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行政の中の学芸員

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Academic year: 2021

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

行政の中の学芸員

著者 高田 知樹

雑誌名 高円史学

巻 18

ページ 64‑66

発行年 2002‑10‑01

その他のタイトル The Gakugeiin (学芸員) inside the Administration

URL http://hdl.handle.net/10105/8797

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︹余  録

行政の中の学芸員

高     田     知     樹

﹁学芸員﹂ といえば︑美術館や博物館の専門職員と思われがちである︒事実︑博物館法にも博物館専門職員として任用す

ることと規定している︒しかしながら︑特殊な例として学芸員の資格を取得した者を一般行政職員として採用している自治

体が存在する︒私もその一人であり︑私が在住する岡山県内でもわずか数名であるが︑文化財保護行政の専門職員として採

用され︑文化財保護行政全般︑発掘調査などを主たる仕事として従事している︒そこで本稿では︑私の仕事の事例をもとに

文化財保護行政とそれに従事する学芸員の現状と課題について︑現在︑主たる仕事になっている発掘調査の仕事を中心に紹

文化財保護行政といってもかなり多岐にわたる︒文化財の指定・解除︑発振調査の届け出など文化財保護法・文化財保護

条例にかかわる事務処理︑文化財保護審議会の運営︑市内文化財の調査・管理・普及啓発︑そして埋蔵文化財の発掘調査な

岡山県は︑遺跡数が二万件を超えており︑全国のベスト玉に入るまさに ﹁古代吉備王国﹂ と呼ぶにふさわしい県である︒

そのため︑文化財保護行政は発掘調査が主たる仕事になる場合が多い︒発掘調査は︑学術調査と記録保存に伴う発掘調査に

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分けられる︒前者は主に大学等研究機関で行われる発掘調査で︑自治体は︑後者の開発工事に伴う記録保存調査を主に行っ

ている︒岡山県では︑県が国と県の公共工事︑市町村が市町村の公共工事と民間の工事を担当するというように事業の分担

が明確化されている︒そのため︑私の所属している市町村は公共工事と民間工事を担当することとなる︒文化財保護法上両

者の行政上の対応は建て前としては違いはない︒しかしながら発掘調査の費用の負担で大きく異なってくる︒発掘調査の費

用は︑文化財保護法の法解釈 ︵但し︑明文化されていない︶ で事業主が支払うということになっている︒このことから︑公

共事業は身内の事業ためトラブルは少ないが︑民間工事の場合は︑特にお金の問題だけにトラブルが起きやすい︒小規模な

自治体になると担当者は当然一人であるため︑事業者との交渉は全て担当者がすることとなる︒私の場合も費用の説明など

で紛糾する場面に直面することがあった︒紛糾するぐらいですめばまだいいが︑ひどいケースでは訴訟に至る場合もある︒

これもひとえに︑文化財保護法に調査費用の事業者負担が明文化されてないためであり︑法整備が望まれる︒

また︑小泉改革が進む中︑道路工事を中心に公共工事が減少傾向にあり︑今後は民間工事が発掘調査の主体になることが

予想される︒そのため民間工事が担当の市町村の発掘調査体制の強化が求められてくる︒しかしながら︑私が所属するよう

な小規模な市町村は人員増を行うことは非常に難しく︑現状では︑予算の執行︑現場管理から専門知識を要する調査まで一

人でこなすこととなる︒また︑発抱調査は︑調査報告書を刊行してはじめて完了することから︑現場が終了した後も出土品

の整理作業︵洗浄・注記・復元・実測・拓本・写真撮影など︶︑報告書の執筆などまだまだ作業が残されている︒これらの

作業は︑アルバイトの手伝いはあるものの最終的には一人でしなければならず︑負担はかなり大きい︒このような現状を打

開するためには︑人員増以外で考えられることは︑市町村合併問題を含めた近隣市町村による連携体制︑県の応援体制の整

備などが考えられ︑早急な対応に迫られている︒

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これら発掘調査業務以外では︑文化財保護関係の一般事務が中心となる︒これは︑学芸員等専門職員が配属されていない

市町村では︑一般行政職の職員が行っているため︑あまり専門知識は必要としない︒しかしながら︑市内の文化財の問い合

わせや史跡案内︑資料調査などは専門知識があるのとないのとではやはり違うようでとても重宝がられる︒また︑特に最近

多いのは︑﹁お宝ブーム﹂ にのった我が家のお宝を見て欲しいという依頼である︒内容は︑書画︑考古資料︑民俗資料︑化

石など多岐にわたり︑専門分野ならある程度は回答できるが︑それ以外の分野になるとその都度調査する必要がある︒相手

も学芸員であるから知っていて当然という態度で話してくるため︑いいかげんな回答をするわけにもいかず︑幅広い知識が

最後に︑小規模の自治体になるとそれだけには止まらず︑専門職員ということで︑良しにつけ要しにつけ﹁便利屋﹂使い

され︑いわゆる ﹁雑芸員﹂ となっている︒私もその例にもれず︑美術館︑歴史民俗資料館︑市史編さん室を兼ねており︑そ

の方の仕事も携わるようになる︒特に市史は︑現在通史編が筆耕作業中で︑その中に入れる資料の図化に追われている︒

本稿は︑文化財保護行政にたずさわる学芸員の現状と課題について発掘調査の仕事を中心に述べてきた︒博物館・美術館

に勤務する学芸員とは異なり︑展示という仕事はないが︑資料調査といった仕事は︑量の多い少ないはあるにしても同様に

こなさなければならず︑またその分野は歴史分野から自然科学分野まで多岐にわたる︒また︑発掘調査が入るとその仕事が

主たる仕事になり︑日中は現場の作業に忙殺される︒このような多忙な毎日を経験年数︵十年目︶ と良き相談相手となって

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