• 検索結果がありません。

企業年金制度の成立過程と信託銀行

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "企業年金制度の成立過程と信託銀行"

Copied!
16
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

33

企業年金制度の成立過程と信託銀行

一受託形式を中心に一

本  間  靖  夫

千葉商科大学商経学部教授

損金に算入される等課税上優遇措置が講ぜられる はじめに       (税制上の優遇借置が得られないものを非適格年

金というが、ここでは検討の対象とはしない。非 本稿の課題は、昭和30−40年代におけるわが国  適格とは税制上の優遇借置を得られる条件を備え の企業年金制度の成立について、とくにその受託   ていないという意味であり、いうまでもなく不適 機関が信託銀行と生命保険会社に限定された点を   当を意味するものではない)。また厚生年金基金と 中心に明らかにすることである。         は厚相の認可によって設立された公法人たる厚生 ここでいう企業年金とは〔1)、図1にみられる私   年金基金が、公的年金である厚生年金のうち老齢

      年金の一部を政府に代わって代行、運営するとと図1.わが国の年金制度(昭和30−40年代)      もに企業独自の給付を上乗せしてより手厚い年金

等  は公的年金である厚生年金と私的年金である企業

公的年金

年金との調整を行うことにより、これら両年金あ

厚生年金保険      重複を排除し・あわせてその給付内容の改善、充 実をはかろうとするものであるからである。適格 年金、厚生年金基金ともに受託機関は信託と生保

_ll野 離鷺俄れらの企業年叙_信託機

非適格年金(自社年金)        能制を活用してその年金掛金を継続的に受託し、

個人年金      信託目的である年金給付のために年金ファンドを 管理運用し、あわせて年金制度設計のコンサルテ

(資料)村上清『年金の知識』日経文庫、より作成

@      一ションから数理計算、加入者・受給者の管理ま

的年金のうち適格年金と厚生年金基金(調整年金)  でを年金信託業務として引受けている(2)(この点

のことであり、適格年金とは企業または団体が退   は、生命保険会社の場合も同様である)。信託銀行

職金の支給のため信託銀行や生命保険会社と年金   にとっては2大機能である財務管理機能と長期金

信託契約または保険契約を結び、必要な掛金をこ  融機能をあわせもつ、まさに信託らしい信託とい

れらの受託機関に積み立てる等、税法上の一定の   える。また高齢化社会へ向うわが国において、老

要件を備えたものとして国税庁が承認を与えた年  後の生活保障を主眼とする公的年金を補完する私

金制度であり、この年金に対しては企業の掛金は   的年金、とくに企業年金の役割はますます大きく

(2)

34      茨城大学政経学会雑誌 第62号

なっているなかで、企業年金制度が順調に発展す  (4)こうした研究視角の有効性については、渋谷隆 ることにより、年金信託の分野において信託銀行   一編著『明治期特殊金融立法史』昭和52年、4一 はその機能を十分に発揮し、国民の資産形成と社    8ページを参照、また、麻島昭一『日本信託業立 会福祉に貢献することができる。      法史の研究』昭和55年、も参照されたい。

このような企業年金の社会的意義と将来性に着

目して、信託銀行は昭和32年以来企業年金制度の   1.日経連による問題提起 創設に尽力した。その結果、37年4月に適格年金

制度が、また40年6月の厚生年金保険法改正に伴    (1)企業年金制度創設の背景

って翌41年10月からは厚生年金基金制度(調整年    わが国の年金制度(1)は西欧諸国と同様、軍入や 金)がともに税制上の優遇借置を得て発足した。  官吏を対象に設けられた恩給制度にはじまり、戦

こうした企業年金制度創設のいきさつについて  前までに現業官庁の職貝に対する共済組合など公 は、これまで信託銀行、生命保険会社の社史をは   的年金制度として実施された。一般国民を対象と じめいくつかの著書論文において説明がなされて  する公的年金制度としては、昭和17年に男子工場 いる(3)。しかし、これらの研究においては成立し  労働者を対象として労働者保険を設けたのが最初 た制度の解説が主であって、なぜ企業年金がこの   であった。この労働者保険は昭和20年、一般職員 ような制度として成立し、また受託機関が信託と  および女子にも適用されるようになりその名称も 生保に限定されたのか、そのいきさつは明らかに  現在の厚生年金保険と改められた。また被用者以 されていない。      外の国民は長い間年金制度からとり残されていた そこで本稿では、これらの問題点を明らかにす  が、36年に国民年金制度が発足し、これらの人々 るためには成立した制度を検討するだけでなく制   も年金制度による保障が受けられるようになった。

度ができるまでの立法過程に焦点をあてる必要が    一方、私的年金とくに企業年金については、わ あるとする視角(4}から、企業年金制度の成立過程  ずかな例を除いて戦前まではほとんど普及するに において、信託業界を軸にして各業界からどのよ  至らず、また戦後においても労使交渉の主眼は退

うな要望がどのような論理で提起されていたのか  職一時金制度におかれ、自社年金制度が発展する を詳しく検討してみた。これによって企業年金の  余地は少なかった。そのうえ当時、わが国の税制 成立過程と金融機関の関係を新たに見直すことが   は企業年金の積立には不向きであった。

できるし、また現在膨大な額になるまでに蓄積さ   このような状況下にあって32年に日経連および れた年金市場への新規参入をはかろうとする金融  信託協会から、36年には日経連、信託協会および 制度の業際問題の背景を明らかにすることができ  生命保険協会からそれぞれ企業年金の課税政策に るであろう。       関する要望書(事業主拠出金の損金算入等を中心 とする税制上の優遇措置)が、政府関係当局に対

(注)      して提出された。これを受けて税制適格年金と厚

(1)大蔵省『銀行局金融年報』昭和37年版、180ペー  生年金基金制度がともに税制上の優遇措置を受け ジ、39年版、148ページ参照。      て発足した。これにより企業年金制度の新規採用

(2)小林桂吉編『信託銀行読本』(改訂新版)、昭和58  あるいは従来の退職一時金制度から企業年金制度 年、148−160ページ参照。      への移行が行われ、適格年金と厚生年金基金とい

(3) 『三井信託銀行50年史』昭和59年、170−184ぺ   う2種類の企業年金制度が普及しはじめたのであ

一ジ、『住友信託銀行50年史』昭和51年、1040−1080   る。

ページ、『日本生命百年史』平成4年、194−196ぺ    以来、企業年金は従業員の老後保障のための社

一ジ参照。       会保障制度の補完として、あるいは退職一時金の

(3)

企業年金制度の成立過程と信託銀行      35

負担増を見直すための企業経営の合理化策として  年金制度を整備してきたが、これを補完するうえ 順調に発展し、さらにこれから高齢化社会を迎え  からも労使の話合いがまとまるならば企業年金を て企業年金に対する社会全体の認識が着実に高ま   導入することに異論はなかった。ただし厚生省の

り、企業年金はいよいよ本来の役割を果たす時代   立場としては、企業年金の拡充によって厚生年金 を迎えつつある。       制度が崩壊する事態だけは避けねばならなかった。

企業年金制度を創設するには法律の改正が必要    なお欧米とくにアメリカにおいて急速な発展を であった。適格年金については法人税法、所得税   みた企業年金の経験が、わが国の企業年金制度創 法が、調整年金については厚生年金保険法の改正   設に影響を与えたことも背景として見逃すことは が実施されねばならなかったのである。しかし、  できない。事実、わが国の適格年金はアメリカの ひとくちに法律の改正といつでも事は簡単ではな  税制適格年金(Qualified Pension)を移入した かった。信託業界をはじめ多くの関係者にそれぞ   ものであり、調整年金はイギリスの公的年金から れの事情が複雑にからみあっていたからである。  の適用除外(Contract Out)方式を参考にして、

主なものをあげてみると、まず信託業界には、   わが国独自の厚生年金基金による代行方式を考案 貸付信託に次ぐ新種業務開発にかける意欲があっ   したものであった。

た。昭和30年代前半は、信託業界では貸付信託の

伸長によって長期金融機関としての地位を確立し   (2)日経連の要望(昭和32年)

つつあった時である。これと並んで動産設備信託、  企業年金の研究をもっとも早くから手がけたの 証券代行業務をはじめ信託固有の業務についても   は日経連であった。昭和28年8月30日、日経連労

その開発あるいは充実に積極的に努力を重ねてい   務管理研究会は、賃金管理部会の同年度研究テー た。それに加えて企業年金が長期にわたる管理、  マとして年金制度の研究をとりあげることに決定 運用を必要とする関係上、信託制度を利用するこ   した(2)。日経連における年金研究の契機は、賃金

とがもっとも合理的と考えられたので、信託業界   問題とくに退職一時金問題にあった(3)。当時、経 は財務管理の新生面を拓く画期的な業務として、   済の復興と物価上昇に伴って賃金の上昇もまた急 この制度創設に力を傾けた。       であったから、賃金を基礎として算定される退職 また日経連は、企業年金制度が退職一時金の負   一時金の支給額は退職者の増加とあいまってふえ 担平準化や賃金以外の付加給付の一形態として従  てきて、近い将来においてその資金繰りとともに 業員確保の手段となるなど、労務管理政策として  企業経営を圧迫することが予想された。

の効果が期待されるため企業経営にとって欠くべ   その対応策としては、第2基本給の導入によっ からざる要件と考えた。なお高度成長下の企業の  てべ一スアップの賃金へのはね返りを抑えるとか、

資本蓄積ならびに経営資金の安定的計画化といっ   退職給与引当金制度の創設とかの措置がとられて た面からも、企業年金の経済的意義は大きかった。  いた。このうち後者の措置は昭和27年に採用され ちなみに大蔵省は、昭和32年に資本増強策の一環   たが、経営者の関心の的となっていた退職一時金 として退職年金基金の税制優遇を検討課題とした  の資金繰りを考慮して従業貝の退職金支払のため こともある。しかし貯蓄増強策に対しては、それ  の費用の一定額を、あらかじめ損金として引当て に伴う減税分を埋合わせる財源の点から制約があ  ることができるよう税制の整備が行われたもので った。一方労働団体は企業年金導入を退職一時金   ある。しかし、この制度は自己都合退職を基準と 制度のなし崩しとみて、これに反対の立場をとっ  して算定されるため、定年退職を基準とする場合 ていた。      に比べて損金への繰入限度額が不十分なうえ、事

さらに厚生省としては、社会保障政策の観点か  前積立がほとんど不可能な場合が多かった。また

らこれまで厚生年金保険、国民年金保険など公的   「極めて本質的な問題として社内留保の一形式で

(4)

36      茨城大学政経学会雑誌 第62号

表1.日経連「企業年金の課税政策に関する要望」昭和32年8月

前文(略) の4分の1とすること。

退職年金課税制度に対する要望事項 (註)(略)

1.適格年金制度の創設について (理由)現行の退職給与引当会制度は本来退職一時金の源

(1)事業主又は共済組合その他事業の使用者と従業貝とを

資積立を容易にするために設けられた制度であるため本制 以て構成する社団は退職年金規定につき関係官庁の認 度による年金源資の積立は極めて困難な現状である。即ち 可をうけることにより適格年金制度を設けることがで 本制度においては退職年金も一般退職給与引当金と同様の

きるものとすること。

取扱いを受けることとなっているが自己都合による退職事

②退職年金規定が認可をうける要件は左の如きものとす 由を仮定して退職給与引当金の繰入限度額を算定する関係

ること

上単に退職一時金の源資積立を促進するに過ぎず停年退職

①制度が専ら従業員又はその遺族の利益をはかるもの その他年令、勤続に一定の要件を附する退職年金の源資積 である旨の規定があること 立はこの制度では殆んど恩恵にあつからないといってよい。

②年金支給のための元本並びに運用利益は年金基金又 従ってこの制度とは別に年金基金或いは年金引当金を設け は年金引当金として取扱い、その運用については一 た場合は基金に対する醸出額又は年金源資に充てるための

定の条件を充していること。

引当額について法人税法上その損金算入を認めるべきであ

③制度が永続させるべき意図のもとに設けられている る。

旨の規定があること。 (B)所得税関係

④年金支給を原則とする旨の規定があること。 ①適格年金制度における従業貝の拠出額に対しては

(註)「一定の条件」とは例えば引当金制度をとる場合に

社会保険料控除の扱いを認めること。

おいては会社拠出金の4分の1に相当する金額の特

②事業主が年金源資形成のため拠出又は引当を行っ

定預金を行うこと たときは、受益者が確定するとしても拠出乃至引

(理由)諸外国においても企業年金に税法上の保護を与 当時には課税せず最終的に受益総額の確定した時 えるに当っては、一定の要件を充した制度を適格年金 (但し後述の如く年金給付が退職所得扱とされた 制度として公認し、適格年金制度に対してのみ諸種の 場合)又は現実の年金支払時に課税するものとす 税法上の優遇措置を認めることが慣例してなっている

ること。

ので、わが国においてもこの基本的方向に沿って新た

(理由)略

に適格年金制度を設けるべきである。 ②年金源資運用面に対する取扱

①②略

2.適格年金制度における税制措置について

(3)年金支払面に対する取扱

(1)年金源資形成面に対する取扱

イロハ略

(A)法人税関係

以下略

事業主が年金源資にして当該事業年度に拠出又は引 当を行うときは左記の額を限度として拠出額又は引当 額金額の損金算入を認めるものとすること。

①年金基金設定の場合

(イ)(ロ)略

*②年金引当金設定の場合

退職年金規定に定める年金受給資格要件(勤続要件 に限る)を充足する者の会員につき停年退職を想定 した支給率で算出した年金支給総額。但し引当額の 損金算入を認められるための特定預金の額は引当額

(5)

企業年金制度の成立過程と信託銀行       37

ある為、長期的な観点から受益者保護に欠けると  民経済の発展に最も必要なる長期安定資金の確保 ころが大きいω」とされた。結局、退職金費用の  に寄与するものである(7)」。しかし、わが国に企業 積立という機能面においては企業の要請に応える  年金制度の導入が遅々として進まないのは、企業 ものではなかったのである。      の拠出する年金掛金に対する税制上の取扱いに問

       アれに代わる退職金負担増の対応策として考え  題があったからである。諸外国の例に照らして、

られたのが、退職金の年金化である。日経連編『退   政府は社会経済的見地から企業年金制度の助長政 職年金一その理論と方法一』には、それが次のよ  策を確立するとともに、企業年金の税制上の優遇

うにまとめられている(5)。       措置を認めてもらいたいというものであった。具 わが国には従来から退職一時金制度があって、勤  体的な要望事項は表1に示すとおりであるが、こ 続年数に応じて一定の退職給付が行なわれているが、  こでいう企業年金とは表1の(2)の4項目の要 この制度がはたして現代の労務管理の観点から合理  件を充たした適格年金を指している。

性をもっているのか否かについては、余り反省され   税制措置の要望に関して(表1のうち2−B、①、

ていないのが現状である。特に長期勤務者に対する  ②)、優遇措置を認めてもらいたいという根拠は、

給付のねらいは、家族主義的観念の稀薄化に伴い、   (1)企業年金は社会保障による老齢年金補完の 老後の生活安定におかれるべきであるが、現行の一    役割をもっているから年金基金に対する従業 時金給付がこのような要請に応えうるか否かは甚だ    員の拠出分は、諸外国の例にならい社会保険 疑問であるし、退職金が功労報償であるという基本    料に準じて扱うことが妥当である。

的立場に立っても、旧来のおしきせ的感覚から近代   (2)現行税法上は企業の拠出分について受益者 的感覚に切り換える必要があると思われる。また巨    が確定したときに課税する建前になっている 額の一時金の支払は、これを非計画的に費消する傾    が、いわゆる年金の受益権はその本質上停止 向を助長するといわれる現在、企業年金制度は退職    条件付権利にすぎないものであるから拠出時 一時金制度に比して、より計画的な生活安定を可能     には課税せず、支払時課税を建前とすべきで ならしめるものであり、他方企業経理上からも、巨    ある、の2点であった。

額な出費による負担を分散軽減しうる等、一般に退

職一時金制度の合理化方策と考えてよい。       わが国の税制では、当時企業年金の積立は考慮 されていなかった。たとえば企業外に拠出するこ 日経連はこの判断に基づき、昭和32年8月「企   とにより年金制度を運用しようとする場合には 業年金の課税政策に関する要望」を当局に提出し   (社外積立型)、企業が拠出した段階において損金

た(6)。これは企業年金に関する具体的提案として   として処理されると同時に、従業貝の給与所得と 最初のものであった。       して課税対象とされる。逆に、従業員が所得税を それによると、わが国の年金制度はまだ発展の  支払わない形式の積立にすれば、それは企業の方 初期の段階にあるけれども、社会政策的見地から  が経理上損金として処理できず法人税を負担しな 厚生年金制度の拡充、国民年金制度の創設等の充   ければならない。欧米で企業年金が発達している 実が求められている。しかし、公的年金に依拠す  のは、それに適した税制が整備されているからで

る社会保障には国民経済的に一定の限界があるた  ある。それにならった企業年金制度のわが国への め、これを補足するには企業年金等私的年金制度  導入を求めたのが、上の要望であり、そこではわ の保護助成をはかることが緊要である。「特に従  が国の税制の論理に適合したかたちでの制度設計 業員の醸出を伴う所謂醸出制年金制度にあっては  が要請されていたのである。

従業員の貯蓄精神を助長し、労使関係の長期的安

定に役立つという効果を伴うのみならず今後の国   (3)信託協会の要望(昭和32年)

(6)

38       茨城大学政経学会雑i誌 第62号

32年9月には、信託協会からも「退職年金制度    の研究』昭和38年、第1、2、6章、山田商平「年 に関する要望」(81が提出されたが、これは日経連   金関係税制の成立に至る経緯一信託銀行の立場か の要望に刺激されて、それと同一趣旨の内容を盛   ら一」『信託』復刊52号、2−3ページ。中野徹雄…

込んだものであった。(表2参照)      「厚生年金と私的退職金の交渉の沿革について」『信 これに対して、大蔵省は「退職年金信託につい   託』復刊52号、15−19ページ参照。

ては主税局の見通しでは税収減が約300億円とな   (4)山田商平、前掲論文、3ページ。

る点に問題があり、今国会には提出しない(9>」と   (5)中野徹雄、前掲「厚生年金と私的退職金の交渉 の意向を示した。      の沿革について」、18−19ページ参照。

しかし日経連や信託協会の要望が受入れられな   ⑥32年の日経連要望の全文については、r信託』復 かったのは、税制上の優遇措置に伴う税収減ある   刊52号、135ページ参照。

いは時期尚早という問題だけではなかった。基本   (7)同上箇所も

的には企業年金制度設計上の適格要件を欠いてい  (8)32年の信託協会要望の全文については『信託』

た点が問題にされるべきである。なぜならば年金   復刊52号、134ページ、前掲『三井信託銀行50年史』、

制度では、年金積立金が外部拠出により企業の損    128−129ページ参照。

金として認められ、従業員の年金受給権が保護さ  (9) 『三菱信託銀行60年史』昭和63年、311ページ。

れ、しかもなお年金およびその運用益が原則とし   また前掲『住友信託銀行50年史』1044ページも参 て拠出した企業に返還されないことが、必要最小   照。

限の要件となるからである。ところが、上記の要

望書にはこうした要件の必要性についての認識が   2.適格年金制度の受託形式 十分ではなかった。たとえば日経連、信託協会い

ずれの要望書にあっても、表1、表2に示される   (1)昭和36年信託協会の要望における受託形式 とおり(*印の箇所)、要望事項の中には社外積立    昭和32年の要望とは異なり、36年7月に再度提 型の企業年金の構想とともに、社内積立金の企業   出された信託協会の「企業年金課税に関する要 年金も含まれていたからである。しかし社内留保   望ω」は、先に述べた企業年金の適格要件を充た 型の場合には年金基金は企業の支配権を脱するこ   していた(表3参照)。従って、32年と36年の要望

とができず、企業は税負担を負わねばならぬこと  を比較すれば、企業年金の制度設計のうえで大き となって、税制上の課題をクリアすることはでき  な飛躍があったということができる(2)。

ないのである。また、従業員の年金受給権の保護   36年の信託協会の要望書は、1、要望の背景と も十分ではない。       その経緯、II、課税制度に対する要望事項、 III、

このように受託形式の点で、法律構成上ならび   要望の理由の3部から構成されている。要望書の 税制上問題を残しているような企業年金制度の要   原案は1部を三井信託が、II、 III部を三菱信託が 望は、当局としても容易に受入れるわけにはいか   とりまとめたという(3)。36年の要望を32年のそれ

なったのである。       と比較すると、構成上III部が新た付加えられた点 が注目される。これまでの研究では、要望書にこ

(注)      のIII部が付加えられているという事実が見逃され

(1)村上清『年金の知識』日経文庫、昭和58年、第  ており、当然のことながらその分析はない。

II章参照。      それはII部の具体的内容において、32年案で年

(2)日経連『事業報告』昭和28年度上期、43ページ。  金源資を内部留保とする制度として併記した引当

(3)この点については、平田富太郎『退職金と年金』   金制度に関する要望を、36年案では削除し、社外

昭和31年、第1章、高安長輝『企業退職年金制度   積立型の企業年金に1本化したことと関係があっ

(7)

企業年金制度の成立過程と信託銀行      3g

表2 信託協会「退職年金制度に関する要望」

昭和32年9月

昭和36年7月

前文(略〉

1.要望の背景とその経緯

1.適格年金制度の創設

(略)

事業主又は事業の使用者と従業員とを以て構成する社団(共済組合そ II.課税制度に対する要望事項 の他の団体等)の運営する退職年金制度が下記の如き要件を具備してい 1.適格年金制度の創設

れば適格年金として認可されるものとする。 事業主の運営する退職年金制度が、次のごとき要件を具備している

(1>制度が従業貝に退職年金を支給することを目的とし、専ら従業員又 場合には、適格年金として認口∫し、税法上の保護助成措置を受けるこ

はその遺族の利益を図るものであること。 とができるものとする。

② 年金資金の元本並びに運用利益は年金基金又は年金引当金として管

(1)(目  的)

理し、その運用については一定の条件を充していること。(「一定の条 制度が従業員に退職年金を支給することを目的とし、専ら従業員ま 件」とは、米国に於て夙に退職年金制度即ち退職年金信託と概念され たはその遺族の利益を図るものであること。

ている先例もある如く、長期に亘る安全な運用に適切で且安全に分別

(2)(制度の恒久性)

管理され得る金銭信託等の特定預金への運用に限定すること) 制度が1亘久的なものとして企画されていること。

(3)制度が全従業員若しくは従業員層の一定割合以上を包含し、特定の (3)(多数の受益、差別取扱の禁止)

者への恩典を認めていないこと。(「一定割合」とは例えば米国に於て 制度は全従業員の一定割合以上を対象とするものであり、かつ特定 は80%であり、「特定の者」とは役員等をいう) のものに不当に差別的な取扱をするものでないこと。

(4>制度が垣久的なものとして企画されていること。

(4)(基金の独立性)

2.適格年金制度に対する保護助成措置 年金受給権i確保の見地から基金は会社資産から独立していること。

(1)年金源資積立時に於ける措置 従って社外積立を原則とすること。

(A)基金とする場合 (備考)例えば受託者一会社、受益者一年金受給権者、受託者一信託

イ.企業主が年金源資として当該事業と分離した基金への拠出を行 銀行とする他益信託を設定した場合には、本要件を充足するものとす うときは一定限度額まで損金算入を認めることを明文化すること。

る。

(事業主に損金算入を認める「一定限度額」とは例えば年金規定 ⑤(基金の運用)

に定める当該事業年度に於ける事業主拠出額) 年金基金ならびにその収益の運用については、一定の条件を付して ロ.拠出時に受益者が確定する場合も直ちに受益者に所得税を課せ

いること。

ず、現実の年金支払時に課税すること。(現在は事業主が拠出を (備考)安全、有利、確実がその根本原則であるが、挙に名目的な 行うとき従業員が受益者と確定する場合は直ちに従業員に課税さ ものでなく、年金制度の長期性に鑑み、年金受給権の実質価値を維持 れる。併し年金の受益権はその本質上停止条件附権利に過ぎない できる運用方法は適格と認めること。

から支払時課税とすべきである) 2.適格年金制度に対する保護助成措置

ハ.従業員が拠出を行うときはその拠出額につき社会保険料控除に (1>年金源資積立時における措置 準ずる扱を認めること。(本制度は社会保障制度補完の意義が強 イ.法人拠出分の損金算入扱について

いから諸外国の例もあり従業員拠出分は所得控除扱とすべきであ 事業主が年金源資として当該事業から独立した基金(信託設定

る)

等)への拠出を行なうときは、一定限度額まで損金算入を認めるこ

*(B)引当金とする場合 とを明文化すること。

事業主が年金源資として引当金への引当を行うときは、退職給与引 ロ.所得税の年金支払時課税について

当金制度に準じて一定限度額までの損金算入を認めること。(現行の 事業主の拠出分については、拠出時における従業員の給与所得と 退職給与引当金制度に於ては退職年金も退職一時金と同様の取扱を受 みなして所得税を課せず、現実の年金支払時に課税すること。

けるが、自己都合による退職を仮定して繰入限度額を算定する関係上 ハ.従業員拠出分の社会保険料なみ控除について

停年退職その他年齢、勤続に一定の要件を附する退職年金の源資積立 従業員が拠出を行なうときは、その拠出額につき一定限度まで社 は殆んど恩恵に与らない。従ってこの制度とは別個に退職年金引当金 会保険料控除に準ずる扱を認めること。

制度を創設すべきである。但しこの場合引当金の全額若くは少くとも (注)一定限度とは、当該事業年度における制度運用上の正常原価の 二分の一以上を特定預金とする制限を設けること) うち個人負担分に相応する額とする。(拠出割合が1:1の場合

(2)年金源資運用面に於ける措置 には正常原価の1/2)

年金基金は非課税法人に準じて取扱い、基金運用による収益には課 便宜的には、米国式に当該事業年度内における給与総額5%以内

税しないこと。 とすることも考えられる。

(3)年金支払時に於ける取扱 ② 年金源資運用面における措置

退職年金は所得税法上新たに年金所得として分離課税して申告納税 年金基金の運用収益については課税しないこと。

の方法を採り、且その性格上出来るだけ税負担を軽滅すること。 (3)年金支給面における措置

(4)その他の面に於ける取扱 所得税法上新たに年金所得を創設し、一定額の基礎控除を設けるこ 年金引当金に対する従業員の先取特権を明文化し、事業主債権者か

と。

らの差押を禁止する扱とすること。 (注)一定額の基礎控除額とは、年金受給時における理論生計費を基 準とするのが妥当である。

m.要望の理由

1.法人拠出分の損金算入扱および給与所得税の支払時課税

(略)  (IIの2の(1)のイ、ロ)

2.社会保険料控除(IIの2の(1)ハ)

(略)

3.運用収益に対する課税延期

(略)

4.年金所得の創設

(略)

(8)

40      茨城大学政経学会雑…誌 第62号

た。III部ではなぜ信託協会の要望は社外積立型に   人の損金算入扱は認められるが、通常従業貝の給 1本化したのかを含めて、要望事項の根拠を詳細  与所得として課税される。

に説明しているのである。これらの事実とその分   事業主が年金源資を拠出して事業主を委託者、

析によって32年の要望から4年の問に企業年金制   従業員を受益者とする他益信託を設定し、信託契 度について関心が高まるにつれて、制度実現に向  約上委託者が受益者を変更できないこととすれば、

けて問題点の検討が進んでいたことがわかる。   受託者は信託財産に対して返還請求権を失い、か 36年7月の信託協会要望のポイントは次の2点  つ実質的に支配権は失われる。

に要約される。       従ってこの場合にも法人拠出分を当該事業年度 第1点は、適格年金制度の要件として年金基金   における損金算入扱とするのは当然である。(こ 独立性の必要1生と意義を強調したことであり、第  の場合には会社拠出分を会社の賃借対照表から落

2点は、年金基金独立の方法として他益信託の利   とすことになる)

用を提案したことである。       ②法人税法上損金扱いとなる場合、本来ならば、

退職年金制度に関する要望書、第II部、課税制   受益者である年金受給権者の給与所得として課税 度に対する要望事項、第1節(4)「基金の独立性」   される性質のものであるが、年金の性質上拠出時 の項によれば、「年金受給権確保の見地から基金   には年金受給権の内容が確定しておらず、また確 は会社資産から独立していること。従って社外積   定しても停止条件付の権利に過ぎないから、年金 立を原則とすること。例えば委託者一会社、受益  支払時課税とするのが自然の理と考えられる。ま 者一年金受給権者、受託者一信託銀行とする他益   た企業年金の本質が公的社会保障の補完機能であ 信託を設定した場合には、本要件を充足するもの  るという性格から考えても、税制面においてこの とする(4)」とある。      ような保護助成措置がとられることが望ましい。

こうした受託形式に基づいて、適格年金制度に   (3)米国においても、適格年金に対する事業主の 対して、       拠出額は、事業の必要経費として損金算入扱が認

(1)法人拠出分の損金算入扱いについては、「事   められ、かつ拠出時には、従業員の課税所得から 業主が年金資源として当該事業から独立した基金  除去されている。また英国においても、同様の措

(信託設定等)への拠出を行なうときは、一定限  置が認められている。

度まで損金算入を認めること(5)」。

(2)所得税の年金支払い時課税については、「事   企業年金は社会保障の補完機能を果たすもので 業主の拠出分については、拠出時における従業員   あるから、年金受給権を企業の盛衰と関係なく確 の給与所得とみなして所得税を課せず、現実の年  保することが必要であり、このためには年金基金 金支払時に課税すること(6>」。       を企業の資産から独立させて社外積立を原則とす

(3)従業員拠出分の社会保険については、「その  べきであって、引当金等内部留保の形で年金源資 拠出額につき一定限度まで社会保険料控除に準ず   を保持することは企業年金の本質上望ましくない

る扱いを認めること(7>」といった年金源資積立時   というのである。また年金基金独立の方法として における保護措置を要望している。        は、委託者は事業主、受託者は信託銀行、受益者

は年金契約に定める年金または一時金の受給権者 そして、この要望の理由は以下のように説明さ  という構成の他益信託契約が望ましいというので れている(8)。       ある。

(1)事業主が年金源資を何等の支配権および返還   他益信託を設定すれば、取消し得ない信託 請求権を有しない別法人もしくは人格なき社団   (irrevocable trust)として信託契約に基づき委

(共済会等)に拠出する場合には、現行税法上法   託者(企業)は受益者(従業員)を変更できず、

(9)

企業年金制度の成立過程と信託銀行      41

また信託財産(年金基金)が受益者のためのみ運  幹としているのであり、先の信託協会の要望とは 用されるから、受託者は信託財産に対して返還請   大差がない。しかし、生保協会の要望には、信託 求権を失い実質的に支配権は失われるのである。  協会案にみられるような要望の理由や根拠を示す また信託財産は、信託設定時に一切企業のバラン   部分は全くみられず、生保の受託形式がいかなる スシートから外されることになるから、受益権は  意味で合理的なものかは説明されていない。

企業の盛衰とは関係なく守られる。従業員を受給    一方、日経連の要望は昭和32年の要望にみられ 者とする「第3者のための契約」である他益信託   た「適格年金制度創設について」という文言が消

を利用して適格年金制度を創設すること、また他  えて、適格年金創設の主張が薄められたうえ、企 益信託を設定すれば年金基金は企業には帰属しな  業年金制度に共済組合その他事業主と従業員をも いから、それを根拠として企業拠出分の損金算入   って構成する社団において運営する年金制度を含 扱いを認めさせること、これが信託協会要望の趣   め、また年金基金が退職金引当金として企業内に 旨であった(9)。       積立てられる社内留保型も考えられており、全体

なお年金基金の独立の方法としては、上の説明   として32年の要望よりは後退した内容となってい にみられる他益信託の外に共済組合等の別法人を   る。

組織する方法も理論的には考えられるが、企業と   これは「36年案起草の当初、日経連事務局案で は別に独立法人格とするには特別立法が必要であ   は社外管理1本に絞る予定であったが、一部有力

り、長期資金運用に必要な専門知識と経験を期待   企業から現在の企業の資本蓄積度の低いこと、従 するのは困難なことなど問題が多かった(/°〉。ま  って外部負債依存度の高いことを理由として社外 た現行税制では共済型については、大部分が人格   管理に反対の意見があり、結局、年金引当金設定 なき社団等であって完全な企業外とは認められな   も併行して要望することとなり、前述の通り(32 いので、企業の拠出金は払込段階では企業の損金   年案と)殆ど変わらない内容となって了った(14>」

扱いとはならず、共済組合から支出されたときに  ためであった。

はじめて企業から支出されたものとして取扱われ    しかし、すでに述べたように、このような制度 ていた(1ユ〉。このため受託形式としては難点が多  設計では企業年金の適格性を充たすことはできな

く、他益信託方式こそ妥当性を有するものとされ  いのである。もっとも、36年の日経連要望が厚生 たのである。       年金保険との調整についてはじめてふれたことは

注目される。

(2)生保協会・日経連の要望における受託形式

信託協会の要望に前後して、昭和36年5月に生   (注)

命保険協会が、また同年9月には日経連が2度目  (1)36年の信託協会要望の本文については、『信託』

の要望を提出した(12)。      復刊52号、 132−134ページ。

いまとりあえず受託形式に限ってこの要望をみ  (2)32年と36年の信託協会の要望の比較について、

ると、「企業年金の課税に関しては、『退職年金基   前掲『三井信託銀行50年史』では「社外積立の線

金制度』を創設し、税法上次のように取扱われた   に一本化した点を除いては、本質的にほとんど変

い」として、上の1節の註には、「退職年金基金   わらないものであった」(171ページ)という。この

とは、事業を営む個人または法人が、生命保険会   点は『住友信託銀行50年史』も同様であるqO44

社その他の団体と退職年金契約を締結することに   ページ)。また山田商平、前掲論文「年金関係税制

より行なう退職年金制度(企業外積立)をい   の成立に至る経緯」においても、「32年案で内部留

う(13)」とある。従って生保協会による要望の内   保型制度に一部妥協して併記した引当金制度に関

容は、社外積立1本に基づく企業年金の創設を根    する要望を36年案では棄てて、社外積立の線に一

(10)

42       茨城大学政経学会雑誌 第62号

本化した点を除いては本質的には殆ど変わってい  主税局税制整備室からのものであった。これは植 ない」(3ページ)としている。しかし本文で明ら  松守雄同室長が大蔵省、信託業界、生保業界、厚 かにしたとおり、社外積立に1本化したことの意  生省、労働省等関係者間の話合いを受けてまとめ 味を考えてみれば、32年案と36年案の違いは大き  たもので、このあと37年4月に導入されたわが国 かったといわねばならない。      の適格年金制度の骨格を形成するものであっだユ)。

(3)この点については、前掲『三菱信託銀行60年史』、   主税局税制整備室は早くから社外積立方式に1 312ページ(本間靖夫執筆)参照。         本化していた。大蔵省では各国の税制についての

また要望書II、 IH部の分析も同60年史を参照。   研究が進んでいたから、アメリカの税制適格年金

(4)36年の信託協会の要望、前掲『信託』復刊52号、  に関する税法上の取扱いについてはすでに周知の 133ページ。他益信託については、信託協会調査部   ことであり、いずれこれを日本に導入する時期が 編『信託用語辞典』昭和51年、140ページ、小林桂   訪れることも予想されていたからである。問題は 吉編、前掲『信託銀行読本』4−8ページ参照。   年金課税の長期にわたる繰延べによって税の抜け

(5)同上、134ページ。       道とならないようにすることにあった。植松構想

(6)同上、133ページ。       の要点は以下のとおりである(2)。

(7)同上、133ページ。       (1)保険数理上健全と認められた場合には、年金

(8)同上、133ページ参照。       基金の企業拠出分は全額損金算入扱いとする。

(9)この間の経緯と論点については、前掲『三菱信  (2)元来、企業拠出分は拠出時における従業員の 託60年史』312−313ページ(本間靖夫執筆)を参   給与所得として課税さるべき性質のものである 照。また年金基金の独立性の意義に触れた文献と   が、年金制度の本質に鑑みて、年金給付時まで しては、前掲富安長輝『企業退年金制度の研究』、   課税延期を認める。ただし、課税延期に伴う延 1306、1307ページ参照。       滞利子は負担してもらう(特別法人税の導入)。

(10)倉知善一「年金信託発足の意義と特色」『金融財  (3)従業員拠出分については、社会保険料なみの 政事情』第15巻13号、昭和37年4月9日、29ペー    扱いは認められない。

ジ参照。       ただし、年金給付時に必要経費として所得控

(ll)大蔵省『銀行局金融年報』昭和37年版、178ペー    除を行う。

ジ参照。      (4)従業員拠出分ならびに企業拠出分の運用益に

⑫昭和36年の生保協会、日経連の要望については、  ついては、企業拠出分の取扱いに準じ、所得税 前掲『信託』復刊52号、参照。       の課税延期を認めるが、延滞利子は負担しても

⑯ 同上、生保協会の要望、『信託』復刊52号、139   らう (この場合、延滞利子の負担者は受託銀行 ページ。       とする)。

⑭ 山田商平、前掲「年金関係税制の成立に至る経

緯」、4ページ。       植松試案の特徴はアメリカの税制適格年金にな らって、社外積立を前提としたこと、年金数理上 の適格要件を充たしている場合には掛金の損金算 3.大蔵省の対応と国会の論議      入扱いを認めること、年金基金が税の抜け道とな

らないように特別法人税のアイデアをとり入れた

(1)主税局税制整備室の構想      ことである。社外積立の年金制度をとり入れたと 信託協会をはじめ、日経連、生保協会の要望に   ころから、受託機関は当然信託、生保を想定して 対して大蔵省の対応は複雑な経過をたどっていく  いた。

が、試案がはじめて提起されたのは36年9月同省    税制整備室は当時税制調査会答申の担当部局で

(11)

企業年金制度の成立過程と信託銀行       43

あったから、上の植松試案は、企業年金が厚生年   が受託者になりまして、従業員のために、この財産 金の発達に支障とならないようにという意味も含   を管理運用いたしまして、処分をいたしますときに めて、年金課税の優遇措置を講ずるという方向で  は、これを約束に従って年金の格好で支払う、こう はなく、社内留保型の退職給与引当金制度に対応   いうものでございます。従いまして、銀行預金の場 して社外積立の年金制度に関する税制を整備する  合にはある会社が自分の金を預金をする。ちょうど という方向で検討がなされた点を補足した外は、  社内の積立金を預金をしておるのと同じでございし ほぼ試案どおり税制調査会答申としてまとめられ、  て、これは銀行として扱えるものでございますが、

36年12月7日に発表された〔3)。      今の企業年金の問題になりますと、第三者のために これに対して、信託協会は特別法人税という予  管理運用をいたしまして処分をするということでご 期しなかった制度提案がなされるなど問題点も多   ざいます。これが信託の性格の質的なものでござい かったが、受託形式については信託、保険契約を  まして、銀行預金と本質が異なる。そういう意味か 利用社外積立による企業年金制度の創設が認めら  ら銀行はこれはできないものでございます。私的年 れ、年金基金の課税優遇に関してかねてからの要   金の話になりますと銀行として全然介入の余地が制 望が基本的に受け容れられた点を考慮して、原則  度上ない、こういうように御了解願いたいと思いま 的には賛意を表明した。       す。

ただし、ほぼ同時に出された大蔵省主税局税制

1課の構想は、従業員の拠出分を考慮しないで社    また信託銀行の「信託勘定というものは信託の 会保障制度としての老齢年金の立場を否定しただ  受益者のものであって、信託銀行のものではない けでなく、受給資格発生前の退職者には何らの給   という厳格な建前がとられている」⑥とも述べて 付も行われない、運用差益等の超過留保額は必ず  いる。「第3者のためにする契約」によって構成 翌期に企業へ返還する等、信託協会としては問題   される企業年金には、制度上まさに信託(あるい が多かった。とくに最後の論点は、年金基金の独   は生保)のシステムがぴたりと適合するという点 立性、取消不能の他益信託の受託形式からみると、 が強調されているのである。これに対して、普通 ある意味では年金信託の本質に根ざすものであっ  銀行については「短期の運用をし、短期の払出し たから、これを容認することはできずω、大蔵省  に応ずるというもので、これと信託との性格には 銀行局、厚生省より意見を徴しつつ主税局税制1  差がある」ωとして、普通銀行の年金扱いを認め 課と折衝を重ねた。その結果、税制1課の構想は   る余地は制度上からみてありえないという。上記 やがて変わって、事態は税制調査会答申に近い線   の答弁とあわせて、こうした観点から問題を解決 で収拾された。      していく方法を考慮していたという点は注目すべ

きである。

(2)受託機関の限定をめぐる国会論議       受託機関としては、さらに「一定のカネを社外 企業年金制度の基本設計ができたところで、大  に積立てまして、これを最も有利かつ確実に運用 蔵省は法人税法および所得税法改正案を国会へ上   する機関として信託銀行があるわけでございます 程した。       から、それを使う」(8)と述べており、年金資産の

国会における議論のうち、注目されるのは受託  運用が長期にわたって有利かつ安全に行われる必 機関を信託と生保に限定した点である。昭和37年  要があるところから、長期金融専門機関である信

3月1日の衆院大蔵委員会で、大月高大蔵省銀行   託銀行がふさわしいとも答弁しているのである。

局長は次のように答弁している(5)。        そのうえ「企業年金は、法人税法におきましても、

現在議論になっております企業年金の問題は、企  信託銀行以外では取扱えない」/g)と税制上からも

業が委託者あるいは信託者になりまして、信託銀行  受託機関の限定がなされていることを明言してい

(12)

表3 信託協会要望「調整年金について」(昭和37年)

(A案) (B案)

1.調整年金については、次に掲げる理由によりその実施促進 1.調整年金については、次に掲げる理由によりその実施

をはかる必要がある。 促進をはかる必要がある。

(略) (略)

2.調整年金の実施主体については、次の理由により、法人格 2.調整年金の実施主体については、次の理由により法人格を を有する基金構想をとらず、信託契約または保険契約を基礎 有する基金構想をとらす、信託契約または保険契約を基礎と

として契約されることが望ましい。 すべきである。

(1)今春施行された適格退職年金制度においては、一定の要件 (1)そもそも退職年金制度の運営にあたってもっとも考慮すべ を備えた退職年金に関する信託契約または保険契約に基づく き点は、年金受給者保護の見地から、年金基金の実質的独立 ことを必要としており、法人格を有する組合または基金構想 性を保持し、かつその基金の安全確実な管理を実現するとい を採用してはいないのである。 う点にあることはいうまでもない。この点、信託型による年

すなわち、退職年金に関する信託契約については従業員を 金制度の運営はかかる基本的問題点を完全に解決するところ 受益者とする第三者のための契約となっており、委託者であ から、もっともすぐれた運営方式とされている。

る事業主は受益者を変更できない(取消し得ない信託)こと (2)第一に、年金信託契約においては、次の諸点にもとづき、

になっている上、信託財産に対しては信託法上手保護が加え 年金基金の完全な独立性を保持することができる。

られている。 (イ)従業員を受益者とする第三者のための契約となっており、

このような信託型の退職年金制度については、すでに法制 委託者である事業主は受益者を変更することができない。

的に充分な検討がつくされており、前述の適格退職年金制度 (ロ) 年金基金は、年金信託契約にもとづき企業から完全に の実施状況にかんがみても、調整年金制度の実施にあたって 切離され、第三者たる信託銀行(受託者)の管理下におか はこの方式によることがきわめて自然であり、あえて既存の

れる。

制度を否定する必要はない。 (ハ)個々の年金受託基金は、受託者たる信託銀行の固有財産

② 法人格を有する基金構想をとる場合には、米国等の先進諸 ならびに他の信託財産から完全に分別管理され、さらにこ 国にその例がみられる如く、その運営につき問題を発生し易 れらゐ年金信託基金に対して信託法上手厚い保護が加えら

い素地を持っていることは否定しがたい。 れている。

(3)大蔵省の行政指導により、金融機関は長短金融の分離を前 (3)第二に、年金基金の受託者たる信託銀行は、その業務の本 提として業務分野の調整が行われている。 質および多年の経験にもとづき、年金基金の如ききわめて長

年金制度の如き長期の資金の管理、運用ならびにこれに附 期にわたる資金の管理、運用、年金の給付ならびにこれに付 随する事務管理の処理については、長期金融機関である信託 随する管理事務の処理については、必要な組織と高度の技術 銀行および保険会社が最も適していることは各界をあげて認 を有しており、その能力については一般に高く評価されてい めているところであるが法人格を有する基金構想をとる場合

る。

には、その受託金融機関につき混乱を招くおそれなしとしな (4)このような信託型年金制度の利点については、国内のみに

いQ とどまらず、海外においても法制的・経済的に充分な検討が

(4)法人格を有する基金構想の果す機能は、すべて信託型また つくされており、すでに相当の成果をあげているのである。

は保険型の年金制度によって充分満足せしめることができる。 これに反し、法人格を有する基金構想をとる場合には、形 式的な独立性は保持し得ても、実質的な独立性を保持するこ とは困難であり、米国にその例がみられる如く、その運営に つき問題を発生し易い素地を持っていることは否定しがたい。

⑤ 法人格を有する基金構想の果す機能は、すべて信託型また は保険型の年金制度によって充分満足せしめることができる。

⑥ かかる理由にもとづき、今春施行された適格退職年金制度 においては、一定の要件を備えた退職年金に関する信託契約 または保険契約にもとつくことが必要とされたのであり、法 人格を有する組合または基金構想は採用されなかったのであ

る。

したがって、適格退職年金制度の実施に引き続いて調整年

金制度を実施するにあたっては、この方式によることが必然

の帰結である。

(13)

企業年金制度の成立過程と信託銀行      45

る。       ばれるように、昭和40年の厚生年金保険法(2)の改 このように、適格年金制度の受託形式を中心に  正と不可分の関係において創設された。従って調 みると、金融機関の業務の特性上も、法律構成上   整年金の法制をみる限り、もっぱら公的年金とし も、税制上からも、また資産運用上からも信託と  ての側面が強く現われるように法律構成がなされ 生保が受託機関として最適とされたのであって、  ているが、調整年金創設の背景、審議経過からみ 信託業界が早くから研究に着手していたからとか、  れば、企業年金的側面が実質的に強くみられるこ 長期金融機関であったからとかいうのではないこ  とは否定できない。調整年金の受託形式を検討す とがわかる(1°〉。昭和37年3月31日、上の税制改   る場合、このような建前と現実をいかなる方法で 正案は可決成立、ここにわが国の適格年金制度が  調和させたかをみておくことが1つのポイントと 誕生した。       なる。

信託協会の要望書は、最初同協会年金部会にお

(注)      いてとりまとめられた(3}(表3・A案)。しかし、

(1)植松試案とその後の経過については、前掲『三  同案は修正すべき点もみられたため、昭和37年11 菱信託銀行60年史』、314−317ページを参照。     月に修正案(表3・B案)が討議に付され、一部

(2)前掲『三菱信託銀行史』315ページ。      修正のうえ採択されて、この要望書は同年12月蔵

(3)税制調査会答申が議会へ提出されるまでの経緯   相宛に提出された。

については、山田商平、前掲「年金関係税制の成   信託協会の要望書は公的年金からの適用除外に 立に至る経緯」4−8ページ、に詳しい。またこ  基づく調整年金の実施と、その実施主体について れとは違う資料でこの経過を迫った前掲『三菱信   法人格を有する基金構想をとらず、信託型または 託60年史』314−317ページも参照。本文は後者に  保険型を基礎とするよう求めている。ここでいう よっている。       適用除外とは適格年金であって一定の要件を充た

(4)山田商平、前掲論文、6ページ参照。      すものは、事業主の申請に基づき公的年金である

(5)衆議院『大蔵委員会議事録』昭和37年3月1日、  厚生年金保険の報酬比例給付部分の適用を除外す 参照。       る。すなわち、事業主および被用者は定額給付部

⑥同上議事録、参照。以下の「第3者のためにす  分の適用は継続し、この部分の保険料納付を義務 る契約」については、前掲『信託用語辞典』137ぺ   づけられるが、報酬比例部分については認可のと 一ジ参照。       きからその保険料納付を免除されるというもので

(7)同上箇所。       ある。また基金構想とは、法人格を有する年金基

⑧ 同上箇所。       金の管理機関を設けてここに年金の管理を代行さ

(9)同上箇所。      せることをいう。

㈲ この結論については、前掲『三菱信託銀行60年    表3(A案)によれば、調整年金の実施にあた 史』315ページ(本間靖夫執筆)を参照。また、林   っては、すでに適格年金において信託型の年金制 宏編『信託の時代』平成3年、172−173ページも  度を十分に検討しているのであるから「この方式 参照。       によるのが自然であり、あえて既存の制度を否定

する必要はない」(4>といい、従業員を受益者とす る第3者のためにする契約であれば、委託者であ 4.調整年金制度の受託形式       る事業主は受益者を変更できないから年金基金に 対する安全性は確保されるとして、取消しえない

(1)昭和37年信託協会の要望における受託形式   信託契約を組込んだ制度を主張している。ただし、

調整年金は法制上では厚生年金基金制度mと呼   ここではこれ以上の説明はない。

(14)

そこで、表3(B案)の修正(案)の方ではこ   (2)厚生省の厚生年金基金構想における受託形式 の点について詳しく補足説明を加えることとなっ   信託協会の適用除外方式に対して、厚生省は独 た。すなわち、「そもそも退職年金制度の運営に   自に代行方式に基づく基金構想を提案しだ7)。昭 あたってもっとも考慮すべきは、年金自給者の保   和36年6月、厚生省保険局は厚生年金保険の改正 護の見地から年金基金の実質的独立性を保持し、   に関連して「企業年金との調整方法(案)」を作成 かつその基金の安全確実な管理を実現するという   し、「特定職域につき、厚生年金の報酬比例部分 点にあることはいうまでもない」(5)として、信託   の年金額を上回る年金支給を行う年金基金が設定 型による年金制度が最適であるとする観点をまず   された場合には、この年金基金に厚生年金の報酬 基本にしている。以下、年金基金の独立性をはじ  比例部分の代行を認め、この基金加入者について め、第3者のためにする契約となること、委託者  報酬比例部分に対応する保険料を徴収しないこ である事業主は受益者を変更できないこと、年金  と」〔8}との方針を決定した。つまり厚生年金と企 基金は年金信託契約に基づき企業から完全に切離   業年金との調整そのものは認めるとしても、法人

され、受託者たる信託銀行の管理下に置かれるば   格を有する年金基金の管理機関を設けて、ここに かりか、受託者たる信託銀行の固有財産ならびに  年金の管理を代行させることがもっとも適当とい その他の信託財産からも完全に分割管理されるこ  うのである。

と、さらにこれらの年金信託基金に対して信託法    その理由は、厚生年金が公的年金の一部であり、

上手厚い保護が加えられていること等が説明され   政府の責任において年金受給権を保障するという る。そのうえこのような信託型年金制度の利点に   見地から、政府がまったく関与しない信託協会な ついては、海外においても法制的経済的に十分な  どの適用除外方式は適当ではないということであ 検討が加えられており、すでに相当の成果をあげ   る(9)。年金管理機関の名称は厚生年金基金とされ ているという。      た。

これに反し、法人格を有する厚生年金基金説を   ただし、上の厚生省案では事務処理を効率的に とる場合には形式的な独立性は保持しえても、実  行い、管理コストを一定範囲にとどめるため、基 質的な独立性を保持することは困難であり、その  金の財産をすべて信託財産として信託銀行に管理 運営につき問題が発生しやすいという。これらの   させる措置をとることとした(保険会社も同様)。

根拠は、基本的には適格年金のそれとまったく同   従ってこの代行方式は信託協会の適用除外方式を じであり、調整年金を実施するにあたってもこの   とる場合と同一の効果を生むものであり、形式は 方式によることが当然であるとされた(以上の点  公的年金に近い仕組であっても実態は適格年金と については、生保方式にもあてはまるという)。   同様の企業年金に近いものとなる。

ところでこのA案とB案を比較して注目される   厚生年金保険法の改正は日経連、大蔵省、労働 もう1点は、A案の中に年金の長期資金管理、運   団体との利害調整に手まどり、また、国会の事情 用ならびにこれに関連する事務管理の処理につい  もあって遅れたが、40年6月にようやく成立し ては、信託、保険が最適だが、「法人格を有する  だ1°)。

基金構想をとる場合には、その受託金融機関につ    厚生年金保険の給付のうち企業年金との調整の き混乱を招くおそれなしとしない」⑥という1節   対象とされたのは、老齢年金のうちの報酬比例部 がある点である。B案ではこの文は削除されたが、 分であり、調整年金の実施主体は企業およびその 調整年金の受託形式が基金構想になったときの問   企業の被保険者によって組織される公法人たる厚 題点をあらかじめ指摘したものとして留意すべき  生年金基金とされた。法制上は、公的年金の建前

である。       を貫いた厚生省の代行方式構想がべ一スになった

のである。しかし年金の管理については、厚生省

参照

関連したドキュメント

地域の中小企業のニーズに適合した研究が行われていな い,などであった。これに対し学内パネラーから, 「地元

第16回(2月17日 横浜)

継続企業の前提に関する注記に記載されているとおり、会社は、×年4月1日から×年3月 31

 このような状況において,当年度の連結収支につきましては,年ぶ

「光」について様々紹介や体験ができる展示物を制作しました。2018

問 19.東電は「作業員の皆さまの賃金改善」について 2013 年(平成 25 年)12

場会社の従業員持株制度の場合︑会社から奨励金等が支出されている場合は少ないように思われ︑このような場合に

  支払の完了していない株式についての配当はその買手にとって非課税とされるべ きである。