首都高速道路における工事規制時の自由流速度に関する分析*
Analysis of Free Flow Speed under the Roadwork on Tokyo Metropolitan Expressway*
割田博**・田畑大***・深井靖史
****・山下賢一郎 *****
By Hiroshi WARITA**・Dai TABATA***・Yasushi FUKAI****・Kenichirou YAMASHITA*****
1.はじめに
近年、首都高速道路(以下、首都高)においては、効 率的な維持補修や構造物に抜本的な対策を実施するため、
長区間・長時間の規制が増加している。この様な規制は、
利用者に高速道路会社が原因者と認識される速度低下を もたらすため、的確な交通対策につながる、精度の高い 交通影響予測が求められている。
これまでも、通常時や事故発生時を対象とした交通状 態に関する研究は、数多くみられた
1)2)
。しかしながら、工事規制時については、交通容量に関する分析
3)
、工事 規制時のドライバーの反応挙動に関する研究4)
があるも のの、基礎的な交通現象(交通流率や速度、密度)に関 する知見は殆ど見当たらない。一方で、首都高では、オンラインシミュレータを用い た交通状況予測システムを構築中であり、その際には工 事規制の条件も入力して経路選択をさせることを考えて いる。当該システムでは、工事規制時の交通容量は考慮 するが、自由流速度については通常の状態と同じ速度を 用いて所要時間を算出しており、特にネットワークを考 慮した予測(シミュレーション)の実施時には、精度の 高い予測が可能とは言い難い。
そこで本研究では、工事規制時の基礎的な交通状況を 分析し、経路選択に影響を与える自由流速度と工事規制 の関係解明を試みる。
*キーワーズ:工事規制、自由流速度
**正員、博(工)、首都高速道路(株)
(東京都千代田区霞が関1‑4‑1、TEL03‑3539‑9389、
E‑mail:[email protected])
***首都高速道路(株)東東京管理局
(東京都中央区日本橋箱崎町43‑5、TEL03‑5640‑4856、
E‑mail:[email protected])
****正員、工修、(株)福山コンサルタント
(東京都江東区亀戸2‑25‑14、TEL03‑3683‑0722、
E‑mail:y‑[email protected])
*****工修、(株)福山コンサルタント
(東京都江東区亀戸2‑25‑14、TEL03‑3683‑0722、
E‑mail:[email protected])
2.対象とする工事の概要
首都高では、鋼床版補修のための24時間規制工事が実 施されている。
中でも、図−1に示す中央環状線内回り葛西JCT→
清新町入口については、表−1に示すように同一区間で 7回実施されており、これを分析対象とした。
規制方法としては、追越車線のみ走行可能(走行車線 を規制)となっており、舗装工事箇所付近ではカラーコ ーンが図−2のようにセンターライン上に置かれ、その 他の箇所では走りやすいようにセットバックして配置さ れている。
図−1 工事規制箇所
図−2 車線規制状況
表−1 工事規制概要
規制 規制長 規制日時
① 走行 2.5km 平成 20 年 4 月 20 日(日) 5:40 から翌 3:45
② 走行 2.5km 平成 20 年 6 月 1 日(日) 5:30 から翌 3:00
③ 走行 2.5km 平成 20 年 11 月 30 日(日)5:35 から翌 4:35
④ 走行 2.0km 平成 20 年 12 月 7 日(日) 5:30 から翌 3:55
⑤ 走行 1.8km 平成 21 年 4 月 26 日(日) 5:40 から翌 4:40
⑥ 走行 1.8km 平成 21 年 5 月 10 日(日) 5:45 から翌 3:20
⑦ 走行 2.7km 平成 21 年 6 月 7 日(日) 5:35 から翌 2:55
① 平成20年4月20日 ② 平成20年6月1日 ③ 平成20年11月30日
④ 平成20年12月7日 ⑤ 平成21年4月26日
⑥ 平成21年5月10日 ⑦ 平成21年6月7日 規制概念図
47.5kp
48.2kp
48.0kp
47.3kp
入口 通行止 平井大橋
〜四つ木 規制あり
清新町 清新町 清新町 清新町
図−3 規制概念図
3.QV及び交通量速度変化図の比較
比較対象として、工事規制が行われていない平成20年 5月18日(日)を通常時として選択し、表−1に示す7ケ ースを工事規制時として分析を行った。尚、大型車混入 率については、同区間・同曜日・同時間帯の工事である ことから、ここでは考慮しないこととした。
工事規制時の例として、平成20年4月20日のデータを 図−4に示し、これから推測されることを以下に列挙す る。
・明らかに規制時間内の自由流速度が低下している。
・47.71kpと48.02kpの間で速度が回復し、47.71kpで キャパシティボール
5)
が出現している。・47.71kpと48.02kpに工事箇所があり、この付近がボ トルネックとなっている。
・48.02kpは、6時台から速度が高低をくり返し、10時 台に60km/時まで回復するも、11時台〜21時台まで は20km/時に低下し、渋滞が定着している。
・21:00〜23:30まで速度が35Km/時に上昇したことで、
捌け交通量も上昇している。
47.71kp
48.02kp
48.29kp
48.64kp
48.94kp
49.42kp 49.43kp 清新町
SFRC 施工区間 150m
47.83kp
47.98kp
47.53kp 車線規制区間
2510m
車線規制開始
車線規制開始
進行方向
20‑01‑69 追越車線 交通量速度変化図
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200
05:00 06:00 07:00 08:00 09:00 10:00 11:00 12:00 13:00 14:00 15:00 16:00 17:00 18:00 19:00 20:00 21:00 22:00 23:00 00:00 01:00 02:00 03:00 04:00
交通量(台/5分/車線)
0 20 40 60 80 100 120
速度(km/時)
交通量 速度
20‑01‑70 追越車線 交通量速度変化図
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200
05:00 06:00 07:00 08:00 09:00 10:00 11:00 12:00 13:00 14:00 15:00 16:00 17:00 18:00 19:00 20:00 21:00 22:00 23:00 00:00 01:00 02:00 03:00 04:00
交通量(台/5分/車線)
0 20 40 60 80 100 120
速度(km/時)
交通量 速度
20‑01‑71 追越車線 交通量速度変化図
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200
05:00 06:00 07:00 08:00 09:00 10:00 11:00 12:00 13:00 14:00 15:00 16:00 17:00 18:00 19:00 20:00 21:00 22:00 23:00 00:00 01:00 02:00 03:00 04:00
交通量(台/5分/車線)
0 20 40 60 80 100 120
速度(km/時)
交通量 速度
規制時間 5:40〜3:45 規制時間 5:40〜3:45 規制時間 5:40〜3:45 20‑01‑69 追越車線 QV図
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 130 140
0 50 100 150 200
交通量(台/5分/車線)
速度(km/時)
20‑01‑70 追越車線 QV図
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 130 140
0 50 100 150 200
交通量(台/5分/車線)
速度(km/時)
20‑01‑71 追越車線 QV図
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 130 140
0 50 100 150 200
交通量(台/5分/車線)
速度(km/時)
QV図 交通量速度変化図
図−4 車両感知器設置位置とQV図・交通量速度変化図(平成 20 年 4 月 20 日)
4.自由流速度(領域)の分析
本研究では、工事規制区間内での自由流を以下のよう に定義する。
・前車の影響を受けない(追従していない)車頭時間 として7.5秒以上とする(40台/5分/車線以下)。
・交通量が20台/5分/車線以下のデータは殆ど存在し ないので、20〜40台/5分/車線の速度とする。
・臨界速度Vcを上回る。
(1)臨界速度(Vc)の算出
自由流速度の判定に際し、以下のようにVcを算出し た。
・規制帯の中でのボトルネックの特定。
・ボトルネック直上流のQV図を用いて、回帰的に仮 臨界速度(Vc´)を算出。
・Vc´以上と以下のデータを分類し、それぞれの回 帰式を求め、その交点を新しいVc´とする。
・上記と同じことをくり返し、その差がなくなった所 をVcとした(図−5)。
この方法で4月20日の臨界速度をVc=45.6km/時とし、
同様に他の日についても算出した。
今回自由流領域とするのは、20〜40台/5分/車線且つ Vc以上であるので、図−5中の自由流領域の速度を分 析対象とした。
20‑01‑70 追越車線 QV図
y = ‑0.2255x + 78.196
y = 0.4015x ‑ 12.5 0
10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 130 140
0 50 100 150 200
交通量(台/5分/車線)
速度(km/時)
自由流領域
(20〜40台/5分/車線)
Vc=45.6km/時
図−5 Vcの算出過程
(2)自由流速度
自由流速度は、渋滞等の下流側の影響を受けないこと から、全地点の85パーセンタイル速度について表−2,
3,図−6に整理した。
表−2 すべての地点の自由流領域での 85 パーセンタイル速度
Kp 4月20日 6月1日
11月30日12月7日 4月26日 5月10日 6月7日 通常時 47.71 97.8 83.1 95.7 100.9 99.6 94.3 79.0 112.5 48.02 80.2 91.2 75.9 75.4 76.7 75.6 78.7 101.3 48.29 75.2 76.1 75.1 72.9 72.3 70.4 76.7 99.3 48.64 81.3 78.0 79.0 73.4 74.2 77.9 78.0 104.9 規制長 2.5km 2.5km 2.5km 2.0km 1.8km 1.8km 2.7km
単位:km/時
:工事規制箇所
表−3 通常時との相関
4月20日 6月1日 11月30日 12月7日 4月26日 5月10日 6月7日 相関係数 0.977 0.738 0.972 0.915 0.924 0.986 0.702
工事日別 場所別 自由交通流域における85%タイル速度
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120
47.71Kp 48.02Kp 48.29Kp 48.64Kp
感知器箇所
速度(km/時)
4月20日 6月1日 11月30日 12月7日 4月26日 5月10日 6月7日 通常時 清新町カーブ終了直後
進行方向
図−6 工事日別・場所別の自由流における 85パーセンタイル速度
・平成20年6月1日と平成21年6月7日以外は通常時の速 度変化と相関係数0.9以上を示しており、通常時の 速度が道路構造に支配されていると考えれば、工事 規制時の速度も道路構造に支配されていると類推さ れる。
・平成 21 年 4 月 26 日と 5 月 10 日の 48.29kp におけ る低速度の原因としては 48.6kp→48.36kp のカーブ 部でSFRC工事を実施しており、平面曲線がきつ い部分に舗装工事区間があった影響と考えられる。
・自由流の速度は、規制長というよりも、工事区間の 道路構造により速度が支配されていると考えられる。
(3)他の自由流領域での速度
ここでは交通量レベルによる工事規制内の速度変化を 分析し、他の自由流領域についても考察する。
① 同一箇所同一規制の場合の比較
工事規制を実施した7日のうち、同地点がボトルネッ クとなった平成20年4月20日,6月1日,11月30日の自由 流領域での85パーセンタイル速度について示したのが、
図−7である。
・通常時100km/時に対し、3日ともに約80km/時とな っており、約20km/時の低下となっている。
20‑01‑70 追越車線
y = ‑2.2675x + 106.02
y = ‑5.2535x + 91.63
0 20 40 60 80 100 120
1‑19 20‑39 40‑59 60‑79 80‑99 100‑119 120‑139 140‑159 160‑179 交通量(台/5分/車線)
速度85パーセンタイル値(km/時)
通常時 4月20日
6月1日 11月30日
平均 線形 (通常時)
線形 (平均)
自由流領域
図−7 自由流領域での速度
② 同一箇所における速度の変化
前出図−7に示す交通量40台/5分/車線以上の領域時 の速度変化をみると、通常時には80台/5分/車線まで100 km/時以上をキープしているが、工事時には70km/時まで 低下している。通常時と工事時の交通量増加による速度 低下率は、かなり異なっていることがわかる。
③ 同一箇所における速度分布
Vc以上の非渋滞域全体を対象とした速度分布を、図
−8に示す。
3日とも、通常時の速度に比べると、50パーセンタイ ル値で30km/時程度低下していることが分かる。一般に 用いられている85パーセンタイル値でも、30km/時程度 の差がみられる。
20‑01‑70 追越車線
87 .3
5 3. 1
4 8 .2 5 2. 6
8 3. 9
49 .5
4 2. 4 44 .4
1 03 . 3
83 .7
7 9. 4
74 .3 99 .6
7 0. 7 7 4 .7
7 1. 5
9 4 .263 . 5 6 6. 1 65 . 7
0 20 40 60 80 100 120
通常時 4月20日 6月1日 11月30日
速度パーセンタイル値(km/時)
規制
図−8 自由流領域の速度分布
5.まとめと今後の課題
本研究では、中央環状線内回り葛西JCT〜清新町間 の工事規制時における、自由流領域の速度について分析 した。
(1)自由流領域
・工事時と通常時での自由流領域での速度は、100km/
時、80km/時で、約 20km/時の差が生じている。
・規制区間の自由流域速度についてみると、区間の前 後関係は通常時との相関が高いことから、道路構造
(縦断勾配,平面曲線)との関係がある。
・工事区間が清新町カーブにある場合に、最も自由流 領域速度が低いことから、工事区間の箇所との関係 が強いことが想像される。
・自由流領域でも、よそ見等による工事区間での速度 低下が発生していることが想定される。
(2)その他の流域
・工事時と通常時の速度は、同地点で85パーセンタイ ル値,50パーセンタイル値ともに30km/時程度の差 が生じている。
・工事時の5パーセンタイル速度と95パーセンタイル 速度の幅は30〜37km/時となっており、通常時の20k m/時に比べて幅が広くなっており、Vc以上の非渋 滞領域とはいえ、1車線しかない中で密度にバラツ キのあることが予想される。
これらから、精度の高いシミュレーションを実施する ためには、工事規制時の自由流領域速度及び交通量増加 による速度低下の傾きをモデル上で考慮しないと、精度 の高い予測結果を得ることが困難となる。
今後は、今回の研究結果の妥当性を検証するため、工 事箇所の幅員,道路構造等との関係を他の箇所でも分 析・確認する所存である。
参考文献
1) 割田博,岡村寛明,森田綽之,桑原雅夫:速度分析 を通じた運転支援,シミュレータのパラメータ,道 路設計への提言,第 4 回 ITSシンポジウム2005,pp.271
‑276,2005
2) Hiroshi WARITA , Hiroaki Okamura , Hirohisa MORITA and Masao KUWAHARA : Analysis of Road Potential and Bottlenecks based on Percentile Speed,5th International Symposium on Highway Capacity and Quality Service,pp.299 ‑307,TRB,
2006
3) 古賀浩樹,菅野寛政,深井靖史:首都高速3号渋谷 線における集中工事時の交通容量分析,第 27 回交 通工学研究発表会論文報告集,Vol.27,pp.37 ‑40,
2007
4) 飯田克弘,Dao Quynh Anh,小川清香:高速道路工 事規制区間における運転者の脇見状況と車両挙動と の関連性分析,第 28 回交通工学研究発表会論文報 告集,Vol.28,pp.29 ‑32,2008
5) 割田博,赤羽弘和,船岡直樹,岡村寛明,森田綽 之:首都高速道路におけるキャパシティボールの抽 出とその特性分析,第 29 回土木学会土木計画学研 究・講演集(CD‑ROM),2004