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論 文 要 旨 区分

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Academic year: 2021

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論 文 要 旨

区分 江﨑 円香

論文題名

糖化産物dihydropyrazinesによる炎症作用の抑制

論文の要旨

糖化産物は、還元糖のカルボニル基とタンパク質のアミノ基が反応するメイラード反応により、食 品中や生体内にて生成される化合物の総称である。一般的にこれらの糖化産物は、糖尿病などの多岐に わたる疾患に関与すると言われている。その一方で、抗酸化作用、抗変異原性作用、ピロリ菌除去など、

疾病に対して防御的に働くことが報告されている。このように糖化産物は、生体に対して二面的に作用 しうるため、種々の糖化産物による生体への影響はより包括的に評価することが必要である。当研究室 では、糖化産物の一種であるジヒドロピラジン類 (dihydropyrazines; DHPs) に着目し、その作用の解析 を行っている。先行研究では、培養細胞を用いた解析により、3-hydro-2,2,5,6-tetramethylpyrazine (DHP-3) がラジカル産生を介して酸化ストレスを惹起し、酸化ストレス応答系であるNrf2 経路を活性化するこ とを報告した。Nrf2経路は酸化ストレスへの応答のみならず、炎症制御においても重要な因子である。

そこで本研究では、代表的な炎症シグナルの一つであるTLR4経路に着目し、DHP-3が与える影響を解 析した。数種の培養細胞(ヒト肝がん由来株化細胞株HepG2 細胞、ヒト前骨髄性白血病由来株化細胞 HL60細胞、マウスマクロファージ由来株化細胞株J774.1細胞)を用い、lipopolysaccharide(LPS)刺激 により TLR4 経路を活性化したのちに、DHP-3 処理を行った。ウエスタンブロット法ならびに q-PCR 法により、TLR4経路の各因子のタンパク質および mRNA の変動を解析し、DHP-3の影響およびその 分子メカニズムを検討した。

1) DHP-3処理によるTLR4経路シグナルの抑制

TLR4は、LPSなどのリガンドを認識することで、炎症シグナルの起点となる。通常LPSで刺激した 細胞では、TLR4の転写活性化やタンパク質発現上昇がみられるが、さらにDHP-3で処理することによ りこれらの発現上昇は抑制された。TLR4下流の各因子においても、LPS刺激による活性化を打ち消す 結果が得られた。すなわち、TLR4アダプタータンパク質MyD88のタンパク質レベルは低下し、NF-κB

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およびIκBはリン酸化が低下、MAPK経路においても ERKJNKp38 のリン酸化の低下が確認され た。あわせて、NF-κB核内移行の低下や核内因子AP-1の発現低下も観察されたことから、DHP-3TLR4 経路の活性化を抑制し、細胞に対して抗炎症作用を及ぼすことが示唆された。

2)DHP-3処理による炎症制御因子の産生抑制

サイトカインをはじめとする炎症制御因子は、生体の恒常性維持に関与するが、その制御不全は炎 症性疾患を引き起こしうる。DHP-3 は細胞に対し抗炎症作用を有することが示唆されたため、次に DHP-3 が炎症制御因子に与える影響を解析した。炎症性サイトカイン TNF、 IL-1 および IL-6 LPSの刺激により発現量が増加したが、さらにDHP-3で処理することで、これらはmRNAレベルで 増加が抑制された。ケモカインCCL2においても、LPS刺激により増加したmRNADHP-3が抑制 する結果が得られた。また、DHP-3LPSの処理を入れ替えた場合も、炎症性サイトカインおよびケ モカインの mRNA レベルは低下した。さらに、炎症反応に関わるエイコサノイド産生経路の酵素

COX-2においては、DHP-3処理により、タンパク質レベルでの発現低下が見られた。これらの結果よ

り、DHP-3TRL4経路への直接的な抑制作用に加え、様々な炎症制御因子の産生を抑制することで

も抗炎症作用を示すことが示唆された。

3) DHP-3処理によるTLR4経路抑制のメカニズム解明

DHP-3LPS刺激による炎症反応に対し、複数の抑制作用を及ぼすことが示唆されたことから、次

にそのメカニズムを明らかにすることを目標とした。DHP-3NF-BおよびMAPK経路のシグナル 伝達因子のリン酸化レベルを低下させ、TLR4 経路の各因子の転写を抑制したことから、脱リン酸化 酵素の発現の増加および転写リプレッサーの発現の増加がそのメカニズムとして予想されたため、こ れら二つの可能性を検討した。まず、DHP-3MAPKのリン酸化レベルを一様に低下させたため、ホ スファターゼMKP-1の変化に着目した。すると予想通り、LPS刺激した細胞へのDHP-3処理により、

MKP-1はタンパク質レベルで増加が確認された。また、DHP-3TLR4経路および炎症制御因子の産 生を抑制したため、これらのリプレッサーであるATF-3の変化に着目した。DHP-3処理により、ATF-3 においてもタンパク質レベルで増加が確認された。これらの結果より、DHP-3TLR4経路および炎 症制御因子の産生抑制は、ホスファターゼやリプレッサーが引き起こすネガティブフィードバック機 構の増強によるものと考えられる。

以上の知見より、DHP-3は生体において抗炎症作用を示し、疾病に対し防御的に作用する糖化産物 であることが示唆された。TLR4 経路は、細菌などの感染により引き起こされる敗血症のみならず、

肝疾患や癌などの発症や病態に関与する。本研究で得られたDHP-3によるTLR4経路の活性化抑制に 関する知見は、炎症性疾患の予防および治療に役立つと期待される。

参照

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