微分積分学・同演習 B 講義ノート(大体完成版)
∗原 隆 九大数理
[email protected] Last updated: January 24, 2019
概 要
これは上記科目のための講義ノート(講義メモ)です.教科書が少し難しいかもしれないこともあり,また,少 し順序などを変えた部分もあり,講義に関しての(ほぼ)必要十分な題材だけをまとめました.(少しだけ講義程度 を逸脱した内容もあります.)
(1/24)広義重積分に関するノートの一部がおかしくなっていた(1変数積分のノートの一部が残ったままに なっていた)のを修正しました.
(重要な注意)このノートの原型になったのは,2007年度までの数学科向けの講義ノートで,所々,当時の授 業に合わせた記述が残っています.また,内容も物理学科向けではない(より正確には,物理学科の進んだ学生さ ん向けの)部分が少しあります.
(受講生以外の方へのお断り)これはあくまで上記科目を受講した学生さんのためのもので,売り物になるく らいの品質で作っている訳ではありません.ところどころ,ミスもあるでしょう.もし,上記科目の受講生以外の 方が奇特にも手に取ってくださった場合は,その点を十分了承した上でお使い頂くよう,お願いします.
目 次
4 多変数函数の微分 3
4.1 1変数の函数,多変数の函数. . . . 3
4.2 偏微分 . . . . 4
4.2.1 偏導函数がゼロ,の函数は? . . . . 6
4.2.2 方向微分1 . . . . 6
4.2.3 全微分可能性2 . . . . 7
4.3 合成函数の微分(連鎖率,chain rule) . . . . 10
4.3.1 合成函数の微分(1変数の場合の復習, Case A) . . . . 11
4.3.2 合成函数の微分(1変数の場合に帰着, Case B) . . . . 11
4.3.3 合成函数の微分(本質的に多変数の場合, Cases C & D) . . . . 12
4.3.4 全微分可能性を仮定したときの chain rule . . . . 14
4.4 高階の偏導函数 . . . . 15
4.4.1 2階の偏微分係数の幾何学的意味 . . . . 17
4.4.2 高階偏導函数と連鎖律 . . . . 17
4.4.3 (補足)偏導函数がゼロという函数は?ふたたび . . . . 18
4.5 平均値の定理 . . . . 19
4.6 テイラーの定理とテイラー展開 . . . . 19
4.7 極大・極小問題 . . . . 21
4.7.1 問題の定義 . . . . 21
∗2018年度後期,毎週火曜3限,基幹教育1年S1-1クラス(理学部物理学科) 用
1この小節の内容は,偏微分に関する理解を深めるための補助的なものである.
2この小節の内容は「進んだ話題」なので余裕のない人はとばしても良いし,講義でもあまり触れない.
4.7.2 1変数の場合の復習 . . . . 22
4.7.3 2変数の極大極小問題 . . . . 22
4.7.4 3変数以上の極大極小 . . . . 25
4.8 陰函数定理 . . . . 27
4.9 条件付き極値問題:ラグランジュの未定乗数法. . . . 29
5 重積分(まだまだ未完成) 33 5.1 長方形の上の2重積分の定義とその意味3 . . . . 33
5.2 一般の領域での重積分4 . . . . 34
5.3 重積分と累次積分5 . . . . 35
5.4 重積分の変数変換6 . . . . 39
5.5 広義の重積分7 . . . . 42
5.5.1 被積分函数が一定符号の場合 . . . . 43
5.5.2 絶対収束する広義積分 . . . . 45
5.6 3次元以上の重積分8 . . . . 46
3教科書6.1節の前半
4教科書6.2節
5教科書6.1節後半
6教科書6.4節
7教科書6.3節
8教科書には顕には該当部分がないが...
4
多変数函数の微分
これから,偏微分(多変数函数の微分)を扱う.厳密性にはあまりこだわらず,高校までの「ええ加減」なノリ で9,ともかく概念を理解する事を目標にしよう.
なお,たいていの場合は2変数の函数を扱う.最後に扱う「極大・極小問題」を除いては,3変数以上への拡張 は容易かつ自明である.
4.1 1変数の函数,多変数の函数
函数とは何か,の復習から始めよう.高校でもいろんな「函数」をやったはずだ.例えば,
x2, x4, sinx cos(x2+ 2), . . . (4.1.1)
要するに1変数の函数f(x)とは,実数の変数xに対してf(x)という実数値が決まるもの(実数値を決める規則)
であった.
(余談)この定義通り,「函数」とは何でも良く,高校までの常識からは函数に見えないようなもの——例えば,
そのグラフがギザギザすぎて描けないようなもの——も入る.ただ,あまり一般的すぎると病的な函数も入って くるので,どのような函数なら扱えるか(どのような函数を扱いたいか)を見極める事が重要になってくる.近代 の微分積分学(より一般に解析学)の大きなテーマは「一般の函数とは何か?その函数に対して有効な微分や積分 の概念は何か?」を見極める事であった.
1変数函数と同じノリで多変数の函数を考えるが,その前に1次元での記号を整理しておこう.
• 実軸上の点はxやyのように書く.すべての実数からなる集合をRと書く.
• 1変数函数f のxでの値はf(x)と書く.
• 点xとy の間の距離をρ(x, y) =|x−y|(普通の絶対値)により定義する.
とする.ここまでは高校と同じだが,強いて言えば,|x−y|という絶対値を2点x, y の間の距離と解釈することが 目新しいかもしれない.「差の絶対値は距離」という見方はこれからも頻出する,非常に重要なものである10.
では,2変数の函数にうつる.2変数x, yの函数とは,2つの変数の値(x, y)に対してf(x, y)という値を定める もののことをいう.2つの変数x, yが勝手に動くと,(x, y)は2次元のxy-平面全体を動く.この意味で2変数の函 数は変数の空間が1次元から2次元になった拡張である.
n変数の函数は以下のように定義される(n≥2).一般のnで考えにくい人はn= 2(平面),n= 3(空間)を 思い浮かべれば十分だ11.
• まず,n次元空間の点を,xのように太字で書く:x= (x1, x2, . . . , xn).高校まではベクトルは矢印で書いた と思うが,大学(初年度)では太字で書くのだ.(もっと学年が進むと太字ですら書かず,普通の細字で書く).
• n次元空間はRnと表す:Rn:={x= (x1, x2, . . . , xn)x1, x2, . . . , xn∈R}
. そして
定義 4.1.1 Dをn次元空間Rnの部分集合とする:D⊂Rn.定義域がDであるn変数の実数値函数f とは,
Dの各点x= (x1, x2, . . . , xn)に対して「函数の値」f(x) =f(x1, x2, . . . , xn)を定める対応関係のことである.
さらに1次元の時に倣って
9ここで「ええ加減」と書いたが,高校での数学を馬鹿にしているのではない.特に昨今の厳しい状況の中でも数学の神髄を伝えようと努力 されている高校の先生方には深い尊敬の念を抱いている.また,物事は最初は大抵「ええ加減」であるが,この「ええ加減」な時代の精神は後々 まで重要である——大学の数学が難しく感じられる理由は,当初の精神を忘れて形式的にだけ厳密になろうとするからかもしれない.従って
「ええ加減」というのは決して悪い意味ではないことを強調しておく
10いつの時代からか,「絶対値はともかく場合分けして外せ」と受験数学では指導するようになったようだ.場合分けして外せば良い場合も多 いが,これでは「差の絶対値は距離」という見方が育ってくれないだろう.大学生になったらむやみに絶対値を外すのではなく,まずは「差の 絶対値は距離」という見方をしてみよう
11大学の数学ではn= 2,3などの例を省いて,いきなり一般のnの式が出てくる事がある.これは本来はn= 2,3を考えた結果として一般 のnが出ているのだが,そのすべてを書くのが面倒なので一般のnのみを書いていることが多い.もし一般のnに困難を覚えた場合はためら わずにn= 1,2,3くらいを具体的に書き下してみるべきである.この注意(一般のnの式は具体的に書き下す)は以下では繰り返さないが,
大学におけるすべての数学の講義において有効なはずだから労力を惜しまない事
• 点x= (x1, x2, . . . , xn)とy= (y1, y2, . . . , yn)の間の距離を
ρ(x,y) =∥x−y∥= (∑n
j=1
(xj−yj)2 )1/2
(4.1.2) により定義する.これはn= 2の時には普通の平面での距離,n= 3の時には3次元空間での距離である.
• ただし,いつでも上のようにx1, x2, x3などとしているとかえって書きにくいこともあるので,適宜x= (x, y),
z= (u, v)などとも書く.(だいたい,「『空間内の点』における函数の値」のような幾何学的視点を強調すると
きにはf(x)と書く.それに比べて,xの個々の成分の函数であることを強調したいときにはf(x, y)などと 書く.)
• なお,Rnの部分集合で開集合でかつ連結なものを領域(domain, region)という.(これが何かは簡単に説明 する.今はあんまり気にしないで良い.)
以上の準備の下に,これから函数の極限を考える.まずは1変数の場合を思い出そう.
定義 4.1.2 (1変数函数の極限) xの函数f(x)に対して lim
x→af(x) =αとは,以下が成り立つことをいう.
|x−a| →0 ならば f(x)−α→0 (4.1.3)
これは「xとaの距離がゼロになる極限では,f(x)とf(a)の距離もゼロになる」ということだ.これを素直に拡 張して,多変数函数の極限を定義すると以下のようになる.
定義 4.1.3 (多変数函数の極限) n変数函数f(x)に対して lim
x→af(x) =αとは,以下が成り立つことをいう.
∥x−a∥ →0 ならば f(x)−α→0 (4.1.4)
1変数の時の|x−a| →0 の条件が,∥x−a∥ →0 に変わっただけで,どちらも「2点の距離がゼロに行く」極限 を考えている.
注意:2変数以上が1変数と違うところ:∥x−a∥というのは2点aとxの距離であるから,これがゼロに行く行 き方は非常に多様である.1変数のときですら,x→aとはxがaの大きい方から近づくか,小さい方から近づく か,またはaをまたぐ様にして振動しながら近づくか,などの自由度があったが,2変数以上では比べ物にならな いほど大きな自由度を持ってしまったことには注意しておこう.(上の定義に従えば,xがaへどのような近づき方 をしてもf(x)が同じαという値に近づくときのみ,極限が存在するという.)
この極限の定義を使うと,n変数函数の連続性は以下のように定義される.
定義 4.1.4 (多変数函数の連続性の定義) n変数函数f(x)がx=aで連続とは,lim
x→af(x) =f(a)となること である.
要するに1変数の場合と形式的にはまったく同じだが,上で注意したようにx→aの中身(近づき方の自由度)が 非常に大きい事に注意しよう.
(慣れないうちはnこの変数をまとめてx,aのように書かれるとわかりにくいかもしれない.しかし,このよう な幾何的な見方が後々重要になってくるので,慣れてもらうつもりで敢えて書いてみた.)
4.2 偏微分
さて,いよいよ偏微分を考えよう.これからはn変数のそれぞれをあらわに書いた方が楽なので,f(x, y)のよう な書き方に戻る.また,一般のn変数のときには式がいたずらに複雑になるので,主に2変数の場合を考える.
定義 4.2.1 (偏微分係数) 2変数函数f(x, y)の点(a, b)における第1変数に関する偏微分係数とは極限 lim
h→0
f(a+h, b)−f(a, b)
h = lim
x→a
f(x, b)−f(a, b)
x−a (4.2.1)
のことである(もちろん,この極限が存在する場合のみ,この定義は有効).これは記号で∂f
∂x(a, b),f1(a, b), fx(a, b),D1f(a, b)などと書く.同様に,第2変数に関する偏微分係数とは
lim
h→0
f(a, b+h)−f(a, b)
h = lim
y→b
f(a, y)−f(a, b)
y−b (4.2.2)
のことであって,∂f
∂y(a, b),f2(a, b),fy(a, b),D2f(a, b)などと書く.
上のように各点で偏微分係数を計算すると,(x, y)の函数として∂f
∂x(x, y),∂f
∂y(x, y)が定まる.これを fの(x,yに関する)偏導函数と呼ぶ.
(記号の注意)括弧に2重の意味があるためになかなか避けにくいのだが,∂f
∂x(a, b)などというのは,点(a, b)にお ける∂f
∂xの値のつもりであって,∂f
∂xに(a, b)をかけたものではない.これは文脈から明らかとは思うが,式がどう
しても複雑になって混乱するといけないので,念のため.
以下の定義はよく使うので,ここで与えておく.
定義 4.2.2 (C1-級) 多変数函数f(x1, x2, . . . , xn)がその定義域(の一部)Dで
• f は各変数x1, x2, . . . , xnのそれぞれについて偏微分可能で
• かつ,そのn-この偏導函数がx= (x1, x2, . . . , xn)の連続函数である であるとき,f はDでC1-級であるという.
この後で「高階の偏導函数」を学ぶ.そこでは「n-階までの偏導函数がすべて存在してかつ連続」な函数をCn-級 の函数という(一変数函数の時と同様の定義).これらの定義では(考えている階数までの)すべての偏導函数の 存在と偏導関数の連続性を仮定していることに注意せよ.
偏微分の図形的な意味について,簡単に述べておこう.その定義からわかるように,xでの偏微分というのはy=b を一定にしてxだけを動かして微分,という事だ.これはz =f(x, y)のグラフをy=bの面で切った切り口を見 て,この切り口のグラフの変化率を考えていることになる.下図では太い実線がそれにあたる.一方,yでの偏微 分はx=aの面での断面を問題にしている.下図では太い点線のグラフを見ていることになる.
このようなイメージは非常に役に立つものだから,できるだけ持つように心がけよう.
x y
f(x, y)
a b
(記号についての注意)
f(x, y)の偏導函数 ∂f∂x の記号としては,∂f∂x Dxf D1f ∂xf ∂1f fx f1などが一般的である.時たまにfx′ というのも見かけるが,それほど一般的ではない.いずれにせよ,どの変数で微分するのかがわかるように何らか の明記を行うことが不可欠である.時々,f′ とだけ書いて ∂f∂x のつもりである人がいるから,念のために注意して おく.
問3.2.1. 次の函数をそれぞれの独立変数で偏微分せよ.
a) x2+y3, b) 2x2y c) sin(xy2) d) (x2+y+z3)2 e) f(x, y) =
0 (x, y) = (0,0)の時
2xy
x2+y2 (x, y)̸= (0,0)の時
4.2.1 偏導函数がゼロ,の函数は?
1変数の函数f の場合,導函数f′が恒等的にゼロというのは簡単だった —fは定数しかない.
ところが,多変数の函数では事情が異なる.例えば,2変数函数f(x, y)がfx(x, y)≡0を満たしていると,これ はfがxには依存しないと言ってるにすぎない.(1変数の時も「xに依存しない」ことは同じだけど,あの場合は xしか変数がなかったから,xに依存しないなら定数だった.)いまはyにはいくら依存してもよいのだから,この ようなf は
f(x, y) =g(y) gは任意の函数 (4.2.3)
と書ける.これは一般には定数函数ではない!
1変数に慣れすぎたあまり,「導函数がゼロなら定数」と思い込みがちだが,偏導函数に関してはこれは正しくな いから,注意しよう.
4.2.2 方向微分12
偏微分の持つ意味を明らかにするため,偏微分よりも広い,「方向微分」という概念を導入しよう.
2変数の函数f(x, y)を考える.その定義から,偏微分∂f
∂x や偏微分∂f
∂y とは,この函数のx-方向,y-方向での変 化率を表すと考えられる(各自,理由を納得せよ).
しかし,x, yの函数として,もっと他の方向での変化率を考えたくなることもあるだろう.例えば,点(a, b)での
まわりでf(x, y)がどのように変化しているかを見たい場合,x-方向,y-方向だけでは不十分で,(例えば)x=yの
直線にそってx, yが動いた時にどうなるか,なども見たい.
そこで,このような変化率をみるために,以下の定義を行う.
定義 4.2.3 (方向微分) 2変数函数f(x, y)と2次元の単位ベクトル(長さ1のベクトル)v = (vx, vy)が与え られたとせよ.極限
fv(a, b) := lim
h→0
f(a+hvx, b+hvy)−f(a, b)
h (4.2.4)
が存在するとき,これを,f(x, y)の点(a, b)におけるv方向の方向微係数(方向微分)という.同様に,n変 数函数f(x)とn次元の単位ベクトルvが与えられたとき,極限
fv(a) := lim
h→0
f(a+hv)−f(a)
h (4.2.5)
が存在するなら,これをf(x)の点aにおけるv方向の方向微係数という.この方向微分はDvf(a)とも書く.
いうまでもなく,f(a)のvの方向での変化率を表すのがこの方向微分Dvf(a)なのである.またこの定義に従う と,x1による偏微分f1(x)は正にx1-軸の向きを向いた単位ベクトル方向の方向微分,ということになる.
12この小節の内容は,偏微分に関する理解を深めるための補助的なものである.
さて,函数f(a)の各座標軸方向の偏微分が存在しても,それだけではいろいろな方向微分が存在するとは限ら ない.これを保証するのが次の小節で述べる「全微分可能性」である.
その前に少し例を挙げておこう.以下の函数f, g
f(0,0) = 0, (x, y)̸= (0,0) では f(x, y) = 2xy
x2+y2 (4.2.6)
g(0,0) = 0, (x, y)̸= (0,0) では g(x, y) = xy
√x2+y2 (4.2.7)
を考える.定義通り計算すると,これらの函数はすべての(x, y)で偏微分できて,
fx(0,0) =fy(0,0) = 0, (x, y)̸= (0,0) では fx(x, y) = 2y(y2−x2)
(x2+y2)2 , fy(x, y) =2x(x2−y2)
(x2+y2)2 (4.2.8) gx(0,0) =gy(0,0) = 0, (x, y)̸= (0,0) では gx(x, y) = y3
(x2+y2)3/2, gy(x, y) = x3
(x2+y2)3/2 (4.2.9) である(各自,確かめるんだよ!特に(0,0)での微係数の計算に注意).しかし,単位ベクトル(√1
2,√1
2)方向の方
向微分は,原点では存在しない(これも確かめる事).
4.2.3 全微分可能性13
偏微分のもつ意味について,もう少し考える.1変数函数f(x)の場合,x=aでの微係数f′(a)はy=f(x)のグ ラフの接線の傾きだった.でもグラフから(また平均値の定理から)明らかなように,これはまたx≈aでのf(x) の近似値をも与えてくれた:
f(x)≈f(a) +f′(a)×(x−a). (4.2.10)
我々は当然,偏微分にも同じ役割を担ってほしい.つまり,x=aの点の近傍でのf(x)のふるまいを,偏微分を 使って近似したい.
ところが(!)多変数函数ではこれは全く自明ではない.例えば先の(4.2.6),(4.2.7)の例を考えてみるとよい.
x=y= 0(原点)ではfの偏微分係数はともにゼロであるが,f(x, y)は原点付近でゼロではない.たとえばx=y
ではf(x, x) = 1(x̸= 0)であって,原点で連続ですらない!1変数函数の場合は「微分可能ならば連続」である
のに14,2変数函数ではこのような変態もありうるわけだ.
しかし,これは実は驚くにはあたらない.xでの偏微分というのはyを固定してxを動かした時の振る舞いしか見ない
から,x-軸に平行に動いたときの振る舞いは偏微分からわかるけども,x=yのようにx-軸に平行でない動きはxでの
偏微分だけでは見えない.yでの偏微分もy-軸に平行な動きしか教えてくれないから,座標軸に平行でない動きは偏微 分だけでは予測不可能,ということになる.そしてこのような動きを反映する概念として「方向微分」を導入した のだった.
この方向微分と密接に関連するのが以下に定義する「全微分可能性」という概念である.以下の定義などの中で はお約束通り,x= (x1, x2, . . . , xn),および∥x−a∥=
(∑n
j=1
(xj−aj)2 )1/2
である.
定義 4.2.4 (全微分可能性) ある領域D で定義された n 変数函数 f(x) と,D 内の1点 a がある.定数
A1, A2, . . . , An が存在して(「定数」という意味はxに依存しないということ.もちろん,aには依存して
よい),
f(x) =f(a) +
∑n j=1
Aj(xj−aj) + ˜f(x), with lim
x→a
f˜(x)
∥x−a∥ = 0 (4.2.11) が成り立つとき,f はx=aで全微分可能という.「全微分可能」を単に「微分可能」と言うこともある.
言うまでもなく,(4.2.6)や(4.2.7)のf, gは原点(0,0)では全微分可能でない.
13この小節の内容は「進んだ話題」なので余裕のない人はとばしても良いし,講義でもあまり触れない.
14前期に少しやった
上の定義のミソは(4.2.11)がaに近いすべてのx,つまりaへのあらゆる近づき方について要求されていること である.繰り返しになるが,偏微分ではx-軸,y-軸などの特定の方向からの近づきかたしか考えていない.このた め,あらゆる近づき方を考えている全微分可能性は,偏微分可能性よりも偉い(条件がきつい).まとめると,以 下の命題になる.
命題 4.2.5 ある領域Dで定義されたn変数函数f(x)と,D内の1点aがあって,f(x)がx=aで全微分可 能だとする.このとき,x=aにおいて
1. f(x)は連続であり,
2. f(x)はすべてのxjについて偏微分可能で,
(
(4.2.11)の Aj )
= ∂f
∂xj
(a) (j= 1,2, . . . , n), (4.2.12) 3. 更に,任意のn次元単位ベクトルv = (v1, v2, . . . , vn)方向の方向微分が存在して
Dvf(a) =
∑n j=1
Ajvj =
∑n j=1
∂f
∂xj
vj (4.2.13)
証明.
1. f が連続なのはほとんど自明だ.というのも,全微分可能の条件(4.2.11)はf(x)−f(a)がゼロに行くことを 保証しているから.
2. 偏微分についても簡単だ.なぜなら,x1で偏微分するときにはx2, x3, . . .はa2, a3, . . .に固定して考えるので,
(4.2.11)から
f(x1, a2, a3, . . . , an)−f(a1, a2, a3, . . . , an) x1−a1
=A1+ f˜(x) x1−a1
(4.2.14) のx1→a1の極限が∂x∂f
1を与えることになる.ところが,x2, x3, . . .をa2, a3, . . .に固定した場合は|x1−a1|=∥x−a∥ であるので,(4.2.11)から f˜(x)
x1−a1 がゼロに行く事が保証される.これはf のx1での偏微分係数が存在してA1で ある,と言っているのと同値である.x2以下での偏微分も同様である.
3. 方向微分についても,同様に議論する.つまり(4.2.11)から
f(a+hv)−f(a)
h =
∑n j=1
Ajhvj+ ˜f(a+hv)
h =
∑n j=1
Ajvj+
f˜(a+hv)
h (4.2.15)
が得られる.ここでx=a+hvと書くと
f˜(a+hv)
h = f(x)
∥x−a∥ (4.2.16)
であるため,(4.2.11)から,(4.2.15)の最後の項はh→0でゼロに行く.よって,(4.2.13)が証明される.
全微分可能の図形的意味
2変数の函数f(x, y)の全微分可能性(4.2.11)は図形的には以下のように解釈できる.まず,(4.2.11)の最後の項 がない場合を考えると,定数A, Bがあって
f(x, y) =f(a, b) +A(x−a) +B(y−b) (4.2.17) となっている.このとき,z=f(x, y)のグラフを考えると,これはz−c=A(x−a) +B(y−b)(ここでc=f(a, b) は定数)となって,空間内の点(a, b, c)を通る平面になっている(線型代数でやるはず).この平面をSとしよう.
実際には(4.2.11)には余分な項がついているわけで,z=f(x, y)のグラフは簡単な平面ではない.しかし,x−a
が小さい場合にはこの項はほとんど無視できるから,z=f(x, y)のグラフは,上の平面Sとほとんど同じと思って よい.上の平面Sはz=f(x, y)のグラフの,(a, b)における接平面になっている.
つまり,全微分可能の条件(4.2.11)は,z=f(x, y)のグラフが接平面を持つ,またはz =f(x, y)のグラフがそ の接平面で良く近似できる条件とも解釈できるのである.(4.2.6)や(4.2.7)のf, gでは,(0,0)でのグラフの接平面 が存在しないことを直感的に理解しよう.
全微分可能の十分条件
最後に,全微分可能の十分条件を一つ,与えておこう.
定理 4.2.6 (C1級なら全微分可能) ある領域Dで定義されたn変数函数f(x)がC1-級なら,つまりD内の各 点で1階の偏導函数がすべて存在して連続なら,f(x)はDの各点で全微分可能である.
証明. (この証明は高校までの知識で大体は理解できるが,跳ばしても構わない.)
D内の点(a, b)で全微分可能であることを証明する.式を見やすくするため,a:= (a, b),x= (x, y)と書く.全 微分可能であることをいうためには,差
f(x, y)−f(a, b) ={
f(x, y)−f(a, y)} +{
f(a, y)−f(a, b)}
(4.2.18) がx→aでどのように振る舞うか— (4.2.11)を満たすか—を調べなければならない.
さて,(4.2.18)の2つめの差では(x座標はaで共通だから)変数y についての1変数の平均値の定理をつかう と(f がC1級だと仮定しているので,平均値の定理は使える)
f(a, y)−f(a, b) =fy(a,y)˜ ×(y−b) (4.2.19) が得られる—ここでy˜はyとbの間の適当な数である.また,言うまでもなく,fy= ∂f∂y である.)一方,一つ目 の差は(yが共通だからxについての平均値の定理から)
f(x, y)−f(a, y) =fx(˜x, y)×(x−a) (4.2.20) となる(x˜はaとxの間の適当な数).これを(4.2.18)に代入して
f(x, y)−f(a, b) =fx(˜x, y)×(x−a) +fy(a,y)˜ ×(y−b) (4.2.21) を得る.
問題はfx(˜x, y), fy(a,y)˜ がどのような量かということであるが,今f がC1-級(つまり,fx, fyがともに連続函 数)だと仮定しているので,一般の(u, v)に対して
fx(u, v) =fx(a, b) +g(u, v), with lim
(u,v)→(a,b)g(u, v) = 0, (4.2.22) fy(u, v) =fy(a, b) +h(u, v), with lim
(u,v)→(a,b)h(u, v) = 0 (4.2.23) が成り立っている.ここで(4.2.22)をu= ˜x, v=yとして用いると,(x, y)→(a, b)の時には(˜x, y)→(a, b)でもあ るから,
fx(˜x, y) =fx(a, b) +g(˜x, y), with lim
(x,y)→(a,b)
g(˜x, y) = 0 (4.2.24)
が結論できる.同様に,
fy(a,y) =˜ fy(a, b) +h(a,y),˜ with lim
(x,y)→(a,b)h(a,y) = 0˜ (4.2.25) も結論できる.これを(4.2.21)に代入すると
f(x, y)−f(a, b) =fx(a, b)×(x−a) +fy(a, b)×(y−b) +g(˜x, y)×(x−a) +h(a,y)˜ ×(y−b) (4.2.26) が得られる.g, hは両方ともゼロに行くから,後ろの2つをf˜(x, y)とまとめると,
lim
(x,y)→(a,b)
f(x, y)˜
∥x−a∥ = 0 (ここで x= (x, y), a= (a, b) と書いた) (4.2.27)