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地区計画による制限が地価に及ぼす影響

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Academic year: 2021

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(1)

地区計画による制限が地価に及ぼす影響

Effects of the restriction of the district planning on the land prices

土木工学専攻 4 号 井上 大丈夫 Takeo INOUE

1.研究背景と目的

地区計画は市民が主役となり、アイデアを出し合いなが ら、地区の実情に合った建築物や道路・公園などの施設の 位置、規模、建築物の用途や形態などに関するルールを決 めるものであり、建築紛争を予防し、また市民の自治能力 を高める上で重要な都市計画制度である。しかしながら、

地区計画は、地権者間の利害,特に建築に制限を加えるも のであり、この制限によって土地の資産価値が低下してし まうとの危惧からその調整が容易ではなく、導入がなかな か進展していないのが現状である

1)

本研究は、ヘドニック法を用いて地区計画による制限 が地価に及ぼす影響を分析するものである。 具体的には、

世田谷区の戸建住宅取引データをサンプルとして、既存 の都市計画法・建築基準法上の規制(容積率・建ぺい率)

に対して、上乗せあるいは追加する制限(絶対高さ制限 や垣柵にかかわる制限)を有する地区計画が地価にどの 程度寄与しているかを測定する。

ヘドニック法とは、地価を回帰分析によって複数の属 性(最寄り駅までの距離、建ぺい率、容積率、全面道路 幅員等)に回帰させることにより、各属性の影響の程度 を測定する手法である。具体的な土地取引情報(顕示選 好)に基づいて、客観的に環境や規制の価値を測定でき る点に、その特色がある。

容積率や建ぺい率といった規制の影響をヘドニック法 で分析した研究は少なくない

2)~6)

が、これまでは地区 計画はダミー変数として扱われるか(和泉( 1998) ) 、あ るいは規制内容ではなく、実際の土地利用や建築物の状 況そのものを変数として扱っており、地区計画の規制内 容を説明変数として扱っている分析は筆者の知る限り存 在しない。

本研究では、都市計画法・建築基準法といった既存の 規制に地区計画の規制が強化されているか、緩和されて いるかを変数として取り扱い,強化あるいは緩和が宅地

の取引価格に影響を与えているかどうかを検証する。

地価形成要因

個別的要因 地域要因

敷地条件 周辺環境条件

方角(南向き)

           等

建物棟数 1世帯辺り延べ面積

         等 土地条件

地区計画で規制している項目 容積率

建ぺい率 用途制限

最寄り駅までの所要時間

(徒歩またはバス)

都心部までの所要時間          等

図 1 地域形成要因の分類

表1 既存研究のレビュー

  森田    肥田野・亀田

・横浜市の既成住宅市街地における ・世田谷区の戸建住宅地における建築物と緑に 目的  地価形成要因の分析  よって発生する外部効果についての分析 方法  地価形成要因を地区計画等により  主に緑量・建築物量・空量を計測し、その指標

 コントロールした又はしなかった場合の  を住環境の要素を変数に入れて分析  地価への影響分析

説明変数 ・敷地形状ダミー        ・緑の量(緑率)      

・最寄り駅までの距離     ・建築物率         

・最寄り駅から東京駅までの路線距離 ・容積率

・前面道路幅員        ・南接道ダミー       

・建物混在率/敷地面積    ・水害危険性ダミー    

・東急東横線ダミー ・アクセシビリティ指標

・東急田園都市線ダミー        ・大病院までの距離

・敷地面積のエリア最小値/敷地面積 ・道路幅員

・新線敷設による最寄り駅変更ダミー ・地積

サンプル数 382 94

地価関数  Box・Cox変換等を行い、データへの  森田と同じく、諸変数の組み合わせや関数型 検定方法  フィットのよい関数型を尤度比検定に  を検討し、最も統計的適合度の高かったもの

 基づき選択(線形・両対数・片対数等  を選択  より選択)

課題  地価は経済・社会的な要因でも変化する  統計手法が日々進歩しているため、その改善  ので、現地調査を社会の変化に応じて  したもので再検討する必要がある。

 適宜行う必要がある

※緑量・建築物量は、

緑の反応率・視認率と いった指標で説明力を 比較している。

(2)

先述したとおり、先行研究では地区計画の効果を、地区 ダミー変数を導入した地価関数を推計するというヘドニ ック法によって計測していたが、本研究では容積率・建 ぺい率等といった地区計画の個別の規制項目を説明変数 として用いる。先行研究だと地区計画策定の効果全体の 計測は可能だが、個別の規制要因がもたらす影響を計測 することはできない。有する地価関数を推計するという ヘドニック法を用いる。

2.データ

世田谷区全域での 1995 年から 2005 年までのリクル ート住宅情報に記載された戸建住宅の取引物件およそ

14,000 件のデータである。このデータに世田谷区役所ホ

ームページからの情報をもとに、新たに地区計画の規制 内容を加え、GISを用いて視覚的に各々の戸建の位置 や情報、地区計画の規制がかかっている地域を表す。

表2 地区計画による規制・制限項目の内容

表3 世田谷区における地区計画地区一覧 (2006 年度現在 )

2.1 強化・緩和・両方・変化なしの定義

本研究では、容積率・建ぺい率・用途規制の3つの項 目を地区計画で定めたものと既存の都市計画法・建築基 準法で定めたものを比べて、強化しているか緩和してい るか、強化緩和両方か、変化なしかの4種類に分けて考 えている。本研究では地区計画(一般型)のみを定義する。

1)容積率・建ぺい率

※数字の変化がなければ、変化なしとする。

※地区によっては、3 地域 4 地域と複数の地域に分割して、

各々の地域で容積率・建ぺい率を定めている。その地域 ごとに建物の階数条件や周りの緑の量の条件等で容積 率・建ぺい率の基準値が異なるため、 1 つの地域では強化、

他の地域では緩和といったケースがあるが、この場合は、

強化緩和両方ありとする。

2)用途制限

これは単に、例えば第一種住居専用地域から第一種住 居地域になったら緩和、またはその逆なら強化となる、

といったように用途地域の種類の違いでもって定義する だけでなく、同じ用途地域でも建築可能な建築物が制限 されているかどうかにも着目して調査している。

表4 本来近隣商業地域で建てられる用途

表5 喜多見駅周辺地区地区計画の近隣商業地域 で建てられる用途

上記はホテル・旅館が建てられなくなっていて、用途が 制限されていることになる。この場合は強化とする。

調査によると、世田谷区の地区計画では、用途制限の緩 和といったものは一切なく、全て強化されていて、緩和・

一覧 地区数

地区計画地区 52地区

地区計画地区(再開発等促進地区) 1地区

沿道地区計画地区 16地区

防災街区整備計画地区地区計画地区 3地区

容積率 100% 110%

建ぺい率 50% 60%

容積率 100% 90%

建ぺい率 50% 40% 強化

緩和

・建築物の用途 きめ細かく用途を定めることにより、地区の特性に あった、まちづくりの誘導が可能。

・容積率の最高限度 容積率や建ぺい率の最高限度を定めることにより、

い率の最高限度 周囲に調和した土地利用、ゆとりのある街並みの形成を 図ることが可能。

物等の高さの最高限度 高さの最高限度を定めることによって、日照・通風の確保や 低層住宅地等の街並みの揃った景観の形成を図ることが 可能。

面積・建築面積の最低限度 敷地の細分化の阻止によって、建築物が高密度に立てこ むことを防ぎ、居住環境の悪化の阻止を図ることが可能。

物の壁面の位置制限 道路や隣地との境界までの壁面の距離を定めることにより 建築部の密集や通風の確保、火災の延焼の防止、整った 街並みの形成を図ることが可能。

物等の形態・意匠 屋根の形態や建築物等の色彩等を定めることによって、

統一感のある美しい街並みの形成が可能。

くの構造 緑化を推進したり、高い塀の規制やさくを透過性にして、

緑が道路側から見えるようにすることによって、街にうるお いをもたらすことができる。

の利用の制限に関する事項 現存する植林地、草地等で良好な居住環境の確保に必要 なものを保全することができる。

・建ぺ

○ 遊戯施

設 ○

/ ○

風俗施

設 ○

× 劇場,映画館,演芸場,観覧 場

キャバレー,ダンスホール 等,個室付浴場等

ホテル,旅館

ボーリング場,スケート場,

水泳場,ゴルフ練習場,バッ ティング練習場等

カラオケボックス等 麻雀屋,ぱちんこ屋,射的 場,馬券・車券発売所等

・建築

・敷地

・建築

・建築

・垣・さ

・土地

× 遊戯施

設 ○

/ ○

風俗施

設 ○

× 劇場,映画館,演芸場,観覧 場

キャバレー,ダンスホール 等,個室付浴場等

ホテル,旅館

ボーリング場,スケート場,

水泳場,ゴルフ練習場,バッ ティング練習場等

カラオケボックス等 麻雀屋,ぱちんこ屋,射的 場,馬券・車券発売所等

(3)

強化緩和両方といったものはない。

調査の結果、容積率・建ぺい率・用途制限のダミー変数 は以下の 8 種類を加えることにする。

表6 強化・緩和・両方・変化なしダミー変数一覧

○:変数に加えるダミー ×:変数に加えないダミー

3.推定手順・結果

ヘドニック法による地価関数の推定については、多重 共線性・関数型の選択・分散不均一等の問題点がある。

これらの問題に対処して、地価を被説明変数として、地 価関数の推定を行う。まず、上の問題に対処した信頼得 る基礎モデルの構築を行う。この基礎モデルの確立のあ とに、説明変数を加えていく。

図2 地価関数推定手順

基礎モデルとは、地価関数推定の際に必ず加えるべき説 明変数を選び、まずそれらだけでパラメータを推定した モデルをさす。

最寄り駅までの所要 時間やバスの所要時 間等、地価に及ぼす 影響が明らかなもの

について、結果が有 表7 基礎モデルの説明変数 意になるように説明

変数を組み合わせるなどの処置を施す。

地価関数の推定式は以下である。

Log(地価)=誤差項 + ∑ log γ* F

b

+ ∑ δ

i

* X

i

F

b

: log をとった説明変数 X

i

F

b

以外の説明変数

推定結果を以下に示す。

変数 パラメータ推定値 t値

(定数項) -2.22E+02 *** -13.453

最寄り駅までの所要時間 -6.51E-03 *** -21.164

バスの所要時間 -1.00E-02 *** -6.04

渋谷or新宿の近い方の所要時間 -3.28E-03 *** -9.599

築後年数 -7.95E-03 *** -51.283

log(土地面積)*log(建物面積) 5.14E-01 *** 273.391

ESN02ダミー -1.24E-02 -0.549

ESN03ダミー -4.25E-03 -0.381

ESN04ダミー -3.60E-03 -0.741

ESN05ダミー -1.29E-02 * -2.555

ESN06ダミー -3.88E-03 -0.965

ESN07ダミー 1.60E-02 . 1.951

ESN08ダミー -4.72E-03 -1.235

ESN09ダミー -9.00E-03 -1.517

1995年登録ダミー 2.47E-01 *** 8.774

1996年登録ダミー 2.15E-01 *** 28.841 1997年登録ダミー 1.64E-01 *** 25.208 1998年登録ダミー 9.26E-02 *** 14.227

1999年登録ダミー 6.37E-02 *** 9.665

2000年登録ダミー 3.88E-02 *** 5.84

2001年登録ダミー -2.39E-03 -0.372

2002年登録ダミー -5.19E-02 *** -8.122 2003年登録ダミー -5.24E-02 *** -8.042 2004年登録ダミー -2.95E-02 *** -4.462

log(建物棟数) -3.36E-02 * -2.569

x座標 1.76E+00 *** 17.263

y座標 -4.61E-01 *** -4.695

容積率/建ぺい率 -2.16E-02 *** -8.089

容積率強化のみダミー -6.95E-02 *** -12.543

建ぺい率緩和のみダミー -1.01E-02 -0.112

用途制限ダミー -1.99E-02 -1.486

公園広場箇所数制限ダミー 5.15E-02 *** 4.033

建築面積制限ダミー -3.29E-02 -1.136

土地利用その他制限ダミー 1.18E-01 1.194

建築INダミー 9.98E-02 *** 3.435

緑地INダミー -7.89E-02 -1.008

建築100ダミー -1.98E-02 * -2.537

緑地100ダミー 9.69E-02 *** 6.627

地区500ダミー 2.51E-03 0.785

建築500ダミー 5.01E-03 . 1.719

緑地500ダミー 3.32E-03 0.53

第一種低層住居専用INダミー 6.52E-02 * 2.484 第二種低層住居専用INダミー 7.31E-02 ** 2.627 第一種中高層住居専用INダミー 3.83E-02 1.461 第二種中高層住居専用INダミー -9.80E-03 -0.342

第一種住居INダミー 3.63E-02 1.374

第二種住居INダミー 3.84E-02 1.216

準住居INダミー 6.17E-02 * 2.115

近隣商業INダミー 5.96E-02 * 2.213

準工業INダミー 5.34E-02 1.339

1世帯当たり延べ面積 3.60E-03 *** 23.049

防火地域INダミー 9.23E-03 1.386

沿道地区計画INダミー

表8 推定結果

※ 係数値の右に示してある星は

***1%水準 **5%水準 *10%水準 を示す。

※ 地区計画に関連する項目は、灰色に塗りつぶしてある。

強化のみ 緩和のみ 強化緩和両方 強化緩和両方なし

容積率 ○ ○ ○ ○

建ぺい率 ○ ○ × ○

用途制限 ○ × × ×

モデルの構築

説明変数の選択 相関表等を参考に、説明変数を選

択する。相関がある場合は、変数 同士を乗じたり、除したりする工夫

が必要となる。

分散不均一検定

BPテスト(BreushPagantest)等を用いて、検定 を行う。分散不均一だとある場合は、関数型を

変えるか、変数を工夫する。

再検討 再検討

関数型の選択 線形・片対数・両対数等 一番フィットのよいものを選ぶ。

推定式の確定

最寄り駅までの所要時間 バスの所要時間

築後年数

log(建物面積)*log(土地面積) 渋谷or新宿に近い方の所要時間

建物棟数

ESN02~ESN09ダミー(方角ダミー)

1995~2004年登録ダミー

-6.98E-02 *** -3.605 防災街区整備地区INダミー 5.79E-02 *** -4.437

国分寺崖線保全整備地区INダミ ** -2.703

0.8726 0.8721 -

-2.10E-02

(4)

図3 推定値と残差の分布

図4 推定値の二乗と残差の分布

上の図は、推定値と残差、推定値の二乗と残差の分布表 である。分散が不均一かどうかを調べるため、まずは目 視確認をする。実際に図をプロットしてみると、分散は 均一であるかのように見えるが、実際はわからない。他 のデータと比較して特に大きな散らばりを示すものにつ いては、番号が表示されている。これを外し、分散が不 均一かどうか、BPテストで統計的にテストを行う。

4.結論と考察

容積率強化のみダミーの結果を見るとパラメータはマ イナスであることから、強化する、つまり容積率の値を

小さくすると地価は下がることをさしている。これは従 来の予想通りの結果となった。

建ぺい率のみダミーもパラメータがマイナスとなって いるが上とは逆に、緩和する、つまり建ぺい率の値を大 きくすると地価が下がることをさしている。敷地の多く に建物を建てられるが、庭のスペースを取れない可能性 がある。緑の確保や避難路の確保が取れないことが原因 で、建ぺい率緩和がマイナスとなることが考えられる。

用途規制ダミーのパラメータを見ると、これもマイナ スとなっているため、用途規制をかけると地価が下がる ことをさす。 住居専用地域における規制強化については、

日照条件や通風条件等、住居環境により適した内容を規 制しているため、この部分に関しては地価が下がる原因 にはあまりならないが、商業地域・近隣商業地域に関す る規制強化については、例えば、デパートを建てられる 用途地域であるにもかかわらず、建てられないように規 制されているところでは、自分の住んでいる近くで買い 物が出来ず少し離れたところまで行かないと買い物が出 来ないといった不便さが生じてくる。こういった事が地 価を下げる要因になっていると考えられる。

5.今後の課題

今回の研究に用いた説明変数に加え、自宅から公園ま での距離・家の高さや階数・緑の実際の量等を測り、よ り細かい変数を加えて分析をする必要がある。また、用 途規制については住居地域と商業地域で分けて考える必 要性がある。

【参考文献】

1)長谷川貴陽史(2005):都市コミュニティと法、東京大学出版会 2)和泉洋人(1998):地区計画策定による土地資産価値増大効果の計測「都

市住宅学」23

3)和泉洋人(2002):容積率緩和型都市計画論、信山社

4)㈱価値総合研究所(2005):住民発意型地区計画等推進方策調査(報告書)

5)肥田野登・亀田未央(1997):ヘドニックアプローチによる住宅地にお ける緑と建築物の外部性評価、日本都市計画学会学術研究論文集No32、

pp.457-462

6)肥田野登・山村能朗・土井康資(1995):市場価格データを用いた商業・

業務地における地価形成および変動要因分析、日本都市計画学会学術 研究論文集No30、pp.529-534

7)浅見泰司・高暁路(2002):都市計画と不動産市場~住宅価格を左右す る住環境

参照

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