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障害児の就学指導の制度に関する一考察

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

障害児の就学指導の制度に関する一考察

著者 大久保 哲夫

雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要

巻 16

ページ 103‑114

発行年 1980‑03‑23

その他のタイトル A Study of the System on Entering School for the Handicapped.

URL http://hdl.handle.net/10105/6446

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障害児の就学指導の制度に関する一考察*

大久保  哲  夫榊

  (障害児学教室)

1.問  麗

最近の障害児教育に関する事典から「就学指導」についての説明をあげてみると、r知能障害 事典」(1978年)は、r大級判別」という項目の中で、r心身障害児はできるだけ早期に発見し、

その時点から適切な診断に基づいて、継続的に教育、治療・訓練を実施し、児童の発達を促進す ることが必要であり、就学時に適切な措置を講ずべきである。この際心身障害の状況に応じて、

どのような教育が適切であるか判断し、保護者に助言・指導を行なうことが必要であり、このこ とを『大級判別(適性就学指導)』と呼んでいる」口,と述べ、その判別基準として文部省通達を 示し、判別にあたる組織として就学指導委員会の構成や役割にふれている。

 また、r心身障害者福祉・教育・雇用事典」(1979年)は、r就学指導」という項目において、

文部省の示す教育措置基準や就学指導の手続きの説明を行なっているω。もっとも、この箏典は 関係行政穣関の監修によるものであるから、法令・通達の解説に終始するのはやむをえないとし ても、先の事典もまた行政制度の枠内での説明にとどまっているといわざるをえない。

 就学指導についての事典の叙述がこのような内容であるのは、これまでの就学指導が行政主導 のもとにすすめられ、それへの批判検討と科学的な障害児教育としての就学指導の創造がきわめ て不十分なことに由来すると考えられる。障害児の就学時における指導を法律上明記したのはr 学校保健法」(1958年)である。同法は、就学時健康診断の結果に基づき、市町村教育委員会は 就学義務の猶予・免除又は盲学校、ろう学校、養護学校への就学に関する指導を行なわなければ ならないと定めるとともに、同法施行規則において、学校における定期健康診断の結果に基づく 事後措置の一つとして、障害児学校又は障害児学級への編入についても指導・助言を行なうよう 規定した。また、文部省は、1961年から63年にかけての学校教育法及び同法施行令の一部改正、

判別基準の通達によるr判別と就学指導の体制の整備とともに、これらの問題は専門的な技術と 多くの人々の協力を必要とすることから、その趣旨を一層関係者に周知徹底させるためにほ〕」、

1965年度より中央と各都道府県においてr心身障害児判別・就学指導講習会」を開催した。この ように法令に従ってすすめられるr就学指導」は、指導とはいえその内実は判別基準の機械的な 適用と教育措置の一方的な強制に終る危険性を内包していた。

 もりとも、障害児教育に関する事典の中にも、r心身障害児教育相談事典」(1974年)のよう に、r心身障害児の就学指導を特殊教育諸学校や特殊学級への入学・大級指導というようにかた く考えることは明らかにまちがっている」とし、r心身障害児の就学をすすめるにあたっては、

‡AStudyoftheSystemonEnteringSchoolf㎝theHmdicapped.

ホ  Tetuo Okubo(Departm6nt of眺f㏄tology,Nara University of Education,Nara)

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この子どもたちの諸特性(それは心身障害児という特性のみならず、子どもの独自性なり多様性 なりの特性)を多方面から分析し、その諸特性が開花して行く条件(教育方法なり、教育形態な り、心理的・物理的環境なり)を創造していく姿勢が第1に要請されてくるω」と、機械的教育 措置を否定し、子どもに視点をあてた教育の創造とかかわらせ就学指導を位置づける提起もある。

 障害児に対する教育が障害のない子どもの教育とは別個に成立するのは、生きていくに必要な 諸能力の獲得と人格の形成という、子どもとして人間としての教育上の共通の課題とともに、そ れを達成するためには障害に起因する生活上、学習上の困難(handlcap)を軽減・克服する必 要があるという独自な課題を障害児教育はあわせもつからにほかならない。従って学校教育をう けるに当っては、個々の障害の種別・程度・症状や発達の状態に即し、二つの教育上の課題が統 一的に保障される適切な教育の場を判断していく就学指導は、障害児教育にとってきわめて重要 な分野となってくる。そのさいその判断は個々の子どものもつ個別的条件からのみでなく、うけ 入れる教育の条件やそこで営まれる教育形態、教育方法との関連においてなされなければならず、

しかも障害児をうけ入れる教育は固定的なものではなく、たえず変革創造されるべきものである。

 ところで、1979年度からの養護学校義務制実施にあたり、就学指導における教育行政の判断と 保護者の意見の不一致から生じた混乱をマスコミは一斉に報道し、読売新聞の全国調査によれば 就学指導をめぐるトラブルは1千件を越えるという帖コ。また時事通信杜も義務制実施後の79年

5月、全国の都道府県教育委貴会を対象に調査を行ない、その結果ほとんどの教育委員会からrト ラブルなし」の回答が寄せられたが、rとはいうものの、父母の同意が得られないまま、 義務 化元年 であることを考慮して教委側が引き下がり、一般校への入学を認めるようなケースがか なりあったようだ」、r『トラブルなし』とする教委側の建前とは別に、就学指導上の問題は、

義務制化後にも持ち越されているといえる同」と解説を加えている。

 こうした就学指導をめぐるさまざまな問題に対し、教育行政は80年度の入学に向けては早期 からの徹底した就学指導で睦む構えをとっているが、それだけでは解消し得ない基本的な問題が あると考えられる。

 その一つは、就学指導にかかわる制度及び行政手続きの問題である。現行の教育措置基準とそ れに従ってなされる就学指導体制がとられている限り、いかに就学指導を徹底しようとも関係者 の納得する就学指導はすすめられないであろう。

 二つには、就学のさいの判断(診断)の内容及ぴ方法の問題である。その判断は就学時の教育 措置のためにだけなされるのではなく、就学後の見通しと指導プログラムを含んだものでなけれ

ばならないが、現状はそのようなものはきわめて稀である。

 これら二つの課題のいずれもが、またいかなる障害児教育の理念に支えられて理論構築をはか

るかということを基本にしていることはいうまでもない。それは端的にいえば障害児の学ぶ場と

しての障害児学校、障害児学級、一般学級の性格、任務、識能、それぞれの区分と関連をどのよ

うにとらえるかということに帰着する。本稿はすでに述べたような障害児教育の理念に立ち、主

として制度的な側面から現行の就学指導を批判検討しようとするものである。

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2.就学菱瑚こ関する法制をめく って

 学校教育法は第1条において、「この法律で、学校とは、小学校、中学校、高等学校、大学、

高等専門学校、盲学校、聾学校、養護学校及び幼稚園をいう」と述べ、障害児学校も公教育体系 の中に位置づけてい糺

 そして同法第71条において、これら障害児学校の目的・性格・対象について、 「盲学校、聾学 校又は養護学校は、それぞれ盲者(強度の弱視者を含む。以下同じ。)聾者(強度の難聴者を含 む。以下同じ。)又は精神薄弱者、肢体不自由老若しくは病弱者(身体虚弱者を含む。以下同じ。

)に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施し、あわせてその欠陥を補 うために、必要な知識技能を授けることを目的とする」と規定し、次の第72条ではこれらの障 害児学校は小学部、中学部の設置が原則であるとしている。この障害児学校への小学部、中学部 心置の規定は、学校教育法第22条及び第39条の保護者の学齢児童・生徒を就学させる義務、

すなわちr小学校(中学校)又は盲学校、聾学校若しくは養護学校の小学部(中学部)に就学さ せる義務を負う」(カッコ内は第39条)という条文をうけ、学校設置義務を教育行政に課した

ものである。

 ところで、上記のように、障害児に対する教育保障にさいし、小学校(中学校)か障害児学校 小学部(中学部)かのいずれに保護者は子どもを就学させる義務を負うのか、学校教育法では明 確に規定されていない。第7i条は盲学校、聾学校、養護学校のそれぞれが対象とする障害は示 しているが、それらの障害児をそこへ就学させる義務があるとは明記されていない。1961年に学 校教育法の一部改正がなされたさい、第71条の2としてr前条の盲者、聾者又は精神薄弱者、

肢体不自由老若しくは病弱者の心身の故障の程度は、政令で、これを定める」という条文がつけ 加えられたが・これもまた障害児学校の対象規定であり就学義務規定ではない。

 なお、学校教育法は第75条で小学校、中学校、高等学校にr特殊学級」の任意設置をあげ、

その対象として、r1精神薄弱者、2肢体不自由者、3身体虚弱者、4弱視者、5難聴者、6そ の他心身に故障のある者で、特殊学級において教育を行なうことが適当なもの」をあげている。

これは学級そのものが任意設置であるから、まして大級義務などはありえない。

 このように、学校教育法は障害児教育の特別な教育機関の設置とその対象については示してい るが、そこへの就学については特定していない。また、学校教育法第7ユ条の2をうけた同法施 行令第22条の2も、それぞれの障害種別に障害の程度を掲げているのみで、就学については何 も示してはいない。しかし、この施行令には、学校教育法第22条及び第39条の保護者の就学 義務に関し必要な事項は政令で定めるという条項をうけ、就学手続きに関しては具体的な規定が なされている。

 それによれば、まず同施行令第5条で、市町村教育委員会は施行令第22条の2の該当者を除 いた上で、保護者に小学校、中学校の学校を指定し、入学期日を通知しなければならないと

し、第5条で除かれた障害児については、市町村教育委員会から都道府県教育委員会に氏名と障

害種別が通知され(11条)、都道府県教育委員会から保護者に障害児学校の学校を指定して入

学期日の通知がなされる(第14条)。つまり、学校教育法は障害児を就学させる学校について

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はなんら指定をせず、その判断や手続きは政令に委ねており、それをうけた学校教育法施行令の 中で一定の範囲の障害児は障害児学校へ就学させるべきものとして、その判断基準や事務手続き を定めているのである。学校教育法に示す障害児学校に、どのような子どもをどのような手続き で就学させるかについての、ζれは政府の法解釈を示すものである。

 そこでまず、このような政令が作られた歴史的経緯を明らかにしておきたい。

 成立当初(1947年)の学校教育法は、障害児教育に関する部分の構成は現行法と変りないが、

障害児学校、障害児学級の対象規定の表現は若干異なっている。すなわち、まず第71条は、r 盲学校、聾学校又は養護学校は、夫々盲者、聾者又は精神薄弱、身体不自由その他心身に故障の ある者に対して、(以下略)」となっており、現行法の「(強度の弱視者を含む)」、r(強度 の難聴者を含む)」はみられず、また「肢体不自由老若しくは病弱者(身体虚弱者を含む)」は

r身体不自由その他心身に故障のある者」とされている。またr特殊学校」の対象を規定する第 75条は、 r1性格異常者、2精神薄弱者、3聾者及び難聴者、4盲者及び弱視者、5言語不自 由者、6その他の不具者、7身体虚弱者」とされているが、現行法ではこのうちr性格異常者」、

r盲者」、 r聾者」、r言語不自由者」、rその他の不具者」はなく、一方新たにr肢体不自由 者」、rその他心身に故障のある者で、特殊学級において教育を行なうことが適当な者」がつけ 加わっている。

 これらの対象の変化は、障害児教育の発展の中で教育対象がより明確になり加除訂正がなされ たものもあるが、視覚障害、聴覚障害については障害の程度によって障害児学校と障害児学級の 対象区分がなされている点について、霞述するように、障害児の就学にかかわる問題として指摘 をしておきたい。

 さて、成立当初の学校教育法は保護者の就学義務、教育委員会の学校設置義務についても現行 法とほとんど変りないが、障害児学校の義務制実施に関し同法附則第93条は、r(前略)盲学 校、聾学校及び養護学校における就学義務並びに第74条に規定するこれらの学校の設置義務に 関する部分の施行期日は、勅令で、これを定める」とし、 r設置義務」とともに「就学義務」を あげている。このr就学義務」については、学校教育法第22条及び第.39条の保護者の就学義 務のうち、障害児学校小学部・中学部に就学させた場合も保護者は就学義務を果たしているとみ なすという「みなし規定」とも解し得る狐むしろ当時の事情からは障害児学校への就学義務を 意味していると解するのが妥当であ乱

 というのは、戦前のr盲学校及聾唖学校令」(1923年)は、道府県に学校設置義務を負わせた が保護者の就学義務の規定はなく、教育諸条件の不備や教育への理解の不足と相まって盲学校、

ろう学校への就学率は低く、そのため教職員を中心とする関係者の就学義務化への強い要望があ

り、1937年の教育審議会の答申の中にもr盲聾唖教育ハ国民学校二準ジ速二之ヲ義務教育トスル

コトω」という1項目があげられた程であった。その後、1941年の小学校令改正(勅令第148

号 国民学校令)により、障害児教育は法令の中には位置づけられなかったが、施行規則第53

条でr国民学校二於テハ特別養護ノ必要アリト認ムルモノノ為二学級又ハ学校ヲ編成スルコトヲ

得{引」とされ、一方、国民学校令第11条でr学齢児童国民学校以外ノ学校二於テ国民学校ノ課

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程ト同等以上ト認ムル課程ヲ修ムルトキハ第8条二規定スル保護者ノ義務ノ覆行二関シテハ其ノ 期間国民学校二就学スルモノト見傲ス制」というみなし規定が定められた。国民学校令において

も盲学校、ろう学校の義務化は実現しなかったが、これによりr保護者の就学義務の履行に関す る新しい局面が到来した 10」といえる。

 このような教育関係者による戦前の運動は、戦後いち早く全国韓唖学校教職員連盟(現在の日 本教職員組合障害児学校部の前身)によってうけ継がれ、同連盟は結成大会(1946年)において

r盲・韓児の盲学校および聾学校への就学を義務化すべし」という決議をし、文部大臣に意見を 具申した{11〕。こうした教職員の要求運動の高まりの中で開かれた「第92回帝国議会衆議院教育 基本法案委員会議」で、戦後の教育改革の方針について剣木享弘政府委員は小川原政信委員の質 問に対し、r盲聾唖、それから身体虚弱者等に対しまする特殊の教育につきましては、今般6・3

・3の学制改革を実施いたしますとともに、小学校及び中学校に相当いたします分を、義務教育 といたす原則を立てましたのでございます。これをやります設置義務を府県に命じまして、いわ ゆる学齢年齢に達しました者は、必ず義務教育として受けさせるという建前をとったのでござい ます。(以下略)血到」と答え、設置義務と就学義務をあわせた障害児のための教育制度の構想を 説明している。

 このような経緯を経て成立した学校教育法について、政府関係者が障害児は障害児学校へ就学 させるのが当然と考えていたことの事実として、1948年度からの盲学校、聾学校の義務教育制 度開始に伴う学校教育法施行規則の一部改正(1948年文部省令第18号)により、その第73条 の7にr学校教育法第22条文は第39条の規定により盲学校又は聾学校へ就学させなければな らない者の就学については」という条文があげられる。そこではまた、続いて盲学校、ろう学校 への就学事務手続きには都道府県教育委員会があたるとされている。学齢児童・生徒の就学に関 する細則は、1953年に学校教育法施行令が制定され、従来の省令から現行のような政令に移され たが、すでに述べた現行施行令の基本はこの施行規貝I」の中にみることができる。

 この学校教育法施行規則の一部改正では、また、第73条の3にr盲学校、聾学校には寄宿舎 を設けなければならない。但し特別の事情のある場合は、これを設けないことができる」と、寄 宿舎設置に関する条項が加えられたが、これは保護者が就学義務を果たし得るよう必要な教育条 件を設備しようという趣旨からであった。しかしそれだけでは障害児の就学のための条件整備は 不十分であり、多額の教育費の父母負担のためやむなく不就学になっている子どもの多い現状で、

日本教職員組合を中心とする広範な関係者の運動により㈹、1954年にはr盲学校、ろう学校への 就学奨励に関する法律」が制定され、学校教育に必要な費用の父母負担軽減の制度化がはかられ

た。

 以上のように、障害児の教育をうける権利を保障するために、学校設置義務とともに保護者に 就学義務を負わせ、子どもの権利保障のために保護者が義務を果たすに必要な教育諸条件の整備

がはかられてきたことは、障害児教育を充実発展させるものとして歴史的に評価しなければなら

ない。

 とはいえ、そのことから直ちに現行の就学に関する法制や、それによってすすめられている就

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学指導行政を肯定するものではない。学校教育法の準備段階から3分の1世紀を経た今日では、

障害児教育それ自体も大きく発展しており、そこにかかわる人々の意識にも変化がみられる。す でに述べてきたように、障害児の就学に関する現行の法制は、憲法、教育基本法、学校教育法に 基づく一つの解釈の具体化であり、その解釈そのものの妥当性が検討されなければならない。

3.就学手続きをめぐって

 学校教育法の制定により、障害児の教育をうける権利の制度的保障はなされたが、当初は盲学 校、ろう学校への入学や障害児学級への入学、就学猶予・免除についての判断基準や手続き規定 はなく、盲学校、ろう学校の入学についても「各学校の慣習にゆだねられていた〇一」というのが 実態であった。

 文部省から最初の判別基準が示されたのは、1953年のr教育上特別な取扱いを要する児童生徒 の判別基準について」(文物特第303号)という通達であった。この通達は全体として非科学 的な発達観に立ち、学校教育と医療機関や児童福祉施設の任務を分断的にとらえ、多くの障害児 を就学猶予・免除の対象としているが、他方、学校教育への措置については、r○○が望ましい

」とかr○○学校がまたは特殊学級」という表現にみられるように、障害児学校と障害児学級の 対象をあまり明確に区分しないなどの柔軟性がみられる。この通達にあわせて出された解説書胴

によれば、判別方法の未確立と人間尊重の立場から機械的、強制的な措置をさけ、慎重に対処し ようとしたr基準作成委員会」の配慮が窺える狐それだけでなく、学校教育法第71条の障害 児学校対象者はまた同法第75条の障害児学級対象者でもあるという、当時の学校教育法におけ る対象規定をも反映していた。ただ、盲学校、ろう学校、肢体不自由養護学校への教育措置をそ れによりr教育を行い治療を受けさせる」とし、それに対し障害児学級についてはr指導」のみ があげられている点から、障害児学校の性格や役割として教育とともに治療や訓練を期待し、治 療や訓練の必要な子どもは障害児学校への措置が望ましいと考えていたことが窺える。

 しかし、このように障害児の判別・教育措置基準が示されても、行政の責任において十分な診 断や就学指導がなされるようになったわけではない。それがまず制度的に確立されるのは、1958 年の学校保健法(既述)であった。同法施行令や施行規則では、健診の時期や方法等が細かく示 された。もっとも、このように就学の手続きを細かく定めてみても、障害児学校や障害児学級の 増設と充実、十分な就学指導をなし得るような体制の確立をはかるなどがあわせてなされなけれ ば、手続きは有効に生かされるものではない。

 これら障害児学校、障害児学級の増設と就学指導体制の確立がはかられるのは、1960年代の前 半であり、その出発点は1959年の中央教育審議会のr特殊教育の充実根輿について」の答申に求 めることができる。この答申は、r盲、ろう(韓)、養護学校の対象」について、障害の重度・

重症の子どもは障害児学校、軽度の子どもは障害児学級と対象区分をする一方、養護学校、障害 児学級の増設についての方針を示しれ

 この答申をうけて1961年に学校教育法の一部が改正され、 すでに述べたように第71条及び

第75条の障害児学校、障害児学級の対象が現行のように改められるとともに、障害児学校対象

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者の障害の程度を政令で示すことになった。次いで1962年には学校教育法施行令の一部改正が なされ、その第22条の2に障害児学校対象のr心身の故障の程度」を、盲者、ろう者、精神薄 弱者、肢体不自由者、病弱者という区分で示し、同時に、義務制が実施されている盲学校、ろう 学校への就学手続きを現行のように定めた。さらに、1963年には、r学校教育法及び同法施行令 の一部改正に伴う教育上特別な取扱いを要する児童・生徒の教育的措置について」(文物特第

380号)という判別・教育措置基準が出され、続いてr盲者、聾者等の就学の適正な措置と指導 について」(文物特第435号)という通達が出さ柵こ。

 この二つの通達のうち、後者では、「学齢児童または学齢生徒であって盲者(強度の弱視者を 含む。以下同じ。)または聾者(強度の難聴者を含む。以下同じ。)である者については、学校 教育法の規定により保護者は盲学校または聾学校の小学部または中学部に就学させる義務を負っ ています」と述べ、学校教育法第71条の障害児学校が対象とする子どもは障害児学校へ就学さ せるべきであるという解釈を明確に打ち出している。この通達ではまた、 r教育委員会において 判別の疑わしい者、就学猶予または免除にするかどうかの判定の困難な者について、専門医、心 理学者、教育者等の専門家、盲・聾・養護学校の校長、教員、教育委員会の職員からなる審査委 員会を設けるなどし」と、判別のための専門委員会の設置を示唆している。

 文部省は、こうした判別と就学指導の方針を関係者に周知徹底させるために、1965年から中央 と各都道府県においてr心身障害児判別・就学指導講習会」を開催し、さらに1967年度からは、

r国および都道府県の重点的な指導と地域社会の協力のもとに、心身障害児の判別と就学指導を 適正に行なわせ、その成果を全国に普及する㈹」ためにr特殊教育推進地区」を指定し、就学指 導体制の強化をはかった。このような就学指導行政の推進により教育委員会にr判別委員会」の 設置がすすめられた狐 r障害児をうけいれる教育機関を充分ととのえず、『診断』の手続きだ けをきびしくし、その『判定』に権威をもたせようとするだけの『選月一」委員会』になっている例 が少なくない血司」と、その実態はきびしく批判された。

 その後、政府は1973年にr学校教育法中養護学校における就学義務及び養護学校の設置義務に 関する部分の施行期日を定める政令」(政令第339号)を公布し・1979年度より養護学校義務 制を実施することにした。それに伴い文部省は通達(文物特第464号)を出し、r昭和54年4 月1日からは、精神薄弱、肢体不自由又は病弱の程度が学校教育法施行令第22条の2に定める 程度の子女の保護者は、(中略)これを養護学校の小学部及び中学部に就学させる義務を負うも のである」という・従来の文部省路線の再確認をはかっれ

 従って、1979年度からの養護学校義務制実施を前に、1978年になされた一連の関連法令の改正

も、手続き上必要な部分の改正にとどまり大きな変更はなかりた。また同年出されたr教育上特

別な取扱いを要する児童・生徒の教育措置について」(文物特第309号)も、 部分的には改善

はみられる狐基本的な点の変更はみられない。ただ新通達は新しくr就学指導体制の整備につ

いて」という項目を設け、就学指導にさいしての都道府県教育委員会、市町村教育委員会の任務

と、それを達成するための組織穣構の整備、就学指導委員会の任務と組織について具体的に述べ

ている。

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 この通達により、全都道府県とほとんどの市町村に就学指導委員会が設置された。しかし先の 時事通信社の調査によれば、各県教育委員会はr市町村の就学指導委員会では、専門家などのス タッフがそろわず、十分な指導ができない」と悲観的な回答をしており。司、形式的に就学指導委 員会は設置されても、実質的な機能を果たしているとは思われない。

 通達はまた、都道府県及び市町村教育委員会に就学指導のための専任職員を配置したり、恒常 的な教育相談のできる体制を整備するよう指摘しているが、現状は、高い専門性を具えた職員を 必要な数だけ配置し、子どもを長期にわたって経過観察し、いつでも保護者や関係者からの相談

に応じ、入学暖もフォロー・アッナするにはきわめて不十分である。

 就学指導の任にある市一町村教育委員会や、専門諮問機関としての就学指導委員会のこうした状 況の結果、個々の子どもの就学にあたってはいきおいr基準」に照らして機械的、強制的に措置 を決定したり、他方、保護者や関係者に十分納得のいく説明をし得ず、保護者の同意が得られな いため就学上の混乱が生じたり、保護者の意のまま無責任な措置をするなどの事態を招いている。

そこには、就学指導の体制や手続きにおいても検討すべき課題がある。

4.考  察

 以上、障害児の就学指導の制度について、その体系化への歴史的経過をふまえながら問題点を 指摘してきた。ここで大きく、一つは保護者が子どもを障害児学校へ就学させる義務があるとす

ることの問題と、二つには、それを前提にして就学指導行政やそこに設置される就学指導委員会 により就学指導がすすめられていることの問題をとりあげ、考察を加えることにする。

 まず、保護者の子どもを就学させる義務にかかわっては、周知のように、わが国の憲法・教育 基本法は、すべての子どもはひとしく教育をうける権利があるとし、あくまでも子どもの学び発 達する権利の保障を志向しているということを確認しておかなければならない。従って、義務教 育とはすべての子どもに人間として発達するにふさわしいゆきとどいた教育を、無差別平等に、

国及ぴ地方自治体が保護者とともに保障する義務を意味するということはいうまでもない。その さい、障害により生活上、学習上、発達上の制約をうけている子どもに対し、r能力に応じひと

しく教を受ける権利」(憲法第26条)、すなわち、r発達に必要な」、rその障害にともなう 困難の軽減・克服に必要かつ適切な㈹」教育をうける権利を保障するためには、特別な方途を講 ずべき必要性のある場合もあり、そのための具体的な学校形態として、学校教育法は障害児学校 及ぴ障害児学級の設置を規定してい孔

 ところで、一般的に、義務教育の内容として、①国・地方公共団体の学校設置義務、②就学条

件整備義務、③保護者の就学保障義務、④教育における自律性保障義務があげられている㈲。義

務教育をこのようにみてくると、保護者の就学義務の前提として、教育行政の果たすべき義務が

数多くあるといわざるをえない。1979年度からの養護学校義務制実施もまたその一つである狐

果たして、rこの義務制により、我が国の義務教育制度が完成することとなるとともに、すべて

の国民にひとしく能力に応ずる教育の機会を保障できることになる包功」といえるであろうか。養

護学校の学校数や地域的配置、教職員や施設設備の基準、通学保障、安易な訪問教育の制度化な

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ど、否定的な答を出す事実は数多くある。障害児学校、障害児学級、さらには一般の学級につい て、国及ぴ地方教育行政は保護者が信頼して子どもを託せるよう、まず教育の場を質量とも充実 させることが必要である。

 さて、保護者が子どもを就学させる義務についても、現行法制下ではそれは保護者の国に対す る義務ではなく、子どもの教育をうけ発達する権利を保障するための子どもに対する義務を意味 する。近年、これまでの教育行政による一方的、強制的なr措置権限」優先の就学指導に対し、

r保護者の学校選択権」が強調されるようになってきている狐 「親に学校選択権がある狐教 育委員会に学校決定権があるかという論議ではなく、子どもの教育権、学習権、発達権に対して はともに責任を負っているという立場で、ともに一致点を見出していく努力が必要働」であり、

教育行政により保護者は就学を強制されるぺきものではない。

 その点では、すでに検討を加えてきたように、障害の程度により障害児学校へ措置される現行 の学校教育法施行令は、子どもの権利保障についての厳密な科学的吟味に欠けている。けだし、

障害児の就学にさいしては、「①子どもの条件、②受け入れる学校側の条件、③家庭の条件、④ 地域の条件の四つの条件を総含的に検討して障害児・子どもの発達保障にとってもっとものぞま

しい場を選ぶことが重要四」であり、文部省通違(既述・文物特第309号)のようにr就学指 導委員会は、教育上特別な取扱いを要する児童・生徒の心身の故障の種類、程度等の判断につい て調査及び審議を行うものである」という就学指導委員会の性格づけでは、誤まった判断をする 危険性が含まれる。

 もとよりここで、就学指導に関する現行法制のすべてを否定するつもりはない。現行法制は、子 どもの教育権保障のため関係者がその都度衆知を集めてきた成果であり、その中で教育行政は教 育行政としての責任を果たさなければならず、そのためには、「関係者が適切な教育の場を選択

しうるよう、大綱的な指針の提示は必要㈱」と考えたい。

 そのような立場から法制上の問題点を集約してみると、学校教育法施行令第22条の2に示す 障害の程度の問題に帰着する。この部分の具体的な改正について、最近、精神薄弱の部分に関し

r精神薄弱者で、小学校、中学校においては、特殊学級においても、適切な教育を受けることが 困難で、養護学校において教育を行なうことが適当なもの」という表現にしてはどうかという問題 提起もみられる胸。そのように改めても、誰がどのような方法で養護学校が適当と判断するのか、

なぜ養護学校を適当と判断するのかさらに明確にしなければ問題は解消するとは思えないが、

いずれにしてもこの部分の対象規定については柔軟性のある表現に改めていく必要がある。

 上記の、誰が、どのような考えにより、どのような方法で適正な就学を判断するかということ は、大きな第2の問題に相当する。そのさい、これまで教育行政の判断と保護者の意向や希望と の不一致から就学指導上の問題がクローズアップされてきたことからも、保護者の意向や希望が 就学指導においてどう位置づくかも検討課題となる。

 障害児の就学にあたりては、障害と発達についての科学的で総合的な診断をし、障害の軽減・

克服と発達に必要かつ適切な教育や治療・訓練の指針と見通しを明らかにする必要があり、そこに

は医学・心理学・教育学の専門的な知見が要請される。それと同時に、乳幼児期からの継続的な

(11)

観察・診断,治療・訓練・教育、卒業後の進路保障という一貫性のある総合対策や、それを推進 していくための行政上の相互連携、社会的条件の整備も重要になりてくる。このような活動をそ れぞれの地域で展開していく中心になる組織が、r適正就学指導委員会固」といえよう。

 ここで、適正な就学指導をすすめていくには、まず第1に現在の就学指導委員会の構成と専門 的力量が問題となる。すでに述べたように、就学指導委員会の任務はr心身の故障の種類、程度 等の判断についての調査及び審議」という狭い範囲のものであり、またその構成も医師、教育職 員、児童福祉施設職員にとどまっている。現状はそのような構成ですら専門家が得られないとい う問題がある孤高い専門性の確保とともに広範な分野からなる委員構成が考慮されなければな

らない。

 第2に、就学指導委員会に専門委員会としての力量を発揮させるには、その活動を支える教育 委員会事:務局において、保健所、病院、児童福祉施設、職業安定所などの関係機関とも十分な連 携を保ち、乳幼児期から就学後に至る多面的な情報を収集し、就学前のみならず就学後において

も常時相談に応じていける就学指導体制の確立をはかることも重要である。

 第3に、子どもの生活の実態、行動特徴、発達の状況を客観的な立場で最も熟知しているのは、

子どもと日常的に接している幼稚園、保育園、学校、施設の担任者である。これら担任者は診断 面においては専門性は不十分であっても指導者としては専門家であり、これら担任者の意見を十 分聴取し、教育措置と措置後の指導プログラムの中に反映させていく方途を講ずる必要がある。

 第4に、子どもの就学にさいしての保護者の希望、意見、要求を、就学指導の過程において、

尊重していかなければならない。この点心・中学校への学校指定については保護者はその措置 に対して異議申し立てができ(学校教育法施行令第8条)、また児童福祉法における都道府県知 事の措置は親権者の意に反して行なってはならない(同法第27条)など、保護者の希望や意見 を尊重する制度的保障がなされている狐障害児の就学についてはそのような制度はみられない。

逆にいえば、それだけに障害児の就学にさいしては教育委員会に強制的な措置権限はないといえ よう狐いずれにしても保護者が子どもの就学について意見や希望をもつことは当然のことであ り、それを教育行政による就学指導の中で発言し、要求する具体的な手だては講じていかなけれ ばならない。保護者のr学校選択権」というのはr学校決定権」ではなく、学校選択におけるr 要求権」であり刎、子どもの教育権を保障する太めよりよい教育を求めるr教育要求権晒」とし て尊重していく必要がある。

 このような保護者の教育要求に対し、就学指導の中で保護者が子どもの進路について十分な見 通しと確信をもてるよう、適切な説明と援助をしていくことは大切である。それと同時に子ども の教育を安心して託せる学校や学級を地域的に適正に配置し、教育諸条件を整え、ゆたかな教育 実践がそこでなされているということが不可欠である。障害児学校、障害児学級、一般の学級が それぞれの地域で、さまざまな障害の種別・程度・症状をもつ子どもたちの期待と要求に応え、

それぞれの教育横関の性格・任務・機能、区分と関連を明確にし、ともに障害児の教育権の保障

に責任を負うという、障害児教育の地域計画化が急がれる。

(12)

(注,

11〕内山喜久雄(監修):知能障害事典、岩崎学術出版、P.340.(1978)

121厚生省社会局更生課、厚生省児童家庭局障害福祉課、文部省初等中等教育局特殊教育課、

 労働省職業安定局業務指導課(監修):心身障害者福祉・教育・雇用事典、第一法規出版、

 P. 1296. (1979)

13〕文部省:特殊教育百年史、東洋館出版・P.209.(1978)

14〕伊藤隆二他(編):心身障害児教育指導事典、福村出版、P 106.(1974)

15〕昭和54年2月11日付読冗新聞

㈹ 時事通信社:内外教育、第3064号、P.4.(昭和54年7月10日)

17〕宮原誠一也(編):資料日本現代教育史 4(戦前)、三省堂、P.299.(1974)

{8j 前掲書(3)、P,511,

191同上書 P.509.

皿0平原春好:わが国の教育制度史上におけるr特殊学校」の位置、教育学研究、第46巻  第2号、P.7.(1979)

皿皿 山内太郎(編):戦後日本の教育改革 5(学校制度)・東京犬学出版会・P.421.

 (1972)

皿2 前掲書(7)の1(1945−1950年)、P.126.

恒3 日本教職員組合:日本の障害児教育、P.3.(1975)

ω 前掲書(3)、P.317.

胴 文部省:特殊児童判別基準とその解説、光風出版、(1953)

OO全日本特殊教育研究連盟他(編):精神薄弱者問題自書1969.日本文化科学社・

 P, 162. (1969)

岨刊 教育制度検討委員会:日本の教育改革を求めて、教育評論、304・305号、P 105  (1974)

皿8前掲書(6)、P.6.

仙9前掲書(17)、P.100.

棍①牧柾名:教育を受ける権利の内容とその関連、日本教育法学会年報2、有斐閣、P.18.

 (1973)

㎝ 諸澤正道:特殊教育百年を迎えて、特殊教育、㎞23、東洋館出版、P.3.(1979)

幽 座談会:障害児教育と適正就学保障の課題、障害者問題研究、20号、全国障害者問題研  究会、P.23.(1979)

㈲三島敏男:適正就学指導をめぐって(1)、第38回日本教育学会発表資料、P.3.

 (1979)

侵。大久保哲夫:特殊教育諸学校へのr就学義務」に関する若干の考察、奈良教育大学教育研  究所紀要、第14号、P.91.(1973)

固 山口薫:これからの特殊教育、発達障害研究、第1巻 第2号、日本文化科学社、P.95

(13)

 (1979)

oo京都府障害児教育推進協議会:京都府における障害児教育の推進について(協議事項最終  報告書)、P.90.(1978)

鋤 大久保哲夫:障害児教育にみるr保護者の学校選択権」の検討、奈良教育大学教育研究所  紀要、第15号、P.55.(1979)

㈱ 牧柾名:子どもの学習権と親の学校選択権・前掲書(22)・P.39.

参照

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