SHESのConceptual Modelの理論的検討
(その一)
保健体育科学校保健研究室内山 源
1.緒 言
こ整でアメリカのSch・・I H・alth野ducati・n・tudyの研究成型こついては昭和42聴 昭三氏によって,続いて昭和44年小倉学氏によってさらに詳しく紹介されている。したがって,ここ で改めて紹介する必要はないであろう。むろん,紹介といっても,殆んどそのままに内容を報告するも のもあれば,検討・コメントをつけてするものもあってよい筈であり,その意味で筆者が改めて検討す ることも意義のないことではないようである。
本稿では,内容の紹介どいうよりtこれまでの筆者の「保健教育内容の選択・構成の原理・基準」の 追求で問題となった理論モデルないし概念枠組の観点から検討をすすめることにしたい。
すなわち、「保健教育のカリキュラム・内容・教材・領域とか基本概念が,どのような原理によって 編成されたか」についてである。SHESにおいては3っのKey conc eptsの下にxoの基本概念を 構成し,さらにその下位概念を設定し,これに行動目標を対応させている。
3)
つまり,Ten Concepts:The Scope of the Health Educat孟on Curriculwn はど のような原理において「導出されてきたか」ということである。一般的カリキュラム構成原理について 4) 5)
6)
は,筆者がこれまで保健教育内容の構成原理を追求する過程で,ふれており一部発表,報告したが,こ こで問題にしたいのは一般的な構成原理のことではなくて,保健教育独自のカリキュラムに対して,ど のような理論的,論理的原理をSHESにおいて追究しているかである。
我が国の場合,画一的な基準である学習指導要領があるが,これには小学校から高校まで保健教育の 内容,領域が計画され,これに拘束されて保健授業が実践されている。そして,学習指導要領が約十年 間隔で改訂されるたびに,この内容・領域は削除されたり,ふくれたりするのであるが,修正や改訂す る場合にも当事者には何らかの基本的な原理を有している筈であり,恣意的にムード的に行なっている わけはないであろう。まして,初めに学習指導要領という基本的な内容計画を構成する場合には,各科 教育において基本的な枠組・構成原理があった筈なのである。
もっと具体的にいうなら,研究者側では近年の小倉教授の6領域試案等があり,一方,現場の授業実 践に用いられている保健の教科書には,さまざまな領域や教材内容が構成されているのであるが,それ はどういうことになるのであろうか,どういう理由からそうなっているか,ということである。そして,
広げてアメリカについてみるなら,種々様々な内容領域がみられているのであるが,それは現実的,適
用の段階で修正や改変が行われて提示されたものであるにしろ,それ以前に,何らかの原理にfO いて理
論的・論理的に構成されている筈であるから,それらには一体どのような原理のもとに,具体的な.「]rhe
Scope of the Hea箆h Education Curriculumがでてくるのか,原理は共通であって,現 実的適用条件が異なるから,Curriculumが異なるのか,原理から基本的に異っていてそうなのか,
原理などといった基礎的理念枠はなくて,ただ伝統的慣習的に作られているのか等といった諸点か,科 学的教育内容の構成とか,教育科学の理論構成という面から,重要な問題と考えるのである。
原理が人類の共通の文化財として相互に研究的連関がなされ,理論的認識が保持されることになれば,
国内では無論のこと,国際的にもこれほど保健教育の推進向上のために有効なことはないであろう。
学習指導要領のそれが曖昧であったり,無自覚的,伝統的であるとすれば,この面の追究によって,
その改訂構成に大いに参考になるであろうし,研究レベルにおいて保健教育のカリキュラムを考究する 場合にも教育的価値:は高いものと考える。
本硯究はそのような意義と目的のもとに,アメリカのSHESを対象にして,教育内容領域をうみだ す原理等を検討することにした。
2・ 3鵬yGo職⑯μSと900◎黙鵠購謬
先ずSHESのTefi C◎ncept:The Scope of the He alth Educatk on C厩rriculu:m についてみるとしょう。
①発育とか発達とかいう発育発達過程における段階は個体の構造や機能に影響を及ぼすが,また個体 の構造や機能がその発育や発運に影響を及ぼしている。
②発育することや発達することは予測的な系列をたどり,しかもそれらは各人に独自な筋道がある。
③健康を保護,維持,増進することは個人の責任であり,また,地域共同体や国際間の責任でもある。
④危険性や事故に対する可能性は,如何なる環境にも存在している。
⑤人間と病気と環境との間には相互作用の関係がある。
⑥家族は人の生命維持を支え,確実な保健ニードを満たすように働く。
⑦個人的な健康に関する諸行動は多くの複雑な要因によって影響され,これらの要因は相互に矛盾す るものとなっている。
⑧価値観とか認知等といったものが健康情報とか健康に関する物品・用具や公共事業の利用に影響す る。
⑨気分や行動を変える物質の使用は各種の動機づけから起る。
⑩食物の選択や摂食の型は身体的,社会的,精神的,経済的,文化的要因によって決定される。
以上が,10概念であるが,この下に下位概念が31設定されている。この下位概念については数が 多くなるので,本稿ではかるくふれることにし,この上の3っの概念について次にみるとしょう。すな わち,Three Key Concepts:Processes Affecting Health Behaviorであり,これ は健康を支える過程を特徴づけるカリキュラムのまとめ糸として働くものである。そしてライフサイク ルにおける過程を表わすものであって,性別とか職業,経済的水準とか社会的地位といったものには関 係なく各人に典型的であるライフサイクル過程を意味しているとされている。
そめ①っは「成長することと発達すること」であり,それは動的な生活過程であり,個人が或る点では
総べての他の者と共通に類似し.また,或る面では何人かの者と類似し,その他の面では誰とも類似し
ないという,動的過程を意味している。
その②は,「相互に作用すること」であり,動的な生活過程が進行する中で,個人は環境の申の一定の 生物的,社会的,心理的,経済的,文化的,物理的力によって影響されたり,影響を及ぼしたり するということを意味している。
その③は「意思の決定」である。これは人間にとって独自な過程であり,ある行為をするかしないかと か或るものよりもむしろ二者択一的に一方を選択するという意識的に決定することを意味レている。
そして,次の図の如きモデルを示し,3っのKey conceptsとdime簾s重。難◎f healthの相 互関係を示すものであるとしている。
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pa 1. Dynamic tnterrelationships of the Key Concepts−Growing and Devc・lopiRg,
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健康のジメンショオンとは身体的,精神的及び社会的といった所謂,WHOのそれである。
そして,先の10概念の意味するものは学科としての健康教育の領域を反映するカリキュラムの主要 な要素であるということである。
3. 3Key conceptsから10conceptsへの導出の論理について
以上でSHESの保健教育の概念的枠組の大要を述べたわけであるが,このC◎nceptual fram().w〈)rk には,この下に「下位概念」と「長期目標」と「行動目標」といったものがあって,さらに詳細に述べ られているのであるが,本稿ではそれ以上,深入りしないで10概念を導出する基本的概念としての3 鍵概念について検討してみることにしよう。
先ず,3Key conceptsの「Growing and Developing」であるが,先ず説明からわかる
ようにライフルサイクルにおける過程を表わすものとして「動的な生活過程」をとうえている点に注目 したい。つまり,健康を支える過程にはこの動的な生活過程を抜きにしては記述も説明できないという ことであろう。
だから,その説明で,受精・妊娠から死までの連続的な生活過程を展開させることを,このGrowi㎎
とDevelopi㎎が意味するのだとしているわけである。つまり,出生から死までの時間的次元における 変化・変動を意味しているわけである。
健康の維持・成立現象を表わすモデルに疫学の基礎的原理として示されたLeavellとClarkの Di・9・・mがあ ィここでは面こ塒間触元」趣味する内容が欠落しても ることは慨に発表
報告した通りである。
その意味で,このモデルはLeavel lらのモデルのようた疫学的現象をオリジナルとして,その記述説 明のためのモデルとしての明確なとらえ方はなされていないようにみえるが,つまり,ノーベル賞受賞 8)
生理学者であるエクルスも引用・紹介したりしたイギリスの著名な哲学者であるPopperの世界像の1 を反映するものとしてのモデルではないが,「時間的次元」において成長発達を主要素とおいている点 はクラークらのモデルを超えるものとして評価したい。
9)
筆者が別に「成長・発達の成立要因・条件」を提示したり,また,その中に健康や安全を位置づけた りしたのは,この時間的次元の必然性とか不可欠性の故である。
しかし,これがdynamic interplayを示すものとはしているものの,「変化,変動」という概念が,
時間的嘉例に沿って記述,説明されているかとみれば.これは下位概念等にも全くみられず,時間的次 元ので断面において成長発達現象の説明が概念1及び2において細かくなされているに終っている。
すなわち,受精から誕生,小児期から思春期などといった時間的系列における段階は,その変化,変 動の型の特徴によって呼んだものであり,成熟にしろ,老化にしろ,成長・発達過程を記述するものと
して必要な概念では添いか,ということである。
なるほど「fr㎝conception to death」とはしてあるが,それらの期間はすべて「Gro wi ng md D曾veloping 」で1まない特定の時期に対応した「変化・変動の型の特徴」が存在するわけである。
成長発達の他に成熟,萎縮,老化があればこそ死があるわけである。
この点が欠けると時間的次元における各段階の健康像や疾病像の把握のための基準・根拠は導出する ことが困難と考える。
以上が3Key Conceptsの第1Key Conceptの概要であるが,それではGr(}wi㎎とかDeveloping のDynamic process 或は Life cycleに乗るものは何か,ということが次の問題となる。
即ち「何が」このプロセスに乗って成長,発達するかということである。
これは次の10概念への仮説的作業となる論理的考究の過程を意味している。この検討は後にまわす ことにして,第2の:晩yConceptに入ることにしよう。即ち「Interaction」である。これは個体が 物理的,生理的,社会的世界への力動的な関係であり,この過程を絶え間ない変動状態にあり,そして 相互作用は,これらの関係に平衡状態をもたらしたり,関係の安定性をこわしたりすることもありうる とし,人間にとって相互作用は成長発達や意思決定の過程に附随的なものであると述べているように,
ここでは環境世界におかれる個体ないし主体(Host)がその環境世界に不断に作用をもち,その作用
を働きかけることによって,逆に作用を受けているという相互のアクション関係を示している。
これは先の時間的次元における変化,変動に対し,空間的次元における個体と環境世界との関係を
「相互作用関係」としてとらえたものであり,しかも時間的次元の変化,変動に対応するものであるこ とから,個体・主体の位置と構造の大略を時間と空間的次元におさえたものとしてきわめて優れたもの であるといえる。
したがって,次位概念にはどのような相互の作用があるのか,それらの相互作用に関わる要素・要因 にはどのようなものがあり,しかも要因関の関係構造はどのようになっているかが 下位概念導出への s
仮説的な論理となる。
また,この説明の中にbalanceとかdisrig)t the stability of the relationshipというのが あるが,これはきわめて重要な説明であると考える。相互作用という過程で健康への平衡性が保持され たり,平衡性や若干のアンバランス状態の安定性が破られたりするのもこの「作用」としての動因・要 因を考察の中に入れているからであろう。
つまり,何が「動因・要因」として働きかけ、「作用」をもっから,逆に作用を受け相互作用となっ て平衡性をもたらしたり、その安定性がくっがえされるかという点である。
つまり,個体にとっては意識的にあれ,無意識にあれ,どのような働きかけ・作用をするかというこ とであり,環境世界からは自然的に社会文化的に,どのような要素が動因・要因となってどのように作 用してくるか,ということである。
ここでは,必然的に個体のHGmeostasisやHeter◎stasisとか適応, Adap£ationと Adjustmentから変革といった概念が,下位概念において導出されることが期待されるわけである。
さて,終りの第3のKey conceptであるが,上に示唆したように,人間にとっては環境への働きか け・作用に「意思を決定すること」を抜きにすることはできない,ということである。むろん,働きか けの主なものとしての人間的行動の申には,明確な意思決定によらないものとか,無意識的行動がなく はないが.人間にとってユニークな高次の科学的問題解決的行動にはこの意思決定・行動要因は不可欠 といえよう。
では説明をみるとしよう。すなわち「個体は意思決定をすることで生活状況を理論的に考えることや 問題を解決したり,またある程度,どんな行動をとるかを決めることができるのである。」
そして,「これらのKey conceptは健康の総体的概念を指し示すものであり,解明していること から,健康教育の枠組を形成する」としている。
ところで,筆者はこれまで保健教育内容の選択・構成の原理基準を追求してきたのであるが(図2参 照)C一①の中にもbを独立させたのは当に∫この人間にとってユニークな問題解決の過程を重視した からである。したがって,SHESでは「意思決定」となっているが,筆者は,図1の①一aの方で静 的な疫学像を構造的にとらえるものから,これを動的な主要因として働く「行動要因」として①一bへ の「橋わたし」的存在としてとらえているのである。
SHESでいうバランスを維持し,安定性を破るものとしての「行動要因」である。しかし,行動要 因が関連する「問題解決過程jは,SHESのように単純なものであろうか,人間を人間たらしめてい
る科学や技術を支え,それによって影響を受け発展するものとしての問題解決過程は,高度で複雑なも のであって,しかも人間の健康問題に独自のものも存在するということである。たとえば「健康管理」
とか「スクリーニング」とか「疫学の方法」などをいっ牟ものである。
これらの諸点は下位概念でどのようになっているのであろうか。
Aレベル
図2.保健教育内容の選択・構成の原理
Bレベル
構蒲制 匿撒1⑫瞼i
榊儲膿窒,ゆゆ(離灘構造イ)
争一一
Cレベル
L保健・安全に関する科学知灘と
く。)その論理T
・)、1己述・説明剖;・要出構竈子働
}要囚
b)保健問題解決過程部 の構造 ぼ学習茜の条件。心身発達段階へ の対応 i/
a)保健認識・学力,興味,態度等 b)セ体以外の学習築件
4教育理論 a)教授。学習理論
ii
b)教膏緬値,目的論
④圏民的,人類的課題からの・=一ド a) Social needs
b) Social relevance
晴 間 的 縦 軸
(保健教育内容のTime}ag)
Dレベル