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ミランダ・ルールと任意性テスト(二)

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(1)

一〇五ミランダ・ルールと任意性テスト(二)

(都法五十四

-

二)

ミランダ・ルールと任意性テスト(二)

堀  田  周  吾

Ⅰ   はじめに

Ⅱ   任意性テストの生成

 

  ・ 1 コモン ローにおける自白排除

 

  2 デュー・プロセス条項による自白排除

 

  3 ミランダ判決以前の判例の展開

 

  4 小括(以上、五四巻一号)

Ⅲ   ミランダ・ルールの確立とその後

 

  「明白な準則」への転換 1

 

  2 身柄拘束の意義

 

  3 権利行使の意義

 

  4 小活(以上、本号)

(2)

一〇六

Ⅳ   任意性テストの再評価と録音・録画

Ⅴ   おわりに

Ⅲ   ミランダ・ルールの確立とその後

1   「明白な準則」への転換

前節でみたように、一九六〇年代前半までには、修正五条および修正一四条のデュー・プロセス条項を根拠に不

任 意 自 白 を 排 除 す る 任 意 性 テ ス ト が 定 着 し、 虚 偽 証 拠 の 排 除 を 重 視 し た コ モ ン・ ロ ー に 代 替 す る こ と に 成 功 し

)(

た 。

任意性テストとは、自白が「合理的な知性と自由な意思の所産( the product of a rational intellect and a free w

)(

ill )」

で あ る こ と を 前 提 に、 こ れ を 妨 げ る「 強 制( coercion )」 の 存 在 を 示 す 事 情 の 有 無 を 吟 味 す る も の で あ る。 も っ と も、

た と え 合 衆 国 最 高 裁 が 二 〇 年 余 り の 間 に 多 数 の 判 決 を 下 し て も、 「 事 情 の 総 合 性( totality of the c

)(

ircumstances )」 に

基づく判断の曖昧さを解消するには至らなかった。また、自白の任意性を争うために、取調べにかかる事実を複数

提示する必要があるため、被告人にとっては立証責任が加重されることに な

)(

る 。任意性テストに対するこうした批

判を背景に、合衆国最高裁は、より明確な排除基準を模索していくのである。

この時期に至るまでの合衆国最高裁はすでに、任意性テストの他にも、取調べと自白の問題に対処する立論を試

み て い た。 そ れ が、 逮 捕 し た 被 疑 者 を 治 安 判 事( magistrate judge ) の 面 前 に 引 致 す る ま で の 時 間 を 制 限 す る マ ク ナ ッ ブ = マ ロ ー リ ー・ ル ー ル で あ る。 一 九 五 七 年 の マ ロ ー リ ー( Mallory ) 判

)(

決 は、 一 九 四 三 年 の マ ク ナ ッ ブ

(3)

一〇七ミランダ・ルールと任意性テスト(二)

(都法五十四

-

二)

( McNabb ) 判

)(

決 を 引 用 し つ つ、 違 法 な 留 置 に よ っ て 過 酷 な 取 調 べ( third degree ) が も た ら さ れ る 危 険 性 を 指 摘 し、

こ れ を 防 止 す る た め に 治 安 判 事 へ の 引 致 前 の 不 必 要 な 遅 滞( unnecessary delay ) の う ち に 得 ら れ た 自 白 を 排 除 す る 方 向 性 を 打 ち 出 し た。 し か し、 一 九 六 六 年 の ミ ラ ン ダ( Miranda ) 判

)(

決 を 受 け て 合 衆 国 議 会 が 制 定 し た「 一 九 六 八

年・包括的犯罪規制及び市街地安全法( Omnibus Crime Control and Safe Street Act of 1968 )」で新設された合衆国

法典第一八編第三五〇一条⒞は、逮捕後六時間以内になされた自白については引致前の不必要な遅滞のみを理由に

任意性を否定してはならない旨を定 め

)(

、マクナッブ=マローリー・ルールの無実化を図 っ

)(

た 。また、そもそも同ル

ー ル は「 連 邦 裁 判 所 に お け る 刑 事 手 続 の 運 営 に 対 す る 司 法 上 の 監 督 権( judicial supervision of the administration of

criminal justice in the federal courts )」という、合衆国憲法の枠外にある権限を根拠としていたため、修正一四条を 通じて州の裁判所および諸機関を拘束することができず、その適用範囲は限定的で あ

)1(

った 他 方、 憲 法 の 規 定 に 基 づ く 自 白 排 除 と し て は、 一 八 九 七 年 の 前 掲 ブ ラ ム( Bram ) 判

)11

決 が、 す で に 修 正 五 条 の 自

己 負 罪 条 項 を 挙 げ て い た。 「 刑 事 事 件 に お い て 自 己 に 不 利 な 証 人 と な る こ と を 強 制 さ れ な い 」 こ と を 保 障 す る 自 己

負罪拒否特権は、第一義的には法廷証言における自己負罪供述の強制を禁じたものであるが、同判決はこれを法廷

の外にも及ぼしたので あ

)12

る 。もっとも、自己負罪条項のこのような解釈は誤りであると さ

)13

れ 、裁判所も自己負罪拒

否特権と自白排除を結びつけることは長らくなかった。そこには、訴追後の手続とそれ以前の捜査とを厳然と区別

する思想が根強く存在していたといえよう。

その点からすれば、修正六条の弁護人の援助を受ける権利はまさに裁判手続における保障を念頭に置くものとい

えるが、一九五〇年代後半の合衆国最高裁は、同権利を公判前に及ぼすことに傾き 始

)14

めた 。例えば、一九五八年の

前 掲 ク ル ー カ ー( Crooker ) 判 決 の 反 対 意 見 を 書 い た ダ グ ラ ス( Douglas ) 裁 判 官 は、 「 公 判 前 の 段 階 で 弁 護 人 の 援 助

(4)

一〇八

を受ける権利は、公判それ自体において審理を受ける権利に十分な意義と保障を与えるために、多くの場合不可欠

な も の で あ

)1(

る 」 と 述 べ て い る。 ま た、 一 九 五 九 年 の 前 掲 ス パ ー ノ( Spano ) 判

)16

決 に お け る ス テ ュ ア ー ト( Stewart )

裁判官の補足意見も、修正一四条、すなわち、あくまでデュー・プロセスの枠組みにおいて、弁護人の不在が自白

の許容性を失わせるとするものであった。

一 九 六 四 年 の マ サ イ ア( Massiah ) 判

)1(

決 で、 合 衆 国 最 高 裁 は、 修 正 六 条 に 基 づ く 自 白 排 除 を 認 め る に 至 っ た。 本

件の事案は、起訴された被告人が捜査協力者と交わした会話の中で自己負罪供述を行ったところ、これを無線で傍

受した捜査官が法廷で証言したというもので、被告人側は、当該供述が弁護人不在の状況でなされたことを理由に

修正五条および同六条違反を 主

)18

張した 。これに対して、法廷意見は「上訴人の起訴後に弁護人が不在の状況で、連

邦捜査官によって意図的に引き出された自身の負罪供述が、 公判で上訴人に不利に用いられた場合、 [ 修正六条の ] 保 障 へ の 基 本 的 保 護 を 上 訴 人 は 否 定 さ れ た こ と に な る、 と 当 裁 判 所 は 判

)19

断 す る 。」 と 判 示 し、 自 白 の 証 拠 能 力 を 否

定したのである。

そ し て、 同 年 の エ ス コ ビ ー ド( Escobedo ) 判

)2(

決 は、 起 訴 前 の 供 述 に つ い て も、 同 様 の 判 断 を 示 し た。 本 件 は、 殺

人の事実で逮捕された被告人が弁護人の助言を希望したところ、捜査官はこれを拒否して取調べを続行し、被告人

に憲法上の権利を継げることなく自白を採取したという事案である。合衆国最高裁は、 「被告人は、 ・・・憲法の修

正六条への違反によって『弁護人の援助』を否定されており、その取調べの間に警察によって引き出されたいかな

る 供 述 も、 刑 事 裁 判 に お い て 被 告 人 に 不 利 益 に 用 い ら れ て は な

)21

ら な い 。」 と 判 示 し た が、 し か し、 「 本 件 の よ う に、

捜査がもはや未解決の事件に対する一般的な照会ではなく、特定の被疑者に対象が絞られ始め、その被疑者が警察

に拘束され、自己負罪供述を引き出すことに向けた取調べが警察により開始され、被疑者が弁護人と相談する機会

(5)

一〇九ミランダ・ルールと任意性テスト(二)

(都法五十四

-

二)

を求めたが拒否され、かつ、警察が被疑者の絶対的な憲法上の黙秘権を有効に告知していなかった 場

)22

合 」という本

件事案に則した事情を前提としているようにも読めるため、本判決の射程は不明確と さ

)23

れた 。それでも、被告人の

た め の 保 障 と み ら れ た 修 正 六 条 の 権 利 を 起 訴( indictment ) よ り も 前 の 手 続 段 階 に 及 ぼ し た 本 判 決 が 一 つ の 契 機 と な っ て、 一 九 六 六 年 の ミ ラ ン ダ( Miranda ) 判 決 で は 修 正 五 条 の 自 己 負 罪 拒 否 特 権 を 根 拠 と す る 自 白 排 除 が 志 向 さ れたといって よ

)24

い 。

本判決の概要について、簡潔にではあるが、ここで再確認しておこう。被告人ミランダにかかる事案は、次のと

お り で あ る。 ア リ ゾ ナ 州 フ ェ ニ ッ ク ス で 発 生 し た 強 姦 事 件 の 被 疑 者 と し て 逮 捕 さ れ た 被 告 人 は 警 察 署 に 連 行 さ れ、

面 通 し( lineup ) に お い て 被 害 者 に よ っ て 犯 人 で あ る と 名 指 し さ

)2(

れ た 。 そ の 後 の 取 調 べ の 結 果、 被 告 人 は 犯 行 を 自

白して供述書に 署

)26

名した 。有罪の評決を受けた被告人はアリゾナ州最高裁に上告し、供述時および署名時に弁護人

がいなかったことを理由に、自白調書を証拠として許容した原審の誤りを 主

)2(

張した 。これに対して、同州最高裁は

原審を支持するにあたり、マサイア判決との事案の相違をした 上

)28

で 、エスコビード判決については「エスコビード

事件は、証拠が許容されない要因 ― それがもし存在する場合には ― を指摘するのみである。任意でなされてお

り被告人の憲法上の権利を侵害するものでない場合には、弁護人が不在であっても、自白は許容されると当裁判所

は判断する。一つ一つの事件はそれ固有の事実に着眼しなければならず、裁判所は、当該供述が任意であり、かつ

被告人の憲法上の権利が侵害されていないかどうかを判断するにあたって、供述の採取をとりまく状況の全てを吟

味 し な け れ ば な ら な

)29

い 。」 と 述 べ て、 従 来 の 任 意 性 テ ス ト に 拠 る 立 場 を 明 ら か に し た。 こ れ を 不 服 と し た 被 告 人 が

行った申立てに対して、合衆国最高裁は他三件の同種事件(以下、まとめて「本件」という)とともに上告を受理

した。

(6)

一一〇

ウォーレン( Warren )長官が執筆した長大な法廷意見の主旨は概ね以下のとおりである。

まず、本件で行われた取調べから得られた自白は「被告人の供述が、伝統的な意味において、任意性を欠くとは

いえない だ

)3(

ろう 」としつつ、身柄拘束中の取調べに内在する強制的な性質から被疑者を保護する手段を講じない限

り、そこで得られた供述は強制されたものと見なすことを明らかにした。

「 各 事 件 に お い て、 被 告 人 は 不 慣 れ な 環 境 に 押 し 込 ま れ、 警 察 の 脅 迫 的 な 取 調 べ 手 続 に 応 じ さ せ ら れ た。 強 制

の可能性は顕著である。 」

「 そ の よ う な 取 調 べ 状 況 が、 取 調 官 の 意 思 に 個 人 を 服 従 さ せ る 以 外 の 目 的 で 作 出 さ れ た も の で な か っ た こ と は

明 ら か で あ る。 こ の 状 況 は そ れ 自 体 が 威 圧 の 性 質 を 有 し て い る。 た し か に、 こ れ は 身 体 的 な 威 圧 で は な い が、

それと同様に人の尊厳を脅かすものである。外部から隔離して取り調べるという現行の実務は、個人は自白を

強要されないというわが国の最も重要な原理と合致しない。身柄拘束状況に内在する強制性を解消させる十分

な保護手段が講じられない限り、被告人から得られた供述は、真に自由選択の産物であるとはいえ な

)31

い 。」

次に、修正五条の自己負罪拒否特権の保障と告知が、右にいう被疑者の保護のための手段として有効であるとす

る。

「 当 裁 判 所 は、 [ 自 己 負 罪 拒 否 特 権 ] に 包 含 さ れ た 全 て の 原 理 が、 身 柄 拘 束 中 の 取 調 べ の 間 に 法 執 行 官 に よ っ て

(7)

一一一ミランダ・ルールと任意性テスト(二)

(都法五十四

-

二)

用いられる非公式的な(筆者注

: 事実上の)強制にも適用されると

)32

える 。」

「 今 日、 修 正 五 条 の 特 権 が 刑 事 裁 判 手 続 の 外 で も 有 効 で あ り、 何 ら か の 実 質 的 な 方 法 に よ っ て 行 動 の 自 由 が 奪

われた全ての状況にある者らが自己負罪を強制されないよう保護することに資することは疑いない。当裁判所

は、 適 切 な 保 護 措 置 が な い 限 り、 犯 罪 の 容 疑 者( suspect ) ま た は 被 疑 者( accused ) に 対 す る 身 柄 拘 束 中 の 取

調べが、個人が抵抗する意思を弱め、さもなくば積極的に供述しないであろう状況でその個人の供述を強いる

ような本質的に強制的な圧力を内在している、と結論づけている。このような圧力に対抗し自己負罪拒否特権

を行使する完全な機会を認めるためには、被疑者は自己の権利を適切かつ効果的に告知され、それら権利の行

使は十分に尊重されなければなら な

)33

い 。」

ま た、 「 被 疑 者 に 対 し て 黙 秘 権 を 告 知 し、 こ れ を 行 使 す る 継 続 的 な 機 会 を 保 障 す る 上 で、 少 な く と も 同 等 に 効 果

的 な 他 の 手 段 が 提 示 さ れ な い 限 り、 以 下 の 保 護 手 段 が 遵 守 さ れ な け れ ば な ら な

)34

い 。」 と し て、 次 の 権 利 の 告 知 と 保

障を求めた(番号は筆者) 。

①「身柄拘束下の者が取調べを受ける場合、明瞭かつ確実な言葉で、その者には黙秘権があることを最初に告

げ ら れ な け れ ば な ら な い。 こ の 特 権 に 対 し て 無 知 な 者 に 対 し て は、 こ の 警 告 は 彼 ら に そ れ ― [ 特 権 の ] 行 使に関する理性的な判断のための端緒となる条件 ― を認識させるためにまさに必要なもので あ

)3(

る 。」

(8)

一一二

②「黙秘権の告知は、いかなる供述も法廷において当該個人に対して不利に用いられ得るとの説明を伴ってな

されなければならない。この告知は、特権そのものだけでなくこれを見過ごすことの帰結についても認識さ

せるために必要で あ

)36

る 。」

③「取調べに直面した被疑者は、本日詳述する特権を保障する制度の下で、弁護人に相談をする権利および取

調 べ 中 に 弁 護 人 を 立 ち 会 わ せ る 権 利 を 有 す る こ と を 明 確 に 告 知 さ れ な け れ ば な ら な い、 と 当 裁 判 所 は 判 示

)3(

る 。」

④「 取 調 べ を 受 け て い る 者 に 対 し て、 こ の 制 度 に お け る 自 己 の 権 利 の 範 囲 に つ い て 十 分 に 知 ら し め る た め に は、

弁 護 人 に 相 談 す る 権 利 が あ る こ と だ け で な く、 貧 困 者 で あ る 場 合 に は そ の 者 を 代 理 す る 弁 護 人 が 任 命 さ れ る

ことをも告知することが必要で あ

)38

る 。」

さらに、 「もしその個人が何らかの方法で、取調べの開始前または取調べ中に、黙秘したい旨を示した場合には、

取 調 べ は 中 止 さ れ な け れ ば な ら な

)39

い 」 と 判 示 し て、 右 の ミ ラ ン ダ 権 利( Miranda rights ) を 行 使 し た 場 合 の 効 果 に

言 及 し た。 こ の 趣 旨 は、 「 弁 護 人 を 介 し て の み 警 察 に 対 応 し た い 旨 の 希 望 を 示 し た 被 疑 者 は、 弁 護 人 が 被 疑 者 に 与

えられるまで、被疑者自身が警察とのさらなる意思疎通、交流、会話を開始した場合を除いて、当局によるそれ以

上 の 取 調 べ に さ ら さ れ る こ と は な

)4(

い 」 と 判 示 し た 一 九 八 一 年 の エ ド ワ ー ズ( Edwards ) 判 決 で よ り 明 確 に さ れ て い

る。

(9)

一一三ミランダ・ルールと任意性テスト(二)

(都法五十四

-

二)

他 方、 「 も し 弁 護 人 不 在 の 状 況 で 取 調 べ が 続 け ら れ て 供 述 が 得 ら れ た 場 合、 被 告 人 が 自 己 負 罪 拒 否 特 権 お よ び 弁 護 人 を 依 頼 も し く は 要 求 す る 権 利 を 自 覚 的 か つ 理 性 的 に( knowingly and intelligently ) 放 棄 し た こ と を 立 証 す る 重 い 責 任 が 政 府 に 課 せ ら

)41

れ る 」 と し て、 被 疑 者 が 諸 権 利 を 放 棄 す る 余 地 を 認 め て い る。 そ し て、 「 権 利 の 告 知 お よ び

放 棄 が 検 察 官 に よ っ て 公 判 で 立 証 さ れ な い 限 り、 取 調 べ の 結 果 得 ら れ た 証 拠 を [ 被 疑 者 に ] 不 利 に 用 い る こ と は で

)42

ない 」としたのである。

こうしてミランダ・ルールは提示されたが、従前の任意性テストと比較したとき、その最も顕著な特徴は「明白

な準則( bright-line rule )」としての性格にあると い

)43

える 。明白な準則は、捜査官にとっての行為規範として機能す

る と い う 利 点 が あ る が

)44

、 そ れ が 裁 判 時 に お い て は 自 白 の 許 容 性 を 容 易 に 判 断 す る 基 準 と

)4(

な る 。 こ れ は、 「 事 情 の 総

合性」を考慮する任意性テストに対して向けられてきた批判を解消することをねらったものであった。

もっとも、任意性テストに代替する明白な準則としてのミランダ・ルールは、自白に関する証拠法則をこのよう

に「 単

)46

純化 」するために、合衆国最高裁が設けたいくつかの前提を拠り所とするものであった。

第一に、 身柄拘束中の取調べは本来的に「強制的な雰囲気( compelling a

)4(

tmosphere )」を有し、 取調べの実施それ 自体が「自由な選択の産物( product of free c

)48

hoice )」たる供述を阻害する要因だとするが、任意性テストの下では、

取 調 べ の 方 法 や 被 疑 者 の 特 性 な ど を 総 合 考 慮 し て は じ め て「 強 制 」 の 有 無 が 判 断 さ れ て き た。 「 強 制 」 あ る い は

「 自 由 意 思 」 と い っ た 概 念 が、 ミ ラ ン ダ・ ル ー ル お よ び 任 意 性 テ ス ト に お い て 同 義 で あ る と す る な ら ば、 身 柄 を 拘

束された被疑者に対してただ一つの質問を発することが「強制」にあたることになるが、何故そういえるのかの説

明 付 け が 必 要 と な

)49

ろ う 。 し か し、 ミ ラ ン ダ 判 決 は、 「 身 柄 拘 束 中 の 取 調 べ と い う 事 実 そ の も の が 個 人 の 自 由 に 対 す

る重い制約となり、個人の弱点を悪用するもので あ

)((

る 」と述べる以上に明確な判示をしておらず、強制的な雰囲気

(10)

一一四

から被疑者の自己負罪拒否特権を守るための「十分な保護措置( adequate protective devices )」の必要性を説くにと

どまって い

)(1

る 。

第二に、ミランダ権利の告知によって除去しなければならない「強制的な雰囲気」は、被疑者が身柄を拘束され

た状態においてのみ生じるとする。身柄拘束の有無が被疑者の自由供述において決定的な要素であるという前提を

と る こ と に な

)(2

る が 、 後 に 述 べ る よ う に、 「 身 柄 拘 束 」 の 意 義 を め ぐ る 合 衆 国 最 高 裁 の 判 断 に も 変 化 が み ら れ る。 し

かし、その変化に柔軟に対応した捜査実務によって、身柄拘束外( non-custodial )の取調べが増加するのである。

第三に、被疑者は自己に保障された諸権利の存在を認識しその行使の機会を与えられ、その権利を放棄した場合

に初めて取調べが開始される、という段階を踏むことがミランダ・ルールの核をなす部分であるといえる。しかし、

ミランダ判決以降の半世紀近くの間に合衆国最高裁が下した一連の判例は、その前提と衝突するものであった。そ

のため、捜査機関もあえてミランダ・ルールに違反して供述をとる手法に出たりするなど、ミランダ判決の当初の

意図から外れた実務状況が生まれたのである。

ミランダ・ルールが明白な準則として成り立つためには、捜査機関にとって遵守しやすい指標であることがまず

必要であるが、関連する判例および捜査実務の現状は、もはやミランダがそのような機能を失いつつあることを示

している。右に挙げた第二および第三の点に関連して近年合衆国最高裁判例が出たばかりであるから、以下ではそ

れらに絞って検討を加えることにする。

(11)

一一五ミランダ・ルールと任意性テスト(二)

(都法五十四

-

二)

  2 身柄拘束の意義

ミ ラ ン ダ 権 利 の 告 知 が 必 要 と さ れ る の は 身 柄 拘 束 中 の 取 調 べ を 実 施 す る 場 合 で あ り、 「 身 柄 拘 束 中 の 取 調 べ と い

うときに当裁判所が意味するところは、ある個人が身柄を拘束され、あるいは何らかの実質的な方法で行動の自由

を奪われた後に、法執行官によって開始される質問のことで あ

)(3

る 」として、ミランダ判決が示した定義は端的なも

の で あ っ た か ら、 ミ ラ ン ダ・ ル ー ル の 適 用 範 囲 は、 そ の 後 の 判 例 が「 身 柄 拘 束( custody )」 を ど の よ う に 意 義 づ け

るかにかかっていた。

一 九 六 八 年 の マ シ ス( Mathis ) ケ

)(4

ー ス は、 国 税 庁( Internal Revue Service ) の 職 員 が、 す で に 別 件 で 有 罪 判 決 を

受け州刑務所で服役中の者に対して課税調査を実施し、税還付にかかる虚偽申告について自白を引き出した事案で、

当該調査にあたってミランダ警告が与えられなかったことが争点となった。合衆国最高裁は、次のように判示して、

身柄拘束の理由たる事実に、取調べの対象となる事件との関連性を要求しないことを明らかにした。

「 政 府 は、 現 に 捜 査 中 の 当 該 事 件 に 関 連 し て『 身 柄 拘 束 下 の 』 者 の 取 調 べ に 限 っ て 適 用 さ れ る と す る こ と で、

ミランダの判示の範囲を狭めようとする。そのような区別に実体はなく、修正五条の権利に対する意義ある保

障を与えることを意図したミランダ判決の目的そのものに反する結果となる。当裁判所は、その者がなぜ拘束

されているかの理由次第で、身柄拘束中の者に捜査官が与える権利告知を省略することを要求するものをミラ

ンダ判決中のどこにも見つけることができ な

)((

い 。」

(12)

一一六

マ シ ス 判 決 に 続 く 一 九 六 九 年 の オ ロ ス コ( Orozco ) 判

)(6

決 も、 逮 捕 前 の 被 疑 者 の 自 宅 へ 午 前 四 時 に 立 ち 入 っ て 尋 問

をしたという事案で、当時被疑者はすでに逮捕下にあり自由に立ち去ることは許されなかったとする警察官の証言

に基づき、身柄拘束状態の存在を認定した。本判決は、客観的に強制の状況が存在したか否かではなく、被疑者の

身柄にかかる捜査官の認識がどうであったかに着眼したので あ

)((

る 。

マ シ ス、 オ ロ ス コ の 両 判 決 に 共 通 す る の は、 「 何 ら か の 実 質 的 な 方 法 で 行 動 の 自 由 を 奪 わ れ た 」 場 合 を 挙 げ た ミ

ラ ン ダ 判 決 の 判 示 に 忠 実 に 従 う 点 で あ っ た が、 一 九 七 七 年 の マ サ イ ア ソ ン( Mathiason ) 判

)(8

決 以 降、 合 衆 国 最 高 裁

はこれと逆の傾向を見せ始める。本件の事案は、警察官の要請に応じて出頭した被疑者が、逮捕されたわけではな

いと告げられた上で約三〇分の取調べに応じて自白し、終了後は警察署を退去したというものである。オレゴン州

最高裁は、警察関連施設の中であったこと、取調室のドアが閉じられていたこと、窃盗事件の被疑者であることを

予め告げていたこと、現場に指紋が残されていたという虚偽の事実が告げられたこと、などの事情を指摘して、当

該 取 調 べ が「 強 制 的 な 環 境( coercive environment )」 で 行 わ れ た と 判 示 し

)(9

た 。 こ れ に 対 し て、 合 衆 国 最 高 裁 は、 ミ

ランダ判決が意味するところの身柄拘束は本件では存在しないとして、ミランダ警告は不要だとしたのである。

「犯罪の嫌疑がかけられた者に対する警察官のいかなる聴取も、ただ警察官が法執行制度の一部を担っており、

最終的には容疑者が訴追される原因となるかもしれないという事実によって、強制の側面を有することになる。

しかし、警察官は、聴取をする全ての者に対してミランダ警告を行うことを要求されていない。また、聴取が

警察署で行われているというだけで、あるいは聴取の相手方が警察に疑われているというだけで、権利告知の

要件は課されない。ミランダ警告は、自由に対する制約が、その者が『身柄拘束下』にあるといえるようなも

(13)

一一七ミランダ・ルールと任意性テスト(二)

(都法五十四

-

二)

のであった場合にのみ必要とされる。ミランダが文言上、適用されまたは限定されるのは、このような強制的 な環境で あ

)6(

る 。」

マ サ イ ア ソ ン 判 決 は、 「 強 制 的 な 環 境 」 が た と え 存 在 す る 余 地 が あ っ て も、 被 疑 者 が 未 だ 逮 捕 さ れ て い な い 状 況

下では「身柄を拘束された」とはいえないとする解釈を示すもので あ

)61

った 。そのような立場をより明確に示したの

は、 一九八三年のビヒーラー( Beheler ) 判

)62

決 である。マサイアソン・ケースと同種の事案で、 合衆国最高裁は「ミ

ランダによる保護の付与において被疑者が『身柄拘束下』かどうかの判断には各事案の事情が間違いなく影響する

が、 最 終 的 な 問 い は 単 純 に、 正 式 な 逮 捕( formal arrest )、 ま た は 正 式 な 逮 捕 に 付 随 す る 程 度 の 行 動 制 約 が 存 在 す る

か否か、 で

)63

ある 。」と判示し、ミランダ警告を不要とした。

「 正 式 な 逮 捕 」 を ミ ラ ン ダ・ ル ー ル 適 用 の 基 準 と し た こ と の 意 義 は、 一 九 八 四 年 の マ カ ー テ ィ( McCarty ) 判

)64

決 が

述べて い

)6(

る 。本件の事案は、高速道路を蛇行しながら走行中の車に対して警察官が停止を求めたところ、運転者の

足 元 が お ぼ つ か な か っ た た め、 薬 物・ 酒 類 の 使 用 の 有 無 を そ の 場 で 尋 ね た と い う も の で あ

)66

る 。 合 衆 国 最 高 裁 は、

「 身 柄 拘 束 下 の 取 調 べ に 際 し て 何 を し て よ い か を 警 察 官 と 検 察 官 に 対 し て 特 定 的 に 示 し、 そ の よ う な 取 調 べ で 得 ら

れた供述がどのような場合に証拠として許容されないかを裁判所に示すことに、ミランダ判決の意義がある」とい

う過去の判示を引用しつつ、ミランダ・ルールが適用される前提となる身柄拘束と、車両の停止とは異なると し

)6(

た 。

マカーティ判決は、身柄拘束状態の存否の判断にかかる客観的アプローチへの転換がみられる判例でも あ

)68

る 。本

件警察官は、車両を停止して被疑者が車外に出てきた時点でこれを逮捕する意図を有していたが、その旨を被疑者

に伝えることは な

)69

かった 。これに対して、合衆国最高裁は、捜査官の主観を考慮した前掲オロスコ判決とは異なり、

(14)

一一八

「 関 連 性 あ る 問 い は、 本 件 被 疑 者 の 立 場 に あ る 合 理 的 な 人 間( reasonable person ) が、 自 身 が 置 か れ た 状 況 を ど の よ うに理解したか、 で

)((

ある 」と判示したのである。

一 九 九 四 年 の ス タ ン ス ベ リ ー( Stansbury ) 判

)(1

決 も、 同 様 の 立 場 を 採 る。 逮 捕 前 の 被 疑 者 に 対 し て ミ ラ ン ダ 警 告

をせずに聴取を行った警察官が、その者が犯人であることの確信をいずれかの時点で固め、その後逮捕したという

事 案 で、 合 衆 国 最 高 裁 は、 「 身 柄 拘 束 で あ る こ と の 最 初 の 判 断 は 取 調 べ の 客 観 的 状 況 如 何 に よ る の で あ っ て、 取 調

官 ま た は 聴 取 の 相 手 方 が 抱 い た 主 観 に よ る も の で は な

)(2

い 」 と 判 示 し

)(3

た 。 一 九 九 五 年 の ト ン プ ソ ン( Thompson )

)(4

決 に よ れ ば、 身 柄 拘 束 状 態 の 存 否 を 判 断 す る に あ た っ て は、 ( 一 ) 取 調 べ を と り ま く 状 況 が ど の よ う な も の で あ

っ た か、 ( 二 ) 合 理 的 な 人 間 が、 自 身 が 取 調 べ を 打 ち 切 っ て 立 ち 去 る 自 由 を 与 え ら れ て い る と 判 断 す る か 否 か が 吟

味される。

合衆国最高裁のこうした傾向により、捜査実務がミランダ・ルールの制約を回避することが容易になったという

指摘が あ

)((

る 。ワイゼルバーグ教授が分析したカリフォルニア州の警察官向けの訓練教材等の資料には、次のような

記載があるという。

「・ 取 調 べ の 相 手 方 が 協 力 的 で あ り [ ミ ラ ン ダ 権 利 を ] 放 棄 す る 準 備 が あ る よ う に み え る 場 合 は、 こ の 問 題 を 一

度に解消するために、ミランダ警告を与えたうえで放棄を獲得せよ。

  ・しかし、相手方が非協力的であり放棄しそうにない場合であって、次のようにすることが当該状況において

現実的である場合には、ミランダ警告と放棄を伴わずに相手方を聴取できるよう、取調べから強制性(すな

わ ち『 身 柄 拘 束 』) を 除 去 し、 相 手 方 が 逮 捕 下 に な い こ と を 端 的 に 伝 え よ( 例 え ば、 カ リ フ ォ ル ニ ア 対 ビ ヒ

(15)

一一九ミランダ・ルールと任意性テスト(二)

(都法五十四

-

二)

ーラーを参照 せ

)(6

よ )。 」

このような手法が可能となるのは、捜査官が相手方に対してどのような嫌疑や意図を抱いているかといった主観

が考慮されないからである。ワイゼルバーグ教授は、こうした実務慣行が定着することで、ミランダ判決の当初設

定した前提が崩されたと指摘する。すなわち、身柄の拘束それ自体が被疑者の自由供述を脅かす強制性の指標であ

ったところ、 右のような「ビヒーラー警告( Beheler admonishment )」の活用は、 取調べの多くをミランダ・ルール の適用範囲の外に置くことになるので あ

)((

る 。

近時の合衆国最高裁も、従来と同様の客観的アプローチを維持してきた。例えば、一七歳の少年に対する取調べ

が 行 わ れ た 二 〇 〇 四 年 の ア ル ヴ ァ ラ ド( Alvarado ) ケ

)(8

ー ス で は、 被 告 人 の 年 齢 と 取 調 べ に 対 す る 未 経 験 を い か に 考

慮するかが問題となったが、合衆国最高裁は、客観的な基準の重要性を説いてこれを否定したので あ

)(9

る 。もっとも、

同 様 の 問 題 に つ い て、 二 〇 一 一 年 の J・ D・ B 判

)8(

決 は、 「 取 調 べ の 時 点 で 子 ど も の 年 齢 が 捜 査 官 に 知 ら れ て い た 場

合、 あ る い は 常 識 あ る 捜 査 官 に と っ て 客 観 的 に 明 ら か で あ っ た 場 合、 身 柄 拘 束 の 有 無 の 判 断 に お い て [ 年 齢 の 点 の 考 慮 ] を 含 め る こ と は、 基 準 の 客 観 性 と 矛 盾 す る も の で は な

)81

い 」 と 判 示 し て、 一 三 歳 の 少 年 に 対 す る 身 柄 拘 束 状 態

を認定した。

アルヴァラド判決は、前掲トンプソン判決の基準(二)に年齢と未経験の要素を盛り込んで「 逮捕されまたは取

00000000

調べを受けた前歴のない合理的な一七歳の人間が

0000000000000000000000

、自身が取調べを打ち切って立ち去る自由を与えられていると判 断 す る か 否 か( 傍 点 筆 者 )」 を 検 討 し た 同 原 審 に 対 し て、 個 人 の 主 観 を 考 慮 し す ぎ る と 批 判 し

)82

た が 、 J・ D・ B 判

決はその立場を変更したのである。それは、基準の明確性からの後退を意味 す

)83

る 。

(16)

一二〇

そ し て、 二 〇 一 二 年 の フ ィ ー ル ズ( Fields ) 判

)84

決 は、 従 前 の 判 例 の 傾 向 と は 一 線 を 画 す る も の で あ る。 人 身 保 護

申立てにかかる本件の事案は、有罪を答弁し別罪で四五日間の禁固を言い渡され服役中の申立人に対して、未成年

男子に対する性的暴行の疑いで取調べを実施したというものである。申立人は、捜査官から「監房に戻りたければ

いつでも戻ってよい」とは告げられたが、ミランダ警告は与えられなかった。そのような状況で取調べを受けた申

立人は、性的暴行について自白を し

)8(

た 。第六巡回控訴裁判所は、刑務所の一般的な母集団から隔離した上で刑務所

外の行為について質問することは「身柄拘束中の取調べ」に該当するとして申立人の釈放を命じたので、合衆国側

が上告受理を 申

)86

立てた 。

ま ず、 合 衆 国 最 高 裁 は、 ( 一 ) す で に 刑 務 所 で 拘 禁 さ れ て い る 受 刑 者 は、 逮 捕 さ れ た 場 合 に 伴 う 精 神 的 打 撃 を 受

け る こ と は な く、 こ の よ う な 者 に 対 す る 取 調 べ は、 ミ ラ ン ダ が 想 定 す る 状 況 と は 異 な る こ と、 ( 二 ) 服 役 中 の 受 刑

者 は、 早 期 の 釈 放 を 期 待 し て 供 述 す る よ う な こ と が 考 え に く い こ と、 ( 三 ) 有 罪 判 決 と 量 刑 手 続 を 経 て い る 受 刑 者

で あ れ ば、 取 調 官 が 刑 期 を 短 縮 す る な ど の 権 限 を 持 た な い こ と を 理 解 し て い る で あ ろ う こ と を 挙 げ て、 「 刑 務 所 へ

の拘禁それ自体が、ミランダで意味するところの身柄拘束状態を作出するには不十分である」と判示 し

)8(

た 。

そ し て、 被 疑 者 が 行 動 の 自 由 を 奪 わ れ て い る か 否 か は、 「 取 調 べ を 取 り ま く 状 況 の 全 て 」 を 吟 味 し な け れ ば な ら

ないとした上で、取調べが行われた場所、取調べの長さ、得られた供述内容、身体的抑制の有無、聴取後の解放の

有無、といった要因がこれに関連することを 確

)88

認する 。本件では、申立人が取調べの実施に対して事前の承諾を与

えていないこと、捜査官との話を拒否してよいことを申立人が知らされていなかったこと、取調べが五時間から七

時間にわたり行われたこと、捜査官らが武装しており言葉遣いが荒かったことなどの事情が身柄拘束状態を認定す

る根拠となり得るとしつつ、しかし、いつでも監房に戻ってよい旨を告げられており、身体的抑制の措置が執られ

(17)

一二一ミランダ・ルールと任意性テスト(二)

(都法五十四

-

二)

て い な か っ た 事 実 は、 そ れ ら の 事 情 を「 相 殺( offset )」 す る も の で あ る と し て、 本 件 申 立 人 は 身 柄 拘 束 下 に な か っ たと判示したの で

)89

ある 。

合衆国最高裁は、ミランダ判決で示した広範な定義から始まり、マサイアソン判決およびビヒーラー判決を経て、

ミランダ警告が要求される取調べの範囲を限定する傾向がみられるが、それでも正式逮捕の有無といった端的な基

準 を 用 い て き た。 明 白 な 準 則 と し て の ミ ラ ン ダ・ ル ー ル は、 「 身 柄 の 拘 束 」 と い う 外 形 的 な 事 実 に 被 疑 者 の 自 由 供

述 を 脅 か す 強 制 性 を 推 定 す る と こ ろ に そ の 意 義 が 認 め ら れ る は ず だ が、 フ ィ ー ル ズ 判 決 は、 「 取 調 べ を 取 り ま く 状

況 の 全 て 」 を 総 合 的 に 考 慮 し た 結 果、 当 該 取 調 べ が ミ ラ ン ダ・ ル ー ル の 適 用 外 で あ る と し た。 同 判 決 は、 「 身 柄 拘

束」の意義をめぐって明白な準則を志向してきた従来の方向性からの転換あるいは後退を示唆するものであるとい

え よ

)9(

う 。

  3 権利行使の意義

ミランダ権利の保障は絶対的なものではなく権利者自身が放棄できることは、ミランダ判決自体が認めるところ

で あ る。 同 判 決 は、 「 被 告 人 が 自 己 負 罪 拒 否 特 権 お よ び 弁 護 人 を 依 頼 も し く は 要 求 す る 権 利 を 自 覚 的 か つ 理 性 的 に

放 棄 し た こ

)91

と 」 を 訴 追 側 が 立 証 す れ ば、 そ の 後 の 取 調 べ で 得 ら れ た 供 述 は 証 拠 と し て 許 容 さ れ る と す る。 さ ら に、

それは「特権に対する任意の放棄 voluntary relinquishment of the p

)92

rivilege )」でなければならないものとされた。こ の 点、 一 九 七 九 年 の バ ト ラ ー( Butler ) 判

)93

決 は、 「 権 利 放 棄 の 問 題 は『 被 告 人 の 経 歴、 経 験 お よ び 行 動 を 含 む、 当

該事件をとりまく個別の事実および状況』に基づいて判断されなければなら な

)94

い 」と判示しており、権利の放棄に

(18)

一二二

関 し て は 結 局、 「 事 情 の 総 合 性 」 を 考 慮 す る 任 意 性 テ ス ト と 同 様 の 判 断 過 程 を た ど ら な け れ ば な ら な い こ と が 明 ら

かとなったのである。

他 方、 権 利 行 使 の 意 思 表 示 に 関 し て は、 一 九 九 四 年 の デ イ ヴ ィ ス( Davis ) 判

)9(

決 が 異 な る 判 断 を 示 し て い る。 本

件で問題となったのは黙秘権ではなく、取調べ開始後に請求された弁護人立会いであるが、合衆国最高裁は、次の

ように判示し、明示的な権利行使が必要であるとした。

「 弁 護 人 の 援 助 を 受 け る 権 利 に つ い て 説 明 を 受 け た 上 で 自 覚 的 か つ 任 意 に こ れ を 放 棄 し た 被 疑 者 は、 弁 護 人 な

くして警察に対応する意思を示したものといえる。エドワーズ判決が追加的な保護――被疑者が後に弁護人を

請求した場合、取調べは中止されなければならない――を与えているとはいえ、これは被疑者によって確実に

行 使 さ れ な け れ ば な ら な い 権 利 で あ る。 ・・・ 被 疑 者 の 供 述 が 明 白 か つ 確 実 に 弁 護 人 を 請 求 す る も の で な い 場

合には、捜査官が取調べを中止しなければならない義務は な

)96

い 。」

デイヴィス判決がこのように明示的な権利行使を要求したのは、右の引用にもある前掲エドワーズ判決が弁護人

の援助を受ける権利の行使に取調べの中止という強い効力を与えたこととの均衡を図る趣旨であると 解

)9(

される 。本

判 決 は、 被 疑 者 の 不 明 瞭 な 言 動 に 取 調 べ の 実 施 が 影 響 を 受 け な い と い う 意 味 で「 明 白 な 準 則 」 を 立 て る も

)98

の だ が 、

エドワーズ判決を不当に弱めたという批判にさら さ

)99

れた 。

批判にもかかわらず、デイヴィス判決が捜査実務に及ぼした影響は大きい。例えば、前掲ワイゼルバーグ教授の

調査によれば、カリフォルニア州の警察官訓練教材には「弁護人の立会いまたは弁護人との相談にかかるミランダ

(19)

一二三ミランダ・ルールと任意性テスト(二)

(都法五十四

-

二)

権 利 の 行 使 は、 弁 護 人 を 請 求 す る 旨 の 明 瞭 か つ 明 示 的 な( clear and express ) 要 求 を も っ て し な け れ ば な ら な い 」

という記述が従来から存在したが、二〇〇八年改訂のものはさらに踏み込んで、黙秘権の行使についても同様の意

思表示が必要である旨の記述がある と

)(((

いう 。

こ の よ う な 実 務 の 状 況 を 追 認 す る か の よ う に、 二 〇 一 〇 年 の ト ン プ キ ン ズ( Thompkins ) 判

)(((

決 は、 デ イ ヴ ィ ス 判

決の趣旨を黙秘権行使にも及ぼすものであった。

人身保護申立てにかかる本件の事案は次のとおりである。殺人事件の疑いで逮捕された申立人を取調べるにあた

り、捜査官が申立人に対してミランダ警告を行った。その際、申立人自身に告知項目の一つを読み上げさせ、英語

を理解していることを確認した。捜査官が残りを読み上げた後、申立人が諸権利を理解したことを示すために所定

の 書 式 に 署 名 す る こ と を 求 め た が、 申 立 人 は こ れ を 拒 ん だ。 し か し、 ( 捜 査 官 の 証 言 に よ れ ば ) 申 立 人 は 自 身 が 諸

権利を理解したことを口頭で認めたため、取調べが開始された。申立人は、黙秘したい旨、警察には話をしたくな

い 旨、 弁 護 人 を 希 望 す る 旨 を 述 べ な か っ た。 ま た、 三 時 間 程 度 の 取 調 べ の 間 ほ ぼ 無 口 で あ り、 「 は い 」「 い い え 」

「 わ か ら な い 」 と い っ た 返 答 や う な ず く な ど の 仕 草 を す る だ け で あ っ た。 し か し、 取 調 べ 開 始 か ら 二 時 間 四 五 分 が

経過したところで、捜査官が「おまえは神を信じるか」と尋ねたところ、申立人は涙を溜めた目で捜査官を見なが

ら「 は い 」 と 答 え た。 「 神 に 祈 る か 」 と い う 発 問 に も 同 様 の 返 答 を し た た め、 捜 査 官 は さ ら に「 被 害 者 を 撃 ち 殺 し

たことの許しを神に請うか」と尋ねた。これに対して、申立人は「はい」と返答したが、書面による供述書の作成

は拒否したため、取調べは終了 し

)(((

た 。

公判で申立人は、修正五条の黙秘権を自身は行使し取調べの即刻中止を警察に求めたのであって放棄していない

こと、自身の自白は任意性を欠くこと、を主張して右の供述の排除を申し立てたが、第一審裁判所はこれを却下し、

(20)

一二四

陪審は申立人を有罪とした。ミシガン州の控訴裁判所も同様の申立てを却下し、同州最高裁が裁量的審理を却下し

たため、申立人は連邦地方裁判所に対して人身保護申立てを行った。連邦地方裁判所が申立人の申立てを却下した

のに対して、第六巡回控訴裁判所は、権利の放棄は明示的なものである必要はないとしながらも、本件で黙秘権の

放棄を認定した原審の判断は不合理であるとして、破棄差戻しの判決を下した。これを不服とした合衆国側が上告

)(((

た 。

原 判 決 を 破 棄 し て 差 戻 す に あ た り、 ケ ネ デ ィ( Kennedy ) 裁 判 官 の 法 廷 意 見 は、 ミ ラ ン ダ 権 利 の 明 示 的 な 行 使 は

立証の困難を回避し捜査官にとっての指標となると述べたデイヴィス判決の判示部分を引用しつつ、 「曖昧な作為、

不作為または供述によって、警察が取調べを終了することを要求できるとするならば、警察は被疑者の不明瞭な意

思について難しい判断を求められることになり、その判断を誤った場合には証拠が排除される結果に直面すること

になって し

)(((

まう 」として、弁護人の援助を受ける権利と同様に黙秘権の行使においても明示的な意思表示が必要で

あるとした。

「 申 立 人 は、 黙 秘 を 続 け た い 旨 あ る い は 警 察 に 話 を し た く な い 旨 を 述 べ る こ と は な か っ た。 も し 申 立 人 が い ず

れ か の 旨 の 単 純 か つ 明 確 な 供 述 を し て い な ら ば、 『 取 調 べ を 打 ち 切 る 権 利 』 を 行 使 し た こ と に な る だ ろ う。 申

立人はいずれもしなかったので、黙秘権を行使したことにはなら な

)(((

い 。」

法廷意見は、本件申立人が明示的な意思表示をもって黙秘権を行使していないという事実のみをもって右のよう

に判示した。これに対して、本件申立人が黙秘権を有効に放棄していたかの判断にあたっては、前掲バトラー判決

(21)

一二五ミランダ・ルールと任意性テスト(二)

(都法五十四

-

二)

を引用しつつ、次のように判示する。

「 ミ ラ ン ダ 警 告 を 先 に 与 え ず に 被 疑 者 を 取 り 調 べ る こ と を 防 止 す る た め に、 ミ ラ ン ダ 判 決 は 形 式 的 か つ 実 用 的

な 規 則 を 警 察 に 課 し て い る が、 被 疑 者 が [ ミ ラ ン ダ 権 利 ] を 放 棄 す る に あ た っ て 踏 ま な け れ ば な ら な い 形 式 的

な権利放棄手続を課す者ではない。一般論として、自己の権利を完全に理解している個人が権利を行使するの

と相容れないかたちで行動した場合、それらの権利がもたらす保護を放棄する意図的な選択をしたものと法が

推定することは可能で あ

)(((

る 。」

その上で、以下のような詳細な検討のもとに、本件申立人の黙秘権の放棄を認定したので あ

)(((

る 。

「 申 立 人 が 自 身 の 権 利 を 理 解 し て い な か っ た こ と に 争 い は な い。 こ の こ と か ら、 申 立 人 が 発 言 し た 時 点 で、 何

を放棄したのかを知っていたということができる。申立人がミランダ権利を理解していたと結論づける十分な

記 録 が 存 在 す る。 ・・・ 黙 秘 権 が 一 定 の 時 間 経 過 後 に 消 え た り し な い こ と、 お よ び、 警 察 が 申 立 人 の 黙 秘 権 と

弁護人の援助を受ける権利を取調べの始終尊重しなければならないことを申立人は認識していた。ミランダ警

告で明らかとされたこれらの権利はいつでも行使することができた。 」

「 被 害 者 を 銃 撃 し た こ と に つ い て の 許 し を 神 に 請 う か と い う 捜 査 官 の 発 問 に 対 し て 申 立 人 が 応 じ た こ と は、 黙

秘権を『放棄を示す振る舞い』にあたる。もし申立人が黙秘したかったのであれば、捜査官の質問に対して何

(22)

一二六

も答えないこともできたし、ミランダ権利を明白に行使して取調べを終了させることもできた。申立人がミラ

ンダ警告を受けてから約三時間経過してから供述したという事実が、申立人が放棄を示す振る舞いをしたとい

う事実を上回ることはない。警察は申立人に対して何度も再警告を与えることは要求されていない。 」

「 申 立 人 の 供 述 が 強 制 さ れ た こ と を 示 す 証 拠 は 存 在 し な い。 申 立 人 は、 警 察 が 取 調 べ 時 に 申 立 人 を 脅 迫 あ る い

は傷害した、あるいは自身がいかなる意味において怯えていたと主張していない。取調べは午後下がりに標準

的 な 広 さ の 部 屋 で 実 施 さ れ た。 た し か に 申 立 人 は 垂 直 な 背 も た れ の 椅 子 に 三 時 間 に わ た り 座 ら さ れ て い た が、

こ の 長 さ の 取 調 べ が そ れ 自 体 強 制 的 で あ る と す る 主 張 に 根 拠 は な い。 ・・・ 捜 査 官 が 申 立 人 の 信 仰 に か か る 発

問をした事実も、申立人の供述が不任意であることを示すものではない。修正五条の特権は、当局の強制以外

の原因に基づく道徳的かつ心理的な圧力に関わるものではない。これらの状況下では、申立人は警察に対して

自覚的にかつ任意に供述をしており、従って黙秘権を放棄したものといえる。 」

権利の行使と放棄とは表裏の関係にあるところ、トンプキンズ判決によれば、前者について明示的な意思表示の

有無をみる一方で、後者は黙示的なそれで足りるとして当該事案の具体的事実を総合考慮することになる。その結

果、 取 調 べ の 実 施 な い し 続 行 に 対 し て、 「 明 示 的 な 拒 絶 の 意 思 表 示 が な い か ら 権 利 は 行 使 さ れ な か っ た 」 と 判 断 す

る か、 「 自 身 の 立 場 を 明 確 に し な い 被 疑 者 の 態 度 等 を 総 合 考 慮 し て 権 利 は 放 棄 さ れ た 」 と 判 断 す る こ と に な り、 結

局被疑者は取調べに対する拒絶の意志を明瞭かつ確実な形で示すことが要求されてしまうので あ

)(((

る 。

(23)

一二七ミランダ・ルールと任意性テスト(二)

(都法五十四

-

二)

  4 小括

一九六六年に初めて示されたミランダ・ルールにおいて基準の明確性が重視された趣旨は、関連事実の類型化を

図り事案ごとの個別判断を省略することが、被疑者の自己負罪拒否特権の保障にかかる保護手段としての働きに資

す る か ら で あ る。 一 九 七 四 年 の タ ッ カ ー( Tucker ) 判 決 は ミ ラ ン ダ・ ル ー ル を「 予 防 的 な 規 範( prophylactic stan - dards )」 と 位 置 づ け た

)(((

が 、 権 利 の 告 知 と い う 保 護 手 段 が 採 ら れ な か っ た と い う 単 一 の 事 実 を も っ て「 強 制 」 の 存 在

を推定し自白を排除することで、まさに「予防的」に被疑者の権利と自由供述が保障されるの で

)(((

ある 。

しかし、ミランダ判決以降、複数の合衆国最高裁判例がミランダ・ルールにかかる先例を変更することで「ミラ

ン ダ・ ル ー ル の 適 正 な 法 執 行 へ の 影 響 を 減

)(((

少 」 さ せ て き た 流 れ は、 た と え 二 〇 〇 〇 年 の デ ィ カ ー ソ ン( Dickerson )

)(((

決 でミランダ・ルールが憲法上の根拠を有することを再確認しても、変わらなかったというべきである。二〇〇

四 年 の サ イ バ ー ト( S

)(((

eibert ) お よ び パ タ ー ネ( P

)(((

atane ) の 両 判 決 に お け る 相 対 的 多 数 意 見 が、 ミ ラ ン ダ 警 告 前 に 得 た 自 白 を 警 告 後 に 反 復 し て 採 取 す る と い う「 二 段 階 取 調 べ( two-step interrogations )」 を 追 認 し た こ

)(((

と や 、 本 節 で

検討した近時の状況などを背景に、もはやミランダ・ルールは十分に機能していないと考える学説の見解が増えて

)(((

る 。

半 世 紀 近 く を 経 て 複 雑 化 し た「 ミ ラ ン ダ 法( Miranda j

)(((

urisprudence )」 は、 明 白 な 準 則 と し て の 存 在 意 義 の 大 半 を

失い、ミランダ・ルールの「再生」に悲観的な学説には、取調べの録音・録画制度の導入を主張すると同時に、任

意性テストを再評価する傾向がみられる。次節では、この点にかかる学説と判例の状況を追う。

(24)

一二八

(次号以降に続く)

spective, 6 7 W

ASH

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18 U .S .C . 8

) 

35 01 (c )

§

   「

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OLUM

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10

) 調

11 B ra m v. U nit ed S ta te s, 16 8 U .S . 5 32 ( 18 97 ).

) 

12 2 L

A

F

AVE ET AL

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RIMINAL

P

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13 See, C ha rle s T . M cC or m ic k, The Scope of Privilege in the Law of Evidence, 1 6 T

EX

. L . R

EV

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) 

参照

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