• 検索結果がありません。

恋と禁忌の古代文芸史

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "恋と禁忌の古代文芸史"

Copied!
2
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)森朝男氏博士(文学)学位請求論文審査要旨. 論文名. 恋と禁忌の古代文芸史. −日本文芸における美の起源−. 日本文芸史では、八世紀半ば近くにいたって美が意識化されたと考えられている。そこ で意識化された美は、十世紀からはじまる勅撰集時代の美意識へと大きな流れを形成して ゆく。本論はこの日本文芸史の本流をかたちづくる美の形成という根本問題を、起源論的 に解明するものである。 わが国の文芸史で意識化され、みやび・風流と呼ばれることになる美の特色は、自然愛 好と恋や好色がつながり重なり合っている点である。本論では、スサノヲ神話におけるア マテラス対スサノヲの対立の構造の分析を通して、自然と性を統一的にとらえ、それによ って性の禁忌、罪としての恋、自然の聖化といった個々の問題を統一的にとらえ直し、美 の起源を解析し考察する。問題は単純ではない。王権の問題、宮廷社会の構造の問題、中 国文学からの影響の問題、万葉集編纂の問題等、複雑にからみあった周辺の諸問題のひと つひとつを解き明かしつつの考察である。 本論は、第一章「穢れと罪をめぐる古代的思考」、第二章「穢れの性から罪の性へ」、 第三章「饗宴論」、第四章「万葉集の構造と宮廷」、第五章「古代文芸史における美の形 式」、以上五章から成る。 第一章では、スサノヲ神話におけるアマテラスとスサノヲの対立を、〈文化・知・言語 ・秩序〉対〈自然・未知・前言語・混沌〉ととらえ、その分析を通して、穢れと罪は区別 できない連続するものとの論考を展開する。性・恋は自然としての穢れであり、恋の禁忌 (兄妹・巫女・后妃・采女・人妻などとの恋の禁止)の罪が問われる原理を考究する。青 木紀元、西宮一民の禊ぎ・祓え区別説への批判によって、穢れ・罪連続説は補強される。 第二章では、記紀・風土記、万葉集に多出する禁忌の恋と社会の関係を考察する。童子 女松原伝承、木梨軽太子伝承、さらに大津皇子・但馬皇女・八上采女・塩焼王等の事件お よび事件にかかわる歌の分析によって、穢れと恥の関係を考証する。穢れとしての恥は社 会化されることによって制裁を受ける。一方、負の部分が清祓されて聖化される。禁忌の 恋である兄妹婚が聖化された彦姫制。采女や官女ら王権の周辺の女性たちはこの彦姫制の 姫に相当し、天皇の妻の位置にあるゆえに他の男にとっては禁忌の対象となると見る。〈禁 忌の恋〉と〈禁忌の恋の聖化〉という微妙な関係を明晰に論証している。 第三章は、宴における恋の歌と、歌による挨拶の問題を考究する。宴には起源的に男女 親和の論理が隠されていると見る論者は、歌を軸にしてみるとき宴の起源は歌垣にあり、 したがって宴の歌では性および恋の歌が基本をなすと指摘する。挨拶の歌が恋の歌のかた ちをかりるのも、男性官人同士の交友歌が相聞歌と同じ表現をとるのもそのためである。 万葉集後期になると、宴の歌は四季を中心的な内容としてゆくが、自然をうたいつつ表現 の方法はしばしば恋の歌の表現を借りることになるのは、宴の歌という枠組みによると見 る。挨拶の歌において自然と性が重ねられる様相の解明として明快である。 第四章では、万葉集を編年式歌巻(冒頭六巻)、類従式編纂歌巻(七〜十六巻)、歌日. -1-.

(2) 誌的歌巻に三分し、記紀と連続するととらえることによって、特に巻一・二の歌を宮廷史 を表現するモチーフに拠っていると見る。その上で百数十年にわたる万葉史全体を、中央 から地方へ、宮廷から貴族へ、史書から歌集へとの流れとしてとらえる。さらに万葉史の ピークをつくる柿本人麻呂は、女の死をうたう歌人だったと位置づける。いずれも万葉集 全体の構想・構成にかかわる創見である。 第五章では、自然と性が、なぜ、どのように重ね合わせてうたわれるようになったかを 考究する。中国文学を理解し漢詩に通じていた官僚たちが、離宮の宴席で自然と恋を融合 させてうたう。宮廷・官僚・離宮・宴席・神仙境・季節・庭園にかかわる万葉集歌の問題 を、「をとめ」「清し」「さやけし」といったキーワードを軸に解明する。風流心を共有 する後期万葉時代の官僚層の美意識の構造を文化的機構の問題として論証する。 論者はこれまでに、『古代和歌と祝祭』『古代文学と時間』『古代和歌の成立』三冊の 著作によって、日本古代文芸研究に着実な成果ををもたらしてきており、学会ですでに高 い評価をえている。本論はこれらの業績を踏まえ、さらなる展開を示した。見てきたよう に、各章において独自の創見を示し、的確な資料の分析によって、日本文芸史上における 〈美〉の形成という大きな問題に新しい研究成果を加えた。自然と性を統一的にとらえう るとする結論は、古代文芸研究史にあらたなるページを開いたもので、高く評価すること ができる。「博士(文学)」の学位を授与するにふさわしい業績と認められる。. 2003年12月2日 主任審査委員 早稲田大学教授 早稲田大学教授 早稲田大学教授 早稲田大学教授. -2-. 佐佐木幸綱 博士(文学)早稲田大学 文学博士(早稲田大学). 内藤明 新川登亀男 福島秋穂.

(3)

参照

関連したドキュメント

9世紀末期まで待たねばならなかったcそして、その初期においては、史的意味論(historical semantics) 1)に代表されるように、

の忌避の感情が意識下で働いていたとは考えられないだろうか。芸妓や娼婦たちの住む背徳の世界には少なくとも

[r]

Drop Player Active Active ACTIVE COMPLETED Shut down game session Idle TERMINAT ED Terminate host Shutdown • GameLift へ切断を通知 • player

[r]

訪問看護ステーション北彩都は平成12年に永山に訪問看護ステーション「ながやま」として

近年生活・文化史の側面から同様のテーマが取り上げられることが多い。古代の文献史料で