一285 一
東医大誌 69(3):285−286,2011
医療の現状と医学教育一原点への回帰一
防衛医科大学校副校長 兼病院長
望 月 英 隆 Hidetaka MOCHIZUKI
多くの病院では、患者さんからの言われなきクレームへの対処に悩み、医療以外にその方面に膨大な精力 を傾注しなければならない現状にある。多くの国民にとって今や医療は、「施していただく」ものではなく、
良好な治療結果とワンセットで提供してくれることが当たり前となってしまい、医療は一般のサービス業と 同じ位置付けになっている感さえする。医療の結果が受ける側の期待に沿わないものとなると、大きなク
レームが発生し、場合によっては医療訴訟を覚悟しなければならない。
この様な風潮が広く見られるようになったことには、国民が抱く医療に関する大きすぎる期待に対する医 療側の「迎合」が関係しているのではないかと考えている。医療の進歩とともに、病気は治って当たり前と いう過度の「期待」が医療を受ける側に広がり過ぎたことに対し、医療側がそれを看過して、病気の治療は 本当はそんなに簡単ではないことの説明を怠ってきたことに一因があると考えている。また、著者が「迎合」
と感じるもう一つに、診療所や病院で耳にし、目にする「患者様」という言葉がある。「様」の敬称は、言 葉を発する側がへりくだって相手側を持ち上げる際に使用されるが、医療を行う側が受ける側にへりくだる 必要は無く、ましてや相手を理由も無く持ち上げる必要も無い。このような不必要な敬称を用いることに よって医療を受ける側と行う側との問に上下関係を持ち込むことは、医療を受ける側に「治って当たり前」
との錯覚と、一般のサービス業における販売主と顧客の関係に似た意識を持ち込ませる原因となり、先の説 明不足と相侯って、好ましからぬ相乗効果を発揮したと考えるのは、うがちすぎであろうか?
一方、「医は仁術」と古くから言われてきた。しかし上述の如く、その様な認識が医療を受ける側に希薄 化あるいは欠落している中、更には医療界を取り巻く劣悪な経済状況や労働環境の中で、現在は医療側が「医 は仁術」の意識を確固として持ち続け得る環境ではなくなっている。すなわち、医療活動のエネルギーのあ る部分を、どうしても利益の追求や、言われなき中傷への対策に割かざるを得ないという現実が横たわって
いる。
しかし、このような状況にあるからこそ、現在の医学教育は、医療に関わる意識の原点、「医は仁術である」
ことを過つことなく医学生に教え、医療を施す側の意識の健全化に努めることが肝要と考えている。医療を 受ける側の意識改革を得ることの方が幾重にも大きな困難を伴うと考えられ、それならば、医療を行う側の 健全な意識の堅持を求めるほうが近道と信じるからである。
(1)
一 286 一
東京医科大学雑誌 第69巻 第3号
略 歴
望月英隆(もちつきひでたか)MOCHIZUKI, Hidetaka
生年月日 1946年10月13日
履 歴 1973年 1981年 1983年 1984年 1985年 1996年
2002年 2005年 2006年 2008年東京大学医学部医学科卒業
東京大学医学部附属病院第一外科文部教官助手 アメリカ合衆国シンシナチ大学外科research・fellow 防衛医科大学校外科学第一講座助手
防衛医科大学校外科学第一講座講師 防衛医科大学校外科学第一講座教授 防衛医科大学校病院 副院長 兼務 防衛医科大学校病院 病院長補佐 兼務
防衛医科大学校診療担当副校長 兼 病院長 兼務 防衛医科大学校診療担当副校長 兼 病院長 専任
防衛医科大学校外科学講座教授退任 現在に至る 学 位 1981年 医学博士(東京大学)
専門分野 大腸外科学、外科代謝栄養学
学会活動 日本医学会評議損 日本外科学会特別会員
日本臨床外科学会 常任幹事、学会雑誌編集委員長 日本外科感染症学会理事、第19回総会会長(2006)
日本外科代謝栄養学会 第44回総会会長(2007)
日本大腸肛門病学会 第63回学術集会会長(2008)
日本エンドトキシン研究会 第7回研究会当番世話人(2001)
Sentinel Node Navigation Surgery、第6回研究会当番世話人(2004)
大腸癌研究会 監事、第75回研究会当番世話人(2011.07)
(2)