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重要文化財加茂岩倉遺跡 出土銅鐸の保存修理

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Academic year: 2021

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1 はじめに

平成8年10月14日、島根県雲南市(大原郡)加茂町大字 岩倉から道路工事にともなって多数の銅鐸が発見され、

その後の調査により総数39鐸の銅鐸が確認された。

銅鐸が発見されてまもなく、当研究室は緊急保存処置 をはじめ、銅鐸内面の土の剥ぎ取り転写などについて現 地協力をおこなった。また、発掘直後の銅鐸内部の土や 入れ子銅鐸の埋納状態などを確認するために、高エネル ギーX線CTによる調査などを実施した。

その後、古代出雲文化展が開催され、発掘調査の成果 などが一般に公開され、平成11年には、加茂岩倉遺跡は 国指定史跡に、発見された銅鐸は重要文化財に指定され た。また、銅鐸が発見された直後から調査指導委員会が 開催され、保存修理に関しても基本計画が策定された。

奈良文化財研究所では、文化庁の依頼により受託研究 として平成11年度から平成18年度の8年間をかけてこれ らの銅鐸の調査および保存修理をおこない、このたび発 見された39鐸の銅鐸すべてについて調査、保存修理を完 了した。

2 修理の基本方針

保存修理にあたっては、調査指導委員会で策定された 計画に基づき、科学的な調査を実施して現状の劣化・損 傷状態を明らかにし(診断調査)腐食が進まないように安 定化処置をほどこす(保存修理)と同時に、診断調査と平 行して古代の製作技術に関する情報などの収集もできる かぎりおこなった。また、銅鐸の外観をきれいにするの ではなく、発見当初の現状を科学的手法により維持し、

劣化の進行をくいとめることを目的として保存修理をお こなうことを基本方針とした。

3 遺物の診断調査

遺物の診断調査は光学的な非破壊的手法による調査を 基本とし、表面状態に関する調査と内部状態に関する調 査にわけて実施した。

表面状態に関する調査は、金属表面に存在する腐食生

成物(さび)や土の付着状態に関する観察調査と分析調 査をおこない、実体顕微鏡をはじめ、赤外、紫外線を用 いた観察と、蛍光X線分析法、平行ビームおよび集中ビ ーム法による非破壊回折分析法による測定を実施した。

また、今回は銅鐸内部から新鮮な金属を採取して、金属 材質の精密化学分析も実施した。測定には分析用試料を 数!採取した後、ICP発光分光分析法および微量元素に ついてはICP質量分析法によった。また、従来の報告例 にもとづき、銅鐸表面に顔料等が塗布されている可能性 に留意した詳細な観察と分析調査も併せておこない、観 察調査によって顔料の可能性が示唆された部分について は、レーザラマン分光分析法により測定を実施した。

表面状態の調査の結果、一般的に褐色の酸化銅の上層 に層状もしくは皮殻状の緑色系や青色系の塩基性炭酸銅 系の緑色さびが一般的に生成していることがわかった。

また、腐食の著しい部分では、最上層に酸化錫の皮膜状 のさびが存在し、その下層には淡緑色粉状の軟弱な非晶 質のさびがかなり深く進行していた。塩化物などハロゲ ン系元素にもとづく孔食性のさびの可能性が考えられ、

確実な防食処置の必要性が指摘された。また、表面に付 着する土砂からは、石英や長石以外にも、カオリナイ ト、ハロイサイト系の粘土鉱物が検出され、水分の吸着 により劣化が進むことが想定され、表面の土砂は出来る 限り取り除く必要があることも明らかにされた。いっぽ う、詳細な観察調査によって、3鐸の銅鐸(10号、21号、

3号)から顔料がわずかに残存していることが確認され た。いずれも赤色顔料で水銀朱が同定されているが、き わめて微量しか残存せず、銅鐸の埋納坑からも朱が検出 されていないことから、埋蔵時に銅鐸に朱が塗布された とは考えにくい。

銅鐸の金属材料については、従来から公表されている 金属材料と同様で、特異なものは存在しない。今回測定 した銅鐸39銅鐸の主成分の平均値と標準偏差は、銅:

77.7±5.4%、錫:11.4±4.9%、鉛:7.4±1.2%で、錫 のばらつきがやや大きく、鉛のばらつきは少ない傾向が 認められるが、なかには平均値から大きくはなれるもの も存在した。いっぽう、副成分として銀:0.11±0.02%

は 比 較 的 ば ら つ き は 少 な い が、ア ン チ モ ン:0.23±

0.17%、鉄、砒素に関してはばらつきが大きいことも明 らかになった。いっぽう、鋳掛部分と本体について3鐸

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について成分の比較をおこなったが、いずれにおいても 有意な差は認められなかった。現在、これの分析結果に ついて整理と検討を進めている。

内部状態については、まず土砂が充填されている状態 での入れ子銅鐸の様子について三次元X線CT撮影を実 施し、さらに、土砂を取り除いた後に金属部分に着目し てX線透過撮影とX線CT撮影をおこない、金属部分の残 存状況や腐食状態をはじめ、鋳掛の状態などに関する情 報を収集した。その結果、入れ子状態の銅鐸に残存する 土砂は完全に充填された状態ではなく、空間もかなり残 存することなどがわかった。また、内部の土砂を取り出 した後の調査では、腐食等の状況以外に、鋳型整形時に おける鋳型のずれや、鋳込みに伴う残存する気泡の状 態、金属の歪み、複雑な鋳掛の様子などが明らかになっ た。

4 保存修理

保存修理は、まず銅鐸表面に付着する粘土や砂粒子の 除去(クリーニング処置)から実施した。文様の凹凸が少な いうえ、表面状態が不均一であること、つまりさびに覆 われた硬い部分や腐食が進んで脆弱になっている部分が 混在するので注意を要した。

エアブレイシブを用いるとクリーニングは迅速にでき るが、表面を損傷する危険があり使用できないため顕微 鏡下において、筆を用いたアルコール塗布によるブラッ シングを基本として実施した。いっぽう、銅鐸表面を覆 う緑色さびについては、ハンドピッキング法により可能 な限り除去した。いずれにしても精密な作業であるた め、長時間を要した。

クリーニング処置により、土砂やさびは取り除かれた が、いっぽうでは、文様のコントラストがなくなり、や や見えにくくなった感がある。これは、クリーニング前 は凹部分に、粘土粒子が付着しているので白っぽく見え ており、文様を作る凸部分には粘土粒子の付着が少な く、黒っぽくみえているので、文様のコントラストが高 く鮮明に見えていたものが、粘土粒子を取り除くことに よって、全体が同じ色調になり、コントラストが低下し たためである。しかし、将来における劣化の進行を考慮 すると、粘土粒子による水分の吸着は、遺物の劣化に大 きく影響するので土はできるかぎり取り除く必要があ る。

クリーニング処置を終了した後には、残存する健全な 金属部分を腐食から保護する必要があるため、BTA処置 を実施した。銅鐸の主成分である銅は、ほとんどは銅

(Ⅱ)であり、少量は銅(Ⅰ)が存在すると予想されるの で、BTA処置にあたっては減圧含浸後、24時間以上反応 を進めてから、アルコール洗浄をおこなって取り出し た。

その後、強化処置のためアクリル樹脂の低濃度溶液を 含浸した。破片の接合には、小片はアクリル樹脂を用い て、大きな破片は破断面にアクリル樹脂による処置を施 した後、エポキシ系やシアノアクリレート系接着剤を用 いて接合した。欠損部分については、基本的に補填しな い方針であるが、強度不足の部分や構造的欠陥のある部 分については、エポキシ系補填材をもちいて整形した。

ただし、補填部分の接合については、あらかじめアクリ ル樹脂による処置をおこない容易にとりはずすことがで きるように配慮した。 (肥塚隆保・高妻洋成・降幡順子)

図53 加茂8号銅鐸舞部の鋳掛部分X線透過像 図54 顕微鏡下でのクリーニング作業風景

! 研究報告 37

参照

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