空間の主体化 : 萩原朔太郎の詩の理念による空間
著者 須藤 遥輝
出版者 法政大学大学院デザイン工学研究科
雑誌名 法政大学大学院紀要. デザイン工学研究科編
巻 9
ページ 1‑2
発行年 2020‑03‑02
URL http://doi.org/10.15002/00023474
法政大学大学院デザイン工学研究科紀要 Vol.9(2020年3月) 法政大学
空間の主体化
— 萩原朔太郎の詩の理念による空間 —
STRENGTHENING INDIPENDENT DICISION MAKING FROM A SPACIAL PERSPECTIVE SPACE BASED ON THE HAGIWARA SAKUTARO’S POETRY PHILOSOPHY
須藤遥輝
Haruki SUDO
主査 渡邉眞理 副査 北山恒・下吹越武人 法政大学大学院デザイン工学研究科建築学専攻修士課程
Lack of independence is most of important problem for modern people. It is expressed in various ways, evidencialism is one of them. I propose a housing that incorporates mobile houses for manipulating the space using poetry independently as a therapeutic measure for the inside of the individual.
Key Words : Architecture, Poetry, DIY
1. 問題意識
現代社会は意思決定に含まれる不確かさの過剰な排除 のために,脅迫的な正しさを求める傾向にある.
建築領域においては地域社会圏というかたちで中間集 団の消失と官僚制への対策が提唱された.
しかし,官僚制や権力へのアプローチのみでなく,不確 かさを許容できないような価値観が個人の内面に浸潤し ており,個人レベルでの対策として,主体的な意思決定に 付随する不確かさを許容するための主体化が必要である.
2. 詩について
個人の主体化に際し,個人の心理的側面へのアプローチ が必要である.そのため,萩原朔太郎の詩の理念と詩にお ける言語処理の特性を利用する.
(1)月に吠える
萩原朔太郎は日本における口語自由詩の第一人者であ り,日本近代詩の父とも称される.第一詩集「月に吠える」
の序文において,詩についてのマニフェストともいえるも のを記している.その中で詩の作用を日常言語における意 思伝達と比較しており,詩は人の感情を扱うものであり, 理由や根拠ではなく程度や感じ方といったものを扱うも のであるという理念を持っていたことがわかる.
(2)詩の記号論
詩に置ける言語処理についての,記号論的側面からの 研究を参照すると,詩を読む際に,読者はまず,意味の伝 達として文を言語の意味そのままに理解する.そしてそ れらが文の中で犯している矛盾を理解できないことを発
見し,それを手掛かりに間接表現や前後の文の相関等か ら意味を再構成することで,詩の深意を自分の中に取り 込む.こうすることによって,詩は他の言語活動とは異な った言語活動を行なっている.
(3)まとめ
詩という特殊な言語処理によって,理由や根拠といった 外在的なものではなく,自己の身体・実在を扱うことが可 能になる.詩を制作し,それを元に設計を行うことで,詩歌 療法に通ずる,個人の内面にある不確かさの根源としての 感情を空間生成のプロセスに取り込む.
図1 詩の作成
3. 提案について
生活を外部空間へと主体的に構築することを目的とす ると,人口減少による都市の縮減によってもたらされる 残余地を利用することのできる住宅地が適切であるため, 千葉県松戸市の流鉄流山線小金城趾駅周辺を敷地とする.
流鉄流山線は JR 常磐線各駅停車馬橋駅(松戸市)と流山 駅までの6駅を結ぶ路線である.小金城趾駅は北小金駅
(JR 常磐線各駅停車),新松戸駅(JR 常磐線各駅停車,JR 武蔵野線),南流山駅(JR 武蔵野線,つくばエクスプレス
線)それぞれが徒歩20分圏内にあり,4路線がこの付近 を通っていて,アクセスもそれほど不便ではなく,交通の 便が良い.その反面,駅前は大型店舗がなく,住宅と小規 模な店舗・駐車場・コンテナ等がある.スケールメリット を活かした価格競争からある程度距離を置いて経済活動 を営むことも,周辺駅の大型店舗の利用も可能であると 考える.また,松戸市の立地適正化計画では,近隣では新 松戸駅周辺が交流拠点,北小金駅周辺が生活拠点に指定 されているが,小金城趾駅周辺はその範囲から外れてい る.そのため,都市機能誘導等でも届出が必要になる施設 が存在することから,大型の施設を整備することが比較 的困難な地域である.そのため,この地域での商いも必然 的に個人経営規模のものが多く,小さな商いの馴染む地域 である.小さな商いを介し,生活の場を街全体へと溶け込 ませて行く手段として,モバイルハウスを内包する生活を 構想する.
図2 モバイルハウス図面
小金城趾駅周辺は駐車場が多い一方で,その空きも目立 つ.駐車場(第2種低層住居専用地域)をモバイルハウス を内包した住宅地へ転用し,集約することで,土地の高度 利用を図る.
小金城趾駅は,大金平県営住宅と接続していたが,耐震 性の問題から県営住宅は 2015 年に解体され,駅舎のみと なっている.駅舎解体後のスペースは,貸しコンテナ,駐車 場となっている.そのスペース(第1種住居地域)を広場 とし,モバイルハウスのための飛び地として活用する.
4. 空間の主体化
以上から個人の主体化を標榜し,空間操作に個人が関わ ることをその解決手段に据える.空間操作に際しては,住 み手自身の心情を拡張することこそが重要であり,それを 建築が物理的・空間的に受け入れることによって,住み手
を主体化する.自らの心情の不安定さ・理不尽さを意思決 定に反映することを許容できないことと,それを補うため の過度な根拠への依存といった問題点に対し,これを解決 する手段として建築を据える.萩原朔太郎になぞらえるな ら,建築を生きて働く心理学と捉えることである.それは, 建築が気候などの環境に対する身体の保護の役割を果た しきたように,心理的な問題に対する精神の保護に着目し, その役割を期待するものである.建築の物理的側面を直接 的に利用するのではなく,その利用に隣接するネットワー クやコミュニケーションの話に飛躍するのでもなく,住む ことそれ自体の価値を再評価するような,生きていること そのものの価値を顕在化するようなものを対象とした.
自分を住み手において考えるため,建築や暮らし,住ま うことについての自分の心情を詩にした.これをもとに住 宅のパーツとしてのまた,メタな階層について考えれば, この詩の導入などの設計への取り組み自体が自分自身へ の対峙であり,これもまた建築の作用であるとも言える.
謝辞:学部3年からお世話になり、大変多くのお手数をお かけした渡邉眞理教授をはじめとして,下吹越武人教授や 北山恒教授などにご指導をいただいたほか,エスキスは大 野秀敏客員教授に担当していただいた.また甘えきった 人間であるため,家族には大いに生活を支えていただいた.
さらに,友人には専門外である萩原朔太郎や詩について多 くの時間を割いて教えていただいたほか,相談にも乗って いただいた.この場を借りて感謝を申し上げたい.
参考文献
1)萩原朔太郎 著, 三好達治 編:萩原朔太郎詩集,岩波書 店,1981
2)千葉雅也: アンチ・エビデンス ──90年代的ストリ ートの終焉と柑橘系の匂い,
http://10plus1.jp/monthly/2015/04/index03.php, (参照 2020)
3)山本理顕:権力の空間/空間の権力 個人と国家の〈あ いだ〉を設計せよ,講談社,2015
4)ミカエル・リファテール 著, 斎藤兆史:詩の記号論,勁草 書房, 2000