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タイの大学およびその他の教育機関における日本語教育の現状

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(1)

研究論文

タイの大学およびその他の教育機関 における日本語教育の現状

アサダーユット チューシー

要 旨

タイにおける日本語教育は

1960

年代に高等教育機関から始まったが、国際交流 基金の

2015

年の調査結果では、中等教育機関での学習者数が過半数を占め、次に、

民間の語学学校での学習者数、高等教育機関での学習者数の順となっており、これ までの中等教育機関及び日本語学校の学習者増加の要因、高等教育機関の学習者の 微増の要因が挙げられている。考察した結果、日本語学習者への影響を及ぼす要因 は、学習目的の問題、自学自習が可能な環境、観光ビザの免除と、他の外国語学習 への関心である。さらに、大学の事情を教師・教室、カリキュラム、教授法・評価 方法、大学院コース、大学の日本語講座の問題の

5

項目で考察した。特に講座の問 題を学習者の育成の限界に関する問題と講座の運営に関する問題を注目した。

キーワード

タイの日本語教育 バンコク国際交流基金 大学の日本語講座 学習者数 増 加・減少の要因

1

.はじめに

タイにおける日本語教育は戦前からもあったが、本格的なものは

1965

年のタマサート 大学及び

1966

年のチュラーロンコーン大学の日本語講座の設立によって始まり、

1971

年 にチュラーロンコーン大学でタイ国内初の主専攻カリキュラムができた。大学における日 本語講座が普及する一方で、民間の語学学校も普及してきた。国際交流基金(

2017

年度)

の報告(

2015

年の調査結果)によれば、近年、日本語学習者が最も多いのは大学レベルで はなく中等教育の中学校・高等学校レベルで、次に、社会人、一般学生が通っている語学 学校であり、大学レベルの学習者数は

3

位になった。

このような状況を呈するまで、タイの日本語教育はどのように発展してきたのであろう か、また中等教育の学習者が増加してきたのに対して、高等教育(大学)の学習者が増え ないのはなぜか等の疑問が出てくる。そこで、本稿は、これまでのタイにおける日本語教

論文の種類(研究論文・展望論文・研究ノート)は入力してください。

研究論文

タイの大学およびその他の教育機関 における日本語教育の現状

アサダーユット チューシー

要 旨

タイにおける日本語教育は

1960

年代に高等教育機関から始まったが、国際交流 基金の

2015

年の調査結果では、中等教育機関での学習者数が過半数を占め、次に、

民間の語学学校での学習者数、高等教育機関での学習者数の順となっており、これ までの中等教育機関及び日本語学校の学習者増加の要因、高等教育機関の学習者の 微増の要因が挙げられている。考察した結果、日本語学習者への影響を及ぼす要因 は、学習目的の問題、自学自習が可能な環境、観光ビザの免除と、他の外国語学習 への関心である。さらに、大学の事情を教師・教室、カリキュラム、教授法・評価 方法、大学院コース、大学の日本語講座の問題の

5

項目で考察した。特に講座の問 題を学習者の育成の限界に関する問題と講座の運営に関する問題を注目した。

キーワード

タイの日本語教育 バンコク国際交流基金 大学の日本語講座 学習者数 増 加・減少の要因

1

.はじめに

タイにおける日本語教育は戦前からもあったが、本格的なものは

1965

年のタマサート 大学及び

1966

年のチュラーロンコーン大学の日本語講座の設立によって始まり、

1971

年 にチュラーロンコーン大学でタイ国内初の主専攻カリキュラムができた。大学における日 本語講座が普及する一方で、民間の語学学校も普及してきた。国際交流基金(

2017

年度)

の報告(

2015

年の調査結果)によれば、近年、日本語学習者が最も多いのは大学レベルで はなく中等教育の中学校・高等学校レベルで、次に、社会人、一般学生が通っている語学 学校であり、大学レベルの学習者数は

3

位になった。

このような状況を呈するまで、タイの日本語教育はどのように発展してきたのであろう か、また中等教育の学習者が増加してきたのに対して、高等教育(大学)の学習者が増え ないのはなぜか等の疑問が出てくる。そこで、本稿は、これまでのタイにおける日本語教

論文の種類(研究論文・展望論文・研究ノート)は入力してください。

【特集】海外の高等教育機関における日本語教育の現状と課題:日本からは見えない文脈を検証する

(2)

育の発展から重要な要因を探り、それを比較するために、大学レベルの日本語学習に焦点 を当て、データに基づき、日本語学習者の増加率が低い要因を述べ、近い将来のタイの日 本語教育の状況を予測することを目的とする。

2

.従来の報告から伝わったタイの日本語教育の総合的な事情

本節では、様々な文献や公開のウェブサイトをまとめて、従来のタイの日本語教育の事 情を総合的に述べる。

国際交流基金(

2017

)によれば、タイの戦後の本格的な日本語教育が始まってから、

1971

年にチュラーロンコーン大学で選択科目から主専攻科目に変わり、国内初の日本語主専攻 講座が誕生した。初期は日本語及び日本研究の科目があったが、

1977

年版のカリキュラム からは、日本企業の就職を支援するビジネス関係、職業日本語的な科目が増えてきている

(チューシー

2016

)。実際に、

1980

年代から現在に至るまで、タイの日系企業は増加の傾 向にある。

1990

年代から大学における日本語講座の開講は、地方の大学、師範大学(いわ ゆる「ラチャパット大学」)、技術大学(いわゆる「ラチャモンコン大学」)まで広まってき た。

2004

年以降、師範大学・技術大学は国立大学と同様になり、教育学部以外にも人文学 部が設立され、地方の中型都市の日本語教育を支える役割を果たしてきた。

一方、

90

年代後半に、大学入学試験に第二外国語の一つとして日本語を選択できるよう になり、高等学校における日本語講座が普及してきた。ドイツ語とフランス語といった従 来の第二外国語に比べて、日本語がより難しいにも関わらず、マンガ・アニメ文化の理解 に役立つため、大学入学試験の他に自分の興味をきっかけにして日本語を学び始める学生 が増加した。そのため、高等学校では、日本語教師が不足しはじめ、人気のない科目を教 えていた高校教師に、短期研修を受講させ日本語を教えさせるということまで起こった。

バンコク国際交流基金を中心に、さまざまな研修会、教科書、ネットワークが支援され、

中等教育の日本語学習者が確保された。さらに、

2009

年には、タイ国日本語日本文化教師 協会(

JTAT

)が設立され、中等教育を中心に日本語教育の活動がさらに強化されてきている。

1

国際交流基金の調査によるタイ国内の日本語学習者数

2009

2015

年)

2009 2012 2015

全般 78,802 129,616 173,817

中等教育機関 42,400 88,325 115,355

語学学校 11,161 19,831 30,072

大学 23,707 19,908 24,789

国際交流基金の

2015

年度の調査(海外の日本語教育機関調査)によると、表

1

に示し たように、タイの全学習者数は

173,817

人に上り、

2012

年度の世界

7

位の結果から、

2015

年度では、アメリカを抜き

6

位に上昇した。中等教育の学習者も、

115,355

人に増加し、

(3)

全学習者数の

66.4

%ほどを占める結果となっている。中等教育の学習者は、

2000

年以降、

1

位を占めているが、興味深いのは、その

2

位と

3

位の交代である。日本語学校の学習者 は、

2012

年までは、大学の学習者より少なく

3

位であったが、

2015

年からは

30,072

人 になり

2

位となっている。それに対して、大学の日本語学習者は、

2012

年度の調査まで は

2

位だったが、

2015

年度の調査では

24,789

人で

3

位になった。この中には、日本語主 専攻の学習者もいれば、いくつかの初級コースを聴講する学習者もいる。これについては、

4

節で詳述したい。

高等教育では、学士課程在籍者が多数派を占めているが、

1997

年にタマサート大学で、

日本研究修士課程が、そして

1999

年にチュラーロンコーン大学で、日本語日本文学修士 課程が開設され、

2017

年には、

6

大学に増えた。修士課程はバンコクのみならず、北部の チェンマイ大学にもある。修士課程は、日本に関する研究を中心とするため、必ずしも学 習者の日本語能力を高めるという目的ではない。日本語教育と直接関連するものは、

2007

年からチュラーロンコーン大学で開設された「外国語としての日本語」修士課程である。

しかし、タイ政府の厳しい運営規則により、

2017

年に閉講された。

また、

2015

年度の調査にはないが、

2012

年度の調査には日本語学習の目的の項目があ る。それによると、タイ人学習者の第一位の目的は「日本語そのものへの興味」(

92.7%

)、

2

位は「日本語でのコミュニケーション」(

80.9%

)、

3

位は「マンガ・アニメ・

J-Pop

等が 好きだから」(

74.8%

)であり、

2009

年の

3

位の「将来の就職」を上回った。「受験の準備」

56.3%

)という、好きでも嫌いでもなく日本語を学ぶ学習者の割合も他国に比べて高いた め、注目されている(国際交流基金

2013

pp. 42-43

)。さらに、同調査では、教育上の問 題点について、「教材不足」(

63.9%

)と「学習者不熱心」(

56.1%

)が最多に挙げられてい る(

p. 43

)。

3

2017

年の日本語教育の総合的な現状

前節では、タイ国内の日本語教育の発展について、主に国際交流基金の報告を基に述べ てきた。本節では、タイにおける日本語教育の発展の重要な要因を探る。

まずは、中等教育機関の学習者の増加に関する要因である。

2009

年以降、教師不足の問 題が減少した。教材不足の問題が残ったが、その後、国際交流基金およびタイ国日本語日 本文化教師協会(

JTAT

)をはじめとする教師会1は、教師をさまざまな形でサポートして きた。国内で『あきこと友だち』シリーズ、『こはるといっしょに』シリーズ等の、手頃な 値段の教科書の出版のみならず、それに関連する補足資料、タスクシート、音声ファイル、

動画ファイル等の補足教材も提供してきた。また、生教材としては教師が

YouTube

で検索 し、適切なものを選ぶこともできる。定期的に行われる

JTAT

の研修会や集会は情報交換 の場となり、

NHK

の日本語講座等の日本からウェブ上に発信されたものの紹介ができる 場にもなっているため、今後、徐々に「教材不足」の問題も減少していくであろう。一方、

中等教育レベルには、日本語を学習して、大学まで主専攻として進学したい学習者もいる 反面、他のコースが選べないので日本語を選んだ者や、日本のことが好きだが日本語の文 法が難しく学習進度に追いつけない者もいる。そのため、この段階の学習者は、全員好意

(4)

を持って日本語を学ぶ学習者ばかりではない。そのため、「学習者不熱心」という問題が解 消する可能性は、依然低いと考えられる。

次に、

2018

年の中等教育機関と民間の語学学校の日本語教育にも影響を与える要因を以 下にまとめておく。

3.1 中・上級日本語への進学を及ぼす学習目的

タイの日本語教育は、これまで学習者数が、世界

2

位のインドネシアと同様、高等学校 で学んだ日本語を大学入学試験に活用する一方、その後、学習を継続しない学習者も多い ことが懸念されている。

タイ人学習者の学習目的に基づいて考えてみると、「日本語そのものへの興味」、「日本語 でのコミュニケーション」、「マンガ・アニメ・

J-Pop

等が好きだから」という目的は、初 級が終わればある程度達成できるが、中級または上級までの学習動機に繋げるのは難しい。

また、大学レベルでは専攻を

1

つしか選べない大学が多いため、自身の専攻に時間、労力、

集中力を払う必要があるので、日本語学習と両立することが困難になる。そのため、日本 語学習を初級の段階で終えてしまい、継続しない学習者が増えてくる。「就職への活用」を 考える学習者の場合、現在日本語を使用する仕事の中には、日本語能力試験の

N3

レベル の仕事もあるので、中級までであれば「就職への活動」という目的を十分に達成できる。

また、グローバル化された社会では、どの外国語が今後有利になるか把握しにくいため、

日本語を初級段階で終え、次の新しい外国語を学ぶ必要があると考える学習者も増えて いる。

3.2 自律学習可能な環境

タイには、日本語教材を中心に出版する出版社があるため、日本語教育に必要である場 合には、翻訳著作権を買ってタイ語版の教材を一般販売している。出版社があるために、

安価になるというメリットがある。ある高等学校の学習者は学校で『あきこと友だち』を 使用しているが、さらに『みんなの日本語 タイ語版』を買って、語彙を増やしたり文法 ドリルを独自練習したりし、タイ語版の

CD

付き日本語能力試験模擬試験集のテキストを 買って、日本語能力試験の対策をする等の例が見られる。しかし、中・上級学習者の場合 は、タイ国内の日本語書籍が少ないため、紀伊国屋や東京堂書店を通じて輸入注文するこ とになるが、値段が日本の

2

倍になる。ただし、現在では、直接アマゾンジャパン等の通 信販売サイトで購入することができるようになった。

2000

年代のインターネットの普及によって、教科書の他に、

YouTube

、ニコニコチャン ネル等を映像教材として聴解練習することができるようになった。また、無料日本語コー スを提供するタイ人ユーチューバー、

Facebook Live

から日本語を学習することができる ようにもなった。さらに、日本語練習、辞書のアプリや、現在政府の支援を受け今後いく つかの日本語コンテンツを有する

MOOC

の無料オンラインコースも利用できるようにな る予定である。そのため、自律的に学習する者が増えるのではないかと考えられる。教室 場面に現れない、このような潜在的学習者は、国際交流基金の調査では見えにくいので、

今後、教育機関、特に語学学校の学習者が減少する可能性も考えられる。

(5)

3.3 観光ビザの免除による社会人の日本語学習者の増加

日本語学校において近年学習者数が増加した要因の一つは、

2013

7

1

日から行わ れた、日本への観光ビザの査証免除だと考えられる。その結果、日本観光を満喫するため にいくつかの日本語コースに通い始める社会人の学習者が増えてきているため、近年、初 級日本語よりも「サバイバル日本語」や「観光用日本語」というコースの新設が目立つ。

観光ビザの査証免除は、タイ人の「知日度」「親日度」が高まる要因ともなっている。ま ず、旅行する際、日本語コミュニケーションが必要で、結果的に簡単な日本語の学習が増 加するという直接的な関係がある。それに付随して、日本製品をタイに持ち帰ったり、

Facebook

、インスタグラムのようなソーシャル・メディアでシェアしたりといった様々な 手法によって、タイで流行が生まれる。(例:マリモ、オタク文化、

BNK48

、ふりかけ、

ヤフオク、温泉、キャラ弁等)さらに、日本のより深い文化を知るために、ウェブ上の日 本語検索等のための日本語能力を得るという間接的な学習効果も考えられる。

3.4 他の外国語学習による日本語学習者減少への影響

経済成長率が高く

ASEAN

諸国にも使用される中国語の学習者増加は、一定のところま では日本語学習者の減少に影響があるといえる。中国語はタイ語と文法や発音が似ている ため、学習しやすく、また、将来の就職にもつながるという利点がある。しかし、より学 習しにくい日本語が若年層のタイ人学習者になお支持されるのは、そうした点を除いても、

マンガ・アニメ文化や日本旅行、それに、日本文化に日常的に触れる環境で活用できると 考える学習者が増加したためである。このように、現在では、中国語学習者が日本語学習 者より多いものの、日本語の必要性も認識されており、両方学習する人が少なくない。

それに加え、この

10

年間に、韓流の流行も見逃せなくなってきた。特に高校生は韓国 のドラマ、音楽、ダンスに興味を持ち、それを機に韓国語を学習し始める人が増加した。

2017

年からは大学入学試験の第二外国語として韓国語が加わったため、大学入学時に、日 本語ではなく韓国語を主専攻とする可能性が指摘できる。そして、日本語と同様に、高等 学校ではこれから韓国語の学習が普及すると予想され、日本語の代わりに韓国語を選ぶ学 習者も増えるであろう。近年、タイ国内では、日本と同等の品質でより安い製品を生産す る韓国の企業も増えているため、就職へのつながりも期待できる。そのため、国際交流基 金の今後の調査では、タイ国内の日本語学習者の減少が見られるのではないかと予測して いる。

また、最近タイの顕著な問題として、英語力の低さが指摘されている。

ASEAN

諸国の 中で英語力がかなり低いということが判明し、言語政策の中で、英語に力を入れ始めてい る。大学が選定され、高等学校の英語教育を指導する活動を行っている。そのため、他の 外国語学習を英語学習ほど支援しない可能性が高い。

以上、学習目的の問題、自学自習の環境、観光ビザの査証免除と、他の外国語学習の普 及という、中等教育機関と語学学校の日本語教育に影響を及ぼす

4

つの要因を挙げた。次 節では、大学の日本語教育を中心に述べる。

(6)

4

.現在の大学における日本語教育の現状

本節では、高等教育機関(大学)における日本語教育について詳述する。筆者の

2018

3

月の調査では、全国高等教育機関数

143

校中、日本語主専攻を有する教育機関が

41

校(

28.67%

)あることが分かった。内訳は国立大学

16

校、元師範大学・技術大学

14

校、

私立大学

11

校に上っている。殆どの機関は人文学部で開講されているが、この中で、人 文学部でも教育学部でも開講されているのは

3

校のみである。主専攻がない機関にも、初 級日本語が学習できるところがある(例:マヒドン大学)。

1970

年代以降、大学の日本語主専攻では初級から学習してきたが、

2000

年代に入り、

初級日本語が高等学校で学習できることになっても、大学のカリキュラムは変わっていな い。そのため、大学で再び初級から学びなおすものもいる。こうして、

1

年次には、日本 語の未習者と既習者の混在する問題が生じる。現在は、日本語主専攻の学習者が中級から 学習するのはチュラーロンコーン大学だけである。しかし、タマサート大学や私立大学の ランシット大学の報告によれば、既習者が半数を占めているという。多くの大学は再び初 級から教える理由として、高等学校で異なる教授法、学習環境で学習してきた学習者たち を中級への学習方法に慣れさせながら改めて文法や語彙力を同じレベルに調整できること を挙げている。

2

タイにおける日本語講座(主専攻)を有する地域別高等教育機関数

全機関数 首都圏 中央部 北部 東北部 南部

国立大学

(国立独立法人機関)

16

(12)

7

6

2

1

2

2

3

1

2

2

師範大学・技術大学 14 5 4 3 2 0

私立大学 11 9 0 2 0 0

合計 41

(100.0%)

21

(51.2%)

6

(14.6%)

7

(17.1%)

5

(12.2%)

2

(4.9%)

2

を見ると、日本語主専攻を開講している大学の全

41

校中、バンコク首都圏が中心 となり(

21

校)、南部の大学には、

2

校のみあることが分かった。タイの南部では日本語 教育が活発ではなく、日本人観光客が多く訪れるプーケットやグラビーに対する日本語話 者の手当てが不十分だと考えられている。

次に、日本語講座を運営するために、教師・教室、カリキュラム、指導法・評価方法、

大学院コース、大学の日本語講座の問題に分けて考察する。

4.1 教師・教室

各大学の教室サイズは、

10

人から

100

人までさまざまであるが、

100

人以上のクラスの 場合は一般学生のための初級クラスが多い。日本語主専攻のクラスの場合は、各学年

10

40

人の中型クラスである。英語、中国語のクラスより学習者が少ないが、他の外国語の クラスより多い。また、各大学の教師状況も異なっている。バンコク首都圏の大学の場合

(7)

は、タイ人教師が主となる。最も教師数が多いのはタマサート大学である(タイ人教師

12

名、日本人教師

7

名)。地方の大学の場合は、国際交流基金の支援によって日本人教師が 着任し、タイ人教師と合わせて、

3

6

名在籍している。タイ政府の規則では、主専攻が開 講できるのは、最低教師

3

名が必要である。基本的な役割分担は、読解、聴解のような理 解系の科目、文法説明が必要となる総合日本語の科目はタイ人教師、会話、作文のような 表現産出系の科目は日本人教師の担当となっている。

4.2 カリキュラム

日本語講座は人文学部または教育学部にあり、多くの学士課程に主専攻、副専攻がある。

大規模大学の場合は、他学部のための日本語副専攻や初級日本語の選択科目が用意される。

チュラーロンコーン大学教育学部をはじめ、英語以外の第二外国語の学習が必須となるカ リキュラムもある。現在、学習者は中国語と日本語の選択が多い。各科目

3

単位から構成 されるものが多い。実際に

3

単位を

3

時間として学習していることが多いが、チュラーロ ンコーン大学の場合は、

3

単位を

5

時間学習、

2

単位を

3

時間学習する科目がある。

3

タイにおける大学の日本語講座(主専攻)のカリキュラムの例

全単 位数

必修科 目単位

選択科 目単位

その他の科目 単位 チュラーロンコーン大学(2014年版) 72 52 20

タマサート大学(2013年版) 81 42 27 日本語講座以外12単位 タイ商工会議所大学(2011年版) 66 54 12

ラチャパットナコンラチャシーマー大 学(2012年版)

105 75 24 インターン科目6単位

3

の単位数から考えると、大学によって主専攻の学習科目数が異なる。単位が最も多 いのは、ラチャパット(元師範大学)系のラチャパットナコンラチャシーマー大学(

105

単位)で、最も少ないのは私立大学のタイ商工会議所大学(

66

単位)である。多くの人文 学部の総合単位数は

140

単位前後なので、主専攻単位数が少ないタイ商工会議所大学や チュラーロンコーン大学は、言語学、歴史、情報処理リテラシー等の人文学の基礎知識の 比重が大きい。

どの大学のカリキュラムでも、

1

年次から総合日本語の科目が設けられている。このよ うな授業はテキストに沿って行われると考えてよい。初級から学習する場合は、『みんなの 日本語』(タイ語版)等の教科書が使用されるところが多い。中級から学習するチュラーロ ンコーン大学では自作テキスト『ホップ・ステップ・ジャンプ』が使用される。

2

年次か らは、総合日本語の科目の他に、技能別の科目が多くなる。

4

技能の科目には特定のテキ ストがない。他に、日本語学、日本文化、日本文学、日本事情等の授業もある。

4

年次に は、職業的な科目が多くなる。例えば、「ビジネス日本語」、「ガイド日本語」、「日本語翻訳」、

「日本語通訳」、「秘書日本語」、「ホテル用日本語」、「病院用日本語」等である。

(8)

現在、課外活動も、日本語運用能力の観点から、カリキュラムの一部と見なされている。

学習者を育成するために、語学の部活動があり、日本語の場合は、折り紙、習字、書初め、

茶道、よさこい踊り等の文化的な活動が行われる。バンコク首都圏の大学の場合、文化祭 を行ったり、年に

2

回民間の会社「

Jeducation

」や「

Mainichi Group

」が主催する大規模 の「

Japan Expo

」・「

Japan Festa

」のブースに出店したりする。また、大学に在籍してい る間に、交換留学プログラムに参加することが勧められる。交換留学期間は

1

学期や

1

年 間がある。

4.3 指導法・評価方法

言語学習は、大人数に対する講義で行われると効率的ではないが、

100

人以上の学習者 に対しては、文法・語彙・漢字説明が可能であると言われている。従来、聴解・会話の練 習のために、オーディオ・リンガル教授法(

Audio-lingual Method

)を用いてきたが、現 在は、ロールプレイや模擬会話・模擬スピーチ等の活動を用いる大学が多い。オーディオ・

リンガル教授法は学習者が独自に練習するため、試聴室(

Sound Laboratory

)が使用され なくなった大学もある。大学側も、他の分野で使用されている「アクティブ・ラーニング

Active Learning

)」、「

Problem-based Learning

」、「反転授業(

Flipped Classroom

)」、「遠 隔教育(

Distance Education

)」等の新しい教授法の研修を行い、教師が自分の授業に取 り入れることを促進している。ただし、機材が整わないため、効率的に行えていないとこ ろもある。

2017

年には、大学の全科目とともに「

21

世紀型スキル」を指導するという政 府の方針が出された。

しかし、タイ人学習者の中には新しい教授法に対して抵抗があることも事実である。例 えば、暗示的な知識を得るために、学習者自分自身に発見してもらう活動の場合はなぜ時 間をかけてやらせられたのか理解できないなどである。ピア・ラーニング(

Peer Learning

) の活動の際、なぜ友達に自分の作文を添削してもらうのか、教師がした方が早いのではな いか、教師がサボっているのではないか。遠隔教育活動の際、

2

時間の時差のため、実施 時間が適切ではないなどというコメントがある。

タイにおける日本語教育は、国際交流基金が提唱している「日本語教育

JF

スタンダー ド

2010

」が勧められている。この「

JF

スタンダード」は、ヨーロッパ言語が使用してい る

CEFR

2と同様に、

Can-do

(何ができるか)のリストを作り、それに基づいて評価する ものである。現在では、

Can-do

リストに基づく評価は、バンコク国際交流基金バンコク 日本文化交流センターが出版した高等学校レベルの『あきこと友だち』や『こはるといっ しょに』のテキストに用いられているが、全大学で使用されているかどうかは明確ではな いため、今後調査する必要がある。タイ国全体の外国語教育は特に西洋言語では

CEFR

に 基づいて評価のみならずテキスト、教材の作成にも通常使用しているため、東洋言語も、

CEFR

に合わせる方針が今後出てくるのではないかと思われる。

4.4 大学院コース

現在では、タイ国内で修士課程を開講している大学は

6

校ある。それは、(

1

)タマサー ト大学大学院文学研究科修士課程(日本研究)、(

2

)チュラーロンコーン大学文学研究科

(9)

修士課程(日本文化日本文学)(旧名:日本語日本文学修士課程)、(

3

)国立開発行政研究 院(

NIDA

)言語・文化研究科修士課程(日本文化)、(

4

)チェンマイ大学人文学部日本研 究センター修士課程(日本研究)、(

5

)ナレースワン大学人文学部修士課程(日本研究)、

そして、(

6

)カセサート大学修士課程東洋言語研究科修士課程(東洋言語学)である。

2016

年までは、チュラーロンコーン大学では外国語としての日本語修士課程という日本 語教育に関するコースが開講されていたが、運営委員の不足により閉講された。今後、日 本文化日本文学と統合される見込みである。日本語または日本研究の博士課程は、チュラー ロンコーン大学(日本文化日本文学)のみで

2016

年から開講されている。日本語教育や 日本語学に直接関連する博士課程はまだないといってよい。

日本研究や日本語学の研究を支援するためには、大学院レベルの教育が必要だろうが、

日本語学習者の多数派は、タイ国内にある多くの日系企業への就職を主な目的としている ため、進学の需要が低いといえる。また、近年、日本の大学から奨学金付きの大学院入学 のリクルートが多くなっているため、優秀な学習者は、日本語の文献が乏しいタイ国内で 学習するよりも、日本に渡海して学習することになっている。このような状況が激しくな れば、将来のタイにおける大学院レベルの教育に悪影響を与えるであろう。

4.5 大学の日本語講座の問題

大学レベルの日本語講座の問題は大きく

2

種に分けられる。学習者の育成の制限に関す る問題と講座の運営に関する問題である。

4.5.1

学習者の育成の限界に関する問題

大学では、個々の学習者の日本語能力にバラツキがあるため、それぞれに適切な教授法 を工夫することが難しい。また、語学学校とは違い、奨学金や留学の選抜試験、良い成績 のための競争がより激しい状況もある。学習者同士の競争関係以外に、教師の評価方法を 意識している者もいれば、いくら頑張っても成績が上がらず、日本語学習の意欲が低下し てしまう人もいる。それらに対して、教師は競い合うだけではなく、協働すべきことや、

「共生」の意識化、授業の目的と評価方法の情報を提供する必要があると考える。

4.5.2

講座の運営に関する問題

日本語学習の利点を考える際、学習者が減少するという問題も考える必要がある。大学 の日本語学習者、特に主専攻・副専攻の学習者の学習目的はコミュニケーションや日本文 化の興味よりも、むしろ就職への活用である。とりわけ、近年不景気でもあるため、日本 語を就職の利点にしたい学習者が増えている。そのため、タイ日間のビジネスに影響を与 える日本国内の社会運動・経済事情を注視している。タイ国内の政治運動及び人件費の高 騰により、製造関係の日系企業に厳しい環境になり、最近ベトナムやフィリピンに移る企 業も増えている。その分、工場関係の日本語能力を有するスタッフの需要が減ってきてい る。幸いなことに、観光をはじめとして、あらゆるサービス業が増えたこと、また日本で の就職の可能性が高まっていることから、日本語学習を続ける学習者も多い。しかし、日 本の経済がさらに悪化すれば、日本語専攻を止めて、他の専攻を選ぶ可能性が高いのであ る。上述のように、

2017

年から、韓国語が大学入学試験の第二外国語の選択科目として加 わったため、今後

5

年間、大学の日本語学習者が減少することが予測できる。現在では、

(10)

フランス語やドイツ語ほど学習者数が減ることはないが、同様の状態に陥る前に、学習者 の人数を確保する対策を考える必要がある。ただし、それは各大学で考えることではなく、

日本政府こそ支援方法を考えなければならない。

5

.おわりに

以上、タイの日本語教育の総合的な事情を踏まえて、タイの大学における日本語教育の 現状について述べた。第

2

節では国際交流基金を主として重要な情報をまとめ、タイの中 等教育機関の学習者数が全学習者数の過半数になるまでの変化を確認することができた。

3

節では、さらに中等教育機関及び社会人向けの語学学校の日本語教育に影響を与えた 要因について考察した。それは、学習目的の問題、自学自習な環境、観光ビザの査証免除 と、他の外国語学習の普及である。最後に、第

4

節では、大学の事情を教師・教室、カリ キュラム、教授法・評価方法、大学院コース、大学の日本語講座の問題の

5

項目から考察 した。特に、注目したいのは、教師自身では、解決困難な講座の運営に関する問題である。

日本語学習の利点をアピールするのは、タイ国内だけでなく、日本国内からも発信しなけ れば日本語の魅力が薄まってしまう。また、大学院講座の危機についても、日本国内から の留学生リクルートの緩和ができれば、持続性のある日本語教育を運営できるのではない かと思われる。本稿で挙げられなかった諸問題については、今後の課題としたい。

1 JTAT 以外の教師会もある。例を挙げると、北部タイ中等教育日本語教師会等がある。詳細は、

国際交流基金(2017)を参照する。

2 CEFRとは言語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通される枠組み(Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching and assessment)で、A1, A2, B1, B2, C1, C2 6レベルあるが、外国語学習の場合、A1からC1までが中心とされる。

参考文献

書籍・紀要

国際交流基金(2009)『海外の日本語教育の現状 日本語教育機関調査2009年』

国際交流基金(2013『海外の日本語教育の現状 2012年度日本語教育機関調査より』くろしお出版 チューシー、アサダーユット(2016)「チュラーロンコーン大学日本語講座学士課程のカリキュラム

の変遷」『日本研究論文』14、チュラーロンコーン大学・大阪大学、pp. 182-204

原田明子(2004「言語政策から見たタイの日本語教育」『留学生教育』9、留学生教育学会、pp. 199-205 松井嘉和・北村武士・チラソンバット、ウォーラウット(1999)『タイにおける日本語教育』錦正社 Voravudhi Chirasombutti1999)「タイの言語政策―日本語教育の場合―」『世界の日本語教育<日

本語教育事情報告編>』6、国際交流基金日本語センター、pp. 105-114 ウェブサイト(閲覧日:2018315日)

国際交流基金(2016)『海外の異本後教育の現状 2015年度日本語教育機関調査より』

<https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/result/dl/survey_2015/all.pdf>

国際交流基金(2017 日本語教育国・地域別情報:タイ(2017年度)

<https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/area/country/2017/thailand.html>

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タイ商工会議所大学日本語主専攻カリキュラム

<http://humanities.utcc.ac.th/humanities2/images/stories/file/pdf/Bachelor of Arts Program in Japanese.pdf>

タイの教育省 主要な11方針(2017

<https://drive.google.com/file/d/080mhdoJa5Sbqc0NEekRVNzZiYm8/>

タマサート大学日本語主専攻カリキュラム

<http://www.tu-japanese.org/pub/bechalor_curriculum_2556.pdf>

チュラーロンコーン大学日本語主専攻カリキュラム

<http://www.arts.chula.ac.th/~east/japanese/files/undergraduate/CurriculumJapanese2014.

pdf>

ラチャパットナコンラチャシーマー大学日本語主専攻カリキュラム<http://www.human.nrru.ac.

th/?page_id=2203>

(あさだーゆっと ちゅーしー チュラーロンコーン大学文学部)

参照

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