特 集 1型糖尿病
1 型糖尿病の発症予知 と予防に関す る最近の知見
川崎 英二
は じめ に
1型糖尿病 は,若年者 に高頻度 にみ られ,一旦発症す るといかなる治療法で も血糖 のコン トロールが困難で あることが多 く,糖尿病性合併症 をはじめ疾病が患児 にもた らす身体的,精神的,社会的影響 は多大である.
そのため ここ10年の問に多 くの研究者 が発症 予防 に 関す る研究 に力 を注いで きた.Fig.1に示す ように,1 型糖尿病 は遺伝因子 (HLAお よびnon‑HLA遺伝子) を基盤 とし, ある種の誘因 (環境因子) を契機 に自己 免疫 による勝 β細胞破壊が惹起 され,インス リン分泌 不全 に陥 り発症す ると推測 されている.近年,分子生 物学的手法の著 しい進歩 に伴 い1型糖尿病の発症 メカ ニズムに関す る研究 はめざましい進歩 を遂 げ,その発 症予知,予防 についての大規模 な検討 もなされている.
本稿では,1型糖尿病の発症予知 についての新知見,並 び に現在進行 中の発症 予防 のTrialにつ いて概 説 す る.
PreciphtingEvent
SSt2MltaUetag
1型糖尿病 の発症予知 1. 遺伝子 レベルでの予知
牌 β細 胞 に対 す る 自己 免 疫 が 惹 起 さ れ る以 前 (Stagel)に1型糖尿病の発症 リスクが予測で きれ ば, その発症予防 もよ り容易であることが推測 され る.1 型糖尿病の発症 に関与す る複数の遺伝子座 の うち,栄 症予知 についての詳 しい検討がなされているのは,覗 時点でHLA(IDDMl)のみである.その中で もHLA クラスⅠⅠ抗原が1型糖尿病の発症 に強い相関 をもって お り,特定の
DR,DQ
抗原が発症感受性お よび抵抗性 を示す.しか し1型糖尿病患者の90%以上 に認 め られ るハイ リスクHLAは,一般集団の40‑50%にも存在 す るため,HLAの検索 は,あ くまで も1型糖尿病 を"発症 しやすい''または "発症 しに くい"とい うレベル の予知 に とどまるとい うことに留意す る必要がある.
現在,米国 (DiabetesAutoimmunityStudyinthe Young;以 下DAISYと略 す), ドイ ツ (German multicenterstudydesignedtode丘nethecourseof antトisletautoimmunityfrom birthinchildrenof
ClinicalOnset
Time
Figl1 Thenaturalhistoryoftype1diabetesmellitusanditspreventionstrat‑ egies(CanadianJournalofDiabetesCare22(Supp13):S24‑S30,1998 改変).
長崎大学医学部第一 内科 (〒852‑8501長崎県長崎市坂本ト7‑1)
‑829‑
〔糖尿病42(10):829‑831,1999〕
糖尿病 42巻10号 (1999) parentswithtype1diabetes;以下BABY‑DIAB
と略す),フィンラン ド(Diabetes Prediction and Prevention;以下DIPPと略す)においてHLA(腰帯 血 を利用) と1型糖尿病の発症予知 に関する出生時か らのprospective studyが進行中である.DAISY, BABY‑DIABにお ける検討で は,ハ イ リス クHLA
(DR3/4,DQBl*0302)を有する1型糖尿病の第一度 近親者では生後9ヵ月 より勝 自己抗体が出現 し,4歳 まで にその40%が陽性 とな る ことが明 らか とな っ た1).一方,一般集団において もその リスクは第一度近 親者 に較べ非常に低いが,勝 自己抗体出現率 とハイ リ スクHLAの関連が明 らかにな りつつある.今後 これ らの研究の進展により,遺伝子検索の発症予知 におけ る有用性が明確 になるであろう.
2.膝 自己抗体 による予知
これ は勝 β細 胞破 壊 が惹起 され た後,す なわ ち Stage2,3,4における発症予知を意味する.理論的に は,勝 β細胞 に対する自己免疫の存在 は,細胞性免疫 お よび液性免疫 の検 出により行 うことが可能 である が,現時点で勝 ラ氏島特異的T細胞の検出法は標準化 されてお らず, また多数検体 を対象 としたスクリーニ ングには不向きである.一方,勝 ラ氏島特異的自己抗 体の検出法 は,近年複数の自己抗原のクローニングに より急速 に進歩 し,これ までのICAに代わって簡便か つ高感度に測定可能なインス リン自己抗体 (以下IAA と略す),GAD抗体,ICA512/IA‑2抗体が測定 される ようになった2).これ ら複数の自己抗体の測定 により1 型糖尿病のハイ リスクグループである第一度近親者 に
おける発症予知能 は100%近 くまで近づけることが可 能 になった.しか し,1型糖尿病患者の80‑90%は, 1型糖尿病の家族歴 を有 しない一般集団か らの発症で あるため,一般集団における効率の良い発症予知がよ り重要である.スウェーデ ンや英 国 にお けるCase‑
ControIStudyによる概算では,複数の勝 自己抗体の 組み合わせ解析 にHLA解析 を併用 して も,一般集団 における1型糖尿病の発症 リスクは10年で高々25%
であった と報告 されている3). この予知率 は一般集団 全体 における予知率 (0.2‑0.3%)に較ベ 100倍近 く 高いが,その75%は障 自己抗体陽性であ りなが ら発症 に至 らない "偽陽性" ということにな り,現時点で一 般集団へ応用するにはやや問題がある.現在,米国に おいて一般集団の1型糖尿病発症 に関す るprospec‑ tivestudy (DAISY)が遂行中であ り,その結果が待
ち望 まれる.
1型糖尿病 の発症 予防の試み
Fig.1に示すように1型糖尿病の発症予防は,Stage 1,2の時期 におけるprimaryprevention,Stage3, 4の 時 期 に お け るsecondary preventionお よ び Stage5(発症後)におけるtertiarypreventionに分 けることができる.Tertiarypreventionは,発症後の 勝 β細胞分泌能 をいかに保持 させ るか という試みで, いわば "治療" に近い. ここでは,発症予防 という観 点か ら前2者 につき紹介する (Tablel).
1. Primaryprevention(一次予防)
1型糖尿病の一次予防は,1)すでに進行 している勝 β細胞破壊の停止,および2)障 β細胞破壊 を来す誘
Table1 CurrentPreventionTrialsforType1Diabetes
Study Location Participants lntervention PrimaryPrevention
TRIGR Finland
SecondaryPrevention DPTlli.V. USA
DPT‑1()γα才 USA DIPP Finland ENDIT Europe Canada USA DENIS Germany
Newbornswithaparentorsibling withtype1diabetesandwith
susceptibilityasjudgedbyHLAtyping First‑degreerelativesaged4‑45years;
second‑degreerelativesaged4‑20years ICA≧10JDF;LowFPIR;notDQBl*0602 Asfori.Ⅴ.arm exceptnotlowFPIR;
age>3years
NewbornswithsusceptibleHLAand anti‑isletautoantibodies
First‑degreerelativesagedく40years;
ICA≧20JDF
Firsトdegreerelativesaged3‑12years;
ICA≧20JDF
Cows'milkavoidancefor alleast6monthsoflife
Insulin,i.V.4days/year&
Insulin,S.C.twice/day Insulin,wal7.5mg/day Insulin,nasal
Nicotinamide,oral
Nicotinamide,oral
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1型糖尿病の発症予知 と予防に関する最近の知見 因の除去の2つのレベルに分 けられる. これまでの研
究 にお い て,1型 糖 尿 病 の "Precipitating Event (Trigger)''として牛乳蛋白の摂取や ウイルス感染 な どの環境因子が強 く関わっていることが報告 されてい る.それ らの事実に基づき,1型糖尿病の発症率が世界 一高いフィンラン ドにおいて牛乳蛋白除去 による1型 糖尿病の発症予防Trial(TrialtoReduceIDDM in theGeneticallyatRisk;TRIGR)が進行中である.
これは1型糖尿病ハイ リスクグループである第一度近 親者の新生児5,000人以上 を対象に,生後少な くとも 6ヵ月以上 にわた り牛乳蛋 白を排除することの1型糖 尿病発症 における予防効果をみる二重盲験試験で,そ の結果が出るまでには10年以上が必要である.
2. SecondarypreventioIl(二次予防)
二次予防は鰐 β細胞が残存 しているStage2,3,4 における介入で,そのゴールは 1)勝 β細胞 に対する 自己免疫反応の抑制 ・停止, または2)non‑destruc‑ tiveformへの移行 にある. これ までに1型糖尿病の 二次予防を目的 としたpilotstudyにおいて,その予 防効果が検証 された薬剤 にニコチナマイ ドとインス リ ンがある.ニコチナマイ ドはvitaminB3誘導体で勝 β細胞障害に関与するフリーラジカルやNOを減少 さ せβ細胞 の保護作用 を示す とともに,poly (ADP‑
ribose)synthetaseを抑制 し,細胞内のNADを増加 させ ることによって勝 β細胞 の再生 を助長す る作用 を有 している.欧州 を中心 として1990年代前半 よ り こ コ チ ナ マ イ ドの 大 規 模 介 入 試 験 (European Nicotinamide Diabetes lntervention Trial:
ENDIT,Deutsche Nicotinamide Intervention Study;以下DENISと略す)が開始 された.1991年
より開始 されたDENISは1997年にて終了し,その結 果が報告 された4).それによると3‑12歳の1型糖尿 病の同胞2,415名の うち,ICA≧20JDF‑Uであ りプ ロジェク トへの参加 に同意 した55名 をこ コチナマイ ド (1.2g/m2/day)投与群 (25名) と対照群 (30名) に分 け,最長5年間にわたって追跡調査 した結果,そ れぞれの群 における1型糖尿病の発症率 は24%,17%
と発症予防効果が認 め られなかった と報告 されてい る.インス リンの少量皮下お よび静脈 内投与 による1
型糖尿病発症予防のpilotstudyはJoslin糖尿病セン ターにおいて行われ,有意な発症抑制効果 (抑制率83
%)を認 めた5).1994年 より米国において約60,000名 の第一度近親者 を対象 とした,少量 イ ンス リンの経 皮 ・経静脈 的投与 に よる大規模 介 入試験Diabetes preventionTrial‑Type1(以下DTP‑1と略す)が行 われている.また1996年,インス リン分泌が比較的残 存 している第一度近親者 を対象 としたインス リンの経 口投与 による発症 予防TrialもDPT‑1に追加 され た.その他のインス リンTrialとして,インス リンの経 鼻投与 またはインス リン吸入によるTrialも,それぞ れフィンラン ドとオース トラリアにおいて計画 されて いる.
おわ りに
現在進行中の発症予防の衰みは,一般集団に較ベ 1 型糖尿病の発症率が高い第一度近親者 において行われ ている.しかし,1型糖尿病の80‑90%は一般集団か らの発症であるため,発症予防のゴールは一般集団に おける介入であることに他ならない.現時点では,そ の安全性や費用などの点か ら一般集団すべてにおける 発症予防介入 を行 うことは不可能であ り,今後,確実 な予知法に基づ く安全かつ有効な予防法の確立が要求 される.
文 献
1)GravesPM,EisenbarthGS (1999)Pathogenesis, predictionandtrialsforthepreventionofinsulin dependent(type1)diabetesmellitus.AdvDrug DeliverRe35:143‑156
2)KawasakiE,EisenbarthGS(1996)Multipleauto・
antigensinthepredictionandpathogenesisoftype ldiabetes.DiabNutrMetab9:188‑198
3)DahlquistGG (1999)Primaryandsecondarypre‑ vention on strategies of pre‑typel diabetes. DiabetesCare22(Supp12):B4‑B6
4)LampeterEF,KlinghammerA,Scherbaum WA, HeinzeE,HaastertB,GianiG,Kolb班,andthe DENISGroup(1998)TheDuetscheNicotinamide lnterventionStudy:Anattempttopreventtype1 diabetes.Diabetes47:980‑984
5)KellerRJ,EisenbarthGS,JacksonRA(1993)Insu‑
1inprophylaxisinindividualsathighriskoftype1 diabetes.Lancet341:927‑928
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