認知反応における個人差の一貫性 一個人差研究の意義
鈴木 由紀生
はじめに
研究成果が現実の生活にどのように寄与するかにこだわり過ぎることは,問 題がないわけではないが,学問の応用を考える場合はこのことが重要である。
研究には現実生活との対応が比較的明瞭なものもあれば,そうでないものもあ る。今直ちに役立たなくても,何時か役立つ基礎的研究もあり,効用について は近視眼的に見るべきではないが,一定の結論が出てもその意味が定かでない 場合もある。認知反応の個人差については,個人差が存在することは確かであ り,それをあつかった研究も多いが,問題を整理しておかないと,結果の処理 と解釈を誤り,研究の意義を無くしてしまう場合がある。本論稿の目的は,認 知反応における個人差の研究の意味を検討し,研究上の注意すべき点を明らか
にすることである。
Rod and Frame testにおける個人差からfeild dependentまたはindepend一 ent傾向を判断したり,ロールシャッハテストにみられる反応の違いからパー ソナリティを診断したり,また速度見越反応検査から運転適性を評定する等,
心理学では認知反応における個人差から人間の心理を解明しようとすることが 多い。心理テストはほとんどがこれを行っているといっても過言ではない。
筆者自身もHollingworth(1913)が用いた手続きをもとにMenninger clinicの研究グループが開発したSchematizing testを用いて, Levelingや Sharpeningの行動傾向を検討したり(鈴木 1987),新しく考案した幅員評定
テストを用いて運転行動との関係を検討したり(Suzuki 1969)してきたが,
いつも次のことに悩まされた。すなわち,極端な人(いわゆる異常者)の場合
は別として,中間の人(いわゆる正常者)の中の個人差を問題にすることの意
味はどんなところにあるのかということである。というのは,正常者において
は,認知反応(テスト)における個人差の一貫性(持続1生と一般性)が認めら れないことが多いからである。
このことについてはすでに「Cognitive style研究の問題点」として検討し たことがあるが(鈴木 1976),その後の研究と経験から「個人差の一貫性の 程度の差こそが正常者と異常者の違いであり,これを明らかにすることも個人 差研究の意義の一つである」ということに思いいたった。今回は,この観点も 含めて認知反応における個人差研究の意義を改めて検討する。
1 認知反応の過程について
一口に認知反応というが,心理学で認知という場合は,その中に感覚や知覚 だけでなく記憶や思考も含まれるし,反応といっても言語反応もあれば,身体 反応もある。Stagner(1961)はPerceptual StyleとRespose Styleを区別し ている。このように認知反応を一般的な形でとりあげると,そこには異なる次 元や過程が存在するので,どんな過程の何を問題にするのかがはっきりしなく
なる恐れがある。
論点をはっきりさせるために,以下,自動車の運転行動という認知反応に関 係づけながら認知反応の過程を検討する。運転行動は交通場面に存在する様々
F ネ外的要因と自己の側の内的要因を的確にとらえ,それに応じた運転操作を行
うものであるから,問題にする認知行動の過程や次元は比較的明瞭である。す なわち,刺激に注意をはらい情報を抽出する過程(知覚過程),抽出された情 報を評価判断し,どのような動作をすべきか決定する意志決定過程,決定され
た意志にもとついて操作をする反応過程である。
最初にそれぞれの過程における個人差の問題を整理する。
1)情報抽出過程(知覚過程)
Forgus(1966)は刺激の中から反応すべき情報を抽出する過程を知覚過 程とよび,その中に次の5つの連続する課題を区別している。
(1)刺激エネルギーの検出と刺激エネルギーの変化の弁別
(2)背景と区別されるまとまりの弁別
(3)より分化した姿をつくりだすより詳細な解像
(4)形やパターンの同定または再認
(5)同定された形についての操作
この区分にしたがって運転時の情報抽出過程における個人差の問題を整理
鈴木:認知反応における個入差の一貫性 3
すれば,次のようになる。
(1)の課題は刺激閾や弁別閾に関わり,交通環境(一般的には道路)の中に 何らかの対象物の存在を発見する段階であり,直ちに反応に結びつくもので はない。しかし,発見できる距離や対象物の大きさ等には個人差があり,こ れに影響するものとしては,視力や色彩弁別力等の能力上の違いと注意の向 けどころ,走査の仕方の違いがあげられる。
(2)の刺激の体制化,(3)の刺激の解像,(4)の刺激の同定・再認は,対象物が 何であるかを知る段階であり,次の意志決定過程につながっている。ここで
は対象物に関する知識に個人差が認められ,それに影響するものとしては,
教育や経験の違いがあげられる。
(5)の同定・再認した対象物に対する操作は,まさに次の意志決定と反応過 程であるが,ある場面を安全と判断するかどうかには個人差があり,それに は経験や知識の違いだけでなく,動機や情動のあり方も大きな影響をもって
いる。
以上の整理はもっぱら運転場面における外部情報の抽出に関するものであ るが,運転の際には同時に自分の車の状況や自分の運転技能等内部の情報に ついても抽出(自己知覚)し,評価判断しなければならない。ここにも個人 差があり,それには経験や知識に加えて性格も影響してくる。
2)意志決定過程
意志決定過程は,抽出された情報について評価判断し操作内容を決定する 過程であり,そこで生じる個人差には,情報抽出過程においてもふれたよう に,知識・経験,動機づけ・情動,価値観,性格のすべてが影響してくるが,
その瞬間の安全または危険を判断するときには,これらの中のどれかが支配 的に働く。例えば,無理な追い越しは危険だという知識があり,普段はしな いが,目的地に時間までに着くためには急がなければならない場合には,し てしまうこともあるだろう。このときは「時間までに着きたい」という動機 が判断を支配したことになる。
3)反応過程
反応は決定された意志にもとついて行われるわけであるから,この過程に おける個人差には,意志決定過程における個人差がそのまま反映されるが,
その上に,技能上の違いも影響する。
2 認知反応の測度
以上,運転の際の認知反応過程における個人差とそれに関わる要因について 概観してきたが,次に認知反応を問題にする場合の指標について検討する。認 知反応には認知と反応の側面または過程があるが,認知の側面をそれだけ独立 してとりあげる場合は,本人の言語報告による内省に頼らざるをえない。一方,
何らかの動作を伴う反応を指標とする場合は,そこから反応の側面だけでなく 認知の側面も推量するのが一般的である。運転行動の認知反応を問題にする場 合も内省をとったり,動作の開始や終了までに要する時間や反応パターンを手 掛りにする。ここでは動作を伴う反応についてだけ検討することにする。
1)反応時間
反応の測度として最も一般的なのが,反応時間である。反応時間には刺激 または課題が提示されてから反応が開始されるまでの時間と所定の反応また は課題解決が終了するまでに要する時間がある。Woodworthら(1954)が 指摘しているように,あらゆる活動は時間を要し,その時間は測定できるし,
一つは課題達成の指標として,もう一つはその課題に関わる内的過程の複雑 さの指標として役に立つので,反応時間はきわめて有効な測度である。
Woodworthは反応時間に影響する要因を刺激と有機体の二つに分けて,次 のように整理している。
(1)刺激の側の要因
刺激の内容(モダリティ,モダリティ内の違い,複数のモダリティ の複合,複雑度等),刺激の量(大きさ,強さ,高さ等),提示のさ れ方
(2)有機体の側の要因
動機づけ,用意の構え,年齢,性別,薬物摂取の有無等
このように反応時間は刺激と有機体双方の沢山の要因によって影響される。
運転行動の場合,反応時間が測定されるのは,ブレーキペダルを踏む時間,
ハンドルを切る時間,バックミラーを見る時間または回数などがあげられる
が,安全運転という観点からすると,現実の運転で反応時間の速さそのもの
の個人差が問題になるのは,緊急時のブレーキペダルを踏み込む速さぐらい
であり,むしろいかに適切な反応をするかということが重要である。しかし
ながら,適切な反応をするためには,自分の能力に対して正しく認知してお
く必要があるので,様々な動作に取り掛かるのに要する自分の反応時間をあ
鈴木:認知反応における個人差の一貫性 5
らかじめ知っておかなければならない。特に高齢者のように若いときに比べ て著しく長くかかるようになっている場合,反応時間の速さについての個人 差の知識が大きな問題になる。
2)反応の正確さ
反応が適切であるかどうかについては,課題に正答がある場合は,反応の 正確さ恭指標となる。この指標は,正確に反応しようとすると時間がかかる とか,速く反応しようとすると誤りが多くなるというように,速さの指標で ある反応時間と拮抗する関係にあるが,個人差としては正確で速い反応をす る人もあれば,遅くて誤りが多い反応をする人もいるという具合に並列する 場合もある。一般的に課題の多くは,速く正確に遂行することを求めるが,
先にもみたように,運転行動の場合は,何よりも正確な反応が求められ,速 ければ速いほど良いというわけではないが,かといってどんなに時間を要し ても良いというわけでもない。つまり,一定時間内にできるだけ正確にとい うことが要求される。もちろん,運転行動における正確さの場合も,アクセ ルペダルとブレーキペダルの踏み間違いのように,動作レベルの誤りもある が,多くの場合,その場にふさわしい車の動かし方をしたかということであ
り,動作というよりは,判断レベルの正確さの方が問題になる。
3)反応のスタイル
認知反応の課題には,解決の仕方がいく通りもある場合がある。このよう な場合には解決の仕方(様式,スタイル)が指標となる。認知スタイルの研 究はこれを問題にしているわけであるが,運転行動について考えると,より 効率的な運転スタイルはあるが,それでなければ絶対に駄目ということはな く,かなりの幅があり,個人差が認められる。しかしながら,そのレベルも 急ブレーキを踏む癖とか,車間距離を詰める癖のように安全運転の基準から すれば矯正を要するものが多く,ここでも極端な個人差は問題になる。
4)反応の内容
認知反応の課題には正答がない場合もある。この場合は反応の内容がその
まま指標となる。この指標は一般的に個人の内面を投影していると考えられ
るが,解釈は難しい。運転場面にこのようなことがあるかといえば,飛び出
してくる子どもがあるかどかを判断する場合のような予測場面がこれに近い
であろう。個人差としては慎重に「有るかもしれない運転」をする人,無謀
に「無いだろう運転」をする人が認められる。このように運転場面における
反応内容に関わる個人差は主として判断レベルにおいて問題になるが,その 独自性の許容範囲が問題になる。
3 認知反応における個人差の種別とその意味
以上認知反応の過程とその指標について運転行動にみられる個人差との関連 で整理してきたが,次にこれらの個人差の種別とその意味について整理する。
1)個人差の種別
個人差は,どのような内容の個人差でも,次のような観点から分類するこ とができる。
(1)質的(絶対的)相違と量的(相対的)相違
個人差はどうしても量化できない場合を除けば量的な違いとして示され,
数量化されたものが,どんな尺度(名義,序数,間隔,比例尺度)にあて はまるかが検討された上で,各種の統計処理が行われ,一般的な傾向が検 証される。しかし,統計処理の可能な尺度で量化された差でもその解釈に なると,同一の性質を持ったものの量的な違いととることが,困難な場合 がある。認知反応の場合,反応時間にしても誤反応にしてもこれらの指標 はすべて量化できるが,或る範囲を越えた反応には,範囲内の反応に寄与 している要因とは別な要因が働いている場合があり,相関係数をとる場合 に一様に扱うとその本質を見失う恐れがある。
一般的傾向を知る場合には,極端な値を除いて処理することもありうる が,個人差を検討する時には,この点が重要な問題になる。精神的疾患を もった人たちに見出される心的傾向を,普通の人について検討すると,表 面的には単なる量的な違いに見えても,他の心的作用との関係(共通性・
一般性)になると全く違ってくる場合があり,反応の背景が違っていると 考えざるをえないことがある。
(2)永続的相違と一過的相違
個人差には永続的なものと一過的なものがあり,前者には比較的不変の
要因が後者には変わりやすい要因が影響している。能力が影響するような
場合は前者であろうし,知識や動機や情動が影響している場合は後者であ
ろう。これは個人差の一貫性の問題でもあるが,特定の認知反応において
比較的持続的な個人差が認められた場合は,Rod and Frame testの反
応スタイルから日常生活における場面依存的行動傾向を判断したり,速度
鈴木:認知反応における個人差の一貫性 7
見越反応検査における反応スタイルから尚早傾向を判断したりするように,
その人の恒常的な行動傾向を示す手掛りとして使用することができる。
一過的な相違の場合は変化そのものがその認知反応課題に関わる要因の 解明に用いられる。
(3)全体的相違と部分的相違
個入差には認知反応の最終的な全体に関するものもあれば,その一部を 成すものに関するものもある。単純反応では反応時間が他の人より速いが,
選択反応になると遅くなるとか,個々の動作は優れているが,全体として の運転行動になるとそうはいえないという場合もある。
2)個人差の意味
個人差がその個人の何を表しているのか,つまり個人差の意味については,
反応時間についてのWoodworthの見解の紹介をはじめ,これまでも述べて きたが,要約すれば次の二点にまとめることができる。
(1)能力の違いか成就度の違いか
その個人差が能力の違いであるかそれとも成就度の違いであるかは,練 習による進歩があるかどうかで判断できる。単純反応時間の差のような場 合は,感覚の鋭敏さとか反射神経の働き方のような能力の違いであるとみ なすことができる。そしてこのような能力の差は,その人の比較的持続的 な属性であり,本人がその違いを認識することが,日常生活をスムーズに 営む上で役に立つ。しかし,もっと複雑な認知反応の課題では練習による 進歩が見られることが多く,能力の違いというよりは,習慣の違い,学習 の違いであり,達成または成就の程度を示していると見るべき場合が多い。
しかし,日常生活との関係でいえば,成就度の違いであり練習すればもっ と進歩するとしても,それに気づかなかったり,気づいても,あるところ で満足して練習しないこともあるので,さきの能力の違いと同様に,その 人の持続的な属性として扱ったほうがよい場合もある。
(2)価値観,動機づけなどの内面の投影
ロールシャッハテストのように正解が無い場合に限らず,日常生活にあ
る課題の多くは,反応の許容範囲が広く,その人の価値観や動機づけ,情
動等の内的要因に応じて多様な反応が可能であり,個人差が見られる。そ
の個人差がどんな内的要因を反映しているのかは,反応内容を分析するこ
とによって知ることができる。この種の個人差は,それらの要因によって
変化させられるので,その個人に固有の持続的属性による差というよりは,
外的状況や内的状態の変化に左右される一過的な差ということができる。
日常生活においては或る個人が外的状況や内的状態の変化によって同一の 課題に対してどんな変化を起こすかを知ることは極めて有益である。もち
うん,個人差としては,内面を容易に外に表す人とそうでない人もいる。
この違いは比較的持続的な差ともいえる。
内面の投影についてはスキーマによる解釈もあるが,これについては後 でふれる。
4 認知反応における個人差研究上留意すべきこと
以上,認知反応と個人差について基本的な諸問題を検討してきたが,次にこ れまでの研究成果をふまえて認知反応における個人差研究上留意すべき点を整 理する。
認知反応における個人差は,前に述べたように,知能検査,適性検査,性格 検査等,個人間の違いを測定するテストの開発の中で研究されることが多い。
知能検査や性格検査の場合,動作の速さや正確さで示される認知反応は,知能 や性格の想定された因子の測度としてあつかわれることが多い。B式知能検査 やウェクスラーの動作知能検査ではこうした認知反応検査がテストの重要な部 分を構成している。性格検査の場合は,クレペリン検査のように一つの作業検 査から様々の行動傾向を測ろうとするものもあるが,さきにあげたField de一 pendent傾向のような特定の行動傾向だけを測ろうとするものもある。しかし
ながら,知能検査や性格検査の場合はそうした個々の知能因子や行動傾向の全 体的なまとまりの個人差が研究の主要な対象であり,個々の認知反応の個人差
そのものを問題にすることは少ない。その点,適性検査の中には,特定の認知 反応課題の個人差そのものを問題にするものがある。ここでは特定の認知反応 検査における個人差を問題にすることの展望を検討することにしたい。
1)研究手続き上の留意点
認知反応における個人差の研究は次のようなステップを踏む。
A.問題にする認知反応の決定
まず初めに,どんな認知反応における個人差(反応傾向)を問題にする
のかを決めなければならない。一般的には日常生活にみられる個人差を観
察し,注目すべき違いを取り上げるわけであるが,時には個人差を問題に
鈴木:認知反応における個人差の一貫性 9
するつもりではない研究において無視できない個人差に出合って,それを 問題にする場合もある。
B.認知反応課題の作成
問題にする個人差が決まったら,次はそれをとらえる認知反応課題を作 らなければならない。
C.個人差の確認
作成された認知反応課題を用いて個人差を確認するわけであるが,これ には次の二つの確認作業がある。
ア.個人差の持続性の確認 再検査法が用いられることが多いが,相関 が問題になる。
イ.個人差の共通性・一般性の確認 類似の課題間の相関が問題になる。
D.個人差の意味の検討
確認された個人差の意味を検討する。
これらの過程で注意しなければならないことは,次の点である。
AとBのところで大切なことは,研究の目的が,日常生活にみられる個 人差をその雛型としての認知反応課題(テスト)で確認することなのか,
それとも認知反応課題にみられる個人差そのものの検討なのかを明確にし ておくことである。後者の場合は問題ないが,前者の場合は,オリジナル な研究者には起こらないが,追試者の場合,つくられた認知課題の細部に こだわり,本来の目的を見失う恐れがある。
Cでは,相関をとる際,対象者全員を一緒にしてとるだけでなく,場合 によっては極端群と普通群を分けてとる必要があるということである。
2)上記の留意点を導いた研究例
通常の記述と逆の形であるが,ここで,上記の留意点を述べるにいたった 実際の研究の問題のある例と問題がない例をあげる。
(1)問題がある研究:Schematizing testを用いたLeveling vs Sharpening 反応傾向の分析(suzuki l979,鈴木 1987)
これは筆者自身が行った研究であり,上記の手順に従ってその研究過程
を示す。
A.問題にする認知反応の決定
筆者のこの研究は,メニンガーグループのG.S.Kleinの研究報告
(Gardner et a11959)の追試研究としてスタートした。問題にする認
知反応の個人差は,適応すべき課題が変化に対処することである場合に みられる次のような個人差である。すなわち,或る人はその課題に対し て自分がつくりあげた基準またはスキーマに忠実になり,実際の変化か ら大きくズレてしまい(Leveling反応,こうした反応をする人をLeve一 rerと呼ぶ),或る人は実際の変化によくついていく(Sharpening反応,
こうした反応をする人をSharpenerと呼ぶ)。このような個人差は日常 生活においてよくみかけることであり,興味をもったわけである。
B.認知反応課題の作成
従って認知課題もKlein等の用いたSchematizing test(以下SMT と略記)をそのまま用いた。この検査は連続してスクリーンに提示され る正方形の一辺の長さを評定させるもので,初めに評定の参考になるよ うに,本番で評定しなければならない刺激の最小のものより小さい刺激 と最大のものより大きい刺激が提示され,それぞれの実際の大きさが教 えられる。刺激は異なる大きさの14個の正方形で,初めは最も小さいほ うの刺激5個が一回目は小さいほうから順に後の二回はランダムに提示 される。それが終わると最も小さい刺激は除かれ,次に大きい刺激が加 えられ,前の5個の刺激と同じ手順で提示される。以下同様にして,最 後の最も大きい5個の刺激グループが三回提示されて終わりになる。刺 激は徐々に大きくなっていくわけであるが,Levelerは最初のころの小 さい刺激がくりかえされるところで,提示される刺激についてスキーマ を作り,それに従って刺激の実際の変化に対する注意が薄くなるために,
終わりのころは,最初のものよりは相当大きな刺激になっているにもか かわらず,それを非常に小さく評定するというのである。
C.個人差の確認
SMTを用いて公立小学校の児童,中学校の生徒,大学生を対象にし てLevelerやSharpenerを見つけようとしたが, Klein等のいうような LevelerもSharpenerも見つからなかった。
そこで,早計にも,Klein等のいうような1.evelerやSharpenerは一 般の人の中には殆どいないのだという結論を出し,この研究からしばら
く離れていた。しかしながら,SMTでは検出されなくても,日常生活
では,LevelerやSharpenerと呼べそうな人を見かけるので,前の結論
を反省し,研究を再開した。今度は,Klein等のSMTに,本質的な部
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分はそのままにして,被験者の内面が反映されやすいように,反応のた めの外部的手掛りを少なくする改定を加えて改定SMTを作った。改定 の内容は次の通りである。刺激を正方形から水平の線分に変え,線分の 長さの評定にした。評定の参考のための例示は無くした。刺激の提示は 各グループニ回とし,一回目の小さい順に提示することも無くした。こ の改定SMTを実施したところ,一般の人の中にもLeveling反応を示 す人を見出すことができた。
そこで,次の段階である,こうした反応傾向の一貫性と共通性・一般 性の確認を行った。
一貫性の確認は,改定SMTの内容が繰り返しに不向きなので,基本 的な作業は同じであるが,やや内容が異なる,10個の線分の長さを判断
させる情報伝達量の測定によって行った。その結果,対象者全員をまと めた場合は有意な関連はみられなかったが,改定SMTで極端な反応を 示した少数の者は情報伝達量の測定課題でも同じような極端な反応を示
した。
共通性・一般性については,課題内容が類似と思われる少しずつ重く なっている一列に並んだ重量箱を一つずつ持ち上げ,前に持ち上げたも のと較べて重いか軽いかを判断させる重量漸増テスト(重量箱は全部で 12個あり,8番目までは少しずつ重くなっているが,9番目からは同じ 重さで,そこからも重いという判断を続けるかどうかが問題:知覚判断 課題)やルーチンスの水汲み問題(思考課題)との関連を検討したが,
一貫性の確認の場合と同様の結果を得た。
D.個人差の意味の検討
SMTを改定することによって, Leveling反応を示す人を一般の人 達の中にも見出すことができたが,これらのLevelerは元のSMTでは,
提示された手掛りや小さい順に提示される部分を参考にして,評定を変 えることができるということを示している。一方,元のSMTでも Leveling反応を示す人の場合は,この程度の外部的手掛りでは効果が なく,自分の反応のズレを修正できないということであろう。このこと は,情報伝達量の測定の結果からうかがうことができる。すなわち,
Levelerは情報伝達が少なく,刺激の弁別力が小さいことを示している。
しかし,提示された刺激の差は十分に弁別できる大きさなので,視力の
ような能力の違いだとは断定できない。KleinはLevelerには少々の差 異は無視する態度があり,Sharpenerにはどんな差異も見逃さない態度 があると仮定しており(Klein 1951),このような内的要因の影響も無 視することはできないが,それを証明するデータはない。
以上のように,この研究はSMTによって,認知反応課題が変化する 刺激に対応することである場合,変化についていける人とそうでない人 がいることは確認したが,その違いが能力の差なのかそれとも内面の投 影なのか,認知の差なのか反応の差なのか,それともその協応の違いな のか等を明らかにするような多角的な検討は進んでいない。
この研究の問題点は,何よりも,研究の目的が日常生活に見られる LevelerやSharpenerの認知反応傾向を分析することにあるのか, S M
Tに対する認知反応傾向を検討することなのかが明確でなかったことで ある。もし,目的が前者なら,何よりも日常生活にみられるLevelerや Sharpenerを対象にして検討をすすめる必要があったし,後者なら個人 差の発見にそれほど固執せずにSMTに対する反応に関わると思われる 要因についての分析を進めることが必要であった。
(2)問題がない研究:速度見越反応検査による運転適性の研究
これは丸山が行った研究であるが,その研究過程を比較的詳しく知るこ とができる立場にあったので,認知反応における個人差研究の良い例とし て示して,前述の留意点の必要性を鮮明にしたい。この研究は今も資料が 集積されているが,ここでは初期の資料だけを紹介する(北村他 1967)
A.問題にする認知反応の決定
研究の出発はS社の交通事故多発の原因を検討することであった。事 故記録を分析した結果,事故は運転者全員が均等に起こしているのでは なく,或る人は繰り返し事故を起こし,或る人は全く事故を起こしてい ないということがわかった。そこで,事故多発運転者と無事故運転者の 違いを調べるための検査を考案することになった。
B.認知反応課題の作成
検査の作成にあたって,S社の事故記録を調べたところ,山間部の道
幅の狭い道路での接触事故がかなりあり,道路の広い部分で待機せずに
先に進み,道幅の狭い所で無理なすれちがいをするために起こっている
ケースが目についた。そこで事故多発者の場合,対向車を認めて,どこ
鈴木:認知反応における個人差の一貫性 13
ですれちがうかを判断する際に,「まだ来ない,もっとさきの広い所ま で進める」と判断する傾向,つまり対向車の速度を過小評価する傾向が あるのではないかということが予想された。このようにして,一定の速 度で進んできた光点がおよそ20cmの黒い壁の背後に隠れた後(実際の光 点はここで止まり,タイマーが動きだす),同じ速度で進行していると 仮定したら,壁の後ろを通過して出てくるのは何時かを予測して反応キー
を押させる(キーを押すとタイマーが止まり,見越し時間が測定される。
また,あたかも壁の後ろを通過してきたかのごとく,壁の終わった所に 光点がつく)という速度見越し検査が考案された。
C.個人差の確認
まず,個人差の確認であるが,事故多発者には見越し時間が短い人が 多く,無事故者にはそのような人が少ないという明確な違いが認められ
た。