完全商品と不完全商品
その他のタイトル Complete and Incomplete Merchandise
著者 小西 善雄
雑誌名 關西大學商學論集
巻 19
号 3‑4
ページ 360‑378
発行年 1974‑10‑25
URL http://hdl.handle.net/10112/00021126
完全商品と不完全商品
(Complete and Incomplete Merchandise)
小 西 善 雄
1.
は し が き
商品は生産財と消費財とに大別される。両者はさらに再分類,再々分類を 繰り返し,極めて多種多様の商品種類に細別される。生産財は派生需要であ り,産業の需要が非弾力的でも個々の会社の当面する需要は極めて弾力的な 場合が多く,そのため市場価格が成立するという一般的特徴をもっている。
消費財とは最寄品,買回品,専門品,耐久消費財,非耐久消費財などに分類 されるが,さらに同質的買回品は完全な弾力的需要曲線に当面し強力な価格 競争が期待できる商品であり,価格が適正でなければならない商品である。
異質的買回品は価格よりも品質が重視される商品であり,製品品質が適正で なければならない商品である。
このようにして,現在の商品理論やマーケティングにおいては,商品のも
つ価格と品質の両者が正常なる商品を把握し研究を行なう努力に欠けてお
り,上述のように価格と品質のいずれか一方が正常なる商品を商品分類別に
取り上げているに過ぎない。そこでわれわれは商品を完全商品と不完全商品
に分け,商品の品質と価格の両面に総合的な鋭いメスを入れることが,商品
と市場機構の正常化に重要なる役割を演ずるものであると考え,本稿ではそ
の試論的な概要を述べようとするものである。
完全商品と不完全商品(小西)
(361) 135さて,資本主義社会における国公営企業および社会主義社会(科学的社会 主義を含む)の企業は例外であるが,資本主義的企業においては,当然のこ とながら巨大企業,大企業,中小企業を問わず,また商品の生産的企業であ ると商品の流通ないしサービス企業であるとを問わず,すべての企業は利潤
(とくに最大利潤)を目的として経営活動を遂行する。この利潤第一目的の ために,商品の品質と価格の両面に種々な矛盾や不正が生起し,その最たる ものは有害商品,危険商品,欠陥商品,公害商品などの形態をとり,国民経 済と個々の消費者に重大な社会的,経済的,肉体的かつ心理的影善を及ぽし ていることは否定できない事実である。しかしながら,商品の実体にはこの ような種々の矛盾や欠陥を内包しながらも企業の経営活動を維持するために 不可欠な中心要素として,生産,流通の両過程を経て最終消費者によって消 費されているのである。資本主義社会の不完全競争市場における商品は如何 に優秀な製品であっても利益計上の見込のないものは製品アイデアの段階で 早くも葬り去られ,製品開発段階まで生き残れるのは利益計上の可能性があ ると評価されたもののうちのごく少数であり,さらにそのなかから商業的可 能性をもって新製品として市場に登場する商品は極めて少ない。商品は生産 者,流通業者および消費者のすべてに密接に閲連し,相互に影署し,経済社 会発展の基礎を形成するものである。即ち経済は,商品の生産,流通,消費 によって始まるのであって,経済の拡大はそれらの総合的展開によってもた らされた結果である。このような経済における商品の循喋と発展は資本主義 社会および社会主義社会の如何を問わず,文明社会においては止まることな
く継続している。
商品の価値は品質と価格によって構成され,両者の総合研究によって商品
の優劣が評価されるのである。ここでいう品質とは商品学的総合品質(市場
品質)を意味する。商品の価格に襲する研究は経済学の研究領域として広く
行われているが,品質に関しては商品学においても経済学においても未だ十
分な研究が行われているとは言い難い。もっとも,生産工学,技術学,諸種
の専門工学および自然科学などの領域においては深く且つ高度な商品の品質
研究が行われているが,それらは商品のー局面の品質を研究しているもので あって(例えば自然科学的局面のみから,或いは生産工学的局面のみからと いうように)商品としての総合的品質すなわち商品学的品質を研究している ものではない。商品学的品質というのは,商品の生産,流通,消費の全局面 を総合して評価する市場品質である。商品の市場品質およぴ価格が全く完全 な場合これを完全商品という。完全商品の諸条件のうち
1つでも欠ける場合 が不完全商品であるが,その不完全の程度には各段階がある。最低のものは 欠陥商品,危険商品,有害商品,不良商品,偽称品,偽交品などであり,国 内および国際的諸法規に遮反する。いずれにしても悪質な不正商品であり,
これらは不完全商品の中で最も下位にランクされることはいうまでもない。
以下はまず完全商品の条件をさらに追究して行くことから本問題の考察を進 めたい。
2 . 完 全 商 品 の 条 件
消費者は商品の効用を最大にする目的で商品を購入し,企業は最大利潤を 獲得するために商品を生産し販売する。このような意味をもつ商品は前述の ように品質と価格によって構成される。品質も価格も時間の経過とともに変 化(変動)するが,ある一定期間内においては同じ品質の商品の価格が絶え ず変動することから明らかなように(とくに完全競争市場の商品), 短期的 には価格の変動は一般に品質の変化よりも速やかである。価格変動は数量的 条件(需要・供給量や景気変動)によって左右され,品質の変化は自然科学 的・技術的条件に左右されるが,長期的には価格と品質とは個々別々に動.く
ものではなく両者は密接に関連して変動する。ある場合には商品の価格変動 は品質変化よりもイニシアティプを取り,価格変動が品質変化を惹起する。
例えば価格の下落は品質の低下を引き起す場合がそれであって,不完全競争
市場の価格競争が激化した場合によく見られる。 (その一例として昭和30
年代の前半から後半にかけての中級カメラの品質と価格を上げることができ
完全商品と不完全商品(小西)
(363) 137る。中級カメラの価格は昭和30年代の後半に暴落したが,それに対処するた め一部のメーカーは品質を下げて生産性の向上を行ない利潤の低下を防い だ ) 。 反対に品質変化がイニシアティプをとり価格に影善を及ぽすのは寡占 ないし独占産業における高級商品によく見られる。しかしながらこの場合に は,わずかな品質の向上が価格を非弾力的にし価格を異常に吊上げる場合が ある。市販汎用商品の場合には,商品別によって品質と価格との関係は種々 な形態に分類しうるし,生産財と消費財との区分によっても多くの細分化形 態を追究することができるであろう。
以上述べたように商品の品質と価格との関係は絶えず変動してやまない が,完全商品の条件は,ある一定期間における一定の商品の品質と価格の両 者が,ともに適正であることであり,この二つの条件が共に満たされている 場合に,この商品を完全商品と呼ぶことができる。次に完全商品の条件の一 つとしての適正価格についての若干の考察を行ってみることとする。
3.
適 正 価 格
独占禁止法(「私的独占の禁止及び公正取引の確保に隣する法律」)の目的
は , 「企業が商品の品質および価格の両面において公正かつ自由な競争を行
なうことを促進させること」にあるのであるが,現実には企業の目的は最大
利潤の獲得にあり,したがって不完全競争市場においては価格および品質が
利潤目的のために独占化される場合がしばしば見られる。すなわち現代企業
の性格をもっとも典型的に代表する不完全競争市場下の独占的ないし寡占的
企業の特質は,最大利潤の追求を目的として,その遂行のために企業は生産
物差別化をともなう激しい種々な有効競争を行うが,そこでは価格競争の重
要性は次第に後退するのみならず,むしろ価格安定を目差して公然とまたは
暗黙の価格協定が存在し,価格競争を回避したいわゆる管理価格の実現を計
る場合が多いのである。またこの場合においては商品の品質は極度に差別化
されている。これを生産物差別化というが,同質的商品(例えば洗剤, 石
油,セメント,プラスチック,鉄鋼など)の場合においてさえ,差別化が行 なわれるのであって,異質的商品の場合においてはさらに極端にして高度な る差別化が行なわれるのである。
生産物差別化は商品の品質独占をもたらし,価格協定による管理価格は価 格独占を形成させるのであって,この両者によって独占利潤がもたらされる のであり,いずれも公正かつ自由な競争が阻害される重要な要因であること は言うまでもない。品質独占と管理価格は個々別々に達成されるのではな く,両者は密接に関連している場合が極めて多い。異質的商品による異質的 寡占すなわち耐久消費財の分野にしばしば見られるように各社が生産物差別 化によってわずかに異なる製品を生産する寡占の場合には,消費者の選好に よって銘柄への忠実が引起され,価格伸縮性がその商品に付与されるから,
屈折需要曲線の形態は 2カ所において屈折する。この場合には会社は消費者 の選好を得ている独占品質により価格を両屈折点の範囲内で最大利潤を求め る点に決定することができる。さらに二社以上の会社によって生産される商 品が自然科学的ないし技術的に品質が全く同一の商品であっても,強力な広 告戦略によって自己の会社の商品に対して消費者の選好を得ることができる のであって,この場合は需要曲線を右にシフトさせ利潤極大化のための市場 価格を決定しうる。このように消費者の選好を利用して或は他の種々な方法 によって,企業が最大利潤ないし独占利潤を獲得しうる商品価格とは,消費 者にとっては消費者の犠牲のもとに企業が不当な利益をむさぽる独占商品価 格のことであって,消費者の利益は侵害され,非常に無力かつ無知な消費者 の実態によって,かかる商品価格は広く形成されている。
適正価格とは,まず完全競争市場における商品価格があげられるであろ う。しかしながら,適正価格には適正なる利潤が確保されている価格でなけ ればならないということである。
今日,完全競争の状態はまれであると言われるが,若干の特定商品の場合
には完全競争に極めて近い競争状態が見出される。例えば,農産物の場合完
全競争に近いといえる。農産物(未加工品)は価格がきめられておらず,同
完全商品と不完全商品(小西)
(365) 139'質的商品,多数の売り手と買い手の存在という完全競争の主要条件が満たさ れており,したがって需要曲線は産業全体の場合には右下りであるが,個々 の売り手のそれは与えられた市場価格(均衡価格)においてフラットとな る。このような場合には,生産者が生産量の増加によって価格が急激に下落 しても,それにたいする有効な手段は何一つとしてない。ただ価格下落によ って損失をこうむるのみである。そして生産者は政府に救済を求めることと なりパリティ計画が実施されることになる。
上述のように価格下落によって生産者が損失をこうむるような商品の価格 は適正価格ではない。こうした高度な競争価格は農産物のみではなく,同質 財の寡占産業にも,異質財の独占的産業にも存在する。例えば繊維,化学,
石油,石炭,プラスチック,鉄,セメント,非鉄金属,機械,プラント,産 業用電機,家庭電器・部品,造船,自動車などの諸産業にも存在するが,こ れらの産業の場合には,完全競争の場合と異なり,生産者は生産量をコント ロールしうるから,農産物の価格構造とは類似したものではない。しかし たとえそうであっても企業間の協定は守られないので各企業は生産を拡大す る傾向があり,生産量増大によって市場価格は低落する。例えば最近におけ る諸物価の異常な高騰の場合でも,繊維製品や電子卓上計算機は価格下落に なやまされている。昭和
49年度の電卓の需要予測は輸出
882万台,国内
518万 台であったが,
7月末のメーカー在庫
170万台,流通在庫
250万台に達してい る。品質面については 3カ月毎のモデルチェンジでは新製品がすぐ旧型とな って値崩れがはげしい。小売価格はダイエー,東京・秋葉台,大阪・日本橋 などで
4割引のものも出ており価格競争が激化している。
アメリカでは住宅産業は
1960年には利益のある産業であったが,
1961年に
大小の競争メーカーが出硯し価格が下落し,
1962年に
200の メ ー カ ー の う
ち ,
90彩が倒産した。最近でもアメリカの住宅産業は極度の不振に落ち込み
1974年
1月から
3月の間に
440の建設業者が倒産した。
7月の住宅着工数は
130万戸で本年の最低を記録している。建設業界の失業率は約
47万人
(10.6彩)であり全産業平均失業率
5.5%の約
2倍に達している。
完全商品と不完全商品(小西)
日本においても昭和
30年代に多数のオートバイメーカーが倒産し結局
3社 に整理された。このように企業が倒産する場合の商品価格は激烈な競争によ って極度に下落している場合が通例であるが,かかる商品価格は上述のごと
<適正なる商品価格であるとはいいがたい。何故ならば,利潤の低下もさる ことながら,激しい価格競争によって多数の企業が倒産した後は,生き残っ た少数企業によって独占価格が形成されることは明らかであるかでらある。
いずれにしても,両極端の価格すなわち,激しい競争価格および独占価格は いずれも適正なる商品の価格ではなく,国民経済的利益にも反するものであ る 。
小売業の分野における激しい競争価格の一種である過当競争,安売り,乱 売などは消費者にとってはプラスであり極めて望ましいことであるから,乱 売は促進されるべきであり放置して•おけばよいという論説を唱える論者もあ るが,この論義には筆者は反対である。何故ならば乱売とか過当競争によっ て多くの小規模小売り商が倒産した後は,前述の例と同様に少数の大規模小 売商によって独占価格が形成されることは常識よりも明らかであり,消費者 にとってプラスになるどころか結局は大きいマイナスになるからである。
適正なる価格競争によって成立した適正なる商品価格こそ完全商品を成立 させる重要な条件の一つとなる。硯在の資本主義経済は,自由経済を主休と するものであるが,
19世紀的な自由資本主義ではない。自由経済は強者の経 済であり,弱者が破れ去る運命にあるが,
A.H.ハンセンや
P、
A.サミュエ ルソンも指摘するように,現在の資本主義社会には国家の干渉が加えられる 混合経済(二重経済)の形態でなければならないのである。これは民間企業 休制と国公営企業体制の共存形態であって,現在の日本においては,通産省 その他による商品価格の凍結もその一部に含まれるものである。
例えば,政府は昭和
49年
8月
9日の閣議で,通産省が発表した価格凍結解 除後の見通しにより需給が大幅に緩和し逆に値下り品目もあることを指摘し
ている。すなわち,政府は 9 日の閣議で 3 月から実施してきた基礎物資•生
活関連物資の価格凍結措置(値上げの事前了承制)を大幅に解除するため通
完全商品と不完全商品(小西)
(367) 141産省(鉄鋼製品,アルミ加工品など), 農林省(しょう油, バターなど
8品
目),大蔵省(ビール)三省所管の合計 3 2品目の価格凍結解除を決定し 1 0日 から実施するが,通産省は同省の所管3 2品目について解除後の需給・価格の 動向についての見通しを次のようにまとめている。
通産省の予測によると,総需要抑制の効果が出はじめ需給は大幅に緩和し ているから,凍結解除後も価格上昇の心配はないとし,逆に建材や住宅設備 機器,合成ゴムなどのように値下りする品目も出てきたことを指摘してい る。しかしこれらの品目の価格が上昇しないよう政府は解除品目の需給や価 格を厳しく監視し価格上昇の動きが出てきた場合には適切な対策を立てる,
などの方針を決定した。この凍結解除は,凍結措置が価格下降を妨げている という弊害を除去する目的のために実施されるのであって,今回凍結を解除 されなかった
19品目(通産省所管物資1
4品目,農林省所管物資 4品目,厚生 省所管物資
1品目)についても
9月上旬にはこの凍結措置を全廃する方針で
ある。また基礎物資•生活関連物資の凍結解除により,3月以降実施してき た全国の百貸店・スーパーに対する生活関連商品
148品目の価格抑制指導も,
8