帰しうるため,西洋と東洋の法的文化の 違いやコモンロー系やシヴィルロー系の伝統の相違によって完全に説明で きるものではない。

 第 ₂ の様相として,仲裁人の不偏性と中立性の要件を検討する。仲裁に おける独立性と不偏性に関する法的なテストは主に特定の法域の法制度の 影響を受けており,一般的にかかるテストは客観的性質のものである。し かしながら,仲裁人に課される開示要件は法域を超えいっそう多様化して いる。法域が西洋であるのか東洋であるのか,あるいは法域がどの法制度 を採用しているのかどうかは,ほとんど影響を及ぼさない。

仲裁廷の構成 仲裁人の数

 当事者は,一般的に,任命される仲裁人の数を自由に決定することがで きる39)。しかしながら,この争点について当事者が決定を行っていない場 合,任命される正確な仲裁人の数に関して統一された実務は存在しない。

39) See section 23(1) of the Hong Kong Arbitration Ordinance (Cap 609), section

15(1) of the UK Arbitration Act 1996 and Article 16(1) of the Japanese Arbitration

Law (Law No. 138 of 2003). また,1996年イギリス仲裁法のほとんどの条文およ

び実際に本稿にとって重要な条文は,イングランドおよびウェールズと北アイ

ルランドにのみ適用することに注意されたい。

(13)

UNCITRAL

国際商事仲裁模範法第10条に従えば,任命される仲裁人のデ フォルトの人数は ₃ 名であり,それは現在の国際商事紛争を解決する国際 商事仲裁および任意仲裁に関する

UNCITRAL

仲裁規則(2010)にも準じ ている40)。さらに,ひとつの事件に ₃ 名の仲裁人がいれば,仲裁人らの知 識,法的訓練および経験が集められ,その結果,特に技術的知識に関する 複雑な仲裁事件では,紛争とその当事者の立場についてより深い理解と分 析がもたらされる可能性が高まる。「いかなる国家の裁判所でも経験を積 んだ ₃ 名の国際仲裁人で構成される仲裁廷が有する広範なリソースと経験 を提供することはほとんど不可能である。」41)

 UNCITRAL国際商事仲裁模範法を採択している法域において当該要件 はすべて同一ではない。日本42),韓国43)およびドイツ44)などの法域は,同 法第10条のすべてを採択しているが,オーストラリア45),シンガポール46)

およびインド47)等のそのほかのいくつかの法域は,同条の条文を変更し,

仲裁人のデフォルトの人数を ₁ 名としている。

 中国は,同法を採択しておらず,仲裁法はこの争点について沈黙してい る。しかしながら,中国国際経済貿易仲裁委員会規則(The Rules of Chi-

na International Economic and Trade Arbitration Commission (CIETAC) (2015))第25条は,「仲裁廷は,当事者が別段の定めをしない限りまたは

本規則に定められていない限り, ₃ 名の仲裁人で構成されるものとする」

と述べ,これを補足している48)

40) Article 7 of the UNCITRAL Rules of Arbitration (2010).

41) Born, G (2010) International Arbitration and Forum Selection Agreements:

Drafting and Enforcing (3rd ed) Kluwer Law International at 8.

42) Article 16(2) of the Japanese Arbitration Law (Law No. 138 of 2003).

43) Article 11 of the Korean Arbitration Act (amended by Act No. 6083).

44) Article 1034(1) of the German Code of Civil Procedure (2013).

45) Section 10(2) of the Australian Commercial Arbitration Act (2010).

46) Section 9 of the Singapore Arbitration Act (revised 2002).

47) Section 10(1) of the Indian Arbitration and Conciliation Act (No. 26 of 1996).

48) Article 25 of the 2015 CIETAC Rules.

(14)

 この仲裁人のデフォルトの人数について考えられる理由には,効率性

(たとえば,任命手続のスピードを速めること,首席仲裁人に任命される 者についての意見の相違を回避すること)49)および対費用効果50)が関係し ているのであろう。

 これらのことのすべては,任命される仲裁人のデフォルトの人数が各法 域の特定の実務によるものであり,西洋文化または東洋文化による影響を 受けないだけでなく,コモンロー系の法制度やシヴィルロー系の法制度に よる影響も受けていないことを明らかにする。

仲裁人の資格

 世界規模で認められている一般的動向においては,任命される自身の仲 裁人の資格を決定する完全自治が当事者に与えられている。このことは,

香港51),日本52),ドイツ53),イングランドおよびウェールズ54),そして フランス55)にも当てはまる。おそらくその根本的な理由は,当事者自身が 自らの事件に最も適した仲裁人を選ぶ最も良い立場にいることである。

 しかしながら,中国本土と台湾は,仲裁人について厳格な制定法上の資

49) Peter, W (2002) ʻLawyers vs. Non-Lawyers and One vs. Three Arbitratorsʼ in Campbell, D and Meek, S (eds) The Arbitration Process Kluwer Law Internation- al 109 at 116.

50) Boo, L (2007) ʻAppointment of the Arbitral Tribunalʼ in Pryles, MC and Moser, MJ (eds) Asian Leading Arbitratorsʼ Guide to International Arbitration JurisNet 77 at 79.

51) Section 24(5) of Hong Kong Arbitration Ordinance (Cap 609).

52) Japanese Arbitration Law (Law No. 138, 2003) には仲裁人の資格について具体 的な制定法上の要件はない。

53) Article 1035(5) of the German Code of Civil Procedure (2013).

54) The UK Arbitration Act 1996 (revised in 2001) は仲裁人の資格について沈黙し ており,制定法上の要件がないこと,そしてそれ故に,当事者は本争点に関し て自治を与えられていることを示唆している。

55) The French Code of Civil Procedure (Decree No. 2011─48 of 13 January 2011)

は仲裁人の資格について沈黙している。人は仲裁人になるために法律実務を行

うための資格を有している必要はない。

(15)

格要件を課す二つの例外として残っている。1994年中華人民共和国仲裁法 の下では,「仲裁人は以下の条件のひとつを満たさなければならない:(1)

仲裁の仕事に少なくとも ₈ 年間は従事していること;(2)弁護士として少 なくとも ₈ 年間は働いていること;(3)少なくとも ₈ 年間は裁判官である こと;(4)法律調査または法律を教えることに従事し,上級職に到達して いること;および(5)法的知識を獲得し,経済と貿易に関する専門職に従 事し,上級職またはそれと同等の専門家のレベルに到達していること」56) 中国では,仲裁が計画経済に基づく社会経済的紛争を扱う行政の取組から 発展したことから,社会経済の安定性を確実にするために,仲裁人に対す る国家による管理が存続している。さらに,中国における仲裁の市場は,

1994年中華人民共和国仲裁法の予測範囲を超えて発展してきた。それ故 に,仲裁人の質を確実にするため,特に市場が過渡期にある状況において は,厳格な制約が必要である57)

 同じように,台湾仲裁法第 ₆ 条は,仲裁人としての資格を有するために は,「人は⑴法的またはそのほかの専門知識または経験を備えていなけれ ばならない;(2)高潔かつ不偏との評判がある;および(3)以下の資格の いずれか:─(ⅰ)裁判官または検察官として仕えていること;(ⅱ)弁護 士,会計士,建築士,機械工としてまたはそのほかの商事関連の専門職と して ₅ 年を超えて実務についていること;(ⅲ)国内または外国の仲裁機関 で仲裁人として活動していること;(ⅳ)教育省によって公認または承認さ れた国内または外国の大学において准教授またはそれ以上の職位にある者 として教鞭を取っていること;および(ⅴ)特別な分野や職業を専門とし

₅ 年を超えて実務を行っていること」,と明確化している58)。これらの要 件は仲裁人の質を保証するための国家による試みを実証している。

56) Article 13 of the Arbitration Law of the Peopleʼs Republic of China (1994).

57) Gu, W (2012) Arbitration in China: Regulation of Arbitration Agreements and Practical Issues Sweet & Maxwell at 141─42.

58) Article 6 of the Republic of China Arbitration Law (2002).

(16)

不偏性と独立性

 独立性と不偏性は手続的公平性および仲裁での正当な結果を確実にする ための二つの基本的なセーフガードである。仲裁人は,当事者による任命 であるかないかに関係無く,「不偏的かつ独立的に」59)行動しなければなら ない。これらの二つの概念は総称して「不偏(no bias)」の要件として言 及することができる。

「偏見 “Bias”」に関する法律上のテスト

 ほとんどの法域は仲裁人の独立性と不偏性について規制する法を持つ。

しかしながら,制定法に採択される厳密な文言は法域を横断して多様であ り,西洋と東洋の法文化の相違の影響は受けておらず,コモンローとシヴ ィルローの区別からの影響も受けていない。はじめに,UNCITRAL国際 商事仲裁模範法第12⑵条は,「仲裁人はその不偏性または独立性に正当な 疑いを生じさせる事情があるときのみに忌避されうる」と定める。ドイ 60),日本61),オーストラリア62),カナダ63)および香港64)をはじめとし た同法を採択しているかなり多くの法域では,第12⑵条と同様または同一 の文言を制定している。そのほかの法域は,仲裁人の独立性および/また は不偏性を規制する当該法域自体の法を定めている。たとえば,イングラ ンドおよびウェールズでは,仲裁法において「独立性」という言葉を故意

59) 独立性は,仲裁人と紛争当事者の間のすべての「不適切な関係」を問題であ るとする一方,不偏性は,過去に確立されたルールに従い客観的に行動し,そ のルールを各事件の事実と証拠に適用することを重要とする。See Cantorias MJV (2014) ʻParty-appointed arbitrator ethics and ethos - cross-cultural differenc- es and how they affect arbitrator behaviour in rendering arbitral awardsʼ (12) Arellano Law and Policy Review 53 at 55.

60) Article 1036(2) of the German Code of Civil Procedure (2013).

61) Article 18(1) of the Japanese Arbitration Law (Law No. 138 of 2003).

62) Article 12(3) of the Australian Commercial Arbitration Act (CAA) Model Bill of Australia (2010).

63) Article 12(2) of the Canadian Commercial Arbitration Code, in schedule 1 of the Commercial Arbitration Act (RSC, 1985, c 17 (2nd Supp)) (revised 2015).

64) Section 25 of the Hong Kong Arbitration Ordinance (Cap 609).

(17)

に省略している65)。かかる省略は,仲裁事件では,通常,関連分野に経験 を有する個人による判断が下されるのであり,そうすると,当事者と仲裁 人との間にあったすべての従前の関係はたとえそれがどんなに些細なもの であっても無視することは賢明ではないであろう, との事実を説明す 66)。それ故に,過去の関係が仲裁人の不偏性に正当な疑いを生じさせな い限り,その仲裁人が不適格とみなされることはないであろう。アメリカ で採択されているテストは, 仲裁人が「明白な不公平(evident partiali-

ty)」を示しているかどうかを決定するものである

67)

 法制度は,仲裁人の独立性と不偏性を規制する制定法上の文言に関する 法域の特殊性をよそに,採択されている実際のテストに影響を及ぼしう る。シヴィルロー系の法域では,制定法上の文言によって当該法域のテス トを定めている。換言すると,「正当な疑い」が制定法上の専門用語とし て採択されている場合,シヴィルロー系の法域では仲裁人の独立性と不偏 性に関する「正当な疑い」が生じる事情に重点を置く。たとえば,ドイツ では,申立てを行う当事者は特定の事件の審判人の不偏性または独立性を 疑う十分な客観的理由を提供しそれを「偏見のない(unbiased)」仲裁人 の状況と比較しなければならない。さらに,かかる客観テストは,その基 準が合理人の基準であることを提示する68)。仲裁人は裁判官と同じ基準に 服するようである69)

 対照的に,西洋と東洋の両方に所在するコモンロー系の法域は,一般的 に,当該法域自体の規則を定めており,それは主に判例法に依拠してい る。Porter v Magill70)はイングランドおよびウェールズの重要な権威であ

65) Section 24(1)(a) of the UK Arbitration Act 1996.

66) Singhal, S (2008) ʻIndependence and Impartiality of Arbitratorsʼ (11) Interna- tional Arbitration Law Review 124 at 125.

67) Section 10(2) of the US Federal Arbitration Act (revised 2015).

68) Luttrell, S (2009) Bias Challenges in International Arbitration: The Need for a ʻreal Dangerʼ Test Kluwer Law International at 105.

69) Ibid at 104.

70) Porter & Another v Magill [2002] 2 Appeal Cases 357 (House of Lords of the

(18)

り,裁判官の不偏性に関するテストを以下のように定める:

「裁判所は,まず,裁判官に偏見がある状態をもたらす可能性がある すべての重要な事情を明確にしなければならない。次に,裁判所は,

裁判官が偏見を有する現実の可能性があるとの見解を公正な考えを有 し情報に通じている観測者が持つであろうかどうか,を問わなければ ならない」71)

 換言すれば,外見上の偏見は─現実の偏見にさえ及ばないものの─

不偏性テストを十分に満たす。 イングランドおよびウェールズでは,

AT&T Corp v Saudi Cable Co.

72)によって,仲裁人の不偏性を決定するため に同じテストが使われている。オーストラリア最高裁判所は,Johnson v.

Johnson

73)の傍論において,何が

Porter v Magill

74)における「公正な考え を有し情報に通じている観測者(fair minded and informed observer)」を 構成するのかについて詳述し,当該観測者の基準は弁護士の基準ではな く,少なくとも結論を導くために重要な最も基本的な考えを知らされ,か つそれを十分に理解させられていなければならず,そしてその者は並外れ て無関心であってはならずまたは正当化しえないほどに過敏もしくは疑い 深くてはならない,と主張している75)。そのほかの事件では外見上の偏見 の危険が生じる状況の説明を提供している。たとえば,Locabial v Bayfield

Properties

76)によれば,仲裁人と当事者の間の近い関係または親密もしく

United Kingdom).

71) Ibid at 452.

72) AT&T Corp v Saudi Cable Co [2000] 2 All England Law Reports (Commercial Cases) 154 (Court of Appeal of England and Wales).

73) Johnson v Johnson (2000) 201 Commonwealth Law Reports 488 (High Court of Australia).

74) [2002] 2 AC 357 (HL).

75) Johnson (HC) supra note 73 at para 53.

76) Locabial v Bayfield Properties, [2000] 1 All ER 65 (Queenʼs Bench, High Court

(19)

は敵対関係が外見上の偏見を生じさせるかもしれない77)。さらに,ASM

Shipping Ltd of India v TTMI Ltd

78)は,もしも仲裁人が過去の仲裁で主要 な証人に偶然会い重大な申立の下この証人の証拠を拒んでいた場合,当該 仲裁人にもまた偏見があるとの現実の可能性があるであろうと述べてい 79)。アメリカでは,いくつかの判例によって「明白な不公平」の一般的 解釈は,合理人が重要な事情を考慮した後,仲裁人に偏見があったと考え るかどうか,であることを提示している80)。すなわち,現実の偏見と外見 上の偏見との間に位置する。

 西洋の状況と同様に,東洋のコモンロー系の法域では,制定法上の文言 の説明から離れ,判例法が定めるテストに依存しているところが大きい。

たとえば, 香港で採られているアプローチは,Gao Haiyan v Keeneye

Holdings, Ltd

81)において論じられており,またそれに続いて

Granton Nat- ural Resources Co Ltd v Armco Metals International Ltd

82)において確定して いる。当事者が仲裁人の不偏性および中立性に対して首尾よく異議申立て を行うためには現実の偏見を立証しなければならないことを提示する当該 テストが

Hebei Import & Export Corp v Polytek Engineering Co Ltd

83)におい

of England and Wales).

77) Ibid at para 25.

78) ASM Shipping Ltd of India v TTMI Ltd [2005] EWHC 2238 (Commercial Court).

79) Ibid at para 43.

80) See Morelite Construction Corp v New York DC Carpenters Benefit Funds 748 F.2d 79 (2nd Cir. 1984) (United States Court of Appeals, Second Circuit) at 84;

ANR Coal Co v Cogentrix of North Carolina 173 F.3d 493 (4th Cir. 1999) (United States Court of Appeals, Fourth Circuit) at 501.

81) Gao Haiyan v Keeneye Holdings Ltd [2012] 1 Hong Kong Law Reports and Di- gest 627 (Hong Kong Court of Appeal).

82) Granton Natural Resources Co Ltd v Armco Metals International Ltd [2012]

Hong Kong Court of First Instance 1938.

83) Hebei Import & Export Corp v Polytek Engineering Co Ltd (1999) 2 HKCFAR

111.

(20)

て論じられた後,裁判所は,「外見上の偏見は仲裁判断の執行の拒絶を正 当化しうるであろう。しかし,外見上の偏見に基づいて拒絶を正当化する ためには,現実の偏見に基づくよりもいっそう説得力のある訴訟当事者の 主張を要するであろう」と述べた84)。シンガポールにおいて適用されてい るテストは,基本的に,イングランドおよびウェールズで適用される客観 テストと同様であり,すなわちそれは,「重要な事情を知る合理的で公正 な考えを有する者が外見上の偏見があったことに合理的な疑義を形成する であろうかどうか」である85)

 上記で説明したとおり,法域を横断して採択されているテストは,主と して,客観テストである。制定法上のいくつかの多様性をよそに,かかる 多様性は理論的には実質的な違いを導かない。不偏性に関する高い基準 は,一般的に,仲裁人によって偏見のない決定がなされることを確実にす るために世界中で課されている。しかしながら,東洋の法域では,仲裁人 と調停人の役割が同一人物によって引き受けられている調仲(med-arb)

の採択にさらなる高い関心が寄せられる傾向がある。そのような実務は,

香港86)やシンガポール87)をはじめとした東洋の法域にまさに共通するもの である。この実務は潜在的に仲裁人の不偏性に疑いを投げかけるかもしれ ない。対照的に,イギリスやアメリカのような西洋の法域はそのような実 務を受容しない88)。調仲に対するこの様々な受容性は,東洋の法域におけ る不偏性の要件にはいっそう厳格性を欠く傾向があることを提示してい る。

 一般的に,仲裁人は,不偏性と独立性について,世界中で高い基準を課

84) Ibid at para 22.

85) PT Central Investindo v Franciscus Wongso & Others [2014] Singapore High Court 190 at para 16.

86) Section 33 of the Hong Kong Arbitration Ordinance (Cap 609).

87) Section 17 of the Singapore International Arbitration Act (Cap 143A, amended 2016).

88) この点は第 V 章でさらに論じる。

(21)

されているにもかかわらず,彼らは潜在的にたとえば個人的な関係(すな わち「人脈(guanxi)」) の文化を推進する紛争解決の伝統に従いやす 89)。いわゆる人脈の効果は,中国の仲裁廷の構成において,三つの特徴 を持つ。中華人民共和国仲裁法第34条は以下のように定める:「仲裁人は もしも自身が(1)当事者である場合または当事者もしくは当事者の代理人の 近親者である場合;(2)事件に関係している場合;(3)仲裁人の不偏性に影 響しうる事件の当事者とのそのほかのある関係または当事者の代理人との そのほかのある関係を有する場合;および(4)個人的に当事者または当事 者の代理人と会った場合,当事者もしくは当事者の代理人からの夕食の誘 いを承諾した場合,または,それらの者のいずれかから渡された贈り物を 受領した場合には,仲裁人を降りなければならない」。中国では,これら の制定法上のセーフガードをよそに,成文法と実務における法との間には ギャップが存在する。中国では三つの理由から仲裁人の不偏性と独立性の 欠如はいまだに主要な関心事となっている。第 ₁ に,仲裁廷が主に仲裁委 員会の内部職員によって構成されることである。そのような実務は非内部 職員の仲裁人が内部職員の仲裁人の意見への対立を躊躇するであろうとの 理由で批判されている。また,内部職員の仲裁人を選ぶ当事者がより優遇 されるであろうとの懸念もある90)。第 ₂ に,仲裁廷のメンバーはしばしば 政府役人か行政組織を退職した元官吏であることである91)。国家の資産ま たは政府関連の事業体が関与している状況では,非政府関連の事業体は偏 見を持たれうる92)。第 ₃ に,地域の仲裁委員会の仲裁廷は主として地元の 人々で構成され,おそらく外国の当事者の利益よりも地元の当事者の利益 を優先するかもしれないであろうということである93)。訴訟よりも仲裁に 伴う主な利点のひとつは「裁判所で事件を扱う際に居住者である訴訟当事

89) Gu Arbitration in China supra note 57 at paras 6.063─6.066.

90) Ibid at para 6.055.

91) Ibid at 145.

92) Ibid at para 6.059.

93) Ibid at paras 6.061─6.062.

(22)

者が享受する『本拠地(home territory)』に関する国家の優位性を減じま たは排除する機会を提供する」ことであるためこれは懸案事項である94)

開示(Disclosure)の要件

 その不偏性および/または独立性が問われるであろう事情の開示(dis-

close)を仲裁人に求める際の開示の範囲についてもまた法域ごとに異な

っている。簡単に言えば,ある法域における開示の要件は,その法域の法 文化にも法制度にも関係していない。

 徹底的な開示は一般的な実務では求められていない。たとえば,イング ランドおよびウェールズでは,裁判所は,Traylor v Lawrence95)において,

仲裁人は何が開示されなければならないかについて均衡を図ることがで き,開示の範囲は公正な考えを有し情報に精通している観測者が偏見の可 能性があると決断するかもしれない事情にのみ制限されるであろうと判じ た。ドイツでは,ドイツ仲裁法第1036⑴条が自身の独立性と不偏性に影響 するかもしれない事情を開示する仲裁人の義務について定める96)。ドイツ の裁判所ではこれを仲裁人としての資格はく奪への出発点に等しいと解釈 し,換言すれば,正当な疑いが生じうる事情に等しいと解釈する97)。日 98),カナダ99),およびオーストラリア100)でも同様に,仲裁人は「正当 な疑い」が生じる可能性の高い事情のみを開示しなければならない。

 いくつかの法域では,ほぼ完全な開示を要求するどころか,開示を要求 しない。たとえば,中華人民共和国仲裁法では,仲裁人に対して自らの公

94) Andrews, N (2016) Arbitration and Contract Law: Common Law Perspectives Springer 54 at para 1.10.

95) Taylor v Lawrence [2002] 2 All ER 353 (Court of Appeal of England and Wales (Civil Division)).

96) Article 1036(1) of the German Code of Civil Procedure (2013).

97) Luttrel Bias Challenges in International Arbitration supra note 68 at 103.

98) Articles 18(3) and (4) of the Japanese Arbitration Law (Law No. 138 of 2003).

99) Article 12(1) of the Canadian Commercial Arbitration Code (2015).

100) Article 12(1) of the Australian Commercial Arbitration Act (CAA) Model Bill of

Australia (2010).

(23)

正性と独立性を損なわせる可能性のある事情の開示は要求していない。そ れにもかかわらず,中国の主要な仲裁機関では,正当な疑いがある場合に ついて開示を要求している(たとえば,中国国際経済貿易仲裁委員会(CI-

ETAC)

101), 北京仲裁委員会(Beijing Arbitration Commission (BAC))102)

および深圳国際仲裁裁判所(Shenzhen Court of International Arbitration

(SCIA))

103)の規則参照)。

法制度および法文化の統合的影響

 上記で述べたことから,ある法域における任命される仲裁人のデフォル トの人数,仲裁人に求められる資格および開示の要件といった争点は,そ の法域の法文化からも法制度からも影響を受けていない。むしろ,それら の争点は,各法域の特定の実務に左右されている。しかしながら,ある法 域の法制度と法文化は独立性と不偏性のために実際に採択されているテス トに与える影響の一翼を担っている。たとえば,仲裁人に偏見があるかど うかの決定を行う際に,シヴィルロー系の法域は,制定法上の文言を調査 する一方,コモンロー系の法域では判例法に大きく依存している。それら のテストはほとんど客観的な合理的傍観者を基準としたテストであり,そ れ故に実質的な違いにまでは至らない。さらに,東洋の法域は,西洋の法 域に比べて,調仲に対する受容性がより高い傾向がある。しかしながら,

東洋における仲裁人の不偏性は,制定法上のセーフガードをよそに,かな らずしも保障されてはいない。調仲の争点については「紛争解決の伝統

(Dispute Resolution Traditions)」に関する第

V

章でさらに検討していく。

IV.仲裁手続の法化

 仲裁に関与する法律実務家は,仲裁の現場を支配し非弁護士を打ち負か

101) Article 31(1) of the 2015 CIETAC Arbitration Rules.

102) Article 21(2) of the 2015 BAC Arbitration Rules.

103) Article 3 of the 2016 SCIA Arbitration Rules.

(24)

そうとするとき,仲裁の手続と仲裁の型の形式の厳格化を追求し,また,

仲裁廷において司法制度の再現を求める104)。この「法化(juridification)」

の傾向は,コモンロー系の法域とシヴィルロー系の法域の両法域に見られ る。しかしながら,法的伝統の相違は,法域を横断した法化の程度に影響 を与えており極めて重要である。以下の議論では,様々な仲裁の手続を探 索し,コモンロー系とシヴィルロー系の法域の実務がどのように異なって いるのかを取り上げていく。

グローバル規模での法化の動向

 仲裁は伝統的に訴訟に伴う特徴を擁して発展している。裁判所のような 手続,形式および様式が徐々に仲裁の枠組みに取り込まれている。仲裁費 用を増加させる審理前の広範なディスカバリーや長期にわたる仲裁手続の 両方に当事者がさらされる可能性はより高くなっている。仲裁の法化の過 程において,仲裁は「私的訴訟(private litigation)」の一形態へとその形 を徐々に変えている105)。このことは仲裁手続が長い遅い高いと認識され ているオーストラリアで特に際立っている106)。仲裁は,「オーストラリア の連邦レベルと州レベルをとおして単に訴訟のもうひとつの名前に過ぎず

……裁判所の手続をあまりにも頻繁に単に真似ているだけである(あるい は真似ているように見える)」107)

104) Flood, J and Caiger, A (1993) ʻLawyers and Arbitration: The Juridification of Construction Disputesʼ (56) The Modern Law Review 412 at 413 and 430.

105) Stipanowich, TJ (2010) ʻArbitration: The New Litigationʼ (2010) University of Il- linois Law Review 1 at 8─9.

106) Garnett, R and Nottage, L (2012) ʻWhat Law (If Any) Now Applies to Interna- tional Commercial Arbitration in Australiaʼ in (35) University of New South Wales

Law Journal 953. しかしながら,この見解は,ほかの研究者とは共有されてい

ない。e.g., Trakman, L and Montgomery, H (2017) The “Judicialization” of Inter- national Commercial Arbitration: Pitfall or Virtue?ʼ in (30) Leiden Journal of Inter- national Law 405.

107) Reyes, A and Gu, W (2018) ʻConclusion: An Asian Pacific Model of Arbitration

(25)

 かかる変化は主として西洋のコモンロー系の法域において始まり,それ に続いて東洋のコモンロー系の法域に拡大していった。その動向は,現 在,西洋と東洋の両方のシヴィルロー系の法域を次第に変化させている。

この法化の拡大は,仲裁ならではの二つの象徴的な特徴を危機にさらして いる。すなわちそれらは効率性と有効性であり,かかる法化の拡大は,

ADR

の一形態としての仲裁の魅力に対する潜在的な脅威となっている。

詳細にわたる手続規制

 柔軟性は特に任意仲裁において仲裁のアイコン的な特徴であった。しか しながら,いくつかの法域では,確実性と予見性を高めるため,仲裁の過 程のほぼすべての局面の規制を開始し,そしてそれ故に,仲裁手続が法化 し始めた。これらの規制は仲裁手続の柔軟性を減じ,仲裁手続をいっそう 形式的かつ硬直的にしている。規制の増加はコモンロー系とシヴィルロー 系の両法系の法域に共通している。

 コモンロー法域における仲裁に関する制定法上の規制は,仲裁手続に重 要なほぼすべてのありとあらゆる事項に関する規定を定めている。たとえ ば,総数110の条文と総数112の条文と総数65の条文が,それぞれ1996年イ ギリス仲裁法,香港仲裁条例およびシンガポール仲裁法で定められてお り,仲裁手続の停止,仲裁手続の開始,仲裁廷の構成,仲裁廷の管轄,

(審理の実行や証人尋問等の)手続上および証拠法上の事項,仲裁判断の 交付,仲裁手続に関連し裁判所が行う可能性のある介入,および仲裁判断 に対する申立て可能性,を扱っている。

 シヴィルロー系の法域においても同様に具体的な条文を見つけることが できる。たとえば,ドイツ仲裁法には41の条文108),フランス仲裁法には

Reformʼ, in Reyes, A and Gu, W (eds) The Developing World of Arbitration: A Comparative Study of Arbitration Reform in the Asia Pacific Hart Publishing, 279 at 290.

108) Articles 1025 to 1066 of the German Code of Civil Procedure (2013).

参照

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