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in cross-country skiing

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スポーツ科学研究, 8, 3-11, 2011 年

3

クロスカントリースキーのスタート局面におけるクラシカル走法の技術の特徴 Characteristics of classic style technique during starting phase

in cross-country skiing

藤田善也 1),石毛勇介 2),吉岡伸輔 3),衣笠竜太4,5),土屋純 4)

Zenya Fujita1), Yusuke Ishige2), Shinsuke Yoshioka3), Ryuta Kinugasa4,5), Jun Tsuchiya4)

1)早稲田大学大学院スポーツ科学研究科

2)国際武道大学体育学部

3)立命館大学スポーツ健康科学部

4)早稲田大学スポーツ科学学術院

5)理化学研究所

1) Graduate School of Sport Sciences, Waseda University

2) Faculty of Physical Education, International Budo University

3) Faculty of Sport and Health Science, Ritsumeikan University

4) Faculty of Sport Sciences, Waseda University

5) RIKEN

キーワード: 滑走速度,ストライド,ピッチ,ダイアゴナル走法,ダブルポーリング走法

抄 録

本研究は,クロスカントリースキー競技クラシカル種目のスタート局面におけるダブルポーリング走法お よびダイアゴナル走法をキネマティクス的手法を用いて解析し,それぞれの走法の特徴を明らかにするこ とで,加速局面においてより高い滑走速度を得るための示唆を得ることを目的とした.被験者は,日本代 表を含む大学クロスカントリースキー競技者 5 名とした.被験者には,雪上での 50m の直線コースにおい て,ダブルポーリング走法およびダイアゴナル走法,さらに被験者が最も滑走速度が高くなるように前述 の 2 走法を自由に組み合わせた試技(以下,コンビネーション試技)を用いて静止した状態から最大努力 で滑走させた.被験者の実施をレーザー瞬時速度測定器と高速度ビデオカメラを用いて記録し,50m の 所要時間,10m 毎の平均速度および最高速度,総サイクル数,ピッチおよびストライドを算出した.その 結果,(1) 50m の所要時間に差はみられなかった,(2) 最高速度はダブルポーリング走法がダイアゴナル 走法と比較して有意に高値を示した,(3) 滑走速度は,10-20m 区間においてはダイアゴナル走法がダ ブルポーリング走法より有意に高値を示し,(4) 30-50m 区間においてはダブルポーリング走法がダイアゴ ナル走法より有意に高値を示した,(5) コンビネーション試技は,スタート直後にダイアゴナル走法を実 施し,その後ダブルポーリング走法に切り替えて実施されていた.以上の結果から,クラシカル種目にお けるスタート局面では,まずスタート直後の加速に優れるダイアゴナル走法を用いて,次にダイアゴナル 走法より最高速度の高いダブルポーリング走法に切り替えるというコンビネーション技術が,高い滑走速 度を得るために重要となることが示唆された.

(2)

連絡先

Ⅰ.緒言 1985 年 クロスカント フリー種目 シカル種目

図1.クラシ

ダブルポ グ) は,左右 動作を行う 平地の滑走 で 多 く 用 い Mittelstad ルポーリング ダブルポー キック動作に り,平地もし

(Bilodeau ナル走法 ールのプッ 作を用いた

スポーツ科学研 先:藤田善也

のノルディッ トリースキー競

の 2 種類の 目はスキーを

シカル種目の3

ポーリング走 右対称でか

ことで推進力 走 やラストス い ら れ て い る

et al., 1995 グ走法 (以下 ーリングのポー によって推進 しくは緩やか

et al., 1996 (以下 ,ダイ ッシュ動作と反 た滑走技術で

研究, 8, 3-11,

〒359-1192

ックスキー世 競技では,ク の競技が行わ を平行にした

3走法 (A) ダ

法 (以下,

つ同時にポ 力を得る滑 パート,スプ る (Bilodeau , 鈴木ら 20 下 K-ダブル ーリング動作 進力を加える かな上り坂で

6, Rusko, 2 イアゴナル)

反対側の脚 であり,急な

スポーツ科学

, 2010 年, 受 埼玉県所沢市

界選手権よ クラシカル種

われている.

た状態で滑走

ダブルポーリング

ダブルポー ールのプッシ 走技術であ プリント競技な

et al., 19 008).キックダ ルポーリング) 作の間に片足

る滑走技術で 用いられてい 2003).ダイア は,腕による 脚によるキック 上り坂で多く

学研究, 8, 3-

4 受付日:2010 年

市三ヶ島 2-5

より,

目と クラ 走す

るク キー 走法 法で 主に

グ走法, (B) キ

リン シュ あり,

など 996, ダブ ) は,

足の であ いる アゴ るポ ク動 く使

用さ 198 究で ング 優 れ ポー いる と(H 各走 技の を用 ルポ 後か れる

-11, 2011 年

年 11 月 5 日, 79-15 e-mail

クラシカル走 ーを V 字に

法より高い速 で行うのが一 に 3 種類の滑

キックダブルポ

される走法で 80, 鈴 木 , 2 では, ダブル グがダイアゴ

れていること ーリングと比 るが,速度と Hoffman, 19 走法に一長 のスタート時 用 いて滑走 速

ポーリングを からダブルポ る.一方で,

受理日:201 : z.fujita.w-s

法で行うのに に開いて滑走

速度を獲得で 一般的である

滑走技術が用

ポーリング走法

である(Bilode 2008).これ ルポーリング ゴナルと比較 とや,K-ダブ

較してストラ とピッチの獲

995, Saibene 一短の特徴 時においては 速 度 をある程

実施するこ ポーリングを K-ダブルポ

1 年 1 月 22 ski@akane.wa

に対し,フリ 走することで,

できるスケー る.クラシカル

用いられてい

, (C) ダイアゴ

eau et al.,1 らの走 法 を グおよび K-ダ 較してエネルギ

ブルポーリン ライドの獲得 得には優れ e, 1989)が示 徴があることが は,一般にダ

程 度 高めた とが多いが,

を用いる選手 ポーリング走

seda.jp

ー種目はス

,クラシカル ーティング走 ル走法には いる(図 1).

ゴナル走法

996, 小林, 比 較 した研 ダブルポーリ ギー効率に グがダブル には優れて れていないこ 示されており がわかる.競 ダイアゴナル のちにダブ

,スタート直 手も見受けら 法を用いた

(3)

スポーツ科学研究, 8, 3-11, 2011 年

5 スタートは見 受けられない.このことは,先にも述 べたとおり,K-ダブルポーリングが速度とピッチの 獲得に優れていないためであると考 えられる.つ まり選手は,スタート時の加速局面において,スタ ートダッシュを用いて他の選手よりも先行するだけ でなく,その後のレースストラテジーを想定しなが ら,効率よく,且つ,高い滑走速度を獲得するた めに最適な滑走技術を選択していることが考えら れるが,選 手 がどの走 法 をいつの地 点 で実 施 し ているのか,走法の切り替えが行われているのか,

などの特徴は明らかになっていない.

2010 年バンクーバーオリンピック男子スプリント 競技において 30 位までの決勝トーナメント出場 者を決する予選では,30 位の選手と 31 位の選手 のタイム差はわずか 0.10 秒であった(F.I.S.公式 記録より,http://www.fis-ski.com/).また一斉ス タートで行われる準々決勝の全 5 レース中3 レー ス,準決勝の全 2 レース,および決勝の 1 レース では,写 真 判定 によって勝 敗が決 定 されている (テレビ中継映像より).これらの結果からスプリント 競技は,コンマ数秒を競う種目であることが伺える.

一方で,決勝トーナメントのスタート局面をみると,

スタート動作に優れる選手と劣る選手ではスター トの数秒後にスキー板2 本分 (およそ 4m に相当) 以上の差がついていることが確認できる(テレビ中 継映像より).つまり,スタート技術の向上によって コンマ数秒の時間短縮は十分に可能であり,より 高い競技パフォーマンスを獲得できる可能性があ るといえる.そこで本研究は,スタートの加速局面 におけるダブルポーリングとダイアゴナルの走 法 の特徴を明らかにし,より高い滑走速度を得るた めの示唆を得ることを目的とした.

Ⅱ.方法 1.被験者

被験者は,日本代表を含む大学クロスカントリ ースキー競技者 5 名(年齢 20.2±0.8 歳,身長

174.4±5.5 cm,体重 71.9±3.1 kg)であった.実 験 に先 立 って,東 京大 学倫理審 査 委 員 会の承 認を受けた.各被験者に本研究の目的と実験方 法を説明した上で,実験のインフォームドコンセン トを得た.

2.データの取得

実験には,平坦に整備されたクロスカントリース キーのクラシカル専用コースの平地 50m を使用し た.実験試技は,ダブルポーリングおよびダイアゴ ナルと,被 験者が最も滑走速 度が高くなるように 前述の 2 走法を自由に組み合わせた試技(コンビ ネーション:以下コンビ)の計 3 種類とした.なお,

K-ダブルポーリングは,スタート局面 において一 般的に実施されていないことから,解析対象から 除外した.各試技は,スタート地点に被験者を静 止させ,スタート地点から 50m 地点通過までを最 大努力で滑走させた.スタート地点後方10m から レ ー ザ ー 瞬 時 速 度 測 定 器 (LAVEG-Sports, JENOPTIK社製)を用いて滑走速度を試技ごとに 測定した.また各試技とも側方から高速度ビデオ カメラ(EX-F1, Casio 社製)を用いて毎秒300フレ ーム,露出時間 1/1000 秒によりパンニング撮影 をした.各走法につき 2-5 回の試行を行い,最も 滑走速度の高かった 1 試技を分析対象とした.

各被験者とも,試行間に 5 分間以上の休息をさ せた.なお,実験は,全被験者のすべての試技を 同じ日に実施した.実験に用いたコースの雪質は 固く,実 験 前 後 にコースの相 違はみられなかっ た.

3.分析項目

レーザー瞬時速度測定器から得られた腰部の 変位 は,バターワースデジタルフィルタを用 いて 遮断周波数 3 Hz で平滑化し,スタートから 50m 通過までの所要時間,10m ごとの平均速度を算 出した.また,被験者ごとに 10m の平均速度の中

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スポーツ科学研究, 8, 3-11, 2011 年

6 から最も高い速度を最高速度とした.側方のカメ ラ映像から 30m 地点のリファレンスマーカー上を 腰部が通過した時点と腰部の位置がスタートから 30m を超えた時点を,腰部の変位とカメラ映像と の同期地点とした.同期させたカメラ映像を用い て,ポールの接地を 1 サイクルの開始とし,次のポ ールの接地を 1 サイクルの終了として,両時点の フレーム数と腰部の変位から各試技の総サイクル 数,1 サイクルごとの滑走速度およびピッチを算出 した.さらに 1 サイクルごとの滑走速度とピッチから 1 サイクルごとのストライドを算出した.

4.統計処理

各測 定項目 は平 均 値±標 準 偏差 で示 した.

50m の所要時間,最高速度,総サイクル数およ

び 10m ごとの滑走速度の比較には,ウィルコクソ ンの符号付順位和検定を用いた.危険率は,5 % 未満を有意として判定した.

Ⅲ.結果

1.所要時間,最高速度と総サイクル数

各試技における 50m 所要時間,最高速度,総 サイクル数は,表 1 に示した.50m 所要時間には,

有意差は認められなかった.最高速度は,ダブル ポーリングがダイアゴナルと比較して有意に高値 を示した。総サイクル数は,ダイアゴナルがダブル ポーリングと比較して有意に高値を示した.

1 各 走 法 の 50m滑 走 時 の 所 要 時 間 , 最 高 速 度 , 総 サ イ ク ル 数

2.コンビネーション試技

2 走法を自由に組み合わせたコンビでは,全被 験 者 ともスタート直 後 にダイアゴナルを実 施 して おり,その後 1 名が9サイクル目にダブルポーリン グへと走法の切り替えを行っており,他の 4 名は 11 サイクル目にダブルポーリングへと走法の切り 替 えを行 っていた.つまり本 研 究 ではコンビはダ イアゴナルからダブルポーリングへと走法を切り替 えて滑走する試技であったことが確認された.

3.速度曲線

図 2は各走法におけるスタートから 50m までの 1 サイクルごとの速度の平均値と標準偏差を示し たものである.すべての走法において,スタート直 後から急激な速度の増加がみられ,20m 付近か らは滑走距離の増加に伴って緩やかな速度の増 加がみられる.速度曲線の平均値をみるとスター ト直後からコンビおよびダイアゴナルが高い速度 を示 しており,次 いでダブルポーリングが高 値 を 示した.

50m 所要時間 (s) 最高速度 (m/s) 総サイクル数 (times)

各走法の値は,平均値±標準偏差で示した. * : p < 0.05(両側検定)

コンビネーションは参考値として掲載した.

ダブルポーリング ダイアゴナル z p コンビネーション

0.67 0.500 2.02* 0.043 2.04* 0.041

9.00±0.65 9.15±0.39

7.05±0.40 6.90±0.26 6.80±0.31

16.33±0.52 12.33±1.03 20.17±1.60

9.39±0.59

(5)

4.ストライド 図 3 は各 準偏差を示 もスタートか ダイアゴナル のストライド 各走法にお ルごとのピッ である.ダイ から急激な

ドとピッチ 各走法にお 示したもので から 50m 地点

ルのストライ が長いという おけるスタート ッチの平均値 イアゴナルの なピッチの増加

けるストライド である.ストラ

点まで徐々に ドが短く,ダ う特徴が示さ

トから 50m ま 値と標準偏 のピッチには

加がみられ,

スポーツ科学

図 2 各走法の

ドの平均値と イドは各走法 に増加してい ダブルポーリン された.図 4

までの 1 サ 差を示したも は,スタート直

その後に低

3 各走法の 1

学研究, 8, 3-

7 の 1 サイクル毎

と標 法と いた.

ング 4 は イク もの 直後 低下

し,

ルポ なか のピ が示 ター 傾向 た 向を

1 サイクル毎の

-11, 2011 年

毎の速度の変化

11 サイクル ポーリングの かった.2 走 ピッチが低く 示された.コ ートから 15 m

向を示 し,走 25 m 以降は を示した.

のストライドの変

ル目以降はほ のピッチには 走法を比較す

,ダイアゴナ ンビのストラ m 付近までは 走 法をダブル はダブルポー

変化

ほぼ一定であ

,急激な変 すると,ダブル ナルのピッチが

ライドおよびピ はダイアゴナ ルポーリング ーリングとほぼ

あった.ダブ 化はみられ ルポーリング が高い特徴 ピッチは,ス ナルと同様の グへと変更 し ぼ同様の傾

(6)

5.走法間の 図 5 はダ 法の 10m ある.ウィル 10-20m 区

の速度の変化 ダブルポーリ

区間ごとの速 ルコクソンの符 区間において

5 ダブルポー

リングおよび 速度の分布 符 号 順 位 和 てダイアゴナル

ーリング走法と

スポーツ科学

図 4 各走法の

ダイアゴナル 布を示したもの 和 検 定 の結 果

ルがダブルポ

ダイアゴナル走

学研究, 8, 3-

8 の 1 サイクル毎

ル走 ので 果 , ポー

リ ン 30- ーリ 示し

走法のスタート

-11, 2011 年

のピッチの変化

ン グ と 比 較 し -40m および リングがダイ した.

ト局面における

し て 有 意 に び 40-50m 区

アゴナルと比

る 10m ごとの滑

高 値 を 示 し 区間において 比較して有意

滑走速度の比

し た . ま た , てはダブルポ 意に高値を

比較

(7)

スポーツ科学研究, 8, 3-11, 2011 年

9

Ⅳ.考察

1.ダブルポーリングおよびダイアゴナル走法の特 徴

本 研 究 では,スタート時 の加 速 局 面 において 最適な走法を明らかにするために,クラシカル種 目で用いられる 2 走法の 50m の所要時間を比較 した.その結果,所要時間には走法間に有意差 はみられず,50m の滑走時に突出して優れた単 一の走 法はなく,ほぼ同 程度 の時間 で滑 走でき ることが示された.しかしながら,最高速度や総サ イクル数,ストライド,ピッチの結果をみると 2 つの 走法の特徴は異なっていることから,各走法の長 所と短所が相互に影響し合った結果,同程度の 時 間 で滑 走 がなされたことが推 察される.したが って,各走法の特徴を明らかにした上で,スタート からの加速に有効な走法について考察する.

1). ダブルポーリング走法

ダブルポーリングおよびダイアゴナルは,1サイ クル毎の速度曲線をみると,スタート後に急 激な 増加がみられる点では一致する.しかし,総サイク ル数,ストライドおよびピッチからみると,異なる特 徴を持つ走法であるといえる(表 1, 図2, 3, 4).ダ ブルポーリング中のストライドは,滑走距離が伸び るにつれて増加しているが,ピッチには変化がみ られなかった.これらのことからダブルポーリングは,

スタート局面において,ストライドを増加させること で加速を行っている走法といえる.スタートからの 速度増加の程度はダイアゴナルに比べて比較的 緩やかに増加しており,最高速度に到達するまで に,比較的長い距離を要することが示唆された.

一方で 30-50m 区間ではダイアゴナルより高い速 度を獲得していた.これらのことからスタート局面 において,ダブルポーリングは高い速度を獲得で きるが,加 速 にはある程度 の距 離および時 間 が 必要な走法であることが示唆される.

2). ダイアゴナル走法

ダイアゴナルは,ダブルポーリングと比較すると ストライドが低く,ピッチが高い走法であるといえる (図3,4).図3 をみると,ストライドはダブルポーリン グと同様に滑走距離が伸びるにつれて増加して いる.一方,図 4 をみると,ピッチはスタート直後 に急激な増加を示しており,ダブルポーリングとは 異なる特徴を持つことが明らかである.これらのこ とからダイアゴナルは,スタート局面 において,ピ ッチを急激に増加させながらストライドを増加させ ることで加 速 を行 っている走 法 といえる.速 度 の 変化をみると,20-30m 区間で最高速度に近い速 度まで達しており,ダブルポーリングと比較すると 高い速度を獲得するまでに必要な距離は比較的 短いといえる.しかしながら 30-50m 区間ではダブ ルポーリングと比較して低値を示しており,30m 以 降はダブルポーリングより滑走速度に劣る走法で あるといえる.これらのことからスタート局面におい て,ダイアゴナルはスタート直後の加速に優れた 走法であることが示唆される.

2.コンビネーション試技の検討

コンビ試技時においては,指示していないにも かかわらず,全被験者がダイアゴナルからダブル ポーリングへと走法の変更を行っていた.このこと は,選手がコンビ動作を経験則などから直感的に 採用 しているか,あるいはトレーニングの過 程に おいて指導者に指摘されて,より滑走速度を高め やすい切 り替 えを実 施 していることを示 唆 するも のである.そこで,各被験者に聞き取り調査を実 施したところ,全被験者が指導を受けていないと いう内証が得られた.つまり,スタート時において,

ダイアゴナルからダブルポーリングへと走法を切り 替える手段は,トレーニングの過程において指導 者に指摘されているというよりもむしろ,選手の直 感によって一 般的 に行 われているといえる.そこ でスタート直 後 に行 われるダイアゴナルとその後

(8)

スポーツ科学研究, 8, 3-11, 2011 年

10 に切り替えて実施されるダブルポーリングの 2 つ の走 法 の特 徴 を踏まえた上 で,コンビ試 技 時 に おける切り替えの利点について検討する.図 2 を みると,30m 付近においてダイアゴナルとダブル ポーリングとの速 度曲線 が交差 しており,ダブル ポーリングがダイアゴナルの速 度 に達したことが 示されている.また,コンビとダイアゴナルの速度 曲線(図 2)をみると,25m まではほぼ同様の変化 を示しているが,25 m 以降にコンビがダイアゴナ ルよりやや上方へと伸びていることがわかる.さら に 10-20m 区間においてはダイアゴナルがダブル ポーリングより優れており,40-50m 区間において はダブルポーリングがダイアゴナルより優れている こと(図 5)を踏まえると,コンビでは,まず加速に有 利なダイアゴナルを用いることでスタート直後に高 い速度を獲得し,次にダブルポーリングへと走法 を変 更することでダイアゴナルでは頭 打 ちとなる 30m 以降においても,より高い速度を獲得してい ることが推察される.

一方で,参考値として示したコンビの所要時間 と最高速度は,ダブルポーリングやダイアゴナルと ほぼ同等の値を示した(表 1).このことは,ダブル ポーリングとダイアゴナルが有する加速に有利な 特徴を生かしたコンビを実施しても,単一の走法 との差がないといえる.つまり 2 走法の有利な特 徴を生かしても,走法の切り替え動作そのものが,

滑走速度の増加を妨げる一要因となっていること が考えられる.図 2 をみると,コンビ試技時におい て,走法が変更された 20m 地点の速度曲線が一 度 平 行 になっていることが確 認できる.また同時 に切り替え動作直後の 11 サイクル目のストライド (図 3)が,単一の走法の値には達していない.し たがって,コンビ実施の利点を生かすためには,

ダブルポーリングへの切 り替 え直 後 に単 一の走 法程度のストライドを獲得し,一連の滑走速度を 低下させない技術を身につけることが,重要であ るといえる.

ここで,実際の競技場面を想定すると,短距離 種目であるスプリント競技においても約 1 km を滑 走しなければならないことから,加 速 局面 におい ては最高速度を獲得すると同時に,疲労を極力 蓄 積し な い 走 法 を 選 択 す る こ と が 重 要 と な る . Mittelstadt et al.(1995)は,傾斜1.7%の緩やかな 上り坂における同一速度(67, 94, 121, 148, 174 m/min)下でダブルポーリングとダイアゴナル滑走 中の血中乳酸濃度を比較した結果,走法間に有 意差がないことを示している.しかしこの報告では 滑走後の血中乳酸濃度が 2.0mmol‧l-1 程度であ り,Mognoni et al.(2001)や Mygind et al.(1994) が示 したクロスカントリースキー競 技 の試 合 後 の 血 中 乳 酸 濃度 (9.2-14.0mmol‧1-1)と比 較 すると 設定された運動強度が低かったため,走法間の 血中乳酸濃度に差がなかったことが考えられる.

一方,別の研究(Saibene et al.(1989),Hoffman et al.(1990))では,平地における同一速度(14.2 km/h)下 でダブルポーリングとダイアゴナル滑 走 中の心 拍数 と酸 素 摂取 量を比較 した結果 ,ダイ アゴナル滑走中の心拍数と酸素摂取量はダブル ポーリングよりも有意に高値であることが示されて いる.つまり,平 地 の同 一速 度 下 において,ダイ アゴナルはダブルポーリングよりも運動強度が高 く,長い時間にわたって運動を継続するための運 動効率に優れない走法であることが推察される.

これらのことを踏まえると,加速局面でコンビにお いてダイアゴナルからダブルポーリングへの切り替 えが行 われたことは,走法 の切 り替えによって滑 走速度を減少させるリスクを伴いながらも,運動を 持続しやすいダブルポーリングを実施することで,

その後 の滑 走 を有利にする方策を選 択 したと考 えられよう.

本 研 究 は,スタートの加 速 局 面 のみに焦点 を 当てたが,レース全般にわたって,単一の走法で 滑 走 することは少なく,走 法 を切 り替 えるのが一 般的である.選手は,高い速度を維持しながら滑

(9)

スポーツ科学研究, 8, 3-11, 2011 年

11 走を継続できる走法をコースの雪質や斜度に応 じて選択しており,切り替えのタイミングの技術 も 競技成績と大きく関わっていると考えられる.この 点 については,今後 より詳 細な研 究 が必要 であ る.

Ⅴ.結論

本研究は,クロスカントリースキー競技クラシカ ル種 目 の加 速 局 面 におけるダブルポーリング走 法およびダイアゴナル走法を比較し,それぞれの 走法の特徴を明らかにすることで,加速局面にお いてより高い滑走速度を得るための示唆を得るこ とを目的とした.その結果,ダイアゴナル走法がス タートからの加速に最も優れた走法であること,加 速局面後期にはダブルポーリング走法がダイアゴ ナル走法より滑走速度の獲得に有利な走法であ ることが明 らかとなった.またスタート局 面 におい てスタート直 後 にダイアゴナル走 法 を行 い,その 後,ダブルポーリング走法に走法を切り替える滑 走技術は,高い滑走速度を得るために合理的に 選択された動作であることが示唆された.

参考文献

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three roller skiing techniques, Journal of Applied Biomechanics, 11: 257-266, 1995.

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Mognoni, P., Rossi, G., Gastaldelli, F., Canclini, A., Cotelli, F.: Heart rate profiles and energy cost of locomotion during cross-country skiing races, European Journal of Applied Physiology, 85: 62-67, 2001.

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参照

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