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(1)

【同志社大学労働法研究会】退職者の在職中におけ る石綿曝露に関する団交応諾義務の存否 : 兵庫県

・兵庫県労委(住友ゴム工業)事件

著者 山本 陽大

雑誌名 同志社法學

巻 61

号 7

ページ 289‑314

発行年 2010‑03‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012132

(2)

退職者の在職中における石綿曝露に関する団交応諾義務の存否二八九同志社法学 六一巻七号

  (二四〇五)

【事実の概要】

1︶本件は︑原告である

X労働組合︵以下︑﹁

X労組﹂︶が参加人である

Tに対し︑団体交渉を求めたが︑

庫済委﹂︶に不当労働行為の救申県立てを行ったところ︑兵労庫とてしたことを理由兵し︑拒処分行政庁︵以下︑﹁否 Tをれこが

県労委がかかる救済申立てを却下する旨の決定をしたため︑

X訴でのもたし起提をえて労め求をし消取のそが組あ

る︒︵

2︶ X織オン及び個人で組すユる労働組合であるニ域労三組は︑平成一〇年月地二八日に結成された︒

3︶ A︑ B︑ Cはいずれも1

Tの元従業員であり︑

T造たいてし事従に業製のヤイタていおに場工︒

︑まにとあたし務勤間年五四約ので月九年二成平〜月 C四年四二和昭は1

Aであたし務勤間年九三約のまは月二年九成平〜年三三和昭と

に︑

B務の約四〇年間勤しまたあとに︑それぞで日は月昭和三四年一二〜〇平成一二年四月三れ

T︒をたま︑たし職退 労兵庫県・兵庫県ム委︵住友ゴ工業︶事

団 石 退 職 者 の 在 職 中 に お け る 綿 交 曝 露 に 関 す 否 存 の 務 義 諾 応 る

◆同志社大学労働法研究会◆

平成二〇年一二月一〇日神戸地裁判決平成一九年︵行ウ︶第九七号︑不当労働行為救済命令取消請求認容︹控訴︺労働判例九七三号五頁︑︽労委命令︾兵庫県労委=平成一九年七月五日命令︑労働判例未掲載︑別冊中央労働時報一三六六号四二七頁

山 本 陽 大

(3)

退職者の在職中における石綿曝露に関する団交応諾義務の存否二九〇同志社法学 六一巻七号

Cは2

Cの妻である︒1

4︶ A及び

Bは Tにおいて︑

A和でまろこ年八四昭は〜月一年三三和昭︑

︑業のポケット貼り作に部従事していた︒また品ヤタでイ B月昭和三四年一二は〜和四九年六月ま昭 A平でまろこ月二年九成るはす職退らか年九四和昭︑

Bは 昭和四九年六月〜平成七年四月一日までタイヤ加硫機を用いてのタイヤ加硫作業

等に従事していた︒加えて︑ 1)

しにヤの原型である生カバーイタンサイドペイントを塗布イの成前九年から退職する平九和年二月ころまで︑加硫四 A昭は

乾燥させて︑加硫班に供給する作業にも従事していた︒︵

5︶ A及び Bト断熱カバーとポケッ貼フり機のモーターのブのイはの︑ポケット貼り作業際ナ使用していたホットレ

ーキパッドに石綿が使用されていたほか︑タルク︵貼り合わせたポケットの内部が癒着しないように使用される白い粉︶や︑インサイドペイントにも石綿が混入しているものと考えられ︑職場で石綿に曝されたと主張している︒

6︶ 理綿石︵帳手 B月し三五年三月であるとて歴︑﹁健康管六年〇二成平が事四保日︑石綿作業︵石綿湿従材︑タルクの取はい︶扱

︶﹂の交付を受けている︒ 2

7︶ Cは1

︒胸たし亡死りよに種皮中性悪膜 T貼ケ年一月二六日︑トッポ一︑型成ヤイタ︑ていお二成り従作業︑ビード成型に事平していにが︑退職後のた

Cは2 C署労働基準監督長戸は︑平成一八東神年労の死亡につき災︑申請したところ1

六月二三日付けで︑特別遺族年金の支給決定をした︒︵

8中石綿肺︑肺ガン︑悪性皮は腫等がある︒なお︑石︑て︶すところで︑石綿を吸引るしことにより生じる疾患と綿

肺とは︑大量の石綿粉じんを吸入することにより︑肺内に沈着した石綿に対する肺の繊維増殖性の変化であり︑肺ガンや中皮腫などの致死的疾患を合併しやすい︒このような︑石綿関連疾患は︑いずれもその曝露開始時期から発症ま

で非常に長い潜伏期間がある︒例えば︑石綿肺の場合にはおおむね一〇年から三〇年︑肺ガンの場合にはおおむね二

  (二四〇六)

(4)

退職者の在職中における石綿曝露に関する団交応諾義務の存否二九一同志社法学 六一巻七号 〇年から四〇年︑中皮腫に至ってはおおむね三〇年から五〇年とされている︒︵

9手﹂を作成したところ︑引手きにおける﹁石綿に関引の︶八厚生労働省は︑平成一年め︑﹁石綿ばく露歴把握のたす

る作業﹂の項目の中に︑ゴム・タイヤの製造にかかわる作業及びタルク等石綿含有物を使用する作業が含まれている︒この手引では︑タルクには不純物として石綿が混入している場合があるとされている︒

10︶ A︑ B及び Cは平成一八年一〇月六日に2

Xムたし成結を﹂︶会分︑﹁下以︵会分ゴ労友住ンオニユ庫兵てし入加に組︒ X労組は同月一二日付けで︑

Tに対し︑

A︑ B及び Cるでま日九一月同︑にもととす知通をとこたし成結を会分がに2

X本件団交要求﹂︶︒件︑﹁団交要求において本下労に組との団体交渉応以じるよう求めた︵︑

︒はるあで点三の下以︑項事た X労し求要を渉交が組

︑て手理管康健︑しが対に者職退た帳交てらにもととるせ知付をとこるれさいい露②で場職るあが性能可の働曝綿石 Tお実ける石綿使用に態を明らかにするとこ

退職労働者全員の健康診断を行うこと︒③定年退職後に労災認定された者への企業補償制度を設けること︒

11︶これに対し︑

Tは X労組には

Tてとを理由とし︑い本件団交要求にこなとる雇用関係にあ労い働者が含まれて応

じなかった︒なお

Tは平成一九年三月一四日から

︒者たれらめ認と災に被の害災働労る者対因償たし行施を度制補す別特害災綿石るす起綿石︑らか日一に T退対に者職負てに担る用費すの石綿健康断を実施し︑同年四月診

Cは︑この2

特別補償制度に基づく特別補償の給付申請を行い︑平成一九年一二月一七日︑同制度に基づいて︑一五〇〇万円の給付金を受領した︒

12︶ Xを労働行為救済申立てし不た︵以下︑﹁本件救済申当︑労月組は︑平成一八年一一一し三日︑兵庫県労委に対立

  (二四〇七)

(5)

退職者の在職中における石綿曝露に関する団交応諾義務の存否二九二同志社法学 六一巻七号

事件﹂︶︒本件救済申立事件において︑

Xの︑は旨要の容内済労救るす求請が組①

Tは︑ X労組が平成一八年一〇月一

二日付けで申し入れた団体交渉に誠意をもって応じること︑②陳謝文の提示︑の二点である︒︵

13基働委員会規則三三条にづ︑き︑本件申立てを却下労で︶対兵庫県労委は︑これにしけ︑平成一九年七月五日付す

るとの決定をした︵以下︑﹁本件決定﹂︶︒

【争点】・

A︑ B及び Cがかるす当該に﹂者働労るす用雇者用使﹁の号二条七法合組働労が︒2

【兵庫県労委決定】  申立て却下

未解雇解が者雇解被︑し雇をの者働労が者用使︑いいそも者後や金職退︑が者働労の職の退︑や合場るいてっ争をを働 1いるす用雇が者用使﹃うに働号二第条七第法合組働労労労者るあに係関用雇に現と用﹄使該当てしと則原︑はと者

払賃金等労働関係の清算をめぐって争っているような特別の事情が存する場合を除き︑かつて使用者に雇用されていたにすぎない者は︑これに含まれないものと解するのが相当である︒

2これを本件についてみるに︑

︒係てっぐめを算清の関記働労︑らかるあでの前のったいなれらめ認はとっよあが情事の別特なうたかは題問るあのな A者働労︑りあで定職退年約の社会は契らのつい争に特︑ていに終等件条職退及了び うよ改持維の件条働労︑りにをどなとこるす結締を約協善図労確いを渉交のめたるす立をり係関使労な常正てっも︑働 3他体と合組働労︑はと渉交団用るめ定に法合組働労︑方使者て使いつにルールの上係関労とや件条働労の者働労︑が︑

ものと解される︒

  (二四〇八)

(6)

退職者の在職中における石綿曝露に関する団交応諾義務の存否二九三同志社法学 六一巻七号   これを本件についてみるに︑組合が申し入れた団体交渉の議題は︑石綿による健康被害について︑会社が退職者健康診断を実施するなど︑退職者及びその遺族にしかるべき対応をすることを求めるものであって︑会社における円滑な労

使関係を将来に向けて確立するためのものではなく︑会社に団体交渉応諾義務を認めることによって正常な労使関係の回復につながるというものでもない︒

  したがって︑退職者及びその遺族が︑会社に対し︑石綿による健康被害について︑会社の安全配慮義務違反等を理由として︑何らかの請求を行い得るとしても︑それは労働組合法に定める団体交渉をもって解決すべき問題であるとはい

えない︒また︑石綿による健康被害は︑潜伏期間が長く︑発症が退職後になることが多いなどといった特殊性があるとはいえ︑このことのみを根拠として︑団体交渉を要求する権利があるとの組合の主張を採用することはできない︒

4がこれを却下するの相は当であると判断する︑てよにって︑組合の会社対いする本件申立てにつ︒﹂

【判旨】  請求認容﹁︵

1︶⁝⁝

A︑ B及び C当るす討検下以きつにか否かるす該︒雇が﹃使用者が用にする労働者﹄2

2正労働行為︶を排除︑是し不て正常な労使関係を回当︵︶の労組法七条は︑労働者団為結権を侵害する一定の行復

することを目的とする規定であり︑この規定は︑正常化すべき労使関係︑すなわち使用者との間の労働契約関係の存在を前提としている︒したがって︑同条二号にいう﹃使用者が雇用する労働者﹄とは︑基本的に︑使用者との間に現に労

働契約関係が存在する労働者をいうと解される︒

  もっとも︑労働契約関係が存在した間に発生した事実を原因とする紛争︵最も典型的なものは︑退職労働者の退職金

債権の有無・金額に関する紛争である︒︶に関する限り︑当該紛争が顕在化した時点で当該労働者が既に退職していた

  (二四〇九)

(7)

退職者の在職中における石綿曝露に関する団交応諾義務の存否二九四同志社法学 六一巻七号

としても︑未精算の労働契約関係が存在すると理解し︑当該労働者も﹃使用者が雇用する労働者﹄であると解するのが

相当である︒

  なぜなら︑労使紛争の原因となる事実が発生したということは︑たとえ紛争が発生しておらずとも︑当該事実発生時

点において︑客観的には︑団体交渉その他の手段により正常化すべき労使関係のほころびが発生していたのである︒もとより︑このような労使関係のほころびは︑使用者がその判断によって解決することのできるものである︒

  そうすると︑このような労使関係のほころびが︑関係当事者の退職前に紛争として顕在化すれば︑当該紛争に関し使用者に団体交渉応諾義務が生じるが︑関係労働者の退職と同時に使用者の団体交渉応諾義務も消滅すると理解する考え

方は︑形式論理により︑労組法七条の適用範囲を不当に狭めることになって相当ではないのである︒︵

3︶これを本件についてみると︑

A及び Bにりよにとこたし引吸を綿石りよ務は係︑労働契約関が業存在した間に健

康被害が発生している可能性があることを主張し︑

ころ症るよに綿石︑こがとるいてめ求を償状長のしるあでのもるう生期発に後たし過経間補そじ害に合場るいては生が Tを態実使用対の綿石︑しら明にかにするととに︑石綿による被も

とや

A及び Bと同様の業務に従事した

C亡とるすらかとこるいてし死てし患罹に腫皮中性悪が︑1

A及び もとである︒ Bの心配はもっ   したがって︑本件団交要求は︑

A及び るがいてし入加 Bしも在職中に発生名両︑てっあでのたたる事実に起因す紛れ争に関のてさし X﹄るれさ解とるあで者表代の者労働労るす用雇が者用使﹃は組︒   なお︑

Cが1

Xは仮︑らかいな実労事たし入加に組に

C働てしとるす当該に﹄者労るす用雇が者用使﹃がも1

︑底てっがたし︒いなれさ解到はとるあで者表代の X労そが組 Cの遺族である1

Cが2 X労組に加入しているとしても︑

Tは︑ Cの代2

表者としての

Xれいなわ負を務義るじ応にこ労︑もてめ求を渉交体団が組︒

  (二四一〇)

(8)

退職者の在職中における石綿曝露に関する団交応諾義務の存否二九五同志社法学 六一巻七号 ︵ 4︶以上に説示のとおり︑

X労組は︑

A及び B︑名両︑は求要交団件本りをあで合組働労るす表代と

︑争らかるあでのもるす関に紛る巡を務義慮配 Tと全安の間の Tは︑本件団交要求について︑

X行う負を務義うを労渉交体団と組︒﹂

【研究】  判旨反対、結論反対 1.本判決の意義と事案の特徴   石綿問題とは︑石綿︵asbestos︶を原因とするじん肺︑肺ガン︑悪性中皮腫等によって起こる人体への健康被害問題

のことを指す︒これらの症状は石綿を大量に吸い込むことにより発症する点に特徴があるため︑石綿問題は往々にして石綿を使用する企業において働いていた労働者の労災の問題として現れることとなる︒しかし他方で︑発症までの潜伏

期間は非常に長期に亘ることもまた︑かかる石綿問題の特徴であり︑被曝労働者は発症の時点において既に当該企業を退職していることが多い

3

  このような労働者をどのように救済するかという点につき︑我が国においては従来︑通常の民事訴訟において安全配慮義務違反による不法行為︵民法七〇九条︶あるいは債務不履行責任︵民法四一五条︶を企業に対して追及するという 手法が採られてきた

る基病の労災認定準︒を改正するとと疾よに︑また最近では厚に生労働省が石綿も 4)

︑石綿による健 5)

康被害の迅速な救済を図ることを目的として﹁石綿による健康被害の救済に関する法律﹂︵平成一八年二月一〇日法律第四号︶が成立し︑行政及び立法による救済の途も開かれるに至っている︒

  しかしながら︑本件において︑

A︑ B及び C軸ちわなす︒るすに異をはとられこは段手たっ採が︑2

るュる地域合同労組︵コミニわティ・ユニオン︶であゆい済に別的救︑手段よなるのではなく個 Aうよの記上はら X労組に加入すること

により︑

Tはる︒このような事案︑で後述するように本件以あのに対対し︑石綿被害への応たにつき団体交渉を求め前

  (二四一一)

(9)

退職者の在職中における石綿曝露に関する団交応諾義務の存否二九六同志社法学 六一巻七号

には労委命令のレベルでは一件のみ存在していたところ︑裁判例として判断されたのは本件が初めてのものである︒

  もっとも︑前述の通り

Aらは既に

Tを退職しているのであるから︑

によ合場なう T務し団交応諾義のこ︑際のにるの討検を否存す A︑に当たるかどうかは当者然のことながら︑一﹂働ら号がなお労組法七条二の労﹁使用者が雇用するつ

の解釈問題として現れる︒この点につき︑兵庫県労委はこれを否定したのに対して︑本判決は一転これを肯定し︑兵庫県労委の本件決定を取り消したものであり︑重要な意義を有するものと解される︒また︑本判決は既に新聞等メディア

で報道されており︑社会的な影響面からも本判決を検討する意義は少なくないと思われるため︑評釈として紹介する次第である︒

2.「使用者が雇用する労働者」の意義

1)問題の所在   最高裁の立場によれば︑我が国における不当労働行為制度︵労組法七条︶は︑﹁正常な労使関係秩序の迅速な回復︑ 確保を図る

拒を類一の為行働労当不﹂ととこむ拒てくなが由理型し当使渉交体団な当不の者用︑てりよにれこ︒るす定規な正をと かは号二条七法組労もで﹂﹁︑てっあでのものめたな用使者こるすを渉交体団と表者代の者働労るす用雇が 6)

否は違法とされ︑労働組合は労働委員会による行政救済及び裁判所による司法救済を求めることが可能となる

7)

  そして︑本条の規範を二分した場合︑本条の後半部分である﹁団体交渉することを正当な理由がなくて拒むこと﹂の 意義については︑従来主に︑義務的団交事項

に点で︑本件において争となっているのは︑既 で方他︒るありやて誠実団交義務の問題とし論通じられてきたのは周知の 8)

Tを退職した

A用﹂者働労るす用雇が者使ら﹁ういに分部半前条本がに

該当するかであるところ︑この問題は

Tのサイドから見れば︑

Tが Aいていひ︑かるえとらるいてし用雇をは

Tはなお

  (二四一二)

(10)

退職者の在職中における石綿曝露に関する団交応諾義務の存否二九七同志社法学 六一巻七号

な使来従が題問の性﹂者用﹁とのてしと体主の為行働主し当にうよのこも点争るけお件て本︑めたたきてれらじ論労不 A問がとこるえ換い言に題う能いとかるえいと者用使の可ら︑号はていつに分部半前の二あ条七法組労︑ろしむ︒るで

視点からみたほうが検討の便宜上は適切であろう︒

  ところで︑不当労働行為の主体としての﹁使用者﹂性の問題として扱われてきたのは次のような内容である︒すなわ ち︑﹁使用者が雇用する労働者﹂との文言からすれば︑労働契約上の当事者として労働者を雇用する者︵狭義の使用者︶が﹁使用者﹂であることに争いはない

働方を求める相手が交︑法形式上は労渉体う団は︑本件のよに︒︑労働組合がで 9

契約関係にない場合にも︑なお当該相手方は団体交渉に応ずる義務を負うか︒これが従来︑﹁使用者概念の外部的拡張

使の延あるいは﹁外用者概念 10

︒てるあで題問たきれらじ論てしと﹂ 11

2)従来の議論状況   では︑労組法七条にいう使用者とは︑どのように把握されるべきであろうか︒この点につき︑例えば菅野和夫教授は一般論として︑﹁不当労働行為禁止規定における﹃使用者﹄とは︑労働契約関係ないしはそれに隣接するないし近似す る関係を基盤として成立する団体的労使関係上の一方当事者を意味する

﹂とする︒ 12

  これに対して︑西谷敏教授は﹁労組法七条でいう﹃使用者﹄とは︑﹃労働関係に対して︑不当労働行為法の適用を必要とするほどの実質的な支配力ないし影響力を及ぼしうる地位にある者﹄と解すべきであ﹂り︑﹁﹃不当労働行為法の適 用を必要とする﹄とは七条の各号に即して具体的に判断すべきである

﹂と説く︒ 13

  またその際︑西谷教授は︑上記にいう狭義の使用者以外の者の﹁使用者﹂性が問題となる場面を類型化しており︑①

使用者が他企業から派遣される労働者を利用する派遣利用型︑②労働関係が切断される場合の労働関係切断型︑③ある

  (二四一三)

(11)

退職者の在職中における石綿曝露に関する団交応諾義務の存否二九八同志社法学 六一巻七号

企業が他の企業を事実上支配する場合の支配従属型の三類型があるとする

働︑労︑にうよの件本ばれよに類分るかか︒ 14

者が退職後に在職中の石綿問題につき団交を申し入れている場合には︑②の労働関係切断型の問題と解されることとなろう︒

  西谷教授の見解によれば︑②労働関係切断型において典型的な例は解雇・退職であり︑これら自体が争われている以上︑労働者との関係ではなお﹁使用者﹂であって︑﹁解雇や退職条件その他の問題について団交を申し入れた場合︑使 用者はそれに応じなければならない

﹂︒ 15

  もちろん︑菅野教授の見解によっても︑﹁近い過去における労働契約関係の存在⁝⁝が不当労働行為の﹃使用者﹄性 を基礎づけることがあ﹂り︑﹁使用者は︑被解雇者の属する組合との解雇撤回や退職条件に関する団体交渉を原則として拒否できない

合労︑西谷教授は更に﹁働う者が自発退職した場が合いりら︑その限りにおて﹂両見解の射程は重なか 16

でも︑在職中の労働条件について争いが存在する場合﹂など︑﹁労使関係が実質的になお存在しているとみられる場合﹂には︑︵元︶使用者の団交応諾義務を認める点

︒がるあでうよるれらみ異差の解見両︑ていおに 17

3)考察   ところで︑不当労働行為における使用者性のなかでも︑従来主として論じられてきたのは西谷教授の分類でいうところの①の派遣利用型や③の支配従属型の問題であり︑一般論もこれらの類型を念頭に置いてきた節がある︒

  とりわけ︑朝日放送事件最高裁判決︵最三小判平七・二・二八民集四九巻二号五五九頁︶は︑請負企業の労働者を受け入れて番組制作業務に従事させていた放送会社の団交応諾義務が争われた事案において︑﹁労働組合法七条にいう﹃使

用者﹄の意義について検討するに︑一般に使用者とは労働契約上の雇用主をいうものであるが︑同条が団結権の侵害に

  (二四一四)

(12)

退職者の在職中における石綿曝露に関する団交応諾義務の存否二九九同志社法学 六一巻七号 当たる一定の行為を不当労働行為として排除︑是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることにかんがみると︑雇用主以外の事業主であっても︑雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ︑その労働者の基本

的な労働条件等について︑雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配︑決定することができる地位にある場合には︑その限りにおいて︑右事業主は同条の﹃使用者﹄に当たるものと解するのが相当である﹂として︑

派遣利用型を念頭に置いた一般論を展開しているのである

18

  従って︑上記①︑②︑③のなかで︑②の労働関係切断型については︑現在においてもなお検討の余地が少なくない領 域であるといってよい

の込用使︑はと﹂え訴みけか駆︒﹁たっあで題問の者ら可契く多︵合組働労に機を解れそが者働労たれさ雇否のえ訴﹂ に型型典︑もでかなの切断係関働労のそ︑に的問︒いみ込け駆﹁るゆわ︑題はのたきてれさと更 19

場合︑コミュニティ・ユニオン︶に加入し団体交渉を求めることをいうが︑解雇が争われているかぎり︑労働関係は確定的に切断されてはいないといえる点において

︒るるえいとるあでのもな異が質ややはと件本︑ 20

  それゆえ︑本件に関するもの

探をのとこるれ入し申求否要交団るす関に題問可に衛るが者評は例判裁はいあつ献文たれらじ論︑き生全働労の中職安 い働は了終の係関に労りよ定職退︑ばけ確るし間在に後たし過経期て長後職退︑がを除 21

した限りではほとんど見当たらず︑ただ︑西谷教授がその著書のなかで︑﹁退職した労働者が在職中の労働条件などに

ついて︑争っている場合など︑労使の関係が実質的になお継続しているとみられる場合には︑元使用者は団体交渉に応じなければならない

︒るたっあに況状ういといてっま止にるべ述と﹂ 22

  ただ︑この叙述もより厳密には︑二通りの理解の仕方が可能であるように思われる︒一つは︑労働者がまだ在職しているうちから労働組合と使用者が当該労働者の労働条件につき団体交渉を続けており︑これが労働者の退職後も継続し ている場合のみを想定したものとする理解である

東︑日︵件事消取令命済救会英育本ばえ例もで例判裁てし連関にれ︒こ 23

  (二四一五)

(13)

退職者の在職中における石綿曝露に関する団交応諾義務の存否三〇〇同志社法学 六一巻七号

京地判昭五三・六・三〇労民集二九巻三号四三二頁︶は︑臨時雇用労働者で組織される労働組合が雇用期間中の労働条

件につき使用者と団体交渉を行っていたところ︑期間の満了により︑組合員全員の雇用関係が終了したために︑使用者がそれ以降の団体交渉を拒否したという事案において︑﹁組合員の雇用契約存続中における団体交渉が使用者側の原因

により十分尽されないまま全員の雇用契約終了という事態を迎えたという特別な事情が認められるときは︑その後の段階においてもなお労使交渉により合意に達しさえすれば解決可能な事項に限り︑当該組合は交渉適格を有するものと解

するのが相当である﹂と判示した︒

  他方これに対し︑労働者が退職した後に労働組合に加入し︑そこで初めて当該労働者の在職中の労働条件問題につい

て︑︵元︶使用者に団体交渉を申し入れているというような場面を想定した叙述であると理解することも可能である︒

  そして︑少なくとも西谷教授自身は後者の場面でも︵元︶使用者は団交応諾義務を負うと理解しているものと考えら

れる︒なぜなら︑西谷教授は労委命令レベルではあるが︑本件と同様に︑労働者退職後の石綿問題に関する元使用者の団交応諾義務が争われ︑これを肯定したニチアス事件︵奈良県労委命令平二〇・七・二四労判九六四号九四頁︶につい

て︑脚注においてではあるが︑労働関係切断型の一例として紹介しているからである︒

  そこで次項では差し当たり︑前掲・ニチアス事件について検討することとする︒ 3.ニチアス事件について

1)事実の概要   被申立人会社は︑従業員一四九〇名をもって高機能樹脂製品事業︑耐火断熱材事業等を行っている︒他方︑申立人全

日本造船機械労働組合ニチアス・関連企業退職者分会︵以下︑﹁退職者分会﹂︶は︑会社及びその関連企業で勤務し︑退

  (二四一六)

(14)

退職者の在職中における石綿曝露に関する団交応諾義務の存否三〇一同志社法学 六一巻七号 職した労働者らで組織されている︒

  組合員のうち︑退職労働者ら六名は会社王寺工場で石綿の製造業務等に従事して退職してから会社に本件団交を申し

入れるまでに︑短い者で二五ないし二六年︑長い者は四九年以上経過しており︑いずれも胸膜プラークと診断され︑健康管理手帳︵石綿︶の交付を受けている︒

  平成一八年九月一七日に結成された退職者分会は︑同月二〇日︑会社に対して分会結成を通告し︑各工場と関連企業︑周辺地域住民のアスベスト被害の実態及び退職労働者の被害に対する健康対策を明らかにすることなどを求めて団交を

申し入れたが︑会社は退職後四〇年ないし五〇年経過していること︑健康不安には健康診断や健康相談を実施していることなどから︑団交による説明は差し控えたいと回答した︒

  また︑平成一九年三月五日︑退職者分会らは︑組合員のアスベスト被害補償について考え方を明らかにすることを求めて団交を申し入れたが︑会社は退職者分会による抗議行動等もあって団交に応じていない︒

2)命令要旨   ﹁正団体交渉をすることを当者な理由がなくて拒むことと表労﹃働組合法第七条二号は使代用者が雇用する労働者の﹄

を不当労働行為として禁止するところ︑ここにいう﹃雇用する労働者﹄とは︑原則として︑現に使用者との間に労働関係が存在する労働者をさす︒しかし︑解雇されもしくは退職した労働者も︑解雇・退職そのものをめぐって使用者と争

っている場合や︑在職中の労働関係上の問題がまだ解決していないとして使用者と争っている場合には︑なお﹃雇用する労働者﹄に該当する場合がありうるというべきである︒﹂

  ﹁職ついて争わないまま退し益︑退職後長期間経過しに利た中しかに︑労働者が在職の・労働関係にかかわる権利た

  (二四一七)

(15)

退職者の在職中における石綿曝露に関する団交応諾義務の存否三〇二同志社法学 六一巻七号

後にそれを争うことは︑一般的には信義則に反するというべきである︒そのことは団体交渉についても同様に認められ

るべきであり︑労働者が退職後長期間経過した後に︑労働組合を結成し︑もしくはそれに加入して︑その労働組合が︑労働者がこれまで争わなかった労働関係存続中の問題について団体交渉を申し入れた場合︑それを認めるべき特段の事

情がない限り︑当該労働者はもはや﹃雇用する労働者﹄とはいえず︑労働組合は﹃雇用する労働者の代表者﹄とはいえないと解される︒﹂

あわ長︑し職退にままいな争間ていつに題問のそに中期経在争が由理な当正にとこうを過題問のそてめ初に後たし職が   ﹁がわなす︑合場るす在存情労事の段特︑らがなしかちし者も働労︑にめたるいてっを関格性な殊特が争紛の上係働

り︑またその問題を労働組合の団体交渉を通じて解決しようとすることに合理的な根拠がある場合には︑労働者はなお﹃雇用する労働者﹄に該当することがありうるというべきである﹂

標腫後前年〇四はに合場の皮ど中︑が間期伏潜のでまな︑発︒指な要重の露くば綿石るきあが徴特に点い長てめわ症ら   ﹁︑てしとめじはを腫皮中ん人が肺⁝⁝︑は露くば綿︑石かを露くば︑がすこ起き引害生被な刻深るわかかもに命の

とされる胸膜プラークも︑ばく露開始から︑一五〜三〇年を経過し︑ようやく出現する︒このように潜伏期間が長いことは︑被害者がばく露の後直ちにその補償や対策を求めるのが困難であることを意味している︒﹂

てき因原が綿石はくしも︑とあたし患罹に患疾の因原でる綿とめ初で点時のそ︑にきた胸じ生が変病のクーラプ膜が石   ﹁事︑ばらなるす慮考を情な職殊特の害被綿石たしう在こに退後たし過経間期長後職がに者働労たし露くばに綿石中

ことの重大性を認識するに至り元の使用者にその救済を求めるのは無理からぬことといえ︑この場合には︑労働関係上の問題がなお未解決もしくは未精算ということができる︒﹂

  ﹁︵退職労働者ら︶は︑⁝⁝いずれも会社に在職し︑石綿ばく露の危険性のある職場で作業していた者である︒これら

  (二四一八)

(16)

退職者の在職中における石綿曝露に関する団交応諾義務の存否三〇三同志社法学 六一巻七号 の者は︑在職期間が比較的短期であった者も含めて︑﹃雇用する労働者﹄に該当するというべきである︒﹂

3)本命令の特徴と分析   まず︑事実関係における特徴としては︑退職労働者らにはいずれも︑胸膜プラーク

じ医生が見所的学な的体具ういと 24

ているという点︑及び彼らが退職から本件団交を申し入れるまでには二〇年以上が経過しているという点が挙げられよう︒

  次に︑本労委命令自体について見ると︑本判決と同様︑争点自体は退職労働者らがなお﹁雇用する労働者﹂であるかどうかという視点で構成されてはいるが︑労組法七条二号の原則的理解については不当労働行為の主体としての使用者

性に関する西谷教授の見解に親和的であるといえよう︒むろん︑解雇や退職につきそれ自体が団交の対象となっている場合には︑使用者がなお団交応諾義務を負うという点について︑学説上争いが無いのは前述した通りであるが︑それに

加えて︑労働者が退職後であってもなお在職中の労働関係上の問題について争い得るという判断部分が︑かかる親和性を示しているといえる︒

  ただ︑本労委命令は労働者が退職後であっても︑長期間の経過後に労働関係上の権利・利益について争う場合につい

ては︑信義則を用いて原則としてこれを否定しており︑上記・西谷教授の見解との抵触を生ずる余地があろう︒その点では︑本労委命令の射程のほうが狭いものとも解することが可能である︒

  しかし他方で︑本労委命令は﹁特段の事情﹂論を用いて︑労働者がなお﹁雇用する労働者﹂に該当することがありうるとする︒そこでは︑﹁特段の事情﹂の存否の判断につき︑紛争の特殊性から﹁労働者が在職中にその問題について争

わないままに退職し︑長期間経過した後にその問題を争うことに正当な理由﹂があり︑﹁その問題を団体交渉を通じて

  (二四一九)

(17)

退職者の在職中における石綿曝露に関する団交応諾義務の存否三〇四同志社法学 六一巻七号

解決することの合理的な根拠﹂があることが要件として定立されていた︒

  この﹁特段の事情﹂論がどこまで一般化するかについては未知数と言わざるをえないが︑具体的当てはめをみると︑潜伏期間の長さという石綿問題の特殊性が﹁正当な理由﹂の要件を基礎付けていることに疑いは無かろう︒しかしなが

ら︑﹁合理的根拠﹂要件についてはどうか︒潜伏期間の長さが︑同時にかかる﹁合理的根拠﹂要件をも満たしているものと読むことも可能であろうが︑仮にかかる石綿問題の特殊性が全て﹁正当な理由﹂要件に収斂されているとするなら

ば︑本労委命令は﹁合理的根拠﹂要件の具体的当てはめを欠いたものと言わざるを得ない︒従って︑評者としてはこの点を明確にすべきであったように思う︒

  またそれに加えて︑石綿問題の特殊性としての潜伏期間の長さのみが︑﹁特段の事情﹂の要件としての﹁正当な理由﹂ないしは︑﹁合理的根拠﹂を根拠付けるかと問われれば︑直ちにそうとも言えないようである︒なぜなら︑上記のとお

り退職労働者らには胸膜プラークという具体的な医学的所見がみられるのであり︑かかる事実関係が具体的当てはめにおいて相当の影響を及ぼしているものと思われるからである︒

  そうすると︑本労委命令が示す規範は︑石綿問題のなかでも石綿による具体的な医学的所見が生じている場合︑換言すれば退職労働者らの要保護性が高い場合にのみ︑使用者の団交応諾義務を認めるものともいえ︑石綿被害に関する団

交問題の全てをカバーするものかどうかについては︑一点疑う余地があろう︒

  ところで︑このような退職労働者らの要保護性に関連して︑ニチアス事件においては次のような背景があったものと

推察される︒すなわち︑前述の通り︑ニチアス事件においては退職労働者らが退職時点から本件団交を申し入れるまでには二〇年以上が経過しているところ︑安全配慮義務違反による損害賠償請求権の消滅時効︵民法一六七条一項︶がい

つの時点から起算されるべきかという問題に関して︑裁判例においては本来債務たる安全配慮義務の履行を請求しえな

  (二四二〇)

(18)

退職者の在職中における石綿曝露に関する団交応諾義務の存否三〇五同志社法学 六一巻七号 くなったとき︑すなわち﹁退職の日﹂を起算点とする立場が存在す

25

26

  そうすると︑ニチアス事件における退職労働者らについても時効が﹁退職時﹂から起算されることで損害賠償請求権

が時効消滅しているものと判断される恐れがあり︑それゆえ︑退職労働者らは労災民訴での救済の道を選択することを躊躇ったものとも考えられよう︒

  事実︑本労委命令も﹁民事損害賠償による解決は︑時効や証明責任の障害のために︑必ずしも容易であるとはいえない反面︑団体交渉は︑民事訴訟手続では不可能な弾力的解決を可能にするなどの利点をもっている﹂とも述べている︒

かかる叙述からしても本労委命令は退職労働者らの要保護性が高く︑かつその他の救済手段を採ることが困難な場合を救済する規範と捉えることが可能であり︑そうであるとすればやはり︑本労委命令の射程はそれほど広くはないものと

思われるのである

27

4.本判決の検討

1)ニチアス事件との比較・本判決の射程   以上を前提に︑本判決につき検討する︒   まず︑本判決の持つ射程は︑ニチアス事件労委命令と比較してどうか︒前述の通り︑ニチアス事件労委命令は労働者が退職後長期間経過後に労働関係上の権利・利益について争う場合の︵元︶使用者の団交応諾義務については︑信義則

により原則としてこれを遮断する︒また︑例外的規範としての﹁特段の事情﹂論も石綿問題に関する限りは具体的な医学的所見がみられて初めて︑機能すると理解しうるものであった︒

  これに対して︑本判決によれば﹁労働契約関係中に発生した事実を原因とする紛争﹂であれば︑当該労働者は退職後

  (二四二一)

(19)

退職者の在職中における石綿曝露に関する団交応諾義務の存否三〇六同志社法学 六一巻七号

であっても﹁未精算の労働契約関係﹂が存在し︑労組法七条二号の﹁使用者が雇用する労働者﹂であるとされる︒従っ

て︑石綿問題についていえば︑在職中の石綿曝露により︑何らかの医学的所見が現われていることは本判決によれば要求されず︑石綿曝露についての紛争が顕在化したことのみで足りる︒

  それゆえ︑具体的当てはめにおいても︑

A及び はあいる B吸性石綿を︑とこるいてし張主を能引可は害被康健るよにとこたしの C原中に発生した事実を因関とする紛争﹂であるか係約ど死が悪性中皮腫により亡契していることが︑﹁労働1

うかの判断内容となっており︑少なくとも退職労働者に何らかの医学的所見が現われていることは要しない

︒い労委命令よりも広も事のと言ってよかろう件ス︑判においてはア本決の射程はニチ ︒り限のそ 28

  但し︑本判決の射程が全ての面においてニチアス事件労委命令のそれよりも広いかと問われれば一概にそうと断言することもできないようである︒前述の通り︑ニチアス事件労委命令によれば信義則により遮断されない範囲内であれば︑

在職中に既に顕在化していた問題についても︑なお団交により争うことは可能である︒

  ところが︑本判決の規範によれば︑在職中に顕在化していなかった労使紛争の原因となる事実︑本判決の表現によれ

ば﹁ほころび﹂が︑退職後に紛争として顕在化したという場合にのみ︑︵元︶使用者の団交応諾義務が認められる︒換言すれば︑在職中に既に﹁ほころび﹂が紛争として顕在化していたにもかかわらず︑労働者が退職後にこれを団交によ

り争うことは︑本判決によれば許されないと解する余地がある︒それゆえに︑一部の場面では︑ニチアス事件労委命令よりも射程が狭くなるという現象が生じうることとなろう︒

2)私見からの評価   労働者の在職中の石綿曝露という問題は︑一般的には最近になってようやく認識され始めた︑極めて現代的な問題で

  (二四二二)

(20)

退職者の在職中における石綿曝露に関する団交応諾義務の存否三〇七同志社法学 六一巻七号 あり︑その潜伏期間の長さという特殊性から︑従来の法的スキームによる救済が困難となることは容易に理解しうるところである︒

  とりわけ︑本件の

のは損るよに行履不務債い賠るあ為行法不らか係害償のれこ︒るあが性能可るさ請定否が体自在存の権求関と件害要﹂ Aの医らみが見所的学なよ的体れだ未︑にう具らな効損︑﹁に前以題問の時い滅消︑はていつに合場

ような状況において︑

えなよに合組働労︑でかの団そてしそ︒うよえいる体動と考ういとるい用てし段交手済救の者働労を渉と行的理合はな A体つ待を症発な的か具のりら何に的来将がよらもを体自とこたし索模段︑手るうり採で階段現

方が出てくることも︑自然なことであるように思われる︒

  ところでこの点につき︑前述のような規範を用いて︑使用者の団交応諾義務を肯定した本判決に対しては︑団交を義

務付けることによる救済の実効性という観点からの批判がありえよう︒これは︑仮に本件で

結果︑ Tに団交応諾を義務付けた X結が労働協約に実こしたとしてもれ︑労め組が団交を求てきいる事項につ︑

Aらと Tとの労働関係は既に終了

しているのであるから︑当該協約に規範的効力︵労組法一六条︶は認められず︑それゆえに団交を法的に義務付けたとしても︑その実効性が無いのではないかという批判である︒

  もっともこれに対し︑評者はかかる批判は必ずしも当たらないと考えている︒まず︑規範的効力が

Aらに及ばなくて

も債務的効力はあるのであるから︑

Tあきつに容内の策対綿石るでは象対の交団るけおに件本︑

にに組法六条は労働組合の代表者﹁︑労働協約の締結その他の事項労はと成務を負ういいう構がるあり得よう︒ある義 Xす示提てし対に組労 関して交渉する権限﹂を保障する旨規定しており︑団体交渉を労働協約の締結に限定していない

のであるから︑ 29

Tと X

労組との団体交渉の結果としての合意は︑第三者のためにする契約︵民法五三七条︶と構成することで︑

Aらが受益の 意思表示をしたところで︑契約内容となるとする手法もあろう

本有りまあ︑は論議のらか無の性効実の済救︑てっ従︒ 30

  (二四二三)

(21)

退職者の在職中における石綿曝露に関する団交応諾義務の存否三〇八同志社法学 六一巻七号

判決に対する本質的な批判とはならないように思われる︒しかしながら︑評者としては以下の理由から本判決に賛成す

ることはできない︒

  思うに︑そもそも憲法二八条による労働基本権の保障に加えて︑労働組合法が不当労働行為制度を設けた趣旨は︑﹁使 用者の労働基本権侵害行為を除去し︑対等・公正な労使関係を将来に向けて形成する

と正ることで将来に向けて対等・公なうれこうろあでるさ労成形が係関使すそ否働拒︑為を不当労行行とする際には為 らめであるかの︑使用者団交﹂た 31

が論理的な前提として必要となる︒

  このような観点から見た場合︑本件ではどうか︒本件における

A六経が数年の年六一〜ららかてし職退もれずいは過

している者であり︑もはや彼らが

Tに復職する可能性は極めて低く︵

Cに至っては︑そもそも2

︑︒はていおにり限のそい Tのならすで者働労職退 Cの代表者としての2

Xしいとるあで当相は分部示判た定労否を務義諾応交団るす対に組え

る︶︑それゆえに本件において

Tこけ向に来将︑がとるにけ付務義を諾応交団て

X労組と

﹂七そして勿論︑このことは労組法条い二号﹁使用者が雇用する労働者︒なとばるか得問われれ︑で疑問を抱かざるをあ Tのもるす資に成形係関のと

の解釈に当たり考慮されるべき事柄であろう︒管野教授が述べるように︑解雇撤回や退職条件に関して﹁駆け込み訴え﹂が認められるのは︑それにつき団体交渉を使用者に義務付けた結果が︑当該労働者の復職の可能性を含んでおり︑そし

てそれは正に︑使用者と労働組合との関係形成の端緒となるからに他ならないのである︒仮に︑本件

職中の Tにおいてなお在 X団情があれば︑体な交渉を通じて事う労残組の組合員がっよているという︑

X労組と

Tの将来に向かっての関

係形成の可能性があると解する余地はあろうが︑本件においてはそのような事実は認められないし︑本件のようにコミュニティ・ユニオンに駆け込む場合にはそのような事情が存在することは稀であろう︒

  また︑そもそも本件のような事案においては︑

A︵も途るす定否を︶条三法組労性ら当該者働労の上法組労きつにあ

  (二四二四)

(22)

退職者の在職中における石綿曝露に関する団交応諾義務の存否三〇九同志社法学 六一巻七号 ったように思われる︒

Aに者るす活生てっよに入収るず準れらこ他のそ与給︑金賃﹁やはもが

︑性文言からして︑使用者の号問題を論じるまでもなくの二これる条ができとば労組法七︑ な当たら価いと評す﹂に 32

X労組の団交当事者適格を

否定することが可能である︒仮に︑退職金や企業年金あるいは︑未払い賃金につき団体交渉を求めようとするのであれば︑

Aそようが︑本件ではのでような状況にないきもら者はなお﹁給与生活﹂とに当たるというこ︒   従って︑評者としては︑以上の点から本判決に反対するものである︵同様の理由により︑ニチアス事件労委命令にも反対である︶︒判旨の用いる﹁ほころび﹂理論は︑使用者の団交応諾義務を際限なく広げる可能性を持つものであり妥

当では無かろう︒

  なお︑評者は仮に本件において

Aすもてしとるた当に﹂者働労る用ら雇が者用使﹁号二条七法組労が︑

X労組が団交

を要求している事項①〜③のうち︑②及び③についてはもはや救済利益が存在しないと考える︒なぜならば︑事実の概要︵

11︶に記載の通り︑

T実特別補償制度を施災しており︑すで害綿はに本件団交要求後石石綿健康診断及びに

X労組

の団交要求はこれらについては実現したものといえるからである︒

  従って︑

Tの団交拒否につき︑

X労組に救済利益があるのは︑①

T明つにとこるすにからをに態実用使綿石るけおい

てのみであろう︒しかしながらこの点につき︑本判決は﹁安全配慮義務を巡る紛争﹂と一括して︑①〜③の全てにつき

Tと断を欠いたもの言なわざるを得ない判重の認団交応諾義務をめ慎てしまっており︑︒ 5.結びに代えて

司法救済の可能性

  本判決の後︑神奈川県労委も︑元従業員及びその遺族により構成される労働組合による石綿被害への補償に関する団

交申入れにつき︑ニチアス事件及び本判決と同様に︑﹁未清算の労働関係﹂という論理を用いて︑元従業員らを労組法

  (二四二五)

(23)

退職者の在職中における石綿曝露に関する団交応諾義務の存否三一〇同志社法学 六一巻七号

七条二号にいう﹁使用者が雇用する労働者﹂と認めた

33

  しかし︑前述の通り︑私見によれば将来に向けた対等・公正な労使関係の形成という不当労働行為制度の趣旨は︑労組法七条二号の解釈に当たり考慮されるべきであって︑そのように解する以上︑本件類似の事案にあっては原則として

労働組合の団交当事者適格は否定されるべきである︒

  もっとも︑換言すれば︑このことは労働組合が労働委員会による行政救済を求めているからこそ導かれる帰結でもあ

る︒それでは︑司法救済︑なかでも団交を求める地位の確認請求︵あるいはその仮処分︶に救済の途を見出すことはできないであろうか︒学説によれば︑﹁団体交渉の当事者適格を有する労働組合が︑交渉の相手方当事者としての適格性

を有する使用者または使用者団体によって︑団体交渉を求める地位そのものを否定されている場合には︑当該労働組合は使用者または使用者団体を相手にその地位の確認を行うことができる

交て体団﹁ういでここ︑しそ︒るれさとのも﹂ 34

渉の当事者適格﹂の有無の判断に際しては︑行政救済ではないのであるから︑必ずしも私見で述べるように不当労働行為制度の趣旨に拘る必然性はないのではなかろうか︒そしてそうであるとすれば︑例えば前掲・ニチアス事件のように

退職労働者の要保護性が高い事案なのであれば︑当事者適格を柔軟に解し︑当該事案限りで団交を求める地位の確認を認めるという価値判断も有り得るように思われる︒その限りにおいては︑ニチアス事件労委命令の規範︵﹁特段の事情﹂

論︶自体は参考となろう︒

  ただいずれにせよ︑本件のような事案においては団体交渉を実質的個別紛争の代替的解決手段として用いているとい

う側面は否めない︒本判決に対し兵庫県労委は控訴している︒控訴審での判断が注目されるところである︒以上

  (二四二六)

参照

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