著者 中嶌 剛
雑誌名 經濟學論叢
巻 65
号 4
ページ 973‑996
発行年 2014‑03‑20
権利 同志社大學經濟學會
URL http://doi.org/10.14988/00027436
地元愛着の階層性と就業構造
中 嶌 剛
1 は じ め に
2012年度の『学校基本調査』によれば,全国47都道府県中31県で地元(県内)
にある大学が進路先のトップを占めており,近年の若者は「地元志向」「内向 き志向」だと言われる.中央教育審議会が2005年に出した答申では,地域貢 献を含む社会への貢献を教育,研究に続く第3の使命と位置付けており,急 速に過疎化が進む我が国の地方圏では,地方大学が地域振興の拠点として期 待されてきた面は少なくない1).確かに,地域振興において若者の果たし得 る役割は大きいと考えられるが,人を地元に滞留させれば解決できるほど問 題は単純ではない.たとえば,地元志向者の進路先選びに地域性がみられる という日本経済新聞社(2012a),日本経済新聞社産業地域研究所(2012)の指 摘は,地元回帰を大枠で捉えたものにすぎず,“今なぜ地元なのか”,“彼らを 留める地元要因は何を意味するのか”が十分に理解されていない.実際,国 レベルでも,若者に地域とのつながりを意識させると同時に地元への愛着を 高める取り組みが重視されてきた(文化庁長官官房政策課,2012).しかし,地 域ニーズに即した人材供給に加え,民間と地域行政の連携を図るという政策 的課題を推進するためには,事前段階として,地域に留まる若者の特徴や意 識構造を実証的に究明することが求められよう.
上記の問題意識に立つと,地元に残留する若者の増加傾向は,地域活性化 との文脈のみならず,個人のキャリア形成の在り方の観点から捉え直すべき
1) 日本経済新聞社が2013年に全国の737国公私立大学・大学院を対象に行った「地域貢献度ラ
ンキング調査」によれば,卒業生の5割以上が地元就職である割合は51.4%という(日本経済 新聞社産業地域研究所,2013).
課題であると認識できる.しかしながら,地元要因について地域性や個人レ ベルでキャリア形成の視点から論じた研究は不十分であった.極めて個人的・
主観的事由であり,かつ,潜在的な志向性2)でもある地元志向の把捉が容易 でないとはいえ,地域活性化に求められる切り口として,地域密着や就業を めぐる問題の解明は不可欠である.地域の価値を強く反映する“地元への愛 着”3)を地域の評価指標に採用すべく,まず基本構造を検証しなければなる まい.
以上の問題意識から,本稿では,地元愛着による地元就業行動の特徴を階 層的に把握した上で,キャリア形成の視点から地域活性化との関連について 実証的に明らかにすることを目的とする.地方圏の労働市場には地域的特徴 があるとする日本労働研究機構(1994),OECD(2004)の指摘を勘案すれば,
就業意識の根幹部分の把握は,官民や労使を問わず,マッチング度を高める ことになり,地域ニーズに基づいた労働の質の向上に繋がることが期待され る.なお,地元就業者に焦点化した本稿では学卒無業やニートの問題は取り 上げない.
2 仮説と基本モデル
地元愛着と類似する概念は,市民意識,社会意識,住民意識,地元意識,
地域感情,コミュニティ意識などと多岐にわたるが,管見の限り,地元愛着 に焦点化した量的研究は希少であり,一般化された共通概念もない状況にあ る.したがって,本稿では,教育学,心理学,社会福祉学,社会学,都市計画,
看護学,および,公衆衛生領域などの先行研究を手がかりに,地元就業に関 わる地元愛着要因について探索的にアプローチする.
2) たとえば,近年の若年勤労者にみられる「とりあえず志向」という一見,不明確な潜在意識 に基づく行動特性がキャリア形成の道筋を明るくする点が実証されている(中嶌2013).
3) 用語の定義として,「地元」は人為的に引かれた境界に左右される部分があるため,ふるさと・
故郷・郷土・居住地・土着などと同義で用いる.「地元愛着」は地元愛・郷土愛・地元好きを含 めた,「どの程度の愛着を感じるか」という程度の強さを表す指標として使用する.
2. 1 先行研究から導かれる仮説
本稿は,地元就業とキャリア形成の双方に絡む地元愛着という個人の根源 的な価値観に照射した研究であるため,Maslow (1943)の欲求五段階説を仕事 に関する3つの欲求に改良したAlderfer (1969)による「生存(E: Existence)」「関 係(R: Relatedness)」「成長(G: Growth)」の枠組みを援用して仮説を設定する.
(1)生存(E)の側面
教育分野では,小学校や中学校の生活科・社会科の学習指導要領には,子 どもに対して地元愛着を持たせることが教育目標となっており,誇りや愛着 を持つことができる故郷の再生が復興まちづくりの鍵になるとの指摘もある
(国土交通省都市局,2012).Kasarda and Janowitz (1974)では居住期間の長さと地 元愛着との相関性を確認していることから,第一の仮説が導かれる.
仮説① もともと地元が好きである者ほど,地元愛着は強い.
一方,社会心理学分野から地域愛着に注目した研究では,主成分分析を用 いて,地域愛着は地域同一性(place identity)と地域依存性(place dependence)
と生活様式(life-style)という3次元で構成されることを説明する(Moore and Graefe, 1994; Bricker and Kerstetter, 2000;Kyle, Graefe, Manning and Bacon, 2004).地 域同一性は,ある特定の場所に対する態度,思考,意義,価値,行動特性によっ て特徴づけられる感情的な愛着レベルであるのに対し,残りは,ある特定の 場所が代替の場所と比べてどれくらいニーズを充足できるかという知覚レベ ルを表すものである.ここで,1つ目の地域同一性を「共存」の視点,2つ目 の地域依存性を「共栄」の視点と解釈すれば以下の仮説が立てられる.
仮説② もっと地域(地元)を良くしたいという就業動機は地元愛着を高め る.
3つ目の生活様式に関しては,就業選択上のリスク回避や実家からのサポー トの享受,および,安価な生活環境などの経済的メリットを挙げる研究もあ る(Greenhaus and Powell, 2006; 轡田,2011).こうした経済合理性の重要度を勘
案すれば,次のような仮説を導き出すことができる.
仮説③ 地元を過ごしやすいと感じる者ほど地元愛着は強い.
(2)関係(R)の側面
Mesch and Manor (1998)は,地域住民との友好的な関わりが地域愛着を促進 すると指摘する.Kusuma (2009)も個人的要因と環境要因との関係性から地域 密着行動を説明する.ここでの地域住民や地域社会との相互作用の重要性か ら次の仮説を提示する.
仮説④ 地元住民と繋がりながら働きたいという理由で就業した者ほど,
地元愛着は強くなる.
一方,地域社会における繋がりや連帯意識の希薄化は居住地域における治 安に対する不安を招く一因となるとの指摘がある(内閣府,2007).近隣関係は 人に安心感をもたらすという点から,次の仮説を立てることができる.
仮説⑤ 治安の良さと地元愛着との関連は強い.
(3)成長(G)の側面
社会福祉学や社会学の分野では,東北地方の復興支援の学生ボランティア として,被災者が自身の地域の文化や歴史を紹介することにより,地域への 愛着や誇りを再確認することで復興の足がかりにする活動事例が報告されて いる(日本経済新聞社,2012b;日本経済新聞社,2012c).こうした動向より,次 の仮説が導かれる.
仮説⑥ 地元のことを誇りに思う者ほど,地元への愛着は強まる.
一方,心理学分野では,Haslam, Jetten, Postmes, and Haslam (2008)が,恩恵 を求めて所属集団と心理的紐帯を構築するという観点から人の就業行動を捉 える.すなわち,地域からの恩恵が得られると認知しやすいほど,地元への 愛着は高められることを意味するため,次のような2つの仮説が導かれる.
仮説⑦ 地元への恩返しが就業目的である者ほど,地元愛着は強い.
仮説⑧ 町づくりや産業振興に関心が強いほど地元への愛着は強い.
前者は精神的充足を意図する場合であり,後者は精神的充足と物質的充足 の両方に絡むものである.
2. 2 基本モデル
地域活性化の実現には,労働者のモチベーションやモラールの維持・向上 やキャリア形成を見据えた計画的育成,採用時のマッチングなど人事労務管 理上の問題が大きい(荻野,2006).この基本モデルでは,地元就職を希望す る個人が地元就業を実現する過程における意思決定のメカニズムについて分 析する.まず,地元就職希望者の効用関数を
U e^ h=U ek^ h-c
とする.ただし,eは地元就職のための努力水準でe≧0,kは(単位努力量あ たりの)地域活性化への効果(外生変数)である.また,aが地元愛着,すなわ ち地元就職の実現がもたらす正の効用の感じやすさを表すとすると,
U=ake
つまり,地元就職希望者の努力水準eが高いほど,実際のUターン・Jター ンが増え,地域活性(社会厚生)が1単位当たりkeずつ上昇することを意味 する.
一方,地元への愛着が乏しい地元就職希望者の努力水準がeのとき,地元 企業(あるいは地元自治体,以下省略)サイドの負の効用がme2で与えられると する.ただし,パラメータmは地元愛着が小さい地元就職希望者と地元企業 とのミスマッチ度を表す.
したがって,地元就職希望者の意思決定時における効用最大化問題より Max U e^ h=U ek^ h- =c ake me- 2
を解くと,e=ak 2m となり,U e^ h=a k k k2 ^2 - h 4m である.
一方,地元就職希望者と地元企業のマッチング度が大きいほど,最適な地 域活性化への貢献度k*を望むことができる.
このときの地元就職希望者の意思決定時における効用最大化問題より,
Max U)^eh=Uk)^eh- =c ak e me) - 2
を解くと,e)=ak) 2mとなり,U)^eh=a k k2 ^2 )-kh 4mである.
この効用の増分は,マッチング改善努力による社会厚生の向上を表す.
U)^eh-U e^ h=a k k2^ - )h2 4m
さらに,こうした意思決定の過程について,Vroom (1964), Lawler (1971;
1973)の期待理論モデルを援用すると4),地元就職の実現へのモチベーション
Vの大きさは
V=o7
!
^PUhAの期待効用(単調増加関数)で表される.単純化のために,地元就職実現にプ ラスに働く要因が1つ(Pのみ)で考える.望ましい地元就職先に出会う主観 的確率Pを
PP==p pp pmaxmax,,00EEp pp pmaxmaxEE11
で与えると,期待効用の増加分からマッチング度を高めるために費やすコス ト(=人件費やスペース費用や機会費用)pn/aを引いたものが地元企業側の効用 であるため
地元企業側の効用最大化問題は,
4) 当該理論では,行動(就業実現)への動機づけとして,自己実現という単一志向性のみならず,
多変数の集積により総合的に判断して行動に移すことを説明する.
MaxV)^eh-V e^ h-pn a=pa k k2^ - )h2 4pmaxm-pn a より,popt=#a k k^ - )h 4pmaxnm-1n-1という解を得る.
ここで,p, r, aの関係に着目すると,パラメータの値によらず,以下が成 り立つ.
, ,
k k p
m p
a
0 0 p 0
opt opt opt
2 2
2 2
2
2 1 2 2
- )
^ h , ,
k k p
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^ h , ,
k k p
m p
a
0 0 p 0
opt opt opt
2 2
2 2
2
2 1 2 2
- )
^ h
上記の比較静学分析の結果,地元企業側(採用側)の意思決定問題として解 釈すると,以下のようになる.
ⅰ. 地元就職による地域活性化への影響度が望ましい値との差が大きいほ
ど,マッチング強化策を強めるほうが良い.
ⅱ. ミスマッチ度合が大きい場合ほど,マッチング強化策の効果は小さく
なる.
ⅲ. 地域の活性化には,地元愛着が強いほど,マッチング強化策の効果が
大きくなる.
高校新卒者の多くは地元高校の出身であり就職活動も地元中心となるため,
地域労働市場の動向に敏感に反応しやすい高卒者ほど,本モデルは当てはま りやすくなる.
3 使用データ
3. 1 調査概要従来,地元就業(Uターン・Jターン)という現象自体が社会的・地理的に 重要であるにもかかわらず,定義や計測の困難さから,十分な実証調査が蓄 積されてきたとは言い難かった(Rodriguez, Egea and Nieto, 2002).そこで,本 研究では,筆者が独自に実施した質問紙調査『地元就職とキャリア形成に関
する調査(個人調査)』によりデータを収集した.本調査は2013年4~6月 に全国47都道府県の地元就業者を対象に郵送法(スノーボールサンプリング法)
および電子メール法により実施した5).サンプル数は配布数3,852,有効回
答数2,874(有効回答率74.6%)である.なお,職種別では,町役場職員857,
消防官1,916,資格免許職(保育士・保健師)59,JA職員29,不明13となっ
ている.
3. 2 データの概観 3. 2. 1 基本統計量
地元への愛着を地元志向の視点から着目する三浦(2010)は,地元志向を
「地元好き」「地元定住志向」「地元消費志向」の3つの尺度に分けて定義づけ る6).本調査設計ではこの定義を援用したが,地元愛着の発生構造をより詳 細に分析するために10項目の関連質問を追加した.第 1 表は,本調査データ における当該3尺度と地元愛着を性別・勤務形態別・転職経験別に示したも のであるが,地元愛着や地元消費志向に性差はみられない.むしろ,男性正 規社員よりも女性正規社員の方が地元好きは多く,その傾向は転職経験がな い場合ほど強まる.また,地元定住志向は男性正社員において転職経験の有 無と密接に関連しており,非正規社員ほど顕著であることがうかがえた.
3. 2. 2 勤務地パターンの特徴
地元志向の地域的特徴を調べるための切り口として勤務地パターンに注目 する.ここでは,第 2 表の5分類に従って,Uターン率および残留率の特徴 を属性ごとに確認する.まず,第 3 表より世代間では地元への残留率の低下 が若い世代に顕著であり,出身地Uターンの激減が一因として考えられる.
学歴格差では,低学歴ほど残留率が上昇し,高学歴になるほどUターン率が
5) 団体(自治体)数では,依頼をかけた462団体のうち324団体から調査協力を得た.
6) 中嶌(2012)では,全国236自治体(市役所区役所)の一般行政職の地方公務員(N=4,015)
を対象に地元志向の規定要因分析を行い,「地元志向と地元愛着に正の相関がある」という帰結 を得ているが,地元愛着要因の分析は未解明であった.
低下する傾向が見られた.大学新卒者は高卒新卒者ほど強く地域性が反映さ れないという太田(2006)の指摘に合致するが,高卒者ほど地元就業率が高 くなる傾向は地元定着性の頑強さの一端を表していると看取できよう.また,
第3表の出身地格差では「村」のUターン率が94.0%と比較的高く,村割合
が24.8%(全国平均10.6%)と圧倒的に高い北陸・甲信越地方で顕著であるこ
とが第 1 図より確認できる.この結果は,一般市や町ほどUターン率が高く なるとする江崎(2007),中嶌(2012)とは異なるものの,本調査のように厳 密に地元就職者に限定したデータからは,「もともと地元が好き」に代表され る地元同一性が地元就業行動において狭いネットワーク内における絆の強さ
男性正規転職なし (n=1909)
女性正規転職なし (n=218)
男性正規転職あり (n=563)
女性正規転職あり (n=86)
男女正規転職差
男女非正規 転職あり+なし
(n=61) 地元愛着 3.45 3.48 3.39 3.48 ns 3.42 地元好き 3.44 3.53 3.38 3.51 * 3.50 地元定住志向 3.63 3.40 3.57 3.46 ** 3.70 地元消費志向 2.93 2.80 2.88 2.81 ns 2.68
第 1 表 記述統計(平均値)
(注)1) 「5.かなりあった」「4.少しあった」「3.どちらでもない」「2.ほとんどない」「1.全くない」
の5件法で回答. 2)*p<.05, **p<.01
(出所)『地元就職とキャリア形成に関する調査』(2013).
地元就職 出身地・最終学校地とも同じ 出身地Uターン就職 出身地のみ同じ
Jターン就職 出身県内の他の自治体に就職 他出型の就職 最終学校地のみ同じ
Iターン就職 出身地・最終学校地とも異なる
(a)
(b)
(c)
(注)1)「Uターン率」=(b)÷{(b)+(c)}により算出,全体:85.2%
2)「残留率」={(a)+(b)}÷出身者総数により算出,全体:91.4%
(出所)江崎(2007)pp.3―4.
第 2 表 勤務地の分類
(単位:%) 出身地 定住(a)
Uターン(b)(c)合計Uターン率残留率 出身地 UターンJターン他出型Iターン(人){b/(b+c)}{(a+b)/(a+b+c)} 1960以前生まれ62.930.31.22.02.740386.793.8 1961~197058.834.44.31.20.648495.593.8 1971~198046.943.36.41.72.983991.789.3 1981~199035.253.55.81.34.196291.788.7 1991~199856.929.44.43.85.016079.486.8 高校卒74.218.82.92.11.81,41984.193.0 短大卒31.057.54.04.04.934888.788.2 大学卒18.469.37.27.24.01,02893.787.6 大学院修士25.058.35.65.68.33785.283.3 県庁所在地50.927.212.11.78.117290.578.5 一般市51.639.14.31.82.91,42789.690.7 町41.450.13.81.42.51,07691.991.5 村54.535.96.91.42.114594.090.3
第3表 勤務地パターンの世代・学歴・出身地の格差 (注)1)専修学校卒は短大卒,大学院博士課程(1名)は大学院修士に含まれている. 2)最終学歴が不明の16人,および,出身地が不明の28人は除外. (出所)第1表と同じ.
として働いている可能性を指摘できる.そのことは,県庁所在地の出身地U ターンの低さやIターンの高さからもうかがえる(第3表).
3. 3 サンプル対象の選択
分析の対象となる地元就業者は,第2表の分類に従い,以下のような条件 を用いて地元就業者2,621人を選択した.
(1 )全サンプルのうち勤務地が不明である者26人を除去した.この結果,
2,848人となる.
(2 )つぎに,全体の残留率(91.4%)の高さから,出身地・最終学校地とも 異なるIターン就職者の86人と最終学校地のみが同じである他出型の就 職者133人を除いた.よって,2,629人となる.
第 1 図 地元就業者のUターン率と残留率(地域別)
(出所)第1表と同じ.
(3 )さらに,このうち出身地が不明であった8人を除去した結果,最終的
に残った2,621人が本稿のサンプル対象である.
4 推定の方法と結果
4. 1 推定方法本節では,地元就業者における地元愛着の発生構造と地元就業行動へのそ の影響について推定する.被説明変数には,地元愛着変数(=「地元に対する 愛着が強い」の5ランクデータ),および,地元就業動機(=「地元で働きたい」の 二値データ)を用いる.前者の地元愛着の規定要因の分析(モデル1)には順序 プロビット推定を用い,後者の地元就業動機の規定要因分析(モデル2,3,4)
にはプロビット推定を採用する.第 2 図はKusuma (2008; 2009)による地域愛 着(Place Attachment)仮説モデルに基づき,第2章で示した検定仮説の関係を 図式化したものである.
主な説明変数としては,まず,地元愛着の発生要因として,第2章におけ る仮説①~⑧の地元愛着に関する説明変数(5段階尺度)について,主成分分 析により,固有値が0.6以上の解が3つ得られ3因子構造であることが分かっ た(第 4 表).主成分ごとに該当する項目の数をカウントする(例えば,第1主 成分では「地元への恩返し」「地元住民と繋がりたい」「地元を良くしたい」「町づくり や産業振興に貢献」のうち,過半数以上に該当する場合を「2」,半分に該当する場合を
「1」,それ以外を「0」としてポイントを与える)ことにより,3つの地元愛着要因 を表すダミー変数を導入する.すなわち,Moore and Graefe (1994)やBricker and Kerstetter (2000)らの先行研究に倣い,「地元依存性(第1主成分)」「地元 定着性(第2主成分)」「地元同一性(第3主成分)」の3つの変数として呼称す る7).
7) 第2主成分は,成分因子の構成内容から判断して,「生活様式」を使用していない.
4. 2 推定結果
第 5 表のモデル1より,地元に対する愛着は第3主成分を構成する「もと もと地元が好き」「地元への誇り」が正効果を及ぼすこと,加えて,転職あり ダミーが負より,初職で地元就職することと地元愛着の強度との関連が読み
「地元愛着に関する要因」設問: 第1
主成分 第2
主成分 第3 主成分
[仮説②]地元への恩返し 0.763** -0.387 0.054
[仮説④]地元住民と繋がりたい 0.723** -0.360 0.105
[仮説⑦]地元を良くしたい 0.686** -0.510 -0.110
[仮説⑧]町づくりや産業振興に貢献 0.641** -0.520 -0.183
[仮説③]地元の過ごしやすさ 0.608* 0.564* -0.204
[仮説⑤]治安の良さ 0.545* 0.534* -0.545
[仮説①]もともと地元が好き 0.690** 0.428* 0.379+
[仮説⑥]地元への誇り 0.682** 0.440* 0.338+
固有値 3.61 1.80 0.66
第 4 表 主成分分析による3主成分(回転後)
(注)1)因子抽出法:主成分分析
2)因子負荷量:0.60以上に**,0.40―0.59に*,0.35―0.39に+と添字した.
3)サンプル数は2,621.
地元愛着度 地元就業行動 モデル2 モデル3 モデル1
モデル4
マッチング・モチベーションの強化 効果?
影響 地元愛着に関する変数
地元同一性 地元依存性
仮説③・⑤ 仮説②・④・⑦・⑧
仮説①・⑥ 地元定着性
第 2 図 仮説における変数間の関係図
(注)Kusuma(2008; 2009)に基づき筆者作成.
取れる.また,モデル2の被説明変数は本調査の「地元で働こうと思った理 由8)」において,第1理由・第2理由のいずれかで「地元で働きたい」を選 択した場合を「1」,それ以外を「0」とした二値変数である.地元定着性と家 督ありダミーが有意な正を示しており,地元の住みやすさに加え,家庭の事 情などの家族要因が地元就職を比較的強く誘引していることが確認できる.
ここでの2本のモデル分析より,漠然とした中で無条件に肯定する価値観 が反映されやすい地元愛着に対し,地元就職希望は地元に身を置くために居 場所を定めるという意図が明確にあり,目的や責任の有無が結果の相違をも たらすことが推察された.
つぎに,第 6 表および第 7 表は地元就業者の地元愛着やマッチング強化が 地元貢献にどの程度寄与しているかを調べるために,被説明変数に「働きが いダミー」を用いてプロビット推定したものである(モデル3・4).説明変数 には男性ダミー,親との同居ダミー,就業形態ダミー,勤続年数をコントロー ル変数に用いている.まず,第6表より,初職者の働きがいに比較的大きな 影響を及ぼしているのは家督ダミーと勤続年数である.家督のある者ほど勤
8) 「1.堅実で安定している」「2.地域のために仕事ができる」「3.自分の性格や能力に合っている」
「4.仕事内容に興味がある」「5.自分の専攻が生かせる」「6.昇進などに将来性がある」「7.プラ イベートの時間に余裕がある」「8.給与などの勤務条件が良い」「9.地元で働きたい」「10.その他」
の10件法である.
被説明変数
第1主成分 第2主成分 第3主成分 家督あり 転職あり 地元依存性 地元定着性 地元同一性 ダミー ダミー モデル1 -0.023*** -0.028** 0.028** 0.009 -0.055**
(地元愛着) 0.009 0.022 0.023 0.949 0.032
モデル2 0.009 0.073*** -0.044*** 0.274*** -0.049***
(地元就職希望) 0.065 0.000 0.000 0.000 0.000 第 5 表 地元愛着と地元就職希望の発生要因
(注) 上段は推定値,下段はp値.***は1%有意水準,**は5%有意水準を表す.他の説明変 数に性別ダミー,親同居ダミー,勤務地ダミーを用いた.モデル1は順序プロビット推定
(AdjR2=0.337),モデル2はブロビット推定(AdjR2=0.392).
説明変数 〈初職者〉 〈転職経験者〉
推定係数 p値 推定係数 p値 男性ダミー[女性] -0.024*** 0.000 -0.027 0.079 親との同居ダミー[なし] -0.023*** 0.000 0.054** 0.010 家督ダミー[なし] 0.141*** 0.000 0.007 0.664 就業形態ダミー[正規雇用以外]-0.078*** 0.000 -0.312*** 0.002 勤続年数(年) 0.023*** 0.000 -0.062** 0.012
【第1主成分】地元依存性 0.005 0.411 0.041** 0.019
【第2主成分】地元定着性 0.023*** 0.000 0.028 0.065
【第3主成分】地元同一性 0.035*** 0.000 -0.048** 0.007
〈出身地〉
県庁所在地ダミー -0.038*** 0.000 0.012 0.501 一般市ダミー 0.027*** 0.000 -0.018 0.213
町ダミー -0.058*** 0.000 -0.260*** 0.006
村ダミー 0.139** 0.000 0.047** 0.021
〈最終学歴〉
高校卒ダミー -0.156*** 0.000 -0.219** 0.010 短大卒ダミー -0.118*** 0.000 -0.180 0.052 大学卒ダミー -0.050*** 0.000 -0.244** 0.007 大学院卒ダミー -0.010 0.205 -0.015 0.242
〈勤務地〉
地元就職ダミー -0.174*** 0.000 -0.255** 0.005 出身地Uターン就職ダミー -0.196*** 0.000 -0.097*** 0.001 他出型就職ダミー -0.035*** 0.000 -0.035 0.087 Jターン就職ダミー -0.046*** 0.000 -0.049** 0.004 Iターン就職ダミー 0.018** 0.010 0.003 0.780
定数項 0.309*** 0.000 0.639*** 0.000
Log likelihood -1007.71 -291.321
Scaled R-squared 0.345 0.358
サンプルサイズ 1,982 618
第 6 表 地元就業者の働きがいに対する効果(モデル3)
(注)1)[ ]はレファレンス・カテゴリー.
2)***は1%水準,**は5%水準,*は10%水準で統計的に有意であることを表す.
(出所)第1表と同じ.
説明変数 <初職者> <転職経験者>
推定係数 p値 推定係数 p値 男性ダミー[女性] -0.015 0.087 -0.019 0.233 親との同居ダミー[なし] -0.015** 0.028 0.133 0.579 家督ダミー[なし] 0.126*** 0.000 0.374*** 0.001 就業形態ダミー[正規雇用以外] -0.001 0.000 0.051** 0.012 勤続年数(年) 0.020 0.055 -0.344*** 0.001
【第1主成分】地元依存性 0.011 0.106 0.043*** 0.003
【第2主成分】地元定着性 0.020*** 0.005 0.026 0.088
【第3主成分】地元同一性 0.051*** 0.000 0.133** 0.015 マッチング強化変数[なし] 0.019*** 0.008 0.001 0.969
〈出身地〉
県庁所在地ダミー -0.055*** 0.000 -0.261 0.098 一般市ダミー -0.012 0.193 0.170*** 0.009 町ダミー -0.001 0.831 -0.025 0.167
村ダミー -0.050** 0.000 -0.151* 0.048
〈最終学歴〉
高校卒ダミー 0.271*** 0.000 0.047 0.384 短大卒ダミー -0.207*** 0.000 -0.112 0.199 大学卒ダミー -0.097*** 0.000 -0.104 0.086 大学院卒ダミー -0.021*** 0.006 -0.200*** 0.009
〈勤務地〉
地元就職ダミー -0.084*** 0.000 0.005 0.901 出身地Uターン就職ダミー -0.165*** 0.000 -0.344*** 0.001 他出型就職ダミー -0.293*** 0.000 -0.092*** 0.000 Jターン就職ダミー 0.009 0.437 -0.017** 0.111 Iターン就職ダミー -0.061*** 0.000 -0.509*** 0.000
定数項 0.348*** 0.000 0.022 0.909
Log likelihood -932.872 -264.346
Scaled R-squared 0.373 0.372
サンプルサイズ 1,982 618
第 7 表 地元就業者の働きがいに対する効果(モデル4)
(注)1)[ ]はレファレンス・カテゴリー.
2)***は1%水準,**は5%水準,*は10%水準で統計的に有意であることを表す.
(出所) 第1表と同じ.
続年数が長くなるにつれて,働きがいや地域貢献意欲が高まることが示され ている.また,親との同居ダミーは初職者で負効果であるのに対して,転職 経験者では逆の効果となっており,都市部への移動の抑制が働きがいを低め るという前者の側面と家庭の事情により転職を余儀なくされる後者の状況の 両面が映し出された.いずれの場合からも,地元就職の実現によるゆとりあ る職業生活の享受が働きがいに直結するような単純な構図ではなく,地元志 向に内在する諸要因が多様であることが推察できた.実際,生活のゆとりは 就業形態と無関係ではあるまい.就業形態ダミーは共に有意な負であり,不 安定な非正規雇用であっても諸般の事情により他地域で働き口を見つけるよ りも地元での就職を優先する一定層の存在を反映している.
さて,本稿で大きな鍵であった地元愛着要因については,初職者モデルで 地元定着性や地元同一性の影響が強くなる一方,転職経験者モデルでは町づ くりや産業振興を通じた地元への恩返しや地元民との繋がりなどの地元依存 性の効果が統計的に有意であると示された.こうした傾向は,マッチング強 化変数を導入したモデル4でも同様に見られた.すなわち,本調査の「地元 就職時点における意識(逼迫度)9)」という質問項目における「採用試験に受 かれば地元に戻るか(残るか)を考える」の回答データをマッチング強化の 代理変数に用いた結果,初職者モデルのみで有意な正効果が認められた(第 7表).とりわけ,初職者モデルでは地元定着性や地元同一性が働きがいに寄 与する一方で,転職経験者モデルでは地元同一性の影響が強まるばかりでな く,より具体的な関わり方である地元依存性が働きがい対して上昇効果を示 した.すなわち,異業種での豊富な経験を持つ者ほど具体的な形で地域還元 の意欲を高める傾向がうかがわれた.たしかに初職者モデルのマッチング強 化変数は統計的に有意に検出されており,進路選択時に何らかの影響をもた
9) 「5.地元企業以外の選択肢なし」「4.何が何でも地元企業に就職する」「3.いずれ地元に戻れれ
ばよい」「2.地元企業の採用試験に受かれば地元に戻る」「1.地元企業の採用試験に受かれば地 元に戻るかを考える」の5件法である.
らすことは疑い得ない.しかし,マッチング強化変数の追加によって自由度 調整済み決定係数は0.345から0.373に上昇しているだけで,それが支配的な 要因であるとは考えられない.少なくとも,太田(2010)が指摘する「意識面 での地元志向の影響はそれほど大きくない」状況とは合致しないものの,い ずれのモデルにおいても地元同一性が地元就業行動の起点になっている点で はBricker and Kerstetter (2000)と共通する.
また,第6表と第7表の両モデルを属性毎(初職者・転職経験者)に横断的に 見た場合,マッチング強化変数の投入による働きがいに対する影響の変化は 転職経験者モデルにおいて顕著であり,このことは転職時に次の内定進路先 をどのくらい吟味したかの方が新規学卒時の内定進路先の熟慮よりも働きが いに与える影響度が大きいことを意味している.さらに,進路先の十分な検 討は家督がある高校卒の初職者ほど働きがいに効果をもたらすことも示され ている(モデル4).この点は第2章の基本モデル分析の結果と整合的であった.
本章における「地元愛着は初職者の地元就業行動を駆り立てる鍵要因であ るものの,就業後の働きがいや地域貢献意欲を直接喚起するほどの大きな要 因ではない」という実証結果が示す含意は,地元愛着も自己のキャリア形成 と共に育み築きあげるものであるということである.
5 結 語
以上,地元回帰を志向する若年者が少なくない昨今,地方における若年者 の就業行動や移行経路に関する理解の深化が求められることから,本稿では 20歳代~60歳代前半(平均38.5歳)の町役場職員・消防官・JA職員などの地
元就業者(n=2,621)を対象に限定した検討を行った.労働政策研究・研修機
構(2009)は「安定的な移行には初職や地域が重要な要因になる」とするが,
それらがいかなる要因やプロセスによって規定されるのかが十分に検討され ていなかった.それ故,本稿では地元愛着という意識面を視座として地元就
業行動について階層的なアプローチを試みた.具体的には,地元就業者の地 元愛着の発生構造と地元就業行動に対するその影響について,Kusuma (2008;
2009)の地域愛着仮説モデルに基づいた分析を行った.その結果,以下の4つ
の知見が得られた.
① 地元就業者の持つ地元愛着は,地元依存性,地元定着性,地元同一性 の3つの成分因子から構成されており,とりわけ,「もともと地元が好 き」「地元への誇り」などの地元同一性が発生要因として強く寄与して いること(モデル1).
② 地元就職希望という就労面の意識に対しては,「地元の過ごしやすさ」
「治安の良さ」などの地元定着性,および,家督などの家庭要因の影響 が強いこと(モデル2).
③ また,ブロビット・モデルを用いた地元愛着要因の働きがい・地域貢 献に対する影響については,総じて正の効果を示しており,初職者モ デルでは地元定着性と地元同一性の正効果,転職者モデルでは地元依 存性と地元同一性で有意な正効果が認められた(モデル3).前者からは 地元就業時における地元への愛着の強さが地元に留まらせる効用をも たらし,その効果は高卒者ほど顕著であることが明らかとなった.後 者からは正規雇用者ほど転職時に自らの知識や能力を地元に還元した いという意識が働きやすいことが確認できた.
④ さらに,本稿における理論モデル分析で鍵となったマッチング強化の 影響については,初職者モデルのみで有意な正であった.すなわち,
地元企業に新規学卒採用される際の十分な思慮が,地元愛着が基盤に なりながらも,その将来における進路での「働きがい」や「就業満足度」
の向上と密接に繋がっているといえる(モデル4).
上記の結果は,Uターン者・Jターン者を含む多くの地元就業者に潜在する 地元に対する愛着が地域活性化への一つの起点になる可能性を示唆するもの であった.また,学校卒業時や転職時の進路選択場面で十分な思慮をもって 地元就業を決めるか否かが,将来の仕事上の働きがいに対して有意差をもた らす可能性が認められた.しかし,実際問題として,昨今のような就職困難 時には,地元就職希望の規定要因分析(第5表)における地元定着性の効果で も明らかだったように,地元に戻る(残る)手段が目的化してしまう事態も考 えられよう.限られた地域労働市場の中でやりたい仕事を見出せず,仕事に 対する明確なイメージが持てない層ほど率先して地元志向を表明するという 平尾・重松(2006)の指摘を踏まえると,「とにかく地元回帰」「就職だけは成 功させたい」というような地元就業を漠然した人生目標(ゴール)と捉える場 合には本来の意味における地域貢献意欲を低迷させてしまいかねない.この ような,実態解明も重要な側面であると考えるが,地元愛着に関する負の側 面の詳細は言及できなかった.また,Uターンの増大による地域労働市場の 失業率上昇の問題も議論の余地が残されている.
地元愛着を抱くに至った背景要因の分析を通じて,地元志向と密接に繋が る地元愛着が働きがいや就業満足と関係していたことを示した本稿であった が,こうした複眼的視野の下,さらに将来のキャリア形成という多面的かつ 縦断的な影響の検討を深めなければならないことを言及した.
最後に,今後の発展的な課題として,地元愛着などの個人的要因を地域貢 献という外的な環境要因も含めた形でいかに説明するかが挙げられる.本稿 では,地域貢献指標の代理変数として,「働きがいダミー」を使用したが,よ り精密な地域貢献指標の開発が求められよう.この点は個人のキャリア形成 面にも関わる大きな問題であるため一筋縄ではいかない.現段階では,他の 類似の指標を用いて複数のサンプル属性を対象とした実証を繰り返すことに 加え,研究方法の精錬についても考究したい.
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(なかしま つよし・千葉経済大学経済学部准教授)
The Doshisha University Economic Review, Vol. 65 No. 4 Abstract
Tsuyoshi NAKASHIMA, Configurationality of Attachment to Hometown and Em- ployment Structure
In this paper, I conduct a regression analysis using the data of 2,621 locally oriented workers employed in their hometown in order to clarify the effects of locally-oriented workers’ employment behavior. From the analysis of principal components of workers’ inclination toward obtaining a job in their hometown, I find that their attachment to their hometown consists of dependence on, settlement in, and identity with their hometown. In addition, the results of the analysis indicate that act of seeking employment in workers’ own hometowns is closely tied to their job satisfaction.