台湾保険法の動向について
―― モラル・ハザード防止規定を中心に ――
菊 池 直 人
Ⅰ はじめに
Ⅱ 台湾保険法について
Ⅲ 主要な改正点
Ⅳ おわりに
Ⅰ はじめに
今世紀以降の台湾保険市場は目覚ましい急成長を遂げており、一人当た りの平均保険支出額や全体の保険普及率は、世界的に見ても上位となって いる
(1)。
そのような中、台湾保険法が大きく改正されることが、監督管庁である 台湾金融監督管理委員会保険局より発表された
(2)。台湾保険法は契約法と業 法より成り立つが
(3)、保険契約に関する規定については、大幅な修正を加え
( 1 ) Swiss Re Institute, sigma 2019 No 3, p. 22. 台湾の一人当たりの平均保険支出額(保険 密度;生命保険と損害保険の保険料支出額合計)は 5,000 米ドル以上と世界 5 位であり(先 進国平均3,737米ドル)、保険普及率(保険料/GDP)については20%以上(先進国平均7.8%)
と先進国中 1 位である。
( 2 ) 金融監督管理委員會公告「預告「保險法」部分條文修正草案(2018 年 12 月 28 日)」
https://www.ib.gov.tw/ch/home.jsp?id=38&parentpath=0,3&mcustomize=lawnotice_
view.jsp&dataserno=201812280001 (最終閲覧日 2019 年 9 月 1 日)。
( 3 ) 以前の台湾保険法体系では、保険法、保険法施行細則、保険業管理弁法とで構成されて おり、保険業管理弁法が保険業法の特別法とされていたが、2009 年に保険法に統合される 形で廃止された。なお、2002 年には保険募集に係る監督法として「保險業招攬及核保理賠 辦法」が制定されている。
ることなく現在に至っている。契約法の改正について、台湾では、1937 年以来 80 年ぶりの改正であると報道されている
(4)。台湾は、民商統一法典 であり、会社法や手形法、保険法等が特別法として立法されている。そし て、これら商事特別法の多くが 1929 年に制定された。ところが、保険法 については施行されず、1937 年に全改正されている。国民政府が台湾に 移転した後、保険法は 1963 年に大幅改正されて現行法となっている。そ うなると、55 年ぶりの大改正ともいえるが、後述するように、利益主義 を 1937 年改正法より採用して現在に至る点を考慮すると、上記表現もあ りうるのだろう。
主な改正内容については、学説・判例で通説とされているものの改正さ れず放置されていた点や、消費者保護の観点から導入が見込まれている点 など多岐にわたる。本稿では、台湾保険法を概観したうえで、契約法に関 する改正の内容を示し、我が国への示唆を得ることを目的とするが、特に 注目するのは生命保険契約についてである。生命保険契約について、台湾 保険法は所謂利益主義を採用するが、同国保険法の特長としては、他にあ まり例を見ない被保険者中心主義が挙げられよう。他人の生命の保険契約 における被保険者についての規定では、被保険者がなした同意は、制限な くいつでも撤回することが可能であるし(台湾保険法第 105 条 2 項)、また、
保険金受取人の指定・変更権についても、被保険者が留保する(第 5 条)。
ただし、上記のような立法でありながら、学説上は英米法と大陸法双方の 立場から様々な論点について議論されているのも事実である。例えば、被 保険利益についていえば、その必要性や機能、内容、主体および存続期間 についても争いがある。これらの点につき、法改正と利益主義に係る近時 の議論について検討したい。
最初に台湾保険法の概要を確認したのち、モラル・ハザード防止規定(被 保険利益規定、他人の生命の保険契約における被保険者同意、制限行為能 力者を被保険者とする生命保険契約)と関連する議論をとりあげる。その
( 4 )「保險法修正草案公布,契約法擬修正數,調整幅度最大」台灣銀行家 2019 年 4 月號 92 頁。
(816)
後、保険法草案の重要な改正点につき、検討を加えるものとする。なお、
上記のような問題意識から、取り上げるトピックについては生命保険に関 する規定が中心となることをおことわりする。
Ⅱ 台湾保険法について
1 沿革
台湾の法と歴史を考える場合、立法主体をどう捉えるかで見解が異なる。
国民政府による保険法は、1929 年 12 月の立法に遡る。業法を含まず契約 法のみ全 82 条から構成されていたが、戦時中の混乱にあって施行される ことがなく 1937 年 1 月に全部改正されている。しかしながら、1937 年改 正法もやはり戦乱のため未施行に終わっており
(5)、1963 年の改正法まで待 たねばならない。1963 年改正法は、178 条全文が改訂され、保険業法も含 む内容となっている。実際には再制定法であり、実質的にも台湾で最初の 保険法である。
一方、「台湾島における保険事業と法規制」として捉えた場合、日本統 治下の日本法時代(1895-1945 年
(6))、終戦後の公営企業期を経て、1960 年 代以降に国内保険会社による市場参入がなされた現行保険法時代に分類す ることができる(1963 年改正法)。1990 年代後半以降は、市場開放により 保険会社の新規設立が解禁され、2000 年以降台湾保険市場は目覚ましい 急成長を遂げている。その結果、一人当たりの平均保険支出額や全体の保 険普及率は、世界的に見ても上位となっている
(7)。生命保険市場について補 足すると、戦後から 1960 年代までの公営期には競争がなかったために市 場の成長が遅れていたが、1960 年代以降は経済発展に伴う人口の都市部
( 5 ) 施文森『保險法總論(9 版)』(1990 年)1 頁参照。
( 6 ) 曽耀鋒「戦前の日本生命保険会社の台湾進出 ― 公衆衛生と法律基盤を中心として」
生命保険論集 159 号 113 頁以下(2007 年)参照。
( 7 ) Swiss Re Institute, loc. cit. 台湾生命保険市場の普及率、主力生保商品の推移について は、曽耀鋒「台湾における変額保険の導入と展開」保険学雑誌 615 号 225 頁以下(2011 年)
参照。
集中と核家族化が進展し、生命保険制度は、それらの核家族世帯の私的生 活保障制度として広く普及していった。
ちなみに、台湾では、日本、韓国と並んで急激な少子・高齢化が進展し ており、介護保険や年金保険、終身医療保険など老後に向けた保険商品の 需要が高まっている
(8)。私保険と対をなす社会保障制度についていえば、年 金制度が被用者保険と住民保険からなり、被用者保険は職業別の総合保険 となっている。業務外の病気やケガを理由とする医療給付は、1995 年に 全住民を対象とする全民健康保険が実施された。前述したように、高齢化 が急速に進んでおり、年金保険の受給開始年齢の引き上げが急務とされて いる(現在は、公務員・教職員が 55 歳から、その他の労働者が 61 歳、農 民など国民年金の被保険者は 65 歳からとなっている
(9))。なお、少子・高齢 化に関する保険業法の改正について触れると、これまで保険会社による出 資が制限されていた介護福祉施設の運営参画が可能となる法改正がなされ ている(2018 年改正法 146 条)。台湾での少子化・高齢化の進行の影響を 受けて、介護施設への資金提供者を拡大する狙いがあるのだという
(10)。
2 台湾保険法の構成
台湾の保険法は、保険契約に関する規定(第 1 章から第 4 章)、保険業
( 8 ) 曽・同上 227-230 頁参照。死亡保障(あるいは生死 混合保障)から生存保障へのニー ズの変遷、あるいはアメリカ生保会社による医療保険への市場参入や介護保険や年金保険 への人気の高まりなど、日本市場との類似性もみられる。なお、2000 年代以降の低金利環 境を原因として、台湾においても変額保険が販売されることとなった。その導入にあたっ ては、アメリカ駐台商会(American Chamber of Commerce in Taipei)より提案があっ たという。
( 9 ) 根岸忠「台湾の年金制度」『年金と経済』第 37 巻 2 号 94-96 頁(年金シニアプラン総合 研究機構、2018 年)参照。
(10) NNAASIA アジア経済ニュース「保険業の介護施設投資、「保険法」改正で解禁へ(2018 年 5 月 9 日)」。なお、同改正をめぐっては社会福祉団体が運営する介護事業が保険業に席 捲されるのではないかとの懸念が出ている。これに対し、監督官庁の金融監督管理委員会は、
保険業の出資比率について上限を設ける現行規定がバランスとして望ましいとの考えを示 し た。https://www.nna.jp/news/result/1760052#%E5%8F%B0%E6%B9%BE%E3%80%80
%E4%BF%9D%E9%99%BA%E6%B3%95(最終閲覧日 2019 年 9 月 1 日)
法(第 5 章)、附則(第 6 章)で構成されている。1963 年の大改正以降、
30 回程の改正がなされているが、多くは業法部分に関する規定の修正で あり、契約法についての大幅な改正は今回が初めてとなる。なお、生命保 険契約に関する改正点では、モラル・ハザード防止の観点から、保険契約 者の告知義務規定である第 64 条、未成年者を被保険者とする死亡保険に ついての第 107 条が度々改正されている。
以下は、現行法の構成である。第 1 章は総則規定であるが、第 14 条以 下で財産保険及び人身保険につき被保険利益の項目を設けている。第 2 章 で契約規定を置き、第 3 章以下で保険分類ごとの規定を設けている。
保険の分類について、台湾では、財産保険と人身保険とに区分している。
第 3 章財産保険には、火災保険(第 70 条以下)、海上保険(第 83 条以下)、
陸空保険(第 85 条以下)、責任保険(第 90 条以下)、その他財産保険(第 96 条以下)の規定を置く。第 4 章人身保険では、生命保険(第 101 条以下)、
健康保険(第 125 条以下)、傷害保険(第 131 条以下)、年金保険(第 135 条の 1 以下、1992 年改正法で新設)となっている。
第 5 章は保険業法に相当する規定である。監督官庁は金融監督管理委員 会である。保険業法ひいては保険監督の目標は保険加入者の権利と利益を 保護することであるが、それは個別の加入者救済を目的とするのではなく、
集合的な保護を目的とする。いうまでもなく、個々の加入者についての救 済は、保険法及び保険契約に基づき裁判所によって提供される。したがっ て、監督官庁たる金融監督管理委員会が、個々の契約について解釈する法 的権限は有しないが、実際には金融監督管理委員会の意向が裁判所の判断 に少なからず影響を及ぼしていることも指摘されている
(11)。なお、台湾にお いても、生損保兼営禁止規制が置かれているが(第 138 条)、健康・傷害 保険の営業については、主務官庁の許可を受けることで可能となる(同上 但書)。この点については、傷害保険を損保会社が営業できないことにつ
(11) 葉啟洲『保險法』(元照出版、2019 年)6 頁参照。行政機関の意向が司法に影響を及ぼ した事例として、臺灣臺中地方法院 102 年度保險字第 21 號判決が挙げられている。この ような現象は、権力分立の原則に反しており、問題であると指摘する。
き損保業界から異議があり、1992 年の法改正によって、主務官庁の許可 を得て付加方式で営業をおこなうことの合法化を図った
(12)。
保険法の適用範囲であるが、私法上の保険契約全てに適用される(強制 自動車責任保険、住宅地震保険など)。公的保険関連事業については、台 湾の社会保障制度に関連するそれぞれの法律が適用される(国民健康保険 法、労働保険条例、公務員保険法、農民健康保険条例、軍人保険条例、国 民年金法など)。
3 モラル・ハザード防止規定について
( 1 )概要
保険契約法の基本原理について、台湾の保険法の教科書などを見ると、
モラル・ハザードの防止、利得禁止原則(損害填補原則)、最大善意原則 等が挙げられており
(13)、保険契約の性質についての理解は我が国と大きく変 わるところはない。保険給付を受けるために故意に保険事故を生じせしめ る行為は、射倖契約たる保険制度に不可避的な現象であるものの、可能な 限り防止・排除するべきであり、これを防止するために強行規定を設ける のは、各国立法に共通するところである。台湾保険法における、主なモラ ル・ハザード防止規定は以下の通りである。
① 保険契約者または被保険者が保険の目的物に対して被保険利益を有しな い場合、当該保険契約は無効とする(第 17 条)。
② 他人の生命の保険契約の効力要件として被保険者の書面による同意を必 要とし(第 105 条第 1 項)、契約上の権利譲渡の場合にも同様に被保険 者の書面による同意(第 106 条)を必要とする。
③ 被保険者の年齢または制限行為能力者であるかによって死亡保険の保険 金額を制限する(第 107 条第 1 項、第 107 条の 1)。
④ 保険契約者または被保険者の故意により生じた事故に関しての免責規定
(12) 林輝榮「台湾商法と日本商法の比較」ジュリスト 999 号 113 頁(1992 年)参照。
(13) 汪信君・廖世昌『保險法理論與實務(第 4 版)』(元照出版、2017 年)5 頁以下参照。
(第 29 条 2 項、第 109 条第 1 項、第 121 条第 3 項、第 128 条、第 133 条)
⑤ 保険金受取人による被保険者の故殺の場合の、当該保険金受取人からの 保険金請求権の剥奪(第 121 条第 1 項)
生命保険契約について被保険利益を要求しながら、他人の生命の保険契 約については書面による同意を必要とする。我が国学説では、利益主義と 同意主義とを対立的に捉えることが多いが、台湾保険法においてはそうで はなく、基準の異なるモラル・ハザード防止規定にすぎないようである。
被保険利益の要求は立法者が定める客観的な基準であり、被保険者同意は 主観的判断による基準である。
以下、生命保険契約における主なモラル・ハザード防止規定について確 認していく。
( 2 )被保険利益について
台湾保険法では、第 1 章総則規定の第 2 節第 14 条以下で財産保険及び 人身保険について被保険利益の項目を設けている。英米法の利益主義の影 響を受け、生命保険契約においても被保険利益を必要とするところが、我 が国立法と異なっている
(14)。
被保険利益が何を指すかについてであるが、人身保険については、被保 険者自身の生命、身体及び健康に対する経済的、精神的、または感情的な 利益を指す
(15)。イギリス法上の厳格な被保険利益主義、すなわち生命保険契 約における被保険利益を経済的利益に限定する立法ではなく、アメリカ法 に見られるような、血縁関係や愛情関係なども含む、拡大された被保険利 益概念を取り入れている。第 105 条の被保険者の書面同意の規定など、ア メリカ法の影響が強いことが窺える。
生命保険における被保険利益の機能についての理解も英米法と同様であ る。すなわち、賭博契約と区別し、モラル・ハザードを防止する機能であ
(14) ただし、後述するよう、他人の生命の保険契約においては被保険者による書面の同意も 要求するため、実際には英米法と大陸法両方の影響を受けているとされる。林群粥『保險 法論(第 2 版)』(三民出版、2007 年)40 頁参照。
(15) 葉・前掲注(11)94 頁参照。
る。一般的には、被保険者と契約者との間に、血縁関係や愛情関係、経済 的な利害関係があれば、モラル・ハザードをある程度防止できると考えら れるが、一方で、実際にモラル・ハザードを発生させるのもまた、上記の ような当事者間関係によることが多い。被保険利益によるモラル・ハザー ド防止機能は限定的であるとし、先に述べたように、被保険者の書面によ る同意も要求する(第 105 条)。
第 16 条では、生命保険契約において被保険利益を有する者が列挙され ている。生命保険において被保険利益を有するとされる者は、①本人とそ の家族、②生活費や教育費の扶養義務者、③債務者、④本人のために財産 または利益を管理する者である(第 16 条
(16))。なお、台湾保険法が利益主義 を採用したのが1937年改正法であり、その当時から列挙事由の変更はない。
第17条は、被保険利益を有しない場合の保険契約についての規定である。
保険契約者または被保険者が保険の目的について被保険利益を有しない時 は、保険契約はその効力を失うとしている
(17)。したがって、第 16 条に列挙 以外の者が保険契約を締結した場合、その契約は無効となる
(18)。
以上が生命保険契約に関する被保険利益の規定である。保険法は明文で 生命保険契約に被保険利益が必要であるとするためその適用を排除できな いが、学説上は、被保険利益の必要性、内容、主体、および存続期間につ いて争いがある。
生命保険における被保険利益の必要性について、肯定説は被保険者同意の
(16) 第 16 条「要保人對於左列各人之生命或身體,有保險利益:一 本人或其家屬。二 生 活費或教育費所仰給之人。三 債務人。四 為本人管理財產或利益之人。」。この列挙事由は、
アメリカ法、例えばカリフォルニア州保険法 10110 条と類似する。すなわち①本人、②扶 養義務者、③債務者について被保険利益を認める。Ca. Ins. Code § 10110. [“Every person has an insurable interest in the life and health of: (a) Himself. (b) Any person on whom he depends wholly or in part for education or support. (c) Any person under a legal obligation to him for the payment of money or respecting property services, of which death or illness might delay or prevent the performance. (d) Any person upon whose life any estate or interest vested in him depends.”]
(17) 第 17 条「要保人或被保險人,對於保險標的物無保險利益者,保險契約失其效力。」
(18) 臺北地方法院 97 年度保險字第 41 號判決では、従業員の生命について被保険利益を有し ないとして、会社を契約者とする生命保険契約を無効とした。
みではモラル・ハザードを防止できないとする。むしろ、被保険利益概念の みでもモラル・ハザードは防止できないとして、両者を併用することに重点 をおくようである
(19)。一方、否定説にはいくつかの立場がある。そもそも被保 険利益を生命保険に適用することが妥当ではないとするものから、モラル・
ハザード防止機能が期待できないとするもの等である。例えば、保険金額を 決定づける被保険利益の機能は、被保険者の生命、身体、および健康の価値 について客観的な基準がないため、生命保険では明らかに利用できず妥当で はないとする
(20)。モラル・ハザードを防止する点についていうと、問題となる のは多くの場合、「保険金受取人」によるモラル・ハザードであり、第 16 条 の「保険契約者」が被保険利益を具備するとする現行法は妥当ではないとす
(21)
る
。なお、保険金受取人が被保険利益を具備する必要があるかについては明 文規定がないため、この点についても学説上争いがある
(22)。
被保険利益の存続期間についてであるが、台湾通説では、財産保険と区 別し、契約成立時のみに存在すればよいとされる
(23)。なお、これまで明文化 されていなかったため、今回の改正草案は通説を採用して、第 16 条 2 項 を追加し「保険契約時に保険契約者が被保険者の生命または身体について 被保険利益を有しない場合は、その契約を無効とする」としている。ただ し、モラル・ハザード防止の観点から、継続的に被保険利益が必要である とする説も有力に主張されている
(24)。なお、アメリカにおいても、契約締結 時においてのみ被保険利益を要求するルールでは、モラル・ハザードを回 避できないという懸念から、近時は被保険者の死亡時にも被保険利益を要 求する主張がなされている
(25)。
(19) 林勳發『商事法精論 ― 保險法(第 5 版)』(今日書局、2007 年)607-608 頁参照。
(20) 江朝國『保險法基礎理論(第 4 版)』(瑞興圖書、2002 年)89 頁参照。
(21) 江・同上 520 頁参照。
(22) 張冠群「臺灣保險法關於人身保險利益諸問題之再思考」『批判性思考下之保險法立法與 判決』(元照出版、2017 年)64-65 頁参照。
(23) 張・同上 61 頁参照。
(24) 江朝國『保險法逐條釋義(第 1 巻)』(元照出版、2012 年)549 頁参照。
(25) 梅津昭彦「アメリカ法における生命保険契約と利益主義の展開 ― 保険法の成立を契 機として ― 」生命保険論集第 172 号 39-46 頁参照。
( 3 )被保険者の書面による同意について
被保険者による主観的なモラル・リスク評価について、台湾保険法は 3 段階用意する。一つは契約締結前における評価であり、二つめは契約締結 後の評価、三つめは契約上の権利譲渡が行われる場合の評価、である。一 つ目に相当するのが、契約締結前の被保険者同意である。前述のように、
台湾保険法では、他人の生命の保険契約について被保険利益を必要とする 外に書面による同意も必要とする。書面による同意なき他人の生命の生命 保険契約は無効である(第 105 条 1 項)。この点も、アメリカ各州の立法
(26)と同様とみることができる。同規定が導入された 1963 年法時、すでにア メリカにおいては他人の生命の保険契約について被保険者の書面による同 意を求めることが判例や立法によって確立しており
(27)、その影響があったと 想像される。
同意の性質は、意思の通知であり、民法の意思表示の規定が適用される。
未成年の場合、民法の規定に従って、法定代理人による代理による同意が 認められるはずであるが、被保険者による同意は、被保険者の人格権の保 護と、被保険者の主観的に判断によってモラル・ハザードを回避すること が目的である。したがって、判例は法定代理人による同意を認めていない
(28)。 同意の内容については、契約内容だけでなく保険金額についても同意する ことが必要である。
契約締結後のモラル・リスク評価の機能として、台湾保険法は被保険者 による同意の随時の撤回を認める(第 105 条 2 項)。同規定は 2001 年 7 月 の法改正で追加された。これについて立法者は、「被保険者が他人の生命
(26) 例えば、ニューヨーク州保険法 3205 条⒞では、被保険者の書面による同意なき人保険 契約を締結ないし発効させてはならないとしている。New York Insurance Law, Article 32 §3205(c).
(27) 藩阿憲「生命保険契約における被保険利益の機能について ― 英米法及び中国法の視 点から」文研論集第 129 号 137-139 頁参照。
(28) 臺灣高等法院 91 年度保險上字第 54 號判決「…この被保険者同意は一身専属性をもち、
したがって法定代理人による同意は適用されず、本人が行うべきである(…此被保險人同意,
具有專屬性,應由本人為之,不適用法定代理人代理同意)」。
の保険契約につき同意した後、状況の変化によって被保険者の生命に危険 が及ぶ場合、被保険者は契約上の当事者でないので、契約を解除する権利 を持たない。モラル・ハザードの回避と被保険者の人格権の保護の観点か ら、第 105 条 2 項の規定が追加された
(29)」としている。同意の撤回は書面に よる通知で行い、その相手方は保険者及び契約者である。被保険者が同意 の撤回を行った場合、契約者が保険契約を解除したものと看做す
(30)。同意の 撤回により契約が解除された場合、保険契約者には保険料のみが返戻され る。保険契約者が、同意の撤回によって被った損失の補償を、被保険者に 対して請求することは認められない
(31)。
また、契約上の権利譲渡の場合にも同様に被保険者の書面による同意(第 106 条)を必要とする。
その他、被保険者に係る規定として、保険金受取人の指定権がある。第 5 条は保険金受取人の定義規定であるが、保険金受取人は被保険者あるい は契約者に指定されたものとしている。他人の生命の保険契約において被 保険者は独自に保険金受取人を指定することができる一方、契約者は被保 険者の同意を得なければ指定することができない。受取人の変更において も同様である。したがって、保険金受取人の指定・変更権は実質的に被保 険者に帰属する
(32)。このようなことから、台湾学説は、生命保険契約におけ
(29) 立法院國會圖書館立法院法律系統「法條沿革保険法」(最終閲覧日 2019 年 9 月 9 日)。
https://lis.ly.gov.tw/lglawc/lawsingle?00137518A609000000000000000003200000000700000 0^04520107051800^0005B001001
(30) 第 105 条「由第三人訂立之死亡保險契約,未經被保險人書面同意,並約定保險金額,其 契約無效。二 被保險人依前項所為之同意,得隨時撤銷之。其撤銷之方式應以書面通知保 險人及要保人。三 被保險人依前項規定行使其撤銷權者,視為要保人終止保險契約。」
(31) 臺灣新北地方法院 105 年度家訴字第 34 號判決。
(32) 同様の立法例として中国保険法(中華人民共和国保険法)がある。第 39 条以下で、被 保険者による保険金受取人の指定・変更について規定している。なお、李鳴「中国保険法 の人保険契約における保険金受取人をめぐる諸問題」保険学雑誌615号205頁以下(2011年)
参照。中国保険法でも、被保険者は保険金請求の権利を有する者としている(法 12 条 5 項)。
しかも、被保険者は誰かに指定されることもなく、原始的な保険金請求権者であるとなっ ており、台湾と同じ趣旨だと思われる。保険金受取人の保険金請求権は被保険者からあら かじめ譲渡されるものであり、被保険者が享受する保険金請求権の実現にすぎないのだと いう。
る保険金受取人指定の主体は被保険者であるとする
(33)。これについて若干補 足すると、台湾保険法では被保険者が本来的な保険金請求権者であり(第 4 条)、また、人格権の保護、モラル・ハザードを防止する観点からも、
実質的な決定権が被保険者に帰属する。
被保険者が本来的な保険金請求権者である規定に、保険金受取人先死亡 における保険金請求権の帰属がある。保険金受取人の請求権は、保険事故 発生時に保険金受取人が生存していることが条件であるが、台湾保険法は、
保険事故発生前に保険金受取人が死亡した場合は、請求権は消滅する(第 110 条 2 項)。保険金受取人の指定なく被保険者が死亡した場合、保険金 は被保険者の相続財産となる(第 113 条)。諸外国の立法を見ると、保険 金受取人先死亡の保険金請求権については、かつては被保険者に帰属させ ていたドイツやフランスも、現在は保険契約者に帰属させる立法となって いる点と異なっている
(34)。
( 4 )未成年者を被保険者とする生命保険契約について
生命保険に関していえば、モラル・ハザード防止の観点から、未成年者 を被保険者とする死亡保険についての第 107 条規定が、度々改正されてい る。1963 年法では、14 歳以下の未成年者及び制限行為能力者を被保険者 とする保険契約は無効としていたが(旧第 107 条
(35))、未成年者を被保険者 とするモラル・ハザード事件の事例は稀であるとして、1992 年改正で一 旦削除された。しかし、実際に児童を被保険者とする保険金事件を契機と して、2001 年に再び法改正がなされ、保険金額は葬儀費用相当額に制限 する措置がなされた(当初は 100 万元、その後 200 万元に調整された)。
(33) 江朝國『保險法基礎理論』(瑞興圖書、2009 年)。
(34) 李鳴「第三者のためにする生命保険契約本質論」慶應義塾大学学術情報リポジトリ 198 頁(2014 年)参照。なお、同論文では、我が国立法が、諸外国に例を見ない「保険金受取 人中心主義」に移行していった点を指摘する。
(35) 1963 年改正保険法 107 条「以十四歲以下之未成年人,或心神喪失或精神耗弱之人為被 保險人,而訂立之死亡保險契約無效。二 保險人或要保人故意違反前項之規定者,處一年 以下有期徒刑拘役或五百元以下罰金」。1974 年改正法では、同規定の内容を維持しつつ、
罰則規定を強化する改正が行われた。
その後、200 万元という葬儀費用は死亡保障と変わらないという指摘及び 保険金詐取事件が発生したため、2010 年の法改正によって、規制年齢を 15 歳に引き上げた。そのうえで、15 歳未満の未成年者を被保険者とする 保険契約については被保険者が満 15 歳になった日から有効とし、15 歳よ り前に死亡した場合、保険料及びその利息のみが支払われることとなった。
傷害保険については年齢規定がなかったため、翌 2011 年金融監督管理委 員会は、保険各会社に対して、保険金詐欺事件に対処するため、支払金額 について厳格基準で審査するようガイドラインを定めるよう求めている。
前述したように、他人の生命の死亡保険契約が締結される場合、被保険 者が未成年であったとしても、法定代理人が代理することはできない。た だし、未成年者が書面で合意した後については、法定代理人の同意が必要 であるとされている。民法は未成年者の意思表示につき法定代理人に同意 する権限を与えているが、この趣旨は制限行為能力者である未成年者を保 護するためであり、モラル・ハザードを評価するためにも、未成年者の書 面による同意については法定代理人による同意が必要であり、これによっ て効力が生じるとされる
(36)。
未成年者を被保険者とする生命保険契約の規制は、以上を経て現在に至 るが、2016 年の台湾南部地震
(37)や台風などの自然災害、2018 年 10 月の特急 脱線事故など、子どもが犠牲になる災害・事故が多発したことから、同条 の規定について以前のように葬儀費相当額の保険金が支払われるよう改正 を求める声が上がっている
(38)。
(36) 葉・前掲注(11)502 頁参照。
(37) 2016 年 2 月 6 日、台湾南部の高雄市を震源として発生した地震。震源の深さ 16.7 キロ、
マグニチュードは 6.4 で、ほぼ全島で揺れが観測された。地震による死者は 117 名となった。
なお、台湾はユーラシアプレートとフィリピン海プレートの境界付近に位置しているため、
地震が起きやすい地帯である。1999 年の台湾中部大地震(921 地震)はマグニチュード 7.7、
死者は 2400 人以上とされている。
(38) 聯合報「保險法 107 條反覆修正 風險和保障零交集」2018 年 12 月 6 日 https://udn.com/
news/story/7239/3521064(最終閲覧日 2019 年 9 月 1 日)
( 5 )保険契約者または保険金受取人による事故招致
第 121 条は、保険契約者または保険金受取人による被保険者故殺につい ての規定である。保険契約者による被保険者故殺の場合(第 121 条 2 項)、
保険者が免責される点は、我が国保険法第 51 条と同様である。なお、保 険料積立金が 2 年以上支払われていた場合、「然るべき者(應得之人)」に 保険料が返戻される。立法者によると、この「然るべき者」とは被保険者 の相続人であるという
(39)。その理由は、「保険契約者または保険金受取人が 保険契約の利益を剥奪された場合、保険金賠償請求権は被保険者が回復す る。ただし、既に被保険者は死亡して、当該請求権が行使できない場合、
被保険者の法定相続人がその利益を享受することが適切である」としてい る。
保険金受取人による被保険者故殺の場合は、当該保険金受取人の保険金 請求権が剥奪される(第 121 条 1 項)。この時、他に保険金受取人が存在 しない場合、その保険金は被保険者の相続財産となる。
Ⅲ 主要な改正点
ここでは、台湾金融監督管理委員会保険局が発表した台湾保険法改正案 について概観していく。金融監督管理委員会は、今回の改正理由について、
国内の社会経済環境の変化や現行法が想定しなかった事態を考慮し、保険 業界からの要望や消費者保護の観点から改正案を起草したとしている。
改正のポイントとして 4 つあるとされている
(40)。一点目は、法の不備や未 整備とされた条文の改善である。重複保険の人保険への適用除外など、学 説・判例の批判があったにもかかわらず改正されなかった点なども含まれ る。これまで規定がなかった団体保険への対応、契約者・被保険者の告知 義務についての規定、クーリング・オフ期間の延長などが挙げられる。
(39) 立法院國會圖書館立法院法律系統・前掲注(29)参照。
(40) 經濟日報「保險法大翻修 聚焦四重點」2018 年 12 月 21 日(最終閲覧日 2019 年 9 月 10 日)。
https://money.udn.com/money/story/5613/3549143
二点目は、フィンテックへの対応である。現在の台湾保険法は、争いは あるが要式契約とされており、契約締結において書面の交付が義務付けら れている。また、被保険者による同意など、一定の手続きにおいても書面 の交付が義務付けられている。今後、完全なネット型保険会社の運営を可 能とするため、書面の交付を義務付けていた規定については、監督官庁が 認める方式であれば可能であるとした。将来的には、指紋認証や映像認証 など電子的方法での個人認証を用いた手続が可能になると期待されている ようである。その他、保険会社による、信用情報機関への個人情報の照会、
ビッグデータの活用なども視野に入っているようである。
三点目は、要物契約から諾成契約への転換に係る修正である。保険法 21 条の規定から、要物契約とされてきたが、実務では諾成契約として処 理されており、近年の学説・判例でもこれを支持している。
四点目は罰則に関する規定の強化であるが、今回は省略する。以下、重 要と思われる改正点を挙げる。
①団体保険について(改正法案 16 条、135 条の 5、135 条の 6、135 条の 7
(新設))
台湾保険法は、生命保険にも被保険利益を求めるが、現行法第 16 条 の規定では団体保険契約の契約者にも被保険利益が必要なのか明らかで なかった。実務においてはモデル約款によって運用されていたが、改正 案では、被保険利益は団体保険においては適用されないとした(改正案 16 条)。改正案 135 条の 5 は団体保険の定義である。当該団体を団体保 険における契約者、団体の構成員及び家族を被保険者と定義した。135 条の6は、死亡保険を除く団体生命保険の保険金受取人は被保険者であり、
いかなる方法でも変更されないとした。また、団体死亡保険契約の場合
の保険金受取人は、他の法律や被保険者が指定した家族その他の近親者
を指定する他は、被保険者の法定相続人に限定されるとした。第三者の
計算による(für fremde Rechnung)他人の生命の保険契約である団体
生命保険契約では、契約上の権利はもとより従業員たる被保険者に帰属
(41)
し
(実質的な契約者であり、かつ自己に被保険利益を有する)、それ故、
保険金受取人の指定権についても被保険者には帰属するが、改正案 135 条 の 6 は、団体保険の意義から、法定の保険金受取人を限定したうえで、上 記について明文化したものであるといえよう。135 条の 7 は団体年金保険 契約を定める。
②危険増加の通知義務、契約締結時の告知義務について(改正法案 59 条、
64 条)
契約者のみに課されていた、契約締結時の告知義務、危険増加の通知義 務を、被保険者にも課すとする改正案である。台湾では、財産保険、人身 保険を問わず、告知義務者を保険契約者であるとしているが、これは長ら く立法上のミスと指摘されてきた
(42)。実務上の約款では被保険者も告知義務 を負うとしている。
現行法 59 条は、保険契約の締結後、保険者が引き受けていた危険が増 加した場合の、保険者に対する契約者の通知義務を定める。危険増加の効 果は、保険料増額もしくは契約の解除である。保険契約者が保険料の増額 に同意しなかった場合は、契約は終了する。なお、危険が減少した場合、
被保険者は保険者に対して保険料の減額を請求することができる。改正案 では、第三者のためにする保険契約を念頭に、契約者のみが負っていた通 知義務を、被保険者にも拡大した。保険の危険については、被保険者が最 も精通していると考えられるからである。
法 64 条は、契約の告知義務についての規定である。告知義務違反の効 果として、保険者は解除権を行使することができる(ちなみに、法 25 条は、
告知義務違反により解除された保険契約につき、保険者は保険料を返還す る必要はないと規定する)。改正法案では、書面による告知に加えて、主 務官庁が認める方式での告知方法を追加し、これまで学説及び判例で指摘
(41) 今井薫「他人のためにする保険契約は、本当に第三者のためにする契約か ― ドイツ VVG 改正を契機として ― 」保険学雑誌 613 号 253 頁(2011 年)参照。
(42) 林・前掲注(12)114 頁。
されていたように、被保険者も告知義務者として追加した(改正法案 64 条 1 項)。また、解除権が行使できる期間については、解除の原因となる 事由を知ってから 1 か月間行使しなかった場合もしく保険契約の締結から 5 年間の経過で消滅するとし、現行法の 2 年間から延長となった。
③諾成契約であることの明文化(現行法 21 条削除、改正法案 43 条、44 条)
現行法制では、保険契約が諾成契約なのか要式・要物契約なのか明確で なかった。条文文言と、学説・判例での解釈に乖離があったため、改正法 案は不要式・不要物の諾成契約であると明文化した。
現行法 21 条は、第 1 回目の保険料支払いを保険契約成立前に要求して いる。条文文言から、保険契約を要物契約とする学説もあるが、通説は不 要物契約であるとしており、判例も支持している
(43)。保険実務も同様である。
これを受けて、改正法案では同条を削除することとした。また、改正法案 55 条では、保険契約が締結された際の、保険者の、契約者に対する、法 定事項を記載した書面(その他主務官庁が認める方式)の交付義務を定め ており、そこに保険料の支払方法が追加された。立法者による説明では、
同条は日本法 40 条の規定を参照したという。
改正法案 43 条は、保険契約は諾成契約であることを明文化した。保険 契約が要式契約か不要式契約かについても争いがあったが、現在通説は諾 成契約と理解されている。
④重複保険の定義および範囲について(改正法案 23 条、35 条、37 条、
38 条)
台湾法は、重複保険を第 1 章総則に規定を置いているため、人身保険に も適用されうるかにつき争いがあった。主な理由は、重複保険の規定が総 則にあり、人身保険についての適用除外がないということ、その他理由と しては、財産保険よりも射幸性が高い契約であり、既に財産保険に適用さ
(43) 最高法院 97 年度台上字第 1950 號判決。
れるならば、人身保険にも適用可能である等である
(44)。改正法案 35 条では、
重複保険を「同一の保険者による、保険目的物、被保険利益を同一とする 数個の保険契約で、かつ保険金額の合計が保険の目的物の価額を超えるも の」とした。したがって、立法者の説明によれば、本条改正をもって、定 額給付の人身保険への適用は排除されるとした。
⑤保険契約の義務履行に係る、保険者の情報入手に関する規定(改正法案 29 条 4 項 5 項)
現行法 29 条は、契約者等の不可抗力・過失を原因とする損害について の保険者の責任と、被保険者が死亡した場合の契約者による保険者への通 知義務を定める。1 項で保険者は、不測・不可抗力を原因とする損害につ いて責任を負うと定め(特約ある場合を除く)、2 項で契約者又は被保険 者の、過失を原因とする損害についても責任を負うと規定する。3 項は 2015 年改正で追加された規定で、若干混乱するが、被保険者が死亡した 場合の契約者の通知義務を定めている。保険者は、契約者の通知に基づき、
所有する保険金受取人の住所あるいは連絡方法で通知する。2015 年当時 の立法者の説明では、被保険者が死亡した場合、保険金受取人の権利に悪 影響がないよう、契約者に通知義務を課したとしている。
改正案 29 条 4 項は、現行法 3 項を補足する形で追加されたものである。
すなわち、保険者が契約の義務を履行するにあたり、保険金受取人等の情 報を入手できず、契約約定の義務を履行できないことを防止するため、関 連する個人情報を保有する公的機関又は信用情報機関などの民間組織に、
当該情報について照会することができるとした。5 項では、前項の規定に より戸籍事務所に申請した保険者は、戸籍法に定める利害関係者とすると した。
(44) 林勝安『保險法』(書泉出版社、2013 年)61 頁。
⑥クーリング・オフに関する規定(改正法案 55 条の 1(新設))
改正法案 55 条の 1 は、二年間以上の人身保険の保険契約者は、保険契 約書の引渡しの翌日から(於保險契約送達之翌日)14 日以内に、書面そ の他約定の方式によって、保険契約の申込みの撤回が可能であるとした。
保険契約締結時、保険者は、契約者に対して、申込の撤回が可能であるこ と及びその効果について、書面または主務官庁に認められた方式によって 明示しなければならない(同条 3 項)。
申込みの撤回については、保険法に規定はなかったため新設された。実 務において、契約の申込みの撤回は 10 日間とされているが、本法により 消費者保護が伸長されると評価されている
(45)。ただし、消費者保護法 11 条 の 1 の規定(普通取引約款による契約の場合は 30 日間とする)が適用さ れないことについては批判もあるようである。
Ⅳ おわりに
以上、台湾保険法の概要および改正草案を概観してみた。
生命保険契約に関して、台湾保険法は、徹底した被保険者中心主義の立 場をとる。人格権の保護、モラル・ハザードを防止する観点からも、実質 的な決定権が被保険者に帰属する。保険者は本来的な保険金請求権者であ り(第 4 条)、保険金受取人先死亡の場合、保険金請求権は消滅し(第 110 条 2 項)、新たな保険金受取人の指定がなされなければ、保険金は被 保険者の相続財産となる(第 113 条)。これは保険金受取人による故殺の 場合も同様である(第 121 条 1 項)。
モラル・ハザードが問題となる他人の生命の保険契約では、被保険者は いったんなした同意をいつでも撤回可能であり、その効果は契約の解除で ある。我が国では、被保険者の同意について、一方的・任意に撤回可能と
(45) 經濟日報「金管會:修正保險法契約撤銷權規定(2018 年 12 月 23 日)」(最終閲覧日 2019 年 1 月 9 日)https://money.udn.com/money/story/5617/3553488
してしまうと保険契約の効力があまりにも不安定になり、保険契約者、保 険金受取人あるいは保険者の利益を害するとして、長らく否定してきた。
現行保険法の被保険者による解除請求(保険法第 58 条)では、解除請求 事由の存否につき契約者に争う機会が与えられているが、実務における処 理の迅速性・簡便性という点では、台湾法の思い切った立法も評価できる かもしれない。ただし、いわゆる文化・風土の違いもあるので、そのまま 導入すればよいというわけではない。未成年者を被保険者とする生命保険 契約についても同様のことがいえよう。未成年者が犠牲になる保険金詐取 事件については、我が国は稀であるといわれており、実務ではガイドライ ンで一定の制限を定めながらも広く利用されている。台湾で長らく無効と されてきた未成年者保険を解禁した後は、世論に流される形で法改正を繰 り返す結果となったが、契約当事者にとってはそれこそ契約の効力が不安 定になる結果を招いたのではないだろうか。
改正法草案について、台湾保険業界は現在、「資金の流動性低下」「少子 高齢化」「フィンテック」という 3 つの課題に直面しているという
(46)。政府は、
これらに対し新しい政策を策定し、法令を改正することにより、良い投資 環境を構築することが期待されている。今回の契約法の改正案は、フィン テックへの対応を意識した点も多くみられ、我が国立法への示唆となるの ではないだろうか。
久々の大幅改正ということもあり、台湾では概ね好意的に受け入れられ ているようである。ただし、今後も研究者、実務からの検討が加えられる こととなろう。今後の動向について追って検討を加えたい。
(46) 萬國法律事務所「保険産業が直面している 3 つの課題に対し、政府が新しい政策を策定 する(2017 年 12 月 18 日)」(最終閲覧日 2019 年 9 月 12 日)http://www.taiwanlaw.com/
jp/news_detail.php?serial=2178