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イムノクロマト法を用いたシガ毒素の迅速検出法の検討

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(1)

わが国では,1996 年シガ毒素産生性大腸菌,血 清型 O157 による集団食中毒が多発し,国民を震 撼させたことは記憶に新しい.その後大規模な集 団感染こそ発生しなくなったものの,家庭内感染 事例はむしろ増加傾向にある. これらの背景から,

明治時代に制定された伝染病予防法に代わって感 染症新法が平成 11 年 4 月から施行され, 本感染症 は 3 類感染症に位置づけられ,陽性者には就業制 限の措置がとられている. シガ毒素

1)

を産生する大 腸菌には O157 をはじめとする多くの血清型

2)

が 知られ,いまなお新たな血清型が報告

3)〜5)

され,毒 素産生性が 3 類感染症に該当するかの要件となっ ている.また,シガ毒素産生性大腸菌による感染

は,溶血性尿毒症症候群 (HUS)

6)7)

などの重篤な合 併症を引き起こすことから,迅速な検出法が求め られている.シガ毒素の検出方法は主に PCR 法ま たは RPLA 法

8)

で行われているが,PCR 法では数 時間以内で結果が得られる反面,サーマルサイク ラーなどの専用の装置を必要とし,これらが整備 できない施設での実施は困難である.いっぽう,

RPLA 法は簡便かつ特殊な装置を必要としないこ とから,多くの施設で実施されているが,結果判 明まで約 2 日間を要する.イムノクロマト法は ELISA 法とクロマトグラフィー法を組み合わせ た,簡便かつ迅速に微量物質の検出を可能とした 方法で

9)10)

,種々のホルモン,細菌,ウイルスなど の検出キットに応用されている.

今回,TSI 寒天培地の発育菌からシガ毒素を直 接検出できる簡易な方法を考案し,イムノクロマ ト法を応用したシガ毒素検出キットである Vero- toxin test Wako(和光純薬)と組み合わせて,シ

イムノクロマト法を用いたシガ毒素の迅速検出法の検討

神戸市環境保健研究所細菌部

黒川 学 宮田 勉 村瀬 稔 仲西 寿男

(平成 12 年 10 月 20 日受付)

(平成 12 年 12 月 19 日受理)

イムノクロマト法を応用したシガ毒素の検出キットが市販されている.TSI 寒天培地の発育菌から直 接シガ毒素を抽出し,遠心上清を得ることなくテストできる改良法を考案し,原法,RPLA 法および PCR 法と比較した.RPLA 法を基準とした場合の感度,特異度および一致率はシガ毒素 1 型では,原法はそ れぞれ,77.5,100 および 90.5,改良法でそれぞれ,93.8,100 および 97.4,PCR 法でそれぞれ,100,99.1 および 99.5 であった.シガ毒素 2 型では,原法はそれぞれ,95.3,100 および 96.3,改良法でそれぞれ,

100,100 および 100,PCR 法でそれぞれ,100,100 および 100 であった.テストの所要時間は,TSI 培地でシガ毒素産生性大腸菌血清型と判定された時点から,原法,改良法,RPLA 法および PCR 法でそ れぞれ 24 時間,0.5〜1 時間,48 時間および 6 時間で,改良法が最も迅速であった.

〔感染症誌 75:270〜275,2001〕

別刷請求先:(〒650―0046)神戸市中央区港島中町 4 丁 目 6 番地

神戸市環境保健研究所細菌部

黒川 学

Key words: immunochromatography, Shigatoxin,Escherichia coliO157

(2)

Table 1 Strains used

Number of strains by types Sources

Strains

negative stx 1 & 2

stx 2 stx 1

1 Human feces

Escherichia coli O1

3 Human feces

Escherichia coli O6

5 Human feces

Escherichia coli O18

2 Human feces

Escherichia coli O20

1 3

14 Human feces Escherichia coli O26

3 4

Human feces Escherichia coli O111

1 Human feces

Escherichia coli O114

1 Human feces

Escherichia coli O115

3 Human feces

Escherichia coli O128

1 Human feces

Escherichia coli O148

5 1 Human feces

Escherichia coli O157:H     

1 49 52 Human feces

Escherichia coli O157:H7

2 Canine feces

4 20 Cattle feces

1 9 Bovine meat

2 Human feces

Escherichia coli O169

2 Human feces

Escherichia coli O166

ガ毒素産生性大腸菌感染症における迅速検査法と しての有用性を検討した.

材料と方法

平成 7 年 1 月から平成 12 年 7 月までにヒト大 便,犬糞,牛糞および牛肉から分離されたシガ毒 素産生性大腸菌 O26,O111,O157 合計 164 株,

ヒト大便から分離されたシガ毒素陰性の大腸菌 O 1, O 6 , O 18 , O 20 , O 26 , O 111 , O 114 , O115,O128,O148,O157,O159,O166 合計 26 株を用いた(Table 1).これらを TSI 寒天培地 に接種して,37℃18 時間培養をおこなったものか らシガ毒素を抽出した.

シガ毒素の検出はイムノクロマト法を応用した 検出キットである Verotoxin test Wako(和光純 薬) ,比較対照として,RPLA 法の VTEC-RPLA

(デンカ生検)および PCR 法を用いた.イムノク ロマトキットでは,静置培養として BHI 寒天培地 に発育した菌をポリミキシン B 溶液に浮遊させ て菌体内の毒素を抽出し,さらに遠心分離によっ て得られた上清を用いる方法が推奨されている

(原法:ICG) .シガ毒素産生性大腸菌のスクリー ニング検査では,TSI 寒天培地を用いて分離菌の 生物学的性状を判定し,さらに,斜面部に発育し

た菌からの血清型別が一般的に行われている.こ れを用いるならば,BHI 寒天培地でさらに菌量を 増やす手技を省略できるが,毒素を抽出したサン プルに,菌発育に伴う代謝産物である酸の持ち込 みが避けられない.このことから,1 15M リン酸 緩衝液 pH 7.2 を基礎に,ポリミキシン B 硫酸塩 10,000U mL および界面 活 性 剤 と し て Triton X- 100 0.05% を加えた毒素抽出液を作成した.この 400

µ

L を TSI 寒天培地の斜面部に流し込み,均等 な浮遊液とした後に,これを新しい試験管に移し て,42℃15 分反応させて毒素を抽出して,これを 遠心することなくそのままサンプルとして用いる 簡易な方法を用いた(改良法:ICG-Imp).また同 時に,原法でもサンプルを作成し抽出方法を評価 した.RPLA 法は,原法に従って作成したサンプ ルを用いて,添付の試験方法に従って実施した.

いっぽう PCR 法は,TSI 寒天培地の斜面部に発育

した菌 を Triton X-100 0.5%,Proteinase-K 1mg

mL を 含 む TE buffer pH8.0 に 浮 遊 さ せ,60℃10

分,99℃5 分加熱して DNA を抽出した.これをサ

ンプルとしてシガ毒素 1 型および 2 型遺伝子を検

11)

した.

(3)

Table 2 Detection of Shigatoxin type ¿andÀfrom  Escherichia coli  by  using  RPLA,  PCR  and  immuno- chromatography methods

Shigatoxin type 1

ICG-Imp ICG(original)

PCR

(−)

(+)

(−)

(+)

(−)

(+)

5 75 18 62 0 80

(+)

RPLA p < 0.005

110 0 110 0 109 1

(−)

93.8 77.5

100 Sensitivity

100 100

99.1 Specificity

97.4 90.5

99.5 Concordance rate

Shigatoxin type 2

ICG-Imp ICG(original)

PCR

(−)

(+)

(−)

(+)

(−)

(+)

0 150 7 143 0 150

(+)

RPLA p < 0.02

40 0 40 0 40 0

(−)

100 95.3

100 Sensitivity

100 100

100 Specificity

100 96.3

100 Concordance rate

IC : immunochromatography

RPLA 法によるシガ毒素検出キットは,堺市の シガ毒素産生性大腸菌 O157 による集団食中毒事 件(1996 年)以前から市販され,豊富なデーター

8)

を蓄積していること,さらに保険点数の適用と相 まって,わが国では広く普及している検査方法の 一つである.この方法を基準とした場合の,PCR,

原法およびその改良法によるイムノクロマト法の 関係を示した (Table 2) .基準となる方法で得られ た陽性を 100 とした場合に,それぞれの検査方法 の陽性を感度,陰性を 100 とした場合に,それぞ れの検査方法の陰性を特異度, 結果にかかわらず,

基準法と成績が一致したものを一致率とした.シ ガ毒素 1 型の感度,特異度および一致率は,PCR で 100,99.1 および 99.5, イムノクロマト法にお ける原法はそれぞれ,77.5,100 および 90.5, 改良 法では,93.8,100 および 97.4 であった.いっぽ う,シガ毒素 2 型の感度,特異度および一致率は,

PCR で 100,100 および 100,イムノクロマト法 における原法はそれぞれ,95.3,100 および 100,

改良法では 100,100 および 100 であった. シガ毒 素 1 型に比べて 2 型のほうが,感度,特異度およ び一致率において高い傾向を示した.また,イム ノクロマト法の陽性率で原法と改良法との間に,

シガ毒素 1 型および 2 型それぞれ

χ2

乗検定で有 意差(p<0.005,p<0.02)を認めた(Table 2) . RPLA 法とは検出対象が異なるにもかかわらず PCR 法が最も良く相関したが,シガ毒素 I 型にお いて,RPLA 陰性,PCR 陽性というサンブルが 1 件認められた.これは,One Step RNA PCR Kit

(TaKaRa)を用いたシガ毒素遺伝子の発現解析か ら,stx1 遺伝子の不活化に起因することがわかっ た.

RPLA 法とイムノクロマト法での結果不一致で あるが,シガ毒素 1 型では原法および改良法それ ぞれ,また 2 型では原法において,RPLA 陽性,

イムノクロマト陰性というパターンが認められ た.イムノクロマトキットのテストラインに,非 常に明瞭なバンドが現れた場合の濃度を 3+,か ろうじてバンドが確認できる弱い陽性を 1+,そ の中間を 2+とした場合の RPLA 法の毒素濃度と の関係を,原法と改良法に分けて示した(Fig. 1,

2) .すなわち,イムノクロマト法が陰性を示した 検体の RPLA 法の濃度はいずれも 4〜8 倍で,こ れ以上のタイターを示した検体には結果の不一致 がまったく認められなかった.つぎに,イムノク ロマト法が陰性であった検体の中から,シガ毒素 1 型および 2 型そ れ ぞ れ 5 件 を RPLA 法 の タ イ ターで 16 倍になるように限外濃縮して, 再度試験 をおこなったところ,すべて陽性となった.すな わち,キットの検出感度の差による不一致であっ た.

テストの所要時間の比較では,TSI 培地でシガ 毒素産生性大腸菌血清型と判定された時点から,

PCR 法では,6 時間,RPLA 法では 48 時間,イム ノクロマト法では原法および改良法それぞれ,24 時間,0.5〜1 時間で,改良法を用いたイムノクロマ ト法が最も迅速であった.

通常のシガ毒素産生性大腸菌のスクリーニング

は,サンプルを選択分離培地に塗布して 37℃ で

(4)

18 時間培養後,培地上に発育した疑わしい集落を TSI 寒天培地などの確認培地に釣菌し,さらに 37

℃で 18 時間培養後, 生化学性状から大腸菌と同定 されたものに対して血清型別を実施し,スクリー ニング陽性菌についてシガ毒素産生試験が実施さ れる.

イムノクロマト法は,大別すると 2 つの過程か ら成り立つ.最初の過程は,検出対象と抗体を感 作した金コロイド試薬との免疫複合体を形成させ る反応で,言い換えるならば,検出対象を染色す

る過程である.つぎはこれを検出する過程で,免 疫複合体を含むサンプルがナイロン膜中を拡散す る過程で,その途中に固定された抗体に捕捉され る反応である.捕捉された対象はすでに染色され ているので,陽性の場合には,抗体が固定された 場所に線として現れる仕組みで,試験紙同様に dip and read で判定できる簡便さと迅速性を併せ 持った方法である.今回検討を行った改良法を用 いてシガ毒素産生性大腸菌のスクリーニングを 行った場合, 検査開始後 48 時間以内に結果を得る

Fig. 1 Comparison of RPLA and Immunochromatography methods on the detection

of shigatoxin type 1

Fig. 2 Comparison of RPLA and Immunochromatography methods o the detection of shigatoxin type 2

(5)

ことが可能であった.原法である BHI 寒天培地の 発育菌を用いる場合,TSI 培地から,さらに 18

〜24 時間を必要とするが,この操作を省略できた ことで約 1 日の検査日数の短縮が可能となった.

また,それぞれの培地上の発育菌からの毒素抽出 でも,原法の約 60 分と比べて,簡易抽出法では遠 心操作を省略できたこともあって, わずか 30 分で 結果が得られ,多検体を処理する上で非常に有用 であると考えられた.広く普及している RPLA 法と比べてややコスト高ではあるが,PCR のよう に特別な機器を必要としないことから,小規模施 設でも容易に実施可能と考えられた.

RPLA 法とイムノクロマト法との結果不一致 は,キット感度の差であったが,イムノクロマト 法における原法と改良法での不一致は,サンプル 処理方法に原因があると考えられた.キットから 取り出した金コロイド試薬を,原法および改良法 で調整したサンプルと反応させて,これをスライ ドグラスに塗布した無染色標本を光学顕微鏡で観 察したところ,前者では紫色の線状に凝集した金 コロイド試薬のみが観察されたが,後者では,前 者同様に凝集した金コロイド試薬のほかに,破壊 された菌体表面に金コロイド試薬が凝集したもの も観察された.菌体破壊物の表面にもシガ毒素が 存在し,これも反応に関与していることが推測さ れたので,改良法で調整したサンプルを遠心して 得られた上清で再試験を行ったが,大きな差は認 められなかった.抽出方法の差による毒素量を RPLA 法で検討したところ,2 倍以上(未報告)で あったことから,抽出される毒素濃縮の差による と推測された.本キットを応用する場合,多量の 菌を少量の毒素抽出液で処理した高濃度サンプル を用いる必要があろう.

RPLA 法は,ラテックス粒子の凝集像で結果を 判定するために,菌体破壊物などの粒子を含んだ サンプルからの測定は出来ない.いっぽうで,イ ムノクロマト法は全血液からの検出報告

12)13)

もあ るように,多量の粒子を含んだサンプルからでも 検出が可能である.今回考案した毒素抽出試薬に は,タンパクを温和な条件で可溶化させるととも に,粒子を拡散させるために界面活性剤を添加し

ている.サンプル中に含まれる粒子状物質の影響 を調べるために,これを含まない試薬で検討を 行ったところ,明瞭な陽性バンドを得ることが出 来なかった.菌体破壊物を含むサンプルがメンブ レン中をうまく拡散し得なかったためと考えられ た.遠心操作で菌体破壊物を除去することなくサ ンプルに供することが出来たことは,毒素抽出操 作の簡便化およびテストの迅速化に寄与すると考 えられる.

3 類感染症は迅速な感染診断およびその対応を 要求されることから,本法を用いたシガ毒素産生 性大腸菌のスクリーニングは非常に有用であると 考える.

1)Donohue-Rolfe A, Kondova I, Oswald Set al.:Es- cherichia coliO157:H7 strains that express shiga toxin(Stx)2 alone are more neurotropic for gno- tobiotic piglets than are isotypes producing only Stx1 or both Stx1 and Stx2. J Infect Dis 2000;

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Evaluation of Immunochromatography Method for Rapid Detection of Shigatoxin Manabu KUROKAWA, Tsutomu MIYATA, Minoru MURASE & Hisao NAKANISHI

Department of Bacteriology, Kobe Institute of Health

The Shigatoxin detection kit based on the immunochromatography system is commercially available. To obtain the identification result rapidly, we devised the improved method(ICG-Imp)re- placed to an original method(ICG) . Modification provided that Shigatoxins extracted directly from the strains grown on TSI medium without centrifugation. ICG-Imp was compared with ICG, RPLA and PCR.

Comparing with RPLA, the sensitivity, specificity, and concordance rate of Shigatoxin 1 showed 77.5, 100 and 90.5%, respectively on ICG, 93.8, 100 and 97.4%, respectively on ICG-Imp, and 100, 99.1 and 99.5%, respectively on PCR. On the other hand, the patterns of Shigatoxin 2 showed 95.3, 100 and 96.3%, respectively on ICG, 100, 100, and 100%, respectively on ICG-Imp, and 100, 100 and 100%, re- spectively on PCR.

The time required from TSI medium to the final result are 24h, 30〜60 min, 48h, and 6h, respec-

tively by ICG, ICG-Imp, RPLA, and PCR. It seems that the ICG-Imp is recommended for the identifi-

cation by means of the accuracy and rapidness.

Table 1 Strains used Number of strains by types SourcesStrains negativestx 1 & 2stx 2stx 1 1Human feces Escherichia coli O1 3Human feces Escherichia coli O6 5Human feces Escherichia coli O18 2Human feces Escherichia coli O20 1314Human feces Escherichia
Table 2 Detection of Shigatoxin type  ¿ and À from  Escherichia coli  by  using  RPLA,  PCR  and   immuno-chromatography methods Shigatoxin type 1 ICG-ImpICG(original)PCR (−)(+)(−)(+)(−)(+) 5751862080(+) RPLA p < 0.005 110011001091(−) 93.877.5100Sensitivit
Fig. 2 Comparison of RPLA and Immunochromatography methods o the detection of shigatoxin type 2

参照

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