韓国におけるグリム童話の翻訳(厳) 洋の読み物を日本語から韓国語に翻訳して紹介したが,グリム童話もその 中の一つである。これらについての先行研究は韓国語テキストがメインに なっており,翻訳のもとである日本語のテキストについてはあまり言及さ れていない。 韓国におけるグリム童話翻訳は,崔南善が1913年 1 月から1913年 6 月ま で通巻11号を発行した児童雑誌『붉은 져고리(赤いチョゴリ)』に「따님의5 간곳(娘が行ったところ)」( 1 号),「네 아오동생(四人の弟)」( 2 号)が,同 じく崔南善が1913年 9 月から1914年10月まで通巻13号を発行した児童雑誌 『아이들보이(子供達の見るもの)』に「계집아이 슬긔(娘の知恵)」( 2 号), 「실뽑이 색시(糸を紡ぐ娘)」(10号)があった6という。現物を確認したとこ ろ,すべて訳者名がついていない。その後,呉天錫によって1920年『学生界』 に「六人男,世界を股にかける」が「장사의 이야기(壯士の話)」というタイ トルで翻訳される。また,1922年 7 月には方定煥がグリム童話だけではな くアミーチス,ペロー,オスカー・ワイルドなどの童話を翻訳して『사랑의 선물(愛の贈り物)』というタイトルの翻訳童話集を発行する。そこにはグ リム童話が 2 話載っており,「いばら姫」を「잠자는 공주(眠りの姫)」に,「大 盗人」を「천당 가는 길 일명 도젹왕(天堂へ行く道,又の名盗賊王)」として 載せている。次が『東明』のグリム童話である。その後は方定煥が1923年 3 月に発行した児童雑誌『어린이(子供)』に,方定煥の筆名である夢中人とい う名で「작은 이의 일홈(小人の名前)」「개구리 왕자(蛙の王子)」「염소와 늑 대(山羊と狼)」「선물이 아닌 선물(贈り物ではない贈り物)」「막보의 이야기 (マクポの話)」を載せている。
専修人文論集101号
韓国におけるグリム童話の翻訳(厳) う。そこから再び『東明』のグリム童話を読み直す必要があると考える。 韓国の近代初期には様々な媒体にグリム童話が翻訳されている。そのほ とんどが日本語の底本からであろうと思われるが,明らかになっているも のは一部にすぎない。原典からの翻訳ではない作品を原典と比べて云々と いう議論に意味がないことは言うまでもない。この時期の翻訳出版物が日 本語のテキストに依存していたことは紛れもない事実であるので,まずそ こからスタートし,翻訳者が翻訳の改変をどのように行ったのか,そこで 読み取れる翻訳者の意図は何かなどを再度,検討する必要があると考える。 *本稿は,平成28年度専修大学中期研究員の研究成果である。 注 1 Lee,Kyeong-Don(2005)「1920年代初民族意識の転換とメディアの役割―『開闢』と 『東明』を中心に」『士林』23,ソウル:成均館大学首善史学会,pp.55―58. 2 以下で使う「翻訳」は韓国語訳を意味する。 3 Lee,Hee-jung(2016)「1920年代雑誌『東明』の媒体談論と文芸物の研究」『ウリマルグ ル』68,ソウル:ウリマルグル学会,pp.428―434. 4 Lee,Hee-jung(2016)p.432. 5 以下のハングル引用は後ろの括弧の中に筆者による現代日本語訳をつけ,綴りはな るべく当時のままにするが,初声にㅅを併記した表記だけは現代韓国語に直し,分ち 書きも現代語に準じて直すことにする。 6 Ku,In-Seo(2009)「1910年代子供達の読書物研究―〈新文館〉発行定期刊行物を中心 に」ソウル:延世大学修士論文,p.31. 7 Choi,Seok-Hee(2000)「ドイツ童話の韓国受容:グリム Grimm 童話を中心に」『ヘッ セ研究』3,ソウル:韓国ヘッセ学会 8 Park,Hye-Sook(2005)「西洋童話の流入と1920年代韓国童話の成立」『語文研究』第33 巻第1号,ソウル:韓国語文教育研究会,pp.181―184. Choi,Seok-Hee(2000)とほぼ同 じ意見で,訳者として崔南善を有力としている。 9 Yeom,Hee-kyung(2008)「方定煥の初期翻訳小説と童話の研究―新しく見つけた筆 名作品を中心に」『童話と翻訳』15巻,ソウル:建国大学校童話と翻訳研究所 10 グリム童話研究者である西口拓子氏から以下のような論文を御教示いただいた。 Choi,Seok-Hee(1996): Zur Rezeption der Grimmschen Märchen in Korea. In: Jahrbuch
専修人文論集101号 福光美規訳(1921)『世界童話選 第一編』表現社 森川憲之助訳(1921)『グリム童話集』真珠書房(至誠堂書店発売) 金田鬼一訳(1923)『世界童話大系 第 2 巻』(グリム童話集 第 1 部)世界童話大系刊行会 *日本語の二次資料 須田康之(1991)「日本におけるグリム童話の受容と変容」『教育社会学研究』49,日本教 育社会学会編集委員会 奈倉洋子(2005)『日本の近代化とグリム童話』世界思想社 西口拓子(2012)「森鷗外・森於菟共譯『しあはせなハンス』―明治期グリム童話翻訳への 一考察」『専修人文論集』90,専修大学学会 (2016)「和田垣謙三・星野久成訳『グリム原著 家庭お伽噺』―底本と翻訳」『専修 人文論集』99,専修大学学会 山田史子(2004)「日本におけるグリム・メルヘン受容」『研究年報』21,慶應義塾大学独文 学研究室 横山知幸(2000)「異文化理解のひとつの方法としての翻訳 : グリム童話集の十九世紀の 英訳と明治期の和訳の分析」『中国地区英語教育学会研究紀要』30 *韓国語の一次資料 『붉은 져고리(赤いチョゴリ)』(1913―)新文館[復刻版](2010)ソウル:Yeokrak 『아이들보이(子供達の見るもの)』(1914―)新文館[復刻版](2010)ソウル:Yeokrak 『学生界』(1920―1924)ソウル:漢城図書株式会社 『開闢』(1920―1926)開闢社[復刻版](1969-1970)ソウル:開闢社 『東明』(1922―1923)東明社[復刻版](1979)ソウル:韓国学研究所 『어린이(子供)』(1923―1931)ソウル:開闢社 *韓国語の二次資料
Choi, Seok-Hee(2000)「ドイツ童話の韓国受容:グリムGrimm童話を中心に」『ヘッセ研究』
韓国におけるグリム童話の翻訳(厳)
(2013)「ʻ 小説家 ʼ 方定煥と近代短編小説の二つの系譜」『児童青少年文