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触法精神障害者家族への接近の試み

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Academic year: 2022

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(1)342. 論. 社学研論集. V。l. 10. 2007年9月. 文. 触法精神障害者家族への接近の試み ‑精神障害者の親に課せられた社会資源機能をめぐって‑. 深 谷. 裕*. 障害をもつ人の親が高齢になっても家族会に参 はじめに. 加し,「親」あるいは保護者としての役割を果. 本研究は,精神障害者の親が社会的にどのよ. たしていることを示している0. うな存在として捉えられてきたのかを明らかに. このような親の置かれた状況について,障害. することを試みるものである。. をもつ者本人との関係性に焦点を当てながら理. 具体的には,精. 神障害をもつ人の処遇に関わる戦後の法制度,. 解を深めようとする試みは,石原邦男,大島巌,. 精神障害者家族研究,そして裁判事例を通して. 南山浩二らにより主に定量的な研究手法を用い. 検討する。 なお,ここで取り上げる判例は,心. て行われてきた。 そこでは,従来の家族ケアに. 神喪失状態あるいは心神耗弱状態で殺傷事件を. 関する家族社会学的解釈を援用しながら,社会. 起こした者の親について,その損害賠償責任が. 資源の未整備,家族関係に関わる規範や価値観. 争われたケースである。. がもたらす家族ケア‑の囚われや,障害をもつ. 2005年から2006年にかけて精神障害者家族の. 家族との相互関係などについて議論されてき. 全国組織(全家連)が家族会会員1万人を対象. た。. に実施したニーズ調査の回答者(2,844名)の. 一方,2005年から心神喪失等の状態で重大な. 構成は,父親2割程度,母親5割程度であった. 他害行為を行った者の医療及び観察等に関する. [全家連2006]a)さらに,同調査の回答者の. 法律(平成15年法律第110号:以下,医療観察. 年齢構成を見ると,60歳代以上が約7割を占め. 法という)が施行されており,「触法精神障害. ている[全家連2006]。. また,精神保健及び精. 者家族」という,これまでにほとんど焦点が当. 神障害者福祉に関する法律(平成7年法律第94. てられてこなかった「家族像」が浮上してきた。. 号:以下,精神保健福祉法という)第20条に基. 触法精神障害者家族がどのような経験をしてい. づく保護者として選任される者の8割は,患者. るか,そして何故そのような経験をするに至っ. 本人の父親あるいは母親と言われており,しか. ているかについては,これから明らかにしてい. もその8割近くが60歳以上である[ぜんかれん. かなければならない課題であろう。. 保健福祉研究所1993]。. そこで,本稿では,このような新しい精神障. これらの数字は,精神. *早稲田大学大学院社会科学研究科 博士後期課程3年(指導教員 久壌純一).

(2) 触法精神障害者家族への接近の試み. 343. 害者家族像についての理解を深めるための基盤. いく。日本における精神障害者家族研究は米国. 作りの作業として,精神障害をもつ人の親が社. での研究を追いかける形で進められてきたのだ. 会的にどのような存在として,これまで捉えら. が,一貫して家族を社会資源としてみる視点が. れてきたのかをあらためて検討する。. 消えることはなかった。. 触法精神. 障害者家族は,事件発生以前は,一般の精神障. 第3章では,精神障害をもつ人の親が社会資. 害者家族と同じ立場であることを鑑みると,ま. 源としての機能を常に求められるのか,精神障. ず,精神障害をもつ人の家族一般が社会的にど. 害者家族に関する判例を通して検討している。. のような存在として捉えられてきたのかを確認. そして第4章では,触法精神障害者家族を理. しておくことが必要である。. 本稿では,精神障. 解するうえで,これまでの精神障害をもつ人の. 害者家族に関する判例を法学とは異なる視座か. 親に対する見方が,どのような影響を与えうる. ら検討することにより,精神障害をもつ人の親. かを考察する。. が社会的にどのように位置づけられてきたのか. なお,本稿では精神障害者の定義について焦. を明らかにしていく。. 点を当てることは控えたい。. 田測は,構造的要素が個人の主観的体験を少. 者」という場合は,戦後の各精神保健関連法規. なからず規定するとし,主観的家族論が実りあ. による定義を想定しており,特定の精神疾患に. る寄与を行うためには,構造的な要因を軽視. 限定して論じるわけではない。. ここで「精神障害. してはならないことを指摘する[1996:291cま た,家族に関する主観的認知は,感情的,規範. 1. 精神障害者の親としての役割一制度編. 的などの,さまざまな側面を含むと同時に,そ. 医療観察法による保護者は,精神保健福祉法. れまでの家族歴や諸主体の背景にある構造的要. 第20条第1項および第21条の規定により保護者. 因などの影響下に相互作用を行うなかで生ま. となるものとされている(医療観察法第2条第. れ,変化していくと言われている[Blain1994:. 1項)0 医療観察法の中では,保護者は専ら対. 515‑549](2)これらは,触法精神障害者家族の. 象者の人権を擁護する立場として,さまざまな. 主観的経験に影響を与える構造的要因に日を向. 権利が付与されているが,従来から保護者の第. けることの重要性を指摘している。 本稿第1章では,精神障害者に関する戦後の. ‑の役割が権利擁護であったというわけでは. 法制度を通して,精神障害をもつ人の親がどの. 123号)が成立してから,医療観察法が成立す. ような存在として位置づけられてきたのかをみ. るまでの約50年の間に,制度のうえで精神障害. ていく。ここでは,精神障害をもつ人の親に期. をもつ人の家族に期待される役割は徐々にその. 待される役割が管理者・監督者から権利擁護者. 性質を変えていった。 従来は,主に,精神病の. へと移り変わってきたことについて考察する。. ある家族員を管理・監督するポリスパワー的役. 第2章では,精神障害者家族に関する研究の. 割が中心であったのが,時代を経て,精神障害. 変遷を通して,精神障害をもつ人の親がどのよ. をもつ家族員が不当に権利を侵害されないよ. うな存在として位置づけられてきたのかをみて. う,本人に代わって注意を払い,行動を起こす. 1950年に精神衛生法(昭和25年法律第 ない(3)。.

(3) 344. 権利擁護者的役割が中心になったのである。. についての規定があり,自傷他害のある精神障 害者に対する措置として,精神病院に入院させ. 1)管理者から権利の擁護者へ. る以外に,保護義務者による保護拘束の権限が. 精神衛生法は,精神障害をもつ人の処遇に関. 与えられており,第48条第2項では精神衛生法. する戦前からの規定である精神病者監護法を半. 施行後1年間は,精神病者監護法による私宅監. 世紀の歳月を経てようやく改正した立法であ. 置の継続実施を一部認めていた。. 精神衛生法における保護義務者の役割は, る。. からも,精神病者監護法に引き続き精神衛生法. 第20条から22条,41条,43条で規定している。. でも,保護義務者に監視・監督の役割を期待し. 池原は,当該法律について,精神障害をもつ人. ていたとみることができる。. に治療を受けさせる義務を家族に負わせること. 精神衛生法が改正された1965年頃になると,. で,精神障害のある人が監置の対象ではなく治. 家族会運動が全国的な広がりをみせ,国や行. 療の対象であることを明らかにしようとしたと. 政への発言権も増大してくる。. 述べている[2004:196]。. 1964年に発生したライシャワー事件を機に活発. だが,国会審議では,「従来の私宅監置の制. 化した精神衛生法改正や保安処分についての論. 度を廃止し,長期にわたり自由を拘束する必要. 議,法曹界における精神障害をもつ人の人権. のある精神障害者は,精神病院又は精神病室に. 擁護への取り組みなどがある[南山2006:13]c. 収容する」,「長期にわたって身体の自由を拘束. つまり,社会防衛的目的からの日常的なポリス. する原因を,精神障害という病気だけに限る必. パワーの介入に危機感を抱いた精神障害者の家. 要がある」という発言が出ている[衆議院事務. 族が結束し始めたのである。. 局1950]。 これらの発言からは,精神病院に. その後1987年成立の精神保健法(昭和62年法. 収容する第一の理由は「拘束」であり,「治療」. 律第98号)を経て1993年の精神保健福祉法の時. ではなかったと考えることもできる。. 南山は,. これらの規定. この背景には,. 代に至るまで,法文上の保護義務者の規定は変. 精神衛生法で,家庭から医療へと精神病者を隔. わっていない。 ただし,精神保健法の焦点の一. 離・監督する位置が移された代わりに,家族は. つは患者の人権保障であり,精神医療審査会の. 精神病のある者を管理し,精神医療と患者とを. 制度が設けられると同時に,保護義務者は患者. つなぐ位置に置かれたと指摘している[2006:. のた捌こ退院請求や処遇改善請求ができるよう. 12]c同法で保護義務者による同意入院制度が. になった(精神保健法第38条4項)。. 新たに導入されたことは,保護義務者に「つな. ついて池原は,「保護義務者の役割を患者の権. ぎ役」としての機能が求められていたことの象. 利擁護者としての方向に大きく踏み出させる改. 徴ととらえることができる。. 正であった」と述べている[2004:197]。. 一方,池原は,精神衛生法における保護義務. 精神保健福祉法では,「保護義務者」から「保. 者の自傷他害防止監督義務(第22条1項)を指. 護者」へと改称されたものの,制度内容そのも. して,監護義務の残津であったとの解釈を示し. のの変更は1999年の改正を得たねばならなかっ. ている[2004:196]。. 同法第43条には保護拘束. この点に. 1999年の改正の具体的な変更点は,精神障 た。.

(4) 触法精神障害者家族への接近の試み 害をもつ人が自己決定をなしうる状態にある場. していることから,保護者には精神医療と患者. 合は,保護者の「治療を受けさせる義務」の対. とをつなぐ他に,福祉的資源と患者とをつなぐ. 象外としたこと,そして自傷他菩防止監督義務. 役割も期待されるようになったと考えることが. を削除したことである。 改正時の国会審議録で. できる。. は,自傷他害防止監督義務の削除は,高齢化す. 前述の通り,2003年に成立した医療観察法に. る保護者の負担を軽減するためとの説明がなさ. よる保護者は,精神保健福祉法の規定により保. れている[衆議院1999:287]。. しかしその一方. 護者となる者とされているのだが,医療観察法. で,当該義務の削除は,保護者の監督が今後不. では,保護者は専ら対象者の人権を擁護する役. 要という意味でとらえてよいのかとの質問に対. 割が課されている(5)医療観察法に関する国会. し,政府は,保護者の義務の中に治療を受けさ. 審議録を見る限りでは,保護者について取り立. せる義務があり,治療を受けさせるという具体. てて議論された形跡はなく,このような保護者. 的な行動をとることで自傷他害を防止できるた こ. め削除したと述べている[参議院1999:8]。. の役割に異議は唱えられていない。 精神衛生法から医療観察法に至るまでに精神 障害者の親は,「保護義務者」から「保護者」. の発言から,法改正後も保護者の監視・監督義 務は残っていると解釈できる。. 345. それと同時に,. へと名称を変えながら,精神障害をもつ人の処. 上記2つの発言の主旨が矛盾したものであり,. 遇に関わり続けてきた。 そして期待されている. 当該監督義務の廃止が具体的に保護者のどのよ. 役割も,精神障害をもつ人を隔離・監督する役. うな負担を軽減するのかが見え難いことがわか. 割中心から,治療や福祉的資源につなげる役割. る(4). 中心へ,そして権利を擁護する役割へと,時代. 当該改正時には,第41条で規定されている措. の変化とともに変わってきたことがわかる。. 置入院解除後の引き取り義務についても議論さ れている。具体的には,引き取り義務の廃止あ. 2)後見人と保護者. るいは努力義務への変更の提案に対し,政府. ここで,精神衛生法第20条第2項では保護義. は,措置解除者は引き続き医療等を必要とする. 務者の義務を負うべき順位を定めており,「親. 場合が多いので,保護者による支援を確実に担. 権を行う者」は第1番目ではなく,後見人,配. 保するため,法律上も具体的な義務を課してい. 偶者に次いで3番目であったことに留意した. ると説明している[参議院1999:15‑191。. ここ. 精神衛生法が1965年に改正された際も, い。. から,精神衛生法の時代からあった「つなぎ役」. 1987年成立の精神保健法でも,そして精神保健. としての保護者‑の期待が依然として強いこと. 福祉法においても,「親権を行う人」の保護義. が推察される。さらに,同会議中の国務大臣が. 務者あるいは保護者としての義務を行うべき順. 引き取り義務について,「現実に精神障害者を. 位は第3位である。 であるとすれば,法律の文. 引き取ることの他に,医療保護入院等への移行. 言上は必ずしも親を精神障害をもつ人の筆頭責. を考え対応するというようなこととか,社会復. 任者としては既定していないことになる。. 帰施設‑入所させることも含んでおる」と発言. 保護義務者あるいは保護者として義務を負う.

(5) 346. べき順位が1位である後見人は,2000年の民法. 精神衛生法から医療観察法までの流れの中. 改正以降は成年後見制度,それ以前は禁治産・ で,「保護者」の役割は,監督者から,治療を 準禁治産制度に基づくものである。 これらの制. 受けさせる役割へ,さらに権利擁護の役割へと. 度は,判断能力の不十分な成年を保護するため その重点がシフトしていった。 そして現行の精 の制度であり,精神障害をもつ者も対象に含め 神保健福祉法では,その「保護者」には,監 られてきたが,事例の半数は高齢者で,残りの. 視・監督しながら治療を受けさせる役割(ポリ. 半数を知的障害者と精神障害者がほぼ同数で占スパワー的役割)と,権利を擁護する役割とい つまり,精 めているという[大塚2005:43]。. う矛盾する可能性のある役割が同時に課されて. 神障害をもつ者の後見制度利用が決して多くはBE* ないということである。 この理由として,精神. ただし,第三者後見の可能性が低い状況で. 保健福祉業務に携わる者が,制度の存在を十分 は,後見人として財産管理をするのも,監視・ に理解していない可能性や,高額な申し立て料 管理,あるいは治療を受けさせるのも,「親」 したがって,実際 を支払ってでも後見人を立てる必要がある場合であることは避けられない。 というのが,限られていること等が挙げられよ は精神衛生法の時代から既に親には相反する役 う。. 割が同時に課されていたと見るのが妥当であろ. さらに,保護者以外の第三者後見人の可能性 う。 を考えたとき,大塚は,後見人・保佐人と保護. むしろ変化してきたのは,擁護すべき精神障. 者という,責任の二階建構造が,就任の大きな. 害をもつ人の権利の内容とその広がりとも言え. 障害となっていることを指摘する[2005:44]。 る。 つまり,精神衛生法の時代は守るべき権利 池原は,後見人が保護者となっている場合,治. が財産権等に限定される傾向にあったのが,精. 療代諾権限については後見人選任手続の主題に神保健法の頃からは,精神医療審査会の設置が はなっていないので,財産管理人を便宜上保護 象徴するように,より多様な権利(知る権利や, 者として流用しているに過ぎないと述べている不当に拘束されない権利など)について配慮さ つまり,保護者制度におい [2004:199‑200](6)。. それにともない,「保護 れるようになった(8)。. て,後見人又は補佐人を保護義務者の1位に置. 者」である「親」に,財産権だけでなく,障害. いているということは,後見人が実質的に担え 者本人の治療を受けない権利を含めた,生活全 る役割以上のものを期待しているということに般に関わるさまざまな権利を擁護する役割が求 K33I! 大塚の指摘する二階建構造に,第三者後見人. められるようになったということである。 さらに,対象者の強制入院・強制治療を規定. のなり手不足という問題が拍車をかけ,その結 した医療観察法は,法の性質上,対象者の人権 果,法律上,「保護者」としての義務を果たす. をいかに擁護するかが鍵となる。 その結果,権. べき順位が最優先されるのは後見人ではあって利擁護者の確保が不可欠となり,保護者にもそ も,実際保護者となるのは,第三者後見人では なく親であることが多くなる(7)。. の機能を強く求めるようになったのである。.

(6) 触法精神障害者家族への接近の試み. 347. たとえば1984年に大島は,東京都における 2. 精神障害者の親としての役割一研究編. 家族の援助要求からみた精神科救急の機能. さて,制度上の精神障害をもつ人の親の役割. について定量的な調査を実施している[1984:. は,その重点を移行していったわけだが,監管. 340‑360]。大島は「家族の援助要求が直裁的に. 者,治療受けさせる者,権利擁護者のいずれで. 治療に結びつくべき」と結論付けており,家. あっても,精神障害をもつ人の生活を維持させ. 族が「つなぎ役」として円滑に機能するよう. る社会資源としての機能が求められていたこと. 意図した研究と解釈することができる[C£大. に変わりはない。 このように親を資源としてみ. 島1984]。 また,この頃から家族自身を「サー. る傾向は,従来の精神障害をもつ人の家族に関. ビス需要者」としてとらえる視点もあったこと. する研究においても見られた。. がわかる。同じ80年代に大島は,精神障害者. 精神障害をもつ人の親に関する研究は,1940. 家族の協力態勢の実態と家族支援のあり方に. 年代頃から欧米で本格化した。. ついて,川崎市と長野県で調査を実施してい. 半津は,1940年. 代から2004年までの欧米における精神障害者家 族研究を三期に分けている[2005:65‑89]。. る[1987:205‑241]c当該研究では,家族を取 病. り巻く資源の状況が,障害者の日常生活行動に. 理的家族関係を仮説とした研究が中心である第. 対する家族の援助協力行動(協力度)に影響. 1期(1940年代から1950年代),家族の対処技. し,疲労感,絶望感に結びついた場合に,困難. 能と再発予測についての研究(感情表出研究). 度が高まり,障害者を受容する心理(共感度). が中心となる第2期(1960年代から1980年代),. を下げることを明らかにしている[大島1987:. そして第3期(1990年代以降)は,ストレス研. 205‑241]。当該研究の中では,家族がもつ援助. 究をはじめ,家族の介護負担感と態度に関する. 者としての機能を「協力度」に,生活者とし. 研究,障害受容の研究など,介護者の意味づけ. ての機能を「困難度」に操作化している[大島. に着目した研究が増えてくる。. 以上の流れをふ. 1987]cこれは,家族を援助者として見る一方. まえ,以下では日本における精神障害者家族研. で,支援を必要とする者とみなしていたという. 究について振り返り,臨床研究においても家族. ことである。. が精神障害をもつ人を支える社会資源としてと. その他,同時代に実施された大規模調査と. らえられてきたことを明らかにする。. して,全家連が全国の精神障害者家族約17,000 人を対象に行った「家族福祉ニーズ調査」が. 1)日本における精神障害者家族研究. あり,石原が後に地域比較を試みている[1990:. 日本において精神障害者家族研究が増加し始. 93‑124](9)これ以前から石原は,地域比較の. めたのは,1980年代からである。. 欧米における. 視点をもち続けており,1970年代後半から複数. 精神障害者家族研究の第1期では,病理的家族. 地域での家族調査を実施していた。. 関係を仮説とした研究が主流といわれている. 統的家意識などの地域差が,家族によるケアの. が,日本における研究では必ずしも同じような. 実態とどのように関係しているか検討してい. 傾向が見られているわけではない。. る[石原1982]。. そして,伝. 南山は,こうした地域比較の.

(7) 348. 研究は,地域特性に合った社会資源のあり方を おいて実施されるようになるのは,1990年代に 示唆し提言しうる研究であったと論じている 入ってからである。 この一因として,精神障害 [2006:301。. をもつ人の権利擁護の重要性が増し,長期社会. 1990年代に入ると,1960年代から英国で 的入院者が社会問題化する動きの中で,精神障. 害をもつ人の地域生活を支える家族に対するケ Brownら[1962:55‑68]が着目し始めた家族の. 情緒的態度(感情表出)と症状との関連性につ アの重要性が増したことが挙げられる[C£大島 1991:582‑602](10) いて,日本でも注目されるようになり,千葉県 内の3精神科医療施設で追跡調査を実施して そして1990年代後半から2000年代になると,. 定量的な研究だけでなく,インタビューによる いる[Ito,Oshima1995:23‑37]cこの研究では,. 質的な研究手法を用いたものも見かけるように 家族の感情表出と再発との関係,感情表出と家 なるのだが,家族に対する見方は依然として, 族機能との関係,感情表出と生活困難度との関. 精神障害をもつ人の「ケア提供者」あるいはケ 係等が明らかにされており,精神障害をもつ人. ア協力者である(ll) の予後改善のために,家族に対して生活支援を こ 提供する必要があることが示唆されている。 たとえば,岩崎は,精神障害者家族の情緒的 のように家族の態度や機能と再発との関連性に 負担と対処方法を長時間インタビューの手法に 焦点を当てていることからは,家族を障害の環 より検討している[1998:29‑40]c調査結果を 境要因の1つとしてみる見方があったと指摘で 受けて岩崎は,「医療看護提供者自身が,家族 さらに,生活支援の究極目的を鑑みる きよう0 を,患者の発病や再発の犯人としてではなく, と,研究のねらいとして,障害者本人を支える 患者へのケアの協力者として認識し,家族の苦 社会資源である家族の機能向上があったと言え 悩に対して共感的に関わっていくことが望まし 共感的な関わりは,家族の自責感や孤立感 る0 い。 この他1990年代になると,精神障害者家族 を和らげ,家族が患者のケアに専念できるよう 具体的には,家 に関する研究が増えてくる。. な精神的環境を整えると思われる」と考察して. 族の生活ストレスに焦点を当てた大島らの研 いる[岩崎1998:29‑40]cこの考察は,「精神. 究[1994],ケア提供者の負担について,その 障害者家族はケアに専念することが望ましい」 構造を明らかにしようとした研究[南山1995: それゆ と'いう価値基準に基づくものである。 え,岩崎の指摘は,家族がケアの協力者になり 81‑92],家族ケアとストレスに注目した研究 さらに,感情 [南山1997:77‑90]などがある。. うるからこそ,看護提供者から家族に共感的態. 表出との関連で家族に対する心理教育アプロー 度が向けられるべきという意味にとらえること チの効果を明らかにした塚田らの研究がある ができる。 この他にも,精神障害者家族へ [2000:67‑73]。 2)社会資源としての家族 の心理教育アプローチの効果については,田中 心理教育アプロー らが調査をしている[1996]。. 日本において精神障害者家族研究が本格化. した1980年代から2000年代に至るまで,家族 チを中心とする家族支援プログラムが日本に.

(8) 触法精神障害者家族への接近の試み. 349. は精神障害をもつ家族員に対してケアを提供. 軽減することが第一の目的であったのかもしれ. する「ケア提供者」つまり社会資源として,ま. ない。しかし,保護者の諸責任を規定する制度. た,その一方で支援を必要とする存在としても. が存在し続けてきたため,結果的には,研究. 位置づけられてきた。 ただし,家族に対する支. が,保護者機能や権利擁護主体といった制度上. 援とは,名目上は「家族支援」であっても,本. 規定された親の責任,つまり親の持つ「援助者」. 質的には障害をもつ人の処遇が目的となる。. つ. の側面をより強化することになったのではない. まり,家族を支援することにより,家族がもつ. 換言すれば,これまでの研究が,精神障害 か。. 社会資源としての機能を向上させ,結果的に精. をもつ人の親を「親」としての位置にのみ留め. 神障害をもつ家族員の痛状安定や入院回避,長. 置くことに貢献した,あるいは親としての責任. 期社会的入院の解消につなげるというねらいが. の自覚を促すことに貢献してきたとも考えられ. 見え隠れする。. それは,「障害者の親」以外のアイデンティ る。. 田玉は,精神障害をもつ人による暴力の被害. ティの獲得を促すものではなかった。. 者の多くが家族であることを受けて,「保護者. 一方,保護者としての責任の重さと,過剰な. が被害者の遺族であり,加害者の家族でもある. 期待に庄倒されてきた精神障害をもつ人の親た. 過酷な立場に立たされていることは,患者の社. ちは,「家族が本来もっている愛情によって接. 会復帰を阻害している」と指摘し,「今後患者. することが出来るようになることを実現して欲. の担い手となる家族の心理状況を十分考慮する. しい」と,保護者制度の廃止を訴え続けている. 言い換. 必要がある」と述べている[1999:86]。. [C£参議院1999:163]<また,南山は,親たち. えれば,暴力の被害者となってもやはり親は患. が「障害者の親」としてのふるまいから自由に. 者のケアの担い手となり,患者の社会復帰を助. なったうえで,障害者との関係性を再構築する. ける役割が期待されているということである。. ことが,障害者の側からも求められているとす. 家族の心理状況を考慮する必要があるのは,今. る[2006:17]。 そして,「ケアする存在‑ケア. 後家族が患者のケアの担い手となる可能性が高. される存在」「管理する存在一管理される存在」. いからなのである。. 精神保健福祉法第41条で. といった家族と障害者の関係性を超えて,障害. は,措置解除後の「保護者の引き取り義務」が. 者と家族がお互いの関わり合いを再編していく. 規定されているが,この規定は,精神障害をも. ことができるかを検証する必要があると述べて. つ人による暴力の被害者が家族内にいることが. いる[南山2006:16]。. 多いにもかかわらず,被害者としての家族の立. 「関係性の再構築」は,つまり,親の主観的見. 場を不問に付して,家族の社会資源としての役. 方にメスを入れることによりもたらされる「障. 割を負わせようとしたものと指摘できよう。. 害者の親」というアイデンティティからの解放. 日本における精神障害者家族研究は,「社会. と,親子の新たな関係性を模索する作業と言い. 資源」として家族を位置づける視座から脱する. 換えることができよう。. ことができなかった感がある(12)。. 本来,精神. 障害者家族研究は,「生活者」たる親の負担を. ここで南山が提案する.

(9) 350. 義務者に当たることを当然と考えるのが通説で 3.判例を通して見る,親への許し. ある一方,法定監督義務者に該当しないとする. では,社会は常に精神障害をもつ人の親に, 見解(否定説)早,法定監督義務者に該当する 監督者や権利擁護者としての機能を期待してい にしても,その監督義務の内容を適切な治療を 精神障害をもつ人の親が,社会 るのだろうか。. 受けさせる義務の範囲に限定し,他害行為防止. 資源としての役害摘、ら解放されることはあるの のための監督義務にまで広げて解釈すべきでは だろうか。 この章では,心神喪失または心神耗. ないとする見解(監督義務限定説)が主張され. 弱状態で殺傷事件を起こした成年の親につい つまり,保護者の法定 ていた[辻1996:168]。 監督義務は,自傷他害防止監督義務との関係で て,その損害賠償責任が争われた裁判例を振り その義務範囲が考えられていたわけである。 返り,成人した精神障害者の親というものが, 辻は,精神保健福祉法が改正され,保護者の 裁判の中ではどのようにとらえられているのか ただし,ここで検討しようとして を検討する。. 自傷他害防止監督義務が削除されてからは,精. 神障害をもつ人による他害事故について,保護 いるのは,法解釈論の問題ではなく,その背景 したがって,関 にある考え方についてである。. 者の損害賠償責任の存否が争点となった裁判例. 係法規の解釈については法学的視座からの論稿 はまだみられていないとしながらも,「精神障 を参照されたい。. 害者には他害事故発生の危険が差し迫ってい て,身近にいる保護者もそのことを認識してい. 1)保護者であるということ. ながら,医療に繋げる方策をとることができる. 心神喪失あるいは心神耗弱状態で殺傷事件を のに精神障害者を漫然と放置し,その結果とし 起こした成年の親に損害賠償責任があるか否か て他害事故が発生した場合には,治療を受けさ の問題は,精神保健福祉法上の保護者を民法第 せるべき義務と他害事故が発生する際の状況か 714条第1項の法延監督義務者とみてよいかと ら保護者に条理による作為義務を認め,この作 いう問題と関係している。 たとえば,仙台地裁平成10年11月30日判決 [判時1674号106]がある(以下,事例Aとす これは,1996年に心神耗弱状態にあった る)0. 為義務違反を理由に保護者に損害賠償責任を負 わせてもよいように思われる」と述べている 言い換えると,社会通 [2004:195,2005:62]。 念的には「自分の子が他害行為を起こす疑いが. 男性が元雇用主の腹部をナイフで刺して苑亡さ ある場合は,結果が予測可能なのだから,漫然 事件当時,精神保健法第20条 せた事件である。. と放置すべきではない」ことになる。 辻の発言. に基づいて保護者選任されていた男性の父親 は,精神医療と患者とをつなぐ「つなぎ役」と は,自傷他害防止監督義務を尽くしていなかっ しての親の機能を重視していると解釈できる。 そして,「つなぎ役」が必要となる理由に,他 たとして多額の損害賠償を支払うこととなっ た。. 害事故発生の危険性の高まりがあることを鑑み. この判決にも示されているように,1999年の ると,親は精神障害をもつ子が加害者となる可 精神保健福祉法改正以前は,保護者が法定監督 能性を疑いながら,常に監視・監督することを.

(10) 触法精神障害者家族‑の接近の試み. 351. 当然とする考え方が通底していると指摘できよ. て認識しているとは思えない発言をして省みな. う。. いこと,③息子の精神障害の内容等についての. ただし実際には,監督することが困難な状況. 医師からの説明についても,診断名程度しか覚. もあるため,裁判を通して具体的にどの程度の. えておらず,息子の障害について真撃に受け止. 監督が可能であったのかを判断することにな. め,理解しようとしていたかについては多大な. る。. 疑問が抱かれること等が指摘されていた。. 事例Aにおいても,保護者は監督義務者に当. 確かに,保護者が家庭裁判所からの選任を必. たらないとする被告の主張を,裁判所は「適当. 要とし,監督義務者に当たるか否かは別として. ではない」と判断しながらも,民法714条但書. も,精神保健福祉法上の義務が課せられること. の免責事由の判断において保護者がどの程度監. を考慮すると,息子の障害に関する被告人の理. 督が可能であり,そのうちどの程度の役割を実. 解は妥当とは言い難いだろう。. 際に果たしていたかを検討している。. したがっ. しかし,このよ. うに考える前提には,保護者であれば,当然,. て,親の「つなぎ役」あるいは「監視役」とし. 息子の障害について「正しく」理解しているべ. ての社会資源機能は,個々の状況に応じて免じ. きとする暗黙の了解が存在していると指摘でき. られるということがわかる。. る。. 事例Aの判決文においては,監督義務の制約. 被告人の保護者としての認識が,法の期待す. として,意思疎通の困難性など障害がもたらす. るものと合致していなかった背景には,精神障. 制約,治療法が確立されておらず監督義務者に. 害や保護者義務についての保護者に対する説明. 精神的負担がかかること,精神障害の存否の判. 不足があったと考えられる。 であるにもかかわ. 断には困難を伴い,そのため時として社会的圧. らず,「正しい理解」をしていなかったことが. 力を受けること,精神医療ないし精神医療行政. 被告人の落ち度としてみなされていることから. の実状,精神障害に関する情報不足と偏見など. は,監督義務の制約として列挙されていた事柄. が列挙されている。. が環境的要因として十分に考慮されたかについ. しかし,事例Aの場合,被告は保護者として. ては疑問が残る。. の機能を十分に果たしていなかったと判断され. このように,親の社会資源機能は,一律に課. た0具体的には,父親は保護者選任を受けてい. せられるわけではなく,表向きは社会的諸条件. たにもかかわらず,①息子の精神状態は本当の. が考慮に入れられるのだが,その一方で,保護. 精神病ではなく,被害者との対人関係に原因が. 者になることにより,親は監督者(社会資源). あるという先入観を抱いており,被害者が息子. としての自覚が要請されるのである。. と対話してくれてさえすれば息子の精神状態は. により,子に対してそれまで有していた認識の. 安定すると考えていて,息子の精神障害につい. 変更を余儀なくされることがある。. て正しい理解をしていたとは言えず,事態の重. では,このような変更はきわめて当たり前のこ. 大性,緊急性をほとんど認識していないこと,. とと受け止められていたのである。. ②息子の病状や息子の自傷他害の危険性につい. この要請. そして裁判.

(11) 352. 2)扶養義務者であるということ. 理論的及び実質的根拠としては,次のような事. さて,心神喪失あるいは心神耗弱状態で殺傷柄が指摘されている。 ①保護者の選任手続を 事件を起こした成年の親に損害賠償責任がある 怠っている近親者を免責する必要はないこと (公平論),②同居している近親者であり,職業, か否かの問題は,保護者選任を受けていない近 親者も民法第714条第1項ないし第2項の責任年齢,心身の状況,生活状態等から監護が可能 を負うかという問題とも関係している(13) であり,精神障害者の言動等から他害の危険を たとえば,東京高裁平成15年10月29日判決. 予測できる場合には,近親者である事実上の監. (平成15年(ネ)第2987号)[判夕臨時増刊1184督者に危害防止の作為義務が生じるとみるべき これは, 号:88]がある(以下,事例Bとする)0. こと,(参精神障害者の事実上の監督者が家族共. 心神喪失状態で隣人を殺害した者の扶養義務者 同体の統率者であり,精神障害者がその家族共 である実母(保護者ではない)に対し,民法第同体の一員であるところに,社会通念上の監 709条に基づき損害賠償責任を求めた裁判であ 督義務の発生原因を求めるべきであること[C【 る。. これら3つの根拠には,社会に 辻1996:171]。. 家族を殺害された被控訴人の主張は,保護者おける家族共同体の機能を重視し,精神障害を である父親が死亡しているのであるから,母親 もつ人の行動は基本的にはその近親者が責任を 持つのが当然という考え方があると指摘できよ は同居の親族として,息子を入院させ治療を受 う。 けさせる等の適切な措置を取るべき義務があっ たというものである。. 事例Aでは父親が保護者選任を受けており,. これに対し控訴人は,保護者ではない控訴人それゆえ息子の精神障害についての「正しい」 しかし事例Bについて には監督義務はないし,仮にあったとしても, 認識が要請されていた0 息子は通院医療を継続して受けていたため,保 は,たとえ保護者選任を受けていなくても,同 護者が治療を受けさせる対象には該当しない。 居している限りは,子の障害について「正し また,精神保健福祉法では保護者の監督義務を く」認識し,監護者としての役割を果たすこと つまり,社 医療面に限定しており,保護者に精神障害をも が求められ得ることを示している。 「単に母親 つ人の他害を防止する義務はない。. 会資源としての役割は,保護者であるか否かに. 関わらず,「同居していること,あるいは近く であるというだけでその義務があるとする被控 にいること」と「扶養義務者であること」とい 訴人らの主張は,失当というべき」としている。 判決は,本件においては具体的に危険を予見う2つの事実をもって付与されるということで したがって,子に対する親の認識変更は, することは困難であったとして,請求が棄却さ ある。 れてはいるものの,精神障害をもつ人と同居保護者選任というよりもむしろ,子に精神障害 があることが明らかになった時点から要請され し,その生活の面倒を見ているにすぎない扶養 るものと言うことができる。 義務者についても,監督義務違反による不法行 為が成立する場合がありうるとしている。 先の理由②では,近親者が実際上,監護可能 保護者ではない近親者が不法行為責任を負う な状況であることが,監護義務が発生する条件.

(12) 触法精神障害者家族‑の接近の試み. 353. となっている。 裏返して言えば,精神障害を. な状況下でも課せられているというわけではな. もつ子と同居せずに,かつ関わりを持たなけ. く,社会資源機能の環境的制約を一定程度考慮. れば,(現実的には危険性の予測は不可能とな. されることになっている。. る),親であっても社会資源としての役割や責. だが実際には,精神障害をもつ子が成人して. 任は課せられないことになる0. この意味で,親. いても,高齢になり心身ともに疲れ果てるまで このように親. の監護義務は便宜的に付与されたものと受け取. 親は子の面倒を見続けてきた。. ることも出来よう。 ただし,保護者選任を受け. が自らをケア提供者として縛りつける背景に. ることにより,別居し,かつ関係性の薄かった. は,精神障害をもつ人の地域生活を支えるため. 親でも社会資源としての機能が課せられること. に必要なサービスが不足しているという現実だ. になる。したがって保護者制度は,同居をして. けでなく,障害者観や親子観,家族観に対する. いない親族を社会資源として機能させる仕組み. 囚われがあると考えられている(C£南山2006:. ということができる。. そして国家は,立法により社会資源とし 83)。. このように,精神障害をもつ人の親は必ずし. ての親の役割を規定することで,国が果たすべ. も常に親としての法的責任が求められているわ. き役割を巧みに回避してきた。. けではない。仮に障害をもつ成人した子と別居. 会がもつ障害者観や親子観,家族観は国家に. し,全く関わらなくても,扶養義務違反として. とっては好都合なものであると指摘できよう。. 罰せられる可能性は極めて少ない。. つまり障害. この意味で,社. だが,医療観察法が施行され,触法精神障害. をもつ成人した子とかかわり続けるか否かはあ. 者家族という家族像が浮上してきた状況下で. くまでも親の選択に委ねられる。. も,これまでのように精神障害をもつ人の親を. であるにもか. かわらず,親たちの多くが精神障害をもつ子と. 社会資源として位置づけることには問題がとも. の同居を選択し,長期にわたり保護者の役割を. なう。 精神障害をもつ人による犯罪の場合,そ. 果たす。この背景には,「障害者は家族によっ. の家族員が被害者であることが多く,親は被害. て保護されるべき」という障害者観だけでな. 者の家族と加害者の親という2つの立場に置か. く,「子がいくつになろうとも,親子の結びつ. また,子が重大な犯罪をおかしたことに れる。. きは強くあるべき」という社会のもつ親子観が. より,親は精神障害をもつ人の親であると同時. あるように考えられる(C〔南山2006:83c. に犯罪者の親にもなる。 このような困難な状況 に立たされた者にとって,監護者や権利擁護者. 4. 結びにかえて. といった社会資源としての役割が過剰な負担と. 以上で論じたように,法制度上も臨床研究上. なることは,想像に難くない。. も,精神障害をもつ人の家族,特に親は精神障. したがって,触法精神障害者家族を含めた精. 害をもつ人を監護し,医療や福祉的資源と結び. 神障害者家族に対する支援の方向性について. つけ,権利擁護を図る,重要な社会資源として. も,社会資源としての機能向上ではない,別の. 位置づけられてきた。 このような社会資源機能. 道を探る必要があるだろう。. は,すべての精神障害をもつ人の親にどのよう. 容易ではない。. ただ,この作業は.

(13) 354. まず,親を含めた家族‑の支援提供者の問. るのである。 このような研究は,社会資源とし. 題がある。 家族‑の支援を,たとえば精神障. ての親とは別の親像の可能性を広げることに寄. 害をもつ子が治療やサービスを受けている医 与すると考える。 療機関や福祉施設が提供すると,支援の究極的 〔投稿受理日2007. 5.26/掲載決定日2007. 6.12〕 対象が,親本人ではなく,障害をもった子の病 注 状安定や地域生活の維持になることは避けられ (1)全家連は,全国各地の約1,300(2005年に活動中) したがって,障害をもつ人の親としてで ない。 の家族会から構成される連合組織であり,6万世 はなく,課題を抱えた一個人として,その課題 帯12万人の会員がいる。 (2)象徴的相互作用論の元を築いたジョン・ハー の解決を支援の究極的目的にしようとするなら バード・ミードは,社会的行為を社会的構造から ば,子とは極力関係の薄い支援提供者あるいは の放出物とは考えず,人間という行為者による一 支援の場が必要になる。. つの形成過程だと考えている[Blumer1969Lこの. さらに,保護者制度がもたらす影響もある。. ような考え方に対し,構造的な要因を無視してい. 本論文でも論じたように,保護者制度があるこ るとの批判がある[GeUesl995:50]。 (3)具体的には,審判における意見陳述権および資 とにより,社会資源としての親の位置づけが固 料提出権(第25条第2項),付添人選任権(第30条 そのため,生活者としての家族 定されてきた。 を支えるための支援やそのための臨床研究が,. 第1項),審判期日への出席権(第31条第6項), 入院患者についての退院の許可または処遇の終了. 申立権(第50条)などがある。 結局は援助者としての家族の機能向上に寄与し(4)自傷他害防止監督義務の廃止の経緯と趣旨に関 つまり,保護者 てしまう矛盾をはらんでいた。 制度がある限り,親を含めた家族への支援が社. する詳細については,辻[2005:63‑70]参照。 (5)医療観察法の対象者は,同時に精神保健福祉法. の対象にもなっている。 会資源機能の向上の城を脱することは困難とい(6)池原は,「現行の成年後見制度は財産管理に関す うことである。. る能力を基本において成年後見人の要否を決して. いる制度であり,一般医療の治療行為については したがって, 代諾権を認めていない[2004:199]。 精神障害者の家族の実態が十分に明らかにされ 成年後見人の選任手続きにおいては成年後見人が 確かに日本では1970年代 ていないことがある。 患者の権利擁護者として適任であるかどうかを審 そして何より,触法精神障害者家族を含めた. から精神障害者家族についての量的な調査が実査することなく選任が行われることになる」と述 一方,成年後見における身上監護は, べている。 施されるようになり,全国の家族会の協力を得 本人の身上面に関する利益の主張を補助する役割 しか ることで,多くの知見が集積されてきた。 であり,強制を伴う事項は含まれないとされてい しその一方で,これらの研究の多くが,大勢の る[C【五十嵐1999:47]。 (7)これには,統合失調症の初発年齢が20歳代前後 人々のケア負担感やニーズについて,調査票を に集中していることも関係しているだろう。 用いて把握しようとする手法をとってきたため(8)精神障害をもつ人の人権を重視する考え方は, 前田は,措 に,見逃してしまった部分や,切り捨てられた 措置入院者数の減少にも現れている。 置入院が担ってきた「保安的機能」が弱化し,医 したがって, 部分も多いのではないだろうか。 学的機能が強化されてきたと論じている[2004: これからの精神障害者家族研究には,過去の研 93, 究が見落としてきた機微の救い上げが求められ(9)南山によると,それまで全国調査は,プライバ.

(14) 触法精神障害者家族‑の接近の試み. 355. シー問題を背景として実施困難であったという. 調査結果から」『精神神経学雑誌』86(5),340‑360. [南山2005:28]。 1991年12月には「精神病者の保護及び精神保健. ‑. 1987. 「精神障害者をかかえる家族の協力態勢 の実態と家族支援のあり方に関する研究」『精神神. ケアの改善」に関する国連決議が採択されている。. 経学雑誌』89(3),205‑241 「長期社会的入院患者の退院可能性と, ‑. 1991. 退院に必要な社会資源およびその数の推計」『精神. この決議には精神障害をもつ人の人権擁護に関す る25原則が含まれている。 (ll)グラウンデッド・セオリー・アプローチを用い. 神経学雑誌』93,582‑602. た例として,川添の研究がある[2005:123‑125]。. 大島巌,藤崎宏子,槍間英子,野沢慎司,稲葉昭英,. 川添は,母親が子の統合失調症発症をどのように. 中山和弘. 1994. 『生活ストレスとソーシャル・サ ポートに関する研究』1994年度文部科学研究補助. 受容するかを明らかにしている。 (12)ただし,家族を資源としてみる見方は,精神科 医療のみでなく,一般医療にも見受けられる。. 金事業総合研究A た. とえば福山は,医療機関でのケアマネジメントの. 川添郁夫.2005. 「統合失調症発症による家族の適応 過程の質的研究(第2回青森県立保健大学学術研. 課題の一つとして「家族を一つの価値ある魅力的. 究集会抄録)」青森県立保健大学雑誌編集委員全編. な資源として認め,その家族の尊厳を守りながら,. 『青森県保健大学雑誌』6(1),123‑125. 家族の外からの援助・支援をしていくこと」を挙. 参議院事務嵐1999.. げている[2006:29‑33]c. 祉委員会会議録第8号』参議院事務局. (13)本稿では,事件発生以前に,子が精神障害者で. 衆議院事務局.1950. 『第7回国会衆議院厚生委員. ある事を既に知っている場合に限定して論じる。 ただし,扶養義務者の損害賠償責任訴訟では,事 件が発生して初めて子の障害について知った事例. 会議録第22号』衆議院事務局 『第145回国会衆議院厚生委員会議録 ‑. 1999. 第11号』衆議院事務局. もある(例:東京地裁昭和61年9月10日判決(昭和. ぜんかれん保健福祉研究所.1993. 「精神障害者・家. 58年(ワ12146号)[第‑法規法情報総合データ. 族の生活と福祉ニーズ'93(I)一全国家族調査編」. ベース判例ID27800051])cこのような事案につい. 『モノグラフ5号』. ては,辻の論稿を参照されたい[1996:171]。. 全家連.2006. 「第4回家族ニーズ調査概要報告書」. 『第145回国会参議院国民福. ://www. zenkaren. or.. /do cume nt/files/7 1 8/cho sa.. 参考文献. gdf(2006年8月4日). 五十嵐禎人.1999. 「成年後見制度の問題点と改正の 動向」『季刊精神科診断学』10(1),37‑54. 田玉逸男,中川之子,井口喬,稲本淳子,白井麻里,. 池原毅和.2004. 「精神障害者の保護者」町野朔編 『ジュリスト増刊精神医療と心神喪失者等医療観 察法』有斐閣,196‑200. 安部康之,出井恒規.. 1999. 「指定病院における殺 人を犯した触法精神障害者の治療と処遇に関する 研究」『日本社会精神医学会雑誌』8(1),86. 石原邦雄.1982. 「精神病長期療養者の家族に関する. 田中悟郎,太田保之,上村美紀. 1996. 『精神分裂病 者を抱える家族への生活訓練が分裂病の転帰に及. 2地域間調査」国立精神衛生研究所編『精神衛生. ぼす影響に関する研究』文部科学研究費補助金事. 研究』25,28‑43 「精神障害者とその家族の存在形態:家 ‑. 1990. 族会員全国調査による地域比較分析」東京都立大. 業,基盤研究C. 学人文学部編『人文学報一社会福祉学』6,93‑124. 塚田和美,伊藤順一郎,大島巌,鈴木丈2000.. 岩崎弥生.1998. 「精神病患者の家族の情緒的負担と. 「心理教育が精神分裂病の予後と家族の感情表出に. 対処方法」『千葉大学看護学部紀要』20,29‑40. 及ぼす影響」『千葉医学』76,67‑73. 大塚昭男.2005. 「精神障害者による成年後見制度の 利用」『法律のひろば』58(6),41‑45. 辻伸行. 1996. 「精神障害者による殺傷事故および 自殺と損害賠償責任(5)完一精神病院・医師の. 大島巌. 1984. 「家族の求助行動から見た東京都の 精神科救急の機能と役割一区部東北地区における. 責任および保護者・近親者等の責任に関する裁判. 田淵六郎.1996. 「主観的家族論‑その意義と問題‑」 『ソシオロゴス』20,19‑38. 例の検討」判例時報1561,161‑175.

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参照

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