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論文審査の結果の要旨
氏名:SUWANNO PIYAPONG
博士の専攻分野の名称:博士(工学)
論文題名:Study on Evaluation of Traffic Management Measures Using Macroscopic Fundamental Diagram under Flooding Situation (Macroscopic Fundamental Diagramを用いた洪水発生時の交通管理の在り方の評価に関 する研究)
審査委員: (主査) 教授 福 田 敦
(副査) 教授 小早川 悟 教授 下 川 澄 雄
近年,異常気象による都市洪水が世界各地で頻発しており,人命に関わる直接的な被害はもとより,
都市活動全般に対しても多大な影響を及ぼすようになっている.特に,道路交通に関しては,一度都市 洪水が発生し,部分的でも冠水が生じると,移動の制限や深刻な混雑が発生することにより,道路ネッ トワーク全体としてもパフォーマンスが著しく低下することになり都市活動を麻痺させる.この問題に 対応するためには.都市洪水の発生状況に対応して動的に交通を管理することで,戦略的に道路ネット ワーク全体としてのパフォーマンスの低下を抑える必要がある.しかし,そのためには都市洪水が道路 ネットワーク全体に与える影響を予測し,動的な交通の管理施策を適切に評価するための方法が必要に なる.
申請者は,以上のような問題意識にも基づいて,都市洪水が道路ネットワーク全体に与える影響を
Macroscopic Fundamental Diagramを用いて表現する方法を提案し,都市洪水が頻発するバンコクで運用さ
れているプローブデータに基づいて推定した.その上で,このモデルの結果を動的配分交通モデルに適 用して交通状態を動的にシミュレーションする方法を提案し,交通発生時に実施可能な政策が道路交通 ネットワークに与える影響を分析,評価する枠組みを示した.
これらの内容を本論文では8章で構成しており,各々の内容と評価は次の通りである.
「第1章 序論」では,本論文の背景を的確に整理し,本論文の社会的な意義を明確にしている.そ れに加えて,研究の目的を明確にするとともに論文の構成が述べられている.
「第2章 既存文献の整理と本論文の位置づけ」では,まず洪水の発生が交通状態に与える影響につ いての既存文献を整理した.洪水の発生が都市の交通状態に与える影響に関する文献は多く,洪水の発 生が都市交通に深刻な影響を与えることを示しているが,洪水発生時にどのような交通管理をすること が望ましいか検討している文献は少ないことを述べている.次に,動的に変化する交通状況に対応した 交通管理の対策について既存文献を整理しており,近年,MesoscopicあるいはMicroscopicのレベルで交 通シミュレーションを用いることで動的に分析する方法が有用となっていることを示している.また,
これらの方法で交通状況をシミュレーションするためには,自由速度や最大容量などのパラメータを求 める必要があり,そのパラメータはMacroscopic Fundamental Diagramを用いて推定することが有効であ ることを確認している.最後に,以上の既存文献の整理に基づいて,本論文の位置づけを示している.
「第3章 バンコクにおける洪水問題の分析」では,バンコクにおける都市洪水の発生状況とそれに よって生ずる交通問題を既存研究や各種の統計データに基づいて把握している.具体的には,バンコク における雨量観測地点における長期間の降雨データの分布状況と洪水発生地点状況との関連を分析し,
バンコク市内における洪水発生時の実態を明らかにした.また,バンコクは低平地に位置しており,排 水システムの整備が不十分であることから,豪雨時に浸水深が急激に増加し,道路交通へ与える影響が 深刻となり,特に,スクンビット地区における洪水発生の影響が顕著であることを確認している.
「第4章 Macroscopic Fundamental Diagramに基づく交通状態の推定」では,Macroscopic Fundamental
Diagram によって地域レベルで交通状態を推定する考え方を詳述した上で,Macroscopic Fundamental
Diagramのパラメータ推定の考え方を述べている.本論文では,プローブデータから時間距離線図を作成
し,その傾きを解析して対象地域における交通状態を示すMacroscopic Fundamental Diagramを描き,そ の回帰係数からパラメータを推定する方法を提案している.具体的には,バンコクで運用された1年間
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のプローブデータを洪水発生状況に応じて区分して, Macroscopic Fundamental Diagramを描き,密度-
交通流量および密度-速度の回帰式を求め,パラメータを推定している.最終的に,推計結果を整理し,
標準的な条件下と 4 つの異なる洪水時の冠水状態に応じて,交通流パラメータとして自由流速度,最大 交通流率,ジャム密度を求めている.
プローブデータを使うことで,洪水発生時の冠水状態に応じてMacroscopic Fundamental Diagramのパ ラメータが推定できることを示したことは,今後の研究に大変有益であり高く評価できる.
「第5章 Mesoscopic 交通モデルの構築」では,洪水発生時の動的な交通管理を評価するために,あ る程度の範囲で, かつ詳細に交通状況を分析する必要があり,両者の条件に対応できるMesoscopic 交通 モデルを適用することが望ましいことを示し,モデルの構築方法を提案している.モデルの適用にあた っては,対象地域全体の交通需要を把握するためにMacroscopic交通需要推計モデルのOD表を路側観測 交通量と整合するように調整した上で,対象地域の範囲で切り出し,さらに出発時刻別に分割すること で,時間帯別 OD 表を作成したことを述べている.その上で,対象地域における交通状態をシミュレー ションするためにMesoscopic 交通モデルを構築し,作成した時間帯別OD表を用いてシミュレーション を行っている.さらに,この対象地域内における観測交通量および速度と整合するように時間帯別 OD 表を調整し,その上でモデルの推計精度の検証を行い,十分な適用性があることを示している.
「第6章 洪水発生が交通状態に与える影響分析」では,ピーク時間帯における洪水の発生状態と交 通需要の変動の組合せから15のシナリオを設定し,このシナリオにしたがって構築したMesoscopic交通 モデルにMacroscopic Fundamental Diagramから特定したパラメータを適用し,シミュレーションを行っ た.洪水が発生していない標準的な条件下と洪水発生時の異なる冠水状態における交通状態を比較する ことで,対象地域の道路ネットワークのパフォーマンスが洪水発生時にどの程度低下するかを評価した.
具体的には,道路ネットワークのパフォーマンスを評価する基準として,総走行距離および総走行時間 を採用し,標準的な条件下と洪水発生時の変化率を弾力性として求めて評価を行った.推計の結果,何 れの交通需要の条件においても,浸水深が20~30 cmに増加した場合,標準的な条件下と比較して総走 行時間が60%以上増加し,総走行距離が20%減少することを示している.
「第7章 洪水発生時の交通管理の在り方」では,洪水発生時における交通管理対策として,信号シ ステムの最適化および一般道路の交通需要の高速道路上への誘導を想定し,構築したMesoscopic 交通モ デルを使ってシミュレーションを行い,道路のリンクパフォーマンスの評価を行った.評価にあたって は,交通管理対策の未実施時と実施時のシナリオにおける交通状態の推計結果を比較することで,交通 管理対策の実施が道路ネットワークのパフォーマンスへどのような効果を与えるか把握している.信号 システムの最適化では,Microscopic交通シミュレーション上で,遺伝的アルゴリズムを用いて検討を行 い,交通量に基づいて最適な信号システムを選定した.その結果をMesoscopic交通モデルに適用して,
対策の実施効果を把握している.一方で,一般道路の交通需要の高速道路上への誘導では,洪水発生時 に道路閉塞が発生する一般道路から通行料金を無料とすることで高架の高速道路上に交通需要を誘導し,
一般道側の道路ネットワークのパフォーマンスを向上させることを想定している.その結果,最も浸水 深が大きい20~30cmの場合には,信号システムの最適化および一般道路の交通需要の高速道路上への誘 導を行うことで,それぞれ総走行距離が 16.7%,14.0%増加するが,総走行時間は 15.4%,6.7%減少す る結果を得て,道路ネットワークのパフォーマンスが向上することを確認している.これらの結果から,
信号システムの最適化の方が,一般道路の交通需要の高速道路上への誘導よりも,道路ネットワークの パフォーマンスに改善に寄与することを明らかにしている.以上より,本論文で提案する方法が,洪水 発生時における動的交通管理を評価する上で有効であることを示すことができた.
「第8章 結論」では,本論文の成果と今後の展望について整理し,本論文の結論とした.本論文で は,アジアの都市を中心に頻発する都市における洪水の発生とそれによる交通状態への影響を対象とし て,プローブデータを解析して交通発生がない標準的な条件下および洪水発生下における対象地域の交 通状態をMacroscopic Fundamental Diagramで表現する方法を提案し,そのパラメータを推定することで 洪水発生が交通状態に与える影響について明らかにした.さらに,得られたパラメータを用いて
Mesoscopic 交通モデルに適用した上で,洪水の発生状況と交通需要の変動を組み合わせたシナリオおよ
び洪水発生時の動的な交通管理対策の実施効果を明らかにし,その対策の有効性を評価している.本論 文で用いたプローブデータは多くの都市で提供が利用可能であり,本論文で提案した方法を適用するこ とは可能であり,この方法を使うことで,洪水の発生に苦しむ都市を対象に,交通管理の在り方を評価
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することが可能となり,大変有効である点が大きく評価できる.
本研究で提案した都市洪水発生時における交通管理の在り方の評価の方法は,都市洪水が頻発してい るアジアの都市における都市洪水の発生時に動的に交通管理をする方法を検討する上で有用な枠組みを 示すもので,今後の対策を検討する上で大変重要な分析を可能とするものである.
このことは,本論文の提出者が自立して研究活動を行い,又はその他の高度な専門的業務に従事する に必要な能力及びその基礎となる豊かな学識を有していることを示すものである.
よって本論文は,博士(工学)の学位を授与されるに値するものと認められる.
以 上
令和 3年 2月18日