序 文
Vibrio cholerae O1（コレラ菌；V.c O1）は，1999
年 4 月より施行された「感染症の予防及び感染症 の患者に対する医療に関する法律（感染症法） 」 に より，2 類感染症に位置付けられているコレラの 原因菌である．一方 V. cholerae non-O1（V.c non- O1） は， V.c O1 とは菌体抗原型が異なる，即ち V.c O1 の抗血清に凝集しない O1 以外の O 抗原群を
我が国で分離された Vibrio cholerae O1 及び non-O1 における薬剤耐性菌の出現状況
1）東京都立衛生研究所，2）杏林大学保健学部
松下 秀
1）河村 真保
1）小西 典子
1）甲斐 明美
1）加藤 玲
1）尾形 和恵
1）伊藤 忠彦
1）矢野 一好
1）森田 耕司
2）渡辺 登
2）金森 政人
2）工藤 泰雄
2）（平成 14 年 12 月 11 日受付）
（平成 14 年 12 月 25 日受理）
我が国において 1981〜2001 年に，主として海外旅行帰国者の下痢症例より分離されたVibrio cholerae O1（コレラ菌；V.cO1）271 株，及びV. choleraenon-O1（NAG ビブリオ；V.cnon-O1）401 株における 薬剤耐性菌出現状況について検討した．
供試薬剤は CP，TC，SM，KM，ABPC，ST，NA 及び NFLX の 8 種である．更に，NA 耐性菌につ いては，フルオロキノロン系薬剤（FQ）に対する MIC を測定した．
5 年間隔でみたV.cO1 における耐性菌出現頻度は，1981〜1985 年は 1.2％，1986〜1990 年 15.8％，
1991〜1995 年 53.5％，1996〜2001 年 70.8％ であり，近年急激に上昇してきている．全体では 34.7％ が耐 性菌で，耐性パタ−ンは 6 種認められたが，SM 単剤耐性が 75.5％ を占めていた．V.cnon-O1 では，
1981〜1985 年は 9.4％，1986〜1990 年 18.5％，1991〜1995 年 22.0％，1996〜2001 年 20.7％ であった．全 体では 15.7％ が耐性菌で，耐性パタ−ンは 21 種認められたが，SM 単剤耐性（25.4％）と ABPC 単剤耐 性（25.4％）が多かった．
TC を含む多剤耐性菌は，V.cO1 で 1992 年以降 10 株（3.7％），V.cnon-O1 で 1988 年以降 10 株（2.5％）
検出された．これら 20 株中 13 株はタイ旅行帰国者からの分離株であった．NA 耐性菌は，V. cO1 で 1997 年に 1 株（0.4％），V.cnon-O1 で 1993 年以降 6 株（1.5％）検出され， いずれも NA には高度耐性で，
検討した FQ には低感受性であった．これら 7 株中V.cO1 を含む 4 株はインド旅行帰国者からの分離株 であった．
〔感染症誌 77：195〜202，2003〕
要 旨
別刷請求先：（〒190―0023）東京都立川市柴崎町 3―
16―25
東京都立衛生研究所多摩支所
松下 秀
Key words： Vibrio choleraeO1,Vibrio choleraenon-O1, drug resistance, tetracycline, fluoroquinolone
持つ V.c 全体の総称であり，non-agglutinable Vi- brio（NAG ビブリオ）とも呼称され，我が国では 食中毒起因菌として取り扱われている．我が国に おける両菌による症例は，熱帯・亜熱帯のコレラ 常在地域への旅行者による輸入事例が主体である が，近年では海外とは直接関連の認められない国 内事例もかなり報告されている
1）〜4）．
従来より V.c O1 及び V.c non-O1 に関しては，
薬剤耐性菌の出現頻度は低いとされてきた
5）6）．し かし，近年その薬剤耐性化，特にコレラに対する 化学療法剤として汎用されてきたテトラサイクリ ン（TC）耐性を含む多剤耐性菌の増加，及びニュ
−キノロン剤と呼ばれるフルオロキノロン系薬剤
（FQ）低感受性菌の出現が問題となってきてい る
7）〜11）．
今回我々は， 我が国で 1981〜2001 年に主として 海外旅行帰国者の下痢症例より分離された V.c O 1， 及び V.c non-O1 における薬剤耐性菌出現状況 について検討したので報告する．
材料と方法
1．供試菌株
我が国において 1981〜2001 年に， ヒト下痢症例 から分離された 271 株の V.c O1（全株エルト−ル 生物型） ，及び 401 株の V.c non-O1，合計 672 株に ついて検討した．
FQ に対する最小発育阻止濃度（Minimum in- hibitory concentration；MIC） 測定試験には，検出 されたナリジクス酸（NA）耐性菌に加えて，無作 為 に 選 択 し た 12 株 の NA 感 受 性 V.c O1 を 比 較 対照のために用いた．
2．薬剤耐性試験
米国臨床検査標準委員会（NCCLS）の抗菌薬 ディスク感受性試験実施基準
12）に基づき，市販の 感受性試験用ディスク （センシディスク；BBL） を 用いて実施した．供試薬剤は，クロラムフェニコ
−ル（CP；30 µ g），TC（30 µ g），ストレプトマイ シン（SM；10 µ g），カナマイシン（KM；30 µ g），
アンピシリン（ABPC；10 µ g），スルファメトキサ ゾ−ル・ト リ メ ト プ リ ム 合 剤（ST；23.25＋1.25 µ g），NA（30 µ g）及びノルフロキサシン（NFLX；
10µg） の 8 種である．なお，CP 及び TC において
Intermediate（耐性と感受性の中間）と判定された 場合であるが，これまでに報告された MIC による 測定結果の解析では耐性と判定される
6）13）ことよ り，耐性として取り扱った．
キノロン剤 NA 耐性菌は，ニュ−キノロン剤と 呼ばれる FQ にも交差耐性を示す
14）〜16）ことより，
検出された NA 耐性菌と対照の NA 感受性 12 株 については NA，FQ である NFLX，オフロキサシ ン（OFLX），シプロフロキサシン（CPFX），レボ フ ロ キ サ シ ン（LVFX） ，ト ス フ ロ キ サ シ ン
（TFLX）及びスパルフロキサシン（SPFX）に対す る MIC を，NCCLS の標準法
17）に準拠した微量液 体希釈法で測定した．
成 績
1．薬剤耐性菌出現状況
1981 年から 5 年間隔（1996〜2001 年は 6 年間）
でみた V.c O1 における耐性菌出現状況を，検出耐 性菌の耐性パタ−ンと合わせて，Table 1 に示し た．耐性菌出現頻度は，1981〜1985 年は 1.2％，
1986〜1990 年は 15.8％， 1991〜1995 年は 53.5％，
1996〜2001 年は 70.8％ であり，近年急激に上昇し てきている．全体では 271 株中 94 株（34.7％）が 耐性菌あった．これら耐性菌の耐性パタ−ンは 6 種 認 め ら れ，そ の う ち SM 単 剤 耐 性 が 71 株
（75.5％）を占めていた．その他，CP・TC・SM・
ST の 4 剤 耐 性 が 10 株（10.6％） ，CP・SM・ST の 3 剤耐性が 8 株 （8.5％） ，SM・ST の 2 剤耐性が 3 株（3.2％） ，CP・SM・ST・NA の 4 剤 耐 性 と ABPC 単剤耐性がそれぞれ 1 株（1.1％）認められ ている．全体での薬剤別耐性菌出現頻度は，SM
（34.3％），ST（8.1％），CP（7.0％），TC（3.7％），
ABPC（0.4％） ，NA（0.4％）の 順 で 高 く，KM と NFLX 耐性株は認められなかった．
V.c O1 と同様に V.c non-O1 における耐性菌出
現状況と，検出耐性菌の耐性パタ−ンを Table 2
に示した．耐性菌出現頻度は，1981〜1985 年は
9.4％，1986〜1990 年 は 18.5％，1991〜1995 年 は
22.0％，1996〜2001 年は 20.7％ であった．近年増
加傾向にあるが， V.c O1 のような急増は認められ
ていない．全体では 401 株中 63 株（15.7％）が耐
性菌であった．これら耐性菌の耐性パタ−ンは 21
Table 1 Drug resistance of V. cholerae O1 strains isolated from diarrheal cases in Japan（1981 〜 2001）
Total 1996 〜 01
1991 〜 95 1986 〜 90
1981 〜 85 Year of isolation
271 48
99 38
86 No. of isolates
94 34
53 6
1 No. of resistants
（34.7）
（70.8）
（53.5）
（15.8）
（1.2）
（%）
Resistance Pattern
10 7
3 CP・TC・SM・ST
1 1
CP・SM・ST・NA
8 1
3 4
CP・SM・ST
3 1
2 SM・ST
71 24
47 SM
1 1
ABPC
Drugs tested: CP, TC, SM, KM, ABPC, ST, NA, and NFLX
Table 2 Drug resistance of V. cholerae non-O1 strains isolated from diarrheal cases in Japan
（1981 〜 2001）
Total 1996 〜 01
1991 〜 95 1986 〜 90
1981 〜 85 Year of isolation
401 29
82 130
160 No. of isolates
63 6
18 24
15 No. of resistants
（15.7）
（20.7）
（22.0）
（18.5）
（9.4）
（%）
Resistance Pattern
1 1
CP・TC・SM・ABPC・ST・NA
3 1
2 CP・TC・SM・ABPC・ST
2 1
1 CP・TC・SM・ST
1 1
CP・SM・ABPC・ST
3 1
2 CP・SM・ST・NA
1 1
CP・SM・ABPC
1 1
CP・SM・ST
1 1
CP・KM・ABPC
1 1
CP・ABPC・NA
3 3
TC・SM・ST
1 1
SM・ABPC・ST
1 1
CP・ST
1 1
TC・ST
3 2
1 SM・ABPC
1 1
SM・ST
1 1
SM・NA
1 1
KM・ST
1 1
TC
16 1
4 5
6 SM
16 4
5 7
ABPC
4 2
2 ST
Drugs tested: CP, TC, SM, KM, ABPC, ST, NA, and NFLX
種と多かったが，SM 単剤耐性と ABPC 単剤耐性 が い ず れ も 16 株 と 最 も 多 く，両 者 で 耐 性 菌 の 50.8％ と過半数を占めていた．3 剤以上の多剤耐 性は 11 種 18 株 （19.1％） ，また V.c O1 では認めら
れ て い な い 5 剤 耐 性（CP・TC・SM・ABPC・
ST）が 3 株，6 剤耐性（CP・TC・SM・ABPC・
ST・NA） が 1 株認められた．全体における薬剤別
耐性菌出現頻度は，SM（9.2％），ABPC（7.0％），
Table 3 Multi-drug, tetracycline resistant V. cholerae strains isolated from diarrheal cases in Japan（1981 〜 2001）
Country visited No. of strain
Resistance pattern Serogroup
Year of isolation
Thailand 1
CP・TC・SM・ABPC・ST non-O1
1988
Thailand 1
TC・SM・ST non-O1
1988
Thailand 1
CP・TC・SM・ ABPC・ST non-O1
1989
Thailand 1
TC・SM・ST non-O1
1989
Philippins 1
TC・SM・ST non-O1
1990
Thailand 1
CP・TC・SM・ST non-O1
1990
Philippins 1
TC・ST non-O1
1991
India 1
CP・TC・SM・ST O1, Ogawa
1992
Turkey 1
CP・TC・SM・ST O1, Ogawa
1994
Thailand 1
CP・TC・SM・ST non-O1
1994
Middle East 1
CP・TC・SM・ST O1, Ogawa
1995
Thailand 1
CP・TC・SM・ABPC・ST・NA non-O1
1995
Iran（1）
Thailand（1）
2 CP・TC・SM・ST
O1, Ogawa 1997
Thailand（3）
China（1）
4 CP・TC・SM・ST
O1, Ogawa 1998
Thailand 1
CP・TC・SM・ST O1, Ogawa
1999
Thailand 1
CP・TC・SM・ABPC・ST non-O1
1999
Drugs tested: CP, TC, SM, KM, ABPC, ST, NA, and NFLX
Table 4 MICs distribution of nalidixic-acid resis- tant and sensitive V. cholerae strains to fluoro- quinolones
NA sensitive 12 strains MIC（µg/ml）
NA resistant 7 strains MIC（µg/ml）
Drug
0.25 〜 1.0
＞ 256 NA
0.004 〜 0.016 0.5 〜 4.0
NFLX
0.004 〜 0.016 0.5 〜 2.0
OFLX
≦ 0.004 0.25 〜 2.0
CPFX
≦ 0.004 0.25 〜 1.0
LVFX
＜ 0.004 〜 0.008 0.25 〜 2.0
TFLX
＜ 0.004 〜 0.008 0.125 〜 1.0
SPFX
ST （5.7％） ，CP （3.9％） ，TC （2.7％） ，NA （1.5％） ， KM（0.5％）の順で高く，NFLX 耐性株は認められ なかった．
2．テトラサイクリンを含む多剤耐性菌 検出された TC を含む多剤耐性菌の分離年，耐 性パタ−ン等の概要を Table 3 に示した．V.c O1 では 1992 年以降 10 株（3.7％）検出された．これ らはいずれも血清型小川で，CP・TC・SM・ST の 4 剤耐性であった．検出された患者の旅行先は タイ（5 件），中近東（3 件），インド（1 件）及び
中国（1 件）であった．V.c non-O1 では 1988 年以 降 10 株（2.5％）検出され，その耐性パタ−ンは CP・TC・SM・ABPC・ST・NA（1 株），CP・
TC・SM・ABPC・ST （3 株） ，CP・TC・SM・ST
（2 株） ， TC・SM・ST （3 株） ， TC・ST （1 株） で，
旅行先はタイ（8 件）及びフィリピン（2 件）であっ た．
3．ナリジクス酸高度耐性でフルオロキノロン 系薬剤低感受性菌
Table 4 に示したように，検出された NA 耐性 菌 7 株の NA に対する MIC はいずれも＞256 µ g ! ml で あ っ た．FQ の NFLX に 対 し て は 0.5〜4.0 µg ! ml , OFLX では 0.5 〜 2.0 µg! ml , CPFX では 0.25 〜 2.0 µ g ! ml , LVFX では 0.25 〜 1.0 µ g ! ml , TFLX では 0.25〜2.0 µ g ! ml，SPFX では 0.125〜1.0 µ g ! ml であった．なお，対照とした NA 感受性菌 12 株の MIC は，NA に対しては 0.25〜1.0 µ g ! ml, 6 種 類 の FQ に 対 し て は＜0.004〜0.016 µ g ! ml の 範囲であり，NA 耐性菌 7 株は NA に高度耐性で，
検討した 6 種 FQ いずれに対しても低感受性であ ることが確認された．
これらの NA 高度耐性で FQ 低感受性の 7 菌株
Table 5 Nalidixic-acid resistant, fluoroquinolone low-sensitive V. cholerae strains isolated from diarrheal cases in Japan（1981 〜 2001）
Country visited Resistance pattern
Serogroup Year of isolation
India CP・SM・ST・NA
non-O1 1993
Thailand CP・TC・SM・ABPC・ST・NA
non-O1 1995
India CP・SM・ST・NA
non-O1 1995
India CP・ABPC・NA
non-O1 1996
Nepal CP・SM・ST・NA
non-O1 1996
India CP・SM・ST・NA
O1, Ogawa 1997
China SM・NA
non-O1 1997
Drugs tested: CP, TC, SM, KM, ABPC, ST, NA, and NFLX
の概要を Table 5 に示した．V.c O1 では 1997 年 に 1 株（0.4％）検 出 さ れ，CP・SM・ST・NA の 4 剤耐性，血清型小川で，インド旅行者からで あった．V.c non-O1 では 1993 年以降 6 株（1.5％）
検出され，その耐性パタ−ンは CP・TC・SM・
ABPC・ST・NA（1 株），CP・SM・ST・NA（3 株），CP・ABPC・NA（1 株），SM・NA（1 株）で あった．それらの旅行先はインド（3 件） ，タイ
（1 件），ネパ−ル（1 件）及び中国（1 件）であっ た．
考 察
現在世界は，1961 年にインドネシアから始まっ た第 7 次コレラパンデミ−下にある．本流行は，
それまでのクラシカル生物型 V.c O1 に変わるエ ルト−ル生物型 V.c O1 によるもので，瞬く間にア ジア全域，アフリカ，欧米へと拡大していった．
1991 年には，これまでコレラの発生がなかった南 米大陸に侵入するなど，現在も世界中で猛威を振 るっており，終息する兆しは全く見られていな い
18）．
我が国におけるコレラの発生は，終戦直後の引 揚者による発生以降ほとんど認められなかった．
しかし，海外旅行者や輸入生鮮魚介類などの著し い増加に伴ない，1975 年を境として毎年相当数報 告されている．1992〜2001 年の最近 10 年間では 1,023 名報告され，そのうち海外旅行者による輸入 例が 878 名と大半（85.8％）を占めているが，輸入 食品が原因と考えられる国内事例も毎年認めら れ，現在でも公衆衛生上の重要問題となってい る
3）．また， コレラ常在地域への旅行者下痢症患者
からは，V.c O1 以上に V.c non-O1 も分離される ことより，これらの地域では本菌による下痢症の 発生も多いものと考えられる
1）．
本報では，我が国において 1981〜2001 年の 21 年間に，主として海外旅行帰国者の下痢症例より 分離された V.c O1 及び V.c non-O1 における薬剤 耐性菌の出現状況，更に検出された TC 耐性菌と，
NA 高度耐性かつ FQ 低感受性菌の概要について 述べた．
まず， V.c O1 における薬剤耐性菌の出現状況に ついてみると，これまでの報告
5）6）と同様，1981〜
1985 年の頻度は 1.2％ と低率であったが，その後 1986〜1990 年は 15.8％， 1991〜1995 年は 53.5％，
1996〜2001 年では 70.8％ と，近年急激に高くなっ てきている． 急増した 1991 年以降の耐性菌をみる と，5 種の耐性パタ−ンが認められているが，SM 単剤耐性が 81.6％ を占めており，耐性菌の高い出 現頻度は，SM 単剤耐性菌の急増によるもので あった．一方，V.c non-O1 でも 1981〜1985 年の 9.4％ か ら，1986〜1990 年 は 18.5％，1991〜1995 年は 22.0％，1996〜2001 年は 20.7％ と，近年耐性 頻度が高くなってきているが， V.c O1 のような高 耐性率には至っていない．これら耐性菌の耐性パ タ−ンは V.c O1 同様 SM 単剤耐性と，それに加え て ABPC 単剤耐性がそれぞれ 25.4％ を占めてい たが，全体では V.c O1 の 6 種と比較すると，21 種と多岐にわたっているのが特徴的であった．
コレラに対する化学療法剤として，コレラ常在
国で汎用されてきた TC を含む多剤耐性菌の出現
増加が近年問題となってきている
7）9）10）．今回の成
績 を み る と，V.c O1 に お い て は 1992 年 以 降 10 株検出され，これらはいずれも CP・TC・SM・
ST の 4 剤耐性菌であった．また， V.c non-O1 では 1988 年以降 10 株検出され，その耐性パタ−ンは 5 種認められた．このような多剤耐性菌について，
これまでに報告された耐性機序に関する検討成績 では，伝達性 R プラスミドによるものが多いとさ れている
6）7）9）．更に， 最近ではインテグロンに担わ れていることも報告されており
7）9）10），この点につ いては今回検出された菌株について検討を加えた い．
V.c O1 は，従来 FQ には高感受性であることが 知られており
19），TC 耐性菌の増加に伴いコレラ の治療にも FQ が汎用されるようになっている．
しかし近年，他の腸管系病原菌と同様，FQ に低感 受性（低度耐性と判定し，耐性側に含めている報 告もある）を示す菌株の出現が問題となってきて いる
8）11）．今回の成績では，FQ 低感受性菌が V.c O1 において 1 株，V.c non-O1 で 6 株認められて いる．キノロン耐性機序が検討されている同様の 下痢原性ビブリオである腸炎ビブリオでは，大腸 菌などと同じく DNA ジャイレースサブユニット A 遺 伝 子 gyrA 上 の キ ノ ロ ン 耐 性 決 定 領 域
（QRDR）と呼ばれる部所の変異，あるいはこれに 加えて，トポイソメレース IV サブユニット A 遺 伝子 parC 上の QRDR 部所の変異によるこ と が 確認されている
20）．現在のところ V.c についての 報告はないが，今回検出された FQ 低感受性菌に ついて検討したこれまでの成績では，腸炎ビブリ オの場合とほぼ同様の成績が得られている
21）．な お， この詳細については別途報告する予定である．
TC を含む多剤耐性菌 20 株のうち 13 株はタイ 旅行者から，FQ 低感受性菌 7 株のうち 4 株はイ ンド旅行者から検出されているが，それぞれの国 におけるこれら薬剤の使用状況を反映しているも のと考えられる． 今後とも薬剤耐性菌の出現状況，
特に FQ 低感受性菌が低率ではあるが検出された ことは，FQ 耐性菌の出現増加の危険性が高まっ ていることを示すものであり，その動向について は引き続いての監視が必要がある．
文 献
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ロ ン 薬 耐 性Vibrio choleraeに お け るgyrA，parC の変異．第 85 回日本細菌学会関東支部総会抄録 集，2002.
Increasing Drug Resistance in Vibrio cholerae O1 and non-O1 Strains Isolated from Diarrheal Cases in Japan
Shigeru MATSUSHITA
1）, Maho KAWAMURA
1）, Noriko KONISHI
1）, Akemi KAI
1）, Rei KATOH
1）, Kazue OGATA
1）, Tadahiko ITOH
1）, Kazuyoshi YANO
1）, Koji MORITA
2）,
Noboru WATANABE
2）, Masato KANAMORI
2）& Yasuo KUDOH
2）1）Tokyo Metropolitan Research Laboratory of Public Health,2）School of Health Sciences, Kyorin University
