司会・討論:
上村達男(早稲田大学法学学術院・大学院 法務研究科教授,COE《企業法 制と法創造》総合研究所所長)
質疑発言者(発言順)
①渡辺宏之(早稲田大学法学学術院助教 授・COE《企業法制と法創 造》総合研究所)
②河村賢治(関東学院大学経済学部助教 授)
③若林泰伸(國學院大学法学部専任講師)
④中村信男(早稲田大学商学学術院教授)
⑤川島いづみ(早稲田大学社会科学総合学 術院・商学学術院教授)
⑥村田典子(國學院大学法学部専任講師)
〇上村達男 今日は中島弘雅先生にイギリス の企業倒産,会社法の話をお願いしました。
最近,会社法には倒産・破綻処理を想定した 規定が一般の法理であるかに装って導入され る傾向にあります。また,こうした問題とは 別にこの種の問題は会社法にとってはまった く本質的な問題であります。破産法が商法典 に存在したこともありますが,この問題は会 社法の立場で一度きちんと議論したいと思っ ていました。そうしましたところこの『英米 倒産法のキーワード』だけではなく,中島先 生がこの分野について,第一人者であること は当然としても,イギリス会社法が企業再編
や少数株主保護等について裁判所の後見的役 割が重視していることが,この問題にも反映 しているのではないかという興味からも,是 非先生のお話をお聞きしたいと思っておりま した。私はこの本を買っただけでちゃんと読 んでいませんで,期待をしている割に不勉強 であることは申し訳ありませんが,素人相手 で物足りないかと思いますが,よろしくお願 い申し上げます。では早速お願い致します。
〇中島弘雅 ただいまご紹介いただきました 慶應義塾大学の中島弘雅です。それでは,報 告に入らせていただきます。
早速ですが,本日お配りした報告原稿のタ イトルに誤りがあります。「イギリスの企業 倒産手続の構造と会社法との接点」という テーマで報告をお引き受けしたのですが,大 急ぎで報告原稿を書いたためか,「イギリス の企業倒産手続の構造と会社法との関係」と してしまいました。しかし,両者の関係を論 じることができるほど,私はイギリス会社法 を勉強していませんので,会社法と倒産法と の接点についてお話をさせていただきたいと 思います。それから,もう一つお断りしてお きたいことがあります。一口に倒産手続とい いましても清算型と再建型とがあるわけです が,会社法専攻の先生方が興味をお持ちなの は清算型よりも,むしろ再建型だと思います ので,今日は再建型倒産手続を中心にお話し しようと思っています。
今日は,かなり込み入った話をさせていた だきますので,不完全なものですが,数日か けて書いた報告原稿をそのままレジュメ代わ
●講演録●(2006年2月2日,会社法解釈等総点検研究会)
イギリスの企業倒産手続の構造と会社 法との接点
中島弘雅
** 慶應義塾大学大学院法務研究科教授
りにお配りさせていただきました。その方が 先生方に私の話が正確に伝わるのではないか と思ったからです。では,お手元のレジュメ に沿って,かつ,適宜必要なところを補いな がらお話しさせていただきます。
Ⅰ.はじめに
イギリス倒産法は,正直に申し上げて,日 本人にとってあまりなじみがない法律ですか ら,イギリス倒産法がいったいどういう構造 になっているのかという点からお話しをした いと思います。
現行イギリス倒産法というのは,1986 年 にできた倒産法です。同法は,再建型倒産手 続について非常に大きな改正を行い,二つの 再建型手続を導入しました。一つは,いまだ 健 全 な 財 政 的 基 盤 を 持 っ て い る も の の , キャッシュフローがないため,現在債務の弁 済ができない状態にあるとか,いずれそうな りそうだという会社に対して,債権者からの 取立てを猶予し,裁判所の任命する管理人
(administrator)の下で会社を再建させるた めの道筋をつけたり,途中で再建が無理だと いうことが判れば,そのときは債務者会社を (強制)清算の手続によるよりも有利な条件で 換価するための準備をする手続として会社管 理(Administration)という手続をつくりま した。
このAdministrationの手続については後に 詳しくお話しするように,導入当初は裁判所 が任命する管理人の下で再建するという手続 でしたが,2002 年の法改正により,裁判所 が管理人を任命しないという方法,すなわち,
担保権者や会社が管理人を,裁判所の外で任 命し,それで手続を進めていくという方法も 新たに認められることになりました。しかし,
当初は,裁判所外で管理人を任命するという やり方はありませんでした。いずれにしても,
そうしたAdministrationという手続が,現行 倒産法には規定されています。
他方,1986 年倒産法は,会社管理手続と は別に,そのままではinsolventになるおそ れがある会社と債権者(および株主)との間で,
裁判所の非常に緩い関与の下で会社債務の履 行 に 関 す る 債 務 免 除 (composition) ― compositionは「債務免除」と訳すのが適切 であるということを,先ほど上村先生にご紹 介いただいた中島弘雅=田頭章一編『英米倒 産法キーワード』25 頁以下で述べています
― または会社業務の整理(arrangement) を簡易・迅速に成立させることによって会社 の清算を回避する手続として会社任意整理
(Company voluntary arrangement)という 手続もつくりました。
イギリスには 86 年倒産法ができるまでは,
本格的な企業向けの再建型手続は存在しませ んでした。そういった意味でこれらの二つの 倒産手続は,初めてイギリスが再建型手続を つくったということで,いわば鳴り物入りで 導入された手続でした。ところが,これらの 手続は,立法されたにもかかわらず,全然使 われないのです。それはどうしてか。とりわ けAdministrationという手続は利用件数が伸 びなかったのですが,その理由は,実は,レ シーバーシップ(Receivership)というイギ リス法独特の手続の存在にあります。レシー バーシップというのは,イギリス倒産法を理 解する上でのキーワードともいうべき概念で す。
では,レシーバーシップとは何か。これは,
もともとは浮動担保権者が担保権を実行する 手続です。しかし,イギリスでは,この浮動 担保権の実行手続であるレシーバーシップが,
長い間,事実上,企業の再建手続としての役 割を果たしてきました。先ほども少し触れた 会社管理(Administration)という手続は,
このレシーバーシップが従前果たしてきた再 建型手続としての側面に着目し,86 年の倒 産法で導入された手続です。ところが,86 年倒産法は,そのように,会社管理手続を導 入する一方で,それとは別に従来のレシー
バーシップの流れを汲む管理レシーバーシッ プ(Administrative receivership)という別 の手続を同時に規定しました。しかも,担保 権の実行手続の側面をもつ管理レシーバー シップの方に会社管理手続よりも優先的な地 位を与えました。そのため,新しい会社管理 という手続はつくられたけれど,結局は,利 用されなかったというわけです。
ところが,そうした状況を大きく変えたの が,2002 年改正です。イギリスでは,2002 年に企業法(Enterprise Act)という法律が でき,そのEnterprise Actの 250 条が先ほど の 86 年倒産法の基本構造を実質的に変えて しまいました。レジュメにも書いたように,
2003 年9月 15 日以降に設定された浮動担保 権については,会社管理手続が始まると,浮 動担保権者による管理レシーバー(Admin- istrative receiver)の任命(すなわち管理レ シーバーシップの開始)を禁止するという規 定が入ったのです。
この点について,もう少し付け加えておく と,実は,立法担当者は,会社管理手続が開 始すると,完全に浮動担保権の実行を止める ことができるようにしたかったようですが,
イギリスのバンカーたちが議会で活発なロ ビー活動を展開し,それで,何とか,2003 年9月 15 日以降に設定された浮動担保権に 限って改正法の適用を受けるというかたちで 収まったということのようです。立法担当者 はもともとは全部浮動担保権の実行を止めよ うと思ったようですが,それはできなかった ということです。しかし,この規定が入った ことによって実質的にイギリスの再建型手続 のありようは大きく変わることになります。
そこで,以下では,イギリスの再建型倒産 手続の説明に入る前に,レシーバーシップと いうイギリス法独特の手続について説明し,
その後で,現在のイギリス倒産法が定めた前 記二つの再建型倒産手続,すなわち,会社管 理手続と会社任意整理手続について,その概 要,特徴をお話ししようと思います。
それから,倒産法と会社法との接点という ことで申し上げると,1986 年の倒産法の施 行以後,いったんはほとんど使われなくなっ ていたにもかかわらず,事業再生の手法とし て使えるという理由で,近時,再び脚光を浴 び始めた会社法上の手続として,現行会社法 425 条の規定する会社整理計画(Scheme of arrangement)があります。日本の会社整理 はこれを少し参考にして導入されたといわれ ていますが,このイギリスの会社整理計画に ついても後で触れることにします。そして最 後に付け足し的になりますが,企業倒産に関 連する会社法関連の規定として,取締役の倒 産責任の問題について若干触れたいと思いま す。
Ⅱ.レシーバーシップ(Receivership)
1.浮動担保とは
それでは,レシーバーシップについてご理 解いただくために,最初に浮動担保について 少しお話しします。浮動担保は,会社のたえ ず変動する現在および将来の財産について設 定されるエクイティ上の担保で,倒産手続の 開始などを含む特定の事由が発生すると,そ れが結晶化し,浮動状態から通常の固定担保 となり,権利行使が可能になるという性質を 持つ担保です。つまり会社を丸ごと担保に 取っておき,会社が倒産手続に入ったとか,
デフォルトを起こすと,そのときの会社財産 がすべて担保権の対象となり,それらに対し て担保権実行が可能となるという担保です。
浮動担保は,そのように特定の事由によって 浮動担保が結晶化するまでは,会社は浮動担 保の対象となっている財産を,通常の業務の やり方に従って自由に処分できる反面,後に 会社が取得した財産も当然に担保の対象に取 り込まれてしまうという性質を持っています。
2.浮動担保権の実行方法としてのレシー バーシップ
この担保は,通常は,会社の現在および将 来の全財産を対象として設定され,その対象 には固定担保の目的物となっている財産も入 ります。しかし,この浮動担保は,特定の事 由が発生した場合,具体的には,先ほど申し 上げたように,会社が清算手続に入ったとか,
会社が事業を停止したとか,浮動担保権者
(多くは社債権者でもあります)がレシー バー(Receiver。これについては後に触れま す)を任命した場合その他特約で定めた事由 が発生した場合(たとえば,元本の不払いと か利息の不払いといったような事由が発生し た場合),そこで結晶化し,その時点で会社 が持っていた財産が担保目的物として固定し てしまうという担保です。
そして,債務者会社がこの浮動担保権者に 対して債務を履行しなかった場合,浮動担保 権者はどのようなかたちでその担保権を実行 することになるのか。過去にはさまざまな実 行方法がありましたが,現在一般的に使われ ている担保権の実行方法は,浮動担保権者が 裁 判 所 に 訴 え を 提 起 し て レ シ ー バ ー
(Receiver)を裁判所から任命してもらうか,
あるいは社債発行条件または社債信託証書の 記載事項の中にあらかじめ自分からレシー バーを任命できるとする条項を入れておき,
それに従ってレシーバーを任命するという方 法 で す 。 こ れ を レ シ ー バ ー シ ッ プ
(Receivership)といいます。
もっとも,レシーバーシップの実行にあた るレシーバーは,もともとは担保財産の管理 や,賃料および利息の取立て,収益の分配を 行う権限を持つにすぎず,会社の経営を行う 権限をもっていませんでした。したがって,
レシーバー自体の地位に基づいて会社の事業 を継続し,そしてその収益をもって債権の償 還に充てたり,さらには会社の事業を継続さ せたままで売却し,その売却金で社債の償還 に充てる,つまり,担保権者に弁済をすると
いうことはできませんでした。しかし,それ では勝手が悪いということで,イギリスでは,
その後,レシーバーが同時に会社の経営もで きるようにしようということで,融資の段階 で,つまり社債発行条件ないし社債信託証書 の 中 で レ シ ー バ ー に 同 時 に 会 社 の マ ネ ー ジャーとしての権限も与えるという方法が定 着していきました。こういうレシーバーのこ とをレシーブ兼マネージャーといいます。
こういったレシーバー(厳密にいうとレ シーバー兼マネージャー)は担保権者から任 命されると,会社の経営状態を調査検討し,
会社財産を個別にばら売りするか,それとも 会社の事業の全部または一部を継続企業とし て第三者に売却するか,そのどちらが良いか を決めます。その際,多くのレシーバーは優 先的債権者と自らを任命してくれた浮動担保 権者への弁済に充てる金銭,それにレシー バーシップの実行にかかる費用を賄えるだけ の金銭をつくり出すために会社財産を現金化 するのが一般的です。ですから,たいていの レシーバーシップ事件では,会社はその後清 算されてしまうのが普通です。
ところが,有能なレシーバーに恵まれたレ シーバーシップ事件では,このレシーバーに よってそれまで経営危機に陥っていた会社が 再建されたり,あるいは会社事業の全部また は一部が継続企業として別会社に売却される ことによって,会社の事業が維持・継続され たり,結果的に従業員の雇用が確保されると いうことがまま見られました。そして,実は,
後に詳しく紹介する会社管理手続(Admin- istration)は,このレシーバーシップの持つ 後者の側面を非常に高く評価した倒産法改正 検討委員会(いわゆるコーク委員会)が,浮 動担保が付いていない場合とか,浮動担保権 者がレシーバー兼マネージャーを任命しない 場合であっても,裁判所がレシーバー兼マ ネージャーに代わる管理人(Administrator) を任命し,その者によって会社の再建や事業 の維持を図ろうという目的で,その最終報告
書,すなわちいわゆるコーク・リポートにお いてイギリス政府にその導入を勧告したのを 受けて,1986 年倒産法において導入された ものなのです。
3.管理レシーバーシップ
では,そうすると,これにより,従来のレ シーバーシップはなくなったのかというと,
実は,なくならなかったわけです。すなわち,
以 上 の よ う な 経 緯 で , 8 6 年 倒 産 法 に は Administrationの手続についての規定が入り ましたが,イギリスのレシーバーシップはこ れによってなくなったわけではなく,むしろ,
会社管理手続とはまったく別の管理レシー バ ー シ ッ プ (Administrative receivership) という手続として現在もなお生きています。
もっとも,レシーバーシップの実行にあたる レシーバーにはいろいろな種類のレシーバー が あ る も の で す か ら , 86 年 倒 産 法 は , レ シーバー概念について改めて整理をしました。
すなわち,浮動担保権の実行に関してイギリ スに従来から存在する二つのタイプのレシー バー,すなわち裁判所によって任命されるレ シーバーと,社債発行条件または社債信託証 書の記載事項に基づいて浮動担保権者によっ て任命されるレシーバーとはまったく別に,
新 し く 管 理 レ シ ー バ ー (Administrative
Receiver)という概念をつくり,この管理レ
シーバーが行う管理レシーバーシップを正式 に倒産手続として位置づけ,倒産法の中に規 定を置くことにしました。
しかしながら,その規定を仔細に見てみる と,この管理レシーバーシップは確かに倒産 法の中に規定されているのですが,ほかの倒 産手続,とりわけ清算手続などとは明らかに 距離を置く一つの重要な特徴がありました。
それは,管理レシーバーシップが債権者全体 のための集団的な債務処理を行う手続,すな わち厳密な意味での倒産手続ではなく,依然 として自らを任命した浮動担保権者のための 救済手続(Remedy),もっとわかりやすく
言えば担保権の実行手続であって,任命者の 利益保護のために担保目的物をお金に換える のが管理レシーバーの最優先の義務であると,
判例や学説では考えられていたという点です。
仮にあとで担保目的物をお金に換えたほうが より高い値段で売れるとしても,管理レシー バーとしては自分を任命した浮動担保権者の 犠牲において,会社や債務者会社,その他の 債権者の利益のためにその事業を継続し,担 保目的物の換価時期を遅らせる義務はないと 解されていました。
もちろん,これに対しては,このような管 理レシーバーシップにおける浮動担保権者の 偏重が管理レシーバーシップの手続を倒産手 続の典型である清算手続から遠く隔てたもの にしているとともに,管理レシーバーシップ が持つ別の側面,集団的債務処理手続として の効用を著しく損なわせているという厳しい 批判もありました。
しかし,その一方で,1994 年にイギリス の倒産実務家協会(The Society of Practi- tioners of Insolvency)が発表した調査結果 を読むと,管理レシーバーシップ事件のうち 47%で事業が救済され,また全体の 40%で 従業員の雇用が確保されているという報告も あり,その意味で,管理レシーバーシップは,
ごく最近まで,イギリスにおいてなお企業の 再建手続として大きな役割を果たしてきたと いうことができます。
4.2002年企業法による倒産法の改正 ところが,最初にも触れたように,2002 年に制定された企業法(Enterprise Act)の 248 条が,1986 年倒産法の規律を改正し,会 社管理手続が始まった場合には,2003 年9 月 15 日以降に設定された浮動担保に関して は,浮動担保権者は管理レシーバーを選任で きないことにしてしました。したがって,現 在では,2003 年9月 15 日以前に担保権を取 得していた浮動担保権者を除き,浮動担保権 者は,会社管理手続が始まると,担保権の実
行としての管理レシーバーシップの利用を禁 じられ,今後は,浮動担保権者も,会社管理 手続が開始された以上は,この手続に従って 権利を実現していくことになります。
したがって,イギリスにおいて長い歴史を 有するレシーバーシップは,過去に設定され た浮動担保がどんどん消え,新しいものばか りになってくると,いずれ時間の経過ととも に,さらに利用件数は減っていくことになる と思われます。現に 2004 年9月期,すなわ ち企業法が施行されて1年たった段階で,前 年の同時期に比べて会社管理手続の申立て件 数は増えているのに対して,レシーバーシッ プは次第に減少してきており,今後のイギリ ス法の動向が注目されます。以上が,いわゆ るレシーバーシップという手続の説明です。
Ⅲ.会社管理手続(Administration)
1.基本構造
1986 年倒産法によって導入され,2002 年 企業法により大きな改正を受けた会社管理手 続の基本構造について,もう少し詳しくお話 しをしておこうと思います。先ほども申し上 げたように,会社管理手続は,もともと従来 のレシーバーシップが持っていたすぐれた側 面,すなわち浮動担保権者が任命したレシー バー兼マネージャーが財政的危機に陥ってい た会社を再建させたり,その事業を継続企業 として売却することによって事業の維持や従 業員の雇用の確保に貢献してきたという側面 を高く評価したコーク委員会の勧告に基づき,
86 年倒産法で導入された制度です。換言す ると,会社管理(Administration)という手 続は,経営が苦しくなった会社に対して裁判 所がレシーバーに代わる管理人(administra- tor)を任命し,その者の下で会社の再建や事 業の維持を図ることを目的としてつくられた 手続です。
しかしながら,会社管理手続は,基本的に 会社またはその事業の存続を促進するための
手続としてつくられていながら,会社または その事業の再建が不可能である場合には,会 社の財産を(強制)清算手続によるよりも有 利な条件で換価するためにも使えるという,
(うまくいったら再建させるが,だめだった ら清算させてしまうという意味で)きわめて アンビバレントな性格を持っています。しか も,会社管理手続における管理人(adminis-
trator)は,従来,基本的に配当という形で
債権者に会社財産を分配する権限がないと長 く解されてきたために,この手続だけではす べてのプロセスが完結しないという大きな欠 陥がありました。
その意味で,会社管理手続に入った会社と いうのは,いわば長く保全処分を受けている のと同じような状態にあるということができ ます。会社管理手続に入っても,そのあとに さらに別の手続が続くことが必要なので,会 社管理手続(Administration)が行われたあ と,会社は,後にお話しする会社任意整理
(Company voluntary arrangement)や会社 法 425 条 所 定 の 会 社 整 理 計 画 (Scheme of arrangement)を通じて事業再建や配当が行 われることになります。また,再建がうまく 行かない場合には,清算手続に進んでいくこ とになります。いわば会社管理手続というト ンネルを抜けたあと,いろいろな方向に手続 がさらに進んでいくことになります。その意 味で,会社管理は,倒産会社を最初に長く保 全処分のかかったような状態に置く手続だと 理解していただくとわかりやすいと思います。
イギリス倒産法を紹介した記事などを読ん でいますと,会社管理手続をアメリカ旧連邦 倒産法の規定していた会社更生手続(Cor- porate Reorganization)や日本の会社更生手 続のようなイメージで,これを「更生手続」
と訳している方がいらっしゃいますが,それ は誤解を生むと思います。この会社管理手続 だけで事業の再建や最後の配当までいけるか のような印象を与えますので,その点は注意 しなければならないところです。そういった
意味で,イギリスの会社管理手続は,アメリ カ現行連邦倒産法の第 11 章(CHAPTER11)
手続や,わが国の民事再生手続や会社更生手 続のように,その手続の中で会社を再建させ たり,場合によっては清算させるといった完 結した手続構造にはなっていない点に注意す る必要があります。
もっとも,それではあまりにも使い勝手が 悪いということで,2002 年企業法による倒 産法の改正によって,管理人は管理レシー バーと同様に自ら配当を行うことができると いう規定が新たに設けられました。しかし,
あとでまた述べようと思いますが,結局は,
この配当手続は使われていないようです。そ の意味では,会社管理手続は,いまだに前段 階の倒産手続なのであって,そのあとに清算 なり再建のための最終的な手続が予定されて いるという点は,基本的には変わっていない ように思います。
2.会社管理手続の目的
2002 年企業法は,会社管理手続の目的に 関しても見直しを行い,その目的を明確にし ています。具体的に,会社管理手続がどうい う目的を持っているかという点については,
すぐあとでお話をしたいと思います。2002 年企業法は,この点を改正するとともに,最 初にもお話ししましたように,裁判所に対し て申立を行い,裁判所が認可した場合にのみ 会社管理手続を開始する,1986 年倒産法で 導入された会社管理手続とは別に,新しいタ イプの会社管理手続として,裁判所に申立を することなく,会社や取締役,浮動担保権者 が管理人を任命するだけで一切裁判所への申 立や裁判所の認可なしに会社管理手続を開始 できる制度を新たに導入するに至りました。
ところで,会社管理手続の目的については,
従来の倒産法にも規定がありましたが,どれ が一番優先順位の目的なのかが必ずしも明ら かではありませんでした。それに対して,
2002 年企業法は,会社管理手続の目的とし
て三つを掲げた上で,これに順位をつけ,1 がだめなら2,2がだめなら3,3の目的は 最後だということを明確にしました。
まず第1に,継続企業としての会社の救済 が第1の目的です。つまり会社の再建手続と しての側面を前面に打ち出しています。2番 目は,会社が清算手続で清算される場合より も債権者にとってよりよい結果が達成できる という目的です。会社が(強制)清算手続に 入るよりも,この手続を使って売ったほうが 会社(財産)が高く売れるので,会社管理を使 うというのが2番目の目的です。3番目は,
1も2もできない場合ということですが,最 後に,担保権者や優先的債権者(代表的なも のは給料債権者)などに配当するために会社 財産の価値を実現する(つまりお金をつくる)
という目的を掲げています。このような三つ の目的を会社管理手続の目的として掲げた上 で,1が実現できない場合にのみ2ができ,
2ができない場合に初めて3が許されるとい う順位づけを明らかにしています。その意味 で,最終的には,担保権者や優先的債権者に 配当をするためにお金をつくるという目的も 会社管理手続の目的と考えられています。
3.2種類の手続開始の態様
先ほども申し上げたように,2002 年の企 業法により,2種類の会社管理手続ができま したので,次にそれを紹介します。2002 年 の改正によって会社管理手続には,手続の開 始にあたって裁判所への申立と裁判所による 認可を必要とするタイプのものと,それらが 要らないタイプのものに分かれることになり ました。
¸ 裁判所への申立を必要とする会社管理 手続
まず第1のタイプですが,このタイプの会 社管理手続は会社,取締役または債権者に よって申し立てられるのが普通です。ここで いう債権者は一般債権者ですが,一定の適格 を有する浮動担保権者も会社管理手続の申立
権を持っています。この申立適格を持った浮 動担保権者は,会社のすべてまたは実質的に すべての財産を担保に取っているか,管理人 選任の権限があるか,管理レシーバーを選任 する権限を持っていることが必要です。要す るに,ほかの手続を常に利用できるような,
一定の適格を有する浮動担保権者も申立権が あるという規定になっています。
この申立人は,会社管理手続の申立をする に際して倒産実務家(Insolvency Practition- er)―その多くは会計士ですが,一部は弁 護 士 で す 。 会 計 士 や 弁 護 士 の 中 で さ ら に Insolvency Practitionerの資格を付与された 者 は , 現 在 , 1,700 人 ぐ ら い い る そ う で す
―の中から管理人の候補者を推薦して会社 管理命令の申立をします。裁判所が会社管理 命令を発令するための要件の一つとして,会 社が支払不能にあるか支払不能のおそれがあ ることが定められていますが,浮動担保権者 が申し立てる場合には,この要件は要りませ ん。
浮動担保権者以外の者がこの会社管理手続 の申立をする場合には,管理命令の申立人は 申立の5日前までに,申立をするという事実 を,管理レシーバーを既に任命している浮動 担保権者や,管理レシーバーの任命権限を 持っている浮動担保権者,管理人の任命権を 持っている浮動担保権に通知をしなければな りません。つまり浮動担保権者以外の者が会 社管理命令を申し立てる場合には,浮動担保 権者に,管理命令の申立をすることを通知し なければなりません。裁判所は,この管理命 令を発令するかどうかについて審尋を行いま すが,裁判所は通常は申立人が提案してきた 管理人予定者をそのまま管理人に任命します。
しかし,浮動担保権者以外の者が申し立てて きた場合には,審尋の手続の中で浮動担保権 者が別のInsolvency Practitionerを選んでく れと裁判所に求めることができることになっ ており,実際にも,裁判所はこの浮動担保権 者の提案を受け入れることが多いようです。
その意味で,2002 年企業法による倒産法 の改正によって,担保権者の権限が弱まった とはいっても,結局は,会社や取締役など,
浮動担保権者以外の者が会社管理手続を申し 立てる場合には,浮動担保権者と十分に事前 の交渉をしておかなければ,結局は申立が無 駄になることに変わりはありません。申立の 5日前までに浮動担保権者に連絡をしておき なさいということですから,担保権者にとっ て気に入らないInsolvency Practitionerが管 理人に選任されそうだというときは,別の Insolvency Practitionerを推薦してくること ができるわけです。したがって,やはり担保 権者の権限は非常に強いといわざるを得ない と思います。
¹ 裁判所への申立を必要としない会社管 理手続
次に,2002 年企業法で新しく入った裁判 所への申立,裁判所の認可の要らない会社管 理手続について,説明します。この新しいタ イプの会社管理手続を開始できるのは,浮動 担保権者,会社,そして取締役ですが,それ らの者は,裁判所に通知をしさえすれば,自 ら会社管理手続を開始できる―管理人を任 命できる―ことになっており,裁判所への 正式な申立はもちろんのこと,裁判所の認可 も要いりません。このような新しいタイプの 会社管理手続が 2002 年改正で入りました。
このうち,浮動担保権者がこの手続を開始 する際の要件としては,担保権が実行可能状 態にあることが必要とされています。ただし,
支払不能である必要はありません。しかし,
この手続を開始しようとする―つまりその 管理人を任命しようとする―浮動担保権者 は,自分より先順位の浮動担保権者に,だれ を管理人に任命するのかという点についての 通知を,手続開始の 2 日前までに行うか,先 順位担保権者から承認を得て,かつ管理人の 任命通知を裁判所に提出することが必要とさ れています。
次に,会社と取締役が管理人を選任し,会
社管理手続を開始する場合の問題ですが,こ の場合も,裁判所への申立は要りません。申 立なしに管理人の選任ができます。この場合 には,浮動担保権者に任命通知を 5 日前まで に送り,かつこの通知と同様の通知を裁判所 に提出しなければなりません。ただし,この 場合には,債務者会社が支払不能または支払 不能のおそれがあることを書面で証明するこ とが手続開始の要件です。つまり浮動担保権 者が申立をする場合には,担保権実行可能状 態にあれば足り,会社が支払不能である必要 はありませんが,会社内部の者が会社管理手 続を始める場合には会社が支払不能,または 支払不能のおそれがあることが必要です。こ のように,要件に違いがあります。
この新しいタイプの会社管理手続では,こ の手続を利用しようとする者よりも先順位に ある浮動担保権者が会社管理手続に介入し,
自らが選んだ管理人の任命を求めることがで きる点にあります。したがって,結局は,最 も先順位の浮動担保権者との間できちんと交 渉をしておかないと,この手続もうまくいか ないということができます。その意味で,会 社管理手続をやるかどうかについて,常に先 順位の担保権者の意向を聞いておかないと手 続はうまくいかず,この手続は先順位の浮動 担保権者の意向で決まるという構造になって います。したがって,これからは,浮動担保 権者に,いままでのような管理レシーバー シップではなく,会社管理手続を利用して権 利を実行してもらおうということだろうと思 います。
4.会社管理手続の特徴
¸ 支払猶予効
次に,会社管理手続の特徴ですが,会社管 理手続が開始され,管理人が選任されますと,
担保権者を含むすべての債権者は会社または 会社財産に対して訴訟を含めた何らかの法的 手続を新たに開始したり,継続することが禁 止されます。いうまでもなくこれは管理人が
会社管理手続の目的である事業の再建を達成 するための提案(proposal)をつくる時間的 余裕を与えるためのものです。
¹ 管理人の権限
会社管理手続が始まりますと,管理人には 会社事業を経営する非常に広い範囲の権限が 付与されます。そのため,一人ではこの職務 を十分に果たせないというときは,管理人は 適宜事業経営を助けてくれる専門家を選びま す。これは,多くの場合,管理人が,自分の 事務所の別の若い倒産実務家(Insolvency Practitioner)などを使うようですが,管理 人は,そういった専門家や債務者会社の取締 役等の協力を得ながら会社の企業価値を維持 するように努めます。
会社管理手続が始まりますと,会社の元の 取締役等の権限は制約を受け,取締役として は管理人の同意なしに会社の経営権を行使す ることはできなくなりますが,単にそれだけ ではなく,管理人から見て,この取締役は会 社にとって不要であると判断されると,取締 役を解任することもできます。他方,新しい 取締役を管理人は選任してもかまいません。
ただ,レジュメにも書きましたように会社の 事業内容が特殊であって,どうしても元の取 締役が必要であるとか,会社管理手続の目的 が会社の事業の再建にある場合には,現経営 陣にそのまま経営を委ねる場合もあるようで す。このあたりの仕組みは,日本などと違っ て非常にファジーな,イギリス法独特のやり 方のような印象を受けます。
管理人には非常に強力な権限が与えられて います。すなわち,事業と財務のリストラや,
通常の業務の範囲外の問題に対処する権限も 付与されています。たとえば,裁判所や債権 者の同意がなくても債務者会社にとって負担 となった契約を解除して,契約の相手方を無 担保債権者にしてしまうこともできます。日 本法にも,双方未履行双務契約の解除・履行 の選択権の規定がありますが(民再 49 条,
会更 61 条),会社にとってもう必要でなく
なった契約を解除することができるわけです。
それから,取引上重要な債権者を他の一般債 権者と異なった取り扱いにするといった,会 社の再生にとって必要な取引先に優先権を付 与することもできます。さらには,会社全体 やその一部を清算したい,またはその一部を 売却(営業譲渡)したいときに,それを行うこ ともできます。加えて,従業員の解雇もでき ます。このように非常に強力な権限が管理人 には与えられています。
ただし,あまり強硬なやり方をすると,債 権者の側から異議が出る可能性があり,債権 者から異議が出ると,裁判所で救済命令が出 されることになります。しかし,他方で,こ れは意外なのですが,いわゆる倒産解除特約 が結ばれているような場合には,管理人はそ れによる解除を防げることができないと倒産 法に書いてあり,この点はアメリカ連邦倒産
法のCHAPTER11 手続や,わが国の会社更
生手続に関する最高裁の有名な判例の取り扱 い―最判昭和 57 年3月 30 日民集 36 巻3号 484 頁は,債務者会社が更生手続に入ったこ とを理由に,リース会社がリース契約を解除 したのですが,そのリース物件が更生会社の 再建にとって不可欠である場合について,解 除を認めなかった―とは異なります。
º DIPファイナンスの不存在
それから,DIPファイナンスの不存在も,
イギリス倒産法の大きな特徴だと思います。
イギリスの倒産手続の特徴の一つとして,会 社管理手続中に金融機関等から融資が行われ てもアメリカ連邦倒産法の下で認められてい るsuper priority―倒産した会社に融資し てくれるのだから,当然実体法上の優先順位 を上げてくれなければ融資しないということ になるはずですが―のような優先権はあり ません。このような優先権を設けることは許 されず,財産権の侵害になるという判例があ ります。
それでは倒産会社はどうやって融資を受け るのかということになりますが,イギリス倒
産法の条文を見てみると,管理人は債務者会 社に代わって担保が設定されていない財産を 担保に入れて融資を受けることができると書 いてあります。しかし,そもそも倒産会社に 担保に入っていないような財産が残っている のかという問題がある上に,この融資を強行 した管理人は,後日,債権者から当該借入れ により既存の債権者の利益を毀損したことを 理由に異議を申し立てられるおそれがありま す。さらにまた,債権者から管理人の個人責 任の追及のために損害賠償請求訴訟が起こさ れるおそれもあります。
したがって,このような法制度の下では,
管理人がそのような危険を冒してまで借入れ を行うことは考えられないだろうと思います。
その意味で,イギリスの会社管理手続を利用 して会社を再建させる場合には,会社にある 程度のキャッシュフローがないと再建は難し いと言わざるをえないように思います。した がって,キャッシュフローもなく,銀行から 融資も受けられないような会社はなくなって しまえということではないかと思います。
» 会社管理手続への債権者の関与
次に,会社管理手続への債権者の関与です。
管理人は会社管理手続の目的―継続企業と しての会社を救済・再建するというのが,第 1 の目的ですが―を達成するために会社管 理手続の実行方針を定めた提案(proposal) を手続開始から 8 週間以内に裁判所に提示し なければなりません。管理人は,この提案を 債権者に示したのち,かつ手続開始から 10 週間以内に,その提案に賛成するかどうかを 検討するための第1回債権者集会を開催しな ければいけないことになっています。その債 権者集会に出席した無担保債権者の債権額の 50%以上の賛成で可決になります。
また,第1回債権者集会では,債権者委員 会が設置される場合もあります。アメリカ法 の影響だと思いますが,あまり大した機能は 期待されていないように思います。管理人か ら情報提供を受けておけば,先ほど言いまし
たように債権者は異議を述べられますので,
債権者委員会は,情報提供を受ける場として の意味しか期待されていないように見受けら れます。ただ,管理人は非常に広範な権限,
特に会社の経営権を持っていますから,当然 に濫用も予想されます。この濫用を防止する ために,先ほども述べたように,会社管理手 続では,債権者に管理人の行為に対して裁判 所に異議を申し立てる権限が与えられていま す。イギリス倒産法は,このようなバランス の取り方をしています。
¼ 会社管理手続の終了
最後に,会社管理手続が終わると,その後 はどうなるか。最初にも述べたように,イギ リスの会社管理手続は,それ自体として完結 した手続構造を持っていません。したがって,
最終的に清算する場合,最終的に再建する場 合のいずれの場合にも,別途管理手続に続く 別の手続が取られる必要があります。その中 には厳密な意味での倒産手続でないものもあ りますが,いずれにせよ,他の手続がそのあ とに続くことになります。
① まず,会社の再建を断念し,最終的に 会社を清算する場合ですが,管理人は債務者 会社の財産を売却するための営業活動を行い,
最高価で入札した者に財産を売却することに なります。もっとも,管理人は一定期間事業 を継続できる権限を持っていますので,継続 企業としての会社の価値をできるだけ毀損し ないようにした後で,会社を丸ごと第三者に 売却(営業譲渡)する場合もあり,この場合の 売却代金は,一般的には,単純な清算価値よ りも高くなるものと思います。
先にも触れたように,2002 年の企業法 248 条 に よ っ て 倒 産 法 に 新 た に 挿 入 さ れ た Schedule B1 によって,規定の上では,管理 人は管理レシーバーと同様に自ら配当等を行 うこともできるようになりました。しかし,
実際にはこの管理人による配当は行われてい ないようです。それはなぜか。会社管理手続 に関する配当の規定は強制清算(日本でいう
破産)手続における配当の規定と比べると明 確性に欠けるため,後日配当の手続に関して 債権者から異議が述べられるのを管理人が嫌 うというのが,その理由のようです。した がって,管理人がこの規定により配当をしな い場合には,会社管理手続に続いて,倒産法 の規定する強制清算手続が行われることにな ります。
なお,2002 年企業法 252 条の規定により,
倒産法の中に新たに 176A条が入り,浮動担 保権者へ配当する前に,会社の純資産の一定 割合を無担保権者の満足に充てることが会社 管理手続における管理人や,会社管理手続の あとに行われる強制清算手続における清算人 に義務づけられました。日本の破産手続でも,
担保権消滅請求という制度が新しく入りまし たが(破 186 条以下),要するに,この担保 権消滅請求制度は,担保権者への配当額から 一定割合をピンハネして,その分を一般債権 者のために使うことのできる制度です。すな わち,破産管財が,担保目的物の価格を提供 して担保権を消して目的物を任意売却し,目 的物の代金から5%から 10%程度の金銭を ピンハネしてその分を一般債権者に配当する ことが可能です。このような制度が,日本の 破産法に導入されましたが,同様の制度は,
すでにドイツにもあり,今回,イギリスにも 導入されたということになります。したがっ て,この数年の間に,世界の各国で担保権者 の権利を制限する立法が行われたわけです。
② 次に,再建される場合はどうか。再建 の場合には,会社管理手続の開始によって生 じた支払猶予の恩恵の下で債務者会社と主と して浮動担保権者との間で,会社ないし事業 の再建に向けて交渉が行われます。しかし,
会社管理手続自体は,管理人が事業の再建に 向けた方針を示した提案に反対する債権者を 拘束したり,この計画を実行に移す仕組みを 内部に持っていないので,最終的に会社を再 建する場合には,事件自体を会社管理手続か らこのあとに紹介する会社任意整理(Com-
pany voluntary arrangement)または会社法 425 条 所 定 の 会 社 整 理 計 画 (Scheme of
arrangement)に移行させる必要があります。
私が,Administrationをあえて「会社管理手 続」と訳したのは,以上みてきたように,こ の手続が,アメリカのCHAPTER11 手続や 日本の民事再生手続・会社更生手続とは異な り,あくまでもそれ自体では手続が完結して いないということを明らかにしたかったため なのです。
Ⅳ.会社任意整理(Company voluntary arrangement)
1.基本構造
そこで,次に,会社管理手続に続いて行わ れるといわれる会社任意整理という手続に話 を進めていきたいと思います。この手続も 1986 年倒産法で新たに入ったものです。こ の手続は,最初にも触れましたように,倒産 法改正検討委員会(コーク委員会)が,その 最終報告書において,会社に債務免除または 会社業務の整理を簡易かつ迅速に成立させ,
会社の清算を回避させる方法として新しいタ イ プ の 任 意 整 理 (voluntary arrangement) を提案した結果,つくられた制度です。
これは,裁判所がほとんど関与しない手続 です。裁判所の命令なしに,もっぱら会社と 債権者(および株主)との間で任意整理を成立 させるための手続が進められます。しかし,
このように裁判所外で進められる手続である にもかかわらず,会社と一般債権者(および 株主)の間で成立した整理計画が会社と一般 債権者(および株主)を拘束します。裁判所 がかかわっていないのに,反対債権者をも拘 束する手続です。同様の手続が日本に導入さ れると,憲法違反ではないかという批判が出 てきそうですが,イギリスには,そのような 手続が導入されたわけです。1986 年倒産法 が新たに規定を置いた会社任意整理(com- pany voluntary arrangement)という手続は,
このような手続なのです。
この手続はvoluntary arrangementという 名前ですので,裁判所が全然かかわらないよ うにも見えますが,裁判所がまったくかかわ らないのではなく,常にいずれかの裁判所が この任意整理事件に関与しています。言い換 えると,裁判所は,債権者等から異議申立が あると救済命令を出すというかたちで事件に 介入してくることになっており,背後で事件 を緩い監督下に置いている手続であると言っ てよいかと思います。いわば,私的整理と法 的整理手続の中間のようなものといえます。
債権者等から異議があると,その限りで裁判 所が当該事件に介入してくるというシステム です。
また,会社任意整理において,会社と一般 債権者(および株主)の間で合意されるのは,
倒産法 1 条にある会社債務の履行における債 務免除(composition)または会社業務の整 理計画(Scheme of arrangement)であり,
会社任意整理は必ずしも常に債務免除を伴う ものではありません。つまりこの手続に入っ たからといって債権をカットしてもらえない のです。そのため,イギリスの会社任意整理 は,倒産した,またはしそうな会社自体を再 建(reorganize)するというよりは,むしろ 継続企業としての会社の事業の売却または会 社の個々の財産の処分によって会社の事業の 維持・継続を図るというかたちで利用される ことのほうが多いのが実情です。
そのため,会社任意整理手続は倒産手続で あると言われていますが,会社が支払不能ま たはそのおそれがあるということは要件と なっていません。また,会社の取締役は,会 社管理手続とは違い,整理委員(nominee) が任命されても会社任意整理の期間中,原則 として会社の経営権を失うことはありません。
もっとも,会社またはその事業が計画にした がって売却されてしまうと,主要な財産は譲 渡先にいってしまいますから,会社はもぬけ の殻となり,最終的に会社の経営権はなくな
ります。
このように見てくると,会社任意整理は,
わかりやすくいうと,比較的手続構造が単純 ないわば債務者会社と債権者(および株主)
との間の和解手続であると理解してよいかと 思います。この単純性は,会社任意整理では 手続を複雑にする可能性のある利害関係人の 組分けが行われないという点にあらわれてい ます。会社更生手続では,ご存じのようにい ろいろな組分けがなされますが,イギリスの 会社任意整理ではこの組分けを行わないので す。したがって,会社任意整理では無担保債 権者を一つの組の構成員として取り扱うこと になります。この点が,このあとでお話しす る会社法上のScheme of arrangement(会社 整理計画)と大きく違う点です。したがって,
会社任意整理では,担保権者や優先的債権者 に対してはその者の合意がない限り,拘束力 は及びません。つまり,一般債権者と株主に しか拘束力がおよびません。ですから,担保 権者が担保権を実行してしまえば―管理レ シーバーシップが開始してしまえば―,こ の手続は吹き飛んでしまうことになります。
ちなみに,かつては租税債権と労働者の給 料債権が優先的債権でしたが,租税債権は 94 年に租税法の改正があり,一般債権に落 ちてしまい,現在優先債権として残っている のは従業員の給料債権だけです。
2.会社任意整理手続の利用の仕方 会社任意整理の利用の仕方には,二つの方 法があるということをここでお話ししておき たいと思います。つまり,会社任意整理の利 用の仕方には,会社任意整理が他の倒産手続 とは独立に進められる独立型と,他の倒産手 続とともに使われる併用型という二つのタイ プがあります。①独立型会社任意整理とは,
会社の取締役が,後の整理委員(nominee) 予定者である倒産実務家の助言を受けながら,
会社任意整理を求める提案(再建計画)をつ くり,整理委員予定者への提案の正式通知,
それから整理委員による裁判所への報告書の 提出を経て,債権者集会および株主総会の開 催へと進み,両集会で会社任意整理の提案が 承認されると,元の整理委員がそのまま監督 委員(supervisor)になり,supervisorの下 で任意整理計画が遂行されていくというタイ プのものです。
これに対して,②併用型会社任意整理とは,
他の倒産手続,とりわけ先ほどお話をした会 社管理手続とともに利用されるものです。会 社管理手続は,先ほども述べたようにそれ自 体として完結した手続構造を持っていないの で,最終的に会社任意整理に持ち込むことを 目的として会社管理手続が申し立てられるこ とがあります。すなわち手続がそれ自体とし て完結していませんので,会社管理手続プラ ス会社任意整理手続を使って会社の再建を進 めるというかたちになります。
このように最終的に会社任意整理を使って 会社を再建することを目的として会社管理命 令が申し立てられた場合には,倒産実務家で ある管理人が,管理命令発令の目的である会 社任意整理を達成するための提案,簡単にい えば会社を再建させるための提案をつくり,
それが会社管理手続の債権者集会で承認され ると,管理人が自ら整理委員を兼ねる場合に は,自分でつくった整理の提案を検討しても らうために債権者集会と株主総会を招集し,
そこで承認が得られると会社任意整理手続に 進んでいくことになります。そこで,今度は 会社管理手続から会社任意整理手続に事件が 移り,そこで改めて債権者集会と株主集会が 招集され,両集会で計画案が承認されると,
いよいよ実行過程に移っていくことになりま す。このようなかたちで使われるのが併用型 です。
問題は,なぜ会社任意整理が会社管理手続 と併用されるのかということです。会社管理 手続に計画実行や配当の手続がビルトインさ れていないというのも大きな理由ですが,も う一つは,会社任意整理だけで独立にやろう
と思っても,会社任意整理には支払猶予効が ないため,債権者の権利行使を止められない ので,会社管理を使って債権者の権利行使を いったん止めて,その間に再建計画を暖めて いき,債権者や株主総会の合意が得られそう になったら,会社任意整理に持っていくとい うかたちで使うわけです。もともと会社任意 整理と会社管理手続とはセットで使うことを 予定して立法されたといわれています。
もっとも,最近では,整理委員が手続の早 い段階から任意整理事件に関与し,整理委員 がすべての債権者の信頼を獲得しえたような 事件では,清算手続によるよりも,会社任意 整理でやったほうが有利に会社財産を換価で きるということから,金融機関などの債権者 が会社任意整理だけでかまわないという合意 をしてくれた場合には,余分に金のかかる二 重の手続を行なわないで,独立型任意整理だ けで事件を処理してしまうという事例も,比 較的小規模の会社の倒産事件を中心に増えて きているようです。
また,会社管理手続は手続の遂行にお金が かかるという弱点があるので,比較的小さい 規模の会社の倒産事件では二つ手続をダブら せますと費用がさらによけいにかかるという ことで,独立型会社任意整理,つまり担保権 者や債権者の同意を得た上で会社任意整理だ けを行う倒産事件が増えてきました。
そこで,2000 年に倒産法の改正が行われ た際に,新しく 1A条という条文が倒産法に 入り,会社法 247 条3項でいう小会社の任意 整理については手続開始に支払猶予効を付与 するという規定が入りました。イギリス法と いうのは,必要に応じてアメーバーのように 発展を遂げていく性質を有していますが,以 上 の よ う な 経 緯 か ら , こ の よ う な 規 定 が 2000 年に入りました。
〇上村 それではまだ倍ぐらいありそうなの で休憩を入れます。
3.会社任意整理手続の特徴
¸ 債権者との交渉
会社任意整理手続の特徴ですが,何よりも 債権者との交渉の重要性を挙げることができ ると思います。いまも述べましたように,小 会社以外の会社任意整理では,手続開始と いっても裁判所が手続にかかわってきません から命令もなく,何となく手続が始まってし まうということになります。しかし,支払猶 予効は認められませんので,会社の取締役と しては,会社任意整理を始めるにあたっては,
債権者に対して支払を待ってくれるようきち んと交渉しておかなければなりません。とり わけ担保権者である金融機関に対しては,管 理レシーバーを任命しないように―担保権 実行手続を開始しないように―ということ と,さらには融資を続けてくれることの確約 を取っておかないと,会社任意整理はうまく いきません。
また,会社任意整理は独立型,併用型のい ずれであるかを問わず,債権者集会と株主総 会で承認されてはじめて効力が生じますが,
その際に債権者集会や株主総会では担保権者 の権利や,優先的債権者の債権を侵害するよ うな内容の会社任意整理の提案を承認するこ とは,本人の同意がない限りはできないこと に,条文上なっています。これは,従来から イギリス倒産法を貫く大原則であり,特に担 保権者の権利はカットできないとされていま す。
この点が,会社任意整理が今ひとつ使いに くい制度といわれる理由です。債権のカット なしに(換言すると,債務の免除なしに)債 務者会社を再建するのは大変なことですから,
これが会社任意整理が使いにくく,その利用 件数が今ひとつ伸びない原因の一つと言われ ています。そういった意味で「会社任意整理 も」,担保権者や主要債権者の見識ある援助 ないし協力なしにはおよそ成り立たない制度 であると言えるだろうと思います。
¹ 整理委員への任意整理の通知と整理委 員の報告書
手続の概要をお話しする上で重要なのは,
整理委員への任意整理の通知と,整理委員の 報告書です。会社の取締役は,整理委員とし て予定しているInsolvency Practitioner(倒 産実務家)に,会社任意整理の内容を記載し た書面,提案文書のコピーを添えて正式に書 面によって任意整理の提案を通知します。つ まり会社の取締役のほうから整理委員になっ てほしい人に,こういう内容で会社を再建さ せたいけれど,可能性はあるかという通知を して,手続が始まることになります。ただ,
そうするといったいだれが整理計画案をつく るのかということが問題になりますが,倒産 法の条文上は,取締役がそうした提案をつ くってから整理委員予定者に通知をするとい うかたちになっています。しかし,会社の取 締役が再建計画をつくれるわけがないので,
実際には整理委員予定者をあらかじめ見つけ ておき,任意整理をそもそもやったほうがよ いかどうかを会社の取締役が相談する段階か ら実は整理委員予定者がかかわっています。
会社の取締役は,整理委員予定者である倒産 実務家に,再建するにはどうしたらよいか相 談をしながら整理計画案をつくり,それをあ とで正式に整理委員予定者に通知することに よって会社任意整理手続が正式に始まります。
この整理委員予定者が正式に整理委員に就 任しますと,整理委員は正式に提案を受けた 日から 28 日以内,または裁判所が認めた期 間内に会社任意整理の提案を検討するために 債権者集会と株主総会を招集したらよいかど うか,もし開くとしたら,それはいつどこで 開いたらよいかを記載した報告書を裁判所に 提出することになります。ですから,この手 続では,基本的に裁判所はそうした報告を受 けるだけの受動的な立場にあり,積極的には 事件にかかわってこないのです。もちろん,
この場合に,裁判所に対して整理委員は,こ
の計画案では再建は無理だという否定的な報 告書を提出できますし,そのときは会社の取 締役から裁判所に対して別な整理委員を指名 するように求められることがあります。この 整理委員の判断は厳しすぎるので,もっと別 の倒産実務家を指名してくれという要望が裁 判所に寄せられることがあります。しかし,
多くの場合,整理委員は整理委員予定者の段 階から取締役と任意整理の準備に向けてかな り密接に共同作業を進めますので,特別の事 情がない限り肯定的な,いわば予定された報 告書が出てくることになります。
これに対して,すでに会社が管理手続に 入っている場合には管理人が,また,清算手 続から再建手続に移ってくる場合もあります ので,その場合には,清算手続における清算 人が,自ら整理委員として会社任意整理を求 める提案を作成してくる併用型もあります。
実際上,清算人が任意整理案をつくる場合は あまりないようですが,管理手続が先行して いるようなケースでは,管理人が自ら整理委 員として会社任意整理の提案をつくってきま すので,改めて別の整理委員の報告書を求め る必要はありません。これらの場合には,倒 産実務家がかかわっていますから,倒産実務 家としての管理人または清算人の意見がその まま提案に反映されているということで,改 めて整理委員を選ぶ必要はありません。
º 債権者集会・株主総会における任意整 理の承認
続いて,独立型任意整理において,整理委 員が裁判所に対して,債権者集会と株主総会 を開いたほうがよいという報告書を提出して きたら,そのあとはどうなるか。この場合に は,裁判所が,特段の指示をしない限り,報 告書で提案された日時・場所でそれらの集会 が開かれます。次に整理委員が管理人または 清算人であるとき,すなわち併用型の場合に は,裁判所になんら照会をすることなく,整 理委員が適切と考える日時・場所で両集会を 招集することになります。そのほか独立型任
意整理の場合には,両集会は整理委員が裁判 所に報告書を提出した後,14 日以上,28 日 以内に開催しなければならないとされており,
二つの集会は同じ日に同じ場所で開催されま すが,債権者集会が先に開催されます。
会社任意整理の提案が二つの集会で承認さ れるためには,債権者集会の場合には 75% 以上の同意があり,かつ,招集通知を受けた 債権者の 50%以上が反対投票をしていない ことが必要です。株主総会の場合には過半数 以上の同意が必要です。二つ集会が開催され ますが,片方が認めて,片方が認めない場合 はどうなるのかが,次に問題になります。両 集会が賛成してくれれば,もちろん一番よい わけですが,株主総会が否決しても,債権者 集会が承認した場合には,会社任意整理は成 立します。債権者集会は賛成したけれど,株 主総会は否決したという場合に債権者集会の 意向を尊重するというのは,実体法上のプラ イオリティからいっても当然だと思います。
これに対して,不服のある株主は異議申立が できますが,実例はあまりないようです。
会社任意整理案が承認されますと,債権者 および株主に対して拘束力を持ちますが,こ の拘束力は議決権を行使しなかった債権者や 株主にも及びます。さらに,招集通知を受け なかった債権者や株主にも拘束力は及びます。
この点は 2000 年の倒産法改正で入った規定 ですが,招集通知を受けていなくても拘束力 があるということです。
» 任意整理計画の遂行
最後に任意整理計画の遂行です。任意整理 の提案が承認されると,会社任意整理は実行 過程に入ります。この実行をだれがやるのか。
もとの整理委員が,以後,監督委員(super-
visor)となります。もっとも,監督委員が
取締役による会社任意整理の遂行を監督する 場合と,遂行を自ら行う場合とがあります。
基本的に監督委員は取締役による整理計画 の遂行の監督にあたることになっていますが,
両集会で承認された会社整理計画の条項が,
監督委員に会社事業の経営,またはその名前 で取引をすること,あるいは会社資産の換価 または会社の資金の管理・処分を行う権限を 与えているか,またはそうすることを命じて いる場合には,監督委員自らが計画を遂行し,
会社任意整理手続の期間中,取締役の事業監 督の経営権は監督委員の全般的な支配に服す ることになります。スーパーバイザーという 名前からすると,基本的には監督にあたるこ とになるのでしょうが,自分で計画を遂行す る場合もあるということです。
監督委員は,会社任意整理の遂行過程で生 じてくるさまざまな問題について,裁判所に 対していろいろ指示を仰ぐ権限を持っていま す。たとえば,独立型で会社管理命令や清算 命令がない場合に,監督委員が裁判所に対し て会社管理命令や清算命令を出すよう求める こともできます。特に会社任意整理は,実際 上,会社自体の再建を図るというよりは,む しろ会社事業の売却や会社の個々の財産の処 分によって会社事業の継続を図るために利用 されることが多いために,当初,独立型の会 社任意整理をやっていたが,途中でむしろ清 算したほうがよいと監督委員が考えたときに は,任意整理を清算手続に移行させ,債権者 に配当をするというようなこともあり得るわ けです。
¼ 会社任意整理の終了
最終的に会社任意整理はどういうかたちで終 了するか。整理計画どおりに履行が行われ,最 終的に履行が終了しますと,監督委員から債 権者や株主に任意整理を終了したことを通知 することになります。そして報告書が出ます。
Ⅴ.会社整理計画(債務整理計画)
以上が,倒産法が規定する再建型の手続の 概要ですが,続いてもう一つ,厳密な意味で は倒産手続と言わないほうがよいのかもしれ ませんが,会社法が規定している会社整理計 画(scheme of arrangement)についてお話