• 検索結果がありません。

マンションの設計図につき図面の著作物性を 限定的に認めたケース

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "マンションの設計図につき図面の著作物性を 限定的に認めたケース"

Copied!
24
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

マンションの設計図につき図面の著作物性を 限定的に認めたケース

―― 〔マンション設計図事件〕知的財産高等裁判所 平成 27 年 5 月 25 日判決 (裁判所ウェブサイト) ――

釜 田 佳 孝 第 1 はじめに

本事案は、分譲マンションの建替工事における設計図の著作権侵害が問 題となったケースであり、図形の著作物としての建築設計図の著作物性の 有無について、近時の設計図一般の判決例と比較して限定的にではあるが 著作物性を肯定した点において意義があると思われるので検討を試みるも のである。

第 2 事案の概要

1 当事者

X は建築設計を主たる業とする株式会社、Y1 は 11 名からなる旧マン ションの区分所有者らで、かつ建て替えられる新マンションの発注者、

Y2 はビル、マンション等の企画・開発・販売等を行う株式会社、Y3 は 建築設計等を行う株式会社、Y4 はその代表者である。

2 旧マンションの建替計画

旧マンション (「メゾン A」、5 階建て総戸数 16 戸、東京都渋谷区所在)

(2)

は昭和 49 年 5 月頃に建築されたものであるところ、Y1 は平成 18 年 4 月 頃に新マンションへの立替えを等価交換事業 (地権者が土地持分を、ディ ベロッパー〔共同事業者〕が資金をそれぞれ拠出し、拠出比率に応じて新 たに建築する建物の専有面積を取得する事業) として行う計画を立てた。

同計画で Y1 は A 社を共同事業者して建替事業を進める方針であったが、

A 社が撤退することとなったため、平成 21 年 6 月頃には X の紹介により B 社が共同事業者の候補者の 1 人となった。

3 X 図面の作成と Y1 への提示

X は B 社から建替え計画に関する図面の作成を委託され、平成 21 年 6 月 9 日付の「メゾン A 建替え計画」と題する図面 (構成:①表紙、②

「2009/6/8 面積表」と題する面積計算部分、③「1、2 階平面図」、④「3、4 階平面図」、⑤「5、6 階平面図」、⑥「7〜9 階平面図」、⑦「断面図」。以下③ 乃至⑦の 5 枚の図面を「X 図面」という) を制作し、同日に B 社を通じ て Y1 に提示した。

4 Y4 設計図面の作成と新マンションの建替え

しかし Y1 は、平成 21 年 6 月頃 B 社が提案した事業計画を不服として 同社への建替え依頼を見合わせることにし、平成 22 年に新マンションの 建替えを Y2 依頼したことから、Y2 から同年 4 月頃に設計図面の制作の 依頼を受けた Y3 が代表者の Y4 をして Y4 設計図面 (構成:①「1 階平面 図」ないし「7 階平面図」とする各階平面図、②「8・9 階平面図」、③「R 階平面図」、④「南西立面図」、⑤「北西側立面図」、⑥「北東側立面図」、⑦

「南東側立面図」、⑧「A−A 断面図」、⑨「B−B 断面図」。図面は少なくと も 15 枚) を制作させた。Y2 は Y4 設計図面を添付して確認申請を行い、

平成 22 年 10 月 6 日に建築確認済証の交付を受け、同年 11 月に新マン ションの建築を開始し、平成 23 年 11 月 25 日に完成させた。

(3)

5 X の提訴

X は、Y1 乃至 Y3 が X 図面に依拠して Y4 設計図面を制作して、X 図面 の著作権 (複製権又は翻案権) を侵害したとして、① Y4 に対しては著作 権侵害の不法行為の実行行為者として民法 709 条に基づき、② Y3 に対し ては、Y4 の著作権侵害の不法行為について会社法 350 条に基づき、③ Y1 及び Y2 に対しては、Y4 の著作権侵害行為の共同不法行為者として民法 719 条に基づき、連帯して、上記共同不法行為と相当因果関係のある設計 料相当額である損害金 3285 万円及び遅延損害金の支払を求めて提訴した。

第 3 X 図面の著作物性に関する裁判所の判断

本訴訟における争点は、① Y4 設計図面は X 図面に依拠して制作され た複製物又は翻案物か、② X 図面につき、B 社に著作権が譲渡されてお り、X は Y らに対し著作権に基づく権利行使ができないか、③ Y らの責 任原因及び X の損害額であるが、本稿では図面の著作物性を検討したい ので、以下、本訴訟における主たる論点である図形の著作物としての X 図面の著作物性に絞って紹介する。

1 原審 (東京地判平成 26 年 11 月 7 日 (裁判所ウェブサイト) における X の主張と裁判所の判断

(1) X の主張

X は、X 図面は建物の高さと位置、柱の位置、住戸の配置、エレベー ター及び階段、店舗及び診療所、エントランス及びサブエントランス、駐 車場の各点において独自性と創作性があり X 図面はすべて図面の著作物 性があるとして、Y4 設計図面の 1 階平面図、2 ないし 9 階平面図、断面 図は、いずれも X 図面における〔1〕建物形状、〔2〕建物配置、〔3〕柱配 置、〔4〕施設配置、〔5〕店舗形状及び寸法、〔6〕1 階診療所形状及び寸法、

〔7〕駐輪場の形状及び寸法、〔8〕エレベーター寸法、〔9〕バルコニーの形 状及び寸法 (2 階〜9 階平面図)、〔10〕エレベーター及び階段の位置 (2

(4)

階〜9 階平面図)、〔11〕柱と梁の外部露出形状 (2 階〜9 階平面図)、〔12〕

住戸配置 (2 階〜9 階平面図)、〔13〕住戸用メーターボックスの設置 (2 階〜9 階平面図)、〔14〕屋外階段とオペラ通りとの間の吹き抜けの位置及 び寸法 (3 階〜9 階平面図)、〔15〕住戸用廊下形式及び形状 (4 階〜9 階平 面図)、〔16〕断面図に示された階数、柱間寸法、バルコニーの出寸法等は X 図面を複製ないし翻案したものであると主張した。

(2) 裁判所の判断

これに対し、原審裁判所は次のように述べて X 図面すべてについて著 作物性を否定した。

裁判所は、「ところで、著作権法は、著作権の対象である著作物の意義 について、『思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、

美術又は音楽の範囲に属するものをいう』(著作権法 2 条 1 項 1 号) と規 定しており、当該作品等に思想又は感情が創作的に表現されている場合に は、当該作品等は著作物に該当するものとして同法による保護の対象とな る一方、思想、感情若しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの又は 表現上の創作性がないものについては、著作物に該当せず、同法による保 護の対象とはならないと解される。また、当該作品等が創作的に表現され たものであるというためには、厳密な意味での作成者の独創性が表現とし て表れていることまでを要するものではないが、作成者の何らかの個性が 表現として表れていることを要するものであって、表現が平凡かつありふ れたものである場合には、作成者の個性が表現されたものとはいえず、創 作的な表現ということはできないというべきである。」と著作物性につい ての一般論を述べたうえ、X 図面について、「本件建物の設計図面である から、著作権法 10 条 1 項に例示される著作物中の『地図又は学術的な性 質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物』(著作権法 10 条 1 項 6 号) にいう『学術的な性質を有する図面』に該当するものと解されるとこ ろ、『学術的な性質を有する図面』としての設計図の創作性は、作図の対象 である物品や建築物を設計するための設計思想の創作性をいうものではな く、作図上の表現としての工夫に作成者の個性が表現されている場合に認

(5)

められると解すべきであって、設計思想そのものは、アイデアなど表現そ れ自体ではないものとして著作権法の保護の対象とはならないというべき である。」とし、X が X 図面の創作性として主張する点は、「いずれも原告 図面の作図の対象である本件建物に具現化された原告の設計思想にすぎな い」とした。また X 図面に「作図上の表現としての工夫に作成者の個性 が表現されている」かの点について、X 図面のような「建築設計図面は、

一般に、建物の建築を施工する工務店等が設計者の意図したとおり施工で きるように建物の具体的な構造を通常の製図法によって表現したもので あって、建築に関する基本的な知識を有する施工担当者であれば誰でも理 解できる共通のルールに従って表現されているのが通常であり、作図の対 象である建築物の設計思想を忠実に建築設計図面として表現しようとすれ ば、対象物の寸法、構造、形状が同一の設計図面を作成することになる以 上、図面の表記も同一とならざるを得ないのであるから、作図上の表現の 選択の幅はほとんどないといわざるを得ない。そして、原告図面に係るマ ンションは、通常の住居・店舗混合マンションであり、しかも旧マンショ ンであるメゾン A を等価交換事業として本件土地上に建て替えることを 予定したものであるところ、このようなマンションは、敷地の面積、形状、

予定建築階数や戸数、道路、近隣等との位置関係、建ぺい率、容積率、高 さ、日影等に関する法令上の各種の制約が存在するほか、住居スペースの 広さや配置等は旧マンションにおける住居面積、配置、住民の希望や、建 築後建物の日照条件等に依ることもあり、建物形状や配置、柱や施設の配 置を含む構造、寸法等に関する作図上の表現において設計者による独自の 工夫の入る余地はほとんどなく、本件におけるメゾン A 建替え後のマン ションである本件建物も、本件土地の特殊な形状や法令上の規制、メゾン A の原状や被告 A らの要望等に基づいて、自ずとその建物形状等や配置、

構造のみならず、その寸法関係の大枠も定まるものであるから、原告図面 は、そのような制約の下、ごく普通の表記法に従って作成された設計図に すぎない」として、X が主張する創作性は、「いずれも原告図面の作図上 の工夫ということはできないし、原告図面を精査しても、他に表現の創作

(6)

性といえるような作図上の工夫があると認めることはできない。」とした。

2 控訴審における X の主張と裁判所の判断

第 1 審が X の請求を棄却したため X が控訴した。

(1) X の補充主張

X は、設計者が建物を計画する場合、10 案又はそれ以上の計画案を作 成し、検討を重ね、地権者と打合せを繰り返して実施設計可能な基本設計 図面にたどり着くものであり、他人が作製した図面がそのような基本設計 図面と同一あるいは同様の建物の柱間寸法・柱本数・柱位置・エレベー ターや階段の位置、1 階の施設の配置等になることはあり得ないとしたう えで、本件マンション建替計画の競合他社の 2 社の設計図面との比較にお いて、(ア) 建物階数・建物配置、(イ) 柱位置・柱数・柱間寸法、(ウ) 住戸 配置、(エ) バルコニー、(オ) エレベーター・階段、(カ) 1 階配置につ いて X 図面の優れている点をあげ、X 図面が著作権法上保護される著作 物であると主張した。また、X 図面は、基本設計において作成する図面 の一部で、全体像を概略的に示す程度のものではなく、これを基礎として 実施設計図面に移行する程度に十分な技術的検討を行い、完成度を備えた 図面であり、X の専門的知見に基づく知識と技術に基づく種々の配慮が なされたものであるから、著作物性があるというべきであると主張した。

(2) 裁判所の判断

これに対し、以下のとおり、控訴審裁判所は第 1 審と異なり図面の著作 物としての X 図面の著作物性を肯定したが、Y4 設計図面の複製権及び翻 案権侵害は否定して、X の控訴を棄却した。

裁判所は「著作権法は、著作権の対象である著作物の意義について、

『思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は 音楽の範囲に属するものをいう』(著作権法 2 条 1 項 1 号) と規定してお り、当該作品等に思想又は感情が創作的に表現されている場合には、当該 作品等は著作物に該当するものとして同法による保護の対象となる一方、

思想、感情若しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの又は表現上の

(7)

創作性がないものについては、著作物に該当せず、同法による保護の対象 とはならないと解される。また、当該作品等が創作的に表現されたもので あるというためには、厳密な意味での作成者の独創性が表現として表れて いることまでを要するものではないが、作成者の何らかの個性が表現とし て表れていることを要するものであって、表現が平凡かつありふれたもの である場合には、作成者の個性が表現されたものとはいえず、創作的な表 現ということはできないというべきである。」として、著作物についての 一般論は第 1 審と同様の説示をしたうえで、X 図面は、「本件建物の設計 図面であるから、著作権法 10 条 1 項に例示される著作物中の『地図又は 学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物』(著作権 法 10 条 1 項 6 号) にいう『学術的な性質を有する図面』に該当するもの と解されるところ、建築物の設計図は、設計士としての専門的知識に基づ き、依頼者からの様々な要望、及び、立地その他の環境的条件と法的規制 等の条件を総合的に勘案して決定される設計事項をベースとして作成され るものであり、その創作性は、作図上の表現方法やその具体的な表現内容 に作成者の個性が発揮されている場合に認められると解すべきである。

もっとも、その作図上の表現方法や建築物の具体的な表現内容が、実用的、

機能的で、ありふれたものであったり、選択の余地がほとんどないような 場合には、創作的な表現とはいえないというべきである。」として、X 図 面の創作性を「作図上の表現方法」と「建築物の具体的な表現内容」の 2 点から検討すべきであるとした。

そして、「作図上の表現方法」については、「一般に建築設計図面は、建 物の建築を施工する工務店等が設計者の意図したとおり施工できるように 建物の具体的な構造を通常の製図法によって表現したものであって、建築 に関する基本的な知識を有する施工担当者であれば誰でも理解できる共通 のルールに従って表現されているのが通常であり、作図上の表現方法の選 択の幅はほとんどないといわざるを得ない。そして、控訴人図面をみても、

その表現方法自体は、そのような通常の基本設計図の表記法に従って作成 された平面的な図面であるから、表現方法における個性の発揮があるとは

(8)

認められず、この点に創作性があるとはいえない。」として創作性を否定 した。

しかし、「建築物の具体的な表現内容」については、「控訴人図面に係る マンションは、通常の住居・店舗混合マンションであり、しかも旧マン ションを等価交換事業として建て替えることを予定したものであるところ、

このようなマンションは、一般的に、敷地の面積、形状、予定建築階数や 戸数、道路、近隣等との位置関係、建ぺい率、容積率、高さ、日影等に関 する法令上の各種の制約が存在し、また、等価交換事業としての性質上、

そのような制約の範囲内で、敷地を最大限有効活用するという必要性があ る上、住居スペースの広さや配置等は旧マンションにおける住居面積、配 置、住民の希望や、建築後の建物の日照条件等に依ることもあり、建物形 状や配置、柱や施設の配置を含む構造、寸法等に関する作図上の表現にお いて設計者による独自の工夫の入る余地は限られているといえる。」とし、

また、本件では施主である Y2 との間における協議結果に基づいた設計与 条件や住民の希望があっことからなどから、もともと控訴人図面に表現さ れる建物の全体形状、寸法及び敷地における建物配置並びに建物内部の住 戸配置や既存杭を前提とした杭の本数や位置についての選択の幅は限られ ているとしながらも、「上記住民の希望に沿った建物の全体形状、寸法及 び敷地における建物配置並びに建物内部の住戸配置、既存杭を前提とした 場合の合理的な位置の選択の幅は狭いとはいえ、各部屋や通路等の具体的 な形状や組合せ等も含めた具体的な設計については、その限定的な範囲で 設計者による個性が発揮される余地は残されているといえるから、控訴人 の一級建築士としての専門的知識及び技術に基づいてこれらが具体的に表 現された控訴人図面全体については、これに作成者の個性が発揮されてい ると解することができ、創作性が認められる。」として、X 図面全体につ いて図面の著作物としての著作物性を肯定した。ただし、その保護範囲に ついては、「本件においては設計者による選択の幅が限定されている状況 下において作成者の個性が発揮されているだけであるから、その創作性は、

その具体的に表現された図面について極めて限定的な範囲で認められるに

(9)

すぎず、その著作物性を肯定するとしても、そのデッドコピーのような場 合に限って、これを保護し得るものであると解される。」として、その保護 範囲をデッドコピーのように酷似している場合に限定しする立場を取った。

そのうえで、X 図面と Y4 設計図面の 1 階から 9 階の平面図を比較し、

「控訴人図面と被控訴人図面とを比較すると、建物の全体形状に所以する 各階全体の構造や、A と基本的に同様の配置とすることに所以する内部 の各部屋の概略的な配置は類似するものの、各部屋や通路等の具体的な形 状及び組合せは異なる点が多くあり、もともと控訴人図面の各部屋や通路 の具体的な形状及び組合せも、通常のマンションにおいてみられるありふ れた形状や組合せと大きく相違するものではないことを考慮すれば、控訴 人図面及び被控訴人図面が実質的に同一であるということはできない。そ うすると、控訴人図面と被控訴人図面とが、その基本となる設計与条件に おいて共通する点があるとしても、具体的に表現された図面としては異な るものである」として、X 図面の複製権又は翻案権の侵害を否定した。

3 上告審の判断

控訴審が X の控訴を棄却したため X が上告及び上告受理の申立をなし たが、最高裁 (最決平成 27 年 11 月 10 日 LEX/DB25447113 は、上告理 由に該当しないことを理由に上告を棄却しまた上告受理をしなかった。

第 4 検討

1 図形の著作物としての建築設計図

本件は、X 図面が図形の著作物としての著作物性を有するかが問題と なった事案である。

建築設計図は、「学術的な性質を有する図面」であるので、そこに創作 性があれば図形の著作物のひとつとして著作物性が認められるので (著 10 Ⅰ⑥)、他人が無断で複製や翻案をすると、私的使用のための複製 (著 30 Ⅰ) や翻案等の利用 (著 43) 等の制限規定に該当するといった例外的

(10)

な場合を除き、著作権者との間で複製権侵害 (著 21) や翻案権侵害 (著 27) が成立することになる。

2 過去の判決例における設計図一般の創作性の判断要素

既に多数の論者において指摘されているように、建築設計図については、

平成 14 年までの判決例では、建築士等の専門家が制作した設計図という だけでほとんど検討もされないまま図形著作物としての著作物性を認める ものがほとんどであった(ⅰ)。しかし、什器の設計図が問題となった事案 (ス モーキングスタンド事件・東京地判平成 9 年 4 月 25 日判タ 944 号 265 頁) において、「本件設計図は、……具体的な什器の構造、デザインを細部に わたって通常の製図法によって表現したものである。工業製品の設計図は、

そのための基本的訓練を受けた者であれば、だれでも理解できる共通の ルールに従って表現されているのが通常であり、その表現方法そのものに 独創性を見出す余地はなく、本件設計図もそのような通常の設計図であり、

その表現方法に独創性、創作性は認められない。」、「本件設計図から読み とることのできる什器の具体的デザインは、本件設計図との関係でいえば 表現の対象である思想又はアイデアであ」るとして、設計図における創作 性の判断要素を表現方法 (作図上の工夫といったもの) についてのみ検討 し、設計図に現れている設計思想についてはアイデアとして創作性の判断 要素に加えないとする判断が示されて以降、建築以外の設計図については 同様の考え方に立つ裁判例が相次いでいた(ⅱ)

建築設計図においてはどうかというと、カイ設計事件 (東京地判平成 14 年 12 月 19 日・裁判所ウェブサイト) では、個人住宅の設計図につき、

「建築設計図面は、建物の建築を施工する工務店等が設計者の意図したと おりに施工できるように建物の具体的な構造を通常の製図法によって表現 したものであって、建築に関する基本的な知識を有する施工担当者であれ ばだれでも理解できる共通のルールに従って表現されているのが通常であ り、その表現方法そのものに独創性を見いだす余地はない。本件における 原告設計図書も、そのような通常の設計図の域を出るものではなく、その

(11)

表現方法において特段の独創性、創作性は認められない。」として表現方 法についての創作性も検討しているが、他方で「原告設計図書に表現され ている建物は、通常の個人住宅であるところ、このような個人住宅は、敷 地の面積・形状や、道路・近隣建物等との位置関係、建ぺい率、容積率、

高さ、日影等に関する法令上の各種の制約が存在するほか、間取りについ ても家族構成等に基づく施主の要望を採り入れる必要があることから、建 物面積や建物構造等、間取り、各部屋の寸法等について、設計者による独 自の工夫の入る余地はほとんどない。本件における原告設計図書も、その ような通常の設計図の域を出るものではなく、表現された建物の間取り、

構造等において特段の独創性、創作性は認められない。」として、設計内 容 (設計図に具体的に表現された設計思想といったもの) ついても創作性 を検討し、表現方法と設計内容の双方ともに創作性がないとして、原告設 計図の著作物性を否定している。

また、フランステレコム事務所コンペ事件 (東京地判平成 15 年 2 月 26 日・判タ 1144 号 180 頁) では、事務所の設計図につき、「原告設計図にお ける表現方法は、極く一般の設計図において用いられる平面的な表現方法 であって、表現方法における格別の個性の発揮はないこと」として表現方 法についての創作性を検討するとともに、設計内容についても「原告設計 図においては、特殊な形状の建物の内部設計について、顧客である被告フ ランステレコムから各専用部分や共用部分の種類、個数、面積、位置関係 等に関して詳細な設計条件を付され、これらの設計条件に適合することが 必要であるため、設計者が自由に選択できる事項としては、『各部屋及び 通路の具体的形状』及び『全体の配置』などに限られていたこと」、「本件 事務所を、南側壁面に沿った 3 つのエリアと、西側壁面に沿った細長いエ リアに分けるという発想は、正にアイディアそのものであって、この点が 著作権法上の保護の対象となり得る表現とはいえないこと等」を総合考慮 したうえで、「原告設計図において、創作性のある部分は、FTJ、日本研 究所及びエトラリの各専用部分や各部屋及び通路等の具体的な形状及び具 体的な配置の組合せにあるということができる。」として、設計内容の観

(12)

点から原告設計図の一部について著作物性を認めた。

以上のように、近時の判決例における考え方は、建築設計図以外の設計 図 (什器、機械、部材等) については、創作性の判断要素を表現方法に 絞って検討し、設計内容についての創作性は検討しない立場に立っている と言えるが( 1 )、建築設計図においては、表現方法だけでなく設計内容につい ても創作性の判断要素としている点に特徴があるといえる。

3 本件第 1 審における創作性の判断

第 1 審裁判所は、「『学術的な性質を有する図面』としての設計図の創作 性は、作図の対象である物品や建築物を設計するための設計思想の創作性 をいうものではなく、作図上の表現としての工夫に作成者の個性が表現さ れている場合に認められると解すべきであって、設計思想そのものは、ア イデアなど表現それ自体ではないものとして著作権法の保護の対象とはな らないというべきである。」とし、X が X 図面につき創作性があると主張 する点は、「いずれも原告図面の作図の対象である本件建物に具現化され た原告の設計思想にすぎない」として、創作性の判断要素としては表現方 法 (作図上の表現としての工夫) のみとし、設計内容 (設計思想) は判断 要素としていない。その点で、前記した建築設計図以外の設計図について の近時の判決例と同じ立場に立つものと思われる。そして、「原告図面の ような建築設計図面は、一般に、建物の建築を施工する工務店等が設計者 の意図したとおり施工できるように建物の具体的な構造を通常の製図法に よって表現したものであって、建築に関する基本的な知識を有する施工担 当者であれば誰でも理解できる共通のルールに従って表現されているのが 通常であり、作図の対象である建築物の設計思想を忠実に建築設計図面と して表現しようとすれば、対象物の寸法、構造、形状が同一の設計図面を 作成することになる以上、図面の表記も同一とならざるを得ないのである から、作図上の表現の選択の幅はほとんどないといわざるを得ない。」、

( 1 ) それらの判決例においては設計対象物が実用品などであってそれ自体が著作権法の保護 対象外であることを著作物性を否定する理由の一つとしてあげるものがある。

(13)

「原告図面は、そのような制約の下、ごく普通の表記法に従って作成され た設計図にすぎないと認められる。」、「したがって、原告が主張する創作 性は、いずれも原告図面の作図上の工夫ということはできないし、原告図 面を精査しても、他に表現の創作性といえるような作図上の工夫があると 認めることはできない。」として X 図面の創作性を否定した。

4 本件控訴審における創作性の判断

これに対し控訴審裁判所は、「その創作性は、作図上の表現方法やその 具体的な表現内容に作成者の個性が発揮されている場合に認められると解 すべきである。」として、「作図上の表現方法」と「その具体的な表現内 容」の 2 点から判断すべきであるとし、「作図上の表現方法」については、

「一般に建築設計図面は、建物の建築を施工する工務店等が設計者の意図 したとおり施工できるように建物の具体的な構造を通常の製図法によって 表現したものであって、建築に関する基本的な知識を有する施工担当者で あれば誰でも理解できる共通のルールに従って表現されているのが通常で あり、作図上の表現方法の選択の幅はほとんどないといわざるを得ない。

そして、控訴人図面をみても、その表現方法自体は、そのような通常の基 本設計図の表記法に従って作成された平面的な図面であるから、表現方法 における個性の発揮があるとは認められず、この点に創作性があるとはい えない。」として創作性を否定したが、「その具体的な表現内容」について は「各部屋や通路等の具体的な形状や組合せ等も含めた具体的な設計につ いては、その限定的な範囲で設計者による個性が発揮される余地は残され ているといえるから、控訴人の一級建築士としての専門的知識及び技術に 基づいてこれらが具体的に表現された控訴人図面全体については、これに 作成者の個性が発揮されていると解することができ、創作性が認められ る。」として、さまざまな制約条件があるもののなお X の設計者としての 個性が発揮できる余地があるとして創作性を肯定した (ただし、その創作 性が発揮できる幅が極めて限定的な範囲であることからその保護範囲を デッドコピーのような場合に限定した)。

(14)

5 設計図における創作性の判断要素

設計図につき、図形の著作物としての創作性の判断要素をどの点に求め るかについては、作図上の工夫のみを判断要素とする考え方( 2 )と、設計図に 具体的に表現された設計内容 (設計思想が具体的に表現された形状、寸法、

色彩等からなる図面) についてもその判断要素とする考え方( 3 )がある。前者 の考え方は、①設計図に表現された設計内容は技術的思想であるから特許 等の産業財産権で保護されるべきものであって著作権法で保護されるべき ものでないこと、②設計内容を保護することにすれば設計思想といったア イデアを保護することになること等を根拠とするものである。後者の考え 方は、①作図上の工夫のみが保護されるとなると著作権法は表現方法にお いて奇抜で実用価値の低いものの創作を奨励する間の抜けた法になりかね ないこと、②表現方法である製図法が多様化するよりも、設計の対象物の 形状、寸法、色彩等をもった具体的表現が多様化するほうが好ましいこと、

③ありふれた表現手法であっても、ある思想・感情から派生した具体的な 表現に多様性があるのであれば、その中に一つに創作性を認めることは情 報の多様化に資すること、④ありふれた作図方法からなる設計図はデッド コピーすら自由となって不都合であること等を根拠とするものである。

( 2 ) 「機械等の技術的思想の保護は、特許等の工業所有権の制度にゆだねられるべきであっ て、設計図に具現された技術的思想がいかに優れた者であったとしても、その思想自体が 著作権法の保護を享受しうるものではない。設計図に著作物性が認められるとすれば、そ れは、機械等の構造を二次元の図面に標記するための作図上の諸工夫に創作性が認められ るために外ならない。ゆえに著作物とは認められない製品をそのまま図面化したようなも のは著作物性を否定される」、「そうだとすると、設計図の著作物に関して著作権侵害の成 否を判断するに当たっては、あくまで創作的な表現と評価することができる作図上の仕方 が共通しているか否かを基準としなければならない。設計図に具現された機械等の技術的 思想の共通性をもって、類似性を肯定することは許されないのである。」(田村善之「著作 権法概説」(2 版) 93 頁) など

( 3 ) 「学問的思想である設計思想から派生した具体的設計図を保護することにより、一方で 創作へのインセンティブを与え、他方で、他の者に対してそれと同じ設計思想であっても 異なった表現をもった設計図を創作するように動機づけることで、そのような設計図の豊 富化を招くことになり、著作権法の趣旨に合致」するという観点から、形状や寸法や色彩 等を伴った具体的表現に多様性がある合には設計図の創作性を肯定すべきとする ( (中山 信弘「著作権法」(2 版) 77 頁以下)

(15)

本件の第 1 審は前者の立場に立って、控訴審は後者の立場に立って判断 したものと思われる。

6 私見

筆者は、少なくとも建築設計図については、設計内容も判断要素に加え て創作性の有無を判断すべきであると考える。その理由は、①建築設計図 はその役割からして一般的、統一的な作図法に基づいて制作されるもので、

そもそも作図法における創意工夫が求められるようなものではないこと、

②もし作図上の工夫のみを判断要素とするとほとんどの建築設計図は図形 の著作物としての著作物性が否定されることになるが、それでは著作権法 10 条 1 項 6 号における「学術的な性質を有する図面」から建築設計図を 除外する結果となってしまい妥当でないこと、③建築設計図の価値は作図 上の工夫ではなく設計内容にこそ存し、そこには様々な制約条件に制限さ れながらも当該建築物における設計者の創意工夫が表現されていること、

④かかる設計図に具体的に表現された設計内容を創作性の判断要素に加え ても、直ちにアイデアを保護する結果とはならないこと、⑤設計内容を創 作性の判断要素に加えて判断しても他人の設計図の制作の自由を不当に制 限するものとはならず、むしろ設計者の創作活動を促す結果となることで ある。

以下、詳述する。

(1) 建築設計図の役割

「設計図書」とは「建築物の建築工事の実施のために必要な図面 (現寸 図その他これに類するものを除く。) 及び仕様書」(建築士法Ⅱ⑤) を指す ものとされ、設計図面と仕様書 (特記仕様書/共通仕様書) からなる。告示

15 号( 4 )によれば設計に関する標準業務は基本設計業務と実施設計業務から

なり、基本設計業務とは建築主から提示された要求その他の諸条件を設計

( 4 ) 国土交通省告示 15 号。建築士法 25 条の規定に基づき建築事務所の解説者がその業務に 関して請求することのできる報酬の基準を定めており、別添 1、1 で設計に関する標準業 務の内容を掲げている。

(16)

条件として整理した上で、建築物の配置計画、平面と空間の構成、各部の 寸法や面積、建築物として備えるべき機能、性能、主な使用材料や設備機 器の種別と品質、建築物の内外の意匠等を検討し、それらを総合して、さ まざまな類型の建築物の成果図書を作成する業務であり、実施設計業務と は工事施工者が設計図書の内容を正確に読み取り、設計意図に合致した建 築物の工事を的確に行うことができるように、また、工事費の適正な見積 りができるように、基本設計に基づいて、設計意図をより詳細に具体化し、

その結果として、さまざまな類型の建築物の成果図書を作成するための業 務を指すとされる。そしてその成果図書として、総合設計、構造設計、設 備設計それぞれにおいて一定の種類の図面が制作されることとなっている。

かかる設計図書の役割については、実施設計についてであるが、施工候 補の業者がそれによって積算・見積が行えるようなものでなくてはならず、

また実際の工事施工も可能となり、現場施工の基準となり、検査の判断基 準や、工事監理者の監理 (設計図書と施工との照合) が可能となるもので なくてはならないとされている( 5 )。つまり、設計図書は建築物の建築プロ ジェクトに参加する積算業者、施工者 (施工者は複数いることがほとんど で、元請工事業者や一次請、二次請の下請工事業者だけでなく、さらに下 流の工事業者が参加する建築プロジェクトも珍しくない)、工事監理者等 の工事関係人のいずれもが設計図書を見れば設計内容が齟齬なく画一的に 把握できるものでなければならないことが前提となっている。また、設計 者も基本設計者と実施設計者が異なり、基本設計者が制作した基本設計図 書をベースに別の実施設計者が実施設計図書を作成することもある。デベ ロッパーによる建築プロジェクトにおいては発注者が外部の設計事務所に 設計を委託することがあり、その場合は発注者も設計図書を検討すること になる。また、建築物は完成後において修繕工事を行うことがあり、その 場合には当初の設計者、施工者、工事監理者以外の者が設計、施工、監理 を行うことがあるが、その場合に修繕工事の内容を決めるために当初の設

( 5 ) 日本建築学会編「建設紛争ハンドブック」10 頁

(17)

計図書が必要となってくることがある。つまり極めて小規模な建築を除き、

ほとんどの建築プロジェクトでは、設計者、施工者、工事監理者 (場合に よっては発注者) 等はそれぞれ別々に業務を遂行しており (一式請負方式 でもゼネコン内部で設計者、施工者、工事監理者は別の者が担当してい る)、設計図書はそれら多数の工事関係人の間において設計内容を一義的 に把握できる伝達手段として機能していることから、それらすべての工事 関係人が設計図書から同一の設計内容を理解できるようなものでなくては ならない。この点は、什器や機械における設計図とは異なるものがある。

したがって、設計図書の一部を構成する建築設計図もかかる設計図書の役 割から、一般的で統一的な作図法を用いて制作されているものがほとんど であるようである。

そうであれば作図上の工夫がある場合にのみ創作性が肯定するような考 え方は、前記のような建築設計図の役割や実態とは相反しており、個性的 な作図法なるものは建築プロジェクトでは有害な建築設計図というほかな いが、かかる建築設計図を創作することを著作権法が奨励しているとは思 えない。

(2) 建築設計図の価値

建築設計図の価値は、作図上の工夫ではなく設計内容にこそある。設計 内容における創作性は、建築物の外観等の美観といった意匠性や、経済性、

合理性、機能性、安全性といった建築技術的なものに現れるが、いずれも 建築設計図の価値の向上に寄与している。技術的思想や意匠性を著作権法 で保護するべきではなく特許法や意匠法等による保護を追求すべきである とする考え方もあるが( 6 )、著作権法 10 条 1 項 6 号の図形の著作物として保 護されるのは「学術的な性質を有する図面」なので、意匠的なもの以外に 建築技術的なものを保護対象とすることは矛盾しないと思われるし、建築 意匠については意匠権の保護対象となっていないことからすれば、むしろ これらの設計内容に現れた価値を保護するようにすれば、安易な模倣がで

( 6 ) 松村信夫・三山俊司「著作権法要説」(2 版) 21 頁

(18)

きなくなって、設計における創作活動を活性化させるものとなる。

(3) 設計内容の保護とアイデア

建築設計図はさまざまな制約条件の中で制作される。この制約条件とは、

建築設計をするうえにおいて遵守しなければならない条件のことで、発注 者の要求 (プロジェクトの目的、建築物の用途・機能、予算、スケジュー ル、品質等)、敷地及び既存施設の条件 (一般的敷地条件、土壌汚染状況)、

敷地及び周辺の環境条件 (敷地開発時の土壌汚染状況、埋設文化財、PCB 含有機器、ダイオキシン、アスベスト)、建築物に関わる法令などの条件、

新設建設物の基礎的条件 (自然的環境条件〔土質・風向・日照等〕、建設 物の配置計画上の条件、荷重条件、施工上の技術的条件、必要とされる耐 震性能など)、改修の場合の制約条件 (既存建物の制約条件、改修工事の 法令) などである( 7 )

したがって、もともと建築設計は一定の制約条件下で行うものである以 上、設計内容における選択の幅は他の著作物と比べて広いものとはいえな いが、それでもまったく選択の幅がなくなるといったことはないのではな いか。かなり厳しい制約条件下においても狭いながらも選択の幅があると 思われる。本件はマンションといった建物の特質に加え、旧マンションの 建替であること、等価交換事業として行われること、住民の希望 (住居ス ペースの広さや配置等は旧マンションにおける住居面積、配置と同じであ ること) に沿わなければならないこと等の厳しい制約条件下で行われた設 計であったが、控訴審は「住民の希望に沿った建物の全体形状、寸法及び 敷地における建物配置並びに建物内部の住戸配置、既存杭を前提とした場 合の合理的な位置の選択の幅は狭いとはいえ、各部屋や通路等の具体的な 形状や組合せ等も含めた具体的な設計についてはその限定的な範囲で設計 者による個性が発揮される余地は残されている」としており、同じ制約条 件下で設計した X 図面と Y4 設計図面の比較において 1 階から 9 階のす べてにおいて寸法、面積、形状、組み合わせにおいて相異していることを

( 7 ) 日本コンストラクション・マネジメント協会「CM ガイドブック」(改訂) 57 頁

(19)

指摘している。

かかる設計内容は選択の幅のある制約条件下において、設計者が選択し た具体的表現に他ならない。言い換えれば、ある設計思想からすれば複数 の設計内容が選択できる状況下で選択した一つの具体的な設計内容である のでアイデアを保護することにはならない。かかる制約条件下では特定の あるいは極めて限られた設計内容しか取りえないといった場合に、当該建 築設計図に創作性を認めることはアイデア自体を保護することになるかも しれないが、それ以外の場合には設計内容に創作性を認めて差し支えない と思われる。

むしろ、作図上の工夫のみに創作性を求めると前記したようにほとんど の建築設計図は図形の著作物としての著作物性を否定される結果、建築プ ロジェクトでは契約違反か不法行為に該当するといった場合でなければ先 行設計者の設計図の複製、翻案は自由ということになってしまい、設計者 が自ら創意工夫をして設計をするという意欲を殺いでしまうことになって 不都合である。

また、設計内容について創作性を認めることになっても、その範囲は制 約条件下で取り得る限定された幅の範囲でのみ認められるものであること から、その保護範囲を限定されたものと解することで後続設計者の設計に おける不当な制限にはならないと思われる。

7 控訴審判決について

前記 6 に述べた理由から筆者は控訴審裁判所における考え方、つまり設 計図における創作性の判断要素に、作図上の工夫 (作図上の表現方法) だ けでなく設計内容 (設計図における具体的な表現内容) を加えている点は 賛成である。

ただし、控訴審新裁判所が、X が創作性ありと主張している設計内容、

例えば新マンションの階数を 9 階建てとした X 設計図について、「本件建 物を 9 階建てにすることについては、前記認定のとおり、控訴人図面を作 成する際の設計与条件となっていたものであり、これを控訴人図面に表現

(20)

したことをもって創作性があるとはいえないし、9 階建てにすることが諸 条件の中でもっとも適切であると考えて、最初に被控訴人 Y1 に提案した のが控訴人であるとしても、そのこと自体はアイデアというべきであり、

著作権法上の保護の対象となるものではない。」としている点は、これが 複数の階数設定が可能な設計においてその中の一つの選択肢である 9 階建 を X が提案したので、Y1 がそれを了解した結果、X が 9 階建ての設計図 を制作したという場合であってもアイデアであるという趣旨であれば疑問 である。その場合は、まさに設計思想から導かれる複数の選択肢の一つと しての 9 階建てを設計図において具体的に表現したのであるから、その部 分についての X 設計図の創作性を認めてしかるべきであるからである。

つまり、設計図書の制作は、発注者との関係で言えば、企画案の提示、設 計条件等の整理、基本設計方針の説明、基本設計図書の制作と説明、実施 設計図書の制作と説明といった流れで進むが、基本設計図書が制作される 前段階における企画案や基本設計方針の段階において設計者の基本的な設 計概要が文書や口頭で示され、これに対する発注者の要望や了解を経て基 本設計図書で設計内容がより具体化されてゆくのであって、いきなり基本 設計図書において設計内容が確定されるものではない。本件の制約条件下 では階数を 10 階建てとする設計も可能であったのであるから、選択肢の 中から 9 階建てにすることを X が企画案段階で選択して Y1 に提案した ものであれば、遅くとも基本設計図書が完成した段階では設計内容が具体 的に表現されているのでアイデアとはいえないと思われる。しかし、判決 から窺う限り、新マンションは制約条件下では 9 階か 10 階とする以外の 選択肢しかなかったような事案であるようであり、そうであれば極めて限 定された選択の幅しかないことなるので著作権法の保護対象ではないとし た結論自体は正当と考える。

引用文献

① きたむら建築設計図事件 (東京地判昭和 52 年 1 月 28 日・無体集 9 巻 1 号 29 頁)

(21)

設計監理等を目的とする株式会社が制作したビル設計図 (実施設計図の うちの一部) につき、「原告設計図は、原告の業務に従事する設計担当者 が、その職務上、その感覚と技術を駆使して独自に製作したことが認めら れる。したがつて、原告設計図は、著作権により保護される著作物であり、

X は、その著作者であり、著作権者であるというべきである。」として著 作物性を肯定

② 冷蔵倉庫設計図事件 (大阪地判昭和 54 年 2 月 23 日・判タ 387 号 1456 頁) 設計監理等を目的とする株式会社が制作した冷蔵倉庫建物設計図につき、

「甲設計図は一般の住宅、事務所等の建物とは異なり防熱、防湿等の点で 特別の建築工学上の技術を必要とする冷蔵倉庫に関するものであつて、全 体として個性ある設計図となっていることが認められ、他に反証はない。

右認定事実によれば、甲設計図は全体として冷蔵倉庫に関する建築工学上 の技術思想を創作的に表現した学術的な性質を有する図面として一応の著 作物と解することができ、また右甲設計図の著作権は原告に帰属するもの であることが認められる (著作権法 2 条 1 号、10 条 1 項 6 号)。」として 著作物性を肯定

③ 小林ビル設計事件 (東京地判昭和 54 年 6 月 20 日・ジュリスト 799 号 119 頁)

一級建築士が制作したビルの設計図につき、「原告設計図書一 (表紙) を除く原告設計図書三二葉は、いずれも、一級建築士である亡信明が、昭 和四八年五月頃から昭和四九年一月頃までの間 (基本設計の段階を含む。) に、その知識と技術を駆使し、原告事務所員で同じく一級建築士である原 告信和 (長男) をその補助者として使用して、独自に作成した建物の設計 図書 (設計図、表) であることが認められる。したがつて、原告設計図書 三二葉 (二ないし三三) は、いずれも、著作権により保護される著作物で あり、亡信明はその著作権を取得したというべきである (ただし、原告設 計図書三のうちの案内図は、客観的に定まった本件土地の所在位置をごく ありふれた手法により描いた略図であって、そこに何らの独創性を見出す ことはできず、建築士としての知識と技術を駆使しなければ描けないもの とは到底言えないから、著作権により保護される著作物とは認められな い。)。」として、案内図を除く X 設計図書の著作物性を肯定

④ シノブ設計事件 (福島地決平成 3 年 4 月 9 日・知的裁集 23 巻 1 号 230 頁) 一級建築士が制作した住宅設計図書 (設計図及び仕様書) につき、「建 築設計図は、一般に、学術的性質を有する図面にあたり、そして建築家が その知識と技術を駆使して作成したものでそこに創作性が認められる限り、

著作権法一〇条一項六号の著作物性を肯定し得ると解され、かかる観点か ら本件設計図も前記六号の著作物に該当するものと考えられる。」として

(22)

著作物性を肯定

⑤ 神奈川県公文書公開条例事件 (東京高判平成 3 年 5 月 31 日・判タ 766 号 109 頁日)

公文書公開の対象となった文書の中に建築確認申請に添付されたマン ションの設計図面があり、公開によりその著作権者に不利益を与えないか が問題となった事案であるが、「本件各図面は、太陽企画が自己の営業活 動の用に供する目的で本件マンションの建築工事のために作成した設計図 面であるところ、(証拠略)、本件各図面は、専門的知識と技能を有する設 計者が、その知識、技能、経験を駆使して作成したものであり、設計者は、

次のとおり、ノウハウないし創意工夫があると考えていることが認められ る。」、「著作権法第二条一項一号、一〇条一項六号、文学的及び美術的著 作物の保護に関するベルヌ条約二条 (1) によれば、設計図書は、学術的 な性質を有する図面として、著作物の目的となると解するのを相当とする から、控訴人の右主張は採用できない。」として著作物性を肯定

⑥ ショッピングセンター建設設計事件 (名古屋地判平成 12 年 3 月 8 日・

裁判所ウェブサイト)

設計監理等を目的とする株式会社が制作したショッピングセンター建設 図につき、「建築設計図を著作物として保護するのは、建築の著作物 (法 一〇条一項五号) のように、建築物によって表現された美的形象を模倣建 築による盗用から保護する趣旨ではないから、美術性又は芸術性を備える ことは必要ない。また、法は保護の要件として、創作性があることを要求 しているだけであって、創作性が高いものであることは要求していないか ら、設計する建物はありふれたものでもよく、特に新奇なものである必要 もない。そして、図面に設計者の思想が創作的に表現されていれば、著作 物性としては十分であり、建物の建築図面として、その図面により建築す るについて十分であるかどうかという図面の完全性が要求されるものでも ない。」としたうえで、「原告代表者の供述によれば、設備図面を含め原告 図面 (前記 2 ないし 4 を除く。) は、原告代表者がその一級建築士として の知識と技術を駆使して、そのスタッフとともに、あるいは設備業者に依 頼して、創作したものと認められ、そこには原告の思想が表現されている といえるから、原告の著作物であると認められる。」として、公図の写し、

現況敷地平面図、表 (敷地面積表、仕上表、空調機器に関する機器表、換 気機器に関する機器表、換気計算書の取入外気量、火気使用室換気量、衛 生器具表、スプリンクラー設備計算表及び補助散水・設備計算表) を除く 原告図面の著作物性を肯定した。

⑦ ニューシティー KOMYO マンションコンペ事件 (大阪地判平成 12 年 8 月 24 日・裁判所ウェブサイト)

(23)

建築設計監理を業とする会社が地方公共団体の事業コンペに参加するた めに制作した基本設計図書につき、「原告企画書中の建築設計図書は、従 前から本件土地の事業化を計画していた原告が、平成一〇年二月一八日付 け分譲申込みの添付資料とするため独自に製作したものであり、原告改良 企画書中の建築設計図書は、原告が第一次申込みについていったん大阪府 に辞退届を提出した後、事業採算性を検討し、当時一階スーパーマーケッ ト部分の出店交渉をしていた西友の意向を取り入れて、原告企画書中の建 築設計図書に自ら変更を加えたものであって、作成者の知識と技術を駆使 して作成されたものであり (甲二の 1、五の 1、原告代表者)、いずれも表 現に創作性を有するものと認められるから、「地図又は学術的な性質を有 する図面、図表その他の図形の著作物」(著作権法一〇条一項六号) に該 当するものといえる。」として著作物性を肯定した。

⑧ 高槻市情報公開事件 (大阪高判平成 14 年 12 月 24 日・判タ 1144 号 180 頁)

公文書公開の対象となった文書の中に建築確認申請に添付された医薬総 合研究所の設計図面があり、公開によりその著作権者に不利益を与えない かが問題となった事案であるが、「控訴人は、建築設計図面の著作物性は、

建築物の構造を二次元の図面に表現するための作図上の諸工夫に創作性が 認められる場合に限られるとし、建築設計図たる本件文書の作図において、

いかなる点が工夫され、創作的であるかについて何ら具体的な主張立証が されていないので、建築設計図たる本件文書の著作物性を認めることはで きないと主張している。しかし、建築家がその知識と技能を駆使して作成 した建築物の設計図は、学術的な性質を有する図面として著作権法上保護 される著作物であると解すべきところ (著作権法 10 条 1 項 6 号)、本件文 書は参加人ジェイティ不動産らに属する一級建築士等の資格を有する数十 名の従業員が、その知識と技術を用いて、昭和 62 年から平成 3 年までの 歳月をかけて作成したものであり、当該建築物に求められる高度かつ多様 な要求を図面上に反映させたものであると認められるから、本件文書を、

学術的な性質を有する図面として著作権法上保護される著作物であると認 めるべきことは明らかである。」として著作物性を肯定した。

① チョコレート製造機械設計図事件 (東京地判平成 9 年 6 月 30 日 LEX/

DB28042078)

「各原告機械の各設計図は、原告機械の製造を行う原告の工場担当者が、

設計者の意図したとおりに原告機械を製造することができるよう、具体的 な原告機械の構造を細部にわたって通常の製図法によって表現したもので ある。工業製品の設計図は、そのための基本的訓練を受けたものであれば、

誰でも理解できる共通のルールに従って表現されているのが通常であり、

(24)

その表現方法そのものに独創性を見出す余地はなく、原告機械の設計図も そのような通常の設計図であり、その表現方法に独創性、創作性は認めら れない。設計図から読みとることのできる原告機械の具体的構造は、設計 図との関係でいえば表現の対象である技術思想であり、その具体的な技術 思想を設計図として通常の方法で表そうとすると、各設計図上に現に表現 されている直線、曲線等からなる図形、補助線、寸法、数値、材質等の注 記と大同小異のものにならざるを得ないのであって、各設計図上に現に表 現されている直線、曲線等からなる図形、補助線、寸法、数値、材質等の 注記等は、表現の対象の技術思想である原告機械の具体的構造と不可分の ものである。各設計図の右のような性質と、設計図に表現された原告機械 の実物そのものは、技術思想を具現したものとはいえ、工場生産される産 業用機械であって、著作物とはいえないことを考え合わせると、各設計図 を著作物と認めることはできない。」

② コンベヤーベルトカバー設計図事件 (大阪地判平成 10 年 3 月 26 日 LEX/DB28032939)

「創作的な思想又は感情自体は、それが技術的思想である場合には特許 権又は実用新案権による保護の対象となり、デザイン思想である場合には 意匠権による保護の対象となるのであって、これらの工業所有権とは別に 著作権による保護の対象とはならないことが明らかである。」、「原告設計 図は、いずれも設計図に関する一般的知識を有する者であれば誰でも理解 できる一般的な製図法のルールに従って作成されたものであり、その表現 方法に創作性を見出すことはできないから、著作権法一〇条一項六号所定 の図形の著作物に該当するということはできない。」

③ 放電焼結装置設計図事件 (東京地判平成 18 年 10 月 24 日判タ 1239 号 331 頁)

「本件設計図は、放電プラズマ焼結機の設計図であるところ、機械の設 計図ということから、その性質上主として線を用い、これに当業者間で共 通に使用されている記号や数値を付加して二次元的に表現するものであっ て、その表現形式の選択の余地は多くない。したがって、同一の機械を設 計図に表現するときは、おのずから類似の表現にならざるを得ないから、

これが創作的に表現されたものであること (著作権法 2 条 1 項 1 号) を認 めるに足りない。したがって、本件設計図が著作権法上保護される著作物 であるということはできない (なお、設計図に表された機械については、

著作権ではなく、工業所有権によって保護されることがあるにとどま る。)。」

参照

関連したドキュメント

(9)コンピュータ・グラフィックスを使用した図

項      目 特       記        事       項 1.施行基準

電波法における基準認証制度の概要②

建築設備 建築設備 建築設備

この事件に対するレポートとして、Jonathan Band は HathiTrust 事件控訴審判決の図書館 に対する意味を検討したものを Library Copyright Alliance (LCA)

(図書館等における複製) 第三十一条

CAD 製図基準に沿った図面の作成方法を、新規図面から作成、 および既存図面・DXF

クラスといえる。 2.3 クラス図とソースコードの違い