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(1)

韻律理論におけるリズム規則について

著者 田端 敏幸

雑誌名 静岡大学教養部研究報告. 人文・社会科学篇

17

1

ページ 148‑139

発行年 1981‑09‑01

出版者 静岡大学教養部

URL http://doi.org/10.14945/00008499

(2)

韻律理論におけるリズム規則について

O. はしがき

 英語の強勢移動現象(特に句の場合)を説明するための仕組みとして,

韻律理論のわく組みでは,グリッド(韻律格子)を用いる方法と,韻律樹       (1)

状図のみを用いる方法とが提案されている。

 本稿では,リズムの衝突(clash)という概念を線形的にとらえている グリッド方式の不備を指摘し,樹状図のみを用いるリズム規則の方が原理 的により優れていることを論証したい。

1. 強勢の移動現象

英語には,次に示すようなリズム現象がある。

   ヨ   エ

(1}   thi】rteeユユth

  3      ユ

  achromatic

         エ   Te工1】:issee    2    ユ   good鰯玉◎◎kin,g

 2  4     エ

thirtee孤、th lesson

       4   ユ

achromatic le且s

 2      4  i

Te舩essee air

2    3       ユ

go◎d・100king lifeguard

 (1>の左のコラムに示されている強勢形は,各語が単独で発音された蒔 のものである。それに対応する右側のコラムは,問題となっている語を用 いて名詞旬を形成した場合の強勢形を示している。すなわち,名詞句の主 要部に先行する語の相対的プロミネンスが,左と右とで,逆転しているわ

けである。

 ただし,上で述べた現象は義務的なものではない。ゆっくりとしたテン ポで発音される場合には,必らずしも右側のコラムに示されているような

リズムになるわけではない(このことについては2.2以降で言及する〕。

(148)89

(3)

(1)で見たような現象は,英語以外の言語でも見うけられる。次の(2)はド イツ語の例であり,㈲は古典ヘブライ語の例である。

くの  2  2

②halbt◎t

  ま     

  sichtbaτ 繭3)qa毒

     グ   y6rede一

   2  ヨ     エ

der halbt◎te Ma㎜,

ユ  ヨ     

Uヱisichtbaur

ノ        ノ

qar議1澄yla

ノ      ノ

y6r6dξ…b6】r

 以上の例から,直感的に,強勢雷語では強勢の配列に対して,何らかの 制約があるということがわかる。話を英語に限定すると,目下のところ韻 律理論では(1)で見たようなリズム現象を説明するのに,二つの方法が提案 されている。そのうちの・・…一つはLiberman and Prince(1977),以下 LPと略記,によるグリッド方式であり,もう一つはグリッドのような仕

組みを用いないKiparsky(ユ977,1979)のリズム規則である。後者のリ ズム規則をK方式と呼ぶことにする。       訓、

2, リズム規則

2,1 グリッド方式

 LPのリズム規則は,概略的に言えば,グリッドという装置でリズムの 衝突個所を見い出し,次に,この部分に強弱反転規則(iambic reversal)

を適用して,適切な出力を韻律樹状図上に表記するという二段構え方式で ある。     ・  TL

 まず具体例に即して,グリッドがどのように組み立てられるかを見るこ とにしよう。

《4}

   *9

6  7

1 234

a ehfOmatic

11

*10

8  5

1ens

レベル レベル レベル レベル

オ瓶32稽1

90(147)

(4)

 ④ において,レベル1は音節,レベル2は強勢(副強勢を含む),レ ベル3は語の主強勢,レベル4は名詞句の核強勢の位置をそれぞれ示して いる。ここで,レベル3における*9*10がリズムの衝突としてマークされ る。なお,こζで言う衝突とは,・あるレベルで隣i接している要素(この場 合はレベル3の9と10)の間に,すぐ下のレベルで,要素が介在していな

いような状態のことである。したがってもしグリッドが次に示す㈲のよう な形状を示している場合には,どのレベルでも衝突は存在しない嶺とにな

る。

{5>    11

  9   10

  6 7 8

  12345

レベル  4 レベル  3 レベル  2 レベル  ユ

この場合,9と10の間に,レベル2で,7という要素が介在しているから である。       t・

 以上のような方法でリズムの衝突をマークしたあとで,⑥に示す,強弱 反転規則を適用することになる。㈲に⑥を適用した結果が⑦である。

  ⑥

     〈→〈

     Wl S    S  W

(4》

   *9 6   7

1 2 34

11

*IC→9

8   6  7

5   1 234

achromat1c lens

1  1  護 1  重

   SWS

   >

 W  S・

 〉   

  W

:R、

U1085

achro瓢atic le]口.S

鼎vw

R S

R Root

(146)9ノ

(5)

2。2樹状図によるリズム規則(K方式)

 LPのグリッド方式に対して, Kiparskyは,韻律樹状図のみを用いて,

英語のリズム規則を次のように定式化している。

く5)

(8)     S

  

 なお,本稿では旬レベルのリズム規則のみを考えているが,Kiparsky は⑧のリズム規則を語および句の両方に用いている。語の場含としては,

次のような例があげられる。

(6)

(9)

/へ\   /へ\

W   S → S   W

W S  W S

〈  八

 expect]atio】n〕

ノ\  /\

S W   S W expect ation

 ここで注意すべきは,このリズム規則が語レベルでは義務的,旬レベル では随意的に適用されるということである〔この問題は2・3で再響述べ

る〕。

 K方式のリズム規則は,2ほでとりあげた例に対して,次のような結果

をもたらす。

⑩a.

≒⇒s人W

    /\〈

    S WSW S

       a     achronユa tic lens

⑩ で示されているように,K方式のリズム規則は(10a)の線で囲ん

92(145)

(6)

だ部分の構造記述をもとにして,(10b)を導く。この方法では,したがっ て,グリッドのような仕組みは不要ということになる。

 さて,これまでの例は,すべて,グリッド方式でも方式でもK同じ結果 が得られるようなものであった。したがって,両者の優劣を決定するため には,異なる結果が生じる場合があるか,また,もしあるとすれば,なぜ 異なる結:果が生じるのか,を考えてみなければならない。

2。3グリッドの限界

 ここで,もう一度1.1に立ちもどってみると,グリッドは,リズムの衝 突が必らずしも音節レベルで生じていなくてもいいという点に着目したも のであった。言い換えれば,グリッドは上位レベルでの衝突を見い出すた めの装置であると解釈することができる。

 以上のようなことを念頭において,次に1⑳の例を考えてみよう。

(tS) a.problematic dom,ination

  b.weU・・balanced argumentation   c.9◎od400ki篇g kangaroo

(10 にあげた名詞旬に対して,LP方式では,(11a)を例にとると,次 のようなグリッドを組み立てることになるだろう。

(12>

   13

9  10

1 234

  15   14 11 12

5678

レベル4 レベル3 レベル2

翻vs

レベル1

㈱ からわかるように,LPのグリッドによれば,リズムの衝突はどの

(144)9タ

(7)

       く7)

レベルにも生じていないはずである。

 しかし,実際の発話では,problematicのpx◎の部分の方が,  maの 部分よりも強くなるような場合がしばしば生じる。しかも,その傾向は,

早口で言えば言うほど大きくなるのである。このことは次のような例から も裏づけられる。いずれも[2211の方はゆっくりとしたテンポで話された 場合の音形であり,[231]は早いテンポで詣された場合の音形である。

⑱ a.IIδoked ftp the 6nswer.[221]

  b.Ii60ked hp the蝕swer。[231ヨ

  c。 cδ鷺text嶺s{きnsitive   r丘1e[221]

  d, c6n,text・sさn,sitive rkle  [231ユ

 LPのグリッドによれば,㈱にはリズムの衡突がないのであるから,

problematic do ninationには強弱反転規則が適用されないことになる。

しかし,すでに見たように,1どれは事実に反する。したがって,α拐ζあげ

たような例は,LPのグリッドにとって,文字通りproblematicという

ことになるであろう。

 次に,同じ例に関して,K方式のリズム規則がど¢ような予測をするか を考えてみよう。

  (14)

     1

v

S W S W S W S W

韻脚

音節        l

       pro ble ma tic  do mi na tion

 K方式では,〈14)の線で囲んである部分がリズム規則の構造記述を満たし ている。したがって,⑮のような韻律構造が派生されることになる。

  S   W

       W   S

Pコ〔o ble ma   tic

      dO mi na t三◎ロ

94(ユ43)

(8)

 LPのグリッドが・なぜ⑫(繍㈹)の場合に衝突を予測できないかは,そ の線形的な性質を考えると,明らかであろう。すなわち,グリッドは,音 節レベル,韻脚レベルにおける衝突を予測する能力しか備えていないので ある・⑯を見れば明らかであるが,韻脚レベルは[WSWS]という形状 であり,たしかに,衝突は存在していない。そもそも,衝突という概念を 線形的な「隣接jと同一視すれば,このような結果になるのは当然であ

る。

したがって,衝突をLPのように線形的にとらえたのでは英語のリズム現 象を適切に記述・説明することができないということになろう。この点 で,グリッド方式はK方式に比べて,説明力が著しく劣ると言わざるを得

ない。

 竹沢(To appear)は,リズム規則の適用に関し, r音節レベルでの衝 突霧声が,韻脚レベルでの衝突より罪が重い」という説明原理を提案して

いる・?まり上位レベルでの衝突の方が,リズム規則の適用に関し,随意 性が大きくなるということになるわけである。この考えに従えば,リズム 規剣が,語レベルでは義務的,そして句レベルでは随意的に適用されると いうことも説明されるであろう。

 なお,ついでながら,韻脚レベルで衡突がある場合(16a)と,ない場 合(16も)との間に,リズム規則の適用度に関し明確なちがいはないよう である。いずれも,早いテンポで話されれば,リズム規則は同じ程度に適 用されるようである。

⑯a,

S W S W

A茄phl。 rlc

韻脚

 S

S W W

r乙fさrdn ce

(142)95

(9)

b。

b.

● W

W   S         S W S W』 S W

         §  舞  l  l    l  l        pr◎ ble ma  tic   do mi

3.結 論

 以上のことから,次のような結論を得る。

S Wl  j

na tlon

韻脚

①グリッドで得られる情報は,すべて,韻律樹状図にくみこまれてい

 る。

②リズムの衝突は,線形的にとらえるべきではない。

③リズム規則はKiparskyの定武化の方が原理的に優れており,グリ  ッドは不要である。

ユ981年4月9日煙艶稿

       注1

1.グリッド方式はLiberman aad Prince(1977),樹状図による方式はKipa・

 rsky(1977,1979)によってそれぞれ提案された。なおSchane(1979)もリズ  ム規則を論じているが,考え方がやや異なるので,ここでは触れないことにす

 る。

2。 Kiparsky(1966,94)

3・B1繊(1976・19);また,ヘブライ語の場合には,強い強勢が隣接していても,

 移動現象が見られない場合がある。たとえば,先行語の語末音節の性質も関与し ているのである[McCarthy,1979,146−165)]。

  1蚕§血d    §ゑyid   (to hunt  game)

      ノ   ?a菟宝b     l蕊k   (Iar ender to you)

4・LPの強弱反転規則には,句の核強勢を移動させないための条件が課せられて  いる。したがって,下の図で線で囲んである部分には当該規剛が適用されないの

96(141)

(10)

である。

   achromatic lens

5。 この規則を全く機械的に適用すれば,たとえば,次のような場合に不都合が生

 じる。

W

  WSW SW SSW SW

      馨 1    謹  謹  s   l  毒    置  t  l

      Monta na

      cowb◎y

 Mon ta na cowboy

したがって,リズム規則の適用には,いくつかの制約が課せられているのであ るが,ここでは,それには触れないことにする。詳しくは原:1(他)(1980)

の第4節を参照されたい。

6、 Kiparsky (1979,426)

7。本文働の他の例に対しても同様の結果が生じる。

8. Sehmerling(1976,98)

9.原口(他) (1980)の第4章を参照されたい。

参 考文献

Blau, J.(1976) ノ4 Grammar o/ Bibli《}al Hebrew, Otto Harrassowitz,

原口庄輔(他)

Kiparsky, P.(1966),, Ueber den Deu亡schen Akzent, in 5 tudia Gram・

    matica 7. Akademie Verlag, Ber1in.

    .(1977) The Rhythmic Structure of English Verse, L伽g痂ε躍0     1neuir夕8。189−247.

    .(1979) Metrical Structure Assignm、eut is Cyclic, Linguistic

      (140)97 Wiesbaden.

   (1980)r韻律理論の眺望」r英語学』23.2−39.

(11)

      Inqttirs 10. 421‑44!.

Liberman,M. and A. Prince(1977)" On Stress and Linguistic Rhythm, '       Lingzeistic inquiry 8. 249‑‑336.

McCarthy,J.J, (1979) Fermal Preblems in Semitic Phonology and       MerPhelogy. Doctoral dis$ertation, MIT.

Schane, S.A.(1979) "The RhYthmie Nature ef English Werd Accentua‑

      tion," Language 55. 559‑602,

Schmerling, S. E (1976) AsPects of English Sentence Stress, University       ef Texas Pres$, AustiR and London.

ct

98 (139)

参照

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