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―ションも飛躍的に進むと述べている.また通訳が子

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Academic year: 2021

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要 旨

 1990年代に,ニューカマーと呼ばれる外国人が多数来日し,その子どもたちを巡る保育に関する研究が始 まってから20余年が経過した.そして多くの外国籍児童が我が国で成長し,中には日本の保育士資格を取得 して,保育の現場で活躍している人が存在する.本研究では,外国人人口比率が多いことで知られている群 馬県大泉町に所在する保育園を調査対象とし,そこに子どもを通園させている外国籍保護者へのインタビュー を通して,家庭での言語コミュニケーションについて,および多文化共生保育に関わる外国籍保育士の役割 について検討した.その結果,外国籍保護者は,わが子の保育園における日本文化 ・ 日本語の獲得を歓迎す る一方で,家庭では母国文化を継承し,母語でのコミュニケーションを行っていることが確認された.また,

外国籍保育士が保育園に勤務することで,外国籍保護者が自分の意見を母語で伝えることが可能になるとと もに,情報伝達への不安が解消されたことが明らかになった.

緒 言

 1990年に出入国管理法及び難民認定法(入管法)が 改正され,多くの外国人が労働者として日本に入国し 始めてから約20年以上が経過した.総務省統計局によ る外国人登録者数は1990年に886,397人(総人口比率 0.72%)から2010年末には2,134,151人(1.67%)と,実 数で約2.4倍に増加している.その結果,外国籍の子ど もたちを巡る様々な教育問題が現れており,学齢期以 降ばかりではなく,就学前児童にも焦点をあてて研究 が行われている.

 国立国会図書館のオンライデータベースを用いて,

多文化共生保育について検索した結果,これに関する 初出論文は,川村(1996)の「多民族化する保育園の 現状と多文化社会」である.その中で多民族化する保 育園の課題の一つとして,保育者の外国語能力評価 ・ 語学特別手当の必要性,そして外国人にも保育士資格 を取りやすいようにするなど,外国人保育士の導入を

考える時期であると述べている.その後さまざまな研 究がなされ,その中で言語コミュニケーションが円滑 に行われないことから,保育園において発生する問題 が多く取り上げられてきた.しかし,現在に至っても その問題は解決されたようには見えない.

 佐々木(2012)は多文化共生保育における言語コミュ ニケーションの問題に関する対応として,日本の保育 所で育った外国籍の子どもたちが日本で保育士となり,

多文化共生問題に取り組むことが出来たら意義のある ことだと示唆した.

 実際に,幼いころに言葉や文化の問題で苦労を経験 した外国籍児が日本で保育士資格を取得し,保育園に 勤務している例がある.人口の約15%が外国人である 群馬県大泉町にも,外国籍保育士が保育所に勤務して,

多文化共生保育に関わる問題への対応に当たっている.

しかし,実際に外国籍保育士が保育園に勤務する例は 少なく,多文化共生保育における外国籍保育士に関す る報告はほとんどみられない.

立正大学大学院社会福祉学研究科博士後期課程

キーワード:外国籍保護者,外国籍保育士,日本人化,多文化共生保育,群馬県大泉町

保育園における外国籍保護者の語りからみた 母語の重要性と外国籍保育士の役割

佐々木 由美子

(2)

 筆者が2011年に行った保育園園長への面接調査にお いて,群馬県大泉町の多文化共生保育への現実的対応 は,「日本人化」(小内2003)と「外国籍保育士」のふ たつに分類できることが明らかになった.「日本人化」

とは外国籍児に対して,日本語で日本流の保育を行う ことであり,「同化」と同義であると考えられる.「外 国籍保育士」が勤務している保育園では,通訳のでき る保育士として自身の経験を生かし,多文化共生保育 の現場で活躍している.一方,勤務していない保育園 では,「日本人化」の保育を実践している.

 群馬県大泉町の多文化共生保育に関わる行政の支援 は,個々の保育園からの個別の要請に対応するという 形で行われているため,小中学校に見られるような制 度化はされていない.保育園の中においても,外国籍 児に対応するための職員の配置はなく,各担任保育士 が各々担当する外国籍児に対応する.これは,日本人 児童と同じ保育実践であり,特別な配慮はしないとい う保育方針であるともいえるのではないか.

 今後,外国籍保育士の存在は多文化共生保育に関す る問題対応の有益な方策のひとつになると考えられる.

ニューカマーの子どもたちが就業年齢を超えてきた今 日,外国籍児が日本で保育士資格を取得して多文化共 生保育の現場で活躍することが期待される.また,そ のための有効な方策の具体的提案が求められている.

 そこで今回は,国際化に適合した保育の在り方を明 らかにするための一環として,群馬県大泉町の保育園 において外国籍保護者へのインタビューを試みた.そ の中で,外国籍保護者の言語コミュニケーションに対 する考えについて,および外国籍保育士が勤務するこ とにより,保育園と外国籍保護者との関係がどのよう に変容したのかについて調査し,検討したので報告す る.またこれがより質の高い多文化共生保育への一助 となれば幸いである.

1 .対象と方法

 対象は大泉町の公営保育園である.定員は90名であ り,園児の約3割を外国籍児が占める.2012年8月現 在の外国籍児童数は30名であった.2012年4月からペ ルー国籍を持つ保育士が勤務して,多文化共生保育に 関わっている.

 調査対象者はその保育園に子どもを通園させている 外国籍保護者5名および外国籍保育士である.

 調査は2012年8月に実施した.各外国籍保護者に対

して30分程度のインタビューを行い,本人の同意を得 た上で IC レコーダーを用いて音声を録音した.また,

調査の内容については研究報告にのみ使用することを 口頭で伝え,承諾を得た.また,外国籍保育士に対し ては約1時間のインタビューを行った.

 外国籍保護者へのインタビュー方法は対象者の考え を引き出し,かつ共通点および相違点が抽出できるよ う半構造化形式とした.さらに,最も自分の考えを表 現できる母語でのインタビューが適当と判断し,外国 籍保育士が通訳として介在した.

 得られた音声データをもとに各対象者のストーリー を再現し,分析と考察を行った.音声データに関して は,その日本語訳について外国籍保育士が確認を行っ た.

2 .群馬県大泉町の子どもに対する多文 化共生

2 . 1  概 要

 群馬県大泉町は群馬県の南東に位置し,面積は17.93 平方キロメートルと比較的小さな町である.2013年4 月30日現在の総人口は40,754人,そのうち外国人は5,910 人で外国人の人口比は14.5%にも上る.

 大泉町の急激な外国人人口の増加は,1990年の入管 法の一部改正により,南米日系人の企業への就労者が 急増したことによるものである.そして長引く母国の 経済情勢の中では帰国しても就職することは難しく,

日本と同程度の収入を得ることも困難なため,当初は

「出稼ぎ」として単身で来日した外国人も,家族を呼び 寄せたり結婚して家庭を持つ中で日本での滞在期間が

「長期化」した.このような状況の中,同町は言葉や文 化,習慣の違う人たちが共に安心して快適な生活が送 れる「秩序ある共生のまちづくり」を目指し,様々な 事業を展開し,在住する外国籍の方々へのニーズに応 えようとしている.

 こうした多文化共生事業の中,教育への支援として は,すべての公立小中学校における「日本語学級」の 設置や,通訳のできる指導員の配置があげられる.ま た,ブラジル人学校の生徒を対象に,「子どもの健全育 成を目指した事業」として,防犯 ・ 防災教室,交通安 全教室をはじめ,新型インフルエンザの予防教室や,

各種体験事業を行っている.しかし,保育現場への支 援は現在も制度化されておらず,個々の園に委ねられ ている.

(3)

 大泉町の多文化共生保育に関しては,これまでにも 報告が続けられてきた.林(2001)は,保護者は今の 保育に不安を感じているというよりも子どもが大きく なった時の将来に不安を感じ,その将来の不安を軽減 するには,自分の出来る範囲で今どのように子どもを 保育すればいいのかという悩みを抱えていると述べて いる.そして保育園や町役場では問題がないと思われ ている外国人保育も,保護者を考慮に入れた広い意味 での保育としては不足している部分が多いと問題提起 した.

 爾(2001)は,大泉町の多文化保育に関するサポー トが制度化されていない理由について,町は個々の園 からの要請において,可能な限り対応するという姿勢 をとっているという.加えて,多文化共生保育におい ては,行政の制度にとらわれがちであるが,現場から の要請に対して,柔軟に対応していくことが出来るた めだと述べている.

 品川 ・ 野崎(2007)は,ポルトガル語を少し覚えた りする保育士は見受けられるが,全体としてみればそ れは少数であり,多くの者はジェスチャーによって伝 わらない日本語を補っており,外国人児童だから特別 という配慮はしていないと述べている.

 野崎 ・ 品川(2009)は,母国の文化を尊重しつつ日 本の文化を伝えていくことができればそれが理想であ るとしている.しかし,現実問題としてはひとまず母 国か日本,どちらかを選択させる必要にせまられてい る.その時,日本の文化を尊重し,外国人園児たちを

「日本人化」しようとする保育方針は,より文化の壁と 衝突しやすく,結果として困難を招きやすいようであ ると述べている.

 これまでの論考から,大泉町の多文化共生保育は,

外国人故の配慮をせず,日本語による日本流の保育が 日本人と同様に実施されてきた.これが小内のいう「日 本人化」の側面である.このように大泉町の多文化共 生保育に関する研究は継続的に行われてきたが,現状 や状況を扱ったものであり,いずれも具体的な改善策 や提言までに踏み込んで論じられてはいない.そして,

問題として取り上げられた課題は必ずしも施策に反映 されているとは思われない.このことも本研究を行っ た一つの理由である.

2 . 2  外国籍保育士の背景

 外国籍保育士に対するインタビューから以下の背景

が明らかとなった.

 調査対象の保育園に勤務する外国籍保育士は,ペルー からの移住者である.6歳で来日し,保育園や幼稚園 には通わず小学校に入学した.ここで,1 , 2年次に は通学する小学校で開講している「日本語教室」に入 り,3年生になってから普通クラスに入った.言葉が わからない苦労と,クラスメートから仲間はずれにさ れ,「国へ帰れ」などといじめられたこともあり,つら い日々を過ごしたこともある.日本語を話せない両親 に対して,反発したこともあるという.その中で,日 本語を覚え,母語の忘却を避けるためスペイン語の勉 強も続けた.また,ブラジル国籍の友人も多かったた め,ポルトガル語も勉強し,現在は日本語,スペイン 語,ポルトガル語でのコミュニケーションには支障が ない.

 保育士を目指した理由について,自分の経験や言語 を生かし,言葉や文化の違いで苦労をしている子ども たちの役に立ちたいからだという.

 保育士資格を取得してから,群馬県大泉町の近隣に ある私立の保育園に勤務した.その園も外国籍児が多 く在園していた.そこでは外国籍児とその保護者との 通訳,書類等の翻訳が主な仕事で,子どもと関わる機 会が非常に少なかった.そのため,保育士でありなが ら,通訳者としての業務が主となり,他の保育士たち と隔たりを感じた.外国籍保育士は通訳ではなく,保 育士として子どもと関わりながら,言葉のわからない 子どもの想いを保育者や日本人児童に伝えていく援助 をしたいという気持ちからその園を退職した.現在は 大泉町の調査対象園で保育士として子どもたちと関わ りながら,日本人児童および外国籍児の支援を行って いる.

 そして,外国籍児とその保護者の気持ちを汲み取り,

日本人保育士との媒介者になるよう努力をしている.

さらに,外国籍児に対しては母語の忘却に繋がらない よう,母語と日本語の対応を提示しながらの声掛けが 必要であると考え,実践している.

3 .結 果

3 . 1 .外国籍保護者の背景

 今回のインタビュー調査の対象となった外国籍保護 者については,その背景を児童の年齢順に表1にまと めた.対象者は全員が町内にあるそれぞれ別の工場に 勤務している.

(4)

 在日年数は記載のとおり長く,一見すると日本文化 や日本語に抵抗なく溶け込んでいるように見える.し かし外国籍保育士との事前打ち合わせから,実際には 日本語のみでのコミュニケーションは円滑とはいえな いことがわかった.そこで,最も自分の考えを表現で きる母語によって実態を知ることが適当と判断したた め,外国籍保育士に通訳を依頼してのインタビュー調 査とした.

表 1 :調査対象の背景

保護者  国籍 在日年数 園児年齢

母A ブラジル 7 5

父B ペルー 15 5

母C ブラジル 25 5

母D ブラジル 16 4

父E ブラジル 18 3

3 . 2  子どもとのコミュニケーション言語

 外国籍児は,保育園においては日本語でコミュニケー ションを行っているが,家庭での使用言語は母語であ ることが判明した.そのうち2つの家庭に関しては,

母親がほとんど日本語がわからないため,子どもが母 親に日本語を教えるという事もあるという.

 以下に実際に外国籍保護者が語った内容を記述する.

調査の趣旨として考えられる発言には下線を引いた.

(以下同様)

母A

 日本にいる以上どんどん日本語を覚えるのはいいが,

母語や母国を忘れてしまうことは不安なので,家の中で は母語を使い,自分たちは日本人ではない外国人だから と小さいころから言っていた.日本人から外国人といわ れるので,外国人であるということを教えている.

父 B

 子どもは日本語を話す.家ではスペイン語を話し,大 きくなったときに子どもがどちらに住むかわからないの で両方に対応できるように家庭ではしている.

母C

 子どもは日本語とポルトガル語を話すが,混ぜこぜに なっている.日本語や日本文化を覚えることはとても良 いことだと思うが,ブラジルの文化やポルトガル語を忘 れたら困るので,家で教えている.

母D

 保育園では日本語だけなので,ポルトガル語を忘れる のではないかと不安なので,家ではポルトガル語で話す.

パパがペルー人なのでスペイン語もわかる.日本語もポ ルトガル語もスペイン語もわかるようになればいいと思 う.

父E

 家ではポルトガル語を話して,大人になってブラジル に帰るときに困らないようにしている.

 家庭において母語で会話をするのは,将来帰国した 際に子どもが困らないように,あえて使用しているの だというニュアンスの回答であった.

 また,母国の文化も維持できるよう家庭では,母国 の習慣を守ったり,母国の教育テレビを視聴させたりし ていた.母国特有の行事なども家庭の中で行っている.

3 . 3  外国籍保育士の存在

 5名全ての外国籍保護者は,外国籍保育士が勤務し ていることで,コミュニケーションに関する心配がな くなったという.

 以下に実際に外国籍保護者が語った内容を記述する.

母A

 パパは日本語がわかるので,保育園の行事にはパパだ けが参加していた.私は国の言葉を話すので,子どもが 恥ずかしい思いをする.でも,言葉がわかる人がいるの で自分が行事に参加することができるようになった.

父B

 今まで担任の先生と話が伝わらないことがあったが,

言いたいことが言えるようになったのでよかった.でも,

ポルトガル語スペイン語がわかる人が居てくれて自分は 良いが,ほかの国の人にはその国の言葉がわかる人が一 人ずつ居たらよいと思う.

母C

 保育園からの連絡がわからない時には聞くことができ るので,持ち物など忘れることがなくなった.

母D

 保育参観で物作りをしたことがあったが,日本語がわ からないので何をしたらよいのかわからなかったが,ポ ルトガル語で説明してくれる人がいたので楽しく参加す ることができた.今は色々相談にのってもらって,わか りあっている.

(5)

父E

 病気で子どもが欠席するときの電話では,言葉のわか る保育士を呼び出して伝えるため,正確に症状が伝わる.

また,自分の思っていることを細かく伝えられるように なった.

 このように,外国籍保育士が保育園に常時勤務して いることで,園からの連絡,説明の伝達および,保護 者からの情報,意見等の伝達への不安が解消された.

保育園を欠席する際の電話連絡においても,外国籍保 育士を呼び出して伝えるようになった.特に,病気の 症状などを伝えるときには,正確にその内容が伝達で きたので安心感があるという.また,「工作」を行う保 育園行事に参加した際に,言葉の理解ができず,何を してよいかわからなかった保護者が,外国籍保育士の 通訳により楽しく参加できるようになった.そしてこ のインタビューにおいて,「自分の言いたいことが言え るようになった」「わかりあえる」という言葉があっ た.

4 .考 察

 先行研究および現在までの調査から,言語コミュニ ケーションに関わる支援は,書類や掲示物 ・ 園便りな どを外国語で用意したり,ひらがなやカタカナ,ロー マ字でルビを振るなどしている保育所での実践が挙げ られる.また通訳ボランティアの派遣や通訳の配置な どで対応している保育所もある.そして,保育士が母 語を覚え,意識的に母語で話さない限り保育園におい ては,母語を話す機会がない.ほとんどの保護者は母 語を習得 ・ 維持させたいと考えているが,子どもが母 語を忘れてしまう等の,悩みを持っている.このよう に,通訳 ・ 翻訳の必要性は多く論述されている.しか し,実際には通訳者の加配がなされている保育園の数 はそう多くない.その原因については,人材不足の問 題やコストの問題等が考えられる.

 今回のインタビュー調査の結果,保護者は「日本人 化」よりも,母語および母国文化の維持を望んでいる ことが明らかとなった.

 中川(2003)は,外国籍児はその多くが長時間保育 であり,日本語を話しやすくなることから親子のコミュ ニケーションに問題が生じる場合があると指摘する.

本調査の中で,ひとりの母が「国の言葉を話すので,

子どもが恥ずかしい思いをする」と語ったが,外国籍 保育士も子どもの頃,日本語が話せない母親を友達に

見られるのが嫌で,学校行事には参加してほしくなかっ たという.この背景には「日本人化」の方針があるの ではないかと考えられる.

 劉ら(2010)は,外国人労働者に関する調査におい て,貧困が子ども世代にも再生産されるのは,子ども の日本語能力も十分でなく,帰国して教育を受けるた めの母語も十分でないことからくることは明白である と述べている.

 日本で生活する以上,外国籍児が日本語を習得する ことは必要なことであり,保育者が外国籍児に対して 熱心に日本語教育を行うこと自体は問題ではない.し かし,第二言語の習得に母語が重要であるということ を再確認する必要があるのではないか.

 太田(2000)は,残念ながら現在のニューカマー児 童,生徒の教育においては,母語が子どもの第二言語 の習得,および知的発達において,重要な役割を果た すという認識にもとづいた母語教育は行われていない,

と指摘している.また,母語能力が確立されていない 時期に,母語教育の機会が閉ざされた状態で,第二言 語のみによる学習を行うことは,基礎的な認知能力の 発達に不可欠で重要な言語システムを破壊し,表現と 思考の道具としての母語も第二言語も用いることがで きない状態に子どもを陥れていると,母語の重要性を 述べている.

 また,Cummins(1989)は,言語の相互依存説(inter- dependenceprinciple)に基づいて,児童の学習面にお いて母語と第二言語の発達は相互依存し,母語による 学力向上を行いながら,第二言語を習得することは,

学習者の言語能力全体を伸ばすと主張している.これ は言語習得において,母語での基礎があると,第二言 語の習得の手助けとなるという事である.これらの理 論を裏付ける研究のひとつとして,Treger & Wong

(1984)が母語の能力と第二言語の英語のリーディング に有意な関係があるとした報告があげられる.

 実際に大泉町においても,言葉の問題で授業につい て行けず不登校 ・ 不就学になる外国籍児が地域で行き 場のない状況になり,犯罪や地域住民とのトラブルを 引き起こし,社会問題にもなっている.これらの問題 に関する根源はやはり,幼児期の言語獲得の方法にあ るのではないだろうか.母語教育および,母語の維持 は外国籍児にとって非常に重要であり,それは言語獲 得の時期である幼児期の保育実践が大きく関わると考 えられる.

(6)

 外国籍保育士は,日本語があまり理解できない両親 とのコミュニケーションを円滑にするためには,母語 を亡失することなく維持させることが重要であると身 を以て感じたという.こうした自身の経験を生かし,

保育園では,母語 ・ 母国文化を維持させるよう外国籍 児と関わっている.

 本調査においてさらに明らかになったことは,外国 籍保育士が勤務することで,外国籍保護者が母語でコ ミュニケーションが取れ,自分の言いたいことが言え るようになったことである.また,外国籍保育士の通 訳により保育園行事にも楽しく参加できるようにもなっ た.これは,保育園行事をとおして日本人保護者との 関係を築くきっかけともなっている.

 品川(2011)は,日常の保育においては,通訳の存 在は大変重要であり,通訳が勤務していることで子ど もへのコミュニケーションも,保護者へのコミュニケ

―ションも飛躍的に進むと述べている.また通訳が子

どもの母語や文化を保障する役割として機能しており,

多文化保育の質の向上のためには,単なる通訳者とし てだけではなく,子どもの文化保障の役割としての通 訳配置が重要な視点となると示唆した.多文化共生保 育とは,お互いの文化を尊重しつつ共に成長すること であり,その意味においても子どもの文化を保障する ことは重要であると考える.

 外国籍保育士は幼いころに言葉や文化の問題で苦労 した経験を持っている.そうした自身の経験から,現 在言葉や文化の問題で苦労をしている子どもたちの気 持ちを汲み取ることが可能であると考えられる.また,

外国籍保育士は大人になった今,両親に反発していた 頃の自分を振り返って,両親に対する申し訳ない思い も自覚している.そしてその時の自分の気持ちも分析 できており,保護者の側に立った見方もでき,保護者 の想いに寄り添うこともできている.

 外国籍保育士は単なる通訳ではない.言葉や文化が わかるのみならず,保育の知識もある.正に,子ども と関われる通訳であり,通訳のできる保育士である.

従って,外国籍保育士の存在が外国籍児やその保護者 にとっても安心を与えられ,より良い保育へと繋がる ことが期待できる.

 しかし,外国籍保育士が多文化共生保育の現場で貢 献している例は多くない.ニューカマーと呼ばれる外 国籍の人々の子どもたちが就業年齢を超えてきた今,

外国籍児が日本で保育士資格を取得して多文化共生保 育の現場で活躍することが期待される.

謝 辞

 本調査にあたり,ご協力いただいた保育園の園長先生をはじ め,外国籍保育士,外国籍保護者の方々に心より感謝申し上げ ます.また,本稿をまとめるにあたり,ご指導くださいました 立正大学大学院社会福祉学研究科の溝口元教授に深謝いたしま す.

引用文献

1)Cummins,J.(1989)EmpoweringMinorityStudents,Sacra- ment:CaliforniaAssociationforBilingualEducation 2)林 恵(2001)群馬県大泉町における外国人の就学前保育

の現状について.平成11年~13年度科学研究費補助金研究 成果報告書 pp.81-94

3)中川美子(2003)外国人の子どもの保育に関する調査……

東海地方におけるブラジル人の多い保育園を中心として.

愛知県立大学文学部論集.社会福祉学科編,52,pp.9-24 4)野崎剛毅・品川ひろみ(2009)日系ブラジル人保育の課題 

國學院短期大学紀要,26,pp.103-115

5)小内透編著(2003)『在日ブラジル人の教育と保育 群馬県 太田・大泉地区を事例として』明石書店

6)大泉町ホームページ 統計情報(http://www.town.oizumi.

gunma.jp)

7)太田晴雄(2000)『ニューカマーの子どもと日本の学校』国 際書院

8)劉郷英・中田照子・吉田幸恵他(2010)在日外国人同道者 家族の生活と子育て環境に関する調査研究……愛知県在住 の日系ブラジル人家族を中心として.環境経営学研究所年 報,9,pp.39-4

9)佐々木由美子(2012)多文化共生保育における言語コミュ ニケーションの意義.立正社会福祉研究,13(2),pp.7-13 10)品川ひろみ(2011)多文化保育における通訳の意義と課題.

保育学研究,49(2),pp.108-119

11)品川ひろみ・野崎剛毅(2007)大泉町における外国人保育 の実態.「調査と社会理論」・研究報告書,23,pp.67-137 12)爾寛明(2001)外国籍の子どもたちの保育への行政のとり

くみ.群馬県大泉町 はらっぱ,213,pp.16-19

13)Treger,B.&Wong,B.K.(1984)Therelationshipbetween native and second language reading comprehension and secondlanguageoralability.InC.Rivera(Ed),Placement procedures in bilingual education: Education and policy issues.Clevedon,England:MultilingualMatters

(2013年8月10日受理)

参照

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