1 本研究の背景
本学社会福祉学部は2015年度に20周年を迎えた。これを機として,2016年度から本学社会 福祉研究所共同研究が「社会福祉学と子ども教育福祉学の結合体としての本学部に求められ る研究のあり方・内容・方法とはいかなるものか―本学部のアイデンティティと独自性の確 立を目指して―」というテーマで取り組み始められた。
本学部の発展にとって必須とも言えるこのようなテーマはもちろん短期間で達成されるも のではない。そこで,さしあたって2018年度までの当面 3 年間をかけて追究する研究テーマ を,「研究対象としての人間のとらえ方をめぐって―本学部の研究・教育のアイデンティティ と独自性の確立と特色づくりに向けて―」と定めた。
本研究所研究員の役割とは,第一には私達自身の独自の研究の推進であるが,同時にその ことが所属する本学部のアイデンティティと独自の特色を打ち立てることにつながるもので ある必要がある。さらに言えば,このことは本学部内での閉じられた範囲での研究を超えて,
今日の私達のそれぞれの研究領域が抱えている共通の諸問題の解明につながるものであり,
そのことによって私達自身の研究の一層の深化に直結しているとみられる。
本学部では,この10年の間に,大学院社会福祉学研究科に博士後期課程が設けられ,また 学部の二つの学科(「社会福祉学科」と「人間福祉学科」)の内の人間福祉学科の名称が小学 校教員養成課程を設けるに当たって「子ども教育福祉学科」へと変更され,さらに大学院修 士課程教育福祉専攻が設置,社会福祉学科にソーシャルワークコースと教育福祉・社会デザ インコースが設置されるなど,制度的側面での体制が整えられてきた。
しかし,本学は短期大学部以来,様々な研究分野に属する教員が混在しており,紀要など の投稿論文にも見られるように学際的な様相を呈している。これら研究者達は社会福祉学,
仏教福祉学,子ども教育福祉学のいずれかに携わりながら,全体として福祉学という学問体
*立正大学社会福祉学部人間福祉学科
キーワード:福祉人間学,福祉感性学,感性生涯発達過程,造形表現活動
学としての「福祉人間学」の提起
―福祉感性学(感性生涯発達過程論)の立場から―
Raising of “ Well-being Anthropology ” as the Study
―From the View Point of the Well-being Kansei Studies
(Kansei Lifelong Development Process Theory)―
梅澤 啓一
*Keiichi Umezawa
〈原著論文〉
系に形式上では組み込まれてはいるが,研究の側面での調和を取り,学部のアイデンティティ や独自性の確立へ向けての努力はまだこれからと言えよう。
また,入試状況も含めてこれまでの社会福祉学という単独の研究領域で本学部をまとめて しまうには現在の状況にそぐわなくなっているともみられる。
日本学術会議報告書(2014)に,「福祉系大学院の多様化に対応し隣接学問領域と組み合わ せた研究科・専攻についてその特長を活かしたカリキュラム編成が求められる」(一般社団法 人日本社会福祉教育学校連盟大学院委員会 2016.11.25)とある。現在の福祉系大学・大学院 全般に求められているこの問題の解決に際しては,一般的理念のレベルでの追随による単な る制度的適合性に委ねて済ますのではなく,本学部・研究科の特性に適った研究・教育の仕 方と形態を探究する必要がある。
すなわち,社会福祉学と子ども教育福祉学との,あるいは社会福祉学と仏教福祉学と教育 福祉学との結合体としての本学部と研究科に求められる学問的成果とそれに基づく教育のあ り方とは何かを追究し,本学部と研究科独自のアイデンティティをいかに確立していくかと いう問題である。
要するに,この共同研究を通じて,基本的には個別に行われているそれぞれの研究・教育 のあり方をアンサンブルのように共鳴し合わせることによって,私達が本学部・研究科の構 成員として必要不可欠な研究・教育のあり方を探っていけるようにすること,そして,さら にそのことが個々の研究と教育のあり方の再構築を促していくようにすることが本共同研究 の目的である。
以上のことから,上述の当面のテーマ「研究対象としての人間のとらえ方をめぐって―本 学部の研究・教育のアイデンティティと独自性の確立と特色づくりに向けて―」のねらいは,
私達研究員(所員)に共通の研究対象は,捉え方は様々であっても,まずは「人間」である と思われることから,それぞれの研究において「人間」をいかように捉えて研究を進めてい るかを議論し合って互いの研究の在りようを理解し合うこと,すなわち,私達個々人の研究 において,「人間のいかなる側面を捉えて,それをいかなる方法で追究し,いかなる成果を得 ようとしているか,またそこで生まれる課題は何か」という問題を探究することである。
私達は自らの研究成果を直接学生の教育に反映させているわけであるから,本学部に所属 している限り,個々別々の研究を推進しながらも同時に学部の独自性にもつながることを否 応無く意識せざるを得ない。本学部存続のあり方(ひいては福祉学そのもののあり方)が喫 緊の課題になっていると思われる現在,このような営みが「本学部の研究・教育のアイデン ティティと独自性の確立と特色づくり」につながっていったらと願う。
2 本年度の研究課題
以上のことから,とりわけ「福祉人間学」といった学問領域が考えられ得るか否かを検討 することが必要であろう。
人間福祉学部やかつての本学部人間福祉学科といった名称は他大学にも多く見られるが,
このネーミングは,本学紀要のタイトル『人間の福祉』に顕著なように,福祉の対象が当然 人間であることを単に確認しているに過ぎないか,福祉に掛かる形容詞として「人間」をあ えて掲げたに過ぎないとみられかねないであろう。そうであれば,福祉の対象が人間である ことをさらに深めて,福祉を起点としての,あるいは福祉を媒介としての人間のあり方や生 き方を追究する「福祉人間学」といった「人間学」に焦点を当てた学問領域を追い求めてみ るのも無益ではないのではなかろうと考える。
その際,これまでの福祉学が捉えてきた弱者のみに福祉の対象を限定するのではなく,決 して幸福とは思えない「強者」や金銭的に恵まれていると見られている人々,あるいは犯罪 者や「悪人」も含めた全ての人間を対象とする必要があろう。社会福祉学・仏教福祉学・教 育福祉学の根幹に位置する共通の研究対象が人間であるならば,三つの学問領域から「人間 学」の意味と内容を問い返すことによって本学のアイデンティティと独自性の確立および特 色づくりにつなげていくことが肝要である。
3 造形表現活動を起点とする「福祉人間学」の提起
⑴ 造形表現活動と感性の捉え方―学習指導要領に見られる問題点から―
本項では,筆者の専門である感性と造形表現活動の視点から「福祉人間学」構築の要件を 述べる。
造形表現活動は,それぞれの人間が現時点で持つ感性・知性・身体性・社会性などの統一 体としての人間性(人間的本質,人間らしさ,すなわち社会的諸関係の総和)および人格(人 間性の具体的なあり方,すなわち人間の肉体的ならびに精神的能力の担い手)に定位されて 行われ,このことを通じてさらに人間性と人格の質的高次化(発達)を促していくものであ る。要するに,造形表現活動は,各個人の人格の発達過程上での各あり方に即して展開され,
発達する。
したがって,表現のあり方や仕方に定まった到達点はなく,各個人の個別的特性(個性)
に従った表現を独自に見出せれば,人間としての発達は保障されていると考える。
ところが,図画工作科,美術科,芸術科(美術,工芸)では,新学習指導要領が全ての教 科等に共通のものとして求める目標及び内容である「知識及び技能」,「思考力,判断力,表 現力等」,「学びに向かう力,人間性等」といった,「目に見える,あるいは数値化できる学習 結果」を明確化することに強制的に従わせられることになってしまっている。このことはこ れまでの学習指導要領より一層強化されてきたようである。
学習指導要領においては,まず第一に知識・技能の習得が挙げられている。そのため,発 達の捉え方が,遊びに重点を置いた「造形遊び」(表現と遊びの発達上での区別と連関が不明 なネーミング)や,発達過程における stage の意味を取り違えての step up 式の「資質や能 力の育成」に代替され,発達に即した表現活動の道が絶たれている。新保育所保育指針の発
達に関する記述も驚くほど簡略化され,小学校も 1 ・ 2 年, 3 ・ 4 年, 5 ・ 6 年な大雑把な まとまりで漠然とした区分がされているだけで,いかなる契機を経て子どもの表現発達の過 程が営まれていくのか不明である。
また,教育内容がA表現とB鑑賞とに区分けされて発達的連関のあり方が不明にされてい る上に,「対話的な学び」として「言葉で整理するなどの言語活動を充実すること」,「コン ピュータ,カメラなどの情報機器を利用すること」といった,国として労働者に最低限身に つけさせたいと考える「読み・書き・そろばん」的な能力獲得に重点が置かれている。これ は,他教科や他表現に対する造形表現特有のあり方を無視したものである(例えば,10歳頃 までは,日常的生活場面で得られる感性を表す説明的・叙述的表現であり,他の表現との可 逆性が認められるが,11歳頃からは理想という価値観に定位される美的感性を表す芸術的表 現が始まり,他の表現とは不可逆な関係になることに無理解な捉え方である)。
学習指導要領は,一応,「『知識・技能』を習得してから『思考力・判断力・表現力等』を 身に付けるといった順序性を持って育成したりするものではないことに留意する必要がある」
と断りを付けている。しかし,教育目標を「表現および鑑賞の活動を通して,感性を働かせ ながら,作り出す喜びを味わうようにするともに,造形的な創造活動の基礎的な能力を培い,
豊かな情操を養う」としているように,「感性」は機能としての働きの側面にとどめられ,国 家的理念やそれに基づく道徳も含み持つ社会的文化的価値である「情操(価値意識としての 感性の発達を不問とする,感性の表層的な現象としての感情の知的・理性的操作に焦点を当 てているに過ぎない概念)」を到達目的としている。
参考までに,学習指導要領における感性と情操の扱いの変遷をたどると,表 1 のようにな る。
表 1 学習指導要領における感性と情操の扱いの変遷 S.22(1947) 小学校 「豊かな美的情操」
S.26(1951) 小中学校 「美意識を発達させる」
S.33(1958) 中学校 「美的感覚の洗練」「情操を豊かに」
S.52(1977) 小中学校 「豊かな情操」
S.53(1978) 高等学校 「美術を愛好する心情を養う」
H.1(1989)
幼稚園 「豊かな感性や表現する力」「美しさなどに対する豊かな感性」
小中学校 「豊かな情操」「美しさ(小学校 3 年以降)」「感性(中学校)」
高等学校 「美的体験を豊かに」
H.11(1998) 小中高校 「豊かな情操」
H.20(2008)
H.21(2009) 小中校
高等学校 「感性を働かせ・豊かに・高め」「豊かな情操を養う」
「美しさ(小 5 ・ 6 年以降)」
「情操」は昭和22年(1947)から現在まで記され続けている。機能的側面に特化した「感 性」は平成 1 年(1989)から登場している。「美しさ」という美的感性が小学校高学年から発 生するとようやく捉えられたのは,平成20年(2008)からであるが,幼稚園教育要領には相
変わらず「美しさ」が記されている。
⑵ 美術教育関連学会で取り扱われている研究テーマの特徴
日本学術会議協力学術研究団体所属学会としては,日本美術教育学会(昭和26年〈1951〉
年発足),大学美術教育学会(1949年発足の日本教育大学協会第二部美術部門より出発し,昭 和38年〈1963〉11月に発足。平成22年〈2010〉に日本学術会議協力学術研究団体として認 定),そして美術科教育学会(昭和57年〈1987〉発足)の三つの団体がある。これらは,それ ぞれ美術教育理念究明・教育実践方策探求,美術教育を含む美術全般の研究,そして美術教 育そのものを専門とする研究を特徴としている。
ここでは,三つ目の「美術科教育学会」が美術教育そのものを専門とした研究に焦点を絞っ ていることから,本研究内容に適合しているとみられるので,当学会の学会誌『美術教育学』
を取り上げて,取り扱われている研究テーマの特徴を探ってみる(表 2 参照。○に数字は論 文数の多い順である)。
表から捉えられることは,以下のことである。
テーマ②美術教育方法,③教育内容・教材研究,④内外の美術教育事情に関する論文が当 然のことながら圧倒的に多いが,やはり学習指導要領が重視するテーマ①鑑賞教育,⑤教育 機器・情報関連教育,⑪アートコミュニケーションが近年かなり増えてきている。
しかし,同じく要領が推し進めようとしている,造形遊びとも関連する⑧遊びと表現,⑨ 芸術文化と教育,認知や認識と関わる⑲空間認識の発達,㉓技法・技能・能力,㉕認知発達 と表現,㉛道徳教育と表現をテーマとするものは意外に少ない。これらのテーマは造形表現 活動に必要不可欠なものではあっても,根本問題に直結したものではないとの判断からであ ろうか。
一方で,⑥個性・人格・人間形成・物事の捉え方,⑦感覚・手・身体・音・言語と表現,
⑩環境・自然・社会と教育,⑭イメージと表現,⑮表現発達,⑰感情・情動・感性と表現,
㉒生活と表現をテーマとするものは,美術教育の根幹に関わるものとして研究の根底に位置 付けられ軽視はされていないようなので,救われる感じがする。
ところが,感性発達や,㉗教師の意識・子ども―教師関係,㉙教師の力量,㉚生涯学習な どの指導者側も含めた人間発達を見通しての美術教育のあり方を考察する論文は皆無に近い。
これらの領域を,上述の美術教育の根本に関わる問題と連関させて研究されていくことが今 後の課題であろう。本稿の意図もこのことにつながっている。
⑶ 「人間と福祉」に関わる諸研究が捉える「人間」に関する諸問題
ここで,1980年代以降の,広く「人間と福祉」をキーワードとした著書群が,福祉の視点 から人間のいかなる側面をいかように捉えて研究しているか(「福祉人間学」の視点から)を 概観してみると, 1 .「人間存在への問いかけ」, 2 .「人間と社会・生活・環境」, 3 .「人間
表 2 美術科教育学会学会誌『美術教育学』
テ ー マ発 行 年 ①鑑賞教育 美術館連携 ②美術教育方法 ③教育内容 教材研究開発 ④内外の美術教育事情 ⑤教育機器情報関連教育 ⑥個性人格人間形成 物事の捉え方 ⑦感覚手 身体音 言語と表現 ⑧遊びと表現 ⑨芸術文化と教育 ⑩環境自然社会と教育 ⑪アートコミュニケーション ⑫デザイン教育 ⑬カリキュラム開発 ⑭イメージと表現 ⑮表現発達
1982 4 1
1983 3 1 1 1 1 1
1984 1 1 2
1985 5 2 2 2 4 1 2 1 1
1986 1 2 3 5 1 1 1 2 3 1
1987 1 5 1 1 2 1 2
1989 1 3 4 4 2 3 2 2 2 1
1990 1 4 1 1 2 2 1 1 1 2 1 1 1
1991 7 7 3 10 8 4 2 1 2 1 1
1993 2 5 1 6 2 2 1 1 3 2 1 1 1 1994 4 3 3 4 2 3 1 1 1 1 2 2 2 3 2 1995 4 2 5 2 2 3 2 1 2 2 2 1 1996 3 2 3 2 1 1 1 2 1 1 1 2
1997 1 7 2 2 2 2 4 1 1 1
1998 1 4 5 4 7 2 2 2 1
1999 3 9 6 1 2 1 1 1 2 1
2000 2 2 6 2 3 2 1 1 1 1
2001 6 1 3 3 2 1 1 1 1
2002 2 4 5 1 3 3 1 1 1 1 2003 8 3 4 1 3 1 1 1 1 3
2004 7 1 1 4 4 1 3 1 1 1 2 3
2005 5 3 2 4 1 1 2 2 2 2 3
2006 6 3 3 2 2 3 2 2 3 1 1
2007 6 2 4 1 1 5 2 1 2 1 2 2008 7 5 3 1 5 2 2 2 5 2 4 1 1 1
2009 11 4 3 2 1 1 3 3 3 1
2010 12 6 2 2 2 4 1 3 1 1
2011 6 7 2 6 1 1 1 1 3 3 2 1 2012 3 5 6 3 4 2 5 1 1
2013 8 6 1 2 1 1 3 3 2 1
2014 7 10 4 1 1 2 1 1 1 1 1 1 1
2015 9 2 4 1 1 1 3 5 1
計 133 126 93 70 64 61 44 32 32 31 28 24 24 21 21
テ ー マ発 行 年 ⑯目標と評価 ⑰感情情動感性と表現 ⑱創造性 ⑲空間認識の発達 ⑳創作過程 ㉑アニメーション 漫画ぬり絵 ㉒生活と表現 ㉓技法技能能力 ㉔色彩と指導 ㉕認知発達と表現 ㉖図画工作科の性質とあり方 ㉗教師の意識 子ども―教師関係 ㉘毛筆画書画教育 ㉙教師の力量 ㉚生涯学習 ㉛道徳教育と表現
1982 1 1 1 1 1
1983 2 1 1 1 1
1984 1 1 1 2 1
1985 1 1 1 1 1 1
1986 1 1
1987 1 1 1 1
1989 1 1 1
1990 1 1 1
1991 1 2 2 1 1 2 2 1 1
1993 1 2 1 2
1994 1 1 1
1995 1 1
1996 2 1 1 1 1
1997 1 1 1
1998 1 1 1
1999 1 1 1 1 1 3
2000 1 1 1 2
2001 1 2 1 2
2002 2 1 1
2003 2 1 1 1 1
2004 1 1 1 1 1 1
2005 1 1 1
2006 1 1 1
2007 1 1 1 2 1
2008 2 1 1 1 1 1
2009 1 1 2 3
2010 1 1 2 1 1
2011 1 1 2 2 1 1 1
2012 1 1 1 1 2 1
2013 4 1 1 1 1 1 1
2014 1 2 2 1 1 1 1
2015 1 1 1 1 1 2
計 20 19 19 14 14 14 13 13 13 10 9 9 6 4 2 1
学,および福祉学・哲学・教育学・心理学など諸学問とのリンク」, 4 .「人間と生(命)」,
5 .「人間と福祉文化・芸術」, 6 .「人間福祉的人間観・世界観・幸福」, 7 .「福祉現場での 人間関係」,そして 8 .「人間形成・発達」といったテーマを追究しようとしたものであった。
一つ目の,様々な福祉と関わる現場に携わることにおいて否応無く突きつけられる「人間 存在への問いかけ(1)」に関わる文献では,以下のような取り組みがなされている。
《切断》に苦しんできたマイノリティの世界からの疎外の克服を試みる社会哲学により,
「われわれ」としての“つながり”が回復することでしっかりと人間存在の実存的深みを重視 する観点(小幡清剛 2016),ソーシャルワーカーという人間存在の解明と形成(清水隆則 2012),「人間の尊厳」「人間の自立」を生活場面に向かい合いつつ思想的かつ理論的に論ずる
(黒澤貞夫 2009),「人間とは何か」「人間とはどういう存在なのか」という問いと「生と死」
の問題の関連を問う(中村文哉ら 2009),現代における福祉や医療の現場を念頭におきつつ,
現代社会における個の自律と依存の相互関係について,多様なアプローチの仕方を示そうと する試み(窪田暁子ら 2004),人間存在の本質それ自体との関連から「福祉」の意味の実相 を探求(中山巧 1999),福祉という言葉で総称される学問や実践は,究極的には「人間存在」
の根底に関わるいとなみであり,生きることの意味を問う理念や人間論を避けてとおること はできない(上原英正 1995)。
二つ目の,福祉の問題を取り扱うに際して不可避な「人間と社会・生活・環境(2)」に関わる 文献では,以下のような取り組みがなされている。
「ケア」という主題を窓とした,「人間についての探究」と「社会に関する構想」(西平直ら 2013),原理にさかのぼっての人間と社会についての探究(広井良典 2011),「障害」を手が かりとして,すべての人間の生活を支える具体的な仕組みと支援方法について考える視点の 提起(奥野英子ら 2007),「福祉学」において「人間ととりまく環境」に対する学際的かつ多 面的なアプローチ(岩崎貞徳・李木明徳・中村和彦ら 2002)。
三つ目の,福祉学というものが学際的に追究してこそ成り立つことを示す「人間学,およ び福祉学・哲学・教育学・心理学など諸学問とのリンク(3)」では,以下のような取り組みがな されている。
社会福祉学と哲学・倫理学・人間学などの価値的考察とをリンクさせることを目指す人間 福祉学(葛生栄二郎ら 2010),人間学を媒介として教育学と福祉学とが協力しあって体制を 築く(杉本一義ら 2009),現代の福祉と人間に関する基本的な問題に対して,哲学,心理学,
社会学,教育学の諸分野を接合して包括的な視座を獲得できるようにする(徳永哲也ら 2007),
社会福祉へのアプローチの基本的な姿勢は,「社会福祉」に関する科学知識・技術を体得し,
これらを「哲学する」ことによって「知恵」へと高揚させ,専門職としての社会的実践に発 達せしめる「人間福祉」の視点を持つこと(硯川眞旬ら 2007),ソーシャルワーク実践の人 間学的展開(米村美奈 2006),福祉の現場で個々一人ひとりの問題を丁寧に見ていく姿勢に 役立つ心理学のトピックや研究知見(井上智義 2004),人間論不在の福祉界に一石を投ずる
(木原孝久 2002),障害種別に障害者をとらえるのではなく,個々の障害者の持つ固有の教育 的ニーズを具体的に把握し,それを充足していくような人間学的立場からの教育論(粂野豊・
花村春樹ら 2001),social well-being を実現するための学問研究をする部門である人間福祉
(=狭い限られた人々への社会福祉から,広くすべての人々の幸せのための働き)(西三郎ら 1999),老いとケアに関する諸問題に対して人間科学的(人間性の回復),および社会科学的
(しなやかな知性によるケア)アプローチ(木下康仁 1993),カウンセリングと,教育や福祉 活動などとの接点をたずねる「人間学的実践」(水島恵一 1987)。
四つめの,人間らしく生きることの意味を問う「人間と生(命(4))」では,以下のような取り 組みがなされている。
いのちの問題である福祉(社会福祉)と人間としての福祉・幸福をめざす生命倫理(人間 福祉)の両者の類同性と相違性(中山愈 2005),人間が人間らしく生きることが損なわれて いる問題の解決方法や方向(加藤直樹ら 2005),人間生存の基本的基盤であり,人類永遠の 課題である,「安居」「安住」=「居住福祉」(早川和男他編 2002),生きた人間の問題に直接 かかわり,人間全体の人間らしさ,人間的な自由のいっそう豊かな発展に責任を負う社会福 祉という学問の視点から,「いのち」の自然的・社会的起源への問いや,多様な次元の「いの ち」のありようへの問いかけ(福田静夫 1998)。
五つ目の,「人間と福祉文化・芸術(5)」では,以下のような取り組みがなされている。
社会福祉を単に福祉実践や福祉政策としてではなく,経済や政治あるいは国民の行動様式 に影響を与える文化へと高めていくあり方(関西福祉大学社会福祉研究会 2009),古代から 現代に至る福祉(人間の幸せ)と分かちがたく結びついた芸術のあり方を探る(藤田治彦 2009)。
六つ目の,「人間福祉的人間観・世界観・幸福(6)」では,以下のような取り組みがなされてい る。
社会福祉の概念の骨格をなす人間福祉的な人間観・世界観・幸福感についての理解,実践 における価値や倫理(秋山智久ら 2004),主体性,共生,自己決定,エンパワーメントなど 社会福祉の思想や人間観がどのように形成されてきたのか,それらはソーシャルワーク実践 にどのように反映することができるか(嶋田啓一郎ら 1999)。
七つ目の,「福祉現場での人間関係(7)」では,以下のような取り組みがなされている。
福祉場面の人間関係(坂口哲司ら 1995),将来の福祉社会の中で,人々にささえられなが ら生まれて死んでゆく人間の「いのち」のあり方を,的確に捉えることのできる議論の枠組 みとしての「ささえあいの人間学」(森岡正博ら 1994)。
そして,最後の八つ目の,本稿の目的とも関わる「人間形成・発達(8)」では,以下のような 取り組みがなされている。
人類が人間に進化することにより,「ひと」としての生活の共同を通じて社会を形成し,そ の社会共同における人間の助け合いとしての福祉を見出し,その社会の人間の努力による成
長を通じて実現する福祉の人間的形成を解明することを通じて,人間の尊厳という社会福祉 の普遍的理念に基づく人間解放の一環として理解する視点が,福祉が学として独立しうるこ とを保障する(池田敬正 2016),人間の福祉に関する諸科学を総動員して,現実社会に生き る個々人の人間存在の根本問題に迫り,個々の人生における自己実現,人間完成を終局目的 とする教育や福祉における出生から高齢期までの個々人の全生涯にわたる人間援助の学とし ての「人生福祉学」(杉本一義 2014),現代社会の歪んだ構造とそこから逸脱せざるをえな かった人びとを救済する社会福祉の思想と運動(島崎義孝 2014),死を一時点の出来事では なく,死に至るプロセスを経て,遺族が悲しみから回復する時期までを含む一連の発達過程 をとらえたもの(袖井孝子ら 2007),人間の発見と形成の事業である福祉実践に関わる先達 や自らの足跡を見直し,「人生福祉」の真実探究を歩む(メアリー・E・リッチモンド 2007),
「自己選択・自己決定」をいう自立に基づいて社会福祉サービスを真に利用するためには,人 間として発達して主体性を確立し,意義ある社会参加を果たし,社会連帯の環の一員として 民主的な社会の発展に寄与すること(岡田武世 1996),障害者が他の人びとともに,人間ら しく生まれ,生きて発達し続ける道を求める(岡田武世ら 1986),人間の発達を保障する,
真の福祉社会を論ずるときに,そこに生きる人間の,生物(ヒト)としての側面が見落とさ れていないだろうかという問題(近藤薫樹 1981)。
以上の文献群は,福祉を巡る諸問題の解決が,人間存在の意味,人間同士あるいは社会や 自然との関係,他の諸科学とのリンク,価値観・世界観との関わり,人間発達などとの連関 の場や拡がりの内に達成されると述べている。確かに,ここ30年ほどの期間をかけてのこれ らの「人間学的論考」は,様々な立場と関係を通じての生涯にわたっての「幸福な」人間の あり方を探ろうとする方向を求めてきている。
しかし,これらの文献では,人間は生涯をかけて自らの生き方をいかに見出そうとしてい るかの問題を解明しているとは言えない。八つ目の「人間形成・発達」をテーマとする文献 群ですら,例えば,袖井らは,死を契機として遺族が悲しみから回復する時期までを含む一 連の発達過程を問題にしているが,当の死に行く人間その人の存在における発達上での死の 意味に重点がおかれてはいない。また,杉本はこれら文献群の中で唯一,人間の生涯発達過 程論に触れているが,人生を四季に例え,成育期:春生( 0 ~30)/生まれ育てられ育つ時 期,自立期:夏長(30~60)/一人前の人間として自立してゆく時期,安定期:秋収(60~
90)/経済的,精神的に生活が安定する時期,受容期:冬蔵(90~120),といった蓋然的な発 達論にとどまっている。
私たちは生涯をかけてその存在の意味と生き方を発達的に捉え返して生きている。例えば,
教育の現場では,理想的な教育内容と方法があらかじめ定まっているというものではなく,
子ども達と指導する立場の者(教育者)とがいかなる発達過程で生き合っているかを生涯を かけて問い返すことを通じて,初めて教育内容と方法も決定して行くことができるのである。
4 学としての「福祉人間学」の提起
―福祉感性学(感性生涯発達過程論)の立場から―
⑴ 感性発達の原理
以上のことから,福祉の視点から人間のあり方を追究する「福祉人間学」の根幹に関わる
「福祉感性学(感性生涯発達過程論)」の概要(特に,事象・人・ものとの対象的活動を媒介 として我々が生涯にわたって発達する過程とそのメカニズム)に触れたい。
福祉感性学(感性生涯発達過程論)とは,人間が自らの「生きる意味」を問うことを通じ て,感性に定位され媒介された可能な生き方(幸福)を探究し,独自の生きる方向や生き方・
あり方(アイデンティティ)を培い・確立・発達させていく過程とそのメカニズムを明らか にすることを目的とする学問である。
「生きる意味」とは,生涯にわたる「階層―段階」の発達過程(後述)で捉えられる(正負 両側面での)「生きている実感」を媒介として意識化されていくものである。私たちは日常生 活における様々な活動が「うまくいっている」時であれ「うまくいっていない」時であれ,
「楽しい」「うれしい」「苦しい」「悲しい」などの実感をおぼえ,「生きている自分という存 在」を意識している。このことは反省を通じて真剣に自らの「生きる意味」を問う行為へと つながっていく。すなわち,この「生きている実感」と「生きる意味を問う」という両者の 連関関係は,生涯を通じて質的に発達しつつ私たちの生き様の根底に位置づいている。
したがって,自らのアイデンティティを追い求める「生きる意味」を問う私たちの行為を とらえるに際しては,実感に関わる感覚や感情という現象的現れも含む,生涯にわたっての 人間の生き方や生き様を問題の焦点としてとらえる「感性を媒介とした人間の可能な生き方
(幸福)の生涯発達過程(感性生涯発達過程)」を,そのメカニズムと共に明らかにすること が必要となってくる。
このことは,「弱者」の発達過程だけを問題とするのではなく,彼らに対応する援助者や保 育者・教職員などや,および意識せずとも直接的間接的に「弱者」と関わっているあらゆる 人々,すなわち同じ時代に「互いの立場に立って生き合う私たち自身」の発達過程を問題と することを意味している。これまで「弱者」の発達は研究対象とされてきても,ケアワー カー,保育者,教育者,そして間接的に同時代に生きる人々などの側の発達の問題は等閑に され,両者の関係や同じ人間としての生き方の視点からの研究はなされてこなかったのでは なかろうか。このような観点無くして,人間の問題の根幹を追究する人間学は成り立たない であろう。
人間の生き方や生き様をたどるためには,まずは発達の各過程における感性に定位された 人間の「もののとらえ方」を探らなくてはならない。それに際しての私の基本的考え方は以 下の通りである。(図 1 参照)
人間は,対象的活動(本質的諸力を駆使して実在するものおよび現実形態を変形する[自 らのものとする]ことを通じて,同時に自らの本性を変形し発達させる活動)を媒介として,
対象に働きかけることを通じて,同時に人間性(人間的本質,人間らしさ=社会的諸関係の 総和)の具体的なあり方,すなわち人間の肉体的ならびに精神的能力のにない手としての人 格を発達せしめる。その際,人やものや事象の形態に好悪や美醜などの価値を見出す感性
(kansei, sensibility, Sinnlichkeit),すなわち「現実形態価値意識」(現実形態に価値付けられ た意識)は,価値観や世界観の形成と結びついて,人間の営為を定位(方向づけ),媒介役と なって,人間としての在り方(人格)や生き方を決定づける。ここでの形態(Gestalt)とは
「実在(existence)の形態」ではなく,客観的に実在するものの中に,主体が認めたある本 質的な諸側面を活動の対象として客体化したものという意味での「現実(reality)の形態」,
すなわち「人間に関係づけられた現実性の形態」である。
言い換えれば,現実形態は,実在物の本質的諸側面をとらえたもの(知性によって得られ る認識)であると同時に,感性という価値意識の担い手であり(つまり,認識と価値との媒 介物である),感性の働きに定位されることによって特定の法則に則って多様に変形あるいは 移動可能な「媒介変数」である(すなわち,この現実形態は,図 1 で示したように,表象→
イメージ→形象という意識上での変形過程を経る)。ようするに,このような感性の内容の重 層化や質の高次化(感性的 schema の発達)が,人間の営為に不可欠な想像性や創造性を保 障しているのである。従って,私たちが発達の各過程における人間の「もののとらえ方」を
図 1 対象的活動を媒介としての「もののとらえ方」と人格発達
とらえようとするならば,いかなる現実形態の変化の過程を経て現時点での現実形態が形成 されたかを辿ると同時に,変形されていった諸形態に込められた感性の内容と質の変化を辿 る必要がある(感性と人格の発達過程は,基本的にこうした私たち主体と実質的な客体であ る現実形態との関係の進展を通じてなされる)。
図 1 の右側の主体たる私たちの精神や人格の発達過程とそのメカニズムについては,
G.W.F.Hegel(1770-1831)の精神発達過程論を援用している(9)。
・「即自 an sich」の段階
「最初の直接的なもの」を意味している。新しい対象的活動開始以前なので,それによる内 的矛盾を覚えず,発達の可能性を持ちながらも発達の契機となる分化を見ない即自的な統一 の状態である。
・「対自 für sich」の段階(即自の否定)
「自己を自分自身の他者として措定(自分の否定)」を意味している。対象的活動を通じて 新しい局面に出会い対応しきれないと,自己の内部の即自的な状態に矛盾を来たし,これを 否定し,対立意識を生み,他との関係において自己を自覚する。すなわち,分化し自らの多 様な可能性を実現し,自らを多様な形で示す。
・「即かつ対自 an und für sich」段階(対自の否定=即自の否定の否定)
「矛盾の止揚(相関関係の否定)」を意味する。対自段階で分化し,自らの多様な可能性を 実現したが,即自段階で含み持っていた積極的側面がその多様性の内に保存されていること に気付き,この積極的側面と新しい多様性である現実態との相関関係を否定し(すなわち,
他のものとも豊かな関係を取り結びながら),発達した自己のあり方を統一させる。
以上のような対象的活動を媒介としての主体-客体関係は,コミュニケーションにおける ような「主体―客体―主体関係」においても,図 2 のように媒介するものとしての現実形態 が客体として介在している。図は,主体AとBとが共通の対象(実在物)をめぐってコミュ ニケーションを取ろうとしている構図である。コミュニケーションが開始されていない即自 段階では,対象についての二人
の捉える現実形態AとBとは乖 離した関係である。しかし,コ ミュニケーションが開始される ようになった対自段階では,両 現実形態A′とB′とは理解し合 い始め共通理解を示す重なり合 う部分が生まれている。ただし,
現実形態AとBは現実形態A′と B′とは同一の形態ではなく,コ
ミュニケーションを介して理解 図 2 コミュニケーションを媒介とする両主体の人格発達過程
表 3 生涯発達過程論(発達年齢比較)
14
表 3 生 涯 発 達 過 程 論 ( 発 達 年 齢 比 較 )
E r i k s o n 1 9 5 0 B i r r e n , J . 1 9 6 4 H a v i g h u r s t . 1 9 7 3 伊 藤 隆 二 他 1 9 9 4 杉 原 一 昭 他 2 0 0 1 二 宮 克 美 他 2 0 0 6 第 Ⅰ 期 乳 児 期
( 0 ~ 2 歳 )
乳 児 期 ( 0 ~ 2 歳 ) 幼 児 期 ( 0 ~ 5 , 6 歳 )
乳 児 期 ( 0 ~ 1 歳 な か ば )
乳 幼 児 期 乳 児 期
( 0 ~ 1 歳 )
幼 児 前 期 ( 1 ~ 3 歳 頃 ) 幼 児 期 前 期
第 Ⅱ 期 幼 児 期 ( 2 ~ 5 歳 )
就 学 前 期 ( 2 ~ 5 歳 )
幼 児 期 後 期 幼 児 後 期
( 4 〜 6 歳 頃 )
第 Ⅲ 期 児 童 期 ( 遊 戯 期 ) ( 5 ~ 7 歳 )
児 童 期 ( 5 ~ 1 2 歳 )
児 童 期
( 5 , 6 ~ 1 2 , 1 3 歳 ) 学 齢 期
( 小 学 校 入 学 〜 卒 業 ま で )
児 童 期
( 6 ,7 ~ 1 1 ,1 2 歳 ) 児 童 期 ( 小 学 生 の 時 期 ) 第 Ⅳ 期 学 童 期
( 8 ~ 1 2 歳 )
第 Ⅴ 期 思 春 期 ・ 青 年 期 ( 1 3 ~ 2 2 歳 )
青 年 期 ( 1 2 ~ 1 7 歳 )
思 春 期 ・ 青 年 期 青 年 前 期
( 思 春 期 ) ( 1 2 , 1 3 ~ 1 7 , 1 8 歳 )
青 年 期 前 期 ( 中 学 生 の 時 期 ) 青 年 期
( 1 8 ~ 3 5 歳 )
青 年 期 中 期 ( 高 校 生 の 時 期 ) 成 人 前 期
( 1 7 ~ 2 5 歳 ) 成 人 前 期 ( 1 8 ~ 3 5 歳 )
青 年 後 期 ( 1 8 ~ 2 4 , 2 5 歳 )
青 年 期 後 期 ( 大 学 生・有 職 青 年 ) 第 Ⅵ 期 前 成 人 期
( 2 3 ~ 3 4 歳 )
成 人 期
( 2 0 - 2 5 〜 6 0 - 6 5 歳 ) 成 人 期
( 2 5 ~ 5 0 歳 )
成 年 期 ( 2 5 ~ 6 5 歳 )
成 人 期 前 期 ( 2 5 ~ 4 5 歳 ) 第 Ⅶ 期 成 人 期
( 中 年 期 ) ( 3 5 ~ 6 0 歳 )
成 人 中 期 ( 3 5 ~ 6 0 歳 )
成 人 期 中 期 ( 4 5 ~ 6 5 歳 ) 成 人 後 期
( 5 0 ~ 7 5 歳 ) 第 Ⅷ 期 老 年 期
( 高 齢 期 ) ( 6 1 歳 ~ )
成 人 後 期 ( 6 0 歳 ~ )
老 年 期 ( 6 5 歳 ~ )
老 年 期 ( 6 5 歳 ~ )
成 人 期 後 期 ( 6 5 歳 ~ ) 老 年 期
( 7 5 歳 ~ )
E・H・エ リ ク ソ ン
『 幼 児 期 と 社 会
Ⅰ 』
B i r r e n , J . E . T h e p s y c h o l o g y o f a g i n g .
H a v i g h u r s t , L i f e - s p a n d e v e l o p m e n t a l p s y c h o l o g y : p e r s o n a l i t y a n d s o c i a l i z a t i o n .
伊 藤 隆 二 ・ 樋 口 英 俊 ・ 春 日 喬『 人 間 の 発 達 と 臨 床 心 理 学 』
杉 原 一 昭 ・ 次 郎 丸 睦 子 ・ 藤 生 英 行 編
『 事 例 で 学 ぶ 生 涯 発 達 臨 床 心 理 学 』
二 宮 克 美・小 野 木 裕 明 ・ 宮 沢 秀 次 編『 生 涯 発 達 心 理 学 』
B . K s t h l e e n . 2 0 0 5 F e l d m a n , R . S . 2 0 0 8 服 部 祥 子 2 0 1 0 高 橋 他 2 0 1 2 梅 澤 啓 一 2 0 1 0
乳 幼 児 期 ( 最 初 の 2 年 間 )
幼 児 期 ( 誕 生 ~ 3 歳 )
乳 児 期 ( 0 ~ 1 歳 )
胎 児 期 ・ 新 生 児 期 ( 受 精 ~ 生 後 1 ヶ 月 )
階 層 1 ( 0 ~ ) 段 階 1 ( 6 , 7 か 月 頃 ) 段 階 2 ( 1 0 か 月 頃 )
階 層 2 の 準 備 期 ( 1 歳 な か ば 頃 か ら ) 段 階 3 ( 2 歳 前 後 )
乳 児 期
( 生 後 1 ~ 1 8 ヶ 月 ) 幼 児 前 期
( 1 ~ 3 歳 )
幼 児 期
( 生 後 1 8 ヶ 月 ~ 就 学 前 )
遊 び 期 ( 2 ~ 6 歳 )
階 層 2 ( 2 歳 な か ば 頃 か ら ) 段 階 1 ( 2 歳 後 半 か ら 3 歳 頃 ) 段 階 2 ( 4 歳 )
階 層 3 の 準 備 期 ( 5 歳 な か ば 頃 か ら )
段 階 3 ( 6 歳 頃 ) 就 学 前 期
( 3 ~ 6 歳 )
幼 児 後 期 ( 3 〜 6 歳 )
学 童 期
( 7 ~ 1 1 歳 ) 学 童 期 ( 6 ~ 1 2 歳 )
学 童 期 ( 6 ~ 1 2 歳 )
児 童 期
( 小 学 校 入 学 ~ 卒 業 )
階 層 3 ( 7 歳 頃 か ら ) 段 階 1 ( 7 歳 頃 ) 段 階 2 ( 8 歳 頃 )
階 層 4 の 準 備 期 ( 9 歳 頃 か ら ) 段 階 3 ( 1 0 歳 頃 )
階 層 4 ( 1 1 歳 頃 か ら ) 段 階 1 ( 1 1 , 1 2 歳 頃 ) 段 階 2 ( 1 2 , 1 3 歳 頃 )
階 層 5 の 準 備 期 ( 1 4 , 1 5 歳 頃 か ら ) 段 階 3 ( 1 6 , 1 7 歳 頃 )
青 年 期 青 年 期
( 1 2 ~ 2 0 歳 )
思 春 期 ( 1 2 ~ 1 8 歳 )
青 年 期
( 中 学 校 入 学 ~ 2 4 歳 ) 階 層 5 ( 1 8 歳 頃 か ら ) 段 階 1
段 階 2 階 層 6 の 準 備 期 段 階 3 青 年 期
( 1 8 ~ 2 2 歳 )
前 期 成 人 期
( 2 0 ~ 3 5 歳 ) 前 期 成 人 期 ( 2 0 ~ 4 0 歳 )
成 人 前 期 ( 2 2 ~ 3 0 歳 )
成 人 期 ( 2 5 ~ 5 9 歳 )
階 層 6 ( 2 5 歳 頃 か ら ) 段 階 1 ( 2 5 歳 頃 か ら 3 0 歳 代 頃 ) 段 階 2 ( 4 0 歳 頃 )
階 層 7 の 準 備 期 ( 4 5 歳 前 後 ) 段 階 3 ( 4 5 歳 頃 )
成 人 中 期 ( 3 0 ~ 5 0 歳 ) 中 期 成 人 期
( 3 5 ~ 6 4 歳 ) 中 期 成 人 期 ( 4 0 ~ 6 5 歳 )
階 層 7 ( 4 5 歳 頃 か ら ) 段 階 1
段 階 2 階 層 8 の 準 備 期 段 階 3 成 熟 期
( 5 0 ~ 6 5 歳 )
前 期 高 齢 期 ( 6 0 ~ 7 4 歳 )
後 期 成 人 期 ( 6 5 歳 ~ )
後 期 成 人 期 ( 6 5 歳 ~ 死 )
成 人 後 期 ( 6 5 歳 ~ )
階 層 8 ( 6 5 歳 頃 か ら ) 段 階 1
段 階 2 階 層 9 の 準 備 期 段 階 3
後 期 高 齢 期 ( 7 5 歳 ~ )
階 層 9 ( 終 末 期 ) ( 7 5 歳 頃 か ら ) 段 階 1
段 階 2 階 層 1 0 の 準 備 期 段 階 3
階 層 1 0 ( 死 ) B . K s t h l e e n . T h e
D e v e l o p i n n g p e r s o n T h r o u g h t h e L i f e S p a n .
F e l d m a n , R . S , D e v e l o p m e n t A c r e s s t h e L i f e S p a n .
服 部 祥 子 『 生 涯 人 間 発 達 論 』
高 橋 惠 子・湯 川 良 三 ・ 安 藤 寿 康・秋 山 弘 子 編
『 発 達 科 学 入 門 』
し合えるようにそれぞれ自らが捉える現実形態を見 直し変形したものである。こうして,このような過 程を経て,コミュニケーション関係に一応の終結を 見た即かつ対自段階においては,即自段階における 現実形態AとBとは質量共に発達的に高次化した現 実形態AとBが,全く重なり合うことは叶わないが 肝心な部分においては共通理解に至ることになる。
こうして,このような複数の主体の感性と人格の 発達の様相こそ,先に述べたような「同時代・同地 域に生き合う人間同士のあり方や生き方」を究明し なければならない根拠となる。
そして,各個人がその各発達過程でとらえているこの現実諸形態をたどるためには,当の 現実形態そのものを人間的営為による各個人の人格のあり方が具現されたものととらえ,そ れを個別性と普遍性の両者を併せ持つ(統一した)特殊性の領域としてとらえて分析するこ と(図 3 )が,この研究にとって肝心である(10)。個人・時代・地域を超えた共通な普遍性(人 間である限り誰もが共通に備えている人間的諸側面)を持している感性発達のメカニズムを 基盤として,各個人が抱える内的外的諸条件を媒介にして形成されている個別性(個性,人 格など)の重要な部分が,その個人がとらえた現実形態を形象化した特殊性の領域(表現や 振る舞いや活動)に立ち現れていると考えられるからである。
このように,実在物の本質的諸側面をとらえたもの(知性によって得られる認識)である と同時に,感性(価値意識)という価値意識の担い手である現実形態(認識と価値との媒介 物)の変形の諸過程を丹念にたどることが,人間とその人格の生涯発達過程を明らかにする と同時に,人間の存在のあり方と意味とを捉えることにつながると考えられる。図 1 では感 性と知性との関係づけに焦点を絞って説明したが,身体性と社会性についても,社会的諸関 係の総和である人間性の具体的なあり方としての人格を構造化している構成要素として位置 付けている。ここでの「社会的諸関係の総和」とは,人間は実在する事物(事象)・人・物と いかに関わりを持ち,そこでの関係づけの総体的な仕方のシェマを発達的に見出していくあ り方を意味している。したがって,この「関係づけの総体的な仕方のシェマ」の内に,現実 形態を媒介として獲得する身体性や社会性も含まれている。
では,以上のような現実形態を媒介としての感性・知性・身体性・社会性の統一体として の人格の発達を捉えている生涯発達過程を唱えている論者は存在するであろうか。
表 3 に見るように,発達年齢を掲げた生涯発達過程論を唱えている論者には,E.H.Erikson 1950を皮切りに,Birren, J. 1964, Havighurst, 1973,伊藤隆二他 1994,杉原一昭他 2001,二 宮克美他 2006,B.Ksthleen. 2005,Feldman,R.S. 2008,服部祥子 2010,高橋惠子他 2012ら(11)
がある。
図 3 特殊性の領域
感性と人格の発達を中心に生涯発達過程を論じている筆者(梅澤)以外の論者は,乳幼児 期,児童期,青年期,成人期,高齢期などの生活史を区分けしたものに,目安としての発達 年齢を割り当てており,発達的特徴の項目として取り扱っているのは,感覚・知覚,身体能 力,認知,人間や社会との関係,アイデンティティ,生活編成などである。したがって,論 者達がこれらの項目の各発達段階の質を時代や地域に制約された level(水準,程度)として とらえているとすると,時代,地域,個人によって発達の過程は様々であることから生活史 および年齢の区分の一般化は成り立たなくなることになる。
また,例えば,E.H.Erikson は,心理・社会的危機としての「対」の概念,すなわちプラス とマイナスの心的な力が拮抗している緊張した心理力動的な力の均衡状態を,発達の契機と とらえ,望まれる発達的達成の状態とその達成を疎外する「危機」の状態を対置させ,この 両者の均衡と葛藤によって危機を切り抜けることが発達であるとした。このため,彼の指摘 するこの「危機」の状態とは,発達上での逆戻りであったり,横道に外れたりするものであ り,従って,そのような危機に陥らないように「回避すべきもの」という考え方に偏ったと らえかたとなっている。
「危機」の状態を弁証法的な意味での対自的段階としての「自己を自分自身の他者として措 定」された自己のあり方と捉えれば,そこには「多様な可能性の探究・模索」というにふさ わしい様々な状態があるはずであり,それは「危機」と呼ぶような否定的な側面ばかりでな く,転じて肯定的な意味合いを持つ多様な状態をも含み持つと考えられる。人間は自らの様々 なあり方をトータルに検討し,試しながら,その過程を通じて質的に高次化した自己を獲得 していくのであるから,表面的には「逆戻り」や「横道」に見える状態もその人間の発達に とって欠くべからざる必然的な過程である。
従って,ここで必要な発達論は,時代や地域・社会によって制約される,現象的・表層的 な表現様式や level としての「望まれる発達的達成の状態」というものの設定ではなく,発 達の各 stage(段階,舞台)上での個々の人間の活動の様々なあり方や,紆余曲折を経ながら も,あるいは個々人の個別的特性に基づく違いをも許容し得る,全体として根本的には人間 である限りにおいて共通な道筋の発生・分化・独立(成立)の弁証法的な普遍過程の解明で ある。福祉感性学では,人間的諸活動や知性・理性を方向づけ,そして導く感性の発達過程 とそのメカニズム解明に焦点が当てられる必要がある。
⑵ 研究方法
以上のような問題を追究するにあたって必要な研究方法とはいかなるものであろうか。例 えば,ある一つの能力とその能力の形成過程の一断面を他の諸側面・諸要素の機械的な捨象 から抽出して問題を設定し,この条件下における要因と行動の現象的因果関係を実験などに よって検証ないし実証して整理しようとするものでは,次の段階で他の諸側面・諸要素と連 関させて,問題とする側面の因果関係のメカニズムや法則,そこに内在する諸要素の連関構